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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科28巻11号

1993年11月発行

雑誌目次

視座

整形外科医の基礎研究に思うこと

著者: 越智隆弘

ページ範囲:P.1203 - P.1203

 今年も整形外科基礎学術集会は信州大学医学部整形外科寺山和雄教授のもとで盛大に開かれた.立派な企画,素晴らしい会場と申し分はなかった.それ以上に感銘したのは発表内容が年々充実していることであった.
 私たちの年代が若手であった頃には整形外科医では変わり者が熱心に基礎研究をしていたと思う.私自身も整形外科医の研究は時間をなんとか割いての道楽的なものと思っていた.アメリカ整形外科医はもっとハッキリしていた.「整形外科医がなぜそんな研究をするのか」という真剣な質問がきた.今年の学会場での討論を聴きながら,完全に時代が変わったことを痛感した.基礎的研究など何の苦もなくこなしている若い研究者が何と多いことか.遺伝子レベルの解析を例にとっても,数年前までの討論は聴いていて借り物の言葉を話している感じがした.しかし,今年は多くの人が自分の言葉として討論していた.

論述

先天性股関節脱臼手術例に対する臼蓋回転骨切り術の検討

著者: 里村俊彰 ,   村瀬鎮雄 ,   林靖人 ,   田村守 ,   小瀬忠男 ,   高野量子

ページ範囲:P.1205 - P.1211

 抄録:先天性股関節脱臼に対して,乳幼児期に観血的整復術,各種の補正手術を行った症例のうち,20歳未満に臼蓋回転骨切り術を追加せざるを得なかった症例を,術前のX線所見より3群にわけ,再手術の要因および手術方法について検討した.症例は35例39股で,男4例4股,女31例35股,手術時年齢は11歳から19歳,平均15歳であった.I群(21例,21股)は,術前,骨頭の変形が少なく関節軟骨が保たれている症例とした.術前平均85点が術後平均97点となり,X線所見でも全例改善がみられ,本法が良い適応と考えられた.II群(11例,12股)は,骨頭の変形,あるいは扁平臼の認められる症例とした.術前平均82点が術後平均88点と軽度改善されているものの,再手術例が2例あり,適応を慎重に検討すべきである.III群(6例,6股)は脱臼例であるが,術前平均79点が術後平均88点と改善されており,X線学的にも脱臼した骨頭の外側上方化への進行の予防に役立っていると考えられた.

悪性軟部腫瘍肺転移例に対する集学的治療の成績とその問題点

著者: 川井章 ,   別府保男 ,   横山良平 ,   福間久俊

ページ範囲:P.1213 - P.1219

 抄録:悪性軟部腫瘍肺転移57例に対する集学的治療の成績を解析し,予後因子ならびに各治療法の有効性について検討した.全症例の肺転移後3年及び5年累積生存率は各々32.0%,20.0%.予後因子として,原発巣治療から肺転移出現までの期間が1年以上,腫瘍倍加時間が40日以上,局所再発の無い症例,肺転移切除術施行症例および肺への多数回手術例が有意に予後良好であった.化学療法の奏効率は23.8%であり,有効群において短期生存率の向上が認められたが,長期予後の改善は明らかではなかった.放射線療法は照射野内の抗腫瘍作用は比較的確実であったが,生存率の向上には結び付いていなかった.現在までの化学療法,放射線療法では悪性軟部腫瘍の肺転移病変を長期間コントロールすることは未だ困難であり,悪性軟部腫瘍肺転移の治療においては時期を失さない適切な転移巣切除術の施行が最も重要である.

頸髄症術前後成績によるMRI信号変化の検討―特にT2信号変化について

著者: 伊藤友一 ,   大島義彦 ,   太田吉雄 ,   佐藤浩 ,   林雅弘 ,   平本典利 ,   横田実 ,   佐藤信彦 ,   長島太郎 ,   武井寛

ページ範囲:P.1221 - P.1227

 抄録:頸髄症におけるMRIのT2信号変化の臨床的意義を知る目的で,臨床症状の特徴や術後回復の関連を調べた.対象は,山形大式拡大術を施行した頸椎症性脊髄症44例,後縦靱帯骨化症8例で,男37例,女15例であった.年齢は33~81歳までで平均60.8歳であった.T1の脊髄矢状断にて脊髄圧迫度を,T2の脊髄矢状断にて脊髄信号変化を分類した.術前後のJOAスコア,平林法改善率,罹病期間,小野の10秒テストを調べた結果,T2高信号例は等信号例に比べ術前JOAスコアが低く,そのうち運動,下肢,膀胱直腸機能の点数が低い傾向を示し,T2信号変化は術前の重症度をある程度反映していると思われた.しかし,術後の改善率では両群に有意差はみられず,単にT2信号の高低のみを評価する方法では手術療法の予後を推測することは難しいと思われた.

アキレス腱皮下断裂におけるMRI所見および経皮縫合法の成績

著者: 長尾憲孝 ,   浜西宏次

ページ範囲:P.1229 - P.1236

 抄録:アキレス腱皮下断裂に対する当院におけるBunnell法に準じた経皮縫合法の有用性をMRIを用いて報告する.症例は男性4例,女性4例,計8例.平均年齢38.6歳.手術時間は平均22.5分であった.術後2週間長下肢ギプス包帯,2週間短下肢ギプス包帯固定後,高さ調節可能な足底板を使用し術後約5週より荷重を開始した.再断裂,神経損傷,感染等の合併症はなかった.術後約3ヵ月で足関節背屈は健側と同程度に回復した.5~6ヵ月でジョギング程度の軽いスポーツは可能であった.MRI所見ではT2強調像において,アキレス腱正常部は低信号域であり黒く描出され,断裂部は血腫を意味する高信号域を認め白く描出される.術後のMRI所見ではアキレス腱の密着を認めた.縫合部は修復に従い中間信号域から低信号域となり,また,断裂部を中心として腱の肥厚を認めた.MRIは断裂部の確認ならびに修復状態の判定に有用であった.

抗癌剤感受性からみた軟部悪性腫瘍に対する化学療法の適応

著者: 森川精二 ,   土屋弘行 ,   安竹秀俊 ,   高木泰孝 ,   佐々木琢磨 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1237 - P.1241

 抄録:軟部悪性腫瘍に対する化学療法の必要性を明らかにするため,組織型別の抗癌剤感受性を検討した.軟部悪性腫瘍の新鮮材料53検体に対してhuman tumor clonogenic assay(HTCA)またはMMT assayによる抗癌剤感受性試験を施行した.MFHに対してはCis-platinum,Actinomycin Dが,滑膜肉腫に対してはAdriamycin,Cyclophosphamide,Vincristine,Cis-platinumが,横紋筋肉腫に対してはActinomycin D,Adriamycin,Cis-platinumがそれぞれ高い感受性を示した.脂肪肉腫,平滑筋肉腫,悪性神経鞘腫は抗癌剤に対する感受性は低かった.これらの結果からMFH,滑膜肉腫,横紋筋肉腫は化学療法の良い適応であるが,各薬剤の有効率は高いものでも40~50%であり,新しい抗癌剤の開発や薬剤の効果増強等が今後の課題であると思われた.

手術手技 私のくふう

腰椎椎間板ヘルニアに対する黄色靱帯を修復,温存する手術法について

著者: 山野慶樹

ページ範囲:P.1243 - P.1248

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアに対してはLove変法が一般的であるが,種々の術後愁訴が報告されており,手術に当たっては愛護的手技に徹し,神経根や硬膜周囲の癒着や瘢痕形成の防止に十分に配慮すべきである.術後の癒着や瘢痕形成を防ぎ,かつ脊柱管を可及的に再建するために,黄色靱帯を修復,温存する手術方法を考案し,施行してきた.手術方法は黄色靱帯を外中枢側に翻転し,再接着するligamentoplastic discectomyと硬膜内に操作を加えないextraligamentous discectomyで,術後6ヵ月以上経過例は前者45椎間,後者4椎間で,従来法に比べ優れていた.黄色靱帯の再建は術後の癒着防止に有用で,さらに後方要素を強化し,罹患椎間への術後の種々のストレスに対しても効果的と考えられた.

Threadwire saw(T-saw)の開発と脊椎外科領域での応用―その1.完全還納式椎弓切除術

著者: 富田勝郎 ,   川原範夫

ページ範囲:P.1249 - P.1257

 抄録:Threadwire saw(T-saw)は,Gigli sawの考えを発展させ筆者らが開発したものであり,stainless steelのより糸で構成された直径0.5mmのmicrocableである.表面は滑らかで軟部組繊に対して安全であり,また柔軟で操作性に富んでいるため,脊椎硬膜外腔に挿入しsawing motionの操作にて椎弓,椎弓根,棘突起を硬膜を傷つけずに,鋭利に切離することが可能である.我々はこの骨切り手技を各種の脊椎手術に応用しているが,今回は完全還納式椎弓切除術(金大式)を紹介した.本法は『T-sawを用い脊髄腫瘍切除など椎弓切除のうえ脊柱管内操作を必要とする際に,いったん椎弓を切離し,脊柱管内の操作が終了した時点で再びもとの位置に解剖学的に正確に還納する』方法である.脊柱管内病変に対する極めて良好な視野が得られ,安全な手術操作が可能であった.術後3ヵ月程度でprimary bone healingを認め,後方支持機構の安全な復元が得られた.

整形外科を育てた人達 第120回

Léopold Louis Xavier Edouard Ollier(1830-1900)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1258 - P.1259

誕生
 瘡傷の治療でFranceで歴史的に有名な外科医であったLéopold Ollierは1830年にFranceのArdeche地方のVansで誕生した.若い時代にMontpellierで自然科学の勉強をはじめ,Montpellier大学の植物学の助手になった.その後,臨床医学の研究をしたくなり,Lyonで臨床の習練を重ね、Montpellier大学から1856年にドクターの学位を授けられた.

整形外科英語ア・ラ・カルト・16

“arm”に関する日常英会話・その1

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1260 - P.1261

 “arm”は,勿論“腕”のことである.“arm”には,肩から肘までの上腕だけのものと,肘から手首までの前腕をも含めるものと,2つの定義がある.しかし我々が日常使う“arm”は,後者の「肩から手首までの部分」を指し,上腕のことを“upper arm”(アッパーアーム).前腕のことを“forearm”(フォーアーム)と区別して表現する.“forearm”の“fore”は接頭語で時間や空問の“先の”や“前の”を意味し,名詞や動詞に付く.この“fore”は前置詞や接続詞である“before”(ビフォー)と同じ意味である.“forenoon”は,“午前”,“orecast”(フオーキャスト)は“予測”の意味である.テレビやラジオでよく放送される天気予報のことを“Weather forecast”という,また“fore”は人体の名称の「前の部分」に用いられ,前述の“fore arm”,“forehead”(フォーヘッド;ヘッドの前にある額のこと),“foreskin”(ペニスの亀頭を被う包皮)などに使われている.
 この“arm”は,ラテン語の“armus”(アルムス)に,さらにギリシャ語の“harmos”に由来している.興味あることは,ラテン語の“armus”は,“肩”の.ギリシャ語の“harmos”は“つなぎ目”や“関節”の意味であり,“腕”には直接関係がない.

検査法

椎弓切除術後症例に対する超音波検査の応用経験

著者: 木下知明 ,   舘崎愼一郎 ,   望月真人 ,   長谷川雄一 ,   佐藤哲造 ,   山口潔 ,   六角智之 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1263 - P.1267

 抄録:椎弓切除症例に対し,超音波検査により術後経皮的に脊髄の観察を行い,その有用性を示唆する所見を得た.対象は,肺癌胸椎転移により椎弓切除後放射線治療が行われた1例(74歳男性),胸髄硬膜外腫瘍(急性骨髄性白血病)により片側椎弓切除後化学療法が行われた1例(57歳男性)の計2例である.術後の経皮的走査でも椎弓切除範囲内の脊髄,馬尾の病態観察は可能で,その経時的変化から各々放射線療法,化学療法の効果が確認された.簡便性,動的病態の描出能など,超音波検査には優れた利点があり,椎弓切除術後の病態評価の一手段として超音波検査は有用である.

臨床経験

膝蓋上包内に突出した大腿骨軟骨性外骨腫の2例

著者: 野口俊康 ,   白倉賢二 ,   長田純一 ,   有田覚 ,   宇田川英一 ,   荻原哲夫

ページ範囲:P.1269 - P.1273

 抄録:軟骨性外骨腫の発生は珍しくないが,膝蓋上包内に突出するものの報告は少ない.今回我々はこれを2例経験した,症例1では膝痛を主訴として当科を受診し,膝蓋上包内に突出した軟骨性外骨腫と診断され,経過観察で増大傾向を認めたために腫瘍を切除した.術後の経過は順調で,4ヵ月後には正座も可能となった.症例2では左膝痛,腫脹,伸展障害を主訴として当科受診し,膝蓋上包に突出した軟骨性外骨腫と診断された.膝蓋跳動も陽性で,関節穿刺で関節液が引け,関節鏡では炎症性病変を認めた.このため膝蓋大腿関節障害と診断され,腫瘍を周囲の軟部と共に一塊にして切除した.術後の経過は良好で1ヵ月で正座可能となった.
 膝蓋上包内に突出した軟骨性外骨腫2例において,手術にて摘出し良い結果が得られた.

第2頸椎に発生した孤立性骨髄腫の1例

著者: 中沢不二雄 ,   大島博 ,   松野博明 ,   金森昌彦 ,   長田龍介

ページ範囲:P.1275 - P.1279

 抄録:第2頸椎に発生した孤立性骨髄腫に対して椎弓切除,後頭頸椎固定術,放射線療法および化学療法を行った.本症例は,第2頸椎に蜂巣状の骨破壊をきたし,血液学的には異常なく,術前診断に難渋した.孤立性骨髄腫は多発性に進展する可能性があるが,術後2年の現在再発の徴候はない.孤立性骨髄腫の臨床的特徴と予後に関して若干の文献的考察を加えて報告する.

上腕部に発生したメルケル細胞癌の1例

著者: 藤井昌一 ,   大河内敏行 ,   西井孝 ,   満田基温 ,   安田大成

ページ範囲:P.1281 - P.1284

 抄録:メルケル細胞癌は,高齢者の頭頸部に好発する非常に稀な皮膚原発癌であるが,本邦での報告例は少ない.今回,我々は86歳男性の上腕部に原発したメルケル細胞癌を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.86歳男性.左上腕部に腫瘍出現.近医にて切除.5ヵ月後再発し,当院にて切除術と化学療法をうけ腫瘍の消退をみた.メルケル細胞癌が疑われてから血中NSE値(neuro specific enolase)を測定し,腫瘍の消退とともに減少し増大とともに増加する傾向を示した.これはNSEがメルケル細胞癌の腫瘍マーカーとして有用であることを明らかにした.

第3腰椎に発生した骨Paget病の1例

著者: 米津浩 ,   小川維二 ,   樋笠靖 ,   辻伸太郎 ,   矢野敦子

ページ範囲:P.1285 - P.1288

 抄録:本邦においては稀な疾患とされている骨Paget病の1例を経験したので報告する.症例は89歳の女性で,主訴は腰痛である.第3腰椎棘突起に叩打痛を認めたが,他覚的神経症状はなかった.単純X線では第3腰椎の前後左右径の増大がみられ,全体的に硬化像を呈し,いわゆる象牙椎となっていた.MRIでは椎体から棘突起におよぶ信号強度の変化が認められた.しかし,椎体の高さは保たれており,隣接椎間板の変化もなかった.棘突起より採取した病理組織では,骨梁構造は不規則でモザイクパターンを示した.以上の結果より骨Paget病と診断し,calcitonin 10単位週2回筋注を開始したところ,3週目より自発痛の軽減がみられ,現在,腰痛は消失している.本疾患の病因としては遅発性ウイルス感染説が有力であるが,なお不明な点が多い.

脱臼性変形性股関節症に対する全人工股関節置換術の治療成績

著者: 稲尾茂則 ,   安藤御史 ,   後藤英司

ページ範囲:P.1289 - P.1295

 抄録:当科における脱臼性変形性股関節症に対する全人工股関節置換術の治療成績を検討した.症例は,34例40股で,手術時平均年齢は52歳,経過観察率は100%であった.ソケットは原臼設置とし,臼蓋再建として切除骨頭頸部による独自の自家骨移植を34股に行った.全例移植骨の骨癒合が得られ,荷重部では骨梁の再構築が見られた.合併症としては,骨移植及び脚延長に起因するものが大部分であった.感染例を除く術後5年以上(5年2ヵ月から13年,平均8年10ヵ月)の長期経過24例に対して,臨床評価(疼痛・歩行能力・関節可動域)及びX線評価を行った.臨床評価では,疼痛及び歩行能力の著明な改善が維持されていたが,可動域の改善はわずかであった.X線評価では,ソケットの機械的弛みは骨移植例で15%であった.ステムの弛みはなかった.再置換に至った例はない.今回の調査より,我々の骨移植による臼蓋再建法の有用性が示唆された.

頸椎hemangioendotheliomaの1例

著者: 川合準 ,   清水克時 ,   松下睦 ,   戸口田淳也 ,   山室隆夫 ,   中嶋安彬

ページ範囲:P.1297 - P.1300

 抄録:稀な腫瘍である頸椎原発のhemangioendotheliomaを1例経験し,椎体切除術を行い良好な結果を得たので,その臨床経過を報告した.患者は62歳の女性で,主訴は右上肢痛.頸椎単純X線でC4椎体の異常陰影を指摘され,CT,MRI,椎骨動脈造影等の結果,頸椎血管原性腫瘍と診断された.手術は椎体切除術及び前方固定術を行った.病理診断はhemangioendothelioma grade Iであった.一般に血管原性脊椎腫瘍に対する手術では,術中出血量を減らすため,術前に栄養動脈のembolizationが薦められている.本症例では栄養動脈が細く,embolizationが技術的に不可能だったので実施しなかったが,大量出血には至らなかった.血管原性脊椎腫瘍で,術前のembolizationが不可能でも,術中出血量のコントロールが可能な症例もあると考えられた.

Stickler症候群の1例

著者: 保坂泰介 ,   四方實彦 ,   清水和也 ,   武田信巳 ,   田中千晶 ,   戸口田淳也 ,   多田弘史 ,   川合準

ページ範囲:P.1301 - P.1304

 抄録:我が国では報告例の希な,Stickler症候群の1例を経験した.症例は20歳男性.既往として生後より口蓋裂を認めた.9歳時,左眼の網膜剥離,白内障を生じ,手術を受けるも失明した.19歳時,右眼の網膜剥離のため手術を受け現在白内障を合併している.両側感音性難聴を認める.身体所見は,右凸の側彎,仙尾部の突出,両側の外反股・内反膝と右膝約20°,左膝約10°の屈曲拘縮,顔面の平坦化と低鼻,小顎,顔面中央部低形成を認める.以上よりStickler症候群と診断した.
 本症候群は我が国においては知名度は低いが頻度はMarfan症候群よりも多いとされる.また放置すると失明に至る危険がある.そのため出生時・新生児期に骨格異常と口蓋裂,小顎症,顔面中央部形成異常を認めた場合,本症候群を疑い早期に眼病変の検索をしなければならない.我々整形外科医にとって決して見逃してはならない疾患であり,今後注目すべき疾患として留意する必要がある.

大菱形骨単独粉砕骨折の1例

著者: 田久保興徳 ,   中康匡 ,   大浦五郎 ,   四方義朗 ,   呉世昌 ,   藤原浩芳 ,   真鍋卓容 ,   玉井和夫 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.1305 - P.1308

 抄録:比較的稀とされている大菱形骨単独骨折を経験した.症例は17歳,男性.主訴は左母指手根中手関節(以下CM関節)部痛である.ラグビーでタックルし,左母指を強打した.左母指CM関節部の腫脹と運動制限,X線像にて大菱形骨の粉砕骨折を認めた.母指を末梢方向へ牽引することにより整復位が得られたため,局所麻酔下に左母指基節骨を介して直達牽引を行った.約5週間で直達牽引を除去した.受傷後ヵ2ヵ月では,骨癒合も得られ,疼痛は消失し,手関節と母指の可動域も良好であった.2年10ヵ月を経過した時点でも,疼痛,可動域制限なく,経過は良好である.
 本邦にて報告された大菱形骨単独骨折27例について検討し,受傷機転と骨折型の分類及び治療について若干の考察を加えた.

フィブリン接着剤および微線維性コラーゲンによるセメントレス人工膝関節形成術の出血抑制効果

著者: 平岡正毅 ,   八木知徳 ,   引野講二

ページ範囲:P.1309 - P.1313

 抄録:セメントレス人工膝関節形成術(以下TKA)が普及してきているが,骨切り面からの出血が多く問題となっている.骨切り面からの出血を抑制する目的で,96膝のセメントレスTKAにおいて,微繊維性コラーゲン(MCH使用群:38膝)およびフィブリン接着剤(Beriplast P使用群:46膝)を骨切り面に使用し,その効果を比較検討した.術中出血量は止血剤を使用しない12膝(以下,非使用群)では464ml,MCH使用群472ml,フィブリン接着剤使用群409mlで3群間には差はなかった.術後出血量は非使用群で1,445mlであるのに対し,MCH使用群561ml,フィブリン接着剤使用群619mlと有意に少なかった(P<0.01),総輸血量は非使用群で1,371mlであるのに対し,MCH使用群で848ml,フィブリン接着剤使用群859mlと有意に非使用群より少なかった(P<0.01),MCHとフィブリン接着剤の間では,術後出血量および総輸血量において有意差はなかった.両群とも臨床的合併症は認められず,安全で有用な止血法である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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