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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科27巻8号

1992年08月発行

雑誌目次

視座

整形外科と組織移植

著者: 玉井進

ページ範囲:P.877 - P.877

 整形外科における組織移植といえば,まず骨移植が挙げられる.骨移植についてのはじめての記載は1682年,Meekrenによる頭蓋骨欠損への犬の骨の異種移植に関するものであるが,自家骨移植が普及するようになったのはOllier(1830-1900)の業績に負うところが大きい.皮膚移植も手の外科などでは日常茶飯事の手術で,Baronio(1804)がはじめて羊を用いた実験に成功し,Wolfe(1875)が人で全層植皮を行ったのが最初とされている.その後一世紀の間に,骨・関節の同種移植が腫瘍切除後の欠損に応用されたり,さらにはマイクロサージャリーを応用した切断肢・指再接着,趾の手への移植,血管柄付骨移植や遊離皮弁移植などが整形外科手術の常識を一新した.
 このところ,肝移植成功のニュースとそれに伴う脳死問題に刺激されて,整形外科領域でも同種組織移植に対する関心が急速にたかまってきたようである.すでに日整会においても移植問題等検討委員会が発足しており,「移植に関するガイドライン」なるものが示されている.死体の骨を採取して移植に用いることは,昭和29年にすでに「法的には問題なし」とされていたらしく,十分なインフォームド・コンセントが得られておれば,骨の同種移植は全く問題なく実施してよいとのことである.それに伴い,骨に限らず各種組織,例えば,関節,靱帯,筋肉,腱,神経,皮膚,そしてこれら種々の組み合わせによる血管柄付複合組織移植,例えば,骨皮弁,筋皮弁,あるいは手,足,指,趾などの移植もそろそろ実現可能な状況になってきたといえる.勿論,これらを実現させるためには,ドナーの選択,組織保存法や免疫抑制法などの問題が山積しているが,少なくとも心臓や肝臓などのように,是が非でも脳死者からの組織でなければということは少ない点で,実現し易いかもしれない.

論述

姉妹兄弟のdysplastic hipの相似性

著者: 中馬敦 ,   篠原寛休 ,   藤塚光慶 ,   鈴木洋一 ,   矢島敏晴 ,   丹野隆明 ,   太田秀幸 ,   大須英夫

ページ範囲:P.878 - P.885

 抄録:dysplastic hipを示す姉妹兄弟の相似性について,一般群と比較対照し検討した.対象はdysplastic hip姉妹兄弟群35組73例,一般群429例.検討項目は,1)姉妹兄弟例の診断,罹患側,初診時の開排制限の有無,X線的には∠α,∠L及び臼蓋形態,2)姉妹兄弟ともに無治療臼蓋形成不全例のX線的経過,3)姉妹兄弟群と一般群との間の疫学的諸因子の比較である.その結果,1)姉妹兄弟例は臼蓋形成不全の両側罹患が多かった.姉妹兄弟間では罹患側,開排制限の有無の一致するものが多く,X線的に臼蓋の形態が類似するものが多かった.2)X線的経過は大部分が1年以内に正常化し,それぞれの姉妹兄弟で固有の臼蓋発育経過を示すものが存在すると考えられた.3)疫学的諸因子の比較では,同族内集積は姉妹兄弟群で有意に高いが,骨盤位分娩,帝王切開及び寒冷期出生の頻度は姉妹兄弟群の方がむしろ低く,正常群の値の方に近かった.

社会生活的予後からみた特発性側彎症の長期治療成績

著者: 松永俊二 ,   洒匂崇 ,   吉国長利 ,   川内義久 ,   井尻幸成 ,   石堂康弘 ,   野添新一

ページ範囲:P.887 - P.893

 抄緑:特発性側彎症の治療上,患者の社会的生活上の予後を詳しく知ることが重要であると考え長期的追跡調査を行った.対象は10年以上経過を観察することができ,かつ現在20歳以上の成人に達した計47名(保存療法33例,手術的治療14例)であり,平均14.3年の長期追跡により側彎の進行と社会生活上の予後を調査した.側彎の進行については,保存症例で初診時骨年齢16歳未満かRisser IV型以下の症例18例中11例(61%)で,5°以上の進行が認められた.腰痛や背部痛は保存例の52%,手術症例の21%にみられた.結婚について,本症のため結婚に支障があったと答えたものは79%であり,同年代での鹿児島県成人女子の有配偶者率に比べ有意に低かった.また,90%の症例で本症による心理的負担が関与していた.今後の治療に際しては,変形の矯正のみにとらわれず,患者の環境や社会生活上の予後まで十分に考慮に入れた治療方針が必要であると思われる.

交通事故における上位頸椎領域の靱帯損傷

著者: 越後谷直樹 ,   原田征行 ,   村上利

ページ範囲:P.895 - P.903

 抄録:交通事故における上位頸椎損傷,特に翼状靱帯,環椎横靱帯などの靱帯損傷について,交通死亡事故遺体より得た頸椎標本16例の所見をもとに検討した.上位頸椎損傷は14例に認められ,その中13例に靱帯損傷を伴っていた.13例中8例には明らかな骨折や脱臼,不安定性を認めなかった.翼状靱帯損傷は11例に,その中3例に横靱帯損傷が認められた.横靱帯の単独損傷はなかった.1例に,横靱帯の横の連続性が残存した冠状断裂による著明な環軸椎亜脱臼を認めた.一般に,交通事故における頸椎損傷は加速度損傷であり,前後屈,回旋,側屈などの混合運動が強制される.特に横靱帯損傷を伴うものは作用外力も強く,過屈曲の関与が大きい.靱帯損傷を認めた13例中8例は頭蓋骨骨折を伴い,頭蓋骨骨折に靱帯損傷を伴わないものは2例のみであった.程度に関わらず,頭部外傷を認めるものでは靱帯損傷を伴う可能性が高いと推定された.

band pattern以外のMR像を呈した大腿骨頭病変の検討

著者: 西野暢 ,   松本忠美 ,   勝木保夫 ,   柳瀬茂樹 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.905 - P.910

 抄録:MRIのT1強調画像におけるband状低信号域が大腿骨頭壊死症に特徴的な所見であることは,諸家より報告されており,厚生省診断基準の大項目の1つにもなっている.しかし,band pattern以外のMRI像を呈する大腿骨頭についての報告は少なく,今回,その病態について,血流測定及び骨生検により血行動態的,病理学的検討を行った.今回の結果から,inhomogeneous patternは大腿骨頭壊死症にかなり特異的な像と考えられた.また,血流測定は,大腿骨頭壊死症と他の疾患との鑑別に有用であることがわかった.

境界領域

人工膝関節形成術における自己血輸血

著者: 八木知徳 ,   平岡正毅 ,   男沢千啓 ,   鈴木哲

ページ範囲:P.911 - P.916

 抄録:人工膝関節置換術に伴う術中・術後出血量は1,000mlをこえることがあり,同種血輸血を要することが多い.しかし,同種血輸血は,いまだにC型肝炎を始めとする感染症やGVHDなどの危険があり,安全とはいえない.当科では1988年より人工膝関節形成術症例に対し,術前自己血採血・貯血を行うとともに,術中・術後出血回収法を行ってきたので,高年齢者における術前採血法の安全性,有効性について検討し報告する.
 術前貯血群(n=14)の総輸血量は平均1,004mlで,輸血は術前貯血493ml,回収血482ml,同種血29mlで,同種血輸血は1例のみであった.非貯血群(n=14)の総輸血量は909mlで,同種血は471ml,同種血輸血は11例(71%)であった(P<.01).術前採血量が600ml以下であればヘモグロビン値の低下は少なく,合併症も皆無で,自己血輸血法は平均70歳以上の高齢者においても安全で有用な方法である.

器械

脊髄損傷者の褥瘡予防―ROHO® mattressによる臥床時の体圧軽減効果

著者: 井上虎吉

ページ範囲:P.917 - P.922

 抄録:臥床時の褥瘡予防のために,日常用いられるマットレス,クッション材について,脊髄損傷を主とする患者19例(男17,女2)と,健常男女各9例において身体(仰臥位での仙骨部と側臥位での転子部)とクッション材の間の体圧を英国Talley社製空気圧測定器で測定した.その結果,米国ROHO社***製mattressでは小動脈圧28~32mmHg以下の値を示し,実際の経験でも導入以来2年以上夜間(18時~翌8時)の体位変換をせずに,褥瘡の発生を見ていない.ムアツふとん®(ポリウレタン波型マット)では比較的低い値を示したが,上記の値に収まらず骨突出部の発赤を認めたため,クッション材を併用し,一般に用いられるパラマウント社製のチェッカーマット®では,はるかに高い値を示したのでクッション材を併用すると共に,定時の体位変換が必要と思われた.臥床時の褥瘡予防のためには,看護ケア以外に良好なマットレスやクッション材と簡便な体圧計による患者の状態把握が必要である.

整形外科を育てた人達 第106回

Wilhelm Conrad von Roentgen(1845-1923)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.923 - P.925

 Wilhelm Conrad von Roentgenは整形外科医ではないが,骨の疾患,外傷を多く取り扱う整形外科はX-rayが不可欠であるので,Roentgenは整形外科を育てた人達から省くことの出来ない偉大な学者である.

整形外科英語ア・ラ・カルト・2

MUSCLE(マッスル)/TENDON(テンドン)

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.926 - P.927

 第1回目は,〔アキレス腱〕のことを書いたが,今回は整形外科学の分野ではキーワードの一つである筋肉と腱のことについて書いてみたい.

臨床経験

神経症状を伴った先天性頸椎癒合症

著者: 湯浅竜寿 ,   巣山直人 ,   飯塚正

ページ範囲:P.929 - P.932

 抄録:先天性頸椎癒合症は比較的よく見られる頸椎奇形であるが,神経症状を伴うものは少ない,本症のうち頸髄症,頸部神経根症を伴うものについて病態と治療を検討した.対象は最近3年間に当科で加療した7例で,男性6例,女性1例,年齢は34~71歳で平均年齢は51歳であった.画像診断は各種施行し,とくにMRIは全例に行い,臨床症状との相関を検討した.4例は保存的に,3例は観血的に治療した.日整会スコアによる7例の平均改善率は50%であった.MRIでは癒合椎の上下椎間で脊髄の圧迫が高頻度に認められた.脊柱管狭窄を合併するものは神経症状が比較的高度であった.本症は,他の先天奇形,頸椎管狭窄,および癒合椎の隣接椎間での不安定性などの合併頻度が高く,頸髄症や神経根症を惹起する危険性が高いことが示唆された.

股関節疾患における腰椎X線像の検討―腰椎不安定性に及ぼす影響について

著者: 木下誠司 ,   鷲見正敏 ,   片岡治 ,   庄智夫 ,   佃政憲

ページ範囲:P.933 - P.937

 抄録:股関節疾患に基づく屈曲拘縮や脚長差のために,腰椎に前彎や側彎変形が発生するとの報告は散見されるが,腰椎不安定性発生についての報告は少ない.筆者らは変股症患者の立位腰椎X線像における,各種変形および不安定性について検討した.対象は変股症50例で,男性が4例,女性が46例であり,年齢は28~80歳(平均55歳)であった.腰痛などの臨床症状と股関節屈曲拘縮・脚長差を調査し,立位腰椎X線前後および側面機能撮影像から,腰椎前彎角・側彎角・骨盤傾斜角および前方圧縮像やすべり像などの不安定性について検討した.
 腰痛は26例(52%),腰椎由来の下肢症状は7例(14%)に,20°以上の屈曲拘縮は22例(44%),2cm以上の脚長差は18例(36%)に認められた.65°以上の腰椎前彎角は16例(32%),5°以上の側彎角と側方への骨盤傾斜角は各19例(38%)・11例(22%)に認められた.腰椎不安定性は25例(50%)に,特に屈曲拘縮例(20°以上)に多く認められた(P<0.01).

小児大腿骨頸部骨折における血行の検討

著者: 武村康 ,   渥美敬 ,   吉田雅之 ,   山野賢一 ,   佐藤哲夫 ,   村木稔 ,   斉藤進 ,   黒木良克

ページ範囲:P.939 - P.944

 抄録:大腿骨頸部骨折は高齢者に頻発する骨折であり,幼小児に起こる頻度は低い.
 今回我々は,大腿骨頭の血行変化を選択的動脈造影にて観察した4例の小児大腿骨頸部骨折を経験したので報告する.受傷時年齢は10~15歳(平均12.5歳),受傷時からの平均経過観察期間は,3年1カ月であった.4例中1例は保存的療法,3例は観血的整復固定術を施行した.手術を行った3例中2例は術前および術後に,残り1例は術後のみに造影を行った.術前造影では2例とも骨頭内に正常な血管形態を認めず,術後造影においては,1例は正常形態に近い血管が造影され予後も良好であり,他の2例では正常血管を認めず壊死に至った.保存療法の1例は,ほぼ正常の血管が観察され,予後良好であった.以上より,受傷時に起こる大腿骨頭の虚血後の修復血行の侵入進行程度がその予後に影響を及ぼすことが示唆された.

大動脈縮窄症手術後,対麻痺をきたした1例

著者: 二井英二 ,   小保方浩一 ,   原親弘 ,   平田仁 ,   須藤啓広 ,   藤浪周一

ページ範囲:P.945 - P.947

 抄録:大動脈縮窄症の術後,虚血性の脊髄麻痺をきたした1例を経験したので報告した.大動脈縮窄症手術後の脊髄麻痺の合併率は,1%以下と言われ,欧米における報告例は少なからずみられるが,本邦においては3例をみるのみであり,極めて稀である.麻痺の発生原因としては,手術時における下行大動脈の遮断であり,遮断による遠位側の低血圧,術中の高体温,術中の低血圧,大動脈遮断に伴う脳脊髄圧の上昇などが知られているが,特に術中の低血圧,高体温が重要な因子であり,遮断時間には相関性はないとの報告が多い.大動脈疾患手術後の脊髄麻痺は,弛緩性の完全麻痺の症状を呈することが多く,麻痺レベルとしては,Adamkiewicz arteryの支配領域に起こることが多い.大動脈縮窄症手術後に虚血性の脊髄麻痺が起こる際の麻痺レベルについては,文献的に詳しい記載はないが,分水界と考えられている第1腰髄髄節を中心にした領域に起こりやすいと思われた.

踵骨multifocal ossificationの2例

著者: 向井宏 ,   藤井英夫 ,   佐藤進 ,   工藤俊男 ,   上原香

ページ範囲:P.949 - P.953

 抄録:非常に稀な踵骨multifocal ossificationを2例経験したので報告する.症例1)2歳,男.左扁平足のため来院した.X線上,両踵骨前方3分の1の骨陰影が欠損していた.足底挿板を装用し足部変形は矯正された.成長に伴いX線での踵骨前方の骨陰影欠損部には骨核が出現し,それらは徐々に大きくなり,8歳時には踵骨は正常の形態を示した.症例2)4週,女.右足部変形を主訴に来院した.右足部は外反踵足を示した.X線上,両踵骨は後方3分の1に点状の骨核が散在するのみであった.足部変形はギプスおよび装具により矯正された.X線上,1年後,踵骨後方に骨核が出現し,2年後,前方にも骨核が現れ,両者は癒合しようとしていた.過去の文献上,本症は踵骨外反変形を高率に合併していたが,両者の間に困果関係があるとは断定できない。また,本症は足部の変形がない限り,経過観察のみで充分と思われるが,2~3歳児では足底挿板も考慮すべきかもしれない.

頸椎外傷後のretropharyngeal hematomaにより気道閉塞を来した1例

著者: 鈴木譲二 ,   細谷俊彦 ,   塩田匡宣 ,   徳永祐二 ,   井幡巌

ページ範囲:P.955 - P.959

 抄録:頸椎外傷後に,retropharyngeal spaceに血腫を形成することはよく知られているが,これが気道を圧排し,呼吸困難を引き起こすことが稀にある.このような報告は英語文献においては十数例認められるものの,本邦においては1例の報告のみである.症例は74歳の女性で,乗用車同士の交通事故にて受傷し,項部痛,両手の軽度の痺れをを主訴に来院したものである.X線写真上,脱臼,骨折を認めず,明らかな神経学的所見を認めないため,頸部安静にて経過観察したが,徐々に頸部腫脹感,嗄声,嚥下困難,咽頭部不快感等の症状をきたしたため,受傷約4時間後緊急気管内挿管を施行した.単純X線写真,CTにて,retropharyngeal hematomaを確認後,手術的に約90gの血腫を除去した.文献的考察を交え,特徴的所見による早期診断が救命に必須であることを強調したい.

第1/2腰椎完全側方脱臼骨折の1例

著者: 河本正昭 ,   佐藤正泰 ,   岩崎廉平 ,   西坂米昭 ,   杉谷繁樹 ,   笠井宗一郎

ページ範囲:P.961 - P.964

 抄録:交通外傷によりL1/L2の完全脱臼を生じたが,脊柱管の短縮効果により脊髄に対する重度の圧迫を免れていた症例を経験した.L1椎はL2椎の左側へ転位していたが,右椎弓根部と左関節突起間部での骨折により椎弓と椎体は離開していた.このため脊柱管はTI2/L2間で1椎体高だけ短縮し,これが硬膜管の切断や完全麻痺に至らなかった要因と考えられた.後方,前方より二期的に手術を施行し,術後1年の現在,歩行可能となった.

肩峰形成術後の筋力評価と切除肩峰下面の病理組織学的検討

著者: 末永直樹 ,   福田公孝 ,   三浪明男 ,   金田清志

ページ範囲:P.965 - P.968

 抄録:肩impingement症候群に対して,腱板の修復をせずに肩峰形成術を単独で行った,12例12肩について,その成績,術後の筋力の回復状態,切除した肩峰下面および烏口肩峰靱帯の組織学的な変化に関して検討を行った.肩峰形成術の方法は,Neer法が10例,Ellmanに準じた関節鏡視下のdecompressionが2例であった。Neerの分類と症例数では,stage IIが8肩,stage IIIは4肩で,術後経過観察期間は平均17.4カ月であった。6カ月以上経過観察のできた11例中,Neerの評価法で10例がsatisfactoryであり,日整会肩関節機能判定基準による評価では術前平均76.3点が術後平均92.5点と全例で評価点が改善した.CybexIIを用いた術後の筋出力トルクでは,鏡視下のdecompressionの方が筋力の回復は良好である傾向を示した.組織学的検索では,stage IIにおいても線維軟骨層の肥大増殖,烏口肩峰靱帯の炎症性変化が存在し,腱板の断裂なしに肩峰下面の病理学的変化を引き起こす可能性を示唆していた.

腰部脊柱管内外に発生したsynovial cystの1例

著者: 玄東林 ,   森田裕己

ページ範囲:P.969 - P.972

 抄録:脊柱管内に発生するsynovial cystは稀である.今回我々は腰部脊柱管内外に発生し馬尾症状を呈した1例を経験した.症例は69歳,男性で主訴は間欠跛行である.脊髄造影,ミエロCT,MRIなどの検査により腰部脊柱管内硬膜外に嚢腫を認め手術を施行した.嚢腫は右L3/4椎間関節を発生母地とし脊柱管内外に認められた.病理組織学診断はsynovial cystであった.
 synovial cyst発生の主な病因としては,椎間関節の退行性変化に伴う滑膜組織のヘルニアや近傍結合組織の粘液変性が考えられている.椎間関節の変性や腰椎辷り症などがある場合,本疾患の存在を疑う必要がある.

環軸椎脱臼を含む頭蓋頸椎移行部重複奇形に合併した小児脊髄空洞症の1手術例

著者: 竹内淳子 ,   菊地顕次 ,   古和田正税 ,   坂本哲也 ,   佐藤光三

ページ範囲:P.975 - P.979

 抄録:頭蓋底陥入症,環椎後頭骨癒合,環椎二分脊椎および環軸椎脱臼などの頭蓋頸椎移行部重複骨奇形に,Chiari奇形および脊髄空洞症を合併した小児例において,後頭下減圧術と後方固定術を一期的に行って良好な結果が得られたので報告した,症例は11歳男児で,左手の筋力低下とC7領域の知覚低下があり,MRIでChiari I型奇形を合併する脊髄空洞症(C4-Th9)と診断された.環椎・歯状突起間距離は後屈位で6mmで,instability indexは45%であり,環軸椎脱臼の所見だった.手術は後頭下開頭術,第1頸椎椎弓切除術および硬膜形成術を行って大後頭孔部を減圧し,併せて自家骨移植で後頭骨頸椎後方固定術を行った.術後に神経症状が改善し,MRIでsyrinxは著明に縮小していた.

bipolar型人工骨頭のポリエチレン製ベアリングインサートが破損した1例

著者: 犬房秋彦 ,   山野慶樹 ,   長谷川徹 ,   山岡稔生

ページ範囲:P.981 - P.983

 抄録:bipolar型人工骨頭は広く用いられており,その再手術例の報告もみられるようになった.bipolar型人工骨頭のポリエチレン製ベアリングインサートが破損した1症例を経験したので報告する.症例は26歳女性で,急性リンパ性白血病にてステロイドを投与され,両側大腿骨頭壊死症を発症した.セルフセンタリング機構のない人工骨頭にて両側人工骨頭置換術を受け,術後7年でポリエチレン製ベアリングインサートが破損したため,セルフセンタリング機構を有するアウターヘッドを用いて再置換した.ポリエチレン製ベアリングインサートの破損の原因としては,若年者であり非常に活動性が高いことと,BHPヘッドがセルフセンタリング機構を有さずアウターヘッドが内反位にあり,ベアリングインサートが摩耗しやすかったことが考えられる.

四肢組織欠損に対するperoneal flapの経験

著者: 今村貴和 ,   毛利保雄

ページ範囲:P.985 - P.989

 抄録:peroneal flapを施行した7例(逆行性島状皮弁6例,遊離血管柄付腓骨付皮弁1例)につき検討した.全例が生着し,術後皮弁採取による機能障害もみられなかった.島状皮弁として利用した場合,本皮弁は広範囲に移動可能な有用な皮弁と考えられた一方,筋皮枝を血管柄とした場合手技がより煩雑となり,手術時間,出血量などの侵襲も増大した.

肩甲下筋腱単独断裂の診断

著者: 藤本昭二 ,   平井康裕 ,   片岡泰文 ,   森澤佳三 ,   高木克公

ページ範囲:P.991 - P.993

 抄録:肩甲下筋腱断裂は比較的稀な疾患であるが,近年徐々に報告例が増えてきている.これは本疾患に対する認識の高まりと,補助診断法の進歩によるものと思われる.我々は2例の肩甲下筋腱断裂症例を経験し,axial viewが描出可能なdouble contrast CT arthrography,超音波検査,MRI検査を行い,良好な画像が得られたため,この疾患に対するこれらの検査の有用性について,若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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