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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科27巻9号

1992年09月発行

雑誌目次

視座

HIV感染の諸問題

著者: 長紹元

ページ範囲:P.995 - P.995

 HIV感染者の問題はもはや医師として避けて通れない所に来ている.
 整形外科は臨床医の中では,鮮血に曝される機会の多い分野であり,この問題を真剣に考えなければならないと思っている.
 現時点ではHIV感染を治す方法はない.この20世紀末に人類が遭遇した最大の強敵に対し,恐れを抱かない者はいないと思うが,ただ恐れて逃げまわっていても仕方がない.

論述

displaced fat pad sign陽性,転位軽度な小児肘関節周辺骨折の検討

著者: 西島雄一郎 ,   太田義明 ,   道下正光 ,   山崎安朗 ,   東田紀彦

ページ範囲:P.996 - P.1002

 抄録:displaced fat pad sign陽性で転位軽度な肘関節周囲骨折48骨折を集計した.外顆骨折がもっとも多く,この骨折ではmetaphysisの線状陰影として骨折線が認められる。その線状陰影は時として骨端線と鑑別しにくい時もある.次に多いのは前腕骨近位端骨折で橈骨頸部骨折は思春期に多く,尺骨近位端骨折は年少者に多かった.これらの骨折では受傷時骨折線が明らかではなく,後に仮骨形成や骨硬化像を見て骨折と診断するに到った例がある.顆上骨折はparadoxical displaced posterior fat pad signを示した.displaced fat pad signは転位軽度な肘関節周囲骨折の診断にはまず注目する所見である.この所見が陽性であれば骨折があると考えて詳細に読影する.たとえ初診時骨折線を発見できずとも,骨折に準じて外固定を行う方が良い.

頸椎後縦靱帯骨化症のMRI

著者: 簗瀬光宏 ,   米和徳 ,   武富栄二 ,   川井田秀文 ,   酒匂崇

ページ範囲:P.1003 - P.1010

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化症(OPLL)における後縦靱帯骨化巣(骨化巣)および周辺組織のMRIの特徴を知ることを目的として頸部脊椎症のMRIとの比較検討を行った.OPLL100例および頸部脊椎症50例のMRIを対象とした.MRIにてOPLLの骨化巣内に中,高信号域をT1強調像では43%に,T2強調像では38%に認めた,骨化形態別にみると連続型および混合型OPLLの約半数で骨化巣内に中,高信号域を認めた.OPLLでは,頸部脊椎症に比し,特徴的な2椎間板形態を骨化椎間において多く認め,椎間板に連続増生した線維軟骨を示唆する所見と考える.
 MRI上,後縦靱帯肥厚をOPLLにおいて7%に認め,骨化前駆状態の可能性があり,今後の追跡調査を要する.

腰部脊柱管狭窄症に対するLipo PGE1静注法の検討

著者: 村上正純 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   高橋弦 ,   大竹良治 ,   豊根知明 ,   北原宏 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1011 - P.1018

 抄録:神経性間欠跛行を主症状とした腰部脊柱管狭窄症30症例に対して,Lipo prostaglandin E1(以下,Lipo PGE1)bolus静注療法を行い臨床効果を検討した.さらに,その効果発現機序を解明する目的で,実験動物およびヒトにおいてレーザードップラー血流計を用いて神経根の血流量を測定し,Lipo PGE1投与による影響を観察した.その結果,①Lipo PGE1投与により,JOA scoreは平均15.9点から19.2点へと有意な上昇を示した.また項目別には,自覚症状における下肢痛・しびれ感および歩行能力とADLにおける歩行について有意な改善であった.②しかしその改善効果は,疼痛を主体とする神経根性間欠跛行例やJOA scoreの低い重症例では劣る傾向であった.③ネコを用いた動物実験および手術に至った臨床例において,Lipo PGE1投与による神経根血流増加作用が確認され,臨床効果発現機序の一つであると考えられた.

胸腰椎損傷に対するanterior two-rod plateを用いた前方除圧固定術の臨床成績

著者: 大竹良治 ,   北原宏 ,   南昌平 ,   高橋和久 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1019 - P.1025

 抄録:千葉大学整形外科およびその関連施設において,anterior two-rod plateを用いて前方除圧固定術を行った胸腰椎損傷52例の術後成績について検討することを目的とした.対象は男41例女11例の合計52例である。経過観察期間は4カ月より6年1カ月平均2年10カ月である.骨折形態では,粉砕骨折が34例で,脱臼骨折が18例である.脊柱の局所変形と腰痛との間には明らかな関連を認めなかった.神経症状の術後悪化例はなく,術前Frankel分類B,CあるいはDの不全麻痺例では1ないし2段階の改善を36例中33例(92%)に認めた.術前の排尿障害は馬尾レベル損傷例のほうが脊髄レベル損傷例より低頻度であり,術後の回復も良好であった.本手術法は前方から脊髄・馬尾の十分な除圧を行い,同時に固定がshort fusionにて可能な手術法であり,粉砕骨折等前方からの圧迫要素の大きい不全麻痺例が最も良い手術適応である.

境界領域

外傷性脊髄損傷患者に対する横隔膜ペーシングの経験

著者: 武井寛 ,   高木信博 ,   笹木勇人 ,   星信一 ,   永井博子 ,   尾鷲和也 ,   大島義彦

ページ範囲:P.1027 - P.1030

 抄録:第2頸椎脱臼骨折により完全四肢麻痺,呼吸麻痺となった35歳男性に,受傷3年後横隔膜ペーシングを試みた.術前,横隔神経伝導時間は右8.4ms,左11.0msであった.横隔神経刺激部位は頸部を選び,両側同日に電極,レシーバーの埋め込み術を行った.実際のペーシングは術後14日より始め,約3カ月で10時間以上の連続ペーシングが可能となり更に積極的な離床が行い得るようになった.ペーシング装置の自己負担,患者管理の難しさなどの問題もあるが,従来の人工呼吸器より患者を解放する方法として有用であると思われた.

整形外科を育てた人達 第107回

Antonius Mathijsen(1803-1878)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1031 - P.1033

 整形外科の治療に不可欠のギプス包帯は,オランダの軍医Mathijsenが考案したものである.彼は1852年に「ギプス包帯の使用法」と題する論文を発表した.これはオランダ語で「Nieve wijze van het gypsverband bej beenbrencken. Eeme bijdraze tot militaire chirurgie」と題した論文のため,私には読めないので当惑したが,Edgar M. Bickが英訳して「A New Method for the Application of Plaster-of-Paris Bandage」として発表されていた.これを読み,他の資料を集めて,Antonius Mathijsenの伝記を書く決心をした.

整形外科英語ア・ラ・カルト・3

BONE(ボーン)(その1)

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1034 - P.1035

 前回は筋肉と腱の話を書いたので,今回は骨に関することを書く.
 “bone”は“骨”のことであり,ラテン語では“os”,ギリシャ語では“osteon”という,骨の学術名には,ラテン語の“os”を用いる.たとえば踵骨は,“os calcis”であり,8つの手根骨の総称は‘os“の複数形”ossa“を用い,”ossa carpi“という.この”os“を用いた言葉は,骨の学術名以外は非常に少ない.例えば”骨化“に関する言葉,”ossify“や”ossification“,小さい骨の意味の”ossicle“位である.他方ギリシャ語の”osteo-“を,”osteosarcoma“などの疾患名や”osteophyte"等の病態の記述に使う場合が多い.

臨床経験

bearing insert破損により脱臼をきたしたBateman型人工骨頭4症例の検討

著者: 吉田成仁 ,   四方実彦 ,   田口保志 ,   多田弘史 ,   岡田温 ,   葛岡達司

ページ範囲:P.1037 - P.1040

 抄録:Bateman型人工骨頭置換術後6~11年で,bearing insertの破損により,ステム骨頭の脱臼をきたした4症例を経験した.症例は全例とも比較的若年時に手術をうけた男性であり,脱臼前にX線上,outer headの内反変形を認め,軽労働または日常生活動作中に脱臼をきたした.手術時所見では,各々のbearing instertの6個のleafletのうち,5個以上が体部との接合部で破断されており,特に2-3カ所で同部の著明な摩耗が認められた.このことから,outer headの内反位固定によって,leafletの接合部にストレスが集中し,摩耗,破損をきたしたものと推測された.全例ともouter headとbearing insertの再置換により良好な結果が得られている.また,症例は4例ともBateman UPF I型であるが,現在用いられているBateman UPF II型においても,outer headの内反の進行する症例では,注意を要すると考えられた.

肩腱板断裂に対する観血的治療経験―主に成績不良例と再手術例について

著者: 久保忠彦 ,   奥平信義 ,   福永由美子 ,   高橋秀裕

ページ範囲:P.1041 - P.1043

 抄録:我々は肩腱板断裂の観血的治療法に難渋する症例をしばしば経験する.そこで当科において過去5年間に手術を行った症例のうち,今回直接検診及びアンケート調査できた30例32関節を対象とし予後調査を行い,主に成績不良例,再手術例について検討した.成績は日整会肩関節疾患治療成績判定基準により,術前平均59.1点から調査時平均92.5点と良好な結果が得られた.成績不良例の原因としては縫合部の問題やimpingementなどが考えられ,再手術例は腱板の縫合法などの術中操作,及び術後感染が原因と考えられた再断裂例であった.今回,特に問題となった腱板変性部について,成績不良例及び再手術例の経験から退行変性の強い場合は思い切って健常部まで切除し,McLaughlin法に固執せず,無理のない縫合法を行う必要があると考えている.

第1中足骨短縮症による変形性第2中足趾節関節症の1例

著者: 武田信巳 ,   浜本肇 ,   武田記和 ,   谷澤紳 ,   山本博史

ページ範囲:P.1045 - P.1048

 抄録:左第1中足骨短縮症による変形性第2中足趾節関節症に対して保存的治療が無効であったため,第2中足骨頭背側軟骨欠損部の楔状切除骨切り術及び腓骨側関節包縫縮術を施行して術後2年6カ月の現在,経過良好である症例を報告した.

膝蓋骨摘出術を行った高度の膝蓋大腿関節障害の1例

著者: 笹重善朗 ,   永田義紀 ,   村瀬雅之 ,   上田久司 ,   村尾保 ,   月板和宏 ,   大本修 ,   森川健 ,   重信隆史 ,   安達長夫 ,   越智光夫

ページ範囲:P.1049 - P.1055

 抄録:習慣性膝蓋骨脱臼による高度の膝蓋大腿関節障害の1例に対して,膝蓋骨摘出術を行い良好な結果が得られたので報告した.症例は52歳の女性で,10数年来の左膝痛に対し近医で保存治療を受けていたが,膝痛の増悪がみられたため当科を受診した.初診時膝関節の可動制限は軽度であったが運動痛が著明であった.単純X線写真では脛骨大腿関節の変化は軽度で関節裂隙は保たれていたが,軸射像では膝蓋骨の脱臼ならびに大腿骨顆間溝に著明な骨増殖がみられ,膝蓋大腿関節裂隙は消失していた.疼痛の軽減を目的にextensor mechanismの再建が可能なMiyakawa法に準じて膝蓋骨摘出術を施行した.術後1年6カ月の現在,extension lagはほぼ消失し運動痛もみられない.
 膝蓋骨摘出術は重度の軟骨損傷例に対して有効な治療法とされるが,膝蓋大腿関節障害が高度で,脛骨大腿関節が温存された習慣性脱臼例においても有効な一治療法と考える.

MRIにて診断し得た急性脊髄硬膜外血腫の自然回復例

著者: 月坂和宏 ,   永田義紀 ,   村瀬雅之 ,   上田久司 ,   笹重善朗 ,   大本修

ページ範囲:P.1057 - P.1060

 抄録:急激な背部激痛とともに両下肢麻痺をきたし短時間で自然回復した非外傷性急性脊髄硬膜外血腫の稀な1例を経験したので報告する.診断に際しMRIが非常に有効であったので,その経時的変化について文献的考察を加え述べる.症例は66歳,女性.発症24時間後のMRIでC6-Th1硬膜外背側に凸レンズ型を呈する,T1強調像で等信号,T2強調像で不均一な等~低信号領域を認めた.特徴的な臨床症状とあわせ急性脊髄硬膜外血腫と診断した.発症8日後のMRIでは血腫は消失しており麻痺は完全に回復していた.出血量が少なかったためヘモグロビンの化学変化が速やかに生じて血腫が吸収され,良好な臨床経験をたどったものと考えられた.

血管外膜切除が有効であったCRST症候群の1例

著者: 鈴木正孝 ,   牧野仁美

ページ範囲:P.1061 - P.1064

 抄録:CRST症候群はcalcinosis,Raynaud's phenomenon,sclerodactyly,telangiectasiaの4つの徴候をそなえた全身性硬化症の良性型-亜型とされている.両手足末節骨骨融解と両手の阻血による疼痛,右示指の難治性感染性潰瘍をきたしたCRST症候群の1例を経験治療した.すでに保存療法として血管拡張剤等の投与を長期に何度も行われていたが,一時的な効果のみで疼痛,潰瘍が悪化しているため,末梢での交感神経切除である指動脈分岐部での血管外膜切除術を行ったところ,術後疼痛も潰瘍も急速に治療し,10カ月後の現在再発はない.
 CRST症候群の根治的治療法がない現在,手指の阻血性疼痛や潰瘍に対して指動脈部での血管外膜切除術は有効な治療手段である.

flail chest 3例の手術経験

著者: 矢吹省司 ,   菊地臣一 ,   佐久間隆 ,   赤間洋一

ページ範囲:P.1065 - P.1068

 抄録:胸部外傷によりflail chestをきたした3例に対し,固定手術を行い良行な結果を得たので報告する.症例1:66歳,男性,症例2:50歳,女性,症例3:70歳,男性である.持続硬膜外ブロックや胸腔内ブロックにて疼痛を緩和し,陽圧人工呼吸による内固定を行っても,呼吸不全の改善がみられないflailingが高度な症例では,早期に固定術を行う必要がある.固定法としては,Kirschner鋼線を髄内釘として用いプレート固定を加える方法が,簡単で比較的強固な固定性が得られた.術前・術後の呼吸運動を解析し,手術の有用性を裏付ける結果が得られた.

dysplastic typeの腰椎すべり症に合併した若年性椎間板ヘルニアの1例

著者: 金谷貴子 ,   原田俊彦 ,   宇野耕吉 ,   井口哲弘 ,   廣畑和志

ページ範囲:P.1069 - P.1072

 抄録:症例は14歳,女性で主訴は腰痛と右下肢痛である.著明なtight hamstringsがあり,Lasegue徴候は右30度陽性であった.また,右長母趾屈筋の筋力低下とSI領域の知覚低下など,典型的な若年性椎間板ヘルニアの症状を呈していた.膀胱直腸障害はなかった.X線学的検査ではL5椎体の無分離すべりを認め,すべり度は40%であった,また,第1仙椎の上縁は円形化を呈し,椎弓の低形成もあり,dysplastic typeのすべり症と診断した.なお本症には,耳介変形,翼状肩甲,染色体異常等の先天性異常があったが,これらとすべり症との関係は不明であった.MRI,CTM,CTDなどの諸検査によりL5/SI間に椎間板ヘルニアを認め,dysplastic typeの腰椎すべり症に伴う椎間板ヘルニアと診断し,Loveの術式によるヘルニア摘出術を施行した.術後2年を経過した現在では,腰下肢痛も消失し復学している.今後すべりの増強に伴う症状の再発があれば,固定術を追加する予定である.

脊椎後方要素の水平断裂を伴う破裂骨折

著者: 阿部栄二 ,   佐藤光三 ,   島田洋一 ,   村井肇 ,   水谷羊一 ,   楊国隆 ,   片岡洋一 ,   東海林和弘

ページ範囲:P.1073 - P.1078

 抄録:破裂骨折に隣接上位脊椎の後方要素に水平断裂を伴う腰椎損傷の3例を報告し,発生機序に検討を加えた.決して稀な損傷ではなく,脊柱の頭尾方向の圧縮力が椎体の楔状変形により屈曲モーメントの増大となって後方要素に伸延力が作用し,水平断裂が生じたものと考えられた.この損傷は主に頭尾方向の圧縮力によって生じる損傷で,これに直交する力が主な原因で生じる屈曲モーメントによるシートベルト型損傷とは異なり,破裂骨折に分類すべきと考える.three columnのすべてが損傷され,極めて不安定な損傷であることから,強固なinstrumentによる前方脊柱再建が必要と思われる.

上腕三頭筋内に発生したextraosseous osteogenic sarcomaの1例

著者: 山下和郎 ,   丸毛啓史 ,   平沼浩一 ,   真埼友宏 ,   藤井克之 ,   頴川功 ,   中森和仁 ,   蜂須賀所明

ページ範囲:P.1079 - P.1082

 抄録:上腕三頭筋内に発生したextraosseous osteogenic sarcomaの1例を経験したので報告する.症例は70歳,女性で,左上腕内側部に腫瘤が出現してきたため当科を訪れた.現病歴,理学的所見,各種画像診断から,上腕三頭筋内に限局して発生した軟部悪性腫瘍と診断し,上腕三頭筋の全切除術を施行したところ,病理組織学的にextraosseous osteogenic sarcomaと診断された.
 本腫瘍は本邦の25例を含めて,これまでに約200例の報告をみるに過ぎず,稀な軟部悪性腫瘍とされている.本論文では,本腫瘍の成因論,診断基準,鑑別診断,病理学的特徴,検査法,治療法などについて述べた.

軟部腫瘍が疑われた大腿,殿部のchronic expanding hematomaについて

著者: 岡田恭司 ,   佐藤光三 ,   大場雅史 ,   片岡洋一 ,   坪井純

ページ範囲:P.1083 - P.1089

 抄録:chronic expanding hematomaの3症例について報告した.外傷との関連性があり,初発症状はいずれも無痛性腫脹で,罹病期間が6カ月以上であった.局所所見として全例で腫瘤が,1例ではさらに波動が認められた.発生部位は2例が大腿部,1例が殿部で,病変の深さは筋膜上が2例,筋間が1例であった.単純X線では1例のみで石灰化がみられた.CTでは多房性の境界明瞭な嚢腫状腫瘤が描出され,病変の位置の把握にも有用であった.病理学的にはいずれも肉眼上厚い線維性被膜を有する嚢腫状病変で,内容物は1例が液状物,2例が変性壊死物であった.組織学的にはいずれも線維性被膜,肉芽組織層,凝固壊死物層の3層構造が観察され,肉芽組織層では無構造の好酸性物質の周囲で異物反応が認められた.この好酸性物質の一部はPTAH染色が陽性であった.軟部肉腫との鑑別が重要と考えられた.

Tetra phocomeliaの1例

著者: 二井英二 ,   小保方浩一 ,   原親弘 ,   平田仁 ,   須藤啓広 ,   藤浪周一

ページ範囲:P.1091 - P.1094

 抄録:極めて稀なTetra phocomeliaの1例を経験したので,義肢装具療法に関する知見も含め報告した.小児の四肢の切断における原因では,後天性のものより先天性の切断が多く,欧米では65%,本邦では80%を占めると言われ,部位別では,四肢すべての切断は1.8%に過ぎず極めて稀である.小児の切断における義肢装具療法に関しては,なるべく早期に装着すべきであると言われているが,義手においては感覚的なfeed backがないことや巧緻性に問題のあることなどより,実際には困難な場合が少なくない.また,義足に関しては,両下肢切断に片側上肢の切断を伴う場合でも義足歩行は可能であるが,四肢すべての切断の場合は困難であると言われている.本症例では,両側上肢に高度の欠損があり,不可能であった.また,上肢の残存指については,痕跡的な手指であってもかなりの機能を有する場合があり,安易に外科的切除を行うべきでなく,できる限り温存すべきであると思われた.

中指屈筋腱腱鞘より発生したtenosynovial chondromatosisの1例

著者: 道野邦男 ,   田名部誠悦 ,   月岡宏充 ,   岡田基 ,   熊坂悟

ページ範囲:P.1095 - P.1098

 抄録:手屈筋腱腱鞘より発生したと思われるtenosynovial chondromatosisの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.症例は43歳の女性.約3年前からとくに誘因なく右中指DIP関節掌側に発赤,疼痛,腫脹が出現し,しだいに可動域も制限されるようになった.X線検査では右中指DIP関節掌側に大小様々な腫瘤陰影を認めた.手術により,DIP関節部腱鞘外に1個,腱鞘内に8個の白色,硬,表面不整な腫瘤を認め摘出した.病理所見では,滑膜と連続した硝子様軟骨が形成されており明らかな骨化は認めなかった.また一部に石灰化と思われる部位を認めtenosynovial chondromatosisと診断した.術後関節可動域はほぼ正常となり,発赤,疼痛は消失した.本症は自験例を含め本邦に21例の報告があり,手の屈筋腱腱鞘に多く発生している.osteochondromatosisとchondromatosisには臨床的に若干の差を認め,両者を区別して整理した.

膵癌に合併した皮下及び骨,関節内脂肪壊死の1症例

著者: 松木宏 ,   小野沢敏弘 ,   菅俊光 ,   仲井理 ,   末吉敦

ページ範囲:P.1099 - P.1103

 抄録:膵疾患に起因するmetastatic fat necrosisは本邦において過去13例見るに過ぎない.原疾患を膵癌に限れば欧米に25例の報告をみるが,日本では過去に報告例を見ていない.我は今回,関節炎,骨髄壊死を伴った膵癌によるmetastatic fat necrosisを経験したので,その臨床像と画像診断上の特徴について報告した.症例は58歳,男性,両下肢の有痛性紅斑を初発症状とし,両膝関節炎を併発して当科初診した.腹部症状の訴えは全くなかった.皮膚生検にて脂肪壊死像,血液検査にてリパーゼ等,膵外分泌酵素の増加を認めたが血清アミラーゼ値は正常範囲であった.腹部CT検査等から膵癌を発見し,膵体尾部・脾切除術施行した.術後血中リパーゼ値は低下し,徐々に皮下脂肪壊死症状も軽減した.MRIで膝周囲に広範な骨髄壊死像を見たが,術後10カ月の現在,症状安定しつたい歩き可能な状態である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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