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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科23巻12号

1988年12月発行

雑誌目次

視座

生体と人工材料のなじみ

著者: 桜井実

ページ範囲:P.1399 - P.1399

 人工臓器とまでは言えないが,人工関節,人工骨など,代用組織としての材料の開発が目白押しである.しかし,人間が造り出した物質以外の材料を用いて,我々は従来から何の不思議もなく手術を経験してきた.絹糸がその1つである.これは蚕が作り出したcollagenに類似するsericinという高分子蛋白である.生体にはこれを分解する酵素がないために,長年の間異物反応もなく生体組織に親和しているといわれるが,使用される量が微量なこともあってあまり炎症反応は起こさないのである.しかし,稀に手術標本に含まれている絹糸の周囲などに,細胞浸潤がみられることもある.少しずつ貪食細胞によって,絹糸が吸収されていくものと思われる.
 骨芽細胞はcollagenを形成したところにhydroxyapatiteを沈着させて,いわゆる骨組織を形成するが,血流が遮断されて腐骨になったものも長年の間には吸収されていく現象がみられる.これも生体が造り出した高分子化合物ということができる.

論述

Porous-Coated Cementless人工股関節の経験

著者: 川崎章二 ,   東倉萃 ,   中川太郎 ,   上田剛 ,   水野秀明

ページ範囲:P.1400 - P.1408

 抄録:1985年4月より当院では65歳以下の骨萎縮の少ない症例に対してporous-coated typeのセメントレス人工股関節を行っており,そのうち1年以上経過した症例は26例でありHarris-Galante type 10例,PCA type 16例であった.成績は前者が術前47.6点が術後84.0点に,後者が術前47.1点が術後87.5点と良好な成績を得た.項目別成績では疼痛および歩行能力の改善が著しかった.手術は全例後方侵入路を用いて行った.follow-up時のレ線像は両タイプで差がみられた.則ち,PCA typeでは骨硬化像はソケットではzone-1,2に認め,ステムは殆どの症例でzone-1に認めるのみであった.一方,Harris-Galantetypeはソケットではzone-3,4に認められ,ステムはzone-1,4に全例に認められた他,zone-2,3,6,7にも認められるものがあった.PCA typeではline to line fitにより荷重が分散するが,Harris-Galante typeではステム尖端に荷重が集中していると推察される.

頸椎後縦靱帯骨化症の電気生理学的検討—体性感覚誘発電位による検討

著者: 馬場久敏 ,   富田勝郎 ,   梅田真一郎 ,   川原範夫 ,   長田茂樹 ,   菊池豊

ページ範囲:P.1409 - P.1416

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化症(OPLL)の重症度を評価するため,正中神経刺激による体性感覚誘発電位(SSEP)を測定し,SSEPと日整会点数の相関の検討やSSEPでの術後神経症状改善の予測を行った.上肢知覚点数0点でのN18,P23,N30成分の異常率は夫々,77%,64%,50%であったが,知覚点数2点では夫々,50%,35%,27%であった.術前後にSSEP測定を行った症例16例の内,術後神経症状の改善率(平林)が60%以上であった10例では,N18,P23,N30が有意に改善した.上肢知覚の回復とSSEPの改善は有意な相関を示した.術前SSEPや術後のSSEP変化はOPLL脊髄症の重症度と有意に相関し,術後神経症状改善の予測因子になり得るものと考えられた.

血管柄付腓骨移植術における創外固定法とその問題点

著者: 三浪明男 ,   荻野利彦 ,   門司順一 ,   福田公孝 ,   糸賀英也 ,   薄井正道

ページ範囲:P.1417 - P.1422

 抄録:血管柄付腓骨移植術24例の移植腓骨の受容骨への固定方法,特に創外固定法が術後成績に与える影響とその問題点について分析した.その結果,創外固定を用いた症例の術後成績は創外固定以外の固定法を用いた症例の術後成績と比較してやや不良であった.創外固定を用いた症例では他の固定法を用いた症例と比較して原因疾患が頻回の遊離骨移植が既に行われた外傷性骨欠損および偽関節例や先天性脛骨偽関節症などの難治疾患が多く,受容骨の移植母床などに問題がある症例が多かった.そのため,成績不良の主原因が創外固定そのものによるとは考えられなかった.しかし,創外固定による合併症は比較的高率に発生しており,特に小児に創外固定を用いる場合は慎重にすべきである.

先天性内反足重症度の検討—保存群と手術群との比較

著者: 飯坂英雄 ,   門司順一

ページ範囲:P.1423 - P.1428

 抄録:先天性内反足の早期治療例のうち,一定期間内における保存療法群30例36足と手術療法群16例28足を初診時,corrective cast法1ヵ月後,中間評価時の成績および手術直前のX線を比較検討した.脛踵角の初診時及びcorrective cast 1ヵ月時における推移が重症度(難治度)と中間成績の予後の指標となった.距踵率も予後を反映し,手術群では有意に大であった.距踵長比は保存群—優・良例,保存群—可・不可例と手術群で有意差があり,より簡単な重症度および予後判定のパラメータとして使用できる.距踵長比2.0以上を重症,1.5以下を軽症,その中間値を中等症として重症度を分類し,更に症例を重ね検討していきたい.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

Compression hip screwによる大腿骨頸部骨折の固定法

著者: 河内貞臣

ページ範囲:P.1429 - P.1436

はじめに
 大腿骨頸部骨折は骨粗鬆症を有している老人女性に多発する.特に外側型すなわち転子部骨折の発症年齢は内側型に比較してより高齢であり,70歳以上の老人が多い.
 そのため骨折を契機として全身状態が急速に悪化したり,体力が劣えたり,痴呆が出現するなどの変化が見られる.従って受傷後可及的早期に治療し離床をはかる事が重要である.compression hip screwによる内固定は充分な初期固定を得る事ができ,しかも患者に与える侵襲も小さく,簡便な方法である.

手術手技 私のくふう

鏡視下手術用シェーバーを利用した経皮的髄核摘出術

著者: 島崎和久 ,   広畑和志

ページ範囲:P.1437 - P.1442

 抄録:鏡視下手術用シェーバーを用いて経皮的髄核摘出術を行った.シェーバーで髄核の削除と吸引を行うため,鉗子を用いる土方の方法に比べてより容易な方法といえる.比較的若年者で,protrusion typeの椎間板ヘルニアに本法の適応があると考えている.

認定医講座

肩の外傷

著者: 小川清久

ページ範囲:P.1443 - P.1450

 肩関節は複合関節であり,解剖学的関節構造を有する三関節―狭義の肩関節(肩甲上腕関節),肩鎖関節,胸鎖関節―と,機能的に関節と同じ働きをする滑動機構―第二肩関節,肩甲胸郭関節,烏口鎖骨結合など―の協同運動によって,人体中最大の可動域を有する.主な機能は,外界への働きかけをする‘手’を目的の場所に到達させ保持することである.従って外傷時における治療では,可動域の確保と安定性を最優先する必要がある.

股関節の外傷

著者: 安藤謙一

ページ範囲:P.1451 - P.1460

 1.外傷性股関節脱臼
 正常な股関節は,深い寛骨臼の中に球状の大腿骨頭がしっかりとはまり込み,極めて安定した関節である.従って,本脱臼は強大な外力が働いた場合に発生し,全外傷性脱臼の3〜4%とその発生率は少ないとされていたが,近年交通事故の増加に伴い本脱臼も増加傾向にある.発症原因は交通事故によるものが大半を占め,青壮年期の男性に好発する.本脱臼は後方,中心性,前方に分けられる.

検査法

末梢神経刺激による腰仙部単一神経根誘発電位の基本的波形について

著者: 星地亜都司 ,   田中弘美 ,   都築暢之 ,   渡部仁一

ページ範囲:P.1461 - P.1467

 抄録:腰仙部の神経根障害に対して画像診断以外に末梢神経刺激による腰部神経根電位が補助的診断法として用いられる.しかしその基本的波形についての分析が十分なされていない為に病的伝導状態と判断する根拠があいまいである.今回動物実験で得た結果を参考にしながら,手術中に露出された神経根よりヒト腰部神経根電位の基本的波形を確かめ,圧迫による伝導障害がどのようにとらえることができるかについて検討した.猫の神経根誘発電位は潜時約1msより始まる二峰性の棘波とそれに1ms遅れてなだらかな丘状の波形が導出できた.刺激の強さと記録電極の位置により二峰性の棘波の波形と振幅は影響を受けた.ヒトの場合,刺激・記録間距離が猫より長いので伝導障害でなくても峰わかれが増えることがある.椎間板ヘルニア直上では末梢神経の伝導障害と同じような振幅の低下,陽性化,多相化の結果が得られたが,伝導障害のない末梢側より記録したモニターが必要である.

整形外科を育てた人達 第66回

Sir Herbert Seddon(1903-1977)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1468 - P.1471

 英国否世界的に有名な整形外科病院であるLondonのRoyal National Orthopaedic HospitalのInstitute of Orthopaedicsの主任であったSir Herbert Seddonの伝記をしらべたのでこれを紹介することにした.
 この病院は英国の整形外科の開祖とも言うべきWilliam John Little(1810-1894)が建設した病院で,更に息子のMuirhead Littleの夫人が入院中の子供達が学校に行けないので病院内に学校を開設した歴史的にも大切な病院である.

臨床経験

腰椎椎間関節に発生したpara-articular chondromaの1例

著者: 高謙一郎 ,   浅井浩 ,   斉木俊男

ページ範囲:P.1473 - P.1476

 抄録:椎間関節に発生したpara-articular chondromaの報告は文献上みられない.最近,私たちは腰椎に発生した本症と思われる1例を経験したので報告する.
 症例は38歳の主婦で,昭和50年頃より誘因なく腰痛を自覚する.昭和60年1月より左足背部にしびれ感が生じ,1年後より歩行が困難となったため昭和61年3月に当科を受診した.初診時,間欠跛行と左足背部のしびれ感があるほかは神経学的異常所見はない.単純X線にて第4腰椎左側下関節突起に隣接する異常骨陰影を,CTMでは異常骨片による左側の硬膜管圧迫所見を認める.手術時,骨片は第4腰椎左側椎間関節の内側にあり,2.0×0.8×0.5cm大で,関節滑膜が付着していた.組織像では骨片は正常な骨,軟骨組織より構成されている.術後,しびれ感も間欠跛行も消失した.

両側手背伸筋腱に多発性腱黄色腫を生じた高脂血症の1例

著者: 松田達男 ,   長谷川幸治 ,   片山直樹 ,   伊藤晴夫 ,   栗林宣雄

ページ範囲:P.1477 - P.1480

 抄録:われわれは両側手背伸筋腱に多発性腱黄色腫を生じた高脂血症の1例を最近経験したので報告する.症例は34歳男性で主訴は両手背部の無痛性腫瘤であった.現病歴は昭和60年頃より両手背の無痛性腫瘤に気づき近医受診した.昭和61年8月26日精査希望し当科紹介された.
 現症は身長162cm.体重77kg.右手示指から小指,左手中指から環指の手背伸筋腱のMP関節部に米粒大から大豆大の腫瘤あり.両アキレス腱の著明な肥厚があった.組織生検では,コレステリン結晶の出現を伴う黄色腫細胞の増生と線維化が見られた.血液生化学検査では,T-cho 356mg/dl,PL 280mg/dlと高値を示し,TGは101mg/dlで正常であった.リポ蛋白分画では,β-リポ蛋白が増加を示していた.以上よりWHO分類IIa型の高脂血症による腱黄色腫と診断した.

Thoracic Lordoscoliosisを呈したFreeman-Sheldon症候群の治療経験

著者: 太田康人 ,   司馬立 ,   近藤秀丸 ,   本間玄規 ,   井ノ口雅貴 ,   里村俊彰 ,   林克章

ページ範囲:P.1481 - P.1486

 抄録:胸椎高度前側彎を呈したFreeman-Sheldon症候群の1例に対し,手術を施行したので報告する.症例は13歳女性.幼児期より脊柱変形を指摘されていたが,次第に胸椎前側彎が増強したため,昭和59年10月手術目的にて入院となった。小口症,下口唇変形,鼻翼の低形成などからFreeman-Sheldon症候群と考えられた。脊柱変形はT4-L2で-45°の前彎とT4-T10-L4で30°と31°のdouble curveの側彎が認められた.手術は第1段階として前方より第4胸椎から第11胸椎までの各椎間板の切除と骨移植,および右第6〜第11肋骨の部分切除を行った.2週後,後方より左第5〜第11肋骨の部分切除,およびT3〜L3に対しHarrington SSIを施行した.術後前彎は-13°に改善し,術後経過は良好である.

The Extensor Indicis Proprius Syndromeの1例

著者: 仲田和正 ,   宮原尚 ,   大木勲

ページ範囲:P.1487 - P.1489

 抄録:Extensor Indicis Proprius Syndromeは,ばね指や,de Quervain腱鞘炎と同様の狭窄性腱鞘炎であるが報告は稀である.今回,我々は重量物を押したことにより発症した本症候群の1例を経験したので報告する.
 患者は38歳女性,重量物挙上にて増強する手関節背側痛を主訴として来院した.背側第4コンパートメント(月状骨付近)に圧痛があり掌屈にて疼痛は増強する.保存治療にて反応せず手術を行った.示指固有伸筋筋腹は他の筋腹よりも遠位まで見られ,掌屈にて肥大した筋腹が伸筋支帯よりも遠位まで滑走し伸筋支帯により狭窄されるのが分かった.第4コンパートメント部分の伸筋支帯を切離して症状は改善した.

整形外科基礎

三次元モーメント法および非線形計画法による,三次元股関節合力の推定

著者: 小西伸夫

ページ範囲:P.1491 - P.1497

 抄録:片側起立時の三次元的股関節合力と股関節周囲筋力を求めるために,三次元モーメント法および非線形計画法を組み込んだコンピューター・プログラムを開発し,その原理,使用法の概要について述べた.また変股症患者および屍体骨モデルにおける手術前後の三次元合力の計算例を示した.臨床例では,筋付着部を正確に知ることの困難さから,筋肉数を10群程度に単純化しているが,屍体骨モデルでは股関節の全22筋について計算することも容易である.本法は股関節の生理的または病的状態を研究する上で有用と考える.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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