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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科25巻2号

1990年02月発行

雑誌目次

視座

先天股脱における予防とRiemenbügelの意義

著者: 岩崎勝郎

ページ範囲:P.115 - P.115

 先天股脱の分野で,Riemenbügel(RB)の導入とそれ以後の治療法の発展,および予防の概念の開発と普及は本邦の方が諸外国より著しく進歩していると私は考えている.前者は鈴木良平先生の,後者は石田勝正先生の業績に負うところが大きいが,さらに日本の整形外科医が積極的にしかも情熱的に先天股脱の治療にとり組んできた結果でもある.そして先天股脱研究会が,多くのデータを集約し,分析し,研究方向の軌道修正を行ってきたという点で非常に重要な役割を演じたことはいうまでもない.
 ところでRB導入後約30年,予防の普及後約15年経過した今日は,まさにこれらの成果を判定し吟味する時期であろうと思う.自験例の成績も含めて,一般に報告されている成績をまとめてみると次のようなものではないだろうか.

論述

自家膝蓋腱および大腿四頭筋腱を用いた膝前十字靱帯再建術―術後3年以上経過例の定量的評価

著者: 安田和則 ,   青木喜満 ,   黒沢秀樹 ,   冨山有一 ,   計良基治 ,   大越康充 ,   金田清志

ページ範囲:P.116 - P.123

 抄録:自家膝蓋腱および大腿四頭筋腱を用いる膝前十字靱帯再建術を行い3~7年,平均4.5年を経過した症例,55人55膝(男31,女24)を追跡調査した.年齢は平均23歳であった.合併手術としては内側側副靱帯再建を28膝に,外側制動術を3膝に行った.術前にはLachman test,中間位での前方引出し試験およびjerk testに関して,全例が陽性であったが,再建術後はLachman testが80%で,前方引出し試験が71%で,jerk testが95%で陰性化した.可動域は屈曲10±2.5°~143.4±13.3°であった.Knee Laxity Testerによるanterior laxityの患側と健側との差は,膝屈曲30°で術前6.5±2.5mmが術後1.5±2.0mmへ,膝屈曲90°では3.3±2.6mmが1.4±2.1mmへと有意の改善を認めた.scattergramを用いた解析では,30°屈曲位で87.5%が,90°屈曲位で83.3%が「正常」と評価された.本再建術は安定した臨床成績が得られる再建術であると考える.

恥骨・坐骨切除後の骨盤環不安定性―有限要素法を用いた検討

著者: 佐藤啓二 ,   高橋満 ,   深谷直樹 ,   中西啓介 ,   三浦隆行 ,   小西伸夫

ページ範囲:P.125 - P.129

 抄録:骨盤発生腫瘍の手術治療の問題点として,骨盤環不安定性の有無が危惧されるところである.股関節を残し,一側の恥骨・坐骨をともに切除した軟骨肉腫の1症例について,仙腸関節の過負荷の有無および骨盤環不安定性の有無を知る目的にて,有限要素法を用いた検討を行った.症例:19歳,女性.手術前の骨盤環には,骨の変形,欠損,破壊等はなく,これを三角形要素118個,節点数87個からなる正常モデルとし,また切除後に相当するモデルを,正常モデルから要素を取り除くことで作製した.正常モデルにおいては,仙腸関節の上端に引っ張り応力が,下端に圧縮応力が集中し,骨盤環切除後にはそれぞれ値は1.4倍に増加した.また骨盤環の変位度は,反対側の前上腸骨棘部が最大であり,手術に伴い0.07mmより0.1mmに増加した.手術後1年の現在症状は全くないが,経過観察により値の変化の意味するところを検討する予定である.

Pulse Oxymeterを用いた適正止血帯圧設定の試み

著者: 角田雅也 ,   黒坂昌弘 ,   吉矢晋一 ,   岩崎安伸 ,   広畑和志 ,   尾原秀史

ページ範囲:P.131 - P.135

 抄録:下肢手術例56例に対し,Pulse Oxymeterを用い適正止血帯圧を設定した.止血圧は平均281.7mmHgと従来用いられている値よりもかなり低い値で止血できた.さらに止血圧と年齢,大腿周囲径,術前血圧との関係について検討した.年齢と止血圧については年齢が増すにつれて上昇してゆく傾向があったが,明らかな相関関係は見出せなかった.大腿周囲径との間には全く相関関係は認められなかった.術前血圧と止血圧との間には術前血圧が高いものほど止血圧は高い傾向にあったが,両者の間に密接な相関関係は見出しえなかった.

INCHING法による上肢の末梢神経局在病変の検索

著者: 宮坂芳典 ,   桜井実 ,   飯田剛 ,   鴇田俊一 ,   羽鳥正仁

ページ範囲:P.137 - P.144

 抄録:神経伝導速度が遅延する現象の意義を明確化することを目的として,手根管症候群,肘部管症候群を対象として以下のinching法により神経伝導試験を行った.絞扼部位の近位・遠位にまたがって1cm間隔で多数の刺激点をとり,手の内在筋より複合筋活動電位を,知覚神経では手指より知覚神経活動電位を導出し,伝導時間,振幅,持続時間,dispersion現象の4点から分析を行った.手根管症候群31例中18例で限局された区間(1-3cmの長さ)で伝導時間の遅延を示した.他の区間での伝導時間の遅延はみられなかった.肘部管症候群では45例中32例で同様の所見を得た.これらは臨床的にみて比較的軽症例の特徴的所見であったが,伝導速度という観点からはごく限局された区間(1-3cmの長さ)でのみ伝導速度が低下することを意味すると考えられた.Inching法を用いた検索は末梢神経障害の初期病変の診断,特に局在病変の確定に極めて有用な方法である.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

円筒型髄内釘ねじ横止め法による大腿骨骨幹部骨折および遠位部の骨折の手術

著者: 南澤育雄 ,   山本真 ,   糸満盛憲 ,   笹本憲男

ページ範囲:P.145 - P.153

はじめに
 髄内釘骨接合術を本格的な骨折治療法にまで発展させたのは,ドイツの骨外科医Gehard Küntscherであることは周知のことである.彼は,数多くの臨床例の積重ねを通じて,V字釘からクローバー型髄内釘へと発展させ,リーマーによる骨髄内の拡大やイメージインテンシファイアーによる閉鎖術式などを用いて,髄内釘固定法を臨床上の実用にまで完成させた.しかし,釘による十分な回旋固定力の獲得は困難であった.私たちはねじ横止めの工夫から始まり,種々の実験や臨床例の積重ねから現在は円筒型髄内釘ねじ横止め法に至っているが,本稿ではこの方法について述べる.なお,これまでの経緯は1989年4月出版の「髄内釘による骨折手術9)」に詳しく記載してあるので省略する.

整形外科を育てた人達 第79回

Joseph Trueta(1897-1977)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.154 - P.157

 Joseph Truetaは英国のOxford大学の教授であったが,スペイン人であった.革命の動乱と独裁政治に同調できないので英国に逃避したが,その能力の優秀性が認められ,Oxford大学の整形外科の教授になり,第8回SICOTがNew Yorkで開催された時に会長に選ばれた学者である.

認定医講座

外傷一般―プライマリケア

著者: 星秀逸

ページ範囲:P.159 - P.166

 外傷患者の初療にあたっては,患者の全体像をよく把握することである.誰の目にも明らかな開放損傷のみに目をうばわれることなく,内臓器損傷を含めた重要臓器損傷の有無についても細心の注意をはらい適切な処置を講じなければならない.
 また,多発外傷などの重度外傷ほど,短時間の間に組織的,有機的かつ迅速に診断と治療を並行して行わなければならない,したがって,冷静に判断して実行することが大切である.

筋疾患および運動ニューロン疾患

著者: 首藤貴

ページ範囲:P.167 - P.173

 筋萎縮性疾患と称される疾患は筋肉組織自体に原因がある筋原性疾患(myopathy)と神経系統に原因がある神経原性疾患(neuropathy)に分類される.前者を一般に筋ジストロフィー症(muscular dystrophy),後者を筋萎縮症(muscular atrophy又はamyotrophy)と呼んでいる.神経原性筋萎縮症の中に運動ニューロンを選択的に侵す系統的変性疾患である運動ニューロン疾患(motor neuron disease)が含まれる.
 これらの疾患は一般には程度の差はあるがいずれも進行性であり徐々に四肢体幹の筋力低下の進展が認められ,合わせて症例の日常生活能力の低下が漸増してくる.

臨床経験

Lisfranc関節の脱臼を伴わない第1楔状骨骨折の1例

著者: 三原卓 ,   齋藤哲文 ,   辻丈夫

ページ範囲:P.175 - P.178

 抄録:第1楔状骨骨折は,Lisfranc関節の脱臼に伴うものは,少数例の報告があるが,単独骨折は,加東が報告しているに過ぎない.また,発生機序についても,Lisfranc関節の脱臼についてWileyが述べているに過ぎない.そこで,今回,Lisfranc関節の脱臼を伴わない第1楔状骨の単独骨折を報告すると共に,発生機序について2次元有限要素法にて解析した.その結果,第1楔状骨単独骨折は,主に直達外力によって起こり,今回の発生機序は,足の縦アーチを増強する介達外力に加えて,第1楔状骨直上より,主として直達外力が作用して起こったと考えられた.

多発性骨軟骨腫により生じた腓骨神経麻痺の1例

著者: 村津裕嗣 ,   山田昌弘 ,   松本圭司 ,   鵜飼和浩 ,   水野耕作 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.179 - P.182

 抄録:多発性骨軟骨腫による腓骨神経麻痺のまれな症例を報告した.症例は13歳,男性,特に誘因なく,左足関節及び,足趾の背屈障害が出現した.レントゲン像にて,左腓骨頭外側に無茎性骨軟骨腫を認め,筋電図上,同部にての腓骨神経障害が認められた.症状発現8週後に,腫瘍切除術,腓骨神経剥離術を施行し,症状は消失した.組織学的には盛んな内軟骨性骨化を示す骨軟骨腫の所見が得られた.本症例の腓骨神経麻痺は,急速に増大した無茎性骨軟骨腫の圧迫によるものと考えられた.なお,我々が検索し得た範囲では,腓骨神経麻痺を合併した骨軟骨腫の報告は,7例のみであった.

Malignant Neuroepithelioma(Peripheral Neuroblastoma)の2例

著者: 鬼頭正士 ,   守屋秀繁 ,   遠藤富士乗 ,   石井猛 ,   高橋英世 ,   三方淳男 ,   高田典彦 ,   舘崎慎一郎 ,   柿崎潤一 ,   梅田透 ,   木元正史 ,   桑原竹一郎

ページ範囲:P.183 - P.188

 抄録:Malignant Neuroepithelioma(Peripheral Neuroblastoma)は末梢神経組織に発生する軟部悪性腫瘍で,その発生頻度は非常に低い.今回われわれは2症例を報告し,臨床病理学的検討を加える.症例1:20歳,女性.昭和59年2月左大腿内側部の腫脹に気づく.5月18日近医で単純切除術を施行し,病理学的に悪性所見を認めたため,6月5日千葉県がんセンターを紹介された.初診時すでに右下肺野に孤立性転移巣を認めたが,全身的化学療法で縮小傾向がみられ,9月4日右下葉部分切除を施行した.その後2年間化学療法を継続し,4年後の現在も経過良好である.症例2:12歳,男性.昭和62年4月右足背部に小指頭大の腫瘤が出現し徐々に増大したため,6月26日近医で摘出術を行った.病理標本で本腫瘍の組織診断となり,全身的化学療法,局所放射線療法を行ったが3カ月後局所再発をきたしたため,12月18日下腿切断を施行した.

大後頭孔に進展した頸髄髄内脂肪腫の1例

著者: 工藤修 ,   片野博 ,   毛利尚宜 ,   原田征行 ,   近江洋一

ページ範囲:P.189 - P.193

 抄録:①極めてまれな高齢者の大後頭孔に進展した真性頸髄髄内脂肪腫の1例を報告した.②発症から手術にいたるまでの期間はこれまでに報告された8例の乳児期初発例に比して約4年と短いことが特徴といえた.③椎弓切除術とCUSAによる腫瘍の愛護的部分摘出術を施行,術後1年の現在,運動,知覚障害ともに改善が見られている.

頸椎にアミロイドの沈着を確認しえた長期透析患者の1例

著者: 奥脇透 ,   久野木順一 ,   奥津一郎 ,   蓮江光男

ページ範囲:P.195 - P.198

 抄録:近年,腎透析の普及に伴い,長期間透析を行った場合の合併症が問題となってきている.なかでも,アミロイドの組織への沈着が報告されるにつれて,透析によるアミロイドーシスが注目されてきている.
 今回,我々は,慢性腎不全に対し,15年にわたる透析治療を受けている間に,上肢のしびれを訴え,手根管症候群として治療されるも軽快せず,徐々に進行する四肢不全麻痺を呈した患者を経験した.手術を行った際,頸椎椎弓に異常組織を認め,病理組織学検索の結果,アミロイドの沈着を証明した.

梅毒性と考えられた胸髄癒着性くも膜炎の1例

著者: 呉世昌 ,   宮本達也 ,   野口昌彦 ,   大友啓資 ,   麻生伸一 ,   塩見朗 ,   今井亮

ページ範囲:P.199 - P.202

 抄録:脊柱管に多発し嚢包形成を伴った,梅毒性と考えられた胸髄癒着性くも膜炎の1例を経験したので報告した.症例は57歳男性.現病歴:昭和58年,右大腿部の筋力低下を自覚,同部の知覚鈍麻と疼痛も出現した。脊髄造影検査にて第11,12胸椎レベルでの通過障害を認め,同部の椎弓切除と癒着剥離術を行ったが,症状は徐々に増悪した.MRI検査にて第4,5胸椎レベルでの脊柱管内の嚢包様所見あり,同部の椎弓切除と嚢包の開放を行い症状の著明な改善を見た.本症例では血清と髄液の梅毒反応の陽性所見より,梅毒の関与が考えられた.梅毒性と考えられる癒着性くも膜炎に対しては責任病巣に対する手術的治療に加えて,強力な駆梅療法によって症状の再発を抑止することが大切であると考えられた.

特異な経過をたどった特発性大腿骨頭壊死症の1症例について

著者: 吉原哲 ,   渥美敬 ,   杉森広海 ,   吉田雅之 ,   山野賢一 ,   佐藤哲夫 ,   村木稔 ,   東郷泰久 ,   黒木良克

ページ範囲:P.203 - P.207

 抄録:我々は,荷重部に広範囲に壊死域が存在したにもかかわらず著明な修復機転をきたし,免荷療法のみによって治癒に至った特発性大腿骨頭壊死症の1症例を経験したので報告する.症例は31歳男性であり,単純X線像にて軽度のcollapse及び骨頭外側の萎縮像がみられsubchondral plateは不明瞭となっており大腿骨頭壊死症を疑わせたため,断層撮影,Tc-scintigraphy,CT,MRI等の画像診断を施行したところ異常な画像所見を認めた.選択的動脈造影及び骨生検により,superior retinacular arteryの骨外部分の血行障害後に起こった修復血行が更に骨内においても障害されたが,その後著しい修復機転が起こったことが示唆された.長下肢免荷装具および両松葉歩行により徹底した免荷を施行したところ免荷後約半年にて自覚症状は軽減し,画像所見の改善もみられ,治療後1年の現在,全荷重歩行を許可しているが,なんら問題は生じていない.

陳旧性Galeazzi骨折に対する新しい治療法の試み

著者: 桃原茂樹 ,   堀内行雄 ,   柳本繁 ,   宇田正長 ,   田中京子 ,   大谷俊郎 ,   高橋昭

ページ範囲:P.209 - P.212

 抄録:尺骨頭の一部を含んだ比較的大きな尺骨茎状突起の骨片を伴った2例の陳旧性Galeazzi骨折を経験し,尺骨茎状突起を利用した整復固定を行い,良好な結果を得た.
 症例1:19歳男性.受傷後5ヵ月で回外制限を主訴に来院.橈骨骨折は整復されていたが,遠位橈尺関節背側脱臼は放置されていた.手術で尺骨を短縮し,原位置に残った尺骨茎状突起とtension band wiring法で固定した.術後1年で回外80度まで改善した.

腰部脊柱管内ガングリオンの1例

著者: 戸田克広 ,   久保田政臣 ,   栗尾重徳 ,   中光清志 ,   下野研一

ページ範囲:P.213 - P.216

 抄録:脊柱管内に発生し根症状を呈したガングリオンの報告は極めて稀である.症例は25歳の男性で左坐骨神経痛を呈しており,臨床症状,脊髄腔造影,CTMよりL4/5間の腰椎椎間板ヘルニアと診断し手術を行った.しかし左L5神経根を腹側より圧迫していたのは後縦靱帯より発生したと考えられるガングリオンであったためこれを摘出した.術後1年半の現在,左下肢痛は消失し現職に復帰している.

距骨骨内ガングリオンの1症例

著者: 松下功 ,   加藤義治 ,   高桑一彦 ,   染屋政幸 ,   大島博

ページ範囲:P.217 - P.220

 抄録:45歳男性の左距骨体部内側に発生した骨内腫瘤に対し手術を行い,病理組織学的検討にて骨内ガングリオンと診断した.距骨骨内ガングリオンの発生機序について,距骨の解剖学的側面より考察を加え,循環障害による骨栄養不全が関連していると推察した.

検査法

腰仙部神経根穿刺に対する斜位直接刺入法

著者: 佐藤哲朗 ,   平田晋 ,   金淵隆人

ページ範囲:P.221 - P.225

 抄録:体位と管球の調節により針の刺入方向と透視の方向を一致させることで,腰仙部神経根穿刺の手技を一次元的な針の深さだけを調節すればよい単純な手技とした.我々はこの方法を斜位直接刺入法と名づけた.実際の神経根穿刺にあたっては,体位を斜位とし管球を頭尾側に傾けることによって透視の方向を針の刺入方向に一致させている.本法により皮膚刺入点の決定は容易となり,針の刺入にあたっての角度調節は不要となった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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