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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科23巻6号

1988年06月発行

雑誌目次

視座

日本語の専門用語について考える

著者: 田島達也

ページ範囲:P.681 - P.682

 最近国際交流が盛んになり,特に日本語を修得したアジア諸国からの留学生と接するようになって痛切に感ずることの一つは日本語の専門用語のむずかしさである.こればかりは英語を使わざるを得ないことが多い.
 日本の医学界では解剖学を初め整形外科を含むあらゆる専門領域で専門用語の統一に努力が払われ,特に新しく発達した専門領域では新しい欧語の日本語訳に用語委員会などを組織して尽力している.

論述

開放性脊髄髄膜瘤閉鎖手術後のMRIの検討

著者: 吉永勝訓 ,   井上駿一 ,   北原宏 ,   南昌平 ,   礒辺啓二郎 ,   湯山琢夫 ,   畑芳春 ,   山根友二郎 ,   山下武広 ,   中川武夫

ページ範囲:P.683 - P.690

 抄録:開放性脊髄髄膜瘤閉鎖手術後の患者7名に脊髄矢状面MRI検査を行い次の結果を得た.明らかなArnold-Chiari II型奇形が2例,hydromyeliaが1例,cord atrophyと思われる所見が3例に認められた.また7例全例で閉鎖部位までのlow conusが見られた.更にシャント手術未施行の1例はhydrocephalusが顕著であった.
 これらMRI所見と臨床所見との対比では,hydromyeliaの1例で左上肢に知覚異常を認めた.また成長に伴いtethered cord syndromeを呈した腰仙部脂肪腫症例を提示し,この症例のMRIで見られたlow conus像が脊髄髄膜瘤症例でも全例に認められたことから,今後は同一症例に定期的にMRI撮影を行うとともに,成長期間中の理学所見の変化をこの点からも充分留意のうえ,観察して行く必要があると考えた.

ステロイド関節症の免疫学的側面—慢性関節リウマチ・変形性関節症との対比において

著者: 川部直巳 ,   岩田淳 ,   和田定 ,   江田有史 ,   藤新重治 ,   廣谷速人

ページ範囲:P.691 - P.700

 抄録:ステロイド関節症の発症機序は,いまなお不明な点がある,今回,手術を行った12例,18関節について主に免疫学的検討を行った.免疫血清検査では,12例のうち9例に免疫血清検査を行い,5例にIgGの増加を認めた,滑膜・関節軟骨の病理組織所見において特異的変化をみることは少ないが,免疫組織化学的検索では,主にIgG,C3が,滑膜で86%,関節軟骨で81%の高頻度に認められた.これは関節リウマチの滑膜100%,軟骨91%に近い頻度であった.関節軟骨に沈着した免疫グロブリンを抽出し,コラーゲンに対する抗体価を測定した結果,12例のうち5例にI型,II型コラーゲンに,4例にIII型コラーゲンが陽性であり,プロテオグリカンに対しては5例に抗体価が陽性であった.これは変形性関節症より頻度,抗体価ともに高かった.
 ステロイド関節症の病因として従来から代謝抑制,機械的刺激,除痛による酷使などが述べられているが,以上の結果からその進展には局所的な自己免疫も関与しているものと考える.

肘関節装具の試作と使用経験

著者: 中嶋洋 ,   多田浩一 ,   吉田竹志 ,   永野重郎 ,   新田雅英

ページ範囲:P.701 - P.706

 抄録:関節形成術術後症例18肘(OA:11肘,RA:4肘,外傷例:3肘)に,可動域獲得練習として,また主に関節周囲軟部組織の拘縮により可動域制限を生じた3肘に対し,関節可動域拡大を目的としてdynamic splint装具を用いた.関節形成術を施行した症例は,術前の平均屈曲/伸展は99°/-32°であった.術後装具を用いたリハビリテーション開始前は,平均100°/-146°であったがdynamic splint装具の使用平均57日で最高可動域119°/-31°が得られた.肘関節拘縮症例は装具装着前は平均屈曲/伸展は89°/-48°でありdynamic splint使用にて平均61日で128°/-31°が獲得された.dynamic splint装具は,関節形成術術後症例,および関節拘縮症例に対し可動域拡大に有効であった.

鎖骨骨折に対する経皮的ピンニング

著者: 川那辺圭一 ,   田中久重 ,   種部直之 ,   林卓司 ,   高田知季

ページ範囲:P.707 - P.710

 抄録:鎖骨骨折に対する手術療法はキルシュナー鋼線による直視下髄内固定法が一般的である.しかし,骨膜及び軟部組織への損傷を最小限にするため,われわれは安永らの発表した経皮的ピンニング法を施行し良好な結果を得たので報告する.本法を行った26例は著明な変形を残さずすべて骨癒合を得た.また,神経血管損傷等の合併症はなかった.経皮的ピンニング法では骨折部を展開した場合と全く遜色ない整復及び固定が得られた.そればかりか,観血的整復固定術と比較して以下の利点があげられる.1.仮骨出現までの期間が約1週間短い.2.瘢痕が残らず美容上すぐれている.3.手術侵襲が小さい.
 本法は受傷後1週以内の新鮮例で中3分の1の骨折であれば,安全で非常に有用な方法である.また,美容上もすぐれており患者の満足度も高く,推奨されるべき手術法と思われる.

先天股脱発現における季節因子の関与—新生児期検診児の乳児期異常例からの分析

著者: 渡辺真 ,   柳沢正信 ,   福田茂 ,   高橋功 ,   松本美恵子

ページ範囲:P.711 - P.714

 抄録:新生児股関節検診を受けた症例の中から新生児期クリック陽性無治療の乳児期先天股脱22例と新生児期クリック陰性の乳児期先天股脱(late diagnosis)32例に分析を加えた.先天股脱の成因と考えられる出生前因子(性別,生下時体重)と出生中因子(生下時体重,出生状況)および検診体系因子(検診時日齢)からはクリック陽性群やコントロール群と有意差は見い出せなかった.出生後因子(出生月およびその季節性)に強い差異が認められた.両群で生後3,4ヵ月をすごす時期が寒い時に生れた児の頻度が大であった.乳児先天股脱の発現は,新生児期での見落としというよりは,むしろ生後3,4ヵ月に児に加えられる環境因子が重要な役割を演じているものと思われる.乳児先天股脱の予防は生後3,4ヵ月の時期に育児法など先天股脱を誘発させる因子を児に加えないよう注意することである.

症例検討会 骨・軟部腫瘍8例

〔症例1〕大腿骨腫瘍

著者: 三井宜夫 ,   宮内義純 ,   朴木寛称 ,   増原建二 ,   堤雅弘 ,   丸山博司 ,   小西陽一

ページ範囲:P.715 - P.718

 症例:23歳,女性
 昭和60年6月,左膝窩部に疼痛が出現し,8月には腫瘤形成に気付いた.腫瘤は次第に増大し,10月の当科初診時には大腿遠位部の後内側を中心に手拳大の硬い腫瘤が触知された.X線像では,大腿骨遠位骨幹部後面を中心とした骨皮質の肥厚と,部分的には骨皮質と連続した斑紋状の骨化と思われる陰影を伴った巨大な腫瘍陰影を認めた(図1-1),CT像では,骨皮質に接した骨外に腫瘤が見られ,内部に石灰沈着が認められた.血管造影では,軽度のhypervascularity,tumorstain,A-V shuntなどの悪性腫瘍を示唆する所見が得られた.99mTcシンチグラフィーでは,腫瘤に一致した部位に強い集積像が見られた.生検の組織学的検査では,悪性所見に乏しい線維性腫瘍の像を示した.10月24日単純摘出術を実施した,腫瘍は,骨膜から成ると思われる線維性の被膜を有し,周囲軟部組織との境界は明瞭で,骨との剥離もまた容易であった1摘出腫瘍の大きさは,16×11×4cm,335gで,割面は大部分が白色線維性で,島状のゼリー状の軟骨様部分や,骨様の部分も認められた.組織学的には,腫瘍の表層では線維芽細胞様の長紡錘形細胞の増殖が主体を成し,間質には豊富な膠原線維の増生を伴っていた(図1-2a).細胞成分に富んだ部分では,核分裂像が散見された)腫瘍の深部には,島状に骨と軟骨から成る部分が見られた(図1-2b).周囲の骨組織は,先に述べた線維芽細胞から成る線維性組織と連続性に移行しているように思われ,この部位における軟骨細胞に異型性が認められた(図1-2c).術後1年11カ月経過した昭和62年9月,左大腿遠位部外側のピンポン球大の腫瘤に気付いて来院した.X線では,前回手術部の中枢端外側の骨皮質から骨外に発育した比較的均一な濃厚陰影を認めた(図1-3).血管造影ではhypovascularで,99mTcシンチグラフィーでは強い集積を示した.

〔症例2〕上腕骨骨腫瘍

著者: 野島孝之 ,   井上和秋 ,   武田直樹 ,   大野和則 ,   松野丈夫

ページ範囲:P.718 - P.720

 症例:19歳,女性
 臨床経過:昭和61年10月頃,左上腕部痛と腫脹が出現し,北大整形外科を受診した.X線上,左上腕骨近位端,骨幹端から骨幹部にかけて,骨外性に膨隆する硬化像を認めた.骨皮質は肥厚し,骨膜反応をみるが,spiculaやsun-burst状の変化はみられない(図2-1).血管造影ではtumor stainは,はっきりせず,またCTスキャンでは,骨外性に辺縁不規則な硬化像を認めた.11月6日に生検がなされ,11月27日に左上腕骨の広範囲切除術,血管柄付腓骨移植による肩関節固定術を施行した.手術材料は肉眼的には,骨幹端から骨幹部にかけて8×3cmの灰白色,骨様硬の腫瘍がみられる.骨皮質は骨膜反応を伴い,肥厚を示すが,周囲の結合織への腫瘍浸潤はみられない.

〔症例3〕左大腿部骨格外骨肉腫

著者: 伴聡 ,   土橋洋 ,   福田利夫 ,   町並陸生 ,   篠崎哲也 ,   千木良正機 ,   宇田川英一

ページ範囲:P.720 - P.722

 症例:67歳,女性
 1972年頃から左膝蓋下にクルミ大の硬い腫瘤があることに気付いた.1982年4月某病院を受診し,この腫瘤を切除した)その時のX線写真では,膝蓋骨直下に骨化陰影が見られた.病理組織学的診断は,膝蓋下脂肪体にみられた組織修復過程における骨化であった.H. E.標本では,細胞成分の少ない線維性組織の中に骨形成が見られ,別の部位では,弱好酸性の均質に染まる豊富な膠原線維と小型の細胞質に乏しい紡錘形細胞が見られた.1985年12月頃に,左大腿部に骨化を伴う腫瘤が出現した.左大腿部X線写真(図3-1)で,左大腿骨の下部骨幹部周囲に腫瘍陰影が見られた.左大腿部CT(図3-2)で,大腿骨の周囲軟部組織に腫瘍陰影を認め,一部では骨と同じ密度を示していた.また,テクネシウムシンチグラフィーでは,左大腿部に集積像が見られた.1986年3月頃,臨床的に化骨性筋炎が疑われ,5月に試験切除が行われた.その時の病理組織では,弱拡大で,中心部から辺縁の筋肉に腫瘍組織が見られた.その中心部では,骨形成が見られるが,辺縁部にいくにしたがって,骨形成が少なくなり,腫瘍細胞が密に増生していた.中心部を拡大して見ると,形成された比較的分化した骨の間に,残存した筋細胞が見られ,異型細胞は全く認められなかった.辺縁部を拡大して見ると,比較的軽度の異型を示す紡錘型の細胞が,粘液性の間質を伴って増生し,類骨を形成していた.また,別の部位には,異型・多形性の目立つ未分化な腫瘍細胞が密に増生しており,ここでは骨あるいは類骨形成は見られなかった.

〔症例4〕Fibrous dysplasiaの診断12年後,同部位から発生した悪性腫瘍の1例

著者: 塩津英俊 ,   滝和博 ,   桑原紀之 ,   福田芳郎 ,   水野淳 ,   雅楽十一 ,   柳原泰 ,   山内裕雄 ,   青木虎吉 ,   河野清

ページ範囲:P.723 - P.726

 症例:25歳,男性
 昭和48年(12歳時),跛行を指摘され近医受診,X線,生検等で左大腿転子部および近位骨幹端部のfibrous dysplasiaと診断され,経過観察していた(図4-1).放射線照射はしていない.中学,高校時代は疼痛などの症状はなかった.

〔症例5〕3ヵ月女児の前腕軟部腫瘍

著者: 葛西千秋 ,   武内章二 ,   櫛田喜輝 ,   佐藤正夫 ,   太田牧雄 ,   松永隆信 ,   尾島昭次 ,   下川邦泰 ,   池田庸子

ページ範囲:P.726 - P.728

 症例:3カ月,女児
 主訴:左前腕遠位部の腫瘤

〔症例6〕左下肢多発性腫瘤

著者: 増田信二 ,   北川正信 ,   松井寿夫 ,   館崎慎一郎 ,   辻陽雄

ページ範囲:P.729 - P.731

 症例:72歳,女性,農婦
 主訴:左下肢腫瘤(初診昭和62年2月20日)

〔症例7〕左上腕三角筋部軟部腫瘍

著者: 横山良平 ,   恒吉正澄 ,   橋本洋 ,   遠城寺宗知 ,   篠原典夫 ,   横山庫一郎

ページ範囲:P.731 - P.734

 症例は60歳,男性.昭和58年頃,左上腕部に隆起性の硬い腫瘤があるのに気付いたが放置していた.60年12月頃から次第に大きくなり,その頃から運動時痛も出現.61年4月,近医にて大きさが約2×2cmの腫瘤を摘出されたが,その後再発し61年8月に再切除された.2カ月後に再び腫瘤が出現し,急速に増大してきたため,国立福岡中央病院整形外科を受診した.レ線写真で左上腕三角筋部の比較的浅い部分にradiopaqueな陰影を認め,血管造影では血管の増加が見られた(図7-1).61年11月に広範切除術を行い,術後1年の状態では再発,転移は認められなかった.

〔症例8〕鼠径軟部腫瘍

著者: 山城勝重 ,   宮川明 ,   野島孝之 ,   山脇慎也 ,   姥山勇二 ,   井須和男 ,   後藤守 ,   小森吉夫 ,   小川勝洋

ページ範囲:P.735 - P.737

 症例:59歳,女性
 昭和56年5月頃,右鼠径部領域に腫瘤が出現し,同年6月切除術を受け,術後放射線療法,化学療法が施行された(図8-1).

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

Judetのセメントレス人工股関節の手術手技

著者: 弓削大四郎

ページ範囲:P.739 - P.756

はじめに
 Casanobaによると1980年までに世界的認知を受けた人工股関節はセメント使用のもの54タイプ,セメントレス8タイプ,Morscherによるとセメントレスは9タイプとなっている.最もmodifyされているものはCharnleyタイプの人工股関節,次いでMullerタイプのものとなっている.
 人工股関節全置換術の目的は,荒廃した股関節を人工関節で置換して本来の関節に近い無痛性の機能を回復して,それを永続的に持続することであるが,現実はなかなかそうはゆかないことに問題があり,更により秀れた人工関節を作ろうと研究開発が今日に於いても行われている結果が上述の合計62タイプという人工股関節の多様性を物語っている.

整形外科基礎

膝十字靱帯のバイオメカニクスとその臨床応用

著者: 安田和則 ,   黒沢秀樹 ,   山越憲一 ,   青木喜満 ,   冨山有一 ,   田邊芳恵 ,   金田清志

ページ範囲:P.757 - P.767

 抄録:第1に前および後十字靱帯の長さ変化を,特別なtransducerを用いてin vitroで測定した.両靱帯ともに線維束の機能分化が観察され,膝屈伸および大腿四頭筋張力発生によって複雑な長さ変化が認められた.第2に大腿四頭筋および膝屈筋群(ハムストリングス)収縮が膝前および後十字靱帯へ及ぼす力と膝屈曲角度との関係をin vivoで調べた.大腿四頭筋単独収縮および同時収縮は,膝伸展位では前方引出し力を,屈曲位では後方引出し力を与えた.この力が0となる角度は,前者が45.3±12.5°,後者が7.4±5.0°であった.膝屈筋単独収縮は常に後方引出し力を与えた.第3に靱帯損傷患者におけるX線学的検討は前述の結果を支持した.以上の結果は十字靱帯損傷の発生機序や病態の一部を解明するものであり,また十字靱帯修復術,再建術およびその後のリハビリテーションに関する多くの有用な情報が得られた.

整形外科を育てた人達 第60回

Augusta Klumpke(1859-1927)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.768 - P.771

 昭和一桁時代の私達整形外科医はFritz Langeの「Lehrbuch der Orthpaedie」を重要な教科書として座右に置いていた.この教科書の腕神経叢麻痺の項には上位型と下位型のあることが書いてあり,上位型はErb型,下位型はKlumpke型となっている.ErbはWilhelm Heinrich Erb(1840-1921)で神経病学者として有名で我々もよく耳にする名である.しかしKlumpkeについてはあまり詳しいことがわからなかった.ところが少し調べるとKlumpkeは女性で米国より欧州に移住して来た数奇な経歴のある人であることを知り,少し詳しく調べてその伝記の一部を紹介することにした.

認定医講座

頸椎損傷ならびに頸髄損傷

著者: 花井謙次

ページ範囲:P.772 - P.781

 頸椎は非常に大きな重量をもつ頭をささえ,かつすべての方向に大きな運動量をもっているので,基本的には丈夫な場所といえよう.しかし限られた範囲を越えた外力が頭に加わったり,極端な運動が首に起るようなことがあれば,頸椎損傷は容易に起りうる.頸椎損傷が起る場合は,頸髄にも大きな負担がかかることが多いので,重篤な頸髄損傷が起る可能性が極めて大きいといえよう.本講座では頸椎損傷の原因,損傷メカニズムと骨折型の分類について述べ,さらに頸髄損傷については,原因,神経学的症候,予後,治療法について簡単に述べることとする.

末梢神経損傷

著者: 河井秀夫

ページ範囲:P.783 - P.788

I.末梢神経系の構成
 末梢神経系は,神経根,神経節および神経からなる.神経根は前根および後根より構成され,前根は脊髄前柱および側柱に存在する神経細胞体から末梢に走る運動性ならびに自律神経性の遠心性神経線維が含まれ,後根は後根神経節に発する知覚性神経線維が含まれている.神経線維は有髄線維と無髄線維が束をなし,神経線維の体積は神経細胞体の200倍以上である.無髄神経線維は大きくても直径1μであるが,有髄神経線維ではその20倍にも及ぶ.神経線維は中枢から末梢に及ぶと次第に細くなり,その大きさの範囲は1倍から100倍まで及ぶ.有髄神経線維ではRanvier紋輪間に1個のSchwann細胞と1個の神経線維からなり,無髄神経線維では何個かの神経線維を1個のSchwann細胞が共有している.髄鞘は神経線維を螺旋状にとり囲むSchwann細胞の細胞膜に連続した結合膜(mesaxon)からなり,Schwann細胞の外側には基底膜がある(図1).Ranvier紋輪では髄鞘が完全に中断し軸索は被鞘がなく,この紋輪の存在により多数の分節に分かれる.その紋輪間距離は大径線維では長く,小径線維では比較的短い,神経線維が分岐するのはRanvier絞輪の部位であり,神経根部は中枢神経系と末梢神経系の特殊なRanvier絞輪部といえる.Schmidt-Lanterman切痕は髄鞘板層膜が周期線に沿い離開している部位であり,Schwann細胞の細胞質がある部位である.この切痕は髄鞘などへの栄養通液路と考えられる.神経および神経根の被膜は,神経内膜,神経周膜および神経上膜からなる(図2).神経内膜は軸索のすぐ外側にあり,Schwann細胞の基底膜とは区別される.神経周膜は多くの神経線維および神経内膜を神経束として含む強固な結合組織であり,神経束の機械的性質の保持に重要な構造でまた神経線維の環境を一定にしておくBlood-nerve barrierとしての機能をもっている.神経根の基部では硬膜に連続する,いくつかの神経束を大きく包み1本の末梢神経となしているのが神経上膜であり,疎な構成をもち,動・静脈を伴っている.運動線維は骨格筋線維に,知覚線維はその知覚受容器にそして自律神経線維は平滑筋・心筋・腺などに軸索終末をつくって終わる.末梢神経は神経間で叢状形成をなしており,15mm離れればその構造は違う(図3).阻血に対しては骨格筋以上に障害をうけやすく,神経の牽引率15%以上,圧迫は30mmHg以上を受ければ著しい血流障害をきたす.

臨床経験

足底部に発生したinfantile fibromatosisの1例

著者: 森戸俊典 ,   楠崎克之 ,   葛原啓 ,   日下部虎夫 ,   榊田喜三郎

ページ範囲:P.789 - P.793

 抄録:最近われわれは生下時より足底部に発生した浸潤性軟部腫瘍の1例を経験した.症例は新生児男児で生下時より左足底部に腫脹を認め徐々に増大し舟底足変形をきたしてきたため,生検後生後8週目に腫瘍摘出術を施行したが,可及的切除にもかかわらず術後1年9カ月の現在腫瘍の増大・遠隔転移はみられない.腫瘍は足底深部にび漫性に認められ,弾性硬で境界不明瞭であった.皮膚との癒着は認めなかったが,皮下脂肪・筋組織への浸潤が著明で神経を巻き込んでいた.腫瘍は豊富な膠原線維を伴う紡錘型線維細胞を主体とし再生筋芽細胞・変性シュワン細胞・ヘモジデリン含有細胞を伴っていたが,悪性所見は認められなかった.本症例で鑑別すべきものとしてはinfantile fibromatosis,plantar fibromatosis,aponeurotic fibromaおよびnodular fascitisが挙げられるが,臨床学的および組織学的所見より詳細に検討した結果,本症例は足底部に発生したきわめて稀なinfantile fibromatosisであると診断した.

浅腓骨神経の絞扼障害—外側大腿皮神経の絞扼障害を続発した1症例

著者: 佐藤啓三 ,   寺内正樹 ,   矢野悟 ,   金原宏之

ページ範囲:P.795 - P.798

 抄録:浅腓骨神経の絞扼障害の術後経過観察中に外側大腿皮神経にも絞扼障害を発症した1症例を経験した.症例は13歳女性で,右足背部痛を主訴に来院,同部の知覚鈍麻と右下腿外側遠位1/4,浅腓神経の下腿筋膜貫通部付近にTinel徴候を認めたが,運動麻痺,反射異常はなかった.2ヵ月間の保存的治療後,神経剥離・筋膜切除を行ない筋膜貫通部位での浅腓骨神経の絞扼を確認した.術後4ヵ月より右大腿部前外側の疼痛を生じ,同部の知覚異常と外側大腿皮神経の筋膜貫通部位である前腸骨棘遠位内側にTinel徴候を認めた.同神経の絞扼障害の診断の下に6ヵ月間の保存的治療後,手術を行なった.どちらの神経障害の症状も術後,速やかに消退し,現在,愁訴は全く認めない.浅腓骨神経の絞扼障害は過去10例の報告を数えるのみで,他の神経障害を発症した症例はなく,外側大腿皮神経の絞扼障害を生じた本症例は極めて稀な症例と思われる.

脱分化型軟骨肉腫の2剖検例

著者: 土井田稔 ,   鵜飼和浩 ,   岩崎安伸 ,   水野耕作 ,   広畑和志 ,   岡田聡 ,   高橋玲 ,   前田盛 ,   杉山武敏

ページ範囲:P.799 - P.803

 抄録:脱分化型軟骨肉腫(DDCS)の2剖検例を経験したので報告する.[症例1]:52歳,男性.右骨盤の原発巣は中分化型軟骨肉腫であったが,腫瘍摘出術術後約2年で再発し,再発巣は線維肉腫様あるいは悪性線維性組織球腫(MFH)様の像が主であった.剖検時,左大腿骨に分化型軟骨肉腫の転移を認めたが,他の転移巣は線維肉腫あるいはMFH様であった.[症例2]68歳,男性.右大腿骨骨幹部の原発巣は分化型軟骨肉腫,脱分化した部位ではMFH様であり,広範囲腫瘍摘出術術後約1年で局所再発及び全身転移の後に死亡した.剖検時,再発転移巣はMFH様で,分化型軟骨肉腫成分は見られなかった.2剖検例とも再発転移巣に分化型軟骨肉腫の像よりも線維肉腫あるいはMFH様所見がより優位であり,DDCSの治療には骨肉腫などの高悪性肉腫と同様に早期に診断を確定して,根治的外科療法をすべきと考える.

学会印象記

第17回 SICOT印象記

著者: 竹光義治

ページ範囲:P.804 - P.805

 1987年8月16日より21日迄ミュンヘンにおいてWagner会長のもとに開催された第17回国際整形災害外科学会(SICOT)に出席,1週間を楽しんだ.会はSIROTに引き続き,17日迄は重複した形で,水曜日1日(全員観光旅行日)を除き,実質4日間行われた.特別講演,シンポジウム,自由演題,ビデオ演題,科学展示が広い博覧会場を利用した合計10の会場に分散していたが,同一敷地内であったためそれ程不便は感じなかった.AAOSもそうであるが,器械展示が全会場の1/2以上にあたる中央の広大な領域を占め,それぞれなかなかのサービスであった.今回の登録者は三千人余りで,その内日本人は家族も含め大挙600人であったと聞いている.講演発表は約600題,その内日本からのものは80題,それとは別に展示は日本からの発表が全体の3分の1を占める程多く熱心さが評価されていた.
 筆者が見聞出来たのは1/10に過ぎず,それも主として脊椎関係であるため偏っていること,いくつかのセッションは全部の発表が聞けず,抄録によっていることをお断りしたい.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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