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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科25巻8号

1990年08月発行

雑誌目次

視座

幾何学の心と繊細な心

著者: 山本吉藏

ページ範囲:P.903 - P.903

 ひとは繊細な心と幾何学の心を持つといわれる.この言葉は,確かパスカルのパンセ(瞑想録)の中にあったように記憶している.その言葉の表現は,瞑想録のオリジナルと多少違っているかもしれないが,この一対の言葉が,私の心の片隅に以前から住みついている.
 このパスカルの言葉は,整形外科医にとっても味わいのある言葉であろう.整形外科はbone and joint surgeryといわれるごとく,人体に対して幾何学的作業を行う外科である.その代表的なものは,骨切り術,人工関節術であり,また,脊椎の手術でもある.特に,骨切り術では内・外反の角度や,回旋・回転角度の正確さが必須であり,人工関節手術においてはインプラントの設置角が予後を左右する.したがって,術者には精密な幾何学的な心が要求される.一般外科の手術操作には大なり小なりこのような心が必要とされるが,整形外科では特に重要で,整形外科独得なものといっても過言ではない,術直後には必ずX線像により出来上がった画像の評価を行い,この結果で,術者は満足したり,不満足でいつまでも気に掛かり落ち着けないこともある.

論述

脊髄症状を呈する頸椎椎間板ヘルニアの手術成績とCTDの有用性について

著者: 庄智矢 ,   片岡治 ,   鷲見正敏 ,   藤田雅之 ,   別所康生

ページ範囲:P.904 - P.910

 抄録:手術にてヘルニア塊を確認しえた頸椎椎間板ヘルニア症例64例と,画像診断により椎間板ヘルニアと診断したがヘルニア塊を確認しえなかった症例9例の計73例について分析し,その手術成績および手術成績を左右する因子につき検討した.
 CTDは,ヘルニア塊の後縦靱帯に関する位置関係の詳細な情報を提供し,手術部位の決定およびきめ細かい手術手技の選択に有用な検査法である.その手術成績は,優39例,良21例であり,それぞれ53%,29%,合計82%が良以上の成績であり,頸椎症性脊髄症よりも良好な結果を示した.

上腕骨近位端骨折に対する創外固定法

著者: 坂本雅昭 ,   重広信三郎 ,   井合洋 ,   豊口透

ページ範囲:P.911 - P.918

 抄録:上腕骨近位端骨折の中でも転位が高度な症例は,整復位の獲得やその保持に対しさまざまな方法がなされてきたが,いずれもまだ改善すべき点が残されている.そこでわれわれは,小さな侵襲で整復固定が得られないものかと創外固定法を試みた.1982年10月より1989年3月までの本法施行例は16例16肩で,受傷時年齢は60歳から87歳,平均75.0歳であった.そのうち追跡調査可能であった9例を対象とし,日整会肩関節評価試案に基づいて評価を行った.総合評価は平均90.3点,疼痛は平均27.4点,機能は平均18.4点,可動域は平均25.0点,X線所見評価は平均4.4点,関節安定性は全例15点であった.創外固定法は管理が容易で患者の負担も少ない上に,固定性も良好で,その結果早期運動療法をも可能とする極めて良好な方法である.本法の報告は1987年Kristiansenらによるものがあるが,現在われわれが行っている手術手技とは若干の相違があるため,両者を比較検討し報告した.

Duchenne型筋ジストロフィーの脊柱変形―その進行の縦断的研究

著者: 小田剛紀 ,   鍋島隆治 ,   米延策雄 ,   清水信幸 ,   藤原桂樹 ,   小野啓郎 ,   姜進 ,   槙永剛一 ,   塚本美文

ページ範囲:P.919 - P.928

 抄録:Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の脊柱変形に対する外科的治療の適応を検討するため,その自然経過を縦断的研究により分析した.DMD 46例のX線像(kyphotic index,Cobb角など)を経時的に計測した.また,呼吸機能と脊柱変形の関係を,努力肺活量計測から調査した.X線での追跡期間は平均7年4ヵ月.脊椎変形は経時的推移から3型に分類できた.後彎と側彎が進行していく群(type 1:21例)は15歳までにCobb角が30度に達し,その後は必ず進行をみた.初期には後彎であるが,11~15歳で前彎に移行し,最終的に過伸展となる群(type 2:18例)は,Cobb角の推移にはばらつきがみられた,経時的変化の少ない群(type 3:7例)はCobb角が30度以下で経過した.呼吸機能はtype 3が他に比べて良く,努力肺活量の最大値は2000mlを越えていた.以上より手術適応は,Cobb角30度に達したtype 1にあり,type 3にはない.type 2は過伸展予防の面から今後の検討を要した.

10歳代の腰椎椎間板ヘルニアの検討―手術例の検討

著者: 矢島敏晴 ,   篠原寛休 ,   藤塚光慶 ,   堂後昭彦 ,   佐久間博 ,   邱金澄 ,   守矢秀幸 ,   飯田哲

ページ範囲:P.929 - P.935

 抄録:10歳代の腰椎椎間板ヘルニア手術施行23症例について検討した.外傷性誘因が52%に認められた.神経学的所見は,成人に比して乏しい傾向があった.ヘルニア高位はL4-5が最も多く,protrusionが57%で,ring apophysisの解離が2例(いずれも13歳)に認められた.平均5年5ヵ月の術後成績はおおむね良好であった.術前のSLRが20゜以下であると,術後も制限を残す傾向があった.術前にHüftlendenstreckstelfeがあった例(A)となかった例(B)とを比べると,Aでは18歳以上の症例でSLRが制限され,原因はHüftlendenstrecksteifeの残存であった.BにおけるSLR制限の原因はsciaticaの残存であった.術後,椎間腔狭小化の後に拡大を示した2例は,骨年齢から判断して成長の途上であり,外傷性誘因により破綻を来した椎間板が,修復されたものと推察した.この2例は,ring apophysis解離の2例と共に,Aの中のSLR回復良好例に属していた.

再発性脊髄腫瘍

著者: 清水克時 ,   四方實彦 ,   小林雅彦 ,   藤田裕 ,   山室隆夫

ページ範囲:P.937 - P.942

 抄録:過去13年間に京都大学整形外科で手術を行った脊髄良性腫瘍54例のうち,再発性腫瘍に対する手術は7例(13%)で,初回手術から再手術までの期間は平均8年1ヵ月であった.再発性腫瘍に対する手術の成績は,優1例,改善4例,不変1例,肺塞栓による死亡1例であった.これらの症例について,再発に結びつく要因を調べた.再発性脊髄腫瘍の病理組織診断は,neurilemmoma 4例,meningioma,astrocytoma,epidermoid cyst各1例で,組織診断と再発の間には有意の関連はなかった.一方,病変部位を脊髄と馬尾とに分けてみると,馬尾腫瘍では7例中3例が再発例で,脊髄腫瘍に比べ有意に再発率が高かった(P<0.05).7例中6例では,初回手術として全切除ができずに可及的切除を受けたか,または馬尾腫瘍であるかのいずれか,あるいはその両方に該当することがわかった.以上の結果から,画像診断,外科的手段を駆使して,初回に全切除を心がけることが,再発を防ぐ上で重要であること,また馬尾腫瘍では,再発を念頭においた長期の経過観察が必要であると結論した.

上肢発生の悪性軟部腫瘍について

著者: 姥山勇二 ,   山脇慎也 ,   井須和男

ページ範囲:P.943 - P.950

 抄録:当科で扱った255例の悪性軟部腫瘍中,上肢発生例は48例(18.8%)である.発生部位では,前腕16例(33.3%)と上腕13例(27.0%)が多い、組織型では,MFH 13例(27.0%)や横紋筋肉腫12例(25.0%)が主で,脂肪肉腫は4例(8.3%)と上肢には少ない傾向を示した.行われた術式では,根治広切よりも切離断の方が多く,特に再発例にその差が顕著である.48例中23例が腫瘍死しており,その死因では17例(73.9%)が肺転移である.下肢のそれと同様原発巣の治療の他にadjuvant chemotherapyの必要性も認められた.上肢ではその機能損傷の重大性とその代償作用の困難性とから,外科的治療に当たって患肢の機能温存を意識せざるを得ない面を多くもつ.腫瘍の発生部位によっては併用療法による機能温存療法も考慮すべきであるが,どの部位にせよ手自体の機能がどれ程有用に残せるかが,上肢における治療上の最大のポイントである.

認定医講座

骨格筋の構造と機能

著者: 埜中征哉

ページ範囲:P.951 - P.956

I.ヒト骨格筋の光学顕微鏡像
 骨格筋細胞(筋線維)は細長い多核の細胞である.筋生検をして病理学的に検索する時は筋の横断面を使用する,最も頻度高く生検される上腕二頭筋,大腿四頭筋,腓腹筋の横断面をみると,円形ないし多角形の筋線維が数10ないし数100本集まって筋束(muscle fascicle)を作っている(図1).筋束の周囲の結合織は,周鞘(perimysium)と呼ばれ,この周鞘の中には筋紡錘(muscle spindle)や末梢神経束がみられる.
 個々の筋線維は成人では直径60μm前後で,ごく軽度の大小不同をもつ正規分布を示す.筋線維径は年齢によって異なり,新生児では10μm前後である,筋線維は多核で,筋の横断面をみても,1本の筋線維内の辺縁に複数の核をみることができる.正常人ではほとんどすべての核は筋鞘膜下にあり,胞体の中心部(中心核)はみられない.中心部に核をみるのは胎児期の筋と,筋緊張性ジストロフィー,再生筋,ミオチュブラーミオパチーなどの病的筋の時である.

解剖学,四肢計測法,MMT

著者: 花岡英弥

ページ範囲:P.957 - P.963

I.解剖学
 整形外科領域の解剖学と言っても,その範囲は広いので,今回は私の専門とする骨腫瘍の手術に関係する四肢の解剖を中心に述べることとする.

整形外科を育てた人達 第84回

Charles Bell(1774-1842)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.964 - P.966

 Charles Bellは既に100年以上の昔に亡くなられた学者であるが,当時に手の機能に着目して,1833年にThe Handと題する著書を出版して,運動機能は神経に支配されている事実を研究した有能な学者であった.William Harveyが血液循環の機構を明らかにしたのに劣らない,英国の生んだ偉大なる学者であると言われている.

臨床経験

稀な小児上腕骨内顆骨折の1例―内側上顆骨折と見誤った陳旧例

著者: 荻野透 ,   田中正 ,   李元浩 ,   篠原裕 ,   林宗寛

ページ範囲:P.967 - P.971

 抄録:内側上顆骨折と見誤った小児上腕骨内顆骨折の陳旧例を経験したので報告した.症例は4歳の男子で,他医にて内側上顆骨折と診断され保存療法を受け,受傷後1ヵ月で当科を初診した.陳旧性上腕骨内側上顆骨折と考え理学療法を継続したが,肘関節可動域が伸展-70゜,屈曲130゜と伸展障害が著明なため,3ヵ月後手術を施行した.手術時所見にて骨片は内側上顆及び滑車の大部分を含み,上腕骨内顆骨折の診断を得た.Kirschner鋼線にて固定,術後10ヵ月の現在,関節可動域は伸展-10;屈曲130゜と改善した.
 本邦における内顆骨折の報告は過去30年間で7文献9例と非常に少ない.

腓腹筋内側頭内に発生した筋肉内ガングリオンの1症例

著者: 重野陽一 ,   原田憲正 ,   大西純二 ,   中村宣雄 ,   福島美歳 ,   山根哲実 ,   片山正一

ページ範囲:P.973 - P.975

 抄録:腓腹筋内側頭腱様部に発生し,関節と交通を有しない筋肉内ガングリオンの1例を経験したので報告する.症例は58歳,男性,左下腿後内側部の腫瘤を主訴に来院した.良性腫瘍を疑い手術的に摘出した.腫瘤の大きさは,10.5×1.5×1.5cmの数珠状を呈し,両端は盲端であった.内容物はゼリー状で病理組織学的にはガングリオンであった.筋肉内ガングリオンの発生機序としては,滑液膜の破綻による周囲組織への滑液の漏出あるいは滲出により,線維性結合織の中に滑液が貯留し,粘液様変性を呈すると考えられる.

骨形成を伴った手部parosteal lipomaの1例

著者: 藤井正司 ,   裏辻雅章 ,   前田昌穂 ,   水野耕作

ページ範囲:P.977 - P.981

 抄録:骨変化を伴った手部脂肪腫,いわゆるparosteal lipomaの1例報告.症例は54歳,女性.主訴は左手背部腫瘤.X線像およびCT像にて脂肪腫の中に第1中手骨より樹枝状の異常骨形成を認めた.摘出標本では肉眼的に脂肪腫の中に骨が形成されていたような感じであった.病理所見では腫瘍は成熟した脂肪組織からなる脂肪腫で,骨の突出した部位での脂肪腫と肥厚した骨膜の間には明瞭な境界はなく,異常骨形成は脂肪腫による骨膜性骨新生と考えられた.文献的にparosteal lipomaの報告は外国文献では15例あるが,本邦ではこの報告が最初である.

二分脊椎に合趾症,絞扼輪症候群,糖原病を伴った1例

著者: 二井英二 ,   横角健二 ,   原親弘

ページ範囲:P.983 - P.987

 抄録:11歳女児で,二分脊椎に両足の合趾症が合併し,左手の絞扼輪症候群,さらに糖原病を伴った極めて稀と思われる症例を経験したので報告した.二分脊椎,合趾症,絞扼輪症候群,糖原病はそれぞれ極めて稀な先天異常であり,それらすべてを合併した症例は,過去に報告はみられない.二分脊椎,絞扼輪症候群,合趾症など,四肢の外表性奇形の原因に関しては内因性,外因性,様々な説が述べられている,神経系及び四肢の表現型の異なる奇形が合併したことより,催奇形因子の作用時期の差は勿論のこと,発生期における奇形部位の催奇形因子に対する感受性の違いを示していると思われ,本症例の奇形発生においては,内的因子の関与が極めて大きいと考えられた.また,糖原病の合併も,内的因子の関与を示唆しているものと思われた.

脊髄空洞症による神経病性肩関節症の3例

著者: 倉都滋之 ,   冨士武史 ,   竹本勝一 ,   増田達之 ,   白崎信己 ,   久保雅敬 ,   濱田秀樹

ページ範囲:P.989 - P.993

 抄録:脊髄空洞症による神経病性肩関節症を3例経験したので報告する.
 症例1:50歳,女性.主訴は左肩関節の腫脹.X線上左上腕骨骨頭と肩甲骨関節窩に骨破壊像を認めた.神経学的所見と臨床経過より本症と診断し,外来で経過観察中である.

手指全CM関節脱臼の1例

著者: 杉浦英志 ,   杉浦昌 ,   片岡祐司 ,   佐々木哲

ページ範囲:P.995 - P.999

 抄録:母指を含む手指全CM関節脱臼は,1873年,Rivingtonの報告以来,われわれの渉猟し得た範囲では13例にすぎない.今回われわれは,この極めて稀とされる手指全CM関節脱臼の症例を経験した.
 症例は22歳,男性で,オートバイ運動中ワゴン車と衝突し受傷.X線所見にて左手全CM関節の背側脱臼を認めた.全身状態が不安定であったため徒手整復を行い,ギプス固定とし10週間の固定後積極的な後療法を開始した.受傷後6ヵ月の現在では,左手関節,手指のROM制限や疼痛もなく,ADL上特に支障はない.本症例において,第2-第5CM関節の背側脱臼は,ワゴン車と衝突した際,手関節をやや掌屈位にて急ブレーキをかけ,この時,中手骨頭部に強いインパクトを受けた結果,中手骨基部に背側方向へのcounter forceを生じたためと考えられた.また,第1CM関節の背側脱臼は指間部のハンドルバーによる直達外力が原因と思われた.

人工股関節抜去後の機能評価

著者: 川村正英 ,   井上一 ,   花川志郎 ,   横山良樹 ,   長島弘明

ページ範囲:P.1001 - P.1003

 抄録:全人工股関節置換術(THR)後抜去のやむなきに至り,Girdlestone関節形成術と同じ状態になった症例について,歩行機能を中心に評価した.1975年以来私たちが扱った.THR抜去症例,8例9関節を対象として,直接検診を行った.原疾患は慢性関節リウマチ(RA)4例5関節,変形性股関節症(OA)2例2関節,大腿骨頭壊死(AN)1例1関節,大腿骨頸部骨折1例1関節である.抜去原因は感染が7例8関節,著明なゆるみと骨折が1例あった.RA以外の4例は杖と補高装具を使用して少なくとも自宅周辺は歩行可能であり,うち3例は就労もしていた.しかしRAの4例は,調査時には全例車椅子生活か寝たきりであった.THR抜去を行った場合,杖が使える上肢機能があって他の関節障害が重篤でない症例では,術後の筋力増強訓練や補助具の使用により実用的な歩行が十分期待できる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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