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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科28巻4号

1993年04月発行

雑誌目次

特集 痛みをとらえる(第21回日本脊椎外科学会より)

「痛みをとらえる」

著者: 小野啓郎

ページ範囲:P.340 - P.341

 医学の歴史は「痛みをとらえる」ことに悪戦苦闘した人間の記録といえないこともない.骨折による痛みはエジプトのImhotepが記録し治療している上5000年前でもわかりやすかったのだろう.頭痛を穿頭術でやわらげようとしたインカの土偶は脳外科手術のはしりを意味するものか.神経痛に対する鍼・灸療法は中国5000年の叡智と無縁ではなかろう.今日,痛みの診断・治療技術は格段に進歩した.単純X線診断かミエログラフィーしかなかった時代に比べてCTやMRIは,一層雄弁に,痛みの局在を教えてくれる.痛みの伝達物資や病態マーカーあるいは生体由来の鎮痛物資なども発見されたから,痛みの本態を解明する研究は核心に迫りつつあるといえよう.その一方で,実地医家の痛みのとらえ方は旧態依然の観がある.問診・理学所見・神経学的診断および臨床検査.鎮痛剤・神経ブロック・理学療法等々である.果たして見逃しや見込み違いがどの程度なのか? 正確なところは分からない.病名・診断法がほとんど西欧の医学教科書の域を越えないことも気になりはしまいか? ものの見方や考え方にもっと日本独自のものがあってもよいのではあるまいか? とりわけ脊椎由来の疼痛に関しては.これが第21回日本脊椎外科学会の主テーマに「脊椎とその周辺からの痛み」を選んだ動機である.このテーマに関連した演題が104題にのぼり,一般演題の140題に迫るものがあった.

主題 各種治療法の適応と限界/椎間板ヘルニア

腰部椎間板ヘルニアに対する経皮的髄核摘出術の適応とその限界

著者: 持田譲治 ,   東永廉 ,   西村和博 ,   野村武 ,   有馬亨

ページ範囲:P.343 - P.349

 抄録:腰部椎間板ヘルニアに対する122例の経皮的髄核摘出術の経験から,その適応基準をすでに報告した.しかし,適応基準を満たす例の1/4がなお無効例であることは,本法が椎間板に対して幾分かの組織破壊性を持つ事実からはやや不十分な結果といえる.このため,画像所見,臨床所見,無効例に行われた後方侵襲手術所見などを再検討し,新たに副適応基準項目を加えた.これによりPN後の有効率は6ヵ月,1年,2年時ともに約8割程度まで改善し,適応基準としての精度が高まったといえる.しかし,MRIにより観察された椎間板の経時的変化や,後方手術によって確認されたPN後の椎間板の状態は,PN法が椎間板にもたらす避け難い生理的変化を示していた.従って,8割の有効率を経時的に持続させるためにも,椎間板に対して可及的に愛護的なPN手技を行うことが重要と思われた.

腰部椎間板ヘルニアに対する前方固定術の適応と手術成績

著者: 高畑武司 ,   藤村祥一 ,   戸山芳昭 ,   小柳貴裕 ,   丸岩博文 ,   松本守雄 ,   小川潤 ,   平林洌

ページ範囲:P.351 - P.357

 抄録:腰部椎間板ヘルニアに対する前方固定術の適応を,①下肢痛のみならず腰痛によるADL制限のあるもので椎間板造影によりその病因性が確認された場合,②正中ヘルニアとしてきた.しかし,sequestrationは適応外とした.今回,このような適応のもとに本術式を行った57例について,ヘルニアの形態,突出方向,発生高位,固定椎間,骨癒合などと手術成績との関係を検討した.その結果,いずれも良好な成績であり,手術適応の正当性が示され,本術式は根治性の高い手術法といえた.しかし,本術式の問題点として,sequestrationに対応できないこと,後療法が骨癒合まで長くかかること,少数例とはいえ術後合併症と隣接椎間の不安定性の発生などがみられることが挙げられた.

重労働者とスポーツ選手の腰椎椎間板ヘルニアに対する各術式の成績と限界について

著者: 松永俊二 ,   酒匂崇 ,   武富栄二 ,   中川雅裕 ,   井尻幸成

ページ範囲:P.359 - P.364

 抄録:重労働者とスポーツ選手の腰椎椎間板ヘルニアに対する各種手術的治療の成績を職業およびスポーツ復帰度の観点から比較し,各術式の適応と限界について検討した.
 重労働者とスポーツ選手の腰椎椎間板ヘルニア患者を対象として,部分椎弓切除術(いわゆるLove法)を30例,経皮的髄核摘出術を62例,腰椎固定術を29例に行った.重労働への復帰については,腰椎固定術が89%と最も優れていたが,Love法と経皮的髄核摘出術については成績に差が認められなかった.スポーツ選手に対しては,経皮的髄核摘出術が26例中21例(81%)に競技に復帰できており,また復帰に要した期間も8週と他の術式に比べ有意に短かった.重労働者やスポーツ選手など腰部に多大な力学的ストレスのかかる患者に対しては,手術を行う際に職業復帰や選手のneedsなどを考慮して適切な手術を選択することが重要である.

Extraforaminal lumbar disc herniationに対する骨形成的偏側椎弓切除術

著者: 小田裕胤 ,   河合伸也 ,   野村耕三 ,   浦野正之 ,   大谷武 ,   豊田耕一郎 ,   田口敏彦

ページ範囲:P.365 - P.373

 抄録:extraforaminal lumbar disc herniationでは,ヘルニアが脊柱管外に存在し,そのタイプもprotrusionよりもextrusionやsequestrationが多い特徴を有する.手術的治療に際しては,このヘルニア塊を直視下に確実に摘出するためには,椎間関節を含めた広範な展開が必要とされる.骨形成的偏側椎弓切除術は,罹患側の椎弓を関節突起間部と棘突起の正中縦割による骨切りで,偏側椎弓のみの一時的な摘出と,上関節突起の頭側および内側の部分切除により,罹患神経根を脊柱管内から管外へと追跡でき,遊走せるヘルニアも罹患神経根の愛護的操作のもとに,直視下に確実な摘出が可能な術式である.さらに,再度椎弓を還納することにより,椎間関節を含む後方構築も温存され,脊椎固定術の併用も必要としない.最長5年,平均2年3ヵ月の短期の成績では優+良が94%と良好であり,再発や椎間不安定性を来した症例はなく,本症に対し最も推奨しうる術式である.

主題 脊椎とその周辺からの痛みの診断

馬尾活動電位に選択的神経根ブロックを併用した障害神経根診断法

著者: 橋本吉弘 ,   玉置哲也 ,   松浦伸一 ,   安藤宗治 ,   中元耕一郎 ,   山田宏 ,   毛保浩明 ,   峠康 ,   西浦弘晃

ページ範囲:P.375 - P.381

 抄録:腰仙部神経根障害を有する症例に対して,術前に責任障害根ならびに障害高位を判定することは,手術侵襲の軽減という意味において重要である.その目的のために我々は,下肢末梢神経幹刺激による馬尾活動電位(CEAP)記録下に選択的神経根ブロックを行い,単一神経根電位(S-NRAP)を記録する方法を開発し,その有用性について検討した.CEAPは障害部近傍に記録電極を設置するため,比較的精度の高い診断が行えるが,欠点として,CEAPは複数の神経根より流入する電位を総合的に捕えたものであり,単一神経根由来電位ではなく,障害神経根由来電位が健常神経根由来電位に隠され,false negativeとなる可能性がある.しかし,本法によりブロックされた神経根由来S-NRAPを記録することが可能であり,また選択的神経根ブロックによる機能的診断も合わせて行うことができ,障害神経根ならびに障害高位診断法として優れた方法であると結論した.

腰椎椎間板ヘルニアにおける神経根性痛の画像診断―造影MRIによる障害神経根の描出

著者: 豊根知明 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   村上正純 ,   高田啓一 ,   高橋弦 ,   森永達夫 ,   平山次郎 ,   北原宏 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.383 - P.389

 抄録:片側の下肢痛を主訴とする腰椎椎間板ヘルニア25例に,Gadolinium-DTPA造影MRIを施行し,特にヘルニアの遠位部における神経根を観察した.その結果,17例において症状側神経根が造影されていた.神経根の造影所見は3群に分類可能であり,grade 0:造影されない,grade 1:部分的に不均一に造影される.grade 2:全体に造影される,とした.坐骨神経痛の重症度を定量的に評価するためにSLRテストおよびJOAスコアを用いたところ,造影の程度は症状の重症度を反映していた.またgrade 2の全症例が,3ヵ月以上の保存療法を行っても症状の寛解が得られず,手術を必要とした.これは造影MRIが,責任高位の診断のみならず,予後を予測し得ることを示しており,その適応は広がるであろう.神経根の造影の機序としては,血液神経関門の破綻,神経内浮腫の出現が考えられ,神経根性坐骨神経痛の画像診断,ならびにその生体内における病態解明の可能性が示された.

根性疼痛と腰髄後根神経節の非対称性分布

著者: 浜西千秋 ,   田中清介

ページ範囲:P.391 - P.395

 抄録:腰髄後根神経節(DRG)はMRIの連続横断画像により非侵襲的に確実に観察することができる.DRGは機械的刺激に依って容易に肥大し,またヘルニアや椎間関節の変性変化によって偏位するためMRI横断像で非対称性に観察される.特に先天的に内方に偏位した場合椎間孔入孔部での機械的刺激に更にさらされやすくなり,根性疼痛や根性間欠跛行を発症すると思われる.MRIで観察すると,遠位のDRG程内側に存在し,L5の場合は9%が脊柱管内に存在する.このような例は先天的にリスクが高いとも考えられ,L5領域の根性疼痛や根性間欠跛行を呈する症例のある部分はDRG由来のものである可能性が明らかとなった.

腰椎椎間板ヘルニアにおけるGd-DTPA造影MRIの意義について―神経根造影と臨床徴候の関係

著者: 種市洋 ,   鐙邦芳 ,   平地一彦 ,   金田清志

ページ範囲:P.397 - P.404

 抄録:非造影MRIは圧迫による脊髄内病変は鋭敏に捉えるが,神経根内の変化は描出しない.筆者らは,Gd-DTPA造影MRIで圧迫による神経根内病変が造影可能かどうかを調査し,腰椎椎間板ヘルニアの診断における本法の有用性を検討した.対象は腰椎椎間板ヘルニア115例で,術前および術後に造影MRlを施行した.術前は115例中45例(39.1%)で障害神経根が造影された.神経根造影(nerve root enhancement:NRE)は下肢痛の強い例に多く観察されたが,麻痺の程度には相関しなかった.術後早期におけるNREは46例中27例(58.7%)で陽性だったが,診断上の有用性はなかった.また,非障害神経根における造影が7例(5.9%)にみられ,これは根静脈の造影と考えられた.NREは,圧迫や炎症による神経根の神経内膜内浮腫を描出するものと推察された.造影MRIによる神経根内変化の描出は,障害神経根の同定を可能にし,腰椎椎間板ヘルニアの診断に有用であった.

頸椎症性脊髄症における軸性疼痛

著者: 細野昇 ,   米延策雄 ,   小泉雅彦 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.405 - P.411

 抄録:手術を施行した頸椎症性脊髄症の103例における術前後の軸性疼痛を検討した.軸性疼痛を項部痛,肩痛,肩こりの3つに分け,術前後におけるこれらの症状の頻度と,各種画像との関連を調べた.術前の軸性疼痛は対象の25%に認められたがこれを説明しうる有意な画像所見はなかった.またこれらの症状の46%は手術により軽快したが,術式による軽減効果に差はなかった.更に,亜全摘術の術後は19%,椎弓形成術の術後は60%に術後軸性疼痛を認め,椎弓形成術に多かった,椎弓形成術後の肩痛については,その発生・軽快時期,lateralityから蝶番側における偽関節様の痛みが原因となっていることが示唆された.また予後に関して,これらの術後症状のうち項部痛と肩痛は術後1年半以内に軽快する例が多かったが,肩こりについては80%以上の例で術後1年以上続いた.術前軸性疼痛の頻度は女性に多く,また術前から強い痛みを訴える症例については術後も2年以上続く頑固な軸性疼痛を訴えることが多かった.

上位頸椎疾患に対する環軸関節ブロック

著者: 伊藤達雄 ,   三浦智文 ,   大平由里子 ,   三宅俊和 ,   加藤義治

ページ範囲:P.413 - P.418

 抄録:慢性関節リウマチ(以下RA)を中心とする21例の環軸関節疾患に対して除痛効果を確認する目的にて,環軸関節造影と局麻剤注入によるブロックを行った.全例に除痛効果が得られ,約半数において著明な効果が認められた.これら著効例は造影剤が両側関節に広がるタイプIIにおいて多く,また疾患別にみると,RA群では少なく,外傷・先天性など非RA群では多い傾向がみられた.これらの除痛効果が病因同定として有用であり,同時に患者への説明としても説得性がある.疼痛に対する保存療法としての利用も示唆された.

主題 特異病態

腰椎背筋群のコンパートメント内圧上昇と腰痛

著者: 紺野慎一 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.419 - P.426

 抄録:コンパートメントとしての腰椎背筋群の解剖,生理学的検討と腰椎背筋群のコンパートメント内圧上昇と腰痛との関係についての臨床的検討を行った.コンパートメント内の多裂筋と脊柱起立筋の構成は腰椎高位により異なっていた.胸腰筋膜の背側に分布する血管は棘間より髄節性に左右対称性に分布していた.腰椎背筋群のコンパートメント内圧は,後彎角の増加に伴い比例的に増加した.その変化は多裂筋部と脊柱起立筋部で差はなかった.各種腰痛疾患における姿勢や荷重負荷による筋内圧変化は各疾患に特徴的なパターンが認められた.腰痛出現時の筋内圧波形は漸増型,平坦型,漸減型,無反応型の4型に分類できた.運動時コンパートメント症候群の筋内圧波形は,漸増型か平坦型の波形を示していた.原因不明の慢性腰痛を訴える症例には腰椎背筋群の運動時コンパートメント症候群の可能性を念頭に入れて精査すべきである.

腰椎椎体終板部病変の検討―腰痛および腰椎不安定性へのアプローチ

著者: 豊根知明 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   村上正純 ,   高橋弦 ,   森永達夫 ,   北原宏 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.427 - P.433

 抄録:腰椎椎間板障害500例のMRIを観察し,88例に椎体終板部および骨髄の輝度変化を認めた.特にT1強調像における輝度変化は臨床症状との関連性が高く,これを低輝度群(type-1)と高輝度群(type-2)の2群に分類した.低輝度群38例では,腰痛(JOAスコア1点以下)ならびに前後屈X線上の椎間不安定性を高頻度に認め,高輝度群50例との間に有意差(P<0.005)がみられた.術中標本の病理組織は,低輝度部分で骨梁の肥厚および線維血管性骨髄を,高輝度部分では脂肪性骨髄の所見を呈した.臨床的に低輝度病変は不安定期を,高輝度病変は再安定期を示しており,これは椎間板障害がもたらす力学的ストレスの変化に起因すると考えられた.従来不安定性の診断は矢状面での可動性に基づいてきたが,椎体終板部病変は不安定性が惹起した生体内での病的状態を表現していると思われる.

主題 術後遺残疼痛

腰椎前方固定術偽関節例の術後遺残疼痛とその対策

著者: 戸山芳昭 ,   松本守雄 ,   丸岩博文 ,   小川潤 ,   小柳貴裕 ,   高畑武司 ,   藤村祥一 ,   平林洌

ページ範囲:P.435 - P.442

 抄録:腰椎変性疾患に対する前方固定術(ASF)偽関節例の臨床症状とX線所見を分析し,術後成績への影響,遺残疼痛との関連およびその対策について検討を加えた.対象は椎間板ヘルニア6例,MOB 4例,分離すべり症11例,変性すべり症8例の計29例で,年齢は平均44歳である.各疾患別に骨癒合群(U群)と偽関節群(N-U群)の改善率を求め,さらにX線機能撮影により偽関節の程度を点数化して各症例ごとの偽関節スコアーを算出した.なお14例に再手術を施行した.当科における過去10年間のASF偽関節例は205例中15例,7%であった。U群の改善率79%に対してN-U群では36%と劣り,特にヘルニアを除くMOB,すべり症で顕著であった.再手術法にはSteffee法が有効であったが,その成績が平均改善率で21%から69%へと上昇したことからも,偽関節による術後成績への影響は明らかであった.その際,偽関節スコアーはその程度を数値で表現でき,術後成績とも関連がみられ有用であった.

主題 痛みの基礎的研究

脊椎棘上棘間靱帯における神経終末の形態学的観察によるback pain発現に関する考察

著者: 上村寛 ,   森澤豊 ,   道中泰典 ,   山本博司 ,   原弘

ページ範囲:P.445 - P.451

 抄録:脊柱の運動制御機構を解明し,腰痛発生機構を明らかにするために,塩化金染色法により脊椎棘上棘間靱帯内の神経終末を観察した.また,家兎棘上棘間靱帯を用いて手術侵襲の神経終末に対する影響について調べた.
 ヒト棘上棘間靱帯には,形態の異なる4種類の神経終末が棘突起付着部近傍に多く存在しており,腰椎部に比べて頸椎部に豊富であった.高齢者では若年者に比べ,機能的神経終末は減少するが,痛みの受容器である自由神経終末は増加していた.

圧迫性神経根障害の病態について―急性圧迫に伴う痛覚伝達物質の分布および変化

著者: 小林茂 ,   吉沢英造 ,   鵜飼高弘 ,   中川雅人 ,   山田光子 ,   森田知史 ,   蜂谷裕道 ,   中井定明

ページ範囲:P.453 - P.468

 抄録:腰仙部神経根症状を呈する疾患の病態については未だ不明な点が多く,機械的圧迫による根内の循環障害や神経線維の変形(軸索流の停滞)が深く関与していると考えられている.今回我々は,イヌの腰神経根に圧迫力の異なる4種類のクリップを用いて急性圧迫を加え,温痛覚に関与すると考えられているサブスタンスP(SP)・カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)・ソマトスタチン(SOM),また,痛覚の伝達抑制に関与すると考えられているエンケファリン(ENK)・セロトニン(5-HT)を用いて軸索流の変化を,また,Evans blue albumin(EBA)を静注し,神経根圧迫部の根内血管の透過性の変化を観察し,腰痛や坐骨神経痛の発現機序について検討を行った.その結果,神経根圧迫1週間後には著明な根内浮腫像がみられ,一次性求心性線維内の軸索流(SP・CGRP・SOM・ENK・5-HT)の障害が圧迫部でみられ,SP・CGRP・SOMではその線維の細胞(後根神経節)や終末部(脊髄後角)にまで及んでいた.この事実は,腰部椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの圧迫性神経根障害でみられる根性疼痛や知覚障害の発現に神経伝達物質の動態が深く関与することを示している.

マウス椎体終板変性に伴う知覚神経・血管分布の変化とその意義

著者: 永野隆 ,   宮本紳平 ,   米延策雄 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.469 - P.477

 抄録:脊椎変性とそれに伴う疼痛や終板血流の変化との関係を明らかにする目的で,マウス椎体終板において知覚神経であるCGRP陽性神経線維や血管の分布を観察した.
 その結果,若齢マウスの椎体終板領域にはみられない同神経線維が変性終板では血管周囲に認められた.終板の変性程度については脊椎症モデルマウスは老齢(通常)マウスと有意差かないにもかかわらず,CGRP陽性線維の出現頻度は両マウス間で異なり,また終板変性度によっても変化していた.即ち,同線維は脊椎症モデルマウスの変性初期終板に最も多くみられ,高度変性終板では減少していた.一方,終板に分布する血管はCGRP陽性線維の出現する時期から変性の進行と共に疎らになっていくことがわかった.

腰椎椎間関節および周囲組織における感覚受容器の炎症に対する反応

著者: 山下敏彦 ,   三名木泰彦 ,   横串算敏 ,   石井清一 ,   ,  

ページ範囲:P.479 - P.485

 抄録:本研究では,腰椎椎間関節および周囲組織における感覚受容器が炎症に対していかなる反応を示すかを,電気生理学的に検索することを目的とした.ウサギの腰椎に椎弓切除を施行し,後根より求心性電位を記録した.椎間関節および周囲組織の機械的感覚受容野を同定し,その機械的閾値や支配神経の伝導速度などの生理学的特性を分析した.椎間関節部に炎症性物質を投与し,急性炎症を惹起させ,感覚受容器の放電頻度や生理学的特性の変化を分析した.
 炎症により,感覚受容器からの求心性放電頻度が増大した.また,関節の動きに対する受容器の反応性が亢進した.これらの変化は,高閾値受容器と低閾値受容器の両者に認められた.以上の結果より,椎間関節の炎症は,侵害受容の機能を有する高閾値受容器を興奮させることにより,疼痛の発生に関与していると思われた.また,炎症により,体動時の痛みが発生しやすくなることが示唆された.

後根及び脊髄後根神経節の急性圧迫による脊髄後角広作動域ニューロンの反応の変化

著者: 花井文彦 ,   松井宣夫 ,   本郷信男

ページ範囲:P.487 - P.494

 抄録:ネコの脊髄後角より単一ニューロン活動を記録し,皮膚の侵害性機械刺激に反応するものを選んで研究の対象とした.触刺激から侵害刺激に至る種々の強さの刺激に段階的に反応する広作動域ニューロン32個を検出した.後根及び脊髄神経節をおのおの40gマイクロ血管クリップを使用して3分間圧迫した.後根の圧迫では一過性(7~48秒間,平均24.5秒間)の自発性興奮の増強を示した.しかし,その後は圧迫が継続したのに圧迫前の状態に戻った.脊髄神経節を圧迫すると,3分間の圧迫中持続して自発性興奮の増強が認められた.圧迫を解除した後も数秒~数十秒間自発性スパイク発射の増強が続いた.後根あるいは脊髄神経節の圧迫を行う前と直後に,末梢受容野機械刺激の反応を調べた.どちらの圧迫を行ったニューロンにおいても,受容野の低域値中心部の拡大及び触刺激に対する反応の増強を認めた.これは椎間板ヘルニア急性期の痛覚過敏に対応すると考えられた.

一般演題

後方離開を呈する胸・腰椎屈曲損傷―破壊運動軸理論に基づく分類の試み

著者: 谷正太郎 ,   石井祐信 ,   国分正一

ページ範囲:P.495 - P.503

 抄録:椎弓根・椎弓の水平骨折,椎間関節の離開,棘上・棘間・黄色靱帯の断裂,棘突起の剥離骨折を呈する胸・腰椎屈曲損傷38例のX線像で,破壊運動軸(前方圧潰と後方離開の境界と定義)の位置と方向を求め,発生メカニズムの検討を行った.破壊運動軸が椎骨高位にあるもの27例,椎間板高位にあるもの11例であった.椎骨高位に運動軸の例は,さらに前額・水平面内で運動軸が椎体内にある洗濯バサミ骨折15例と椎体後縁にある破裂骨折型8例,および前額・水平面から外れた対角的洗濯バサミ骨折4例に分けられた.椎間板高位に運動軸の例は,さらに前額・水平面内で運動軸が椎間板後縁にある古典的楔状圧迫骨折5例,椎間板内にある楔状圧迫骨折1例とDenisのtype C 3例,および前額・水平面から外れた対角的楔状圧追骨折2例に分けられた.損傷の発生メカニズムの解釈に破壊運動軸の理論を取り入れることで,Denisの分類に記載のない骨折型も容易に理解でき,包括的な分類が得られた.

骨粗鬆症椎体の破壊挙動

著者: 長谷川和宏 ,   高橋栄明 ,   古賀良生 ,   川嶋禎之 ,   原利昭 ,   田辺祐治 ,   田中茂雄

ページ範囲:P.505 - P.511

 抄録:9椎体の高齢群および4椎体の壮年群の2群よりなる腰椎を用いて,骨塩密度計測後,準静的圧縮試験を行い,同時に弾性波(AE)を計測した.負荷試験終了後,椎体中央部矢状面より作成した薄切片のマイクロラジオグラフィを撮影し,椎体内部の破壊様式を観察した.骨塩密度は高齢群で有意に低く,これを骨粗鬆症群とみなした.最大加重は高齢群では3182.8±1603.3N,壮年群では8938.0±167.1Nと有意に後者の方が高値であった.最大加重点までに発生した累積AE event countは高齢群では81.7±6O.9,壮年群では9.5±4.5と有意に前者の方が多く,これは骨粗鬆症椎体の脆弱性を示すものと考えられた.また,加重後の骨折は頭側および尾側1/3に分布していたことより,椎体の力学的弱点は頭側および尾側1/3に存在し,これが骨粗鬆症椎体において顕著になるものと思われた.

若年性腰椎椎間板ヘルニア―そのスポーツ活動との関連および成人例との比較について

著者: 佃政憲 ,   鷲見正敏 ,   片岡治 ,   南久雄 ,   日野高睦 ,   横山浩 ,   黒田良祐

ページ範囲:P.513 - P.518

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアは椎間板の退行変性に微小外傷性因子が加わって発生すると考えられているが,理論的には退行変性が少ない20歳未満の症例においても日常よく経験される.当科において1982年から1990年まての9年間に入院治療を行った若年性腰椎椎間板ヘルニア54例の臨床像および治療結果より,病態や治療成績の成人例との対比,およびスポーツ活動との関連について検討した.54例のうち,保存的治療例は24例であり,手術的治療例は30例であった.発症誘因は,スポーツ障害が35例と多く,自覚症状では,腰痛と下肢痛が高率にみられた.他覚所見では,SLRテストは平均39.5°と強陽性で,知覚障害は55%,筋力低下は38%にみられた.スポーツ活動への復帰については,手術症例では,術前経過の短いものほど復帰率が高かった.保存的治療症例での復帰率は,疼痛が残存あるいは再発するために低率であった.

圧迫性腰仙部神経根障害における造影MRI―根内血管透過性の変化

著者: 森田知史 ,   吉沢英造 ,   中井定明 ,   小林茂 ,   蜂谷裕道 ,   中川雅人 ,   西本聡

ページ範囲:P.519 - P.526

 抄録:近年,造影MRIを用いて神経根内の病態を把握する試みが成されている.今回,我々は,造影MRIが神経根の病態をいかに反映するかを検討した.基礎的実験として雑種成犬の左側第7腰神経根に60gram forceの圧迫力が作用する血管縫合用クリップを使用して1時間の圧迫を行った.そして,圧迫解除30分後にトレーサーとしてgadolinium次いでEvans blue albumin(EBA)を静注し,その10分後に屠殺した.そして腰仙部を一塊として取り出して造影MRIを撮像するとともに神経根薄切切片を作成して蛍光顕微鏡下で観察し,EBAの血管透過性の変化を検討した.造影MRIで神経根圧迫部位は全例で高輝度を呈し,同部で血液神経関門の破綻に基づくEBAの血管外漏出,即ち根内浮腫像が蛍光顕微鏡下で観察された.臨床的検討では腰椎椎間板ヘルニア27例に対し造影MRIを撮像して当該神経根を観察した.27例中8例に圧迫された神経根の高輝度変化を認めた.以上のことより,臨床例の高輝度変化を呈した症例の約1/3は圧迫された神経根内に浮腫を生じているものと考えられた.

根性坐骨神経痛に対する腓骨神経ブロック―神経ブロックの作用機序に対する考察

著者: 田尻和八 ,   高橋啓介 ,   池田和夫 ,   富田勝郎 ,   長田茂樹

ページ範囲:P.527 - P.530

 抄録:日常の診療で用いられている神経ブロックの中には,病変部位よりも末梢で行われているものがある.今回我々は病変部位より末梢でのブロックの効果を調べる目的で,根性坐骨神経痛に対し病変部位よりはるかに離れた腓骨頭部で腓骨神経ブロックを行い,その効果を検討した.対象は腰椎椎間板ヘルニア10例と腰部脊柱管狭窄症10例であり,ブロックには2%リドカイン6mlを用いた.ブロック後15分の時点で,下腿の疼痛は全例で軽減または消失した.SLRTおよび間欠性跛行にも改善がみられた.根性坐骨神経痛の出現には,病変部位で発生したインパルスのうち末梢を伝導するインパルスが重要であると思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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