icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科26巻12号

1991年12月発行

雑誌目次

視座

Let's enjoy the meeting

著者: 伊藤達雄

ページ範囲:P.1335 - P.1335

 少しく英語にも,また英語圏の生活にも慣れ,学会でのdiscussionも多少理解出来るようになった頃のことである.ある学会に行き,会場からの帰途,知人のprofessorから“Did you enjoy the meeting?”と聞かれ,とっさに意味を図りかね,答えにつまってしまった.というのも,私の知識では,enjoyは「Disneylandに行き……」,「映画で……」「スポーツで……」のように娯楽的なことで楽む時に用いる言葉であった.したがって,学会とenjoyの言葉は結びつかなく困ってしまった.しかし,その学会がたまたま午後がフリーであり,テニス,ゴルフ,ショッピングなどを楽しむように計画されていたこともあり,「午後は水泳,ゴルフなどを楽しんだ」と言ったあと,少し変だなと感じ,印象深かった演題と内容を具体的にあげ,「学会も有用であり,満足した」と答えたと記憶している.
 その後,このdid you enjoyが気になり,辞書をめくってみると,enjoyは①……を楽しむ.満足感を得る.楽しく経験する.味わう.②……に恵まれる.享受する.の意味であった.

論述

脊柱後側彎症に対する手術的治療

著者: 大谷清 ,   杉原繁明 ,   喜多章介 ,   伊佐治純 ,   手塚正樹 ,   斉藤正史 ,   柴崎啓一 ,   中井定明

ページ範囲:P.1336 - P.1346

 抄録:過去15年間に国立療養所村山病院で手術的治療を行った後側彎症は27例であり,これは同年間の全脊柱変形手術例235例の11.5%である.後側彎症の病因は,先天性,神経線維腫症がほとんどであった(92.6%).脊髄麻痺合併例は3例11.1%で,我々の経験した脊柱後彎例の麻痺合併例46/80例,57.5%に比べてかなり少ない.
 手術法は11例40.7%にHarrington手術を行ったが,後側彎度の矯正成績は悪い.その理由は重度変形で,しかも成人例で,rigid curveが多いことにある.手術による重篤合併症はなかった.

胸腰椎後方脱臼―自験例からみた受傷機転,臨床像の吟味

著者: 宮原健一郎 ,   大谷清 ,   柴崎啓一 ,   斉藤正史 ,   芳賀千明

ページ範囲:P.1347 - P.1352

 抄録:胸椎・腰椎損傷の中で後方脱臼は比較的稀であるが,現在までに我々は7例の後方脱臼を経験した.
 年齢は平均35歳,男性5例,女性2例であった.受傷高位は第4胸椎から第1腰椎で,胸椎部5例,胸腰椎移行部2例であった.受傷原因は交通事故5例(うちバイク2例)その他2例であった.受傷機転は,腰背部への直達外力による脊柱過伸展損傷であった.

等尺性運動による握力分析

著者: 多田博 ,   平山隆三 ,   三島令子 ,   研谷智 ,   竹光義治

ページ範囲:P.1353 - P.1359

 抄録:正常成人157例(男77例,女80例)について,Jamar dynamometerを用い,その握り幅を1.0から3.0インチまで5段階に設定し,各々の位置での等尺性運動による握力測定を行った.正常成人においては,1.5または2.0インチの握り幅において最大値を示すベル型のパターンを呈し,性別,年齢別,利き手,非利き手を問わず一定であった.その最大握力は,男が女より有意に大きく,年代別では,30代が最も大きかった.また,利き手は非利き手より8.6%大きく,有意差がみられた.疼痛,脱力などによる握力低下例では,その握力パターンは,正常群と同様,ベル型を示すが,精神的または社会的要因が強いと考えられる例では,平坦型や波型などベル型を示さない傾向がみられ,握力パターンの分析は,これらの症例の鑑別に有用と考えられた.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

麻痺性足部変形に対する軟部組織解離術(総論)

著者: 亀下喜久男

ページ範囲:P.1361 - P.1367

I.麻痺性足部変形について
 麻痺性足部変形は一次あるいは二次ニューロンの障害による運動麻痺が原因となり,痙縮,筋力低下による筋力不均衡,支持性の低下(荷重),不良肢位などが複雑に関与して発生し,進行する.
 初めは,麻痺足の変形は拘縮はなく,いわゆる“floppy”の状態である(先天性麻痺性の変形を除く).しかし,日時の経過とともに筋の拘縮を初めとして靱帯および関節包の拘縮が起こり,さらには成長に伴い二次的骨変形も加わって,やがて変形は固定性になってくる.

手術手技 私のくふう

頸髄損傷麻痺肘に対するMoberg法による肘伸展機能再建術

著者: 平山隆三 ,   多田博 ,   三島令子 ,   竹光義治 ,   梅藤千秋

ページ範囲:P.1369 - P.1375

 抄録:頸髄損傷麻痺肘の肘伸展機能再建術につき適応,術式,術後成績,問題点につき検討した.症例は8例12肘で,年齢は18~44歳,男7例,女1例で,両側4例右3例左1例であった.術前,全例重力に抗しての自動伸展が不可能であった.術式はMoberg法に従い,三角筋後部筋を力源とし,足趾伸筋腱か,大腿筋膜を移植架橋腱として用いる肘伸展機能再建術を行った.術後経過観察期間は1~5年で,平均約2年であった.10肘に良好な結果を得,重力に抗しての肘自動伸展が可能となったが2例はfairであった.術前可能であった動作が術後不可能となった例はない.術後成績は術前の三角筋後部筋の筋力と術中の移行tensionによって決まり,tensionを強めにすることにより良好な結果を得た.上腕三頭筋の再建により,前腕回内位での肘自動伸展が可能となるだけでなく,肘関節の安定とリーチの拡大はADLに著明な機能改善をみた.肘の伸展機能再建術は頸髄損傷麻痺上肢の機能再建の第一歩と考える.

整形外科を育てた人達 第99回

Alfred Baring Garrod(1819-1907)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1376 - P.1378

 痛風は私が医師の資格を得た昭和一桁時代には,日本では稀であると先輩から教えられたが,戦後は日本にも稀では無くなった.この痛風の原因が尿酸にあることを解明した論文は,1848年にGarrodが発表したものである.このことをお伝えしたいので,Alfred Baring Garrodの紹介をすることに決めた.

臨床経験

放射線照射後に発生した骨原発肉腫の3例

著者: 三輪隆 ,   三木浩 ,   斉藤信哉 ,   立石昭夫 ,   今村哲夫

ページ範囲:P.1379 - P.1383

 抄録:我々は3例の放射線照射後肉腫を経験した.第1例は乳癌手術後18年後に肩甲骨に,第2例は子宮癌手術後16年後腸骨に発生した骨肉腫であった.第3例はリンパ腫手術後18年後に鎖骨に発生した悪性線維性組織球腫であった。放射線照射後肉腫は胸郭,骨盤に発生することが多く,根治手術は困難であり予後は不良である.

膝関節後方脱臼に合併した膝窩動脈損傷の2例

著者: 清水長司 ,   北田博朗 ,   俣野憲一 ,   三浦清司 ,   水谷昭 ,   喜多章介 ,   平澤泰介 ,   小西理雄

ページ範囲:P.1385 - P.1388

 抄録:外傷性膝関節後方脱臼に合併した膝窩動脈損傷2例に対して,血行再健術を行い,それぞれ二次的に靱帯再建術を行った結果,比較的良好な成績が得られたので,報告する.
 症例1;21歳男性.バイクで走行中,自動車と衝突し転倒.近医で脱臼整復後当院紹介,左下腿の阻血症状が認められたため,受傷より10時間後に自家静脈を用いた血行再建術を行った.術後10日目に前十字靱帯付着部裂離骨折および後十字靱帯損傷に対して靱帯補強術を行った.

blue rubber bleb nevus syndromeに併発した大腿骨骨折の治療経験

著者: 横山隆文 ,   原田征行 ,   熊沢やすし ,   本田忠 ,   毛利尚宣 ,   松谷京子 ,   相原守夫

ページ範囲:P.1389 - P.1393

 抄録:我々はblue rubber bleb nevus syndrome(以下BRBN syndrome)に併発した右大腿骨骨折の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
 患者は,66歳,女性.40歳頃より出血傾向が出現し,右膝関節血腫を繰り返えしていた.昭和63年10月,転倒により右大腿骨骨幹部骨折を生じた.X線上右大腿骨の著しい低形成がありDSA,CTでは大腿骨周囲に血管腫が認められ,その後の精査によりBRBN syndromeと診断された.また,DICも併発していたため,まずDICの治療を行った後,昭和64年1月全麻下にてエンダーピンによる骨接合術を施行した.術後骨折部の骨癒合は認められるが,同部に血管腫の侵蝕像がみられ現在経過観察中である.

急激に下肢麻痺をきたした頸椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 川口善治 ,   宮坂斉 ,   菅谷啓之

ページ範囲:P.1395 - P.1398

 抄録:明らかな外傷の既往がなく,数時間のうちに麻痺をきたした頸椎椎間板ヘルニアに対し,神経症状発症8時間後に前方除圧固定術を行い,急速な回復をみた1例を報告する.

橈骨遠位骨端線早期部分閉鎖に対するLangenskiöld法

著者: 田村幸久 ,   中村蓼吾 ,   井上五郎 ,   堀井恵美子 ,   渡辺健太郎 ,   角田賢二 ,   三浦隆行

ページ範囲:P.1399 - P.1402

 抄録:小児の骨端線部分閉鎖は成長とともに著しい変形や機能障害を生じる.われわれは,Kirschner鋼線刺入後に生じた模骨橈位骨端線早期部分閉鎖による手関節の変形2例に対し,Langenskiöld法を施行し良好な結果を得た.
 1例は成長終了まで8年間follow-upし,radial inclinationが-32゜から-5゜に矯正された.他の1例はradial inclinationが術前43゜から術後30゜に変形が矯正された.

転移性脊髄髄内腫瘍の1治験例

著者: 布施謙三 ,   三河義弘 ,   長谷川徹 ,   今井弘子 ,   渡辺良

ページ範囲:P.1403 - P.1405

 抄録:転移性髄内腫瘍は非常に稀であり,その発生率は転移性脊髄腫瘍全体の1~3%とされている.今回我々は単発性に生じた転移性脊髄髄内腫瘍の1例を経験した.症例は41歳の女性で,両下肢筋力低下およびしびれ感のため歩行困難となって来院した.初診時LIレベル以下の知覚鈍麻と下肢の筋力低下,排尿障害を認めた.MRIではTh12からL1レベル間で脊髄内に嚢胞状の腫瘍陰影を,ミエログラムではTh12椎体下1/3からL1椎体下1/3レベルで騎袴状の完全ブロックを認めた.Th11からL1までの椎弓切除を行い,脊髄を後方正中で切開したところ,嚢胞状の腫瘍を認めた.完全摘出不可能であったため除圧の目的で人工硬膜移植を行い,後方固定術を追加した.病理組織学的にはadenocarcinomaと診断された.手術後,排尿障害は消失,神経学的症状も軽快して独歩可能となった.本症例は硬膜移植及び後方の除圧が有効であったと思われる.

小児肋骨に発生した骨クリプトコッカス症の1例

著者: 内田理 ,   乙宗隆

ページ範囲:P.1407 - P.1410

 抄録:健常小児の第8肋骨に発生した限局型骨クリプトコッカス症を経験したので,報告する.症例は10歳,男児.基礎疾患・細胞性免疫能の低下は認められていない.学校で時折鳩と接触していた.誘因なく左上背部の疼痛,腫脹,熱感が出現し,抗生物質投与に反応しなかった。X線・CTにて左第8肋骨に骨融解像,周辺軟部組織の腫脹を認め,骨生検を施行した.培養・病理組織よりcryptococcus neoformansを同定,骨クリプトコッカス症と診断し,病巣郭清術を施行した.術後Fluconazoleと5-FC(Flucytosine)の併用療法を行い,副作用なく,再発も見られず,経過良好である.内臓真菌症の保存的治療法としては,Amphotericin Bと5-FCの併用が一般的であるが,Amphotericin Bの全身投与は副作用が強く,投与中止となる場合が多い.Fluconazoleは長期投与においても安全性が高く有効であった.

橈骨原発の骨肉腫を合併したWerner症候群の1例

著者: 横田雅宏 ,   須田昭男 ,   佐藤隆司 ,   石川朗 ,   三浦由太

ページ範囲:P.1411 - P.1414

 抄録:Werner症候群は,早発性老化現象,特徴的体型,強皮症様皮膚変化,代謝・内分泌異常の症状を呈する稀な疾患で,しばしば悪性腫瘍を合併することで知られている.今回,我々は47歳男性の,右橈骨遠位端部に原発した骨肉腫を合併したWerner症候群を経験した.本邦においては骨肉腫の合併例の報告はみられていないので,若干の考察を加え報告した.

初診時リンパ節転移を呈した骨肉腫の1症例

著者: 波呂浩孝 ,   川口智義 ,   松本誠一 ,   真鍋淳 ,   黒田浩司 ,   北原建彰 ,   神野哲也

ページ範囲:P.1415 - P.1418

 抄録:一般に骨肉腫の患者で,初診時画像にて転移ありと診断されるのは10~15%と言われている.しかしそのほとんどが肺転移であり,初診時リンパ節転移があるものは稀とされている.我々が検索し得た範囲では,初診時リンパ節転移の頻度は2%前後で,画像的に全例石灰化を伴ったリンパ節転移であった.今回の症例は石灰化を伴わないリンパ節転移であった.
 症例;17歳男性.左下腿腫瘤.血管造影・MRI・CTにて膝窩部にリンパ節の腫脹を認めた.術中ゲフリールにて転移と判明し,左大腿中央にて切断した.リンパ節郭清を追加し,鼡径部リンパ節にも骨肉腫の転移が認められた.骨肉腫のリンパ節転移についての要点は,以下の3点である.①患肢温存のlimiting factorである.②診断の契機はリンパ節の石灰化あるいは腫脹である.③診断にはMRI,CT,Angiographyが有用である.しかし,その確定診断には組織診断が不可欠である.

足背に発生した腱鞘線維腫の1例

著者: 木下嚴太郎 ,   岩田康男 ,   山田博 ,   立石博臣 ,   圓尾宗司 ,   森田宗志 ,   有澤修

ページ範囲:P.1419 - P.1422

 抄録:第3長趾伸筋腱腱鞘より発生した腱鞘線維腫の1例を経験した.本症例の疼痛には趾神経の圧排が関与しているものと思われた.病理組織学的には豊富な膠原線維と少量の線維芽細胞およびslit状の血管を認めた.電顕では,卵円型の核を有する紡錘型の細胞を認めた.その豊富な細胞質内には,拡張したrough-ERを豊富に認め,その他,fine cytoplasmic filamentの集簇やmitochondriaも散見された.治療としては,被膜およびparatenonを合併切除したが,機能障害はなく,1年4ヵ月後の現在,再発を認めていない.

両側膝蓋靱帯皮下断裂の1症例

著者: 新井厚 ,   白倉賢二 ,   鎌田真彦 ,   吉沢夏人 ,   笠原進 ,   館野勝彦

ページ範囲:P.1423 - P.1427

 抄録:膝伸展機構損傷のうち膝蓋靱帯損傷は,稀なものであるが,我々は昭和61年2月に左側,平成2年6月に右側と,別の時期に両側の膝蓋靱帯損傷を起こした症例について報告した.
 臨床所見では損傷部位に圧痛と腫脹を認め,X線像では膝蓋骨高位を認めた.治療は,MacLaughlin法に準じ観血的に治療し良好な結果を得た.手術所見では,右側は膝蓋骨付着部にてわずかの剥離骨片を伴い靱帯実質部で完全断裂しており,左側は内側4/5が膝蓋骨付着部,外側1/5が脛骨粗面付着部にて断裂していた.

膝窩部滑液包内伏針の1例

著者: 岩村祐一 ,   今村清彦 ,   植松紘一 ,   酒井直隆 ,   大庭英雄 ,   石井雅義

ページ範囲:P.1429 - P.1431

 抄録:縫い針が左膝前内方の関節裂隙より刺入折損し,関節外後方の膝窩部滑液包内に迷入した1例を経験したので報告する.症例は,62歳,女性で,主訴は左膝の疼痛および腫脹である.ひざまずこうとして絨毯に落ちていた縫い針を膝に刺して受傷した.その際,絨毯には折れた縫い針の先端部が落ちていた.近医受診時のX線では折れた縫い針の後ろ半分が左膝関節膝窩部に迷入しているのが認められた.手術時,膝窩筋と腓腹筋外側頭との間を鈍的に剥離すると,腓骨頭内側に淡赤色の滑液包が露呈し,その内部に折損した針が透けてみられた.滑液包に穴をあけ針を摘出した.滑液包はbursa m,popliteiと考えられ,本来膝関節腔と交通はないとされているが,膝関節の変性や老化現象により異常交通性が出現していたものと思われた.そのような滑液包に前方から刺入された針が迷入したという報告例はなく,非常に稀な例と考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら