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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科25巻11号

1990年11月発行

雑誌目次

視座

スポーツ医学をめざす整形外科医への私の提言

著者: 高岸直人

ページ範囲:P.1231 - P.1231

 スポーツの未曽有の発展の中で,それに呼応するかのように,スポーツ医学も著しく発達してきた.整形外科の領域でも数年前から研究会から学会へと名称を改め,米国との交換留学生制度,西太平洋膝・スポーツ学会,日韓スポーツ学会などが発足し,外国との交流が一段と盛んになってきた.日整会スポーツ認定医も2,000人を越え,これに医師会,体協,体力医学会などの認定医まで出来,まさに百花繚乱の勢いである.東・西に分離していたスポーツ医学研究会も合併したが,一方,地方単位,県単位,市・町単位の研究会まで発足している現状である.
 それぞれ必要に応じて発足したのであろうが,私の知る限り,大部分が,健康スポーツと言うか,どのようにすれば,外傷を予防出来るか,損傷を受けた場合の治療法に終始しているようである.科の性質上,骨・関節・腱の問題が主流である.もちろんこれは必要なことであるが,更に一歩進んでスポーツ選手のレベルアップに一役買えるような仕事をすべきではなかろうか.特に整形外科の領域では,筋肉学の面での研究が必要と思われる.日本での筋肉学の研究は世界でもNo. 1クラスであると言われており,この仕事をスポーツ選手のレベルの向上に是非利用したいものである.どのような時に,どのようにしたら最も有効な筋量の増加が得られるのか,A-fiber,B-fiberを特に増加させるのにはどのような手段がベストなのか,またそのスポーツの至適年齢にうまく合わせることが出来るのか,等々,大いに研究の余地があるように思える.

論述

脊椎外科手術における回収式自己血輸血

著者: 冨士武史 ,   竹本勝一 ,   白崎信己 ,   山下和夫 ,   中井毅 ,   濱田秀樹

ページ範囲:P.1232 - P.1237

 抄録:脊椎外科手術における回収式自己血輸血の適応と限界を知る目的で,1985年から1988年の間に行った脊椎外科手術216例を対象として検討した.術中回収式自己血輸血にはヘモネティクス社製セルセーバー3および4を用い,セルセーバー使用群104例,セルセーバー非使用群112例を術中出血量500ml以下,501~1000ml,1001~2000ml,2001ml以上,の各4群に分類し,同種血輸血量,同種血輸血率,無同種血輸血例の比率,術前後のヘマトクリット値を比較した.その結果,脊椎外科手術において以下のことが判明した.
 1)術中回収式自己血輸血で各出血量において同種血輸血量を減少できる.

ダウン症候群における環軸椎不安定性の経年的変化―分離歯突起を伴う症例について

著者: 大沢俊和 ,   井沢淑郎 ,   大成克弘 ,   斉藤裕一 ,   近藤総一

ページ範囲:P.1239 - P.1244

 抄録:分離歯突起を伴うダウン症児7例について,環椎・歯突起間距離(AOI),環椎レベルの脊椎管最小矢状径(MSD),instability index(II)を測定し,環軸椎不安定性の経年的変化を検討した.
 環軸椎亜脱臼は全例,5年以上の経過で進行しており,AOI値は7例中6例が増加していた.IIは初診時に20%以上を示した3例で著明に増加しており,一方初診時20%未満の3例では変化がなかった.MSD値は脊椎の成長に伴い5例で増加していたが,2例では亜脱臼の進行により減少していた.深部腱反射の亢進などの脊髄症状を2例に認めたが,そのIIは2例とも40%以上の高値を示し,MSD値は9mm以下と低値を示した.分離歯突起を伴うダウン症児では経年的に環軸椎不安定性が進行するので,厳重な経過観察が必要である.

頸髄不全損傷に対する棘突起縦割式脊柱管拡大術の成績

著者: 斎藤正史 ,   河野亨 ,   小野俊明 ,   釼持和彦 ,   柴崎啓一 ,   大谷清

ページ範囲:P.1245 - P.1250

 抄録:頸髄不全損傷に対する手術療法の適応は,なお意見の一致を見ない.脊髄圧迫因子が認められない場合,保存療法が適応されるが,脊柱管狭窄が既存し,これが脊髄麻痺に関与していると考えられる症例では,除圧術の適応がある.今回,頸部脊柱管狭窄を伴う頸髄不全損傷の10例に対して棘突起縦割式脊柱管拡大術を行った.
 症例の平均年齢は61歳と高齢者に多く,損傷型は横断型5例,中心部損傷型4例,Brown-Séquard型1例であった.受傷機転が明らかであったのは7例で,すべて伸展損傷であった.手術成績はJOA scoreで評価した結果,平均改善率は36.7%であった.術後成績に関与する因子として年齢があげられ,高齢者では成績が不良であった.以上により,頸髄不全損傷に対して棘突起縦割式脊柱管拡大術は有効であるが,高齢者に対する適応は慎重でなければならない.

脊髄損傷におけるMRIの有用性

著者: 和田山文一郎 ,   濱上洋 ,   新林弘至 ,   牛山敏夫 ,   小池和広

ページ範囲:P.1251 - P.1255

 抄録:脊髄損傷22例のMRIの検討を行った.0.5tesla,超電導タイプの装置を使用し,TR2100/TE1OO,20というT2強調画像とproton density imageで,主として矢状断を撮像した.画像上,損傷部位に一致して輝度変化を認めたものは14例で,たいていはproton density imageで低輝度,T2像で高輝度を呈しており,麻痺レベルの高い症例に多かった.輝度変化の経時変化は,余り認められなかった.完全麻痺例のT1像で,受傷後1週間以内は脊髄が高輝度に変化し腫脹していたが,1カ月後は低輝度を呈し,腫脹も消失していた.注意深い観察により辺縁を高輝度に囲まれた直径5mm程度の低輝度領域が認められ,小空洞を表しているものと考えられた.C3/4の損傷で急性期にretropharyngeal spaceにおける血腫が明瞭に観察できた.脊髄損傷においてもMRIの有用性は高い.

肩関節上方臼蓋唇付着部断裂に対する鏡視下staplingの術後成績―投球障害肩を対象として

著者: 米田稔 ,   広岡淳 ,   越智隆弘 ,   山本利美雄

ページ範囲:P.1257 - P.1263

 抄録:肩関節上方臼蓋唇損傷は投球動作を頻回に行うスポーツ選手や急激に外転挙上が強制された際にしばしば認められる.なかでも上方臼蓋唇全体が剥離・転位し臼蓋と骨頭の間に介在する“付着部断裂型”に対しては年齢,活動性,損傷程度を考慮して鏡視下staplingによる原位置への修復を行ってきた.本論文では,この術式の紹介を行うと共にその有用性について検討した.
 術後1年以上経過した投球障害肩10例(手術時年齢平均17.8歳,術後追跡期間平均29.4カ月)を対象とした.術後3~6カ月における抜釘時の再鏡視では,修復部の安定化は全例に認められた.臨床成績は10例中8例が良好(優:5例,良:3例)であり,成績不良の2例については,肩峰下滑液包炎の残存と亜脱臼障害が原因として考えられた.将来も肩関節に過大なストレスが繰り返される若年者の投球障害肩に対しては,可能な限り解剖学的修復を行うべきであり,上方臼蓋唇部の安定化が計れる本術式は有効な方法といえる.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

足関節固定術

著者: 門司順一 ,   佐々木鉄人 ,   菅野吉一

ページ範囲:P.1265 - P.1272

 足関節固定術は,1879年のAlbertの報告が最初とされている.以来,足関節の高度の破壊例や筋力低下による機能障害に対して,確立された術式として足関節固定術は広く行われてきている.足関節固定術についての我々の考えと,その術式について述べる.

認定医講座

四肢脈管疾患の診断と血管手術の基本

著者: 久保良彦

ページ範囲:P.1273 - P.1279

はじめに
 近年,わが国において疾患の欧米化が注目されてきているが,脈管疾患でも脳・冠・四肢など,重要臓器動脈の硬化性変化による閉塞(閉塞性動脈硬化症arteriosclerosis obliterans以下ASO)の急増が目立っている.これにはわが国が長寿社会へ移行していることや,食生活の変化が大きく係わっていると考えられるが,特に下肢ASOの増加は,従来,末梢動脈の代表的閉塞疾患として馴染みの深かったビュルガー病(閉塞性血栓血管炎 thromboangitis obliterans 以下TAO)の症例をはるかに凌駕し,脈管疾患の構成を様変りさせている.
 一方,血管外科における手術手技の向上も目覚しく,その成績は昔日の比でなくなっている.更に外科系各科領域では,単なる切除の外科から,修復や移植によって機能の温存あるいは回復を図る再建外科の時代に推移しており,外科手術と血管処理の係わりはいよいよ深くなって,血管の取り扱いに馴染む,あるいは血管外科的手法に通ずる必要性が増大している.

整形外科を育てた人達 第87回

Santiago Ramon y Cajal(1852-1934)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1280 - P.1282

 Ramon y Cajalは,神経の解剖,生理の研究者で,1906年に同じく神経の研究者のCamilla GolgiとNobel賞を授けられた.CajalはSpain,GolgiはItalyの生まれであった.Cajalは整形外科とは密接な関係は少ないが,筋肉は訓練により強化し得ることを学生時代に知ったということが自伝に記載されているので,リハビリテーション・スポーツ面で関係があると思い,Cajalの伝記を紹介することにした.

臨床経験

レスリング選手にみられた前方関節包に骨化を伴う習慣性肩関節亜脱臼の1例

著者: 廣野正邦 ,   水野耕作 ,   橋村正隆 ,   黒坂昌弘 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.1283 - P.1286

 抄録:21歳男性で,右肩後方より上腕にかけた疼痛を主訴に来院した.以前より大学のレスリング同好会にて肩関節の外転外旋が強制される関節技を何度も受けていた.我々は,習慣性肩関節亜脱臼と診断し,Bankart法による手術的治療を行った.この際,関節唇及び関節包は前中央より前下方にかけて剥離され,関節包には小指頭大の骨片が認められた.その組織像において軟骨細胞と共に骨芽細胞が多数存在し,幼若なwoven boneが認められ,旺盛な内軟骨性骨化を示していた.

11年後に再発を認めた大腿骨巨細胞腫の1例

著者: 本間隆之 ,   矢部啓夫 ,   中西忠行 ,   飛弾進 ,   高橋一弘 ,   稲坂理樹 ,   腰野富久 ,   森井孝通

ページ範囲:P.1287 - P.1291

 抄録:手術後11年目に再発を認めた大腿骨遠位骨巨細胞腫の1例を経験したので報告する.症例は48歳の男性で,昭和47年7月に右大腿骨遠位骨巨細胞腫の診断により病巣掻爬と骨移植術を受けた.再発のために昭和48年1月と50年1月にも病巣掻爬と骨移植術を受けた.その後,放置していたが,昭和61年11月に転倒後,右膝関節痛が出現した.単純X線像で右大腿骨外側顆部に骨透亮像と骨折線を認め,CT像で大腿骨顆部前外側部に低吸収域を認めたため,骨巨細胞腫の再発による病的骨折と診断し,病巣掻爬と同種骨移植術を行った.病理組織学的所見は典型的な骨巨細胞腫を示した.術後3年5カ月の現在,再発を認めることなく通常の生活を送っている.骨巨細胞腫の再発の大半は初回治療から3年以内に起こり,我々の経験した11年後の再発は稀な症例である.長期間経過してから再発した場合でも骨巨細胞腫は基本的には良性であり,必ずしもradicalな治療は必要ではないと考える.

多椎体にscallopingを起こした巨大な馬尾表皮様腫の1例

著者: 児玉太郎 ,   成尾政圀 ,   小柳英一 ,   浦門操 ,   椎葉睦生 ,   梶浦清司 ,   西良浩一

ページ範囲:P.1293 - P.1297

 抄録:今回我々は,馬尾部に発生した,巨大な表皮様腫の1例を経験した.罹病期間は21年と極めて長く,L1-L3椎体には巨大なscallopingを起こしていた.腫瘍は硬膜,馬尾神経との癒着が強く,可及的に摘出したが,被膜は一部骨組織を伴う肉芽腫組織よりなり,内容物は,扁平上皮細胞由来の角化落屑壊死物よりなっていた.この症例は,26年前に硬膜内穿刺および,ヘルニア手術を受けており,その原因として上皮迷芽が考えられる.

軟部腫瘍におけるエストロジェン,プロゲステロンリセプターの検討

著者: 松本誠一 ,   川口智義 ,   真鍋淳 ,   大作浩一 ,   白石秀夫 ,   古屋光太郎 ,   磯辺靖

ページ範囲:P.1299 - P.1301

 抄録:軟部腫瘍において,ホルモン療法の可能性およびホルモンリセプターと予後の関係について検討した.症例は,軟部肉腫52例,デスモイド12例であり,デキストランチャコール法にてエストロジェンリセプター(ER),プロゲステロンリセプター(PgR)を測定した.その結果,軟部肉腫では10%で両リセプターとも陽性であり,16%でER陽性であった.デスモイドでは,1例でER陽性であった.リセプターが陽性であり,評価病巣を有する3例にホルモン療法を行ったが無効であった.また,リセプターと予後との間にも明らかな関係はなかった.以上より,軟部肉腫およびデスモイドにおいて,ER,PgR測定の臨床的意義は少ないと結論した.

腫瘍塞栓を伴った腸骨軟骨肉腫の1例

著者: 墳本敏彦 ,   内田淳正 ,   藤田悟 ,   吉川秀樹 ,   加藤次男 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.1303 - P.1305

 抄録:腫瘍塞栓を伴った左腸骨発生の軟骨肉腫の1例を経験した.症例は27歳男性で,生検にて軟骨肉腫と診断し,動注化学療法施行後,広汎切除術を施行した.その際,左内腸骨動脈および静脈から左総腸骨動脈および静脈に至る広範囲な腫瘍塞栓を認めた.腫瘍塞栓は被膜に覆われており,血管壁切開部より容易に摘出できた.retrospectiveに血管造影動脈相を検討すると,左内外腸骨動脈の壁の不整,濃淡不整が認められ,腫瘍塞栓を示唆する所見と考えられた.

骨粗鬆症における脊椎圧迫骨折による脊髄麻痺

著者: 西山正紀 ,   藤田邦彦 ,   杉山修一 ,   石上陽一 ,   関口章司 ,   佐々木浩樹

ページ範囲:P.1307 - P.1313

 抄録:我々は,脊椎骨粗鬆症における圧迫骨折により脊髄麻痺を来した症例を経験し,後方固定術にて麻痺の改善を得た.そこで諸家の報告例36例と共に総括し,診断,治療を中心に述べる.一般的な特徴としては,①平均72.1歳と高齢.②女性は男性の4.3倍の頻度である.③罹患部位は第12胸椎が32.4%と最も多い.④約半数に明確な外傷歴を認めない.⑤腰背部痛発生から対麻痺までの期間は1週~9カ月と遅発性である.治療は,保存療法9例,手術療法28例で,おおむね手術療法の方が成績がよい.術式は後方除圧固定が12例と最も多いが,自験例は,椎体後壁からの脊髄圧迫は軽度であり,後彎変形および不安定性が麻痺の主たる因子と考えられ,後方固定術を選択した.症例を選べば,後方固定による後彎変形,不安定性の改善にて麻痺の回復する例も多いと考える.

成人型低リン血症性骨軟化症の1例

著者: 西村隆 ,   岩田久 ,   長谷川幸治 ,   濱田敏彰 ,   三重野琢磨 ,   田中千尋 ,   元田英一 ,   三浦隆行

ページ範囲:P.1315 - P.1318

 抄録:41歳の男性で,両膝関節痛,下肢脱力,歩行障害を主訴に来院した.既往歴,家族歴には特記すべきことはなかった.X線学的に全身骨に骨粗鬆症がみられ,骨シンチにて肋骨,両大腿骨頭に多発性の骨病変が見られた.悪性腫瘍の骨転移を疑われ,内科的精査を行ったが異常はなかった.X線像で両大腿骨頭に高度の骨萎縮を認めたが,骨頭変形や関節裂隙の狭小化はなかった.全身の腫瘍性病変は見られなかった.低リン血症がみられたが,他の生化学的検査,PTH,カルシトニン,腎機能は正常であった.骨生検にて,類骨の増加,骨梁の不規則,狭小化を認め,成人型低リン血症性骨軟化症と診断した.活性型vit Dの1日3μg投与により臨床症状および血清リンもやや改善したが,経過観察中に脳出血が原因の痙攣発作により両側大腿骨頸部骨折を合併し死亡した.

偽ばち状指を主訴とした原発性上皮小体機能亢進症の1例

著者: 清水泰雄 ,   芳村直 ,   小関博久 ,   松村弘人 ,   藤巻悦夫

ページ範囲:P.1319 - P.1322

 抄録:偽ばち状指を主訴とした原発性上皮小体機能充進症の1例を経験したので,報告する.症例は,50歳,女性で,1年前の検診でアルカリフォスファターゼの高値を指摘されていたが,放置していた.初診時のX線像で,中指末節骨の溶骨様変化と中節骨橈側の骨吸収像を認めた.また,頭蓋骨の顆粒状骨吸収像,歯槽硬線の消失も認め,血中Ca,PTHは増加,Pは減少していた.手術にて上皮小体右葉下極より4.8gの腫瘍を摘出した.病理組織は腺腫で,悪性所見は認めなかった.術後,血液生化学検査,X線変化,臨床所見等,急速な改善がみられた.原発性上皮小体機能亢進症は,最近では早期発見,早期治療が行われるため,骨病変で発見されることは少ない.特に,褐色腫は長管状骨に発生することが多く,末節骨に発生し,そのために偽ばち状指を呈することはきわめて稀であると思われた.

肩甲下部に発生した巨大嚢胞の1例

著者: 芝昌彦 ,   臼井康雄 ,   一山茂樹 ,   水野耕作 ,   廣畑和志 ,   鵜飼和浩 ,   池田正則

ページ範囲:P.1323 - P.1326

 抄録:肩甲下部に発生した軟部腫瘍を疑わせる巨大な嚢胞性腫瘤を経験したので報告する.
 症例は41歳,女性で,昭和62年7月頃より右肩甲部に鈍痛を感じることがあった.昭和63年8月,右肩甲下部の腫瘤に気付き当科を受診した.腫瘤は手拳大,弾性硬で波動はなかった.CT,MRIで右肩甲骨と胸郭の間に腫瘤陰影を認め,昭和63年9月摘出術を施行した.腫瘤は広背筋,前鋸筋と胸郭の間に存在する嚢胞で,内容は赤褐色の混濁液であった.病理組織学的には,器質化した血腫あるいは巨大な滑液包炎が考えられたが,外傷の既往がないことより,肩甲下部に発生した滑液包炎の可能性が高いと考えた.1年後の現在,再発はなく,経過は良好である.
 同部に発生する軟部腫瘍を疑わせるほどの巨大な嚢胞性腫瘤は稀と思われるので,考察を加えて報告する.

高IgE症候群に伴った多発性骨折の1例

著者: 山本重吉 ,   石井良章 ,   河路渡

ページ範囲:P.1327 - P.1331

 抄録:高IgE症候群に伴った多発性骨折の1例を経験したので報告した.症例は,3歳の男子で,昭和59年9月膿胸の診断で某市立病院で治療した際に高IgE症候群と診断された.昭和60年5月,左手関節の変形と両手関節の運動制限で当科を受診した.X線像にて,両橈骨遠位端の骨折と左腓骨骨折および四肢骨の骨皮質の菲薄化を認めた.自発痛,圧痛はなかった.4カ月後には骨修復も良好であった.
 約10年前より新しい疾患単位として認められつつある高IgE症候群は,1966年Davisらの報告が最初とされている.今日まで本邦における本症候群の報告は,小児科,皮膚科領域では散見されるが,整形外科領域での報告は見ない.今回われわれは,本症候群に伴った多発性骨折の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

骨盤部に発生した血管肉腫に対するsaddle prosthesis再建の1例

著者: 川口哲 ,   宮野須一 ,   河村正朋 ,   内藤貴文 ,   薄井正道

ページ範囲:P.1333 - P.1336

 抄録:右殿部皮下から坐骨におよぶ血管肉腫を経験し,wide resection後にsaddle関節型prosthesis(Link社,西独)を用いて股関節を再建した.症例は61歳,女性.右殿部に発生した悪性血管内皮腫の再発例である.MRI画像で,右殿部皮下,大殿筋筋層下,坐骨内に腫瘍を認めた.術前にtotal 50Gyの放射線治療を施行したところ,MRI像上で皮下と筋層下の腫瘍は消失した.坐骨内の腫瘍には,腫瘍の周囲に帯状像が形成された.手術方法は,腫瘍より5cm離れた部位を切除縁とし,殿筋群を含めて股関節部を一塊として摘出した.股関節部はsaddle prosthesisを用いて再建し,殿部の皮膚と筋層の再建は遊離広背筋移植術を用いた.術後6カ月の現在,一本杖での歩行が可能となった.
 本法は,臼蓋周辺に生じた悪性腫瘍に対する広範囲切除後の股関節機能の再建に,有用な一手段となると思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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