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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科23巻9号

1988年09月発行

雑誌目次

視座

脳の死と人間の生の問題について思うこと

著者: 立石昭夫

ページ範囲:P.1041 - P.1041

 本年1月の日本医師会生命倫理懇談会の"脳死および臓器移植についての最終報告"の発表以来,脳の死およびこれをもって個体の死と判定する脳死の問題をめぐる議論が多くの識者,マスコミでとり上げられている.我々もこの問題に無関心であるわけにはいかない.たまたま大学の倫理委員会のメンバーとしてこの報告書および関連資料,そしてまたいくつかの論評に目を通す機会があった.本来脳死の問題と臓器移植とは別の問題であるが,今回このような報告書が出されたのは,この二つが重要な関連性を持っているからであることは否定出来ない.
 従来人間の死は,心停止,呼吸停止,瞳孔散大,対光反射の消失をもって判定されてきた.そして全脳の死は数分あるいは長くても数時間のうちに確実に心臓死に至るので,これを区別することにそれほど大きな意味がなかった.しかし近年の人工呼吸器を始めとするすぐれた生命維持装置の発達はこれを数日から2週間の程度まで延長することを可能にした.更に将来はこれを数カ月あるいは数年のオーダーにまで延長することを可能にするかもしれない.ここでいわゆる植物状態は脳の死とは区別されなければならない.これは思考,情緒,感覚,運動といった大脳の機能は失われているが,生命維持にかかわる脳幹の機能は完全にあるいは不完全にしろ残存した状態であるからである.

論述

人工膝関節置換術後療法における持続的他動運動(CPM)の効果

著者: 八木知徳 ,   松野誠夫 ,   小態忠教 ,   門司順一 ,   安田和則 ,   青木喜満 ,   佐々木鉄人

ページ範囲:P.1042 - P.1047

 抄録:人工膝関節置換術後の関節拘縮を予防する目的で,Salterの開発した持続的他動運動(CPM)を,後療法に取り入れ,従来の徒手訓練例と比較した.CPM群は30例で,術直後より開始し,1サイクル3〜5分,24時間連続1週間施行した.徒手訓練群は40例で,医師や理学療法士による間歇的他動運動を行った.人工膝関節は全てKinematic knee systemを用いた.その結果,CPM群では術後早期から90゜以上の大きな可動域が得られ維持されるので,後療法に苦労しなかった.CPMは創治癒を妨げず,疼痛を抑制し,筋力を早期に回復させる効果があった.しかし術後出血が遷延・増加するので,止血対策を考える必要があると思われた.
 CPMを利用すれば,術後の理学療法が容易となり,人工膝関節置換の後療法として有用な方法であると思われる.

脊髄空洞症のMRI所見の検討

著者: 板橋孝 ,   湯山琢夫 ,   有水昇 ,   吉永勝訓 ,   礒辺啓二郎 ,   渡部恒夫 ,   井上駿一 ,   新井貞男 ,   守田文範 ,   植松貞夫

ページ範囲:P.1049 - P.1056

 抄録:脊髄空洞症31例(Chiari奇形合併13例,特発性9例,脊髄腫瘍合併5例,外傷後4例)のMRI所見について検討を行った.その結果,MRIによる脊髄空洞症の診断はdelayed-CTMの結果とほぼ一致したが,空洞の高位診断にはMRIの方が優れていた.Chiari奇形合併例の多くは脊髄全長にわたり病変がみられ,また脊髄腫瘍合併例では延髄空洞症が5例中3例と多くみられた.MRIでは空洞内容液の動きは,T2強調画像において空洞内の低輝度領域として描出されたが,この所見はChiari奇形合併例,特発性例のほぼ全例に認められ両者の間に相違は見られなかった.また外傷後の症例においても,空洞が損傷部位から上下に広がった2例に同様の所見を得た.これに対し脊髄腫瘍合併例では,T2強調画像において空洞内は腫瘍組織と同様に高輝度領域として描出され,こうした所見は脊髄腫瘍の合併を強く示唆する所見と思われた.

骨腫瘍切除後に対する自家骨移植について

著者: 大幸俊三 ,   佐藤栄作 ,   吉田行弘 ,   黒岩茂夫 ,   川野寿 ,   佐藤勤也 ,   鳥山貞宜 ,   浅井享

ページ範囲:P.1057 - P.1063

 抄録:骨腫瘍の切除後の再建として自家骨移植を12例に行い検討した.症例は骨巨細胞腫が5例,骨悪性線維性組織球腫が3例,骨肉腫,軟骨肉腫,単発性骨髄腫がそれぞれ1例ずつであった.切除範囲は4.5-20cm,平均10.7cm,移植骨は5-19cm,平均11.5cmであった.橈骨遠位で関節を残す方法では変形や骨折が生じ,月状骨や舟状骨と橈骨との固定が優れていた.橈骨骨幹部では腓骨移植で良好な結果が得られた.大腿骨では近位端と遠位端に行われ,前者は腓骨2本で,後者は同側の脛骨を反転して移植固定した.後者の1例は放射線照射後で表層に感染が併発し,骨癒合不全となった.脛骨骨幹部では反対側の脛骨によるものと血管柄付腓骨移植によるものがあるが,後者は術後6カ月で骨癒合が得られていない.腓骨遠位端では腸骨のsuperior gluteal lineを利用して骨移植し,良好な機能が残存している.

シンポジウム 変形性股関節症に対するBipolar型人工骨頭の臨床応用

変形性股関節症に対するBipolar型人工骨頭の臨床応用—緒言—

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1064 - P.1064

 最近の10年間に人工股関節のlooseningの防止のために,材質,デザイン,手術手技などの面で多くの進歩があったが,なお,40歳以下の比較的若い年齢層の患者に用いて術後20年以上の長期成績を保証するような人工股関節は登場してきていない.一方,カップ関節形成術は後療法に長期間を要することや股関節の可動性が比較的少ないなどの問題点はあるにしても,30歳以下の患者に用いれば20年以上にわたって優れた成績がえられることが判明している.そこで,人工股関節の良い適応とならない様な比較的若い年齢層の患者で,大腿骨頭の破壊が著しくカップ関節形成術の対象とならない症例において,臼蓋側に対してはカップを用い,骨頭は人工骨頭で置換して両者を中間挿入物を介して結合させることが考えられた.これがbipolar hip prosthesisであり,1974年にGilibertyとBatemanによってそれぞれ独立に設計された.Gilibertyのものはカップと人工骨頭との間で脱臼したり,カップの著しい内反をきたしたりする構造上の問題のため普及せず,Bateman型が広く用いられてきた.最近ではカップが内・外反位で固定されるのを防止するためにselfcenteringの機構をもったOsteonics bipolar prosthesisやHastings hipなどが登場してきている.

変形性股関節症に対するBipolar型人工骨頭置換術の治療成績

著者: 山本裕之 ,   松永大助 ,   上崎典雄

ページ範囲:P.1065 - P.1073

 抄録:直接検診を行った43例49関節を対象とした.臨床的な総合評価は良好であったが,可動域の改善が全体的に悪かった.実際,イメージ下では約70%の症例でOuter Cupは動いていないが,ADL上さほど問題はなかった.レ線的には,臼蓋側で約80%に骨硬化像が術後平均6.8ヵ月でみられ,その後Proximal migrationは停止する傾向にあった.一方,ステム側(セメントレスのカラー付きPressfit type)では,正確にPressfitできた症例は57%で,たとえfitしても経時的に内・外反変形及びDistal migrationが発生している.以上より,Bipolar型人工骨頭は可動域の改善,ステム側の問題は残るもののTHRと比較しても手技的に簡単で,且つ再置換が容易であり,現在の機能的な面からみるとセメントレスTHRに一歩近づくものと思われる.

当科におけるbipolar人工骨頭置換術の成績

著者: 富原光雄 ,   田中清介 ,   三浦光也 ,   林晃

ページ範囲:P.1075 - P.1081

 抄録:昭和54年12月から昭和63年1月までの間に当科で施行したbipolar人工骨頭置換術は104例(男32例,女72例)118関節あるが,1年以上経過観察しえた77関節についてその術後成績を検討した.終診時の日整会総点の平均は,変形性関節症(32関節)81.8点,大腿骨頭無腐性壊死(21関節)82.8点,大腿骨頸部骨折(12関節)84.0点,股関節部外傷陳旧例(4関節)82.2点,感染症由来(4関節)75.0点であった.変形性関節症ではほぼ同時期に行った人工関節置換術(46関節)の術後成績と比較した.術後早期にはbipolar人工骨頭置換術では軽度の疼痛が残存する例もあり人工関節置換術より若干成績が劣ったが,術後1年以上では両者ほぼ同程度の成績がえられた.臼蓋形成不全をともなう変形性関節症には切除骨頭を用いて臼蓋形成術を行っているが,その程度が軽度の場合は,関節包ロール法や海綿骨移植法で良好な結果がえられた.

寛骨臼リーミングを行なったBateman UPFのouter headのmigrationについて

著者: 浜本尚志 ,   山室隆夫 ,   上尾豊二 ,   奥村秀雄 ,   飯田寛和 ,   玉木茂行

ページ範囲:P.1083 - P.1088

 抄録:臼蓋リーミング併用のBateman UPFを,35例の変股症に行ない,術後1年6ヵ月から7年9カ月(平均5年3ヵ月)の中期成績とともにouter headのmigrationについて調査した.手術時年齢は21歳から59歳(平均41歳)であった.臨床成績はJOA scoreで行ない,術前平均45点であったものが術後7年に至るまで安定して80点を越えており,良好な中期成績を示した.migrationについては35例中6例に5mm以上の上方移動を,又,3例に3mm以上の内方移動,2例に3mm以上の外方移動を認めたが,いずれも臨床成績を悪化させる原因とはなっていなかった.outer headの動きと,migrationの大きさとの間には一定の関係は認められなかった.カップ関節形成術にmigrationが少ないこととの比較からレ線上outer head周囲のradiolucent zoneとその外周の骨硬化帯の完成を待ってから全荷重させるという愛護的かつ時間をかけた後療法がmigrationの防止に肝要と考えられた.

変股症に対するbipolar型人工骨頭とHarris/Galante porous stemの応用

著者: 村田忠雄 ,   佐藤優 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.1089 - P.1096

 抄録:比較的若年者の重度変股症に対する関節機能再建術には,評価の定まった手術法が見当らないのが現状である.最近我々は55歳以下の重度変股症に対して,bipolar型人工骨頭とHarris/Galante porous stemを組み合わせたcementless bipolar endoprosthesisを行っている.今回施行した20例22関節について,臨床的・X線的評価を行った.臨床的にはまだ短期間の成績であるが,日整会変股症判定基準で総合点,疼痛,可動性,歩行能力,日常動作のいずれにおいても良好な術後結果が得られている.X線的には,臼蓋例でouter headの上方移動を認めたものが22.7%,内方移動は9.1%であった.移動の要因として臼蓋の関節症変化,臼reamingによる臼内側骨質の薄さが考えられた.大腿骨側ではH/G porous stemの強い固定力に関連を有すると思われるstress shielding現象が認められた.stem沈下は2関節にみられたが,その程度は2mmと僅少であった.

変形性股関節症に対するBipolar prosthesisの臨床応用

著者: 斉藤進 ,   黒木良克 ,   川内邦雄 ,   扇谷浩文 ,   近藤宰司 ,   広瀬勲 ,   小原周 ,   田代一郎 ,   草場敦 ,   伊東祐一

ページ範囲:P.1097 - P.1106

 抄録:1.Bipolar prosthesisを変形性股関節症に用い近隔成績を検討し,臨床応用の可能性をみた.
 2.Bateman型34例35関節,UHR型169例196関節のうち3年以上追跡可能であったBateman型24例24関節,UHR型48例49関節の成績判定を行った.
 3.日整会判定(平均点)ではBateman型では術前58.2点が術後3年で83.2点,UHR型では術前54.3点が術後3年で85.0点であった.項目別ではそれぞれの型で疼痛の改善が著しかった.ROMでは屈曲,伸展,外転,内旋の改善がみられた.
 4.Distal migrationはBateman型に3例,UHR型に5例,central migrationはBateman型に1例,UHR型に2例,looseningはBateman型に3例,UHR型に1例みられた.
 5.Bipolar prosthesisの変形性股関節症に対する適応は十分あり,セメントレスで用いる場合,とくに骨皮質が厚く,髄腔のやや狭い比較的若年者にはよい適応であると思われる.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

Charnley人工股関節手術手技上のpitfallsとその対策(前編)

著者: 寺山和雄 ,   前田敏明 ,   小林千益

ページ範囲:P.1107 - P.1117

はじめに
 Charnley人工股関節の手技は150のステップに分けられており,これらを忠実に守って手術を行えば,誰にでもデザイン通りの手術ができるようになっている.しかしこれらのステップを完全に習熟するまでには時間がかかるし,また症例によっても手技上の困難の度合が異なる.定型的手術手技はJ. Charnley:Low Friction Arthroplasty of the Hip(Springer,1979)を熟読して頂くこととし,今回は術中におちいり易いおとし穴(pitfalls)や困難症を挙げ,それらの解決法について述べる.

認定医講座

脊髄の画像診断

著者: 宮坂和男

ページ範囲:P.1119 - P.1130

I.検査法の概略と基本的所見
 CT:脊髄は,厚い骨構造に囲まれ,且つ,脊柱の周囲にはX線吸収値の極めて異なる組織が混在している.このような情況では,通過X線の線質が変化し(beam hardening現象),CT上,脊椎管内の吸収値(CT値=Hounsfield Unit:HU)は,変化し易く且つ低くなる傾向(undershooting)があり,CT値測定は絶対的なものではない.しかし,通常,水は0HU,空気は-1000HU,緻密骨は+1000HU前後である.脂肪は-100HU前後であり,急性期の出血は50HU以上となるが,100HUを越える事はない.又,椎体縁などから生ずる線状陰影streak artifactも,脊髄CTの障害となる.これは,データ取得密度(データ取得のピッチ幅)が細かく,断層厚が薄い方が軽減される1).断層厚が薄いと,partial volume effectが少なく,空間分解能も向上する.しかし,一方,断層厚が薄い場合,X線光子量が減少し,信号雑音比(S/N比)が増し,密度分解能は劣化する2).従って,X線光子量を増やすべく使用機種のなるべく良い条件で(スキャン時間を長く),且つ5mm以下の薄い断層厚での撮像が望まれる.

上肢の脱臼,骨折

著者: 平山隆三

ページ範囲:P.1131 - P.1137

 上肢の脱臼,骨折は日常,頻々遭遇する外傷であるが,新鮮時に正確な診断をし,適切な治療を行わないと,神経麻痺,変形治癒,偽関節形成,関節拘縮,阻血性拘縮などの機能障害の残存も決して少なくない.

整形外科を育てた人達 第63回

Arthur Steindler(1878-1959)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1138 - P.1141

 Arthur Steindlerは米国の整形外科の開拓者とは言い得ないが,整形外科の堅実な進歩を促した有能な人材であったと思う.米国は第一次世界大戦後各方面に進出して来たが,整形外科ではSteindlerが有力な指導者の一人であったと思われる.今日整形外科の大きな教科書を開けばSteindlerの名は数多く見出すことができる.その為か1954年に英国Royal College of Surgeonsの名誉会員となっている.

臨床経験

Reflex Sympathetic Dystrophy(RSD)の手指拘縮に対する1手術例

著者: 濱田雅之 ,   北野継弐 ,   荻野洋 ,   田上方子

ページ範囲:P.1143 - P.1147

 抄録:Reflex Sympathetic Dystrophy(RSD)の1症例を経験し,保存的治療に抵抗を示す手指の拘縮に対し手術的治療を施行し,良好な結果を得たので報告する.症例は28歳女性で,右手中指伸筋腱をMP関節部で損傷し,これを契機としてRSDを発症した.初診時,右上肢(特に右手指)に可動域制限を認めた.理学療法と交感神経ブロックにより,可動域は拡大したが,中・環・小指にMP関節の拘縮と屈筋腱の癒着によるDIP関節の自動屈曲の制限が残存した.これらに対し伸,屈筋腱剥難,MP関節背側関節包部分切除,掌側板,側副靱帯剥離を施行した.術直後より交感神経ブロックを集中的に施行し,術後12ヵ月の時点ではRSDの再発は認めず,可動域でも中・環・小指に改善を認めた.
 このように,RSDに対して,交感神経ブロックを併用することで,拘縮に対し手術的治療を行っても,再発を認めず拘縮の改善を得ることができた.

治癒したと思われる肝癌上腕骨転移の1例

著者: 林田賢治 ,   内田淳正 ,   青木康彰 ,   吉川秀樹 ,   加藤次男 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.1149 - P.1151

 抄録:肝癌の上腕骨転移で,骨転移巣があたかも治癒したと思われる例を経験したので報告する.症例は61歳の男性で,右上腕骨転移で原発性肝癌が発見された.経過中骨転移巣は非常に急激な骨破壊を上腕骨全体にきたし,その後旺盛な骨形成を起し,あたかも腫瘍が消失したかのX線像を示した.生検でも腫瘍細胞は検出できなかった.この症例の経時的レ線変化をもとに骨転移病巣で如何なる変化が生じたのかを考察し,あわせて転移性骨腫瘍の自然治癒の機序について考える.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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