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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科26巻7号

1991年07月発行

雑誌目次

視座

整形外科医のライフサイクル

著者: 大井淑雄

ページ範囲:P.791 - P.791

 世界的に見渡しても最近の状況判断はまったく難しいという他はない.小さな整形外科領域についてもそれなりに流動的である.私共が整形外科医になった頃と現在ではやはりかなり違って来たし,若い医師達の考えも変動している.現時点で自分の過ごして来た医局生活や教室のことなど参考にしつつ,これから一人前になって行く若い整形外科医に示唆することがあればと,あれこれ考えた.医科大学を卒業したら,やはり整形外科の教室へ入局し研修するのが一番効率がよい.卒業したばかりで研修も禄々しないで開業することは今後やはり困難となろうし,医療技術や医学知識が不十分だからである.第一,患者さんにも失礼である.入局6年びっしり苦学勉強し,昔のような古き良き時代の医局生活ではなく,能率よく知識を整理する.そして認定医の試験に合格し,一人前に近づく,そして,4年間教室や医局の後輩指導に協力する.その後10年生を過ぎたら,全員まず開業を考える.
 それが何らかの事情で出来ない場合や特殊事情の場合,大学にもう少し残る.私は観念的抽象的な話が嫌いで,ただだらだらと大学に残って年を取り折角の一生を不満足に終える有能な若い人々の苦悩を見るのは嫌である.ポストは一つとか二つとかしかないので無益な争いは避けたいものである.

論述

寛骨臼回転骨切り術と杉岡式外反骨切り術の併用,および臼蓋被覆改善の三次元評価について

著者: 小西伸夫 ,   浜田敏彰 ,   長谷川幸治 ,   元田英一 ,   佐藤士郎 ,   三浦隆行 ,   岩田久

ページ範囲:P.792 - P.798

 抄録:二次性変形性股関節症のうち骨頭変形の著しい症例に,寛骨臼回転骨切り術(RAO)と杉岡式外反骨切り術の併用により,臼蓋被覆のみでなく関節適合性の改善をも図った.RAO単独施行例42関節と杉岡式外反骨切り術併用例12関節について臨床成績,および股関節単純正面像からコンピューター計算にて求めた三次元被覆面積を評価した.手術侵襲は外反骨切り併用群でも少なく,出血量は単独施行群と有意差がなかった.術前の日整会評価点数は単独施行群が70点,外反併用群が68点であったが術後はそれぞれ93点と87点に改善し,改善点差は有意差がなかった.屈曲可動域は術前に比べ各群で14°と17°減少した.術後の三次元被覆が正常群に比べて不足している症例は全症例の26%であった.ただし術後の被覆の過不足と可動域の低下には有意な相関がなかった.杉岡式外反骨切り術の併用は侵襲が小さく,RAOの適応範囲を広げる上で有用である.

原発性中心性軟骨肉腫の10例―そのX線診断の困難性について

著者: 伊崎寿之 ,   花岡英弥 ,   矢部啓夫 ,   入久巳

ページ範囲:P.799 - P.804

 抄録:原発性中心性軟骨肉腫の画像診断はかなり困難で,このため初期治療方針に苦慮することが多い.当院を受診した軟骨肉腫患者22例中10例の原発性中心性軟骨肉腫について検討するとX線診断でfirst choiceとしてあげた診断名は軟骨肉腫4例,線維性骨異形成症3例,内軟骨腫・骨巨細胞腫・骨肉腫各1例と診断率は低かった.理由として良性腫瘍と診断した4例は境界が割合と明瞭で骨皮質が保たれ,膨隆がないか,あっても軽度で,石灰化も良性を思わせる像で,更に一見すりガラス様陰影を呈した例もあったことなどであった.一方,病理診断はこれと比較して容易であった.
 初回手術はそれまでに診断のついた7例は広範囲切除術以上を試みたが,他の3例は掻爬・骨移植術を施行した.X線診断上良性と思われる腫瘍でも中心性軟骨肉腫などの存在を認識し,術前に生検を含めた十分な検索を行うことが必要であろう.

リウマチ性環軸椎脱臼に対するMcGraw法の成績とその問題点

著者: 塩田匡宣 ,   戸山芳昭 ,   金子修 ,   朝妻考仁 ,   里見和彦 ,   藤村祥一 ,   平林洌

ページ範囲:P.805 - P.812

 抄録:リウマチ性環軸椎脱臼33例に対して行ったMcGraw法の術後成績から,その適応と問題点について検討を加えた.骨癒合は30例,91%に得られた.偽関節となった3例の内訳は前方脱臼に後方脱臼を合併したもの,術前整復が不十分であったもの,術前整復は良好であったが術中整復が不十分であったもの,各々1例ずつであった.前二者は適応に,後老は手術手技に問題があったものと思われた.また術前の整復が不十分な例や後方あるいは垂直脱臼合併例および歯突起の破壊が著しい例では,亜脱臼位での骨癒合例が多く,骨癒合の遷延した例も見られた.本法の最も良い適応は,歯突起の破壊が少ない整復可能な前方脱臼であり,垂直脱臼や後方脱臼への適応には問題が多く,halo-vestなどの強固な外固定を併用するなどの慎重な配慮が必要である.本法はBrooks法などに比べて固定力は劣るが,手技が比較的簡単でしかも安全であり,適応を絞れば良好な結果が期待できる.

脊椎分離辷り症に対するAO-screw & wiringを併用した前方固定術とその成績

著者: 小柳貴裕 ,   平林洌 ,   里見和彦 ,   植野満 ,   朝妻孝仁 ,   戸山芳昭 ,   藤村祥一

ページ範囲:P.813 - P.821

 抄録:従来,腰椎分離辷り症に対する前方固定術(ASF)の成績は,少なからぬ偽関節の発生により,最善の手術法とは言えなかった.最近,ASFに加えAO-screw & wiring法(SW法)を前方,または前後一期的に加えることにより成績が向上しているので報告する.L5脊椎分離辷り症34例,L4脊椎分離辷り症の計43例を対象に,SW法の種類により3群に分け,術前・術後の辷り率,椎間高の推移を検討した.また川井の剛体バネモデルによるsimulationを試みた.その結果,前方のみのSW法や,後方に皮質骨用螺子を使用したSW法では経過とともに整復された辷りの戻りが認められたが,後方に太い(海綿骨用等)螺子を使用したSW法では整復位のままでの骨癒合が確認できた.SimulationにおいてもSW法により荷重の均等化が得られる結果となった.したがってSW法は,脊椎分離辷り症に対するASFにおける偽関節の予防,早期離床,整復位保持に有用な内副子固定法であるといえる.

神経根伝導速度(Nerve Root Conduction Velocity)を用いた腰仙部神経根障害の電気生理学的評価

著者: 千葉英史 ,   嶋田隆夫 ,   竹谷英之 ,   神谷敬一郎 ,   井村慎一

ページ範囲:P.823 - P.829

 抄録:腰部神経根障害において高位診断や障害程度の把握が困難な場合,定量的評価法があれば有用である.そこで誘発神経根電位に基づく神経根伝導速度NRCVを測定し臨床所見,画像診断と比較した.腰椎椎間板ヘルニア,脊柱管狭窄症など30例65神経根を対象に,術中腓骨神経あるいは脛骨神経を刺激し,神経根上の2点より導出した誘発電位の頂点潜時差と距離からNRCVを算出した.神経根を臨床症状・所見と画像所見が一致するA群,自覚症状あるいは画像所見のみ認めるB群,所見のないC群に分類しNRCVを比較するとA群,B群の順にC群に比し有意(P<0.001)に遅延していた.また手術時の神経根の状態によるNRCVの変化や術後の症状回復期間との関係を調べると,NRCVは癒着,発赤腫大した神経根では所見のないものより遅延し,40m/secより速いNRCVを呈した神経根の術後症状回復は良好な傾向を示した.NRCVの遅延は神経根障害の有用な客観的評価法と思われる.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

悪性腫瘍広範切除術後の再建術―足部の安定化のための機能再建について

著者: 内田淳正

ページ範囲:P.831 - P.836

はじめに
 悪性骨軟部腫瘍の外科的治療において,患肢温存術が広く行われている現在でも,下腿中央部より遠位では,安全性や機能的見地から切断術が行われるのが一般である.しかし,切断を極端に忌み嫌う慣習の中にあって,理論的に悪性腫瘍の根治的切除縁を確保できるならば,患肢温存術を施行する場合もある.さらに,マイクロサージャリーによる軟部組織再建の進歩は下腿における患肢温存術の適応を拡大しつつある.骨軟部悪性腫瘍においては,各症例により発生部位,腫瘍の広がりなどの条件が異なるため,腫瘍切除においても定型的な手術とはなり難い.従って,再建術についても定められた方法を論ずることはできないが,ここでは脛骨遠位部の腫瘍切除と足関節の安定を計るための方法について述べる.

整形外科を育てた人達 第94回

John Haddy James(1788-1860)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.837 - P.839

 John Haddy Jamesは私も余り聞いた事のない名であるが,医学史を調べていると,持続牽引療法を最初に英国に導入した医師であることを知り,今回は彼の伝記を紹介することに決めた.

臨床経験

多発性骨軟骨腫に合併した習慣性腓骨筋腱脱臼の稀な1例

著者: 尾崎琢磨 ,   水野耕作 ,   山田昌弘 ,   山本哲治 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.841 - P.845

 抄録:多発性骨軟骨腫を有し足関節の骨軟骨腫が原因と考えられる腓骨筋腱脱臼の稀な1例を経験したので報告する.
 症例は12歳,女性で,3歳時に当科にて多発性骨軟骨腫と診断され経過観察されていた.11歳時に誘因なく右足関節外側に弾発と疼痛が出現した.右足関節の背屈,外反にて腓骨筋腱の前方への脱臼を認めた.右足関節には単純X線CT所見にて外果および遠位脛腓関節に骨軟骨腫を認めた.術中,外果には筋支帯は殆ど存在せずその付着部に相当する部位と遠位脛腓関節に骨軟骨腫を認めこれを切除した.腓骨筋腱溝には骨軟骨腫は存在していなかった.本患者に対しDuVries法を行い,良好な結果を得た.

49, XXXXY症候群にみられた先天性橈尺骨癒合症の1例

著者: 二井英二 ,   横角健二 ,   原親弘 ,   老谷嘉市

ページ範囲:P.847 - P.850

 抄録:性染色体異常症である49, XXXXY症候群にみられた先天性橈尺骨癒合症の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告した.先天性橈尺骨癒合症は比較的稀なものとされており,現在までに本邦においては150例あまりの報告がみられている.また,49, XXXXY症候群は,欧米では100例あまりの報告がみられるが,本邦においては9例の報告をみるに過ぎない.さらに,橈尺骨癒合を伴った症例は2例のみである。報告例としては少ないが,49, XXXXY症候群に橈尺骨癒合の伴う頻度は,30%前後と比較的高く,本邦における先天性橈尺骨癒合症の報告例において,染色体異常の存在を疑わせる心奇形,外性器異常,知能障害等を合併するものが散見されており,それらの合併症を有する症例には染色体検査を施行することが望ましいと思われた.

頸椎後縦靱帯骨化症2例のMRIと病理組織像の対比

著者: 坂本林太郎 ,   井形高明 ,   村瀬正昭 ,   福島孝 ,   森田哲生 ,   長谷川匡 ,   檜澤一夫

ページ範囲:P.851 - P.855

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化症(以下OPLL)の2例について,MRIと病理組織像を対比し報告した.得られた骨化巣部及びその周辺組織のT1強調画像を無信号,低信号,等信号及び高信号に分類し,病理組織像に対比させた.染色法は,①HE,②Azan Mallory,③Toluidin blue(以下TB)pH 4.1,④SHase消化後TB pH 4.1,⑤Chase ABC消化後TB pH 4.1で行った.
 症例は64歳,男性。C5-6その他型OPLLと,67歳,男性.C5-6その他型OPLLであった.2症例とも次のような共通の結果を得た.①無信号の部位は骨化巣に相当していた.②低信号の部位は肥厚した残存後縦靱帯に相当し,異染性の強い石灰化前線と軟骨細胞の増殖を認めた.異染性の主体はコンドロイチン硫酸と考えられた.③等信号の部位は骨化移行部で,肥厚した靱帯内に小血管の増生を認めた.以上のことから,特に骨化巣周辺の低~等信号域は骨化前線を反映している可能性が示唆された.

痛風により有痛化した分裂膝蓋骨の1例

著者: 戸田克広 ,   坂上正樹 ,   日下治 ,   市川誠 ,   藤本英作

ページ範囲:P.857 - P.860

 抄録:痛風により有痛化した分裂膝蓋骨の1例を経験した.33歳男性でSaupe分類III型の分裂膝蓋骨であるが11年前より数回痛風発作を起こし9年前より高尿酸血症を放置しており外傷,スポーツとは関係ない.分裂骨片を摘出し外側広筋を膝蓋骨に再縫合した,分裂部には異常可動性が認められ同部には尿酸結晶が沈着していた.尿酸結晶により分裂部の線維性結合組織および隣接する骨組織が破壊され,分裂部に異常可動性が生じたため無痛性分裂膝蓋骨が有痛化したものと推察された。20代後半以降の有痛性分裂膝蓋骨では痛風が疼痛の発生に関与していることがあるので注意が必要である.

慢性型特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併した高齢者大腿骨頸部骨折の1例

著者: 片桐浩史 ,   山本清司 ,   倉信耕爾

ページ範囲:P.861 - P.863

 抄録:近年,人口の高齢化が進み,整形外科領域においても,種々の重篤な合併症を有する老人を手術的に治療する機会が増加している.
 今回,我々は,慢性型特発性血小板減少性紫斑病に,片肺切除および陳旧性心筋梗塞という重篤な合併症を有した80歳男性の大腿骨頸部骨折に対し,術前免疫グロブリン大量療法を施行し,著明な血小板数増加が得られ,術前・術後ともに良好な経過をたどった症例を経験した.

前腕回外制限をきたした上腕二頭筋橈骨付着部石灰化の1例

著者: 村瀬剛 ,   露口雄一 ,   日高典昭 ,   土井照夫

ページ範囲:P.865 - P.868

 抄録:非常に稀な部位である上腕二頭筋橈骨付着部の石灰性腱炎により,前腕の回外制限をきたした症例を経験したので報告する.症例は67歳の女性で,徐々に増強する右肘痛と右前腕回外制限を主訴として来院した.初診時,右前腕の回外は20°に制限され,近位橈尺関節に圧痛,運動時痛を認めた.X線像,CTにて模骨付近に石灰化巣があるのが観察され,これが橈尺骨間にimpingeして回外制限の原因となっていると考えられた.保存的療法に抵抗したため,病巣の切除術を施行した.石灰化は上腕二頭筋腱内に存在したため,腱と共に病巣を切除した.現在,術後4カ月であるが,疼痛を認めず回外制限も消失している.

外傷性環椎後頭脱臼の1生存例

著者: 川越一慶 ,   細野昇 ,   米延策雄 ,   小野啓郎 ,   平山直樹

ページ範囲:P.869 - P.872

 抄録:われわれは,致死的損傷であることが多い外傷性環椎後頭脱臼の1生存例を経験したので報告する.患者は6歳男児.単車にはねられ受傷.意識消失の状態で,3次救命施設に搬送された.当初の頸椎単純X線像では後咽頭腔の拡大を認めるのみと判断されたが徐々に斜頸が明らかとなり,受傷後6週目に高度の環椎後頭前方脱臼および回旋性環軸椎亜脱臼が判明した.当科へ搬送後,X線透視下に神経症状をチェックしながら意識下整復を試みた.この際,頭尾方向への牽引は避け,随意的に頸椎を伸展させることによりおおむね矯正位が得られたので,この位置で後方固定術を施行した.現在は骨癒合が得られており就学中である.環椎後頭脱臼の受傷機転に関して従来の報告例では伸展損傷とされてきたが,本症例では右側屈・左回旋性の環軸椎亜脱臼等から考えて,その受傷機転は屈曲損傷であると推測された.

踵骨に発生した良性軟骨芽細胞腫の1例

著者: 大辻孝昭 ,   四方実彦 ,   葛岡達司 ,   高橋真 ,   金栄治

ページ範囲:P.873 - P.875

 抄録:症例は23歳の女性で,主訴は左踵部の歩行時痛である.軽い捻挫の後の左踵部痛が持続するため,受傷後3ヵ月を経て本院を受診した.単純X線像で踵骨後端に軽度の周辺硬化を伴った直径3cmの嚢腫状溶骨性病変を認めた.生検を兼ねた掻爬,骨移植術を行った.腫瘍は嚢腫状で内腔は血液をまじえた漿液で満たされ,硬化した骨の壁面には暗赤褐色の軟部組織を見た.組織学的には紡錘型細胞の密な増殖と多核巨細胞が多数あり,その一部には軟骨細胞,軟骨基質への分化が見られ,良性軟骨芽細胞腫と診断した.現在まで術後経過は良好である.

膝蓋腱反射異常亢進を伴った第4・第5腰椎間椎間板巨大ヘルニアの1例

著者: 伊藤拓緯 ,   金子二司夫 ,   五味渕文雄 ,   中村尚

ページ範囲:P.877 - P.879

 抄録:膝蓋腱反射異常亢進をきたした腰椎椎間板巨大ヘルニアの1例を報告した.症例は40歳,男性で腰痛,両下肢痛にて発症した.神経学的所見として左下肢筋力低下のほかに両側の著明な膝蓋腱反射亢進を呈した.手術により巨大なL4/5椎間板ヘルニアを摘出したところ,腱反射亢進は徐々に正常化した.反射が亢進した機序として,脊髄牽引による1次ニューロン障害,反射弓の被刺激性亢進および心理的要因の関与を推論した.

第二中手骨に発生した形質細胞性骨髄炎の1例

著者: 岩瀬敏樹 ,   渡部健 ,   浦田士郎 ,   森宗茂 ,   岩堀裕介 ,   大脇義宏 ,   杉浦博基 ,   宮崎芳一 ,   加藤斉 ,   湯川泰紹 ,   稲垣善幸

ページ範囲:P.881 - P.884

 抄録:形質細胞性骨髄炎は,その病理学的所見で形質細胞の炎症性の集簇がみられることに特徴がある.筆者らは,48歳男性の右第二中手骨に発生した本疾患を経験した.X線像からは骨腫瘍やBrodie膿瘍が鑑別の対象となるが,手術により得られた病理組織中に形質細胞の集簇が観察され,免疫学的染色により炎症性の集族であることを確認し,診断が確定した,また,細菌培養にてSt. aureusが検出された.治療は,病巣掻爬および骨移植にて良好な予後が得られている.

40年前の切創が原因と思われる長母指屈筋腱皮下断裂の1例

著者: 中島秀人 ,   政田和洋 ,   大野博史 ,   下村裕

ページ範囲:P.885 - P.887

 抄録:約40年前に受傷した切創が原因と思われる長母指屈筋腱皮下断裂の1例を経験した.症例は48歳男性.作業中に旋盤から製品を外そうとした時,右母指を外転強制にて捻転し,以後,IP関節の屈曲不能に気づいた.既往歴として,小学校低学年時に転倒し,右手関節掌尺側に受傷したことがある.入院時現症から長母指屈筋腱皮下断裂および正中神経不全麻痺と診断し,手術を行った.手術時所見では,正中神経が手根管入口部で部分断裂,長母指屈筋腱は完全断裂,また示指深指屈筋腱は不完全断裂を呈していた.切創痕は尺側寄りにあり,40年前の受傷時に両屈筋腱に直接の外傷が加わったとは考えにくく,皮下断裂の原因は,正中神経断裂部周囲の滑膜炎が波及したことにより腱の脆弱化をきたし,さらに長母指屈筋腱についてはその走行の解剖学的特徴により,反復される機械的刺激が加わったためと考えられた.

小児急性化膿性膝蓋骨骨髄炎の1例

著者: 佐藤栄修 ,   菅野大己 ,   木村敏信 ,   小林昌幸 ,   鈴木克憲 ,   菅原修 ,   大矢卓 ,   石川淳一

ページ範囲:P.889 - P.892

 抄録:小児に発生した極めて稀な,膝蓋骨の骨髄炎について報告する.症例は7歳,女子.特に誘因となる外傷もなく膝関節痛と発熱で発症,安静と抗生剤投与にても病状が進行し発症後18日目で観血的治療に移行した.前膝蓋滑液包の切除,膝蓋骨病変部の掻爬と洗浄により炎症が鎮静した.起炎菌は黄色ブドウ球菌であった.術後2年の経過観察では,X線上,膝蓋骨の変形を残すものの何ら愁訴なく正常な生活を送っている.膝蓋骨の骨髄炎が稀な理由として解剖学的血管分布の特異性があげられる.早期診断と早期抗生剤投与が肝要だが,病状が進行するとき時期を待たず手術的に掻爬,洗浄すべきと考える.

頸胸椎硬膜外転移をきたした悪性中皮腫の1例

著者: 加藤雅也 ,   松岡正裕 ,   巣山直人 ,   飯塚正

ページ範囲:P.893 - P.896

 抄録:胸膜原発で,頸胸椎硬膜外に転移した悪性中皮腫の稀な1例を経験した.第4胸髄節以下の両側麻痺があり,麻痺の上行性ならびに術後の不安定性を予防する目的で脊柱管後方拡大術を施行し,可及的腫瘍切除を行った.中皮腫は胸腔,腹腔など体腔を被う中皮細胞に由来する腫瘍であり,胸膜中皮腫の発生頻度が最も高い,本邦における過去60年間の報告で脊柱管内転移は5例であるが,硬膜外転移をきたしたものは自験例を含め2例のみであった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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