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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科24巻2号

1989年02月発行

雑誌目次

視座

手作業と上肢の絞扼神経障害

著者: 佐藤勤也

ページ範囲:P.127 - P.127

 日常の診療で遭遇することの多い上肢の絞扼神経障害の誘因として,不慣れな手仕事や手の過度使用が漠然と言われているが,その詳細については意外に知られていない.例えば手根管症候群の局所的成因の一つとして,動作や肢位の変化すなわち不慣れな手指や手関節を動かす作業の反復が関与しているとされているが,その機序については手関節部背屈による内圧の上昇や屈筋腱の運動が正中神経障害に関係ありとするものと,手関節部掌屈時の屈筋腱の運動が神経の圧迫を起こすとするものがあり,一定していない.通常の手根管症候群は中年の婦人で手を多く使ったり,不慣れな手仕事をする人に多いとされているが,具体的に仕事の内容や職種と本症との関係を検討した報告は本邦では見当たらないようである.欧米でも職業と本症とは関係があるとするもの(Masear:1986,Armstrong:1983,Canon:1979)と,全く無関係であるとしているもの(Hadler:1987,1985,1984,Phalem:1972)とがあり,未だ統一された見解はないようである.

論述

先天股脱の治療開始時期とペルテス様変化

著者: 岩崎勝郎

ページ範囲:P.128 - P.133

 抄録:先天股脱の治療開始時期とペルテス様変化との関連を調べ,先天股脱の治療をその開始時期という観点から考察した.
 対象症例をギプス固定群(395股),外来Riemenbugel(RB)群(275股)および入院RB群(50股)に分け,ペルテス様変化の頻度や程度は,治療法やその開始時期によってどう異なるかを調べた.

転移性骨腫瘍による長管骨病的骨折に対するEnder法について

著者: 徳橋泰明 ,   中辻清員 ,   川野壽 ,   大幸俊三 ,   鳥山貞宜

ページ範囲:P.135 - P.143

 抄録:転移性骨腫瘍による長管骨病的骨折ならびに病的骨折予防に対するpalliativeな手術法としてEnder法がある.今回,Ender法を施行した長管骨病的骨折20名,22肢(大腿骨19肢,上腕骨3肢)について手技ならびに成績について検討した.病巣掻爬に加えてのキュンチャー+セメント固定などのradicalな方法,Ender法以外のpalliativeな方法に比べて手術侵襲は少なく,除痛率も他の方法と遜色なかった.しかし,荷重歩行可能率は18.2%と他の方法よりも低かった.ピン挿入部の疼痛,ピンのdistalおよびproximal migrationなどの合併症も手技上の工夫により減少できた.手術適応については予想される予後が6カ月以内としてきたが,あらたに判定基準を考案し10点満点中5点以下を本法の適応とした.以上の結果より,Ender法は手術時期,手術適応を選べば患者の自然経過を短縮しない手術法として整形外科におけるターミナルケアーの有用な一つになりうると考えられる.

慢性関節リウマチにおける手のムチランス変形について

著者: 佐浦隆一 ,   松原司 ,   井口哲弘 ,   川井和夫 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.145 - P.152

 抄録:いわゆる手のムチランス変形を生じた慢性関節リウマチのX線像並びに血液学的検査値を経時的に調べ,初発関節,関節別罹患頻度,ムチランス変形出現前後での血液学的検査値の変化等を検討した.X線上,母指IP関節に初発するものが多く,関節別罹患頻度は,母指IP関節次いでPIP,MP関節の順であった.更に,ムチランス変形の関節破壊には,これまでいわれてきたpencil in cap変形以外の骨吸収形態も認められ,pencil in cap型の他に我々は,次に示す分類を試みた.即ち,指節骨遠位端,近位端共に切断された様に吸収される断節型,脱臼した関節の骨接合面が吸収され不安定性を呈する脱臼型,側方が主に吸収される側方吸収型の4型に分類した.その結果,罹患関節により骨吸収形態に差が見られた.また,ムチランス変形出現前後で,赤沈値は有意な上昇を示し,CRP値も半数において上昇していた.以上より,ムチランス変形発症には炎症の進展と関節運動による物理的ストレスが関与していると思われた.

頸部砂時計腫の臨床的検討

著者: 平松健一 ,   渡部恒夫 ,   後藤澄雄 ,   斉藤康文 ,   丹野隆明 ,   中村哲雄 ,   小林彰

ページ範囲:P.153 - P.160

 抄録:当科において手術治療を施行した頸部砂時計腫17例について術後経過を調査し,神経症状の変化,神経切離後の脱落症状,頸椎彎曲形態の変化,再発などについて検討した.術後神経症状は悪性髄膜腫の1例と,再発,再手術施行した1例に悪化を認めたが,他の例では,良好な経過を示した.切離神経根症状は術直後よりあるものは残存する傾向にあった.頸椎の彎曲形態では,前術合併手術例において変化が目立った.既に再発により再手術を施行したものが2例あり,その他に今回8例について施行したMRIにより再発が判明したものが2例あった.これらの結果を踏まえ術式選択を検討する目的で腫瘍の進展度をCTおよび血管造影について調べた.その結果,椎間孔外へ進展している腫瘍の中,横突起の先端を越えて前方へ進展しているもの,下位椎の横突孔を越えて下方へ進展しているものは後方からの侵襲では完全摘出は困難と考えられた.

腰椎椎間関節造影からみた脊椎分離症

著者: 細川昌俊 ,   加藤哲也 ,   横井秋夫 ,   斉藤正史 ,   橋本健史

ページ範囲:P.161 - P.171

 抄録:脊椎分離は椎間関節造影で椎間関節間にいろいろな交通がみられるが,交通路を直接観察した報告はない.われわれは,脊椎分離症11例21関節に造影を行い38関節の造影像を得,そのうち2例に手術を行って交通路を観察した.その結果,斜位型の脊椎分離は分離部の上下端はそれぞれ上下の椎間関節内にあり,上下の椎間関節に造影剤が交通するのは当然であり,さらに,kissing spineなどにより棘間靱帯が消失している症例では黄色靱帯後面に沿って,左右の椎間関節にも交通がみられた.斜位型でも分離部が軟骨や一部骨組織などで連結している症例や,関節包に強い癒着がある症例,および,水平型や異型脊椎分離では,椎間関節間の交通はおこらないと思われる.脊椎分離を周囲との交通からみると,I型(非交通型),II型(分離部侵入型),III型(同側上下交通型),IV型(対側上下交通型),V型(左右交通型),VI型(上下左右交通型)の6型に分類され,III型が最も多い.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

寛骨臼回転骨切り術

著者: 田川宏

ページ範囲:P.173 - P.181

はじめに
 股関節形成不全や亜脱臼に伴う変形性股関節症に対する手術的治療法には多くの手術術式があるが,股関節形態を再形成して生体力学的にも安定した股関節にしようとする手術の一つが寛骨臼回転骨切り術Rotational acetabular osteotomy(RAO)である.本法の特徴としては本来の関節軟骨をつけたまま寛骨臼を回転移動すること,関節包をつけたままの移動であること,十分な骨頭被覆ができること,骨頭位の内方化ができること,骨盤腔の形に変化を与えないこと,などが挙げられる.ただ術式がやや複雑であり,十分に習熟して確実な手術を行わなければ,よい成績は得られない.

整形外科を育てた人達 第68回

Dominique-Jean Larrey(1766-1842)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.182 - P.185

 Larreyはフランスンの勇将Napoleon Bonapart(1766-1842)と共に欧州のみならずエジプトの各地の戦闘に参加し負傷兵の救護に努力した医師である.今日の災害外科の先達である.

認定医講座

軟部腫瘍

著者: 網野勝久

ページ範囲:P.187 - P.194

 軟部腫瘍は,四肢,躯幹,頭頸部および後腹膜,腸間膜,縦郭,眼窩などにおいて骨格以外の軟部支柱組織に発生した非上皮性腫瘍である.これらは脂肪,筋肉,線維,滑膜,血管などの中胚葉組織由来のものが大部分を占めるが,例外として末楕神経,交感神経などの外胚葉組織由来のものも含まれる.軟部腫瘍はその組織学的形態や生物学的性状から良性と悪性に分類される.また腫瘍状を呈する真正腫瘍以外の反応性病変,過誤腫性病変も腫瘍様病変として一緒に扱われる.

下肢のスポーツ障害

著者: 萬納寺毅智

ページ範囲:P.195 - P.202

はじめに
 下肢のスポーツ外傷と障害は多岐に亘り,とても限られた紙面で語りつくせるものではない.そこで,当科における外来と入院の傾向を述べ,頻度の多いもの,またはスポーツ特有のものを中心に記してゆきたい.
 なかでも,スポーツ選手に多発し最も重篤なのは膝前十字靱帯(以下ACL)損傷といえ,その診断と治療については専門的ケアが必要である.

臨床経験

指環絞扼症の3例

著者: 林光俊 ,   石井良章 ,   小田由雅 ,   能見義夫 ,   河路渡

ページ範囲:P.203 - P.208

 抄録:指環が皮下に埋没するまでに放置された例は稀で,本邦では2例の報告をみるにすぎない.我々は同様の3症例を治療する機会を得たので報告する.
症例は全例女性であり,いずれも自覚症状が存在しながらも指環が皮下に埋没するまで放置していた.全例手術的に指環を除去して創を閉鎖した.

手掌部に発生し手背部まで達したMassive Lipomaの1例

著者: 田村壽將 ,   吉田浩之 ,   山下達嘉 ,   斎藤公彦 ,   菊池進一 ,   星野孝

ページ範囲:P.209 - P.212

 抄録:Lipomaは日常診療上よくみかける良性の軟部腫瘍であるが,手に発生した巨大脂肪腫の報告は少ない.最近我々はその1例を経験したので,その臨床経過並びに手術所見,術後経過について述べるとともに,文献的考察を行ったので報告した.
 症例は72歳男で約20年間の罹病期間を有し手術を行い,手掌部から手背に拡がって存在した巨大脂肪腫を一塊として切除した.その大きさは8.5×6.5×2.5cmで重量は70gであった.これは文献報告中最大級の大きさであった.

高度の老人性円背を伴う非外傷性胸骨骨折の1例

著者: 大西純二 ,   浜田茂幸

ページ範囲:P.213 - P.216

 抄録:胸骨骨折は,ほとんどが外傷性のもので,非外傷性のものは極めて稀であり,文献的報告は少ない.今回我々は,特発性血小板減少性紫斑病で入院し,ステロイド剤の投与治療中に,非外傷性の胸骨骨折をおこした症例を経験した.この骨折は,高度の老人性円背に基づく介達外力によりひきおこされたと考えられる.すなわち,老人性円背が高度になると,胸郭の変形をひきおこし,肋骨を介する介達外力が胸骨にかかり,胸骨の前方凸の突出,angulationをひきおこし,ひいては,骨折の原因になるものと思われた.またこの患者はステロイド剤投与前より,慈恵大式分類でIII度と高度の骨粗鬆症を合併しており,さらにステロイド剤投与による骨粗鬆症とあいまって骨脆弱性をひきおこし,胸骨骨折の発症に関与していることが推察された.

硬膜内へ脱出した腰椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 斉藤正史 ,   細川昌俊 ,   加藤哲也 ,   横井秋夫 ,   塩田匡宣 ,   木原正義

ページ範囲:P.217 - P.220

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアが硬膜内へ脱出する例は稀で術前診断も困難である.今回椎間板造影により術前診断を行い得た1例を経験したので報告する.症例は61歳,男性で主訴は腰痛,左大腿部痛,ゴルフのラウンド中に腰痛をきたし,その後悪化したため来院した.来院時腰痛のため起立不能でPSR;右正常,左減弱,ASR;両側消失,Leségue;両側70度(+)で下肢に知覚障害なく筋力も正常であった.脊髄造影所見はL2/3間で一部騎跨状像を呈する完全ブロック像を示した.造影後馬尾神経の麻痺症状を起こした.巨大正中ヘルニア,脊髄腫瘍を疑い鑑別のため椎間板造影を行い,椎間板の後方脱出像と脊髄造影像が得られたため硬膜内へ脱出したL2/3椎間板ヘルニアと診断し手術を行った.椎弓切除を行い硬膜を切開すると脱出した椎間板が確認でき,硬膜と強く癒着していたため硬膜とともに摘出した.術後約2年後の現在,右足底部にしびれを残すが日常生活に支障はない.

大腿骨頸部外側骨折に対するEnder pinの使用経験

著者: 児玉隆夫 ,   小林祥悟 ,   村山信行 ,   吉田篤 ,   堀内貞 ,   和田信裕

ページ範囲:P.221 - P.226

 抄録:Ender法は手術侵襲が少なく,早期荷重が可能であることなどにより高齢者の大腿骨頸部外側骨折には優れた治療法とされている.しかし術後の膝の痛みや内反変形などの合併症に悩まされることも少なくない.今回我々は昭和53年9月から61年9月までの8年間に当院でEnder法を行った67肢のうち56肢に予後調査を行った.その結果,91%の症例に満足すべき成績が得られたが,術後のX線上内反変形,pinの逸脱,骨頭穿孔,大腿骨顆上骨折などが認められたものに予後不良の症例が多くみられた(P<0.10).これら術後のX線上異常のあった症例についてその原因を追求したところ手術手技の及ぼす影響が大きいという結果が得られ,対策としての手術上の注意点を述べた.

軽症型骨形成不全症の小児に発生した大腿骨頸部骨折の治療経験

著者: 薩摩真一 ,   福原啓文 ,   木村浩

ページ範囲:P.227 - P.230

 抄録:軽症型骨形成不全症の小児に発生した大腿骨頸部骨折の治療経験を報告する.症例は11歳1ヵ月男児で,片足跳びをしていて受傷した.入院時X線写真にて右大腿骨頸部骨折を認め,さらに,易骨折性,青色強膜,関節の異常弛緩性により骨形成不全症と診断した.小児の大腿骨頸部骨折については確定された治療法はなく,しかも,骨頭壊死,骨端線早期閉鎖,内反股,偽関節などといった合併症を呈しやすい事,さらに骨形成不全症による長管骨骨幹部骨折の報告は多いが,大腿骨頸部骨折は非常に稀であるため,治療法の選択に迷ったが,鋼線牽引による保存的療法で良好な骨癒合を得,軽度の内反股は有するものの疼痛,可動域制限などは認めなかった.ただし骨折に伴う骨頭壊死,骨端線早期閉鎖に対しては今後とも注意する必要があると考えている.

両膝関節内に左右対称性に遊離体を認めた1例

著者: 真野道規 ,   軽部冨美夫 ,   田中俊也

ページ範囲:P.231 - P.234

 抄録:両膝関節内に左右対称性に遊離体を認めた1例を報告した.
 症例は両膝関節痛を主訴とする40歳の男性である.15歳の時,左膝のlocking症状があったが,以後支障なく放置していた.初診時単純X線にて,両膝の前方中央部に円盤状の骨化像がほぼ左右対称性に認められた.関節造影で関節内のものであることを確認したのち摘出術を施行した.病理組織所見では,硝子軟骨層および骨組織層が認められ,変性,線維化,壊死の像を呈していた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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