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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科25巻5号

1990年05月発行

雑誌目次

視座

グレンツゲビート

著者: 吉沢英造

ページ範囲:P.573 - P.573

 このところ世界は20世紀末の激動に晒されている.東欧諸国を中心とした混乱を新聞やテレビで見るにつけ,人種・宗教・社会構造の上で境界線に位置する国々の苦悩が痛いほど伝わり,海という自然の城壁に囲まれて,まずは平和のうちに暮らして来れた日本人の仕合せを感じずにはいられない.
 ペレストロイカ・グラスノスチを掲げて登場した米ソ冷戦緩和の仕掛人ゴルバチョフは自由主義陣営から拍手をもって迎えられる一方で,自国経済建て直しの遅れと東欧に群発する社会的混乱から,肝腎の自国内ではその立場が危ぶまれている.大きな支配領域を有しつつもその境界域に多民族国家を抱える大国にとって,これをながく維持することが如何に難しいことかを如実に表わしている.

論述

脊柱側彎を有する脊髄空洞症47例の経過

著者: 新井貞男 ,   大塚嘉則 ,   中田好則 ,   守屋秀繁 ,   北原宏 ,   南昌平 ,   礒辺啓二郎 ,   板橋孝

ページ範囲:P.574 - P.580

 抄録:1年以上(平均5.4年)経過観察した47例のsyringomyeliaを有する脊柱側彎と,MRIで1年以上(平均1.9年)経過をみた10例のsyrinxの自然経過を検討した.対象は男24例,女23例で,男女間に有意差はない.装具治療を行った症例は31例あり,装具治療中を含め17例は改善,6例は不変,8例は悪化し5例に変形矯正手術を行った.放置例及び経過観察例などの装具治療が行われなかった例は12例あり,4例は不変,他の8例は10歳から15歳の成長期に大きく悪化していた.悪化は装具内悪化例に比し大きかった.神経症状が出現しshunt手術を行った例は4例あり3例は術後装具治療でよくcontrolされていた.MRIにより1年以上syrinxの治療をせず経過観察した症例は10例あり,6例はsyrinxが縮小し,4例は不変であった.Syrinx縮小例では,神経症状(下肢の腱反射の亢進,解離性知覚障害など)が軽度改善したものもあった.

変形性股関節症患者の関節形成術後の生活様式の検討―生活時間とADL多変量解析

著者: 原田義昭 ,   司馬良一 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.581 - P.587

 抄録:人工関節置換術やカップ関節形成術を受けた患者の機能的予後は患者の生活様式に影響される.したがってこれらの手術を行うには患者の生活様式を理解する必要がある.我々は変形性股関節症で全人工関節置換術やカップ関節形成術を受けた患者の生活時間を調査した.また日常生活動作テストを行い,その結果の多変量解析を行った.その結果カップ関節形成術を受けた患者の日常生活における活動性は高く,逆に全人工関節置換術を受けた患者の活動性は低く,必ずしも日常生活動作テストや患者の満足度と一致しない.青壮年者で働かざるを得ない患者では種々の工夫をしてカップ関節を利用しておりカップ関節形成術は今なお捨て難い有用な手術法である.また全人工関節置換術をうけた患者でも日常生活での活動性が低く,必ずしも人工関節をうまく使いこなせておらず術後の生活指導が大切であることが示された.

小児大腿骨骨幹部骨折の治療―早期hip spica cast法

著者: 杉基嗣 ,   開地逸朗 ,   野田基博 ,   伊藤孝 ,  

ページ範囲:P.589 - P.595

 抄録:早期ギプス固定を行った10歳以下の小児大腿骨骨幹部骨折191例を対象としてギプス内での骨折転位の変動について調査した.経過観察期間は4.5年から8年で,骨折型による転位の程度や変動に差は見られなかった.固定時の転位の許容範囲は短縮が20mm前方屈曲20゜外反15゜とし,その他は0゜とした.短縮転位の変動はほぼ一定の経過をたどり,整復固定後1週間のうちに転位は僅かに増悪するがその後は殆ど変化することなく骨癒合がえられた.骨癒合時の短縮はいずれも大腿骨長の10%以下で,調査時には7例に6mm~13mmの脚長差を残したにすぎなかった.屈曲転位の変動は少なく,調査時に過度の変形を残した例はなかった.固定時下肢を軽度外旋位としたにもかかわらず13例に10゜~15゜の内旋変形が見られたが歩容に異常はなかった.今回の調査より本骨折には早期ギプス固定法は適当な治療方法であり,固定後1週目のX線検査は重要なポイントと考えられた.

透析患者における末梢神経障害についての検討―特にβ2-microglobulinとの関係について

著者: 大森祐宏 ,   吉原美恵子 ,   佐藤理 ,   坂田悍教

ページ範囲:P.597 - P.601

 抄録:長期透析患者の手根管症候群において,アミロイドとβ2-ミクログロブリン(以下β2-MGと略す)との関連が最近になり論議されてきている.アミロイド結節の生化学.免疫組織化学分析の結果,β2-MGと同定された点に着目し,今回,我々は血液透析患者・腹膜透析患者両者のβ2-MGの測定を行い,末梢神経障害との関連性を調べた.
 血液透析患者・腹膜透析患者の計25例に対し正中・尺骨神経の運動神経伝導速度,及び知覚神経伝導速度の測定を行った.又,上記の患者に加えて,手根管症候群発生例4患者に対し血中β2-MGの測定を行い,比較検討した.

認定医講座

一般X線検査

著者: 西村玄 ,   藤岡睦久

ページ範囲:P.603 - P.614

はじめに
 診断で使用されるX線被曝で目に見える障害が生じることはまず考えられないが,逆に発癌や遺伝的影響については安全な閾値は存在しないとされている.すなわち,いかに少量の被曝でも癌や遺伝性疾患が生じる危険(確率の増加)があると考えねばならない.したがって,医師は患者,パラメディカルスタッフ,また医師自身をも不必要な被曝から守る義務がある.必要最少のX線検査が何かについて,十分に考える必要がある.X線透視は被曝が多くなりがちな検査なので,X線を十分に絞り,必要な部位のみをなるべく短時間観察するようにする,鉛グラスファイバーエプロンの着用はもちろんだが,甲状腺防護用のマフラー,水晶体防護の眼鏡の着用も必要である.最近は,軽量の鉛手袋も手に入るので,整復操作の際などには有用であろう.X線は距離の二乗に反比例して減弱するので,必要がなければ介護のパラメディカルスタッフや助手は,X線テーブルより距離をとるようにさせる.本稿で一般X線検査について簡単な原理,撮影法の臨床的意義,読影の際の注意点について述べる.当然であるが,医師の基本的事項についての知識が合理的な検査をもたらし,その結果X線被曝も減少させる.

骨折,脱臼,捻挫―総論

著者: 木野義武

ページ範囲:P.615 - P.623

はじめに
 骨折,脱臼,捻挫は整形外科領域ではありふれた外傷であるにもかかわらず,その程度が様々であり,時に多発性であり,またいろいろ落し穴もあり問題を残しやすい.これらの落し穴におちいらないための診断および治療上の一般的注意点を述べる.

整形外科を育てた人達 第81回

三木威勇治教授(1904-1966)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.624 - P.626

 東京大学整形外科の第3代目の教授であった三木威勇治教授は私の1年先輩で,大学を定年退職後早く亡くなられたが,私と仲よく交遊していたので彼を失った私は寂しく思っている.三木威勇治教授は北九州にある産業医科大学から近い所で生まれたので鈴木勝己教授が着任以来資料を集められ,三木家のあった福岡県遠賀郡岡垣町の歴史文化研究会の年報7号に石井邦一氏が岡垣医家列伝を書いていられる中に「三木家の人」と題して三木家系の先祖から詳しく記述してあるが,これを複写して頂いたのでこの資料を中心として三木家の歴史を書く決心ができた(鈴木教授の御好意によることを明記して感謝いたします).

臨床経験

黄色靱帯石灰化腫瘤により腰部脊柱管狭窄を呈した1例

著者: 武藤弘幸 ,   田島健 ,   山川浩司 ,   坂本隆彦 ,   野沢佳弘 ,   若狭治毅 ,   長井靖

ページ範囲:P.627 - P.629

 抄録:われわれは黄色靱帯石灰化腫瘤により腰部脊柱管狭窄を呈した症例を経験したので報告した.症例は65歳女性で主訴は腰痛と間欠跛行であり,手術的治療で症状は消失した.組織学的に弾性線維の断裂部に石灰化がみられ,石灰化物質は主にHydroxyapatiteであった.腰椎部黄色靱帯はdystrophic calcificationを起こし易い解剖学的背景をもち,その発生機序は頸椎部発生例と同様と思われる.

硬膜内に脱出した腰椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 片岡祐司 ,   杉浦昌 ,   佐々木哲 ,   杉浦英志 ,   久原肇 ,   杉浦皓

ページ範囲:P.631 - P.635

 抄録:硬膜内脱出ヘルニアは,1942年Dandyが最初に報告して以来現在までに著者らの症例を含めて本邦17例海外49例と極めてまれである.著者らの経験した1例を文献的考察を加えて報告した.本病態の特徴は,40歳代に多く,既往に慢性の坐骨神経痛あるいは腰痛を有し,多くは急性の馬尾症候群のかたちで発症する.罹病部位はL4/5に多く,ミエロで完全ブロック像を呈すが,術前診断不能例が多い.一般に予後良好である.

小児足背Run Over Injuryの治療経験

著者: 紀平昌保 ,   木野義武 ,   服部順和 ,   笠井勉 ,   堀宗敏 ,   近藤喜久雄 ,   小出敬之 ,   小野芳裕 ,   木俣一郎 ,   山田高士 ,   中尾悦宏 ,   近藤精司 ,   岩田佳久

ページ範囲:P.637 - P.641

 抄録:過去12年間に小児の足背部run over injury 17例に対して,4例に遊離広背筋皮弁,1例にcross leg flap,12例に遊離植皮施行し,その手術方法,適応および長期成績について検討した.症例は,男9例,女8例,年齢は2歳-10歳,平均5.2歳.Follow up可能であったものは13例,期間は,5カ月-11年9カ月,平均5年5カ月.足関節可動域制限1例,母指以外の足指の伸展障害が3例に見られたが槌指は見られなかった.患指の成長障害が1例に認められたが,全例日常生活になんら障害がなかった.損傷が浅く,骨,腱,関節に及んでいない場合には,遊離植皮術で良好な結果が得られる.損傷が広範囲で深い場合には,遠隔皮弁が必要である.我々は,遊離広背筋皮弁移植術を4例に施行し,良好な結果を得た.筋皮弁採取部は縫縮可能な範囲にとどめ,骨,腱,関節露出部のみ被覆し,周囲の浅い軟部組織損傷は遊離植皮を行うほうが整容的にも望ましい.

脛骨内顆骨壊死に骨析を合併した1例

著者: 西川哲夫 ,   黒坂昌弘 ,   井口哲弘 ,   佐浦隆一 ,   廣畑和志 ,   金沢秀和

ページ範囲:P.643 - P.646

 抄録:膝の特発性骨壊死の脛骨発生例は極めて少ない.我々は脛骨内顆にみられた特発性骨壊死と思われる症例に骨折を合併した一例を経験したので報告する.患者は69歳女性で,自転車から降りた際に右膝部痛を自覚した.その後近医にて数回の関節穿刺およびステロイドの関節内注入を受けたが軽快せず,1カ月後にはX線上,骨折線および骨透亮像を認め,5カ月後には骨折部の陥凹をきたした.以上の症例に対し脛骨内穎骨壊死を疑い片側性人工膝関節置換術を施行した.骨折片および脛骨母床側の病理組織学的所見では典型的な骨壊死像,層状の添加骨形成が見られた.壊死病巣の広がりによってはcollapseのみならず,この例のごとく骨折を合併することがあるので,脛骨内顆骨壊死の早期の確定診断が重要であり疑わしい場合には慎重に経過を観察すべきである.

Ivory epiphysisの1例

著者: 和栗祐子 ,   植家毅 ,   高井康男 ,   宇佐美平雄 ,   石川敦 ,   杉浦保夫

ページ範囲:P.647 - P.650

 抄録:Ivory epiphysisとは,正常な形態であるが均一な濃度をもったhigh density epiphysisで,X線上骨梁構造の認められないものをいい,通常,第2-5指の末節骨および第5指中節骨にみられる骨変化である.この変化はnormal variantといわれているが,tricho-rhino-phalangeal syndromeなどの先天性骨系統疾患にも高頻度に認められるという報告もある.
 今回我々は,典型的なivory epiphysisの1症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
 本症例のivory epiphysisは,経過とともにdensityの低下がみられ,1年後にはほぼ正常の骨梁構造を呈する骨端核となった.

Methotrexateが著効を奏したMulticentric Reticulohistiocytosisの1例

著者: 中村憲正 ,   政田和洋 ,   越智隆弘 ,   木村友厚 ,   大脇肇 ,   脇谷滋之 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.651 - P.655

 抄録:われわれはMethotrexate(MTX)の経口投与が著効を奏したMulticentric Reticulohistiocytosis(MR)の1例を経験したので報告する.
 症例は40歳女性で,全指及び膝関節周囲にわたる皮膚腫瘤と関節炎症状を呈し,来院した.病変部の皮膚組織生検により真皮深層を中心に特徴的な多核巨細胞及び組織球の浸潤像を認め,その臨床像,組織所見から典型的なMRと診断した.慢性関節リウマチ患者への長期投与法に準じ,7.5mg/1.5日,5.5日休薬のクールでMTXの経口投与を開始した.投与2週目より発赤,腫脹の減少を,さらに投与後9カ月で肉眼的,組織学的に明らかな腫瘤の縮小と変性が認められた.

陳旧性上腕骨小結節単独骨折の2例

著者: 遠山晴一 ,   荻野利彦 ,   三浪明男 ,   岩崎公彦

ページ範囲:P.657 - P.660

 抄録:上腕骨小結節骨折は他の上腕骨近位端骨折,あるいは肩関節後方脱臼骨折に合併するのが大部分であり,単独骨折はまれである.著者らが渉猟し得た範囲では,本症は15例が報告されているに過ぎない.また,これら報告例のうち陳旧例の報告はLaBriolasら,Lorenzの報告の2例のみである.今回,著者らは陳旧性の上腕骨小結節単独骨折の2例を経験したので報告した.
 本症例のような陳旧性の上腕骨小結節単独骨折の診断は困難を伴う.しかしCT像による肩甲下筋腱の骨片への付着の確認により本症の診断は可能である.本症の治療において,肩甲下筋が退縮し解剖学的位置に同筋を修復することが困難であった症例では術後の成績は不良であった.これに対し肩甲下筋を修復できた症例の術後経過が良好であった.本症の治療では何らかの方法で同筋を修復することが必要であろう.

有鉤骨鉤骨折により発症した尺骨神経深枝麻痺の1例

著者: 山口利仁 ,   浜田良機 ,   戸島忠人 ,   天野力郎 ,   小山新太郎 ,  

ページ範囲:P.661 - P.664

 抄録:有鉤骨鉤骨折により尺骨神経深枝麻痺を生じた稀な1例を経験したので報告する.
 症例は47歳の男性,大工で,右環指と小指の伸展障害と右手の握力の減弱が出現し,他院で保存的治療を受けたが改善せず当科を受診した.初診時,右環・小指にclaw変形と内・外転障害さらに尺骨神経管の遠位に限局性の圧痛がみられ,握力は健側に比較し著明に低下していた.また手指の知覚障害はなかったが,母指内転筋や背側骨間筋群の萎縮が著明であった.なお圧痛部位は金鎚の柄の中枢端が絶えず当たる部位である.

Mycobacterium gordonae滑膜炎による深指屈筋腱断裂の1例

著者: 中川滋人 ,   政田和洋 ,   正富隆 ,   河井秀夫 ,   川端秀彦 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.665 - P.668

 抄録:腎移植後に極めて稀なMycobacterium gordonaeによる滑膜炎を合併し左環・小指深指屈筋腱断裂をきたした1例を報告する.症例は37歳主婦で,過去2度にわたり生体腎移植を受け約5年間免疫抑制療法を受けていた.左手関節部腫脹と左環・小指屈曲障害を主訴として受診し,手術の結果Mycobacterium gordonaeによる化膿性滑膜炎が証明された.

多発性骨軟骨腫症に随伴した両環指爪下外骨腫の1症例

著者: 米村憲輔 ,   泉伸治 ,   高木克公 ,   土屋立昭 ,   堤隆治 ,   東一成

ページ範囲:P.669 - P.671

 抄録:爪下外骨腫は手指・足趾の末節骨に発生する良性骨腫瘍であり,国内外を含めてかなりの報告例がみられる.しかし多発性骨軟骨腫症の随伴病変として発生した爪下外骨腫の報告は極めて少なく,非常に稀なケースと考えられる.今回13歳男子,多発性骨軟骨腫症の患者に発生した両環指爪下外骨腫を経験したので文献的考察を加えて報告する.

下肢症状を呈した平山病類似症例の経験

著者: 片山耕 ,   梅藤千秋 ,   佐藤幸宏 ,   小野寺信男 ,   保田雅憲 ,   原田吉雄

ページ範囲:P.672 - P.677

 抄録:若年に発症し,前腕遠位部に限局する特異な筋萎縮を主症状とし,経過が極めて緩徐で病状が停止性の疾患は,これまで若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)として報告されてきた.今回,平山病類似の所見を呈し,下肢症状を伴った極めて稀な1例を報告する.症例は,19歳男性である.右上肢脱力感,筋萎縮を主訴とし,下肢のもつれ,つっぱり感も生じてきた.右上下肢の筋力低下,右上肢の筋萎縮,下肢腱反射亢進,Babinski反射を認めた.頸椎前屈位にてQueckenstedt test陽性を示した.脊髄造影,CT myelographyでは,C4-6レベルで頸椎屈曲位にて脊髄は前方移動し椎体後面に強く圧着され,著明な萎縮を示していた.MRIでは,硬膜後方に高信号領域を認めた.頸椎前彎形成を目的としてC3-6の前方固定術を施行し,術後神経症状の改善を認めている.

追悼

東 陽一先生

ページ範囲:P.678 - P.678

御略歴
本 籍 静岡県御殿場市東田中1705-1
現住所 同上

脊髄外科の開拓者東陽一先生を偲びて

著者: 天児民和

ページ範囲:P.679 - P.679

 東先生は大正11年東大を卒業して外科の助手を3年して欧州に留学,その時神中先生も留学中で東先生が帰国後結核病院を開設する希望を話した時に結核は骨,関節にも多いので整形外科の知識が必要と教えられ,神中教授が大正15年に九大に着任せられた後に昭和3年に東先生が来て講師になられた.その頃浅田為義助教授がドイツに留学中に病気になり帰国後静養のため郷里に帰ったので,昭和5年には東講師が助教授となられた.当時,北九州には炭鉱が多く落盤事故で脊髄損傷が頻発したので,その研究を重視して東先生もミエログラフィーの研究をせられ,私も東先生の御指導を受け造影剤によるミエログラフィー障害を調査しこれが私の最初の論文となった.東先生は脊髄外科の研究を進め,昭和7年日本整形外科学会で「ミエログラフィーと脊髄外科」のテーマで宿題報告をして椎間板ヘルニヤによる坐骨神経痛の手術に成功した.これが日本の椎間板ヘルニヤの最初の手術成功例である.この成功例により,それまで坐骨神経痛は多くは内科を受診していたのが整形外科に来るようになり,東先生の活躍により整形外科の領域が広くなった.この時の報告は医学雑誌のグレンツゲビートに発表せられたが,これが戦後廃刊になったので東先生の功績が広く知られていないので昭和57年に私が東先生と対談して『臨床整形外科』(第17巻3号)に詳しく記載した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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