icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科25巻7号

1990年07月発行

雑誌目次

巻頭言

第5回日本整形外科学会基礎学術集会開催するにあたって

著者: 廣畑和志

ページ範囲:P.795 - P.796

 昭和48年,当時整形外科の基礎的研究の最先端を担う有志が名古屋に集まって,世話人会が構成され“整形外科基礎を語る会”が開かれた.その後は年とともに全国規模の研究会へと発展したのである.紆余曲折はあったが,これを継承して昭和61年に日本整形外科学会基礎学術集会が赤星会長のご努力で発足し,本年で5回を数えることになった.今では1万5千名に近い会員を擁する日本整形外科学会の基礎科学部門の振興と医学知識の発展に寄与する学会に至ったのである.
 整形外科のbasic researchは治療学優先の道を選んだためか,他学会の後塵を拝した感がないとはいえない.これを物語る如く,基礎分野で突出する関連領域の癌治療学会,炎症学会,化学療法学会などの会員や参加者は極めて少ないのである.これにはそれなりの理由があると思われる.かつては外科の中の一つのdivisionとして周囲から扱われる中で,先賢達が真の整形外科学を確立するため精進努力したための歪かも知れない.その過程では,地味な基礎研究より華やかな“メス”を取る道が選ばれたとしても不思議ではない.

論述

特発性大腿骨頭壊死症に対する大腿骨内反骨切り術の成績

著者: 松本修 ,   増田武志 ,   松野丈夫 ,   長谷川功 ,   山口秀夫 ,   佐藤和彦

ページ範囲:P.797 - P.804

 抄録:特発性大腿骨頭壊死症に対して施行した大腿骨内反骨切り術の成績を検討し,その適応について考察した.症例は17人20股で,経過観察期間は平均5年10ヵ月であった.評価は臨床症状およびX線所見より行い,可は臨床症状がなく,collapseの進行のないもの,不可は臨床症状があるか,collapseの進行を認めるものとした.全体の成績では可が14股,不可が6股であった.術前の病期および側面像における壊死範囲と成績は相関しなかった.最も成績を左右したのは,術後の荷重部に占める大腿骨頭正常部の割合(LHOI)の値であり,LHOIが20%以上の例に可が多く,内反骨切り術の適応があると考えられた.可の例の多くに術後壊死域における骨硬化像が増大し,このことは壊死域の修復像と考えられた.以上より,正面像における壊死域が広範でも,骨頭外側に正常部が温存されている症例に,内反骨切り術の適応があると考えられた.

脊椎巨細胞腫に対する外科的治療

著者: 四方實彦 ,   清水克時 ,   清水和也 ,   琴浦良彦 ,   秋山治彦 ,   山室隆夫

ページ範囲:P.805 - P.812

 抄録:1984年から1988年の間に比較的手術困難な上位頸椎,上位胸椎,仙骨に発生した3例の巨細胞腫に対し,腫瘍摘出,再建術を施行した.第3頸椎発生例は33歳,男性で,他院にて病巣廓清術,骨移植術を受けたが,約4ヵ月後に再発,高度四肢麻痺,呼吸困難となり緊急手術で後方除圧を行い,続いて前側方より下顎骨を一時的に切除して進入,病巣廓清,骨移植術を施行した.第1胸椎例は48歳,女性で,左第1肋骨にかけた巨大な腫瘍であった.前方,後方,側方より腫瘍摘出,再建術を施行した.仙骨例は34歳,男性,放射線治療無効例で3回に分けて仙骨全摘出,再建術を施行した.頸椎例,胸椎例には術後,放射線治療を追加した.脊椎巨細胞腫に対しては,術前の画像診断に基づき,腫瘍存在部位を的確に把握し,腫瘍の完全摘出と適切な脊柱再建術を施行することが必要である.

膝前十字靱帯損傷に対する一次修復術の成績―2年以上経過例の定量的評価

著者: 遠山晴一 ,   安田和則 ,   青木喜満 ,   大越康充 ,   金田清志

ページ範囲:P.813 - P.819

 抄録:前十字靱帯(以下ACL)新鮮損傷に対して一次修復術を行い,平均3.5年(2-8年)を経過した症例25例25膝(男13,女12)を追跡調査した.術後調査時,Lachman testが52%,前方引き出し試験が48%,jerk testが72%で陰性化した.knee laxity testerによるanterior laxityのscattergramを用いた解析では,45%が「正常」の評価であった.断裂部位別成績ではanterior laxityのscattergramを用いた解析にて「正常」と評価された症例は,実質部断裂例で0%,遠位付着部断裂例で50%,近位付着部断裂例で64%であった.
 近年のACL再建術の成績を考慮した時,実質部断裂例には一次修復の適応がなく,遠位および近位付着部断裂例に関しても適応は著しく制限されるものと考えられた.

手舟状骨骨折に対するRusse法の検討

著者: 阪田泰二 ,   益田泰次 ,   石田治 ,   林淳二 ,   村上恒二 ,   渡捷一 ,   生田義和 ,   津下健哉

ページ範囲:P.821 - P.829

 抄録:手舟状骨骨折に対して30例31手にRusse法を施行し,術後成績を検討した.直接検診し得た症例は25例26手で,男性20例21手,女性5例,右手11例・左手14例15手,受診時年齢は16~53歳,平均25.2歳である.受傷から手術までの期間は21日~8年4カ月,平均1年5カ月,術後経過観察期間は2カ月~16年5カ月,平均6年4カ月である.手術はRusse法のみが19例であった.ギプス固定期間は平均64.0日で,不安定型では骨癒合に長期間を要す傾向があったが,偽関節症例は1例もなく癒合率は100%と良好であった.手関節の可動域で健側と比較すると,掌屈・背屈に制限がみられているものが多い.疼痛,可動域,握力については小島らの成績判定基準を用いると,疼痛の改善度が最も著明で,可動域の改善度が最も劣っていた.術前期間と成績の間には有意の差はみられなかった.術後経過と成績の関係は1年以上経過した症例に成績良好例が多かった.

足関節果部骨折分類の検討―Lauge-Hansen分類とKelikian分類の比較

著者: 猿渡勝義 ,   井上博

ページ範囲:P.831 - P.837

 抄録:足関節果部骨折について,現在,最もよく使用されているLauge-Hansen分類(以下L-H分類)の妥当性を調査するとともに,Kelikian分類と比較し,両者の治療上の有用性につき検討した.対象症例は41例41骨折で受傷時の足関節の肢位が判明したものは12例(29.3%)と少なかった.Kelikian分類は単純X線のみで分類し,L-H分類は単純X線分類に加えて,想定される受傷機転と同方向へのstress撮影を行った.
 L-H分類の単純X線分類での分類不能例は29.2%,stress撮影による分類不能例も15.0%を占め,特にsupination external rotation(以下SER)損傷とpronation abduction(以下PA)損傷,PAとpronation external rotation(以下PER)のlow stageの損傷の区別が出来にくい傾向を示した,一方,Kelikian分類は単純X線のみで十分分類可能であった.即ち,Kelikian分類は簡潔で,単純X線での明確な分類が可能であり,彼の述べる多因子損傷を十分理解して治療にあたれば,極めて有用な分類と思われる.

アキレス腱皮下断裂に対する装具療法

著者: 古府照男 ,   茂手木三男 ,   原田孝 ,   阪元政郎 ,   篠原祐之 ,   黄興明

ページ範囲:P.839 - P.844

 抄録:アキレス腱皮下断裂の新鮮例47例に対して自家製軟性polypropylene樹脂製足関節背屈制限装具療法を行った.治療方法は大腿~足ギプス包帯固定を1週,膝上装具2.5週,膝下装具5週間装着させ,膝下装具3週後には夜間除去とした.受傷後6カ月以上経過した41例の追跡調査から,Thompson's squeeze testの陰性化は平均3.2週,delleの消失も平均3.8週で確認された.4ヵ月のxerogramで完全癒合が確認され,ADLが受傷前に復するのに平均6.6カ月を要したが,ギプス固定が短期間で筋腱移行部断裂例では早期の改善が得られた.残存愁訴は軽微で,局所所見も全例がほぼ受傷前に復した.原職復帰は平均6.1週,スポーツ活動は平均7.8ヵ月で17例が復帰し,殊に付着部付近の断裂例以外では早期に可能であった.本法は表面筋電図からも下腿筋は免荷の状態にあり,入院を要せず,早期の後療法開始と社会復帰が可能であり,拘縮を残した症例や再断裂例もなかった.

認定医講座

特殊X線診断(各種造影法)

著者: 大和実 ,   西村玄 ,   藤岡睦久

ページ範囲:P.845 - P.852

はじめに
 近年,電子工学の進歩に伴って様々な画像診断法が開発され,その進歩の速さには目を見張るものがある.整形外科領域の画像診断法も種々あるが,各画像診断法の特徴,適応を充分知り,医師の知的興味を満たすだけの検査は厳に慎まねばならない.本稿では誌面の都合上,特殊X線診断のうち,核医学検査,CT,超音波検査(US),血管造影,MRIについて,各検査法の特徴,適応を中心に解説する.

麻酔・輸血・輸液・蘇生術

著者: 川添太郎 ,   川崎潤 ,   宮尾秀樹 ,   重松俊之

ページ範囲:P.853 - P.859

I.麻 酔
 麻酔には表1のごとく多くの方法がある.誌面の関係で,これらすべての説明は不可能なので,主なものについて解説する.

整形外科を育てた人達 第83回

田代義徳教授(1864-1938)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.860 - P.862

 田代義徳先生は日本の整形外科の開祖であり,Orthopaedische Chirurgieを整形外科と訳されて今日の偉大な発展を遂げた最初の指導者であるので,先生の伝記を早く書くべきであったが,今まで私は執筆するのを遠慮してきた.というのも,昭和50年に東京大学の整形外科開講70周年記念会が開催され,その時に「田代義徳先生,人と業績」と題した先生の伝記が出版されているためである.この編集は津山直一教授がなされた.また田代先生については医学史に詳しい蒲原宏博士が執筆されている.
 元来,田代先生は足利市外田中村の田部井森平の三男として生まれたが,19歳で田代家の養子となり,田代基徳の長女春子と結婚した.里田代家は大分県中津の出身であり,中津の川島直人氏がこの方面の調査をしておられるので,このことを紹介することにしたい.

臨床経験

腰椎椎間板ヘルニアに対するいわゆるLove法術後同高位再発の2例

著者: 堀田芳彦 ,   渡部仁一 ,   加藤浩 ,   松岡正裕 ,   都築暢之

ページ範囲:P.863 - P.868

 抄録:1)腰椎椎間板ヘルニアに対する,いわゆるLove法による開窓術後,同高位再発の2例を報告した.
 2)症例1は,27歳,男で,初回手術後約3年にて同高位反対側へ再発した.再手術時摘出病理組織標本では,大部分が髄核組織であった.症例2は,42歳,男で,初回手術後約11か月にて同高位へ再発した.摘出病理組織標本では,初回手術時が大部分線維輪,再手術時が大部分髄核であり,共に軟骨板組織が散見された.

頸椎脊柱管拡大術後に網膜中心動脈閉塞を来した1例

著者: 加川明彦 ,   横山裕志 ,   大田寛 ,   水野薫

ページ範囲:P.869 - P.873

 抄録:手術中の合併症としての網膜中心動脈閉塞の報告は本邦ではない.今回,頸椎脊柱管拡大術後に網膜中心動脈閉塞を来した症例を経験したので報告する.
 症例は54歳の男性で,外傷を契機に両下肢の脱力感および両手の巧緻性障害が出現し,当科で精査の上,頸椎脊柱管拡大術を施行した.術後に右眼の視力低下を来し,眼底所見より網膜中心動脈閉塞の診断を得た.ウロキナーゼ投与を行ったが,視力の回復は認められなかった.

急激に麻痺を生じた前立腺癌胸椎硬膜外転移の1例

著者: 森田裕己 ,   笹尾満 ,   能登谷元

ページ範囲:P.875 - P.878

 抄録:前立腺癌ではしばしば脊椎転移により脊髄圧迫症状を来すことがあり,またDICを合併することもある.しかし両者の合併は極めて稀である.今回われわれは出血傾向を伴い急激に両下肢の運動麻痺を来し,胸椎椎弓切除と硬膜外転移骨性腫瘤の切除を行った1例を経験した.急激な麻痺の原因は,前立腺癌の転移による脊髄の慢性圧迫に硬膜外出血による急性圧迫が加わったことが考えられるが,前脊髄動脈の血栓の合併も否定できなかった.

Battered Child Syndromeと鑑別を要したOsteogenesis Imperfectaの1例

著者: 笠井裕一 ,   久志本忠彦 ,   西村英也 ,   山川徹 ,   西村淳喜 ,   伊藤晴夫 ,   今原敏博 ,   老谷嘉市 ,   荻原義郎

ページ範囲:P.879 - P.882

 抄録:2歳10ヵ月女児,計6回の大腿骨骨折と多発の脊椎,肋骨骨折を認め,両親の養育態度が悪いためbattered child syndromeと鑑別を要したosteogenesis imperfectaの1例(Sillence分類type IVa)を報告した.battered chid syndromeとosteogenesis imperfectaの鑑別点について文献的考察を加え,本例では長管骨骨折の部位が骨幹部で,脊椎病変を有していることが両者の鑑別の一助になったと考えられた.またbattered child syndromeが強く疑われる場合には,患児を養護施設に一定期間入ることを勧めるのも鑑別上有用であると思われた.

Neurofibromatosisに合併した多発性脊髄腫瘍の1例

著者: 倉都滋之 ,   冨士武史 ,   白崎信己 ,   久保雅敬 ,   濱田秀樹 ,   川合省三 ,   西谷昌也

ページ範囲:P.883 - P.887

 抄録:我々は,von Recklinghausen's diseaseに合併し,全脊柱管レベルに多発した脊髄のneurofibromaを経験したので報告する.症例は45歳,男性である.小児期より全身にcafé au lait spotsと多発性皮下腫瘤を有し,皮下腫瘤は生検でneurofibromaと診断されていた.昭和61年10月より歩行障害,手指巧緻運動障害が出現し,その後膀胱直腸障害も出現したため,昭和62年3月当科に入院した.myelogramおよびCTMで全脊柱管レベルに多発する脊髄腫瘍が確認された.頸髄レベルの硬膜内髄外および硬膜外腫瘍を切除し,片開き式脊柱管拡大術を施行した.3カ月後に馬尾神経レベルの硬膜内髄外腫瘍を切除し,腰椎椎管拡大術を施行した.頸部手術後,上下肢の症状は改善し,また腰部手術後,膀胱直腸障害も改善傾向を示している.

両下肢麻痺を呈した胸椎グロムス腫瘍の1例

著者: 別所康生 ,   片岡治 ,   庄智矢 ,   北沢荘平 ,   岡田聡

ページ範囲:P.889 - P.892

 抄録:症例は49歳の男性で,主訴は歩行障害である.胸椎単純X線像で第2胸椎に骨破壊像が認められ,上行性および下行性脊髄腔造影像ではそれぞれ第2胸椎の下縁・上縁にてブロック像が示された.脊椎腫瘍の診断の下に肋骨横突起切除術による腫瘍摘出術および椎体間固定術が施行され,神経症状はほぼ完全に回復した.しかしその後,症状の再発がみられ術後約5年半で起立不能となった.胸椎椎弓切除術による腫瘍摘出術および脊椎後方固定術を施行した.病理組織では小血管をとり囲んで上皮様細胞がシート状に増殖していた.以上より脊椎原発のグロムス腫瘍と診断した.日本整形外科学会全国骨腫瘍患者登録〈1972-1987〉では31名の骨原発グロムス腫瘍患者が登録されている。また,検索した範囲では自験例を含め12症例の報告がみられているが,いずれにおいても脊椎原発のグロムス腫瘍の報告例はなく,脊髄症状を呈した最初の報告例であると思われる.

上腕骨延長術の経験

著者: 西坂米昭 ,   佐藤正泰 ,   河本正昭 ,   杉谷繁樹 ,   吉田正弘 ,   寺脇之博 ,   西原秀紀

ページ範囲:P.893 - P.896

 抄録:幼小児期に上腕骨近位骨端線離開を受傷したために,内反上腕を来し,約6cmの上肢長差を生じた12歳の女子に上腕骨の延長術を行った.Orthofix脚延長器を使用し,5cmの骨延長を行った.手術は後方進入路により上腕骨に達し,橈骨神経を保護しつつ骨切りを行った.1日に約0.8mmの割合で延長を行った.肘関節に運動制限は起こらず,手指運動も正常で,機能的にも,美容的にも,その結果は,満足できるものであった.

馬尾に発生したparagangliomaの1例

著者: 八木和徳 ,   林侃 ,   皆川泓義 ,   中村尚 ,   小林徹 ,   武田和男 ,   岡崎悦史

ページ範囲:P.897 - P.899

 抄録:馬尾腫瘍としては稀であるparagangliomaの1例を報告する.症例は38歳の女性.数年来の腰痛,右下肢痛のため腰椎椎間板ヘルニアの診断で入院.軽度の腰椎前屈制限と腰椎棘突起の圧痛以外格別の所見はなかった.髄液がxanthochromaiaを呈し,上行性myelographyで騎袴状陰影欠損を認め硬膜内髄外腫瘍と診断した.腫瘍は母指頭大,暗赤色,易出血性で1本の馬尾と硬く癒着し,割面は実質性で所々に出血斑が認められた.組織は腫瘍細胞が胞巣状に増生したいわゆるZellballen構造を示していた.Grimelius染色陽性顆粒は電子顕微鏡的に直径が130~150nmのdense core granuleで神経分泌顆粒の形態を示しており,paragangliomaと診断された.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら