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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科23巻3号

1988年03月発行

雑誌目次

視座

胸郭出口症候群の診断

著者: 阿部正隆

ページ範囲:P.235 - P.235

 20歳代後半〜40歳代前半の人(女性にやや多い)に側頸部痛,後頸部痛,頭痛,肩凝り,肩甲部痛,腕の惓怠感,痛みやシビレ,握力低下,上腕三頭筋の筋力低下,手の冷感などの愁訴のうち1つでもみられたなら,本症候群(TOS)をまず疑わなければならない.長時間のドライブなどで,また美・理容師,看護婦,塗装業などは仕事によって愁訴が増すのが特徴的である.体型はナデ肩またはマル肩の人に多いとされている.
 TOSの診断は,各種の冠名圧迫試験で上記愁訴の発現およびその増強の有無をみる.Roosは,健常者の25%はWright testで橈骨動脈の拍動が消失することと,TOSの98%の患者は動脈の圧迫と無関係であったことから,橈骨動脈の拍動の消失そのものには必ずしも診断的価値はないとしている.しかし彼の意見には全面的に賛同するわけにはゆかない.Wright testなどで,すみやかに痛みやシビレが発現するケースは腕神経叢型とみてよいと思われるが,30秒〜1分後に愁訴が出現してくる例もあり,この場合,動脈型の可能性も否定できない.Roos testでも,陽性であればTOSと診断して支しつかえないが,神経型か動脈型かの区別はつかない.また当然,神経・動脈混合型もありうると思われる.

論述

腰椎椎間板症に対する固定,非固定術例の対比

著者: 冨永積生 ,   伊達和友 ,   大内啓司 ,   片山稔 ,   豊海隆 ,   秋穂靖 ,   長野真久

ページ範囲:P.236 - P.246

 抄録:下位腰椎固定化がいかに非固定・他椎間板に影響するかを調べ,とくに前方固定術を評価するために固定群と非固定群とを対比した.手術年齢は30歳までで,術後7年以上経過し平均10年で,重労働を継続した固定群,非固定群とも80症例を対象とした.
 固定群のうち前方固定術例は50例,後方ないし後側方固定術例は30例,このうち1次的手術のものは58例,2次的のsalvage手術のもの22例.非固定群のほとんどが脱出ヘルニアで部分椎弓切除術のものであった.

変形性股関節症に対するChiari骨盤骨切り術の術後成績—臼蓋唇異常の影響について

著者: 仁科哲彦 ,   西塔進 ,   美延幸保 ,   大園健二 ,   清水信幸 ,   高岡邦夫 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.247 - P.255

 抄録:変形性股関節症に対するChiari骨盤骨切り術はすでに確立した治療方法のひとつである.しかし,一方で手術適応,手技が充分規準を満たしているにもかかわらず,術後に疼痛を残す症例が存在する.この原因はいまだ明らかでない.本研究ではChiari骨盤骨切り術の術後成績を左右する因子として術前の股関節造影における臼蓋唇の異常につき検討した.対象症例は58例64関節である.これらの症例はいずれも初期股関節症で,術前に股関節造影を施行し,術後2年以上,平均4年間経過観察された.術前の臼蓋唇像はnormal(23関節),inversion(21関節),tear(20関節)の3群に分類された.全症例の術前JOA-scoreは平均75.6点で,術後は平均90.4点と改善した.しかし,79点以下の成績不良例の割合はnormalで0%,inversionで5%,tearで45%とtearで多かった.このことから術前の臼蓋唇の異常が本手術の重要な予後因子であることがわかった.

特発性大腿骨頭壊死症におけるCT像の検討

著者: 一岡義章 ,   増田武志 ,   松野丈夫 ,   長谷川功 ,   菅野大己 ,   紺野拓志

ページ範囲:P.257 - P.262

 抄録:大腿骨頭壊死症におけるコンピュータ断層写真(CT)の早期診断的意義と壊死部の三次元的定量による大腿骨頭回転骨切り術の成績の検討を行った.
 ①初診時片側性大腿骨頭壊死症における健側14例と健康な大腿骨頭10例のCT所見の比較を行った.硬化像と骨梁の変化により正常例,びまん性に硬化像が見られる症例,斑状に硬化像が見られる症例に分けられた.特にびまん性硬化像が見られる症例は経過中壊死が明確になり,このCT所見が壊死の初期像と考えられた.

手術手技シリーズ

Cementless Total Hip Prosthesis(JIAT)の開発と正しい手術法

著者: 伊丹康人

ページ範囲:P.263 - P.274

まえがき
 Charnleyのtotal hip replacement with cementが,全世界の股関節外科に一大センセーションを巻きおこしている頃,私はcementless total hip replacementの可能性について,1970年から実験的研究を重ねるとともに,臨床的に経験を積んできた.
 その過程において,臨床成績の検討の結果と,biomechanical analysisの結果にもとづき,designに改良を加えて,今日に至っている.よって,その改良過程を述べ,つづいて正しい手術手技を紹介する.

整形外科を育てた人達 第58回

Ernest Amory Codman(1869-1940)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.276 - P.279

 戦後,肩関節の特殊性が解明されると共に肩関節障害の研究の重要性が認められて来たが,そのため肩関節研究会も活発な活動を開始している.この肩関節の研究者の先達となったのがErnest Amory Codmanである.1934年に名著「The Shoulder」を出版した.この著書は肩関節の複雑な解剖学的構造とその機能について詳しく記述すると共に,起り易い病変について述べている.更に驚くべきことは序文が40頁にも達していることである.普通,序文は1-2頁の著書が多いがCodmanは型破りの序文を書いている.この序文の中に何故に自分は肩関節の研究に重点を置いたか,その経過を書いているので自叙伝とも言うことができる.更に治療成績の判定には短期間の観察では不充分で遠隔成績の重要性を説き,これを一般に認めてもらうために大変な努力をしている.この序文によりCodmanが臨床医学者として卓越した識見を有していたことを知ることができる.彼の伝記は彼と親しかったAnthony F. DePalmaが書いているが,この伝記とCodmanの「The Shoulder」の序文を参考にしてErnest Amory Codmanについて書くことにしたい.

学会印象記

第4回"骨の循環"国際シンポジウム

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.280 - P.280

 Bone Circulationと題する書物があることを熱心な読者は御存知だろう.1984年に出版されたものであるが,これがこの第3回国際シンポジウム(1982年)の論文集である.第1回が1973年に,第4回が1987年にいずれもFranceのToulouseで開催されている.創始者のPaul Ficat教授がここRangueilの大学病院を本拠にするからである.残念ながらFicat先生は第4回シンポジウムの開催を見ることなく急逝され,なが年協同研究者であったArlet教授(リウマチ科)とアメリカのHungerford教授らによって会が継承されることになった.
 シンポジウムの案内を手にして,われわれにとってこの上もないチャンスであることに気が付いたのは昨年(1987年)の春のことである.つまり,特発性大腿骨頭壊死症研究班(厚生省の難病研究班)の成果を世界に知らせる絶好の機会だということである.すぐにArlet先生に詳しい事情を書き送り,日本人シンポジストを推薦しておいた.一方,国内の研究班員にはシンポジウム出席を要請する手紙を急送した.折悪しくシンポジウムの会期と日整会基礎学術集会のそれがはちあわせになったものの,川井・渥美・西塔・大園らの班員が呼びかけに応じて下さった.

検査法

脊髄腫瘍のMRI診断におけるGd-DTPAの有用性について

著者: 湯山琢夫 ,   永瀬譲史 ,   渡部恒夫 ,   有水昇 ,   植松貞夫 ,   守田文範

ページ範囲:P.281 - P.287

 抄録:MRIにおける静注用造影剤Gd-DTPAを使用する機会を得たので,脊髄腫瘍における本剤の有用性について検討した.
 対象は手術または血管撮影により診断が確定した脊髄腫瘍15例である.造影前T1強調SE法,T2強調SE法により撮像.Gd-DTPA 0.1mmol/kgを静脈内投与後15分以内にT1強調SE法により撮像し,各画像を比較した.

腰椎椎間板ヘルニアに対する腹臥位CTミエログラフイー

著者: 浜田修 ,   船越正男 ,   石崎仁英 ,   佐井伸男

ページ範囲:P.289 - P.294

 抄録:CT-myelography(以下CTM)は,腰椎椎間板ヘルニアの画像診断法として広く行われている.通常,腰椎レベルのCTMは仰臥位で撮影されるが,これは,metrizamideの拡散により,撮影時の体位の影響は少ないと考えられているためである.28例の腰椎椎間板ヘルニアを対象とし,仰臥位と腹臥位の2つの方法でCTMを施行して,比較検討した.その結果,くも膜下腔のmetrizamide濃度は必ずしも均一ではなく,体位による影響を受けることが明らかとなった.特にL3/4およびL4/5椎間板ヘルニアにおいては,腹臥位CTMのほうが診断価値の高いCT像が得られる場合が多い.なお,腹臥位に伴う呼吸性動揺の影響は殆ど無視できることがわかった.

臨床経験

意識消失発作を伴った頭蓋頸椎移行部重複奇形の1例

著者: 小島朗 ,   藤原桂樹 ,   米延策雄 ,   冨士武史 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.295 - P.300

 抄録:頭蓋頸椎移行部の複合奇形を有し四肢不全麻痺症状及び椎骨動脈不全症状を呈した44歳の男性を経験した.理学的所見では著明な起立性低血圧が見られた.奇形としては頭蓋底嵌入症,後頭骨環椎癒合,環椎癒合不全,軸椎椎弓欠損に加えた左椎骨動脈の走行異常・低形成も合併していた.軸椎では椎弓欠損のみならず椎弓根の低形成も見られたため頸椎後屈時には環椎椎弓が軸椎下部にまで移動し有効脊柱管径は9mmにまで狭小化した.このような動的狭窄がみられる軸椎下部ではクモ膜下腔の狭窄は認めなかったにもかかわらず脊髄は著明に萎縮していた.ハローベストで頸椎を中間位に固定する事により症状の改善を得たため脊髄の動的圧迫が発症の原因と推察し後頭骨から第6頸椎に至る固定術を施行した.術後2年半の現在骨癒合は得られたが症状の改善は部分的なものにとどまっている.本症例の症状発現機序及び病態に関し考察を加え報告した.

脊髄glioblastoma multiformeの1症例

著者: 大浜満 ,   新宮彦助 ,   木村功 ,   那須吉郎 ,   塩谷彰秀 ,   高須宣行 ,   川上伸

ページ範囲:P.301 - P.305

 抄録:脊髄glioblastoma multiformeの1症例を,病理解剖学的所見を中心に報告する.症例は45歳男性例で,足趾シビレ感にて発症し,急速に運動麻痺を来し,腫瘍摘出術,放射線療法および抗腫瘍剤投与を行ったにもかかわらず,高位脊髄から脳の神経学的症状が進行し,発症14ヵ月にて死亡した.
 病理解剖所見からL3髄内より発生し,髄液播腫により高位脊髄や脳に波及したものと思われ,小血管増生が著明で,神経根内への浸潤はあるものの,髄内浸潤は認められない.組織学的には,不整な卵円型の核を有する極めて多型性の細胞からなり,異型性の強い多核巨細胞を有し,一部に好酸性の繊細なグリア線維がみられ,glioblastoma multiformeと診断された.

胸椎に対するCT監視下needle biopsyの経験

著者: 原田敦 ,   見松健太郎 ,   中村滋 ,   村上英喜 ,   加藤文彦 ,   村田盛郎 ,   三浦隆行

ページ範囲:P.307 - P.310

 抄録:胸椎は,重要臓器と隣接するため,needle biopsyの難しい部位である.しかし,CT監視下ならば,安全正確に行い得る.通常のCT撮影で採取部を決めた後,CT画面上で刺入経路を設定し,その通りにneedleを進め,needle先端をCTで確認しながら,組織採取を行う.6例の胸椎疾患にこの方法を用いた.合併症はなく,有用な病理所見を得ることができた.

多発性腰椎分離すべり症の1例

著者: 山根敏彦 ,   広藤栄一 ,   山本武 ,   永田行男 ,   田中清介

ページ範囲:P.311 - P.314

 抄録:腰椎分離すべり症は比較的よくみられる疾患であるが,3椎以上に分離を認める例は極めてまれである.今回我々は4椎にわたる多発性腰椎分離すべり症を経験したので報告する.この症例にはL2,L3,L4,L5の両側関節突起部に分離を認め,L4,L5椎体にすべりを認める.3椎の多発性腰椎分離すべり症は今までに報告されているが,この症例のように4椎にわたる多発性腰椎分離症の報告例はない.我々はこの症例に対してL2,L3の左右分離部に骨移植とEingorn法による鋼線締結法を,L4,L5分離椎弓切除術,L4,L5,S1の後側方固定術を行い良好な成績を得たのでここに報告する.

仙椎に発生した類上皮腫の1例

著者: 山県昇 ,   前山巌 ,   古瀬清夫 ,   森本兼人 ,   崎長靖生 ,   折戸隆 ,   奥野誠

ページ範囲:P.315 - P.318

 抄録:仙椎に発生した径約10cmの類上皮腫の1例を報告した.類上皮腫の骨内発生はまれで,特にそのうちでも仙椎に発生した症例の報告は本邦ではみられない.本症例は,臨床的に脊索腫との鑑別が問題となった症例であり,その治療に関しても困難な問題をかかえていた.症例は45歳の女性で近医にて仙椎部骨腫瘍を指摘され当科を紹介されてきた.なお,14年前より排尿障害があった.X線像では第1仙椎から第5仙椎にわたる骨透亮像を認めた.臨床的に脊索腫を疑い,仙椎の亜全摘を試みるも,外腸骨静脈との癒着著明で腫瘍の掻爬術に変更し,骨移植およびsacral rodとHarrington rodを併用して腰仙椎を固定した.8ヵ月後,病巣掻爬を行い骨セメントを充填し,rodを除去した.組織学的には類上皮腫と診断した.現在腰仙椎固定後13ヵ月,最終術後7ヵ月にて,膀胱直腸障害は残存するも,1本杖にて歩行可能である.

大腿骨外顆に発生した骨内脂肪腫の1例

著者: 久保仁志 ,   園田万史

ページ範囲:P.319 - P.322

 抄録:脂肪腫は最も多い軟部腫瘍の1つであるが,骨内脂肪腫は非常に稀である.発生部位は,長幹骨の骨幹端に多く,X線像では周囲と境界明瞭な,あるいは硬化像を伴った骨透亮像で,その形態は楕円または分葉状を示している.確定診断は,病理組織診により,その組織像は特徴的で,核の多形性やhypercellularityを欠いた成熟脂肪組織で,その中に骨梁が散在している.予後は良好で,病巣掻爬,骨移植が適応とされている.今回我々は12歳の女児で,大腿骨外顆骨端部に発生した骨内脂肪腫を経験し,病巣掻爬及び骨移植を行い良好な経過を得ている.

大腿四頭筋内に見られたガングリオンの1症例

著者: 山口高史 ,   渡辺康司

ページ範囲:P.323 - P.327

 抄録:膝関節より発生し大腿四頭筋内に見られたガングリオンの1例を経験したので報告する.症例は60歳男性,左膝上部の腫瘤を主訴に来院した.種々の検索により術前に良性腫瘍性病変を疑ったが,高齢者で増大傾向を認めたため試験切除にて摘出した.腫瘤はゼリー状の内容物を含み3.5cm×2cm×2cmの大きさで膝蓋上包に茎部を有し内側広筋内に存在していた.組織学的にガングリオンと診断した.術前のCT,エコーによる所見が腫瘤の性質をよく反映し診断に有用であった.膝関節より発生し大腿四頭筋内に見られたガングリオンの報告は,我々の調査した範囲では認められなかった.本例の発生機序としては,膝伸展機構により常に微小外力の働く事が引き金となり,さらに変性をおこして抵抗脆弱部である筋肉内へと成長していったものと考えられた.

Necrotizing fasciitis(壊死性筋膜炎)の2例

著者: 仲尾保志 ,   浜野泰之 ,   木村記行 ,   小野俊明 ,   野本聡 ,   向井万起男

ページ範囲:P.329 - P.333

 抄録:Necrotizing fasciitisは,外傷などを契機とする細菌感染によっておこり,重篤な全身症状を伴いながら急速に筋膜の壊死が進行する比較的稀な疾患である.今回我々はその2症例を経験した.症例1は21歳男性で,誘因なく左下腿に生じた紅斑が壊死化を伴って急速に下肢全体に拡大,壊死組織の全切除によって救命はし得たが下腿切断を余儀なくされた.症例2は19歳男性で,右大腿骨骨折・左大腿部挫創後,脂肪塞栓を併発,さらに両大腿に生じた紅斑は壊死化を伴って臍部から両下肢に拡大,数回にわたり壊死組織切除を行ったが敗血症性ショックで死亡した.本症の治療では,化学療法や切開排膿のみでは根治が得られず,できるかぎり早期にsurgical débridement(壊死組織の全切除)が行われなければならない.その施行時期が生命予後を左右するとも言われており,外傷を扱うに際して本症の存在を認識しておくことが必要である.

高年齢で発症した恒久性膝蓋骨脱臼の1例

著者: 濱淵正延 ,   長谷川良一 ,   村瀬徹哉 ,   井尻愼一郎

ページ範囲:P.335 - P.339

 抄録:恒久性膝蓋骨脱臼は稀なものであり,その大部分は先天性脱臼である.今回我々は高年齢の恒久性膝蓋骨脱臼を経験した.症例は46歳女性の会社員で外傷性膝関節血腫で受診し,この際膝蓋骨脱臼が発見され徒手的には整復不能であった.乳幼児期には膝の変形,運動障害,歩行障害がなかったので先天性脱臼の放置例とは考えられなかったが,大腿骨顆部と膝蓋骨の著明な形成不全を伴っていた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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