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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科27巻1号

1992年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第65回日本整形外科学会学術集会開催するに当たって

著者: 杉岡洋一

ページ範囲:P.1 - P.2

 第65回日本整形外科学会学術集会は,福岡市ホテルニューオータニ博多,電気ビル,九電体育館(医療機器展示)を会場に,平成4年4月16日(木)~19日(日)の正味3日半にわたり開催する.『臨床と基礎的研究の接点』『国際化』『整形外科学の社会へのアピール』をテーマにプログラムの編成を行う予定である.
 従来春に開催されていた日本整形外科学会学術集会とは別に,主に基礎的研究を中心とした基礎学術集会が秋に分離して開催されるようになって本年ですでに6年を経過した.会員の多くは春の臨床を中心とした学術集会に出席し,第24回を迎えた骨軟部腫瘍学術集会と第6回を迎えた基礎学術集会は,主にその分野を専門とする人々に限られた学術集会となったように思われる.これは分離分散による極めて有効な効率の良い方法であると同時に,弊害も危惧される.特に臨床的な研究は,基礎的研究の裏付けが必要で,これは車の両輪のような関係にある.学術集会が春の総会のみに限られていた時は,臨床的演題と同時に基礎的な演題も取り上げられ,望むと望まざるとに拘らず,基礎的研究の進歩や話題にもふれることが出来た.しかし,多くの会員が出席する春の学会では基礎的研究はほとんど姿を消し,これが長年続くことは必ずしも望ましい結果を生むとは考えられない.

論述

逆行性島状皮弁による手部の再建

著者: 矢島弘嗣 ,   玉井進 ,   小野浩史 ,   稲田有史 ,   川西弘一 ,   福居顕宏

ページ範囲:P.3 - P.9

 抄録:手の軟部組織欠損に対して,種々の皮弁による再建が報告されているが,最近逆行性島状皮弁による方法が注目されている.なかでも,前腕皮弁,後骨間皮弁,指動脈皮弁,背側中手動脈皮弁が一般的で,われわれも31例に対して施行し,良好な結果を得た.前腕皮弁は手技的に容易で,大きな皮弁がデザインでき,かつ神経,骨,腱などの組織を含めることにより,種々の欠損に対して対処できる.後骨間皮弁は主要動脈を犠牲にすることがなく,幅4cm程度なら一次縫縮が可能で,挙上に少し技術的に困難な面があるが,母指内転拘縮の治療には推奨できる方法である.指動脈皮弁はドナー側に知覚障害を残す症例があるものの,神経の処置等により回避することができ,指先部損傷の再建方法としては非常に有用な方法である.背側中手動脈皮弁は指背側の皮膚欠損に対して適応がある.これら逆行性皮弁を用いることにより種々の手指軟部組織欠損を再建し得た.

人工膝関節片側置換術の成績

著者: 湯口真弓 ,   東倉萃 ,   井上尚美 ,   水野直樹 ,   小島敦 ,   鏡味毅 ,   水野秀朗

ページ範囲:P.11 - P.16

 抄録:1976年から1989年までに施行したMarmor typeの人工膝関節片側置換術のうち,一年以上経過観察し得た29例33膝を対象として,術後成績,X線所見を中心に問題点を検討した.手術時平均年齢65.0歳,術後平均経過年数6.7年で,疾患は変形性膝関節症25例,その他4例であった.臨床成績は,術前平均58.3点が術後平均84.0点と改善し,屈曲角度も120度以上が57%と満足できる結果を得,29膝88%は経過良好である.4膝にlooseningを認めたが,すべて脛骨コンポーネントのsinkingが原因で,容易に全置換術に移行可能だった.これらは,FTAの矯正不足,厚さ6mmのtibia plateau使用などが原因であった.したがって,手術手技と,厳格な手術適応に注意すれば,大変有効な手術法と考えられ,さらに,脛骨コンポーネントにMiller/Galante typeを使用することによって,短期成績ではあるが,より好成績を得ることができた.

血流シンチによる骨悪性腫瘍術前療法の早期効果判定

著者: 松本誠一 ,   川口智義 ,   真鍋淳 ,   黒田浩司 ,   小山田日吉丸 ,   山田康彦 ,   古屋光太郎 ,   礎辺靖

ページ範囲:P.17 - P.24

 抄録:99mTc-HSA(human serum albumin)を用いた血流シンチによって,14例の骨原発悪性腫瘍の術前療法の効果判定を行った.その結果,2例のtelangiectatic typeの骨肉腫では,治療前後での血流の変化に乏しく血流シンチの診断的価値は低かった.一方,他の12例においては,治療経過とともに血流の変化する様子が血流シンチにて鋭敏に観察され,特に2例においては,他の検査に先立って化学療法が有効か否かを判定することが可能であった.これより,腫瘍の血流の変化を非侵襲的に測定しうる血流シンチは,形態の変化をみる他の画像検査と併用することにより,治療効果の早期判定に有用であった.

脂肪肉腫と悪性線維性組織球腫の臨床・病態の比較

著者: 姥山勇二 ,   井須和男 ,   山脇慎也 ,   平賀博明

ページ範囲:P.25 - P.31

 抄録:脂肪肉腫70例,悪性線維性組織球腫(MFH)45例とから,その臨床像を分析した.発生年齢は50歳以上に好発することと,20歳以下に稀な点で共通する.両者とも好発部位は大腿だが,大腿の区域別発生頻度では相違をみる.その他脂肪肉腫は上肢に,MFHは殿部に特徴的に少ない.遠隔転移はMFHではその80%が肺に集中するが,脂肪肉腫では肺の他,肝,後腹膜にも同等に転移し死亡している.脂肪肉腫の3年,5年,10年生存率は89%,81%,75%,MFHのそれは79%,66%,53%でMFHの方が予後不良である.また1年以内の急激な経過をとる例がMFHにみられる.予後因子としては,脂肪肉腫では組織型,MFHでは局所再発が考えられた.最も発生頻度の高い脂肪肉腫の粘液型とMFHの通常型は,その組織構成因子も多彩であり,組織学的悪性度を判定する場合には,更に細分類した病理組織学的検討が必要な予後結果を示した.

腰椎椎間板ヘルニアにおける患肢低温域と臨床所見―サーモグラフィーによる検討

著者: 高橋弦 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   村上正純 ,   大竹良治 ,   豊根知明 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.33 - P.39

 抄録:片側下肢症状を有する腰椎椎間板ヘルニア症例にサーモグラフィーを施行し,低温域と臨床所見との関係について検討した.対象はMRIまたはCTにより確定診断がなされた64例で平均年齢は31歳である,障害高位はL3/4 1例,L4/5 32例,L5/S 23例,L4/5,L5/S 2椎間8例である.検討した臨床所見は検査当日の痛み,圧痛,筋力低下,知覚障害およびJOAスコアである.
 低温域の出現率は大腿領域では低く,下腿領域,足背では高かった.L4/5 1椎間とL5/S 1椎間の症例の比較では低温域の分布に差は認められなかった.低温域と各臨床所見の一致率は,痛み59.2%,圧痛59.4%,筋力低下68.8%。知覚障害60.4%であり,筋力低下との一致率が高かった.患側の体表面全体の温度低下の程度とJOAスコアとには相関関係が認められ,温度低下の程度は腰椎椎間板ヘルニアの重症度の指標になると考えられた.

大転子高位扁平股に対する頸部延長大転子下降術の成績

著者: 野口康男 ,   大石年秀 ,   三浦裕正 ,   杉岡洋一 ,   松元信輔 ,   藤井敏男

ページ範囲:P.41 - P.47

 抄録:先天性股関節脱臼治療後の大転子高位扁平股に対する頸部延長大転子下降術の13例14関節の術後平均9年の成績を検討した.トレンデレンブルグ徴候は術前は全例陽性であったが,術後は4関節のみに残存していた.跛行も13例中7例では消失していた.トレンデレンブルグ徴候の残存の原因は,術前から高度な臼蓋形成不全や亜脱臼を呈した関節における亜脱臼の増強,骨切り時に強い内反が加わることによる相対的な大転子下降の不足などであり,亜脱臼の増強した関節では術後に疼痛を残していた.従って高度な臼蓋形成不全や亜脱臼は本術式の禁忌である.本術式は的確に行われれば脚長の延長効果も有し,大転子下降術単独以上に跛行の軽減に有効な方法である.

手術手技シリーズ 関節の手術<下肢>

麻痺性足部変形に対する軟部組織手術

著者: 廣島和夫

ページ範囲:P.49 - P.58

はじめに
 周知のごとく麻痺性足部変形は,神経麻痺に起因する筋力不均衡によって発現する.従って,足部変形の治療の原則は,筋力不均衡の是正にある.しかし,筋力不均衡の是正と拘縮の除去を目的とする軟部組織の処理だけでは,長期間存在している麻痺性変形を十分に矯正することはできず,また,進行性麻痺性疾患における足部変形に対しても矯正効果を維持することは困難である.このような症例に対しては,骨関節手術を合併して行わねばならない.病態の相違(痙性麻痺か弛緩性麻痺か,進行性麻痺か非進行性麻痺か)によって,変形の種類と程度によって,また,年齢によって,手術治療のデザインが変わってくるが,これらの点については,総論の項で詳細に記載されている.本稿では,各術式の実際と術後療法におけるポイントについて,さらに,麻痺性疾患であるがための留意点について記載する.

整形外科を育てた人達 第100回

Harold Jackson Burrows(1902-1981)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.60 - P.62

家系
 英国は有能な整形外科医が多いが,Harold Jackson Burrowsもその一人である.1902年の生まれである.彼の家系は勤勉で有能な人が多く,祖父は軍医で将来を期待されていたが,53歳で亡くなり,父は祖父がインド派遣軍にいた時にインドで生まれ,軍医として教育を受けて外科医となっていた.Harold Jackson Burrows(以下,英国の書物には名前が長いのでJackoまたはJBとしてあるのでそれにならいJackoと記す)は,父の教育によりCheltenhamで医師になる決心ができ,CambridgeのKings Collegeで医師の資格を得て得意になっていた.父は1914年の第一次世界大戦時,Sir Robert Jonesの能率の良い整形外科の治療法を習い,戦後PortsmouthのWessex整形外科病院にて活動をはじめ,Altonの外来診療所でも援助をして働いたが,心筋梗塞で倒れて,その後は外科を去り,生理学,癌研究に移った.80歳まで働いたが,遂に亡くなった.

境界領域

血液の液状保存が6週間できるSAGM液の自己血輸血への応用

著者: 樋口富士男 ,   酒井亮 ,   副島崇 ,   内川知也 ,   井上明生 ,   清川博之 ,   前田義章

ページ範囲:P.63 - P.66

 抄録:現在,自己血輸血の最大の問題は,血液の保存期間が3週間と短いということである.このために大量の貯血が必要な場合や高齢者の実施は困難となり,採血法の工夫や高価なエリスロポエチンや冷凍保存法の応用が試みられている.しかし,本来自己血輸血は各種疾患の治療の補助手段として用いる輸血の合併症を避ける目的で行われており,患者にとっては絶対安全なものでなくてはならない.従って,安全で安価な血液の保存期間の延長は,患者や自己血輸血に携わるも医師にとって理想的な解決法である.西欧では5年以上前から血液を6週間保存できるSAGM液が使用されている.このSAGM液を102例の日本人に対して,400gの自己血輸血用として使用しその安全性を検討した.その結果,SAGM液は,400g使用では臨床的には安全な保存液であった.しかし,一部の症例では使用後一時的に一過性のトランスアミナーゼの軽度の上昇がみられたので,更に症例を増やした確認が必要であると思われた.

臨床経験

上腕骨滑車骨折後の内反肘に伴った遅発性尺骨神経麻痺の1例

著者: 飯田哲 ,   岡崎壮之 ,   栗原真 ,   徳重克彦 ,   長沢謙次 ,   金民世

ページ範囲:P.67 - P.70

 抄録:症例は23歳,女性.8歳時に左上腕骨骨折にてギプス固定を受け,17歳時左手環・小指のしびれから発症した遅発性尺骨神経麻痺の1例である.内反肘変形を認め,ストレスX線で20度の側方動揺性と,三次元CTにて肘屈曲・伸展に伴う滑車骨片の不安定性が認められた.手術時,尺骨神経はOsborneのfibrous bandでentrapされていたが,側方動揺性による外反ストレスや骨片の不安定性から尺骨神経を保護する目的にて筋層下前方移行術を施行した.術後6カ月,claw変形は消失,知覚障害は改善を示し,経過は良好である.外顆偽関節後の外反肘に遅発性尺骨神経麻痺が発症することは一般に知られているが,本症例のごとく,滑車偽関節後の内反肘に伴う遅発性尺骨神経麻痺の報告は,我々が渉猟した範囲では見当たらなかった.また,内反肘に伴う遅発性尺骨神経麻痺としては,顆上骨折後や滑車形成不全があるが,そのいずれとも異なる病態を呈していた.

骨癒合部近傍に骨折を来したsymphalangismの1例

著者: 荒巻忠道 ,   橋本靖 ,   益子秀久

ページ範囲:P.71 - P.74

 抄録:symphalangism(指節癒合症)は,先天性奇形の中でも稀な疾患であり,今回,我々は骨癒合部近傍に骨折を来したsymphalangismの1例を経験したので報告する.
 症例は31歳の男性.就業中,塗料の攪拌器に左手を巻き込まれ受傷した.家族歴では4代にわたる追跡調査が可能であり,常染色体優性遺伝を思わせる遺伝性を認めた.手術所見にて,骨癒合関節部には,膠原線維間に線維芽細胞が密に配列した関節包と思われる組織を認めた.骨癒合部の病理組織では硝子軟骨組織と軟骨細胞が存在し,軟骨性骨化による強直と考えられた.

大腿骨頭前方回転骨切り術とKramer変法を施行した高度大腿骨頭すべり症の1例

著者: 高橋謙治 ,   久保俊一 ,   藤岡幹浩 ,   大塚悟郎 ,   池田文一 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.75 - P.79

 抄録:症例は12歳,女性.主訴は右股関節部痛.身長158cm,体重62kgで肥満傾向を認めた.右股関節可動域は屈曲,外転,内旋で制限があった.X線学的に股関節裂隙の狭小化があり,右大腿骨頭の後下方へのすべりはposterior tilting angle(PTA)で75°認めた.慢性型の右高度大腿骨頭すべり症と診断し,大腿骨頭前方回転骨切り術とKramer変法を組合わせて施行した.PTAは5°に改善し術後1年から全荷重負荷を行っているが,軽度の内旋制限が認められるものの,疼痛はなく関節裂隙は良好に保たれている,術後行ったシンチグラフィーでも骨頭への血行が保たれていることを確認した.高度のすべり症には満足のいく治療法が確立されているとは言いがたいが,本法では栄養血管の保護を経験的な勘に頼ることなく,直視下に行いえた.また,整復状況を的確に判断でき,高度なすべりも十分に矯正できるため,今後高度すべり症に対する有効な治療法になり得ると考えられる.

肩関節直立脱臼の3例

著者: 加藤裕之 ,   平山博久 ,   高野正一 ,   鳥飼英久 ,   高瀬完

ページ範囲:P.81 - P.85

 抄録:稀な肩関節直立脱臼luxatio erecta3例の報告.症例は55歳・73歳・21歳の男性.受傷機転はすべて上肢への過外転外力と思われ,初診時上肢は挙上位に固定され,腋窩部には上腕骨骨頭を触知した.上肢を長軸方向に牽引整復後Désault固定施行,2例に肩腱板損傷を認め,うち1例にMcLaughlin法を施行した.全肩関節脱臼の約0.5%に過ぎない直立脱臼は前方脱臼のsubglenoid typeとは発生機序がやや異なり,徒手整復は容易だが合併症として大結節骨折や腋窩神経損傷の頻度は高く,また肩腱板損傷や腋窩動脈損傷等に対する注意も必要である.

股関節症の成績不良例の検討

著者: 長鶴義隆 ,   帖佐悦男 ,   森田信二 ,   柏木輝行 ,   園田典生 ,   田島直也

ページ範囲:P.87 - P.91

 抄録:術後1年以上経過観察した股関節症306例370関節のうち,当科あるいは他の施設で行われた初回手術の経過不良例20例20関節(5.4%)の原因と対策を解明し,今後の治療成績の向上に寄与することを目的とした,成績不良の原因を検討すると,内反,外反骨切り術の適応の誤りと臼蓋形成術の手技に関与した症例が14例(70%)と早も多く,後療法中に問題を生じたものは5例,その他,原因不明の感染例が1例となる.以上の手術時年齢は平均38.7歳で,これより8.9年後に成績不良の原因を踏まえて追加手術が15例に余儀なく実施され,術後平均3年の評価では,全例が良好な成績が得られた.とりわけ,内反骨切り術の適応は,外転位での関節適合性が良好で,∠CEが10°,AHIは60%程度以上の症例である.一方,臼蓋形成術には原臼蓋と連続した適合性の良好な荷重面を形成する手技上の問題の他に,術後∠CEが20°,AHIは80%以上あることが必要である.

Pena-Shokeir症候群Ⅱ型の1例

著者: 二井英二 ,   小保方浩一 ,   原親弘 ,   祖父江尚久 ,   井忠明

ページ範囲:P.93 - P.96

 抄録:Pena-Shokeir症候群II型は,cerebro-oculo-facio-skeletal syndrome(COFS症候群)とも呼ばれ,先天性多発性関節拘縮,特異な顔貌などを特徴とする先天性異常症であり,欧米では約30例の報告がみられているが,本邦においては,現在までに3例の報告をみるのみであり,極めて稀な疾患と思われる.Pena-Shokeir症候群はI型とII型に分類されており,多発性関節拘縮と特異な顔貌を示し,肺形成不全を伴い生後早期に死の転帰をとる致死性のものはI型,肺低形成がみられず,小頭症,小眼球症などの所見を呈するものはII型とされている.しかし,I型およびII型は同一疾患であるとする説もあり,その定義は必ずしも明確なものではないが,本症例は肺低形成がみられないことよりII型と診断した.その他の鑑別診断としては,Larsen症候群,Potter症候群,18トリソミー症候群,Neu Laxova症候群,multiple pterygium syndromeなどが重要である.

第5腰椎に広範な骨破壊を生じ脊柱再建術を要した砂時計型神経鞘腫の1例

著者: 光山孝慶 ,   神原幹司 ,   黄文欽 ,   定直行 ,   根元成佳 ,   宮田重樹

ページ範囲:P.97 - P.101

 抄録:馬尾神経原発の神経鞘腫は脊椎の骨破壊を起こし得るが,脊柱の再建術を要するほど広範な例は少ない.最近我々は,第5腰椎に広範な骨破壊を生じた神経鞘腫の1例に対して腫瘍摘出後,instrumentationと後側方固定による脊柱再建術を施行し,良好な成績を得たので報告する.症例は78歳,女性.主訴は腰痛,右殿部・大腿部痛.神経学的検査にて異常所見は認められず,血液・生化学的検査も異常はなかった.各種画像診断により左L5/S1椎間孔を中心として,いわゆる砂時計腫がL5椎体を広範に破壊していることが描出された.手術は後方経路により侵入し,腫瘍摘出後,Harrington instrumentationと後側方固定法により脊柱を再建した.病理診断は神経鞘腫であった.術後,神経脱落症状もなく良好に経過している.

胸椎部肥厚性脊髄硬膜炎の1例

著者: 姜秀宗 ,   吉岡秀夫 ,   天野祐一 ,   金井秀彰 ,   武田善樹

ページ範囲:P.103 - P.106

 抄録:肥厚性脊髄硬膜炎は硬膜の限局性肥厚により脊髄および神経根を圧迫し,さまざまな臨床症状を来す稀な疾患である.我々は胸椎部に発生した肥厚性脊髄硬膜炎の1例を経験したので報告する.症例は48歳の女性で,主訴は背部痛と歩行障害である.両下肢の筋力低下・腱反射の亢進・Th4以下の知覚鈍麻を認めた.血沈亢進,CRPの上昇,脳脊髄液の細胞・蛋白の増加があり,MRIで硬膜管の腫大および不整像を,ミエログラフィーでは完全ブロックを認めた.Th1からTh5までの左側椎弓広範囲切除術を施行し,肥厚硬膜を可及的に切除した.術後,背部痛は消失し,運動.知覚障害も改善した.本疾患の原因は特発性のものが多く,術前診断は困難である.MRI・脳脊髄液検査は脊髄腫瘍との鑑別の上で重要であり,不全麻痺が出現する前に早期診断,早期治療が必要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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