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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科25巻10号

1990年10月発行

雑誌目次

視座

温古知新

著者: 圓尾宗司

ページ範囲:P.1125 - P.1125

 去る4月,日整会総会のあと,上海での中国整形外科学会に招待され,上海から紹興を訪問する機会を得た.紹興市は上海から200km南にあり,兵庫医大のある西宮市とは,灘の生一本,紹興酒という酒造の街の関係で結ばれた姉妹都市である.この関係で,以前に当地の整形外科留学生を1年間私達の教室でお世話をしたのが縁で,今回の訪問となった.
 紹興酒の産地の小さな街だろうといった程度の知識で訪れた紹興市は,古い歴史の街であった.ここは春秋時代(B. C. 400年頃)の越の国であり,書道家の王義之ゆかりの蘭亭や,魯迅の生誕地として知られている.上海の郊外にある古都蘇州も同じ春秋時代の呉の国であり,「呉越同舟」はこの両国の関係をいう.紹興市の南方には「会稽の恥」で知られる会稽山があり,ここの越王像の下に「臥薪嘗胆」の故事が書かれている.呉に敗れた越王は,楊貴妃より美人といわれる西施を呉王にささげ,この間,薪に臥し,胆を嘗めて報復の機をうかがったということである.いずれにしても,これらの故事のルーツを現地で知ることが出来,大変興味深かった.

論述

幼小児膝円板状半月に対する関節鏡視下手術

著者: 大越康充 ,   安田和則

ページ範囲:P.1126 - P.1133

 抄録:幼小児膝円板状半月に対する関節鏡視下手術について,筆者らの術式を紹介し,独自の幼小児用評価基準による短期成績を報告する.
 症例は12例15膝,年齢は4~11歳(平均6.9歳),経過観察期間は6~34ヵ月(平均15.5ヵ月)である.関節鏡,手術器具は,通常,成人に使用されているものを使用した.手術においては最初に円板状半月のできるだけ前方をメス等で切離することが重要で,そこから後方へpiece by piece切除を進める.また3例3膝に術後再鏡視を行った.内側円板状半月2膝と4歳児の外側円板状半月1膝を除く11例12膝で鏡視下のみに手術を終了した.術後は全例で2週間以内に正常のADLが可能となった.術前のscoreは平均4.1点(2~6点)であったが,術後は全例で10点満点であった.幼小児膝円板状半月に対する鏡視下手術はきわめて有用な手段である.しかし狭い関節腔内の操作で,軟骨を損傷しないためには,習熟した技術を要する.

先天性内反足における足根骨の骨核出現時期

著者: 宮城登 ,   門司順一 ,   飯坂英雄 ,   安田和則 ,   大関覚 ,   木村敏信 ,   金田清志

ページ範囲:P.1135 - P.1140

 抄録:先天性内反足における距骨の異常については以前より多くの報告があるが,距骨以外の足根骨の異常についての報告は少ない.生後3ヵ月以内に初診し,3年以上にわたって経過を観察し得た先天性内反足の保存的治療例42例,52足を対象として,患側および健側の足根骨の骨核出現時期を男女別に比較検討した.さらに,個々の症例における足根骨の骨核が出現する順序についても調査した.先天性内反足における足根骨の骨核出現時期は,男子の舟状骨と第3楔状骨において健側に比べて有意に遅延しており,他の足根骨においても健側に比べて遅延する傾向がみられた.また,足根骨の骨核が出現する順序が正常と異なっていたものは,健側を含めた42例,84足中6足であった.本研究により,先天性内反足では,距骨のみならず他の足根骨にも内軟骨性骨化の異常が存在する可能性が示唆された.

膝内障に対するMRIの有用性に対する検討

著者: 小原昇 ,   山内一功 ,   大山直樹 ,   倉秀治 ,   鴇田文男 ,   佐々木鉄人

ページ範囲:P.1141 - P.1147

 抄録:膝内障症例における術前検査としてのMRIの有用性を検討した.対象症例は44膝である.確定診断は,関節鏡または関節切開により行った.その内訳は,後十字靱帯不全8膝,前十字靱帯不全21膝,内化則半月板損傷16膝,外側半月板損傷13膝であった。MRIの使用機種は,Signa magnetic resonance scanner(1.5 Tesla)を用い,T1強調,T2およびプロトン強調像にて診断した.その結果,後十字靱帯,前十字靱帯,内側半月板,外側半月板損傷の診断率は各々100%,100%,89%,93%となり,術前検査としてMRIは非常に有用な方法と考えられた.前十字靱帯損傷を検索する場合,T1強調矢状面およびプロトン,T2強調冠状面を合わせ判読することにより診断率は向上した.半月板損傷を検索する際,false positiveを示した例は,半月板後節,特に脛骨面に及ぶ部分断裂と判読した例が多かった.またfalse negativeを示した例は外側半月板後節の縦断裂を膝窩筋腱裂孔と診断したものであり,同部位の診断には注意を要すると思われた.

肘関節内側側副靱帯再建について―至適固定部位の検討

著者: 笹重善朗 ,   越智光夫 ,   村上恒二 ,   生田義和

ページ範囲:P.1149 - P.1156

 抄録:屍体肘を用い,内側側副靱帯のanterior oblique liigamentおよびPosterior oblique ligamentの距離の変動を測定するとともに,上腕骨内上顆,尺骨内側に設定点をとり,2点間の距離を測定し靱帯再建における至適固定部位について検討した.結果は,以下の通りである.
 1)anterior obiique ligamentは前縁では最大伸展位から屈曲60°までは屈曲角度が増加するに従って伸長し,60°を過ぎると減少し,後縁では屈曲角度の増加とともに伸長する傾向がみられ,異なったcomponentsの集合とみなすことができる.

MRIによる膝関節部骨壊死症の検討

著者: 清水耕 ,   勝呂徹 ,   土屋明弘 ,   守屋秀繁 ,   西川悟 ,   有水昇

ページ範囲:P.1157 - P.1166

 抄録:50例の大腿骨頭壊死患者に対しMRIを施行し,膝関節部に骨壊死を認めた33例と,膝関節にのみ骨壊死の存在した5例,計38例,70関節の膝関節部骨壊死症につき検討を加えた.
 症例の平均年齢は41歳,男性7例,女性31例で,原因別にはステロイド性33例,アルコール性3例,特発性2例であった.大部分はステロイド性骨壊死であったが,その臨床症状,好発部位,大腿骨頭壊死の合併等の点で,特発性の症例とは,大きく異なっていた.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

人工関節置換術

著者: 高倉義典

ページ範囲:P.1167 - P.1175

 疼痛および変形の激しい末期の足関節症や関節リウマチに対して,関節固定術が好んで行われてきた.しかし,近年の高齢化時代を迎えて,多発性関節症が増加しつつあるとき,固定術後に起こる日常生活動作の制限,近接関節への影響を考慮すると,足関節においても,人工関節置換術がその適応となり,関節固定に先行して行われる治療法の1つであると考えられる.

整形外科を育てた人達 第86回

Patrik Haglund(1870-1937)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1176 - P.1178

 Scandinavia諸国の整形外科医たちが,1930年にActa Orthopaedica Scandinavicaを発行し,今日まで続き,しかも好評であることは,読者の皆様も良く御存じのことであろうが,この出版に努力したのはPatrik Haglundである.その伝記に興味を感じて資料を集めたので,これを紹介することにしたい.

臨床経験

長腓骨筋腱皮下断裂の1例

著者: 菅野伸彦 ,   松井稔 ,   津田隆之 ,   中嶋洋 ,   西塔進

ページ範囲:P.1179 - P.1182

 抄録:われわれは,現在までに国外のみで11例しか報告のない稀な長腓骨筋腱皮下断裂の1例を経験した.症例は22歳の男性で,机を持ち上げて踏ん張った際に筋が高度に収縮し,スナップ音とともに左下腿外側に疼痛,腫脹が出現した.臨床所見では,腓骨筋腱部の疼痛,腫脹,圧痛,陥凹を認め,腓骨筋腱鞘造影で長腓骨筋腱陰影の断裂とゆるみを認めた.手術所見では,長腓骨筋腱は足関節外果より近位10cmの腱実質部で完全断裂していた.
 腱断端を新鮮化後端端縫合し,6週間のギプス固定を行い,良好な結果が得られた.

多発性骨嚢腫の1例

著者: 馬庭壯吉 ,   朱尚孝 ,   高田晃平 ,   廣谷速人

ページ範囲:P.1183 - P.1187

 抄録:単発性骨嚢腫は発生頻度の高い疾患であるが,多発性骨嚢腫は稀であり,その報告はきわめて少ない.今回,われわれは,本症の1例を経験したので報告した.
 本症例は,29歳,女性で,上腕骨近位骨幹端部,有頭骨,有鉤骨および中足骨頭の4カ所に骨嚢腫を認めた.骨皮質が菲薄化し,病的骨折を起こす可能性の高かった上腕骨と有頭骨に対して掻爬・骨移植を行い,有鉤骨と中足骨に対しては,穿刺後ステロイド剤注入を行った.術後3年5カ月の現在,再発はなく,経過は良好である.

大腿骨転子部骨折骨接合術術後に骨頭下骨折を合併した2例

著者: 百武康介 ,   五反田博 ,   今里博司 ,   西岡英次 ,   井上博

ページ範囲:P.1189 - P.1193

 抄録:我々は大腿骨転子部骨折骨接合術後に,同側の骨頭下骨折を合併した2症例を経験した.症例1は,77歳の女性で,DHS施行後3週目より部分荷重開始し,術後6週目には軽度の骨吸収を認めたが,一本杖歩行にて退院した.ところが,術後11週目,骨頭下骨折を認めた.症例2は,86歳の女性で,Ender釘による内固定施行後3週目より部分荷重を開始し,完全な骨癒合を得たが,術後4年8ヵ月に骨頭下骨折を認めた,症例1は,lag screwの先端に骨吸収が発生しており,中枢骨片の骨皮質の部分に金属が接した時,これが梃子となって骨の脆弱部,すなわち骨頭下部分より骨折が起こっていた.また,症例2は骨梁が粗となった部位への不適当なEnder釘の挿入により,その先端に機械的刺激が集中して,骨頭下骨折が起こったものと考えられた.これらの骨折は,免荷歩行の指導や,骨癒合の完了した時点での抜釘により予防し得たものと思われた.

転移性脊椎腫瘍の治療成績とその外科的治療の適応

著者: 川上守 ,   玉置哲也 ,   浜崎広洋 ,   寺尾覧秀 ,   岩橋俊幸 ,   林信宏 ,   桜井啓一

ページ範囲:P.1195 - P.1200

 抄録:昭和61年8月以降の転移性脊椎腫瘍41例(保存療法27例,手術療法14例)の治療成績を,疼痛,神経症状,ADLについて検討した.保存療法例では,疼痛の改善が19例に認められたが,神経症状,ADLの改善はほとんど得られなかった.手術例(椎弓切除術のみ1例,instrumentation併用13例)は,術後1ヵ月では確実な除痛と神経症状,ADLの改善が得られていた.術後3ヵ月以内に実質臓器への転移が術前認められていた症例など,4例が死亡していた.術後3ヵ月目では脊椎以外の他の部位の疼痛が3例に出現し,また,椎弓切除術のみの1例とinstrumentation併用の3例に局所の疼痛が再燃し,神経症状の再発もみられたが,うち2例に追加手術を行い症状の寛解を得た.術後3ヵ月目では,術後1ヵ月のADLを10例中6例は維持可能であった.手術成績を長期間良好なものとするためには,集学的治療と手術適応を厳格にすることが必要であると考えられた.

後方へ転位した距骨滑車後内側部骨折の1例

著者: 丸井隆 ,   井口哲弘 ,   西山茂敏 ,   野田光昭 ,   小林勝 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.1201 - P.1204

 抄録:症例は40歳の男性で,自動車を運転中前方より来た車と正面衝突し受傷した.右足関節内側には皮下出血と腫脹および疼痛を認め,単純X線,断層撮影,CTスキャン等にて右距骨滑車後内側部の骨折と診断できた.骨片は後方へ転位しており,一部荷重面が含まれていたため,受傷後4日目に観血的骨接合術を施行した.術後約8ヵ月経過したが,現在のところ良好な結果を得ている.本例は,その骨折部位の類似性より,距骨の離断性骨軟骨炎と同様の機序により発生したものと思われた.また,分類上適当な範時に入るものはなく,Sneppenのtype A(compression fracture)とtype C(saggital shearing fracture)の中間に位置するものと考えている.このような,文献上稀な骨折の1例を報告した.

頭蓋骨早期癒合症を伴った多発性骨癒合症と思われる1例

著者: 二井英二 ,   横角健二 ,   原親弘

ページ範囲:P.1205 - P.1208

 抄録:多発性骨癒合症は,指骨,手根骨,中手骨,足根骨,肘関節等に骨癒合のみられる先天性奇形の総称である.今回我々は4歳,女児で,頭蓋骨早期癒合症の1つであるCrouzon病に,手根骨,足根骨の骨癒合がみられ,MP関節および肘関節に拘縮を伴った極めて稀な多発性骨癒合症と思われる症例を報告した.多発性骨癒合症は,その診断において,癒合骨の部位,および数などについての最低基準に関しての定説はなく,若干の混乱がみられている.更に,多発性骨癒合症の報告例中,本症例のように極めて稀に頭蓋骨早期癒合症を伴っているものがみられるが,これらが同一疾患の異なる表現型なのか,あるいは別個の疾患であるのかは現在のところ明らかにされていない.本症例の診断においては,これらを骨格疾患要素の1つの表現型と考えれば,多発性骨癒合症という名称が妥当であると思われた.

大腿骨頭に嚢腫様骨病変(geode)と骨壊死を生じた全身性エリテマトーデスの1例

著者: 森尾泰夫 ,   山本吉蔵 ,   豊島良太 ,   南崎剛 ,   上平用 ,   大月健二 ,   浪花紳悟

ページ範囲:P.1209 - P.1213

 抄録:全身性エリテマトーデス(SLE)患者で大腿骨頭壊死に嚢腫様骨病変を伴った症例を経験し,その病因に興味が持たれたので報告する.症例は,41歳,女性,25歳時SLE発症し,以後ステロイド剤(緩解期維持量パラメサゾン4mg/日)内服を16年間継続.1986年8月,右股関節痛にて受診し,ステロイド誘発性右大腿骨頭壊死と診断し人工骨頭置換術を行った.摘出骨頭は荷重部直下の骨壊死部に隣接して骨頭外側部骨軟骨移行部より骨頭内に炎症性肉芽組織よりなる嚢腫様骨病変(geode)を認めた.geodeの成因としては,SLEに由来するpannusが考えられた.SLEで大腿骨頭に骨透亮像をもたらす病態の1つとしてpannusによるgeodeも念頭に置く必要がある.

骨転移のある前立腺癌症例の検討

著者: 泉清治 ,   林泰夫 ,   上村光治 ,   外園不二夫 ,   小糸博文 ,   伊達徹 ,   田中宏明 ,   高木茂 ,   緒方博司 ,   田中耕治 ,   工藤惇三 ,   片岡康文

ページ範囲:P.1215 - P.1220

 抄録:前立腺癌の骨転移の診断がついてからの生存期間を中心に調査した.1984年から1988年までに当院を受診した未治療の前立腺癌患者数30例のうち,単純X線あるいは99mTc骨シンチグラフィーにて骨転移を確認された症例は14例であった.これらの初診時年齢は50歳から87歳,平均69歳,初発症状としては疼痛が多く,来院時症状(受診時主訴)は下肢の麻痺症状が多く,両者を通じ前立腺癌の局所症状としての尿症状は乏しかった.疼痛部位の単純X線上,明らかな異常を認めなくても,骨シンチではすべてに異常がみられた.治療法は,ホルモン療法を中心に一部除睾術,抗癌剤投与が併用された.初診後の生存期間は9ヵ月から5年9ヵ月で,平均3年5ヵ月以上生存しており,高齢発症者の生存期間は比較的若年者のそれより長い傾向にあった.

RAにおける胸腰椎部圧迫骨折に合併した神経麻痺の2例

著者: 橋本勇雄 ,   林正岳 ,   青山邦彦

ページ範囲:P.1221 - P.1224

 抄録:慢性関節リウマチ(以下RA)における脊椎病変の内で,特に頻度も高く臨床的に問題となるのは頸椎の変化であるが,胸椎,腰椎病変も少なくないと思われる.RA患者で,骨粗鬆症に伴う胸腰椎部圧迫骨折は,日常よく経験するが,その大部分は保存的に加療しうる.しかし,時として神経障害を合併した症例に遭遇するが,手術治療例の報告は少ない.
 今回我々は,強度の骨粗鬆症を伴い胸腰椎部圧迫骨折を来し,神経麻痺を呈した2例に対し椎弓切除術と固定術を施行し,良好な結果を得たので報告する.

器械

Ace semi-invasive type bone growth stimulatorの使用経験

著者: 平泉裕 ,   永田善之 ,   藤巻悦夫 ,   小泉和雄

ページ範囲:P.1225 - P.1229

 抄録:従来より骨電気刺激の臨床応用にはnon-invasiveな電磁波刺激が主流であったが,semi-invasive typeには骨を直接電気刺激する確実性と埋め込み手術を必要としない利点がある.しかし,刺激装置の完全性や電極固定法などの問題もあり実用化されていなかった.今回,臨床に応用した装置はAce製semi-invasive typeで,Fischer type創外固定器に取り付ける方式であり,高度な下腿軟部組織損傷を伴う開放性骨折3例に本法を施行した.3例とも1~3週で仮骨が確認でき,軟部組織損傷を考慮しても非常に早期の仮骨形成が得られ,0~2週で荷重を開始することができた.また,創外固定器に取り付け式のため,電極固定が簡単で,軟部組織治療,関節機能温存,早期軸荷重開始といった創外固定法の利点をも利用できた.
 本法は,高度な挫滅を伴い治療困難な開放性骨折や骨癒合不全に対し,有利な治療法であると思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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