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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科24巻1号

1989年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第62回日本整形外科学会を開催するにあたって

著者: 鳥山貞宜

ページ範囲:P.1 - P.2

1.会場
 会員数が13,000名を超え,学会参加者が4,000名以上になりますと,東京には仲々よい会場がありません.殊に春の学術集会は4月の中旬で,土,日のいずれかが入るとの条件がありますので,都内のホテルでは一寸無理です.
 最初は赤坂プリンスホテル周辺を予定しておりましたが,ふとしたことから千葉県の浦安にホテルが建築中であることを知り,1987年の9月に,安全帽をかぶって建築現場に入り,NKホールを中心として,東京ベイヒルトンインターナショナルと,第一ホテル東京ベイで学会を開くことに決めました.

論述

胸腰椎粉砕骨折における外傷性脊柱管狭窄CT像と神経障害との関係

著者: 橋本友幸 ,   金田清志 ,   鐙邦芳 ,   藤谷正紀

ページ範囲:P.3 - P.9

 抄録:急性の外傷性脊柱管狭窄と神経障害の関係を調べた研究は数少ない.著者らは胸腰椎粉砕骨折における脊柱管狭窄の程度と神経障害の関係を検討した.対象症例は,過去7年間に経験した受傷後2カ月以内の胸腰椎粉砕骨折112例(男79例,女33例)で,受傷時年齢は13歳から79歳(平均41.8歳)であった.術前の単純横断面CT像において,マイクロコンピューター運動のデジタイザーを使用して,脊柱管内における突出骨片占拠率を求めた.また,残余脊柱管形態や脊椎構成要素の破壊の有無も調べた.
 T11,12レベルでは35%以上,L1レベルでは45%以上,L2以下では55%以上の狭窄が神経障害発生の危険因子と考えられた.残余脊柱管形態では扁平化の強い三日月形あるいは馬蹄形が神経障害群に多くみられた.脊椎後方要素の破壊や下位腰椎でのlateral canal stenosisも神経障害発生に重要であった.

脊髄誘発電位を用いた頸部脊髄症の診断

著者: 四宮謙一 ,   古屋光太郎 ,   佐藤良治 ,   岡本明彦 ,   黒佐義郎 ,   渕岡道行 ,   佐藤浩一 ,   横山正昭 ,   小森博達

ページ範囲:P.11 - P.21

 抄録:脊髄誘発電位を用いることにより頸椎症性脊髄症の高位診断,病態診断がかなり正確に行えるようになってきた.対象症例は1982年から1986年までの115例で,頸部脊髄症98例,神経根症17例である.頸部脊髄症の内訳は,OPLL 27例,頸椎症71例(頸椎椎間板ヘルニアを含む)であった.下肢機能のモニターのためには,胸髄刺激により頸椎硬膜外腔から導出した伝導性脊髄誘発電位が用いられた.また上肢機能のモニターのためには正中神経刺激による分節性脊髄誘発電位が導出された.OPLLなどでは時として狭窄部位の途中で脊髄誘発電位の消失が認められることがある.このような場合にはさらに刺激電極をcisterna magnaに設置し,下行性伝導性脊髄誘発電位を記録し,脊髄障害の上限を診断した.これらの診断法を用いるようになって,多椎間障害,連続型OPLL例などにおいても責任病巣を的確に診断できるようになった.加うるに,術前の脊髄誘発電位から術後の予後をある程度診断できることが解った.

骨・軟部悪性腫瘍切除後の組織欠損部に対する有茎筋膜皮弁・筋皮弁による再建術の経験

著者: 土谷一晃 ,   茂手木三男 ,   飯野龍吉 ,   岡島行一 ,   丸山優 ,   亀田典章 ,   蛭田啓之

ページ範囲:P.22 - P.29

 抄録:骨・軟部悪性腫瘍の広汎切除後に生じた一次縫合不可能な組織欠損部に対し,有茎筋皮弁,筋膜皮弁を用いて再建した9症例の治療成績について検討した.症例のうちわけは,軟部肉腫5例,骨原発悪性腫瘍3例,転移性骨腫瘍1例で,発生部位は体幹6例,四肢3例であった.再建に用いた皮弁の大きさは5×10cm(medial arm flap)よりl5×28cm(腹直筋皮弁)で,手術時間は平均5.8時間であった.術後経過観察期間は平均16カ月であり,皮弁は全例生着し,患者の満足度も概ね良好であった.体幹の組織欠損例においては,術後の機能を考慮し利用可能な皮弁の中から最適な皮弁を選択し,さらに複数の皮弁を用いることにより充分な病巣切除も可能となった.四肢では,皮弁の大きさや到達範囲に限界があり適応とされる症例が限られ,本法を用いる場合,切除縁の縮小化の検討や新しい皮弁の開発等が今後の課題と考えられた.

シンポジウム 広範囲腱板断裂の再建

広範囲腱板断裂の再建—緒言

著者: 山本龍二

ページ範囲:P.30 - P.30

 腱板断裂は断裂の状態によって不全断裂と完全断裂とに大別され,前者はさらに滑液包側,腱内水平,関節包側に,後者は小,中等度(横,三角形,縦),広範囲に分類される.現在腱板断裂でとくに問題となっている点は,不全断裂の診断法と広範囲断裂の治療法である.後者についてはいろいろな手術が行われているが,その方法や成績などについての充分な検討がなされず,治療方法が未だ確立されていないのが現状である.
 昭和63年4月に京都で行われた第61回日本整形外科学会総会で広範囲腱板断裂の再建がシンポジウムにとりあげられ,4題の講演発表があった.

広範囲腱板断裂の再建—McLaughlin法を中心に

著者: 安達長夫 ,   天野幹三 ,   野田慎之

ページ範囲:P.31 - P.37

 抄録:広範囲腱板断裂に対するMcLaughlin法による修復術の治療成績を調査した.広範囲断裂の手術例は43例であるが,本法によって修復ができたものは31例であった.このうち,25例に平均6年の追跡調査が可能であった.その結果,20例(80%)が成績良好であったが,5例(20%)は成績不良であった.さらに,受傷後3カ月未満の手術例では広範囲断裂であっても手術手技を工夫することによって修復が可能であり,しかも成績も良好であった.しかし,受傷後の経過の長いものや腱板変性の強いものでは断裂端の引き出しが困難であり,たとえ修復できたとしても成績は不良のことが多く,本法の適応とはいえず,他の再建法で対処すべきである.以上まとめると,受傷後の急性症状が消褪し,腱板断裂による障害があればできるだけ早期に手術的治療を試みるべきであり,この際基本となる修復法はMcLaughlin法であるといえる.

腱板大断裂手術例の検討—僧帽筋移行術を中心に

著者: 三笠元彦

ページ範囲:P.38 - P.45

 抄録:著者は1977年以来,腱板大断裂を断裂の程度により3型にわけ,1型には腱前進法,2型には棘上筋前進法,3型には僧帽筋移行術を行っている.今回追跡調査できた症例は1型12例,2型13例,3型14例である.その結果は1型が優9例,良3例であり,2型は優6例,良5例,可1例,不可2例で,3型は優3例,良4例,可4例,不可3例であった.腱前進法と棘上筋前進法の成績は許容できた.
 腱前進法と棘上筋前進法で対処できないものに対して行っている,僧帽筋移行術の問題点は再断裂がみられることと,上腕二頭筋長頭腱がない時に,骨頭のdepressorとしての働きが弱いことである.再断裂については自動運動を術後6週以降に行うことと大結節部への縫着法にspike washerを使用することで,ある程度解決するものと思われる.また骨頭のdepressorとしての働きをたかめるためには,棘上筋腱の断端を僧帽筋の中央部に縫着することが有効であるように思われる.

広範囲腱板断裂のFascia Patchによる再建

著者: 田畑四郎

ページ範囲:P.47 - P.53

 抄録:広範囲断裂の修復は原則として断端筋腱を前進させて行われるが,この手技でも困難な場合の一方法としてpatch法が用いられる.今回手術を行った広範囲断裂39例のうちpatch法は他の方法との組合せを含めて18例に行った.内訳はpatch法単独7例,他の方法との組合せはpatch法とMcLaughlin法3例,patch法とDebeyre法5例,patch法と僧帽筋移行3例であった.J. O. A. Scoreで成績不満足例が7例(39%)を占めた.しかし成績不良例でも夜間痛や日常生活動作は術前に比較して改善していた.
 自家組織による腱板機能再建を意図した場合に,大腿広筋膜は単独またはaugmentative materialとして有用なものと考える.

人工腱板による広範囲腱板断裂の再建

著者: 尾崎二郎

ページ範囲:P.55 - P.63

 抄録:広範囲腱板断裂に対して,安定した手術成績が獲得できることを目的に,3mmの厚さのTeflon feltを人工腱板として用いる手術法を紹介した.本術式を行った陳旧性広範囲腱板断裂52症例・陳旧性大腱板断裂10症例を追跡調査(術後平均2年7カ月)し,広範囲断裂の94%,大断裂の100%に満足すべき結果を得た.本術式はただ単に腱板欠損部を人工腱板で補填するpatch法ではなく,Teflon feltを人工腱板として用いることにより,変性しmyostatic cotractureに陥った腱板断端をできるだけ引っ張り出し,欠損部を小さくし,無理なく球状の腱板を形成する腱板形成術である.しかし本術式は人工生体材料を使用している点でのhandicapは否定できないので,慎重な取り扱いが必要である.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

大腿骨頸部外側骨折に対する手術—エンダー法

著者: 町田拓也

ページ範囲:P.64 - P.75

はじめに
 転子部骨折と転子下骨折はともに大腿骨頸部外側骨折のなかに含められてはいるが,両者の間には少なからぬ相違がみられる1,4).したがって両者に対するエンダー法も,また,それぞれに相違がある1,4)(図1).しかし,エンダー釘打ち込みの手技そのものは基本的には変りがないので,ここでは転子部骨折に対するエンダー法について述べる.

手術手技 私のくふう

寛骨臼球状骨切り術

著者: 長鶴義隆

ページ範囲:P.77 - P.83

 抄録:関節発育終了以降にみられる高度の臼蓋形成不全,亜脱臼に起因する前,初期股関節症では,荷重部の著しい狭小化と急峻化という臼蓋側の形態異常を再建して骨頭の良好な求心性の確保を図らなければ,病期は速やかに進展することはよく知られている.
 病期の進展防止あるいは解剖学的治癒をも期待して,われわれはPauwelsの生力学的解析の研究に基づき骨頭の求心性を確実に容易に改善しうる寛骨白球状骨切り術(spherical acetabular osteotomy)を採用してその成果を挙げており,さらに10歳代前半の成長期の症例に手術を余儀なくされる場合には,われわれの工夫した球状三重骨切り術〔spherical triple osteotomy,Tönnis変法(仮称)〕も含めて,本術式の適応および手術術式を紹介する.

整形外科を育てた人達 第67回

Lorenz Böhler(1885-1973)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.84 - P.87

 Lorenz BöhlerはWienのUnfall Krankenhausの院長を38年間の長い間勤めていたが,彼の著書を通じて骨折患者を如何に早期に社会復帰せしめるかに努力したのでこの病院の見学者も多く,病院の所在地Weber GasseもWienでは知らぬ人もないと伝えられていた.このBöhlerの伝記を紹介したいと思う.

認定医講座

関節軟骨の生理学,生化学

著者: 安井夏生

ページ範囲:P.89 - P.96

はじめに
 関節軟骨は弾力性と圧縮性に富む結合組織で,滑膜関節において骨の表面をおおい関節の滑動性をよくし,またshock absorberの役目を果たしている.関節軟骨は軟骨細胞とそれを取り囲む細胞間マトリックスから成るが,組織内に血管や神経を持たない.他の組織に比較すると細胞密度はきわめて低く,成人関節軟骨の場合1mm3中に存在する細胞数はわずか3×104個である.これは肝臓や腎臓の十分の一以下にあたる.細胞と細胞の間を埋める軟骨マトリックスはきわめて含水性に富み,その組成の約70%が水分である.水や低分子物質はマトリックス内を自由に通過すると考えられており,軟骨細胞は関節液よりのdiffusionにより栄養を受けるとされる.血管をもたない関節軟骨の組織内酸素分圧は低く,細胞は主として嫌気的解糖によりエネルギー産生を行なう.関節軟骨は重力がかかるとちょうどスポンジのように水をはじきだし厚さを減ずるが,重力が除かれると再び水を吸って速やかに元の形を取り戻す.関節軟骨の厚さは部位により異なり0.8-6.0mm程度であるが,最大荷重時には元の約30%にまで厚さの減少を起こしうることが知られている.適当な荷重と関節運動は関節軟骨の細胞外液交換を促進し,その栄養を保つのに役立っている.関節が長期間固定されたり,軟骨が変性してマトリックスの含水性や弾力性が低下したりすると当然軟骨細胞の栄養は悪くなる.

肘と手のスポーツ障害

著者: 伊藤恵康

ページ範囲:P.97 - P.104

 スポーツ障害とは,繰り返されるストレスによる骨・関節・軟部組織の損傷を言うが,一般的にはスポーツによる急性外傷をも含めている.ここでは,スポーツに特に関係深い障害・外傷を述べる.

臨床経験

頸椎前方固定術が隣接椎間板に与える悪影響—頸髄症をきたした4症例

著者: 福井康之 ,   里見和彦 ,   若野紘一 ,   大熊哲夫 ,   平林洌

ページ範囲:P.105 - P.110

 抄録:我々は頸椎前方固定術後に隣接椎間板に障害をきたし,頸髄症の発症,又は増悪をみた4例を経験したので,その発生原因等につき検討した.
 症例は頸部椎間板ヘルニア2例,頸部脊椎症兼脊柱管狭窄症2例で,初回手術時の固定椎間はC2-5間1例,C4-6間1例,C5-7間2例であった.あらたに障害をきたした隣接椎間は固定の上位椎間,下位椎間共に2例ずつであった.固定隣接椎間の初回手術後の経時的な可動域の変化を測定したところ,C4-6固定ではC6/7間の,C5-7固定ではC4/5間の,C2-5固定ではC5/6,6/7間の可動域が経時的に大きくなっており,この代償性の可動域の増大が,同椎間の新たな病因発生の一因と考えられた.

進行性骨化性筋炎の1例—進行経過とADLを中心に

著者: 千田益生 ,   江口寿栄夫 ,   宗友和生 ,   藤原英一 ,   山脇康正 ,   平田常雄

ページ範囲:P.111 - P.115

 抄録:長期間経過を観察している進行性骨化性筋炎の1例を,進行経過と日常生活動作(ADL)を中心に報告する.患者は女性で,6歳時背部腫瘤にて初発した.薬物療法は効果なく,骨化,可動域制限とも進行した.特に16歳から22歳にかけて増悪が著しかった.ADLにおいては,肩,肘の可動域制限が出現して約1年の間に,ほぼ自立していたものが全介助となった.29歳の現在,手指,足趾等の遠位関節を除いて強直もしくはそれに近く,石化人と称される状態であるが,改良型電動車椅子や自助具で生きがいのある生活を送るよう努力している.

紹介

ホスピスと整形外科

著者: 吉岡秀夫 ,   天野祐一 ,   辰巳一郎 ,   柏木哲夫 ,   山本一成 ,   斉藤淳子 ,   恒藤曉 ,   仲正宏

ページ範囲:P.116 - P.121

 抄録:当院では1984年4月より23床のホスピス病棟が開かれ,1987年4月までの3年間に453名の入院患者があり,死亡者教は350名で,悪性腫瘍が全体の97.8%を占めていた.疼痛とADL障害のため整形外科にて手術を行ったものは4名であり,すべて大腿骨頸部であり,ほぼ満足すべき結果が得られたが,末期患者の手術はすべてpalliative careの一環としてとらえるべきもので,その適応は生命予後も含めて総合的に判断されるべきものである.また末期患者が最後まで高いQuality of lifeを保つためにはリハビリテーションも重要である.ホスピス患者23名にリハビリテーションを行ったが,ほとんど患者において,不快な症状の改善,ADL上の向上がみられ,そのうち7名はADL上自立して退院となった.今後日本においても終末期医療が広がって行くと予想されるが,整形外科医もホスピスチームに参加して,末期患者のQuality of lifeの向上を図っていく必要がある.

追悼

野崎寛三名誉教授

ページ範囲:P.122 - P.122

御略歴
明治40年9月4日 東京にて生まれる
大正14年3月 神奈川県立横須賀中学校卒業

故野崎寛三先生の追悼文

著者: 三浦幸雄

ページ範囲:P.123 - P.123

 高層ビルの林立する西新宿の街にも枯葉が舞い深み行く秋に一段と哀愁を感じさせるこの日,東京医科大学名誉教授,野崎寛三先生の告別式をとり行うに当り,私共門下生一同謹んで先生のご霊前にお別れの言葉を捧げます.
 本年4月,先生が八十歳を迎えられた傘寿のお祝いと,ご結婚五十年の金婚祝に当るということで教室の開講四十周年記念会と合せて祝賀会を開催しお祝を申し上げたばかりであります.この時は,先生は大変お元気で,祝賀会でのご満悦のお顔がまだ瞼の中に残影として残って居ります.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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