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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科28巻2号

1993年02月発行

雑誌目次

視座

QOLあれこれ

著者: 長紹元

ページ範囲:P.115 - P.115

 最近QOLという言葉がしばしば話題になる.医療においても患者のQOLは重要で,単に疾病の治癒ばかりが治療の目標ではなく,患者のQOLに着目した治療を行うべきだと言われている.
 整形外科領域ではQOLは四肢の機能に深くかかわっている.ただし同じ治療結果が個々の患者に同じQOLを与えるとは限らない.例えば,四肢悪性腫瘍の治療の場合,仮りに治癒率あるいは無病率がほぼ同じだとして,患肢を切断して機能性のある義足を装着するか,あるいは広範囲の切除の結果,知覚が損われ瘢痕性になった棒脚を残すかということは,患者のQOLに深く関連しているが,実際の治療法の選択あるいは結果の評価は難かしい.

論述

脊髄髄内腫瘍のMRI所見―1.5テスラ超伝導装置を用いて

著者: 今村博幸 ,   岩崎喜信 ,   飛騨一利 ,   阿部弘 ,   井須豊彦 ,   秋野実 ,   斉藤久寿

ページ範囲:P.117 - P.122

 抄録:1.5テスラ超伝導装置による脊髄髄内腫瘍のMRI所見について検討した.対象疾患は手術によって病理組織を確認した上衣腫3例,血管芽腫6例,星細胞腫3例である.上衣腫はTl強調像で脊髄と等信号を呈し,Gd-DTPAにより均一にエンハンスされる傾向にあった.また嚢胞を合併しやすく境界は比較的明瞭であった.血管芽腫はT1強調像で脊髄と等信号もしくは低信号であり合併する嚢胞との区別がつきにくいが,Gd-DTPAにより不整形にエンハンスされ,腫瘍内および腫瘍周囲の血管のflowvoidが低信号に強調される特徴的な所見が得られた.星細胞腫はT1強調像で脊髄と等信号でありGd-DTPAにより不均一にエンハンスされる傾向にあった.

腰椎椎間板ヘルニア術後MRIの経時的変化について

著者: 松林保智 ,   数井英雄 ,   吉岡利孝 ,   横田徹 ,   野池勝利 ,   遠藤昭彦 ,   山内裕雄

ページ範囲:P.123 - P.129

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアの術前及び術後の評価として,MRIの有用性を認める報告は多いが,術後経時的にMRIを撮像し比較した報告はみられない。今回我々は,術前及び術後に経時的にMRIを撮像し特にその術後の経時的変化について検討したので報告する.腰椎椎間板ヘルニアに対し,LOVE法を施行した18例,18椎間を対象とし,撮像には東芝製MRT-50A(0.5Tesla)を用いた.術後1ヵ月のMRI像では,すべてに術中の侵襲ど思われる異常信号域が認められた.術後のMRIでは,経過を経ることに異常信号域は消退し硬膜管の除圧も認められ,臨床症状の改善度との一致がみられた.術後のMRIによる画像診断においては,経時的に撮像し臨床症状と比較,検討することによって診断的価値は向上し,臨床に応用していくことが有用と思われた.

成人臼蓋形成不全股に対するChiari骨盤骨切り術の術後成績―骨シンチグラフィー所見との関連

著者: 中村宣雄 ,   大園健二 ,   菅野伸彦 ,   高岡邦夫 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.131 - P.136

 抄録:臼蓋形成不全股に対するChiari骨盤骨切り術の適応の限界を明らかにするために,Chiari骨盤骨切り術術前の骨シンチグラフィー所見と術後成績を比較検討した.対象は,術前に骨シンチを施行した変形性股関節症例61例64関節で,X線学的病期は前,初期股関節症37関節,進行期27関節であった.経過観察期間は2年から9年7ヵ月,平均4年9ヵ月であった)術前の骨シンチ所見から1型(正常~軽度hot型;33関節),II型(荷重部hot型;16関節),III型(荷重部と内側部のdouble hot型;15関節)の3型に分類した,術後最終調査時の股関節機能評価において日整会変股症判定基準で79点以下の成績不良例は1型,II型では見られず,III型で7関節(47%)に見られた)またX線学的に関節症性変化が進行したII関節中9関節がIII型であった.以上より,骨シンチ上double hotサインを呈する症例はChiari手術の適応とすべきでないと考える.

陳旧性前十字靱帯損傷膝における関節症性変化―特にその促進因子について

著者: 石村雅男 ,   島屋正孝 ,   玉井進 ,   三馬正幸 ,   幅田孝 ,   藤沢義之

ページ範囲:P.137 - P.141

 抄録:膝関節前十字靱帯損傷後5年以上放置された症例59例59膝を対象に,X線上の関節症性変化を促進させうる要因として,①受傷後の経過期間,②受傷時年齢,③受傷後の活動性,④合併損傷,⑤下肢alignmentについて調査検討した,その結果,受傷後の経過期間が長く,受傷時年齢が高いほど,また受傷後の活動性が高いほど高度な関節症性変化がみられた.合併損傷に関しては,内側側副靱帯および内側半月板損傷を合併する症例に進行例が多かった.下肢alignmentについては受傷時の膝関節に明らかな内反がみられ,荷重・非荷重による膝関節内反動揺性の存在する症例に関節症性変化が増悪しやすいことがわかった.

腰部椎間板の変性とMRI

著者: 前田公 ,   野口雅夫 ,   吉良秀秋 ,   藤樹宏 ,   下川功 ,   樋上賀一

ページ範囲:P.143 - P.150

 抄録:腰部椎間板変性の程度とMRIとの関連性を調べるために,剖検例の17椎間板と腰部椎間板ヘルニア手術例の21椎間板およびヘルニア自体のT2像と病理組織像とを比較・検討した.剖検例および手術例ともに,椎間板のT2像と組織学的所見は比較的よく相関し,特に膠原線維の増加や線維輪内の断裂は正確にT2像に反映されていた.一方,椎間板の高度変性例や後縦靱帯を破ったヘルニア自体ではT2像と組織像が一致しない例が多く見られた.剖検例のT2像を形態により4型に分類したが,それは組織学的変性度と一致していた.また,この分類はヘルニア例の椎間板にも当てはめることが可能であり,椎間板変性度の判定の参考となるものと思われた.

青・壮年期セメントレス人工股関節の10年以上の成績

著者: 金尾豊 ,   室田景久 ,   杉山肇 ,   大谷卓也 ,   林靖人 ,   小野誠 ,   小澤正宏 ,   有賀伸一 ,   富田泰次

ページ範囲:P.151 - P.155

 抄録:49歳以下のいわゆる青・壮年の症例に対して慈大式セメントレス人工股関節置換術を施行後10年以上経過した症例の臨床成績ならびにX線学的変化を調査し,その適応および問題点につき検討した.原疾患は両側変股症10例,片側変股症4例,大腿骨頭壊死症4例5関節,股関節強直1例の19例20関節で,手術時年齢は平均46歳術後経過観察期間は平均13年である.JOA hip scoreは術前平均37.1点が術後5年で79点,10年で76.8点,15年で70.1点,17年で67.5点で,術後10年以降に成績が低下し,X線学的にもコンポーネント周囲の変化が著明となり,4例に再置換術を施行した.青・壮年期では日常の活動性が高く,適応として両側変股症や大腿骨頭壊死症が多くなり,反対側の股関節痛が解消されていない場合には人工股関節への負荷が大きくなるためと考えられ,セメントレスTHAといえども安易に適応年齢をさげることなく適応を厳選すべきである.

整形外科を育てた人達 第112回

土屋弘吉教授(1919-1992)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.158 - P.160

 横浜市立大学医学部の教授を長くしておられた土屋教授が亡くなられた.温厚な性格と整形外科とリハビリテーションの開拓に努力された功績を思い起こすと,私が今まで書き続けてきた,この『整形外科を育てた人達』の伝記シリーズの中に,土屋教授も省くことは出来ないので,これを書く決心をした.土屋教授と私は親密に交友を続けてきたが,横浜と福岡は遠く離れており,また,私も88歳の老人となり,記憶力も低下して正確な報道をする自信もなくなった.上屋教授の助教授をしておられた井沢淑郎先生と土屋教授後継者の腰野教授にお願いして詳しい資料を頂き,これで伝記を書き始めた.

整形外科英語ア・ラ・カルト・8

“BONE”に関する日常英会話

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.162 - P.163

 日常英会話で,ものごとを直接表現せず,色々の言葉を用いて,間接的に表現することが多い.私が米国に行って間もないころ,ある医師が“He will put you against the wall.”と私に言ったことがある.これは御想像がつくと思うが,「どうしようもない状態まで追い詰める」ことである.勿論日本語にもこの種の表現法は多い.
 4~5年前,まだ御健在の昭和天皇が園遊会を催され,各界の知名の士を招待された折,その中の一人に柔道の山下泰裕選手も招待されていた.天皇陛下が招待された一人一人に御言葉をかけられていた.陛下が山下選手に,「稽古は骨が折れるでしょう」と言われると,陛下の前で緊張のあまり,山下選手は「はい昨年は骨折しました」と答えたことを思いだす.これに似た表現法は英語で,“break one’s leg”がある.他人に“Break your leg.”と,言えば,命令形で「脚を折れ」という意味であるが,これには逆説的な意味がある.たとえば,友人がスキー旅行に行く前や,色々のパーフォマンスを行うために舞台に上がる前に,この言葉“Break your leg.”を使うと,原義とは逆に“Good luck.”の意味になる.

臨床経験

悪化したOllier病の1例

著者: 黒澤克也 ,   八木宏之 ,   大草良夫 ,   林俊一 ,   石田俊武 ,   高見勝次

ページ範囲:P.165 - P.168

 抄録:Ollier病が悪性転化することは以前よりよく知られているが,稀といわれ,わが国でも報告が少ないので報告する.症例は33歳の男性で,主訴は左大腿から膝部にかけての疼痛である.現病歴は昭和48年5月に左大腿骨のOllier病で,大腿骨の矯正骨切術を受けた.18年後の平成2年12月に同部の疼痛に気付き,平成3年3月より左大腿末梢部の腫脹,疼痛が増強したので,10月7日当院を受診した.入院時,左大腿末梢部に15×14cmの弾性硬の腫瘤が見られ,圧痛は著明であった.単純X線像では骨皮質の破壊を伴って,皮質外に巨大な腫瘤を形成していた.骨およびガリウムシンチの取込み増加部分を参考に,腫瘍塊をできるだけ広く切除し,また膝関節も準完全切除を行って,人工膝関節で置換した.組織学的にはII度の軟骨肉腫であった.

点状軟骨異形成症の1例

著者: 二井英二 ,   小保方浩一 ,   原親弘 ,   荻原義郎 ,   山崎征治

ページ範囲:P.169 - P.172

 抄録:点状軟骨異形成症(chondrodysplasia punctata)は,小児早期に一側性または対称性に四肢の短縮,小人症,皮膚(魚鱗癬)あるいは眼病変(白内障)があり,X線上,骨端部に軟骨内骨化障害による点状石灰化陰影のみられる疾患群である.今回我々は,点状軟骨異形成症の一般軽症型(Sheffield型)と思われる1例を経験したので報告した.一般軽症型は,男子に優位であり,発育不全,精神発達遅滞,鼻梁陥凹を伴う低い鼻,低身長を呈し,特に足根骨部に点状石灰化がみられ,他の四肢の大関節には変化が少ないことを特徴とし,生命予後は良好とされている.また,点状軟骨異形成症は,現在までに欧米では200例以上の報告例があると言われているが,本邦においては,我々の調べ得た限りでは,72例の報告がみられている.しかし,1983年の新改訂分類以降,29例の報告がみられるが,一般軽症型(Sheffield型)と診断された症例の報告はみられなかった.

Essex-Lopresti骨折の1例

著者: 中村俊康 ,   山中一良 ,   浦部忠久 ,   内西兼一郎 ,   矢部裕

ページ範囲:P.173 - P.176

 抄録:Essex-Lopresti骨折は橈骨頭骨折に遠位橈尺関節脱臼を伴う稀な骨折であり,現在までに本邦2例,欧米8例が報告されている.今回,我々は本骨折の1例を経験したので報告する.症例は34歳の女性で,廊下を歩行中に他人と接触,転倒し受傷した.直ちに当院を受診し,模骨頭骨折の診断でギプス固定を施行した.4週後,ギプスを除去した際に遠位橈尺関節亜脱臼が認められたので,直ちに全麻下で徒手整復を施行した.整復後4週より自動運動を開始したが,受傷後1年の現在,良好な関節可動域を獲得し,ADL上何ら支障はない.本骨折の概念ならびに受傷機転を中心に考察を加えた.

小児の大腿部に発生し,悪性腫瘍と鑑別が困難であった筋肉内血管腫の1例

著者: 北尾淳 ,   藤田邦彦 ,   杉山修一 ,   浦和真佐夫 ,   佐々木浩樹 ,   大萱誠司 ,   伊藤忠弘 ,   荻原義郎

ページ範囲:P.177 - P.179

 抄録:小児の大腿部に発生し,悪性腫瘍と鑑別が困難であった筋肉内血管腫の1例を経験したので報告する.症例は1歳6ヵ月の男児で大腿後面の腫瘤を訴え来院し,精査の後,手術的に摘出した.組織学的には悪性腫瘍との鑑別が困難であったが,最終的には小血管型筋肉内血管腫と診断された.現在までのところ,経過は良好である.小血管型筋肉内血管腫は筋肉内に浸潤性に発育し,一見悪性腫瘍と思わせるが,先天的組織奇形または過誤腫と考えられている特殊な良性病変であるので適切な診断と治療が必要と思われた.

股関節に発生した色素性絨毛結節性滑膜炎の1症例

著者: 雨宮章哲 ,   宮岡英世 ,   中村正則 ,   相原正宣 ,   飯野潤二 ,   佐々木和明 ,   藤巻悦夫

ページ範囲:P.181 - P.184

 抄録:色素性絨毛結節性滑膜炎は,大部分が膝関節に発生するといわれ,その他の関節での発生は比較的稀とされている.今回我々は,比較的報告例の少ない股関節に発生した31歳の男性の1例を経験した,右股関節痛,熱感を主訴とし,全身や血液検査等に特に異常はなかった.X線検査にて右臼蓋及び大腿骨骨頭に多発性嚢胞形成関節裂隙の狭小化を認め,関節造影では右股関節腔内に斑紋状陰影を呈した,摘出術を施行し,暗赤褐色のブドウの房状の多結節性分葉状腫瘤を摘出組織学的所見にて色素性絨毛結節性滑膜炎の特徴を示していた.術後8週間の完全免荷,術後10週で1/3荷重歩行にて退院した.関節造影での斑紋状陰影も消失し,関節可動域も良好であり,現在経過観察中である.

四肢麻痺を生じたDown症候群に伴う環軸椎亜脱臼の1例

著者: 渡辺雅彦 ,   鈴木信正 ,   岩本靖彦 ,   井上清 ,   細谷俊彦

ページ範囲:P.185 - P.188

 抄録:1)四肢不全麻痺をていしたDown症候群に伴う環軸椎亜脱臼に対して,前方解離と後方固定を一期的に行い,良好な整復と麻痺の改善を得た1例を報告した.
 2)下顎骨の形成不全を認め,extraloralに進入し前方解離,整復することは容易であった.
 3)本症例において環軸椎関節包は硬く,またその関節面は急峻であり,このことが保存的に整復が得られなかった原因と考えられた.
 4)頭蓋頸椎用instrumentationは整復操作およびその保持に極めて有用であった.

全人工膝関節置換の晩期合併症としての大腿四頭筋腱皮下断裂の1例―Leeds-Keio人工靱帯を用いての治療経験

著者: 稲尾茂則 ,   山賀慎一 ,   武内典夫 ,   小野沢敏弘

ページ範囲:P.189 - P.192

 抄録:膝関節伸展機構損傷の中でも,大腿四頭筋腱皮下断裂は比較的稀であり,その多くは慢性腎不全等の基礎疾患を有する.我々は,特に基礎疾患を持たず,全人工膝関節置換術後6年に晩期合併症として発症した72歳,女性例を経験した,大腿四頭筋腱は一部薄い膝蓋骨の剥離骨片を付けて広範に断裂しており,骨接合,断端部縫合後,Leeds-Keio人工靱帯を使い補強を加え,早期運動・早期荷重により満足する結果を得た.

非クロストリジウム性ガス壊疽の4例

著者: 竹内則博 ,   荻野武彦 ,   嘉森雅俊 ,   松田達男 ,   森裕祐

ページ範囲:P.193 - P.196

 抄録:最近我々は4例の非クロストリジウム性ガス壊疽を経験した.症例は44~77歳,男性3例,女性1例であった.糖尿病合併例は3例で,うち2例はコントロール不良例であった.澤田ら2)のX線写真のガス像分類により重症度判定を行った.我々の症例ではgrade III 1例,grade IV 3例といずれも重症例で全身状態も不良であったため,早期の開放切断,創洗浄,高気圧酸素療法,抗生物質の投与を行い,全例救命できた.非クロストリジウム性ガス壊疽では高気圧酸素療法の効果が不確実なため,積極的に外科的治療を行うことが望ましい.

痛風により発生したと思われる肩鎖関節症の1例

著者: 松島哲郎 ,   堀部秀二 ,   山中健輔 ,   井上明生

ページ範囲:P.197 - P.200

 抄録:我々は,10年来の経過をもち,肩鎖関節にX線像上侵食像を呈した症例を経験した.症例は,35歳,男性.右肩痛及び関節可動域制限を主訴に来院し,検査所見として高尿酸血症(尿酸値:8.9mg/dl),X線像上肩鎖関節に,痛風性変化と思われる抜き打ち像を認めた.他関節症状として,母趾MP関節,膝関節に全経過のうち2回の疼痛が生じていた.症状が長期にわたるため,鎖骨遠位端を切除したが,術後経過は良好である.滑膜は,慢性炎症の病理像を呈していた.関節液からは,尿酸結晶は認められず,痛風とは確診できなかったが,約10年間高尿酸血症の状態であったことが予測され,長期にわたって疼痛発作を繰り返してきた痛風性の肩鎖関節症と考えられた.痛風により発生した肩鎖関節症の報告は,今まで我々の調べた範囲では1例のみで,本症例は,その点で極めて珍しい症例と思われたので,その鑑別診断を中心に報告した.

筋肉間ガングリオンの1例

著者: 杉浦英志 ,   佐藤啓二 ,   伊藤隆安 ,   中西啓介 ,   榊原健彦

ページ範囲:P.203 - P.205

 抄録:ガングリオンはよく見られる疾患であるが,筋肉内及び筋肉間に発生したガングリオンは極めて稀である.今回,我々は51歳男性の右大腿四頭筋部に発生した筋肉問ガングリオンの症例を経験した.ガングリオンは大腿直筋と外側広筋の間に存在し,また,その茎は大腿直筋腱と連続し膝蓋骨上極に続いていた.膝関節腔には通じておらず,腫瘤内部にはゼリー状の内容液を認めた.発生機序として,膝伸展運動の慢性的な刺激がガングリオンの発生機転となり,筋肉間に脱出したものと考えられた.また,MRIではガングリオンはTI強調像で内部均一な低信号をT2強調像では内部均一で液体成分の存在を示唆する強い高信号を呈していた.周囲組織への浸潤像は認めず,縦断面では房状構造がみられた.このような稀な部位に発生したガングリオンに対しMRIは有用な補助診断となると思われた.

股関節病変を伴った掌蹠膿庖症の1例

著者: 大萱誠司 ,   藤田邦彦 ,   杉山修一 ,   浦和真佐夫 ,   北村哲也 ,   北尾淳

ページ範囲:P.207 - P.210

 抄録:掌蹠膿萢症(palmoplantar pustulosis,以下PPP)は,手掌,足蹠に無菌性小膿庖を生じる皮膚疾患である.PPPに骨関節の炎症を合併する場合があり,掌蹠膿庖症性骨関節炎(pustulotic arthroosteopathy,以下PAO)と呼ばれている.今回我々は,罹患関節としては稀である股関節病変を呈した1例を経験した.末梢関節病変ではX線像上,異常を呈することは少ないと報告されているが,自検例は,臼蓋部に及ぶ,広範な腸骨の骨硬化像を認め,二次的変化として,変股症を呈した可能性も考えられた.腸骨より生検を行った所,骨梁の肥厚と変性した骨格筋の付着を認めた.扁桃摘出術を施行し,皮疹,股関節痛の改善が得られた.

外傷性両側仙腸関節脱臼の1手術例

著者: 林雅弘 ,   藤原博 ,   前田学

ページ範囲:P.211 - P.215

 抄録:外傷性両側仙腸関節脱臼の報告は稀であり,現在までに10例の報告を数えるにすぎない.この外傷は主要臓器損傷を合併することが多く,救命処置が優先するため,脱臼については,ほとんどの症例で保存的治療が選択されている.そのため手術報告例は3例を数えるにすぎない.今回我々は,手術療法を施行した1例を経験したので報告する.症例は55歳男性で,両側仙腸関節脱臼,右恥骨上下枝骨折,恥骨結合離開といった骨盤輪損傷を認め,牽引療法を行うも安定性が得られなかったため,Harrington腰仙部固定法による下位腰椎を含めた仙腸関節整復固定術および骨盤輪前方損傷に対するプレート固定を行った.術後短期間であるが,立位歩行ならびに座位での疼痛もなく良好な結果を得ている.

兄弟で頸髄症手術を行った2家族4症例の検討

著者: 金民世 ,   小林健一 ,   山崎正志 ,   清水耕 ,   大河昭彦 ,   坂巻皓

ページ範囲:P.217 - P.220

 抄録:当院にて開設以来10年間に行った頸髄症手術は全213例(1981年7月~1991年9月)である.そのうち,兄弟で手術を受けた2家族4症例を経験した.第1の家系では,長男及び次男がdevelopmental canal stenosis,頸椎の退行性変化による頸髄症であったため,C3-7脊柱管拡大術を施行した.第2の家系では,次男及び4男にsoft disc herniationが認められたため,前方除圧固定術を施行した.またすべての症例に対してHLAフェノタイプの検索を行った.各兄弟間での頸髄症の病態は極めて類似したものであった,本経験は,頸髄症の発症に遺伝的素因が少なからず関与することを示唆するものである.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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