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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科25巻9号

1990年09月発行

雑誌目次

視座

整形外科外傷治療考

著者: 山野慶樹

ページ範囲:P.1005 - P.1005

 当院には昭和52年から救急部が開設され,以来十数年間,整形外科関連のhot caseにかかわってきた.これらの症例にはcold caseと同様,いかにすれば最良の機能的予後が得られるかを熟慮しつつ,いつ,どのような治療を施すべきか,判断せねばならないが,その時間的余裕が少なく,半ば反射的に手を下さねばならない場合もある.緊急手術すべきものとして,①肢・指切断や主幹動脈損傷に関わるもの,②脊髄不全麻痺のある脊椎脱臼・骨折,③開放性骨・関節損傷があげられよう.
 主幹動脈損傷では,上肢では上腕動脈,下肢では骨盤骨折や大腿動脈から膝窩動脈にかけての損傷で,compartment syndromeも十分注意すべきで,major limb再接着と共に一刻を争う処置が要求される.しかし,筋組織の含まれない手指切断の再接着は,保存状態さえ良ければ一昼夜以上経過しても生着に影響ない.scapulothoracic dissociationによる鎖骨下動脈断裂では上肢の筋壊死は起こり難く,早期の動脈修復は後の神経再建に弊害にさえなる.

論述

頸椎黄色靱帯石灰化のX線写真による調査

著者: 渡部亘 ,   荒井三千雄 ,   佐藤光三 ,   阿部栄二 ,   片岡洋一 ,   東海林和弘

ページ範囲:P.1006 - P.1011

 抄録:頸椎黄色靱帯石灰化症(CYL)の頻度,およびCYLと症状との関連を知るため,当科および関連病院の頸椎単純X線写真について検討した.
 対象は,昭和58年1月より昭和62年9月までに当科を受診して頸椎単純X線写真を撮影した1,619例(男787例,女832例)で,黄色靱帯石灰化の有無を調査した.また,当科の関連病院で,半月板石灰化を認め,ほかに頸椎X線写真を撮っている30例を調査の対象とした.

脳性麻痺児股関節変形に対する股関節周囲筋解離術について

著者: 松田和浩 ,   頼輝助 ,   松尾隆

ページ範囲:P.1013 - P.1019

 抄録:脳性麻痺児の股関節変形に対する手術的矯正についてはさまざまな試みがなされてきている.我々は1982年から88年までに52例76股に対して股関節周囲の屈筋伸筋同時解離を行ってきた.手術時平均年齢は11歳,平均追跡期間は2年3カ月である.
 この方法により,股関節の変形を矯正することができたのみならず,多くの症例でその移動レベルを上げることができ,可動域の改善,脱臼傾向のある症例での求心性の改善など,多くの効果がみられた.

頸椎黄色靱帯石灰沈着症―病態と臨床像

著者: 馬場久敏 ,   富田勝郎 ,   川原範夫 ,   菊池豊 ,   中橋謙次 ,   梅田真一郎

ページ範囲:P.1021 - P.1029

 抄録:頸椎黄色靱帯石灰沈着症の7症例で6例に手術を行い,その病態と臨床像について検討した.対象は全例女性で,年齢は63~75歳(平均72歳),3例には糖尿病,1例にはネフローゼ症候群の合併がみられた.石灰沈着部位は中下位頸椎に多くみられ,単純X線像では,脊柱管後方で椎弓間内側に淡い石灰化陰影として認められた.CTでは,黄色靱帯のinterlaminar portionの中央部で,辺縁が明瞭な卵円形の像として描出された.脊髄症状を認めた6例中,5例に椎弓切除,1例に椎弓形成術を施行した.石灰化巣は硬膜との間に癒着はなく,病理組織像では,変性した弾力線維間にamorphousにできた肉芽組織内に石灰沈着を認めた.石灰化巣のX線回析で4例にCPPD結晶が証明された.病理所見や画像所見などから,黄色靱帯石灰沈着症はCPPDcddなる疾患概念で検討する必要があると考えられた.

シンポジウム 機能的電気刺激(FES)の基礎と臨床

緒言:new frontier,脳・脊髄障害の四肢再建に挑む

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.1030 - P.1031

 ポリオの終息から30年を経る今日,神経・筋疾患あるいは麻痺性疾患はその性格をすっかり変えてしまった.腕神経叢損傷,脊髄損傷,脳性小児麻痺などの非進行性疾患群と,脳脊髄変性疾患および筋病などの進行性疾患群が,ポリオに劣らず,あるいは一層深刻な障害を残し,不幸な人々は救いの手を待っている.福祉行政の充実と補装具・リハビリテーション関連機器の進歩を除けば,医療は,実質この患者さんたちに何をもたらすことができただろう?例えば,痙性である,整形外科の手法には,痙性に由来する筋・腱の短縮や関節拘縮を解除するか,合併する機能不全や肢位異常を補装具で補正する以外にめぼしいものはない.不随意運動も永年にわたり医療の手を拒んできた.脳神経外科は,残念なことに,昔ほどこの課題に興味を示さなくなった,21世紀こそ,神経科学の時代だと言われているのに…….
 では,どうすればよいのか?

電気刺激による筋特性の制御―治療への道を探る

著者: Gerta Vrbová ,   河井秀夫 ,   正富隆

ページ範囲:P.1032 - P.1037

 抄録:哺乳類の骨格筋は,支配神経からの刺激によってその特性が変化するばかりでなく,外部からの電気刺激によってもそれに応じた表現型の変化を示すことが実験的に証明されている.このような電気的刺激に対する適応性のため,骨格筋線維はそれぞれの支配運動神経の機能性に応じた特質を呈している.すなわち,正常骨格筋線維における多様な表現型は,その運動神経一筋単位の発火頻度や発火様式のさまざまな違いを反映しているのである.
 そこで,電気刺激が筋(特になんらかの神経学的異常がある筋)をより望ましい表現型に変化させ得るかどうかを検討する.更に上位あるいは下位運動ニューロンの障害による脱神経筋に対し,電気刺激が支配神経の代替刺激となり得るかどうかについて検討する.

立つ・歩くための基本的な仕組み

著者: 森茂美

ページ範囲:P.1038 - P.1048

 抄録:立つ・歩くための基本的な仕組み,すなわち神経機構は,その解析にふさわしい動物実験モデルの確立と新しい実験手法の開発によって,その全貌が次第に解明されてきている.また立つ,歩くための仕組みを構成する神経機構は,その要素的機構を脳幹や脊髄のレベルで共有する.歩行運動の自動的な制御系は,歩行リズムの解発系,筋トーヌスの制御系,歩行位相の制御系によって構成されている.最近では,除脳ネコ歩行標本から得られた研究成果の上に,無拘束,正常ネコを実験モデルとして,高次すなわち随意的な歩行運動制御の実態を解明する方向にまで研究は進展しつつある,さらに注目されるのは,神経伝達物質と考えられる化学伝達体を脳内の目標部位に局所注入することによって,ネコの立つ・歩く仕組みが,神経伝達物質のレベルで解析され始めたことである.本章では,これらの点に焦点を合わせ,動物実験によって得られた重要な研究成果と,今後期待される研究の方向を紹介したい.

随意運動調節における抑制の役割

著者: 田中勵作

ページ範囲:P.1049 - P.1055

 抄録:最初に,随意運動の発動と平滑な実行に適度な抑制(相反性抑制)の存在が重要であることを,痙縮患者の足背屈運動を例にとって示した.次いで,このような抑制に関わる脊髄内神経機構として最も簡単な構成を持つIa抑制機構を取り上げ,その概要を動物実験で得られた成果をもとに解説し,その構造から考えられる相反性抑制の駆動様式について論じた.そして最後に,健康人が実際に行う足関節の屈伸運動を対象に得られた私たちの研究成果の一部を紹介しながら,ヒトにおいて相反性抑制が運動開始に伴ってどのように発動されるかを解説した.

FESを応用した腱移行術による四肢麻痺上肢の再建

著者: ,   ,   江原宗平 ,   正富隆

ページ範囲:P.1056 - P.1059

 抄録:上肢のfunctional electrical stimulation(FES)は,筋腱移行術を追加することによってより効果的になる.このときの筋腱移行術は,随意筋の腱移行術と同じ考え方で行ってさしつかえない.筋のコントロールは,FES刺激により簡単に可能で,移行筋の再学習を必要としない.しかしながら,知覚フィードバックの障害並びに,FES出力のチャンネル数やコントローラーの自由度に限りがあるために,複雑な手の機能再建には限界があるのが現状である.

ポータブル機能的電気刺激装置の臨床応用

著者: 半田康延

ページ範囲:P.1060 - P.1066

 抄録:中枢性運動ニューロン障害によって麻痺した手足の機能再建を目的として,ポータブル機能的電気刺激装置を開発した.本装置は,患者の残存機能を操作信号として駆動し,1台で16チャンネルの刺激出力を,経皮的埋め込み電極を介して,麻痺筋に分布する末梢神経筋技に印加することができる.これを脳卒中片麻痺の上下肢,脊髄損傷による四肢麻痺上肢および対麻痺下肢に適用したところ,日常生活に有用な上肢運動機能および起立.歩行機能が再建された.

認定医講座

体幹の骨折

著者: 岩田清二

ページ範囲:P.1067 - P.1076

I.骨盤骨折
 骨盤骨折は全骨折の5~8%を占め,必ずしも稀な骨折ではない.交通事故や高所からの転落事故によるものが多く,重篤な合併損傷を伴い,頭部外傷と共に外因死の2大要因となっている.
 ここでは,本骨折の中でも治療上問題の多い骨盤輪骨折,寛骨臼骨折を中心に述べる.

変形性関節症

著者: 新名正由

ページ範囲:P.1077 - P.1083

定義および分類
 変形性関節症(osteoarthrosis,osteoarthritis,degenerative joint disease,以下OA)は,「関節軟骨を中心とした関節構成体の退行変性を基盤に,軟骨破壊を来し,それに骨軟骨増殖と二次性滑膜炎を随伴する関節病態」と定義することが出来る.OAは種々の原因で発生しうるが,原因を特定し得ない一次性OAと,単一または複数の既知の要因が加わり発症する二次性OAに大別される,一次性,二次性OAの臨床像や病理所見はよく類似しており,OAは種々の症態に共通な終未像と理解されている.
 特異な病型を呈するものにgeneralized osteoarthritis,erosive inflammatory osteoarthritis,diffuse skeletal hyperostosis,chondromalacia patellaeなどがあるが,これらがOAの範疇に含まれるか否かについては,なお議論が残されている.

整形外科を育てた人達 第85回

片山良亮教授(1901-1982)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1084 - P.1086

 東京慈恵医科大学の名教授として好評であった片山良亮先生が亡くなられて早くも8年の年月が流れ去った.楽しく交友していたことを思い出し,奥様や室田教授にお願いして資料を頂き,その伝記を執筆する決意が出来た.

臨床経験

胸椎後縦靱帯肥厚症の1手術例

著者: 中光清志 ,   久保田政臣 ,   栗尾重徳 ,   野田慎之

ページ範囲:P.1087 - P.1090

 抄録:後縦靱帯の骨化によるミエロパチーはよく知られる疾患であるが,後縦靱帯の肥厚を病因とするものに関してはその報告は少ない.上小鶴1),倉田2)は,頸椎部にみられたこのような症例を後縦靱帯肥厚症と名づけて報告している.今回我々は,胸椎部にみられた本症と考えられる症例を経験した.症例は65歳の男性で,主訴は歩行障害であった.ミエログラフィー,ミエロCTにてTh 8椎体中央よりTh 10椎体下縁にかけ前方よりの脊髄圧迫を認めたが,同部には後縦靱帯の骨化所見はなかった.MRIにてこの脊髄圧迫要素は無信号強度領域として描出され,その上下にも帯状に連続しており,肥厚した後縦靱帯と思われた.椎弓切除術を行い,症状の軽快をみ,術後2年3カ月の現在肥厚した後縦靱帯に骨化は認められていない.今後,後縦靱帯骨化へと進展する可能性は否定できないが,本症例を後縦靱帯肥厚症という新しい疾患概念としてさしつかえないと考える.

膝窩部滑液包に発生したosteochondromatosisの1例

著者: 木村和正 ,   朝井哲二 ,   平光尚志 ,   森谷光夫 ,   浜武文八 ,   有井陽之介

ページ範囲:P.1091 - P.1095

 抄録:osteochondromatosisは,Reichel以来,数多く報告されているが,膝関節の滑液包内に発生するbursal synovial osteochondromatosisの報告は稀で,本邦では我々が渉猟し得た範囲では20例にすぎない.
 今回我々は,bursal synovial osteochondromatosisの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Bateman型人工骨頭のinner bearing破損の1例

著者: 仲俊之 ,   安藤御史 ,   後藤英司 ,   末松典明 ,   松浦順

ページ範囲:P.1097 - P.1100

 抄録:Bateman型人工骨頭置換術後6年2カ月でinner bearingの破損に伴う脱臼を生じた1例を経験した.術中所見では,inner bearingの一部に局在する摩耗とスリット部high density polyethylene(以下HDPと略す)の破損がみられ,約3分の1が遊離していた.outer headとinner bearingをBateman UPF IIにて置換を行い,脱臼を整復した.術後2カ月の現在,再脱臼なく歩行している.本邦での同様の報告はなく,破損,脱臼の原因は,構造的欠陥によると考えられ,考察を加えて報告する.

大腿骨外顆後面に生じたosteochondral fractureの2例

著者: 西村正智 ,   竹田誠 ,   植野満 ,   吉井新一 ,   横井秋夫 ,   橋本健史 ,   冨士川恭輔 ,   竹田毅 ,   伊勢亀冨士朗

ページ範囲:P.1101 - P.1106

 抄録:スポーツ動作中に大腿骨外顆後面に発生したtangential osteochondral fractureの2例を経験した.膝関節osteochondral fractureとしては発生部位が稀である.2例共観血的整復固定術を行い術後経過は良好である.大腿骨外顆後面のosteochondral fractureの報告例は少ないが,今後アマチュアスポーツ活動がますます盛んになるにつれて発生する機会が増えるものと考えられる.本疾患の発生mechanismについて考察した.

左第1趾中足骨に発生したspina ventosaの1例

著者: 安元定幸 ,   藤井正則 ,   守重幸雄 ,   西島雄一郎 ,   東田紀彦 ,   山崎安朗

ページ範囲:P.1107 - P.1111

 抄録:症例は48歳の男性で,約3カ月前より左第1趾の無痛性腫脹を来し当科を受診した.初診時,同部は基節部を中心にびまん性に腫脹し褐色の色素沈着を認め,赤沈値軽度充進,CRP陽性,ツ反は強陽性であった.X線所見では第1趾基節骨全体に骨膨隆と骨硬化像を,また中足骨では骨膜反応を認めた.
 骨結核または骨腫瘍を疑い骨生検を行った.組織学的には,結核病巣は特に認められず線維組織のみであった.

足部悪性腫瘍に対する術中照射による患肢温存手術の経験

著者: 井上治 ,   茨木邦夫 ,   島袋博之 ,   新垣宜貞 ,   知花哲 ,   中野政雄

ページ範囲:P.1113 - P.1117

 抄録:足部に発生する悪性軟部腫瘍は,足根骨などに浸潤しやすいため切断が選択されることが多いが,荷重に耐えられる足部を温存することは,室内で靴を脱ぐ生活様式に有利である.
 症例1:10歳,男.右足部類腱腫.中足骨から足根骨に浸潤する再発性類腱腫に対し,可及的切除を行い,Liniac acceleratorより発生する高エネルギー電子線を40Gy開創照射したが,足背部に透過電子線による潰瘍を形成したため,遊離広背筋皮弁にて被覆した,症例2:23歳,男.左踵部滑膜肉腫.足根間に浸潤する腫瘍を可及的に切除し,高エネルギー電子線を40Gy開創照射,神経移植および遊離広背筋皮弁形成を行った,術後,透過電子線による潰瘍を形成したため,遊離上腕外側皮弁にて被覆した.両症例とも局所再発は見られず,屋内では装具なしで生活している.

頸椎OPLL双生児例の家系調査

著者: 武富栄二 ,   酒匂崇 ,   上原裕史 ,   松永俊二 ,   山口正男

ページ範囲:P.1119 - P.1122

 抄録:発端者が双生児である頸椎OPLL症例を経験し,その家系のX線学的調査とHLAハプロタイプの検討を行った.発端者は双生児の弟にあたり,双生児の兄と顔貌,体格が相似し,また卵性診断として行った17種の赤血球血液型とHLAがすべて一致し,両者は一卵性双生児と確認された.両者は共に混合型の頸椎OPLLを認め,また胸腰椎にもほぼ同部位にOALLを認めており,極めて類似した脊柱靱帯骨化を有していた.発端者の妹,甥,長男においては,甥の胸腰椎にOYLを認めたが,他は脊柱靱帯骨化を認めなかった.HLAハプロタイプの検討ではOPLL関連のハプロタイプを2本同時に持つ甥にOYLを認め,1本のみ持つ妹と長男には脊柱靱帯骨化は認めない.今回の調査結果より,OPLLの発症に遺伝的要因の関与が強く示唆された.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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