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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科23巻4号

1988年04月発行

雑誌目次

特集 脊柱管内靱帯骨化の病態と治療(第16回日本脊椎外科研究会より)

脊柱管内靱帯骨化の病態と治療

著者: 黒川高秀

ページ範囲:P.347 - P.347

 本誌に特集されている第16回日本脊椎外科研究会の主題は,脊柱管内靱帯骨化の病態と治療である.脊柱管内の靱帯骨化すなわち後縦靱帯骨化と黄色靱帯骨化は,成人の脊髄障害の原因のなかで,我国では脊椎症とならんでもっとも頻度の高いものであり,整形外科医であれば日常診療においてこの患者を扱う機会がかならずある.
 本研究会がこれをとりあげたのは,故井上駿一教授が昭和49年第2回研究会において頸椎後縦靱帯骨化症を主題とされて以来13年ぶりである.この間をふりかえると,成因解明,診断,治療のどの面にも大きい進歩があった.たとえば我国の風土病のような観が疫学調査等によって払拭され,遺伝,食物,内分泌,カルシウム代謝などの背景因子が検討され,水溶性造影剤と画質のよいCTの出現によって脊髄萎縮の有様が明らかになり,骨化の長期観察によって増大の頻度と速さがわかった.

座長総括/「I.脊柱管内靱帯骨化の疫学および全身的因子」の部

著者: 原田征行

ページ範囲:P.348 - P.349

 1-1.須賀(自治医大)は自治医科大で治療中の頸椎OPLL患者の地域発生を調査した.那珂川支流,鬼怒川中流,渡良瀬川全域に偏在する傾向があったと述べた.生活環境因子の調査の一部として有意義であるが断定的ではない.フロアから変形性脊椎症との発生様式について質問があったが調査していない旨回答していた.
 1-2.前川(熊本中央病院)は頸椎OPLLの5家系調査で遺伝性,全身骨化傾向などの素因と骨化発生の要因として椎間板変性,外傷,局所の不安定性などの靱帯へのストレス,糖尿病などを含む全身性退行性病変があると述べた.

座長総括/「II.脊柱管内靱帯骨化の局所因子」の部

著者: 茂手木三男

ページ範囲:P.349 - P.351

 このsessionでは,脊柱管内靱帯骨化の成因のうち,局所性因子について興味ある発表がなされた.
 II-10.斉藤(千葉大)は脊柱靱帯骨化の成因として力学的条件の関与を重視し,脊柱靱帯骨化368例のX線学的研究およびtwy mouseを用いて実験的研究を行った.X線像の検討からは胸椎後彎角によって脊柱管内靱帯骨化の発生高位や骨化占拠高位に何らかの規則性を示す症例があり,力学的影響を強く受けるグループがあることを述べた.この裏付けとしてtwymouseを用い,頸胸椎部に前彎強制処置を加えて硬組織学的に検討した結果,椎体後壁では骨形成の方向が変化することを認め,異常骨増殖病変において脊柱アライメントが脊柱の骨分布に影響することを確認したと述べた.

座長総括/「III.脊柱管内靱帯骨化の病理」の部

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.351 - P.352

 近年の日本における脊椎外科進歩の動機が脊椎靱帯骨化症をめぐる国をあげての取組みにあることを否定する整形外科医はあるまい.しかしそのきっかけが月本裕国氏のOPLLの一剖検報告であったことを知る人は案外少ない.脊柱管内靱帯骨化の原因究明と治療にむけて整形外科医の真摯な努力が続いているのだが,病態究明には病理組織学的アプローチがいまなお研究の基盤になっていることも事実である.
 「頸椎後縦靱帯骨化症(OPLL)死亡例の脊椎,脊髄のX線学的,病理組織学的所見(信州大学,木下ほか)」はC4,5,6からC1〜Th3までに増大した症例の詳細な剖検所見報告である.靱帯骨化のひろがり,骨化前線,椎間板病変との関係,骨化の様式を明らかにし,さらに脊髄病変にも触れている.演者は所見を総合して靱帯骨化が椎体隅角部近傍の骨膜にはじまり,長軸方向に進展して後縦靱帯の浅層方向へ厚みをましていくと推定する.主として内軟骨性骨化の様式をとり,椎体後面から硬膜側へ押し上げられるように厚みを堆すものと結論づけている.「OPLLのX線学的,病理組織学的検討(川崎協同病院整形,田中ほか)」はOPLLの分節型と連続型の相違をレ線所見と病理組織所見から明らかにし,その本態解明を狙ったものである.

座長総括/「IV.脊柱管内靱帯骨化による脊髄障害の病態」の部

著者: 井形高明

ページ範囲:P.352 - P.354

 脊柱管内靱帯骨化は脊髄を圧迫し,神経障害を起こす.本セクション(表)では,諸種の画像診断や電気生理学的検査法によって骨化に合併した脊髄障害の病態を中心に検討している.
 鈴木ら(福島医大)はCT像よりOPLLを塊状型,扁平型及び小粒型に分類し,厚生省研究班の分類,臨床症状などの関連をみている.CTでの骨化の水平面での広がりと頭尾方向への伸びとの間に深い関係がある.また,左右への偏位を示す骨化が約40%認められる.しかし,これら水平面での広がりや形態と臨床症状のlateralityとの間には明らかな関係がなかったと述べている.国分ら(東北大)は脊髄症発症に関与するsoft disc,devetopmental及びdynamic factorを分析している.分節型OPLLの30%近くにsoft discの合併があり,狭窄率も50%を上廻る症例もあり,重要な発症因子である.一方,soft disc非合併例ならびに占拠率50%以上の連続型OPLLでもdevelopmental及びdynamic factorが少なからず関与していると結んだ.黒佐ら(東京医歯大)はCTMでの頸髄横断面積及び正中部Cord-Arachnoidal Ratio(CAR)を計測し,主に責任高位での術前・後値と改善率との関係を追究している.

座長総括/「V.腰椎の脊柱管内靱帯骨化」の部

著者: 蓮江光男

ページ範囲:P.354 - P.355

 腰椎の単純X線側面像で,脊柱管内または椎間孔内に種々の小骨陰影が見られることが少なくない事実はかなり以前から認識されて来た.その中には後縦靱帯骨化(OPLL)や黄色靱帯骨化(OYL)と推定される骨陰影が含まれていたが,無症候性のことが多く手術例が少ないために,組織学的に確認される機会は少なかった.しかし脊柱靱帯骨化についての関心が高まるにつれ,脊柱全体について骨化発生の有無が検討されるようになり,頸胸椎ほどではないにせよ,腰椎部の靱帯骨化についても注目されるようになり,次第に報告が増加している.またCT検査の普及に伴い,単純X線写真では確認できなかった脊柱靱帯骨化が,部位診断も含め詳細に把握されるようになり,神経根症状の原因病態として重要視されるようになって来たわけである.
 野田ら(山口大)は腰椎OPLLを有する31症例を検討し,単純X線写真のみでも注意深い読影を行えばOPLLはかなり多く見られること,しかしOPLLが症状の原因と思われたのは7例で無症状例が多いこと,有症状群は全例限局型で多椎間に骨化があり狭窄率が高度であったこと,7例中6例に手術を施行し結果良好であったことなどを述べた.本発表は掲載論文となるので参照されたい.

座長総括/「VI.胸・腰椎黄色靱帯骨化症に対する手術」の部

著者: 小野村敏信

ページ範囲:P.356 - P.357

 胸・腰椎部の黄色靱帯骨化(以下OYLと略す)は,一連の脊柱靱帯骨化の中にあって,特殊な問題を抱えている疾患である.すなわちまず第一にこの骨化は胸腰椎移行部におこりやすく,腰髄膨大部および脊髄円錐の障害がおこる可能性があるために,臨床症状の多彩なことがあげられる.またこの部のOYLが単独に発生することはむしろ少なく,同高位あるいは他の高位にOPLLやOYLが合併して存在することが珍しくないために,責任病巣の診断や手術侵襲範囲の決定が容易でないことも問題の1つである.手術そのものについても,胸腰椎部OYLでは骨化部と硬膜に強い癒着をみることが少なくないことなどから,手技的な難しさを無視できない.以下このセッションで発表された胸腰椎OYLに対する手術についての演題と,討論の要旨を紹介したい.
 倉上(北大)らは胸腰椎OYL単独障害の手術例21例について症状分析と骨化増大に関係する因子の検討を行い,症状が多彩で下肢腱反射低下例の多いこと,また骨化部位に椎間板変性や椎体模状化のみられるものが多く,これが骨化増大の要因となりうることを示唆した.

座長総括/「VII.胸椎後縦靱帯・黄色靱帯骨化症に対する手術」の部

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.358 - P.359

 このセッションでは胸椎後縦靱帯骨化(OPLL),黄色靱帯骨化(OLF)およびその両者合併(OPLL/OLF)にたいする観血治療法および成績について討論が展開された.
 松田(天理病院)らはOPLL 20,OLF 25およびOPLL/OLF 21例にたいする広範椎弓切除の成績から,OPLLの改善率は総じてOLFのそれより劣る傾向,OPLL術後に遅発悪化例があり,その原因を出血〜浮腫と考え,救済手術でも症状改善はないことを報じた.OPLLの大多数はOLFを合併し,OPLL/OLFの成績はOLF単独と比べて明らかに成績は劣るとし,本症に適応した広範椎弓切除そのものに検討の余地があることを指摘した.

座長総括/「VIII.胸椎後縦靱帯骨化症に対する手術」の部

著者: 大谷清

ページ範囲:P.359 - P.360

 脊椎外科手術のうちで,胸椎後縦靱帯骨化症(TOPLL)に対する手術が最も難しいといっても過言でない.圧迫性脊髄麻痺は圧迫物を除去することが基本的原則であるが,TOPLLに対しては胸髄圧迫の原因である骨化巣を除去することが技術的に大へん難しいばかりか,易損性の高い胸髄に対して手術操作の影響が容易に波及し,脊髄麻痺悪化を招来する危険性が極めて高い.
 本セッションでは,TOPLLに対する手術に関する5題の演題が発表された.

座長総括/「IX.予後不良例・特殊な症例・特殊な治療」の部

著者: 片岡治

ページ範囲:P.361 - P.362

 このセッションは,予後不良例,特殊例および特殊治療例を対象としたものである.
 51の村瀬ら(徳島大)は,頸椎と胸椎のOPLL,胸椎のOYLおよびその合併例の手術予後不良例につき検討し,すでに運命づけられている患者サイドの問題は別にして,医療サイドの因子に関する対策として,①脊髄変性に陥る前に予後を正しく推測し,早期治療を行うこと,②正確な責任病巣の決定と適切な手術方法の選択を行うこと,③術前のビタミンE投与による手術侵襲に対する脊髄の保護,および術中モニタリングと有茎脂肪移植の必要性を,あげている.討論内容は,クモ膜炎の術前予測はある程度可能であること,除圧時の硬膜拍動の有無で脊髄の癒着の有無が判断しうること,などであった.

座長総括/「X.脊柱管内靱帯骨化の画像」の部

著者: 山本博司

ページ範囲:P.362 - P.363

 脊椎・脊髄疾患における画像診断は,CT,MRI,超音波などコンピューターを駆使したソフト・ハードの改良と共に,急速に進歩しつつある.機器の進歩が急速であり,しかも高額であるために,医療の実際面における情報が不十分であり,混乱のあるところもある.いかなる機器を用いた,いかなる画像情報が,診断のどの部分に力を発揮するのか,そしてどこにその限界があるのか,究められるべきことが数多くある.
 今回は,脊柱管内靱帯骨化の病態を,CT,MRI,超音波がどのように描出するのか,そしてこれらの画像情報がより望ましい治療を行う上で,どのような力を発揮するのかについて,興味ある4題の発表があった.

座長総括/「XI.脊柱管内靱帯骨化の分布および進展」の部

著者: 酒匂崇

ページ範囲:P.364 - P.365

 八幡(国立西多賀病院)は,頸椎OPLLの全脊柱の骨化形態をX線学的に手術症例123例について検索した.評価の方法として,頸椎,胸椎,腰椎のOPLL,ASH,barsony,OYLなどの脊柱靱帯骨化に点数を与え合計10点としている.頸椎OPLLは広範連続型が45%と過半数近くを占めており,各種の靱帯骨化が有意に多く合併する.点数でみると,分節型は平均3.6点,下位限局連続型は3.9点,広範混合型は4.6点,広範連続型は5.9点で,広範連続型に全身の骨化傾向が強くみられるとした.土屋より寺山分類を用いての分析で,頸椎中央部に限局した連続せるOPLLはどのように分類するかについて質問があり,回答は連続型は上,中,下位に分ける必要はなく,下位限局連続型にするとのことであった.
 和田(信州大)は,頸椎OPLLの四肢関節周囲の靱帯骨化の合併頻度を調査し,骨化の初期像の意義について検討を加えた.調査した症例は頸椎OPLL 254例で,その他型以外では脊柱靱帯骨化は50〜90%に合併がみられ,OALLは50歳以上になるとStage II,IIIに進行する傾向が強い.骨盤,股関節部に187例中158例(85%)に骨化を認め,特に坐骨結節や臼蓋外側部に高頻度に早期出現が認められる.その他に大腿四頭筋の膝蓋骨付着部,踵骨のアキレス腱付着部にも80%と高頻度に認め,肩及び肘関節部には40%であった.

座長総括/「XII.頸椎後縦靱帯骨化症の手術成績」の部

著者: 金田清志

ページ範囲:P.365 - P.366

 岡本(九段坂病院)は前方手術(前方固定AF群,骨化前方浮上術ADF群,骨化摘出術ADR群)3群間の比較検討をした.日整会scoreで平均改善率はAF群54.3%,ADF群47.2%,ADR群40.9%で,獲得点数ではADFが最も良いと報告した.真鍋(帝京大)からADR群がADF群より結果の良くない理由の質問に,ADRは以前の症例で現在は行っておらず,出血が多く手術時間の長いADRのriskをおかす必要はないと答えた.斉鹿(山口大)のcanal stenosisにも前方法を行う理由や固定隣接椎間の変化はという質問に対して,前方脊柱管拡大術の概念で行っているが,隣接椎間については検討していないとのことであった.大木(自治医大)の浮上させたOPLL上下の靱帯の骨化進展,ADRで残った靱帯でのOPLLの再発はの質問に,ADFで骨化の伸びたもの3例,ADRで取り残し靱帯での骨化の増大はないとのことであった.高原(いわき市立病院)は56例のOPLL前方手術例中29例52.7%にヘルニア合併があり,これらでは頭蓋直達牽引でも効果がなく,ヘルニア合併のない例では牽引効果が十分にあったと報告した.白上(北大)から骨化除去せず固定のみで固定椎間での骨化進展は如何にという質問に対して,2例に認めたとのこと.

座長総括/「XIII.頸椎脊柱管拡大術の成績(1)」の部

著者: 河合伸也

ページ範囲:P.367 - P.368

 このsessionでは頸椎椎管拡大術を主体とした手術経験や術後成績の発表と討論が行われた.
 石井(西多賀病院)は服部法による拡大術を施行した56例について,平均2年近くの追跡調査も加えて検討した.合併症は少なく,良好な拡大効果と神経学的改善を得ており,高齢者にも実施しうると報告している.なお,術後の可動域の減少は平均-14度で,術前の約半分である.

座長総括/「XIV.頸椎脊柱管拡大術の成績(2)」の部

著者: 竹光義治

ページ範囲:P.368 - P.370

 本セッションでは椎弓の正中縦割による脊柱管拡大術(80〜83は形成術)が論じられた.
 77(席):岩崎ら(奈良医大)の方法は,側溝形成後観音開きとするもので,蝶番となる溝はfacetにかかる程度外側とし充分硬膜管が拡大できるようにしている.この点は以下の何れの演者もほぼ同様.これ迄施行したOPLL 27例(平均観察期間1Y6M)の経過を見ると,拡大された椎弓はその位置を保ち,成績は改善率がJOA平林法で61.3%,増悪したものは1例もなく,椎弓切除術を行っていた時期に発生していた根障害も発生はなかった.

座長総括/「XV.頸椎後縦靱帯骨化症の術後彎曲異常および骨化進展」の部

著者: 平林洌

ページ範囲:P.370 - P.372

 このセッションでは,OPLLの後方除圧術後に生じる彎曲異常と術後の骨化進展の問題が論じられた.
 最初の3題は,主に椎弓切除後のmalalignmentについての発表であった.

座長総括/「XVI.頸椎後縦靱帯骨化症に対する前方侵襲法と後方侵襲法の比較」

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.372 - P.374

 このセッションでは多種の術式が考案されてきた頸椎後縦靱帯骨化症による手術法について,前方法と後方法の比較をも含めて,各々の術式選択,手技および成績につき再検討が行われた.
 国分(東北大)らは140例につき時代による変遷を考慮して検討している.すなわち前方法はen bloc摘出からpiecemeatの摘出へ,後方法は椎弓切除術から脊柱管拡大術(服部法など)にかわり,術後成績の面から前方除圧を原則とした時期の連続型症例で重篤な合併症が多く,最近の例を含めても前方法が症状の改善,脊髄断面積の復元などの点で優れているとの結果は得られていないので,最近では3椎間を越す除圧が必要な場合や硬膜骨化例,横幅の広い骨化例に脊柱管拡大術が選択され,後方法の適応が拡大していると述べた.

腰椎X線で認める脊柱管内小骨陰影の検討

著者: 和田栄二 ,   松永隆信 ,   池田清 ,   飯沼宣樹 ,   太田牧雄 ,   高津敏郎

ページ範囲:P.375 - P.382

 抄録:腰部脊柱管内前方部分の小骨陰影の発生は椎間板変性が主な要因とされているが,椎間板線維輪内変性部位に発生したものA群,脱出した変性髄核や,その周囲の線維化組織に発生したものB群,椎間板の膨隆に伴って異常可動性や椎間板線維輪や後縦靱帯付着部,椎体自体への負荷により発生したものC群,黄色靱帯骨化,椎間関節周囲の骨棘などを含む腰部脊柱管の後方小骨陰影はD群と分類し検討した.A,B,C群は対照群やD群より約10歳高齢で発生高位別にはA群は上位腰椎に比較的多く,B群は全体的に少なかったが14に比較的多く,C群は下位腰椎に最多であった.D群はL2 L3に多かったが明確な区分や読影が困難であった.
 臨床的に下肢痛症状に関してB,C群の平均点で有意の低下を認めた他は特に各群とも差は認めなかった.

炭素・窒素同位体分布からみた脊柱靱帯骨化症患者の食品摂取傾向

著者: 武者芳朗 ,   茂手木三男 ,   藤田隆一 ,   古府照男 ,   長谷川和寿 ,   阪元政郎 ,   梅田嘉明 ,   南川雅男

ページ範囲:P.383 - P.389

 抄録:われわれは頸椎後縦靱帯骨化(以下OPLL)発生の環境因子の1つとして食生活に着目し,OPLL患者の食品嗜好調査を行ってきた.患者の食生活状況をより正確に把握するために,患者の毛髪における炭素・窒素同位体比の分析を試み,性ホルモン測定結果と合わせて検討を加えた.調査対象はOPLL患者40例で,非患者30例をcontrolとした.OPLL患者のδ13C値はcontrol値とほぼ同様であったが,δ15N値は有意に低値を示したことより,controlに比し動物性蛋白質より植物性蛋白質優位の食品摂取傾向のあることが知られた.一方,男子22例の血清性ホルモン定量ではcontrolに比し,estrogen優位の傾向が見られた.OPLL患者の食品摂取傾向はcontrolとは異なる一面を持つことより,患者の食生活は直接的な要因ではないにしても性ホルモンの不均衡とともに靱帯骨化発生における1つのback groundとみなしうるのではないかと考えられた.

脊柱靱帯骨化症の実験的研究—骨形成因子を用いて

著者: 宮本紳平 ,   中原治彦 ,   高岡邦夫 ,   米延策雄 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.391 - P.396

 抄録:脊柱靱帯骨化症が異所性骨化現象であることは知られているが,その病因は明らかにされていない.他方,異所性に骨組織を誘導し得る物質として骨形成因子が知られている.本症の発症に骨形成因子が関与しているかを実験的に検討した.マウス骨肉腫より抽出・部分精製した骨形成因子をマウスに移植し,脊柱靱帯に作用させた.骨形成因子の作用により,1)腰椎黄靱帯の著明な肥厚がみられ,未分化間葉系細胞の増殖,線維の増生・配列の乱れによる線維構造の不明瞭化,小血管の侵入,elastic fiberの減少などを認めた.2)尾椎は,骨膜下での骨形成により横径を増し,尾椎縦靱帯の肥厚・細胞増殖・線維配列の変化を認めた.これらの所見は,臨床的な病理組織像と類似することより,本症の発症に骨形成因子が関与している可能性が示唆された.骨形成因子を用いた本症の疾患モデル作成には,今後さらに検討を要する.

黄色靱帯骨化モデル—脊椎後縦靱帯,黄色靱帯,棘上靱帯とBMPとの反応から

著者: 村上英喜 ,   加藤文彦 ,   見松健太郎 ,   岩田久 ,   三浦隆行

ページ範囲:P.397 - P.402

 抄録:骨形成因子を用いて日本白色家兎の後縦靱帯,黄色靱帯,棘上靱帯の器官培養を行った.また,家兎の黄色靱帯内へ骨形成因子移植を行った.
 器官培養においては,後縦靱帯,黄色靱帯,棘上靱帯由来細胞がBMPと反応し,軟骨細胞に誘導されることを確認した.従って,これらの靱帯組織内に軟骨性の骨化を起こしうる細胞群の存在することが証明され,脊柱諸靱帯内部からも骨化が発生しうるものと考えられた.

頸椎後縦靱帯骨化の発生進展機序—臨床・病理面からの検討

著者: 山浦伊裟吉 ,   黒佐義郎 ,   岡本昭彦 ,   大川淳

ページ範囲:P.403 - P.410

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化(以下OPLL)の発生伸展機序の研究において,連続・混合型のhyperostotic typeの骨化発生に伴って,あるいはそれに前駆して組織増生(肥厚)の存在の可能性が推測されていた.その根拠の一つは,大型骨化は一般に小型のものから徐々に拡大して成長する過程が,X線追跡において証明され難いこと,また初期から不定形の骨化が比較的広い範囲に発生すること,他の一つはOPLL進展段階の手術生検標本には骨化のほかに繊維軟骨,石灰化,血管結合織および間葉系細胞浸潤などバラエティに富んだ組織増生が認められることなどであった.しかし,骨化出現前の段階で,後縦靱帯の肥厚病変を捕捉することは極めて稀なことである.われわれは1974,1986年に各1例ずつを経験し,組織検索を行う機会を得た.骨化に先行する後縦靱帯肥厚の主体は繊維軟骨の増生これに引き続く石灰化であることが判明した.2例とも髄核組織の脱出が認められたことから後縦靱帯の剥離断裂を引き金にして,繊維軟骨増生,石灰化,骨化へと組織転換する過程を推定させた.

頸椎黄色靱帯骨化・石灰化巣と黄色靱帯の分布について

著者: 田中弘美 ,   都築暢之 ,   星地亜都司 ,   堀田芳彦 ,   飯塚正

ページ範囲:P.411 - P.417

 抄録:胸椎黄色靱帯骨化は比較的多いが,頸椎黄色靱帯骨化は稀である.しかし石灰化という点からみると頸椎黄色靱帯石灰化は比較的多いが,胸椎での石灰化巣による圧迫麻痺の報告はない.このように骨化と石灰化の発生頻度が頸椎と胸椎で逆の関係になっている.今回この問題をとりあげ,自験例頸椎黄色靱帯骨化症1例,石灰化症7例,胸椎黄色靱帯骨化症17例および人の遺体標本3体を対象にして研究を行い,次の様な結論に達した.1)頸椎黄色靱帯骨化症は石灰化症に比べて石灰化(-),オステオポローシス(-),靱帯骨化傾向(+)などにより発生機序が異なる.2)頸椎黄色靱帯骨化巣はC5/6より頭側と尾側で発生頻度,部位が異なっており,黄色靱帯の椎間関節包部の有無と関連があった.3)頸椎の椎間関節の傾斜確度は胸椎と異なり,靱帯にかかるストレス等の影響を無視できない.4)頸椎の左右の椎間関節間距離は頸椎では長く,胸椎では短いことが黄色靱帯の分布の違いに関与している可能性がある.

CTMよりみた頸椎後縦靱帯骨化症と頸椎症性脊髄症の病態の差異

著者: 藤原桂樹 ,   米延策雄 ,   江原宗平 ,   山下和夫 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.419 - P.424

 抄録:頸部脊髄症の治療予後を術前に予測するうえで,CTMより計測した最大圧迫高位での脊髄面積が有効な指標となることは既に報告してきた.今回は頸椎後縦靱帯骨化症(OPLL),と頸椎症性脊髄症(CSM)の2疾患に注目しOPLLにおいて術前神経症状,治療予後と関連する因子,OPLLとCSMの病態の差異,を明らかにすることを目的とした.OPLL 20例,CSM 24例のCTM像を検討し以下の知見を得た.①OPLLにおいては,脊髄面積,扁平率で表わす脊髄変形の程度,および狭窄率,骨化面積,有効脊柱管面積で表わす骨性因子の大きさは術前神経症状の重篤さと関連する指標とはならない.②有効脊柱管面積,脊髄面積は術後日整会点数,改善率と相関性がある.③脊髄に対する静的な骨性圧迫はCSMよりOPLLがより高度であるが脊髄の大きさ,形態,治療予後には差異がない.CSMでは頸椎不安定性に由来する動的圧迫がさらに加わるためであろう.

脊髄誘発電位を用いた頸椎後縦靱帯骨化症の脊髄障害の診断

著者: 四宮謙一 ,   古屋光太郎 ,   佐藤良治 ,   佐藤雅史 ,   岡本明彦 ,   黒佐義郎 ,   渕岡道行

ページ範囲:P.425 - P.432

 抄録:脊髄誘発電位により連続型あるいは混合型の頸椎OPLLの高位診断,病態診断が正確に行えるようになってきた.対象症例は1985年以来の術後6か月以上経過した26例である.下肢機能のモニターのためには,胸髄刺激により頸椎硬膜外腔から導出した伝導性脊髄誘発電位が用いられた.また上肢機能のモニターのためには正中神経刺激ならびに指の皮膚刺激による分節性脊髄誘発電位が導出された.症例によっては時としてOPLLの途中で脊髄誘発電位の消失が認められることがある.このような場合にはさらに刺激電極をcisterna magnaに設置し,下行性伝導性脊髄誘発電位を記録し,脊髄障害の上限を診断する.これらの診断法を用いるようになって,連続型OPLL例などにおいても責任病巣部位を的確に診断でき,また脊髄内の病変の拡がりを把握できた.さらに術前の脊髄誘発電位から術後の予後をある程度診断できることが解った.

腰椎後縦靱帯骨化症の病態と臨床像

著者: 野田基博 ,   河合伸也 ,   小田裕胤 ,   斉鹿稔 ,   伊原公一郎 ,   佐々部富士男 ,   峯孝友

ページ範囲:P.433 - P.439

 抄録:〔目的〕腰椎後縦靱帯骨化症の概念は,頸・胸椎部に比し頻度が少ないこともあり,いまだ確立されていないが,最近,本症の観血的療法を行い良好な結果を得たのでその病態について考察する.〔対象・方法〕X線上腰椎OPLLを認めた50例(平均年齢55歳,男性19例,女性31例)を対象に,X線形態を含め臨床症状を検討した.〔結果〕骨化型は,連続型6例,限局型44例で,そのうち明らかにOPLLに起因する症状を呈したものは10例で,これらはすべて限局型で多椎間に存在し,骨化の程度も強く狭窄率も他の例と比較し高度であった.これらのうち8例に観血的療法を施行し全例に症状の改善をみた.症状はLCS様の症状が特徴的であったが根症状が主体であった.〔結論〕腰椎OPLLは,無症候性のものが多く解剖学的面から頸・胸椎部に比し重篤な症状を呈することは少ないが,従来考えられていたよりもかなり多く存在し,腰椎後縦靱帯骨化症という病態が存在する.

胸腰椎黄色靭帯骨化症の病態—発症の局所因子と神経症状—手術治療例からの検討

著者: 倉上親治 ,   金田清志 ,   鐙邦芳 ,   橋本友幸 ,   白土修 ,   高橋洋行 ,   武田直樹 ,   藤谷正紀

ページ範囲:P.441 - P.448

 抄録:胸腰椎黄色靱帯骨化(OLF)単独障害21例の手術治療例と明らかなOLFを認めるが無症状の47例を対照とし,神経症状とその発症に関する局所因子を中心に検討した.初発症状は何らかの下肢症状であったが,手術時には90%が歩行障害と排尿障害を訴えた.主要障害高位は脊髄腔造影の診断では,T10/11椎間10例,T11/12椎間7例で他4例は多椎間であった.神経学的所見では,T10/11椎間障害高位例はlong tract signを示したものが多かった.しかし,T11/12椎間障害高位例では下肢腱反射の低下や著明な筋力低下など,髄節性障害の加わった,多彩な神経学的所見を示すものが多かった.椎間板変性は手術群で67%に認められ,特に変性の著明なものは,対照群より多く認めた.椎体の楔状変形もOLF手術群で43%に認められた.OLFの骨化増大には,全身的な靱帯骨化因子とともに,椎間板変性や椎体楔状変形など黄色靱帯に対するストレスを増加させる因子が局所因子として考えられた.

胸椎黄色靱帯骨化症に対する当院の手術法

著者: 柴崎啓一 ,   大谷清 ,   吉田宗人 ,   中井定明 ,   塚原茂

ページ範囲:P.449 - P.455

 抄録:黄色靱帯骨化症に対する手術的治療法としては菲薄化した椎弓を一塊として切除するen-bloc wide laminectomyが広く行われている.しかし,切除椎弓数の増加に従い椎弓切離後の硬膜外操作,殊に硬膜の癒着あるいは骨化部の切離に充分な術野確保が困難な症例もある.
 そこで当院では桐田法に倣って正中部縦割により椎弓および骨化部を観音開きにして切除する術式を本症に採用している.広い術野の展開により硬膜外腔の癒着あるいは硬膜骨化部の切離に際して脊髄に対するより愛護的な操作が可能である.

後縱靭帯骨化症,黄色靭帯骨化症による胸部脊髄症の手術方法—とくに合併例に対する一期的前後除圧術

著者: 富田勝郎 ,   梅田真一郎

ページ範囲:P.457 - P.465

 抄録:過去10年間に行った24例の手術経験から,胸椎部の靱帯骨化症の手術に対する我々の考えを示した.基本的には出来る限り圧迫因子を直接除去するのが望ましいと考えており,OPLL(6例)に対しては椎体前側方からOPLLを摘出・除去する前方除圧・椎体固定術を,OYL(9例)に対しては椎弓切除術に続き骨化部を削除する後方除圧術を行ってきた.さらにOPLLとOYLの合併例(9例)に対しては,前後から一気に全ての圧迫因子を除去.除圧するのが最も理に叶っていると考え,脊髄の一期的前後除圧術(one-stage antero-posterior decompression:total decompression)を考案した.本法はlst step:後方除圧術一椎弓およびOYL切除術,2nd step:前方除圧術―OPLL切除・椎体固定術からなる.1st stepを終える前に椎体に向ってgutterを作成することにより2nd stepでのOPLL切除は極めてスムーズとなる.手術手技の紹介と成績の概要を,OPLL,OYL各々の場合と共に報告する.

胸椎後縦靱帯骨化症に対する後方進入脊髄前方除圧の経験

著者: 大塚訓喜 ,   寺山和雄 ,   和田光司 ,   木下久敏 ,   高橋紳一 ,   村田修一

ページ範囲:P.467 - P.472

 抄録:胸椎OPLLに対して,後方進入脊髄前方除圧法を考案したので,その手術術式と成績について報告する.この手術方法は3つの要素,つまり後方進入前方除圧,横突起間脊椎固定,spinal instrumentationから成っている.まずwide en bloc laminectomyを行い,次にOPLLの前方を斜の方向からえぐるようにサージエアトームを用いて椎体を削除する.この操作を両側から行うと病巣部が椎体から遊離し,硬膜は前方へ移動して除圧がなされる.10例の胸椎後縦靱帯骨化症に本法を施行した.このうち6例にOPLLと同一部位に黄色靱帯骨化の合併を認めた.JOA score(II点満点)では術前成績平均2.9点から術後は平均が8.3点であり,全ての症例において麻痺の改善が得られ,その改善率は平均61.8%であった.本法は手術範囲に制限はなく,また胸椎OPLLは黄色靱帯骨化を合併することがしばしばあり,脊髄の前後双方の障害を同時に除去することが可能である.

脊柱管内靱帯骨化症における予後不良例の検討

著者: 村瀬正昭 ,   井形高明 ,   八木省次 ,   篠原一仁 ,   正木国弘 ,   田村阿津王 ,   柏口新二 ,   山下雅樹

ページ範囲:P.473 - P.479

 抄録:脊柱管内靱帯骨化症(頸椎後縦靱帯骨化症,胸椎後縦靱帯骨化症,胸椎黄靱帯骨化症)の術後成績不良例について検討した.対象は頸椎部36例,胸椎部15例であり,手術時年齢は31歳から71歳(平均52歳),平均経過期間は2年8ヵ月である.改善率(平林法)が0%以下の不良群は,頸椎部5例(13.9%),胸椎部5例(33.3%)であり,改善率50%以上の良好群に比し、手術時年齢が高く,罹病期間が長い傾向にあった.総合的評価による予後不良要因として,①術前の脊髄病変の把握不足,②手術手技の不適(除圧幅の不足),③著明な脊髄変性(脊髄空洞化等),④脊柱後彎の増強,などが考えられた.これらの対策として,①術前の脊髄病変の正確な把握により,手術の好期を逸しないこと,②正しい責任病巣の決定と,適切な手術方法の選択下でatraumaticな操作に終始すること,③術前よりVitamin Eの投与による脊髄保護を行い,術中にはモニターリングの併用も考慮することなどが重要と思われた.

黄色靱帯骨化症に対するMRIの診断学的意義

著者: 島崎和久 ,   宇田宙照 ,   吉田和也 ,   謝典穎 ,   広畑和志

ページ範囲:P.481 - P.487

 抄録:黄色靱帯骨化症の観血的治療例を対象に,その核磁気共鳴映像法(MRI)による画像所見について検討するとともに,従来の画像診断法と比較検討した.
 MRIは骨化による病巣を無信号域としてとらえるとともに脊髄圧迫の有無も描出しえ,補助診断法として有用であった.MRI装置の改良により,従来の検査方法を凌駕する画像診断法になると考える.

頸椎後縦靱帯骨化症患者における全身靱帯骨化所見のX線学的検討

著者: 和田光司 ,   寺山和雄 ,   大塚訓喜 ,   木下久敏 ,   高橋紳一 ,   村田修一 ,   柳原光國

ページ範囲:P.489 - P.494

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化症(OPLL)患者254例の脊柱および四肢関節周囲の靱帯骨化についてX線学的調査を行った.症例の内訳は,男171例,女83例,年齢は30歳から87歳,平均57.9歳であった.頸椎OPLLの分類では,分節型108例,混合型74例,連続型68例およびその他4例であった.胸椎,腰椎におけるOPLLはそれぞれ17.5%,12.6%に認められた.Forestierのstage II以上の前縦靱帯骨化は82.3%,黄色靱帯骨化は48.7%,項靱帯骨化は47.8%,棘上靱帯骨化は95.4%に合併していた.
 脊柱以外の四肢関節周囲の靱帯骨化合併頻度は,骨盤・股関節85.1%,肩関節40.8%,肘関節41.5%,膝関節79.7%および足関節79.3%であった.

頸椎後縦靱帯骨化症に対する再手術症例の検討

著者: 森園良幸 ,   酒匂崇 ,   坂上譲二 ,   武富栄二 ,   川井田秀文 ,   上原裕史

ページ範囲:P.495 - P.500

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化症の再手術症例6例(4.1%)について,再手術の原因について検討を行った.再手術の原因は,前方法では側方骨化の残存による症状悪化,また長期例では固定隣接椎間の変性に伴う再発が見られた.後方法では,硬膜の著明な膨隆に伴い,側方部でtethering effectにより術後,根症状の出現を見た例があった.しかし脊髄症状の改善は見られた.術後骨化の進展や再出現による症状の悪化をきたした症例はなかった.再手術の防止のためには,ミエログラムやCTMなどの検討を充分に行い,適切な手術法の選択が必要である.症状悪化或いは不変の原因を正確に把握することは非常に難しいが,臨床症状,ミエログラム,CTなどより総合的にみて決定し,それに合ったより良い再手術方法を選択していかなければならないと考える.

頸椎後縦靱帯骨化症に対する服部氏椎管拡大術の成績

著者: 石井祐信 ,   酒井克宜 ,   八幡順一郎 ,   西平竹志 ,   谷正太郎 ,   山口修 ,   国分正一 ,   桜井実 ,   佐藤哲朗

ページ範囲:P.501 - P.507

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化症の脊髄症で,前方除圧・固定術に困難の予想される60例に対し,後方法として服部氏頸椎椎管拡大術を行った.27例で1〜6ヵ所(平均1.6ヵ所)に椎弓fragmentの骨折,2例では硬膜を破り髄液の漏出が生じたが,それらはいずれも術後の合併症に結びつかなかった.術後1年〜5年(平均2年2ヵ月)を経過した39例における神経学的改善は術前の日整会評価点4〜15点(平均8.8点)が,調査時10〜17点(平均14.8点)となり,平林法による改善率では30〜100%(平均73%)であった.中間位における頸椎の前彎角の減少は平均4゜で,頸椎可動域の減少は平均14゜(44%)であった.拡大した椎弓間の癒合した症例が13例あった.服部氏頸椎椎管拡大術は,手術手技が複雑で高度の繊細さが要求されるが,十分な脊柱管拡大とその維持が期待でき,頸椎の支持性と運動性を温存しうる手術方法である.

頸椎後縦靱帯骨化症に対する片開き式脊柱管拡大術の合併症とその対策

著者: 平林洌 ,   里見和彦 ,   市村正一 ,   田中耕一 ,   若野紘一 ,   戸山芳昭

ページ範囲:P.509 - P.515

 抄録:OPLLに対する後方除圧法として,片開き式脊柱管拡大術を56例に行った結果,従来の椎弓切除術にくらべて,除圧効果の点では平均改善率63%と勝るとも劣らなかったばかりでなく,術後の支持性の点では明らかにすぐれていた.すなわちmalalignmentの形成や不安定性を防止でき,OPLLの術後の進行防止にも役立っていた.
 本手術法は,他の脊柱管拡大術にくらべても操作がより簡単で,より安全に行いうる利点をもつといえるが,殆んどは一過性ではあるが,13例に合併症を認めた.C5,6髄節の不全麻痺(6例)と神経根性の背部痛(7例)であった.

頸椎後縦靱帯骨化症に対する観音開き式脊柱管拡大術の成績

著者: 岩崎洋明 ,   植田百合人 ,   西山茂晴 ,   松山悦啓 ,   石崎嘉孝 ,   増原建二

ページ範囲:P.517 - P.522

 抄録:OPLLの後方除圧においては桐田の同時除圧の必要性が大きいことが認識され,また服部の頸椎柱の支持性を温存し,術後瘢痕による神経組織の圧迫を予防する脊柱管拡大術の有用性が認識されてから,奈良医大整形外科においてはこの両者を満足し,しかも手術手技ならびに後療法が比較的簡単な観音開き式脊柱管拡大術を行ってきた.1977年4月から105例に本法を施行し,そのうちOPLLは27例であった.平均年齢58歳,観察期間は平均1.5年であった.骨化形態は混合型が多く22例で拡大椎弓はC3〜7が44.4%と多かった.側溝を外側に形成し,しかも十分薄くなるまで深く掘削すると脊髄の後方移動が良好で,椎弓の拡大も良好であった.出血量は平均818mlで,時間は平均3時間3分であった.日整会判定基準でみると9.0が13.9点となり,改善率は61.3%であった.従来の椎弓切除では椎弓切除縁でrootが圧迫されて頸腕痛が出現することがあったが,出現しないのが長所の1つである.

棘突起縦割法頸椎脊柱管拡大術の成績と脊髄の拡大および後方移動

著者: 柴田稔 ,   菅原修 ,   竹光義治 ,   原田吉雄 ,   熱田裕司 ,   岩原敏人

ページ範囲:P.523 - P.530

 抄録:棘突起縦割法頸椎脊柱管拡大術を施行し,4ヵ月以上経過観察した61例につき,X線学的解析を行うと共に,JOA点数法により成績評価を行った.点数は術前平均9.0,術後平均12.9,改善率は平林方式で43.3%であった.脊髄症状の増悪は2例・3.3%であった.頸椎症例とOPLL例との間には改善率の差は認められず,罹病期間と改善率の間に今回の症例では統計的に相関性は見いだせなかった.手術前が7点以下の症状の強い症例でも改善傾向が劣るとは言えなかった.手術後の頸椎可動域制限はほぼ全例に認められ,ADL上問題となるのは回旋制限であった.また,手術前後でCTMを施行し,鮮明な像を得た11例について検討を加えた結果,硬膜管および脊髄前後径の明らかな拡大と,脊髄の後方移動が後方除圧術の効果として認められた.脊髄後方移動に伴う神経のtethering effectにより根性痛が生じた症例は,61例中4例であったがいずれも一過性であった.

棘突起縦割法脊柱管拡大術後のOPLL進展

著者: 星野雄一 ,   黒川高秀 ,   町田秀人 ,   平林茂 ,   大西五三男 ,   李建興 ,   侭田敏且 ,   佐藤正幸

ページ範囲:P.531 - P.536

 抄録:棘突起縦割法脊柱管拡大術の術後短期のOPLL進展がどの程度であるかを知るために,術後2年以上(2年-5年9ヵ月,平均3年9ヵ月)経過観察した29例(男21例,女8例:41-72歳)の頸椎単純X線写真側面像を検討した.OPLLは,2mm以上の長さ,1mm以上の厚さの増加または新しい部位のOPLL出現があれば,進展ありとした.
 この基準をこえるOPLL進展は29例中9例(31%)にあり,これは文献に記載された椎弓切除術後のOPLL進展頻度よりも低かった.OPLL進展の程度は,長さ3mm-6mm,厚さ1mm-2mmの範囲内であり,いずれも著しいものではなかった.またOPLL進展によると考えられる症状の再発はなかった.

頸椎OPLLの骨化進展に及ぼす手術の影響

著者: 武富栄二 ,   酒匂崇 ,   森本典夫 ,   上原裕史 ,   森園良幸 ,   松永俊二 ,   山口正男

ページ範囲:P.537 - P.542

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化症の非手術例112例と手術例94例のレ線上の骨化進展の有無を調査し,観血的療法が骨化進展に及ぼす影響について検討を加えた.長軸方向への骨化進展は非手術例の60%,前方除圧術の39%,椎弓切除術の100%,脊柱管拡大術の67%に認めた.長軸方向への骨化進展に伴い,骨化形態に変化を来した例が非手術例10例,手術例13例の計23例認められた.骨化の厚さの進展は,非手術例の27%,前方除圧術の15%,椎弓切除術の78%,脊柱管拡大術の77%に認めた.骨化の進展は年齢,骨化形態,脊柱全体像を考慮にいれても,椎弓切除術,脊柱管拡大術の後方除圧例で著しい傾向があり,この原因として基盤に脊柱靱帯骨化への素因があり,手術による脊柱の構築学的,あるいは可動椎間による動的ストレスの影響が考えられた.

頸椎後縦靱帯骨化症の手術成績—前方除圧術と後方除圧術の比較検討

著者: 国分正一 ,   桜井実 ,   八幡順一郎 ,   石井祐信 ,   西平竹志 ,   佐藤哲朗

ページ範囲:P.543 - P.553

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化症の手術例146例を対象に,前方除圧術96例(摘出術89例,浮上術7例)と後方除圧術50例(椎弓切除術10例,脊柱管拡大術:服部法37例,黒川法3例)の成績を手術時間・出血量,合併症,神経学的改善,CT myelogramでみた脊髄の復元性の視点より比較検討した.靱帯骨化は分節型54例,連続型92例で,32%が硬膜骨化を合併していた.前方除圧を原則とした時期は手術が長時間,出血多量となり,髄液瘻,咽頭浮腫,舌下・反回神経麻痺,移植骨の骨折・脱転,感染等の生じた例が多かったが,後方除圧の適応を選ぶようになってからは安定した成績が得られた.神経学的改善と脊髄の復元性は,後方除圧に比して前方除圧の優秀性を示す確証が得られなかった.左右幅が広い骨化,硬膜骨化が癒合した骨化,4椎間以上の除圧あるいはC2椎体への侵襲が必要な骨化等,前方除圧術に困難と合併症が予想される骨化は後方除圧術の選択が妥当である.

頸椎後縦靱帯骨化症の手術成績からみた手術適応

著者: 市村正一 ,   平林洌 ,   里見和彦 ,   長山信幸 ,   田中耕一 ,   戸山芳昭 ,   若野紘一 ,   藤村祥一

ページ範囲:P.555 - P.562

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化症の初回手術107例について,手術成績を術式別に検討した.その内訳は,前方除圧・固定術16例,椎弓切除術28例,片開き式脊柱管拡大術54例,2段階手術9例であった.総合成績はADL点数で術前平均8.3点から術後13.2点,平均改善率は58.8%で,改善率50%以上の満足群は7割を越していた.また,術式別にはすべて50%以上の平均改善率を示し,病態に基づいた我々の手術選択は概ね妥当といえた.特に,脊柱管拡大術は成績も優れ,長期成績も安定し,しかも手術侵襲が最も少なかった.成績不良因子としては,重症例,高齢者,外傷例,2年以上の罹病期間例および脊柱管狭窄の合併例などがあげられた.今後,前方除圧の適応は従来通り3椎間までとし,さらに除圧の確実性を期するため骨化茎部の狭小なるものとしたい.前方除圧の適応外と高齢者には脊柱管拡大術を適応するが,後彎変形がある場合には術前慎重に術式を決定する必要がある.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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