icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科28巻5号

1993年05月発行

雑誌目次

視座

不安と期待

著者: 新名正由

ページ範囲:P.533 - P.533

 21世紀まで,余すところ7年足らずとなった.国際紛争の頻発,東西ドイツの統一,ソ連邦の崩壊,飢餓,環境汚染の深刻化,麻薬,エイズと難問が地球規模で広がり,極東の島国,日本も否も応もなくそれらの問題に巻き込まれ,その対応に追われることになる.PKOへの自衛隊の派遣がその良い例であり,私達の教室に属する若い医官も現在参加しており,嵐の過ぎるのを一人座して待つ状況ではなくなっている.今後,あらゆる事が一国単位ではなく,人類全体の問題として取りあげられ,協議されてゆくようになるものと思われる.先日,スキーの複合競技の世界の王者,荻原がテレビのインタビューで「結局,我々日本人も外国人と同じ人間なんだなと実感している」と言っていたが,その衒いのない態度に,来世紀には日本人も地球人として立派にやってゆけるなと感じられ,すっかり嬉しくなった.
 それでは,日本の整形外科学会の21世紀の姿は? 若くて優秀でかつ国際感覚に富んだ整形外科医が多く輩出する可能性は? 情報化社会の中で輸出入均衡型の情報発信基地となり得る可能性は? こういった質問に対して,正直言って,私には確固とした解答はまだ見えてこない.確かに1万7千人の会員を擁し,しかも人口構成の変化や,健康とQOLの維持を目的としたスポーツの普及を考えると,整形外科の将来は決して暗いものではないと言える.しかし,そこにはいくつかの但し書が必要のようにも思える.

論述

スカイスポーツ外傷の調査

著者: 原雄人 ,   内藤正俊 ,   秋山徹 ,   加治浩三 ,   藤田秀一

ページ範囲:P.535 - P.539

 抄録:スカイスポーツはその特殊性から競技人口の少ないスポーツであった,しかし,近年パラグライダー(以下パラ)が日本に紹介され,ハンググライダー(以下ハング)が主流であったスカイスポーツ人口は飛躍的に増加している.そこで,最近急増しているスカイスポーツ外傷について調査検討を行ったので報告する.関連病院を受診した症例及び全国のスカイスポーツスクールから得られた症例のうち,軽微な外傷を除く合計243例に対して検討を行った.受傷者の平均年齢は31.6歳(19~70歳)で,パラ212例,ハング31例であった,パラで最も多い受傷部位は腰椎圧迫骨折であり,53例(25%)であった.これはこのスポーツにおける特徴的な受傷部位と考えられた.ハングでは上半身の受傷が多く,重症度,致死率も高かった.これらの外傷の治療や予防のためには,新しい分野でのスポーツ外傷としての認識が必要であると思われた.

外がえし強制による距骨滑車骨軟骨骨折

著者: 熊井司 ,   高倉義典 ,   北田力 ,   田中康仁 ,   高岡孝典 ,   玉井進

ページ範囲:P.541 - P.549

 抄録:距骨滑車の骨軟骨骨折は1959年Berndtらの屍体を用いた実験以来,一般に内がえし強制により発生すると考えられている.今回外がえし強制により発生したと考えられる5例を経験したので,その病態について検討を加えた.症例の内訳は男4例,女1例で発生部位はいずれも距骨滑車外側であり,初診時年齢は16~31歳(平均25.2歳)であった.全例に観血的治療を行い,母床の掻爬,drillingおよび骨軟骨片の整復固定術を行った.合併損傷として内果骨折,内側靱帯損傷や脛骨下端前縁骨折を伴っていることが多かった.腰椎麻酔下でのストレスX線撮影や術中の徒手操作により,滑車上外側縁と脛骨下端関節面の衝突が確認され,本症の受傷機転と考えられた.骨折線は矢状方向にみられ,骨軟骨片は下方に転位していることが多いため,その形状は本症に特徴的な崖崩れ状(landslide-shaped)を呈していた.

スポーツ選手の足関節impingement exostosisの臨床的・X線学的検討

著者: 飯田哲 ,   岡崎壮之 ,   栗原真 ,   徳重克彦 ,   森川嗣夫 ,   田内利幸 ,   鍋島和夫

ページ範囲:P.551 - P.559

 抄録:スポーツ選手の足関節impingement exostosis 46例64関節について前方部分の変化を中心に臨床的・X線学的検討を行った.骨棘発生の背景には,スポーツレベルや競技年数,即ち足関節のover useと靱帯損傷後の不安定性が関与していることが示唆された.骨棘の形態及びその存在部位をX線学的に検討したところ,脛骨側骨棘は脛骨前下縁外側に,距骨側骨棘は内果関節面前方の距骨側に存在することが確認され,両者間にはimpingementは発生せず,各々が異なる機序で発生すると考えられた.その成因について脛骨側骨棘は,外側靱帯損傷後のanterolateral rotational instability(距骨の前外側回旋不安定性)が,距骨側骨棘は,距骨頸部内側と内果前方との衝突,及び内側靱帯・関節包の牽引によるtractionspurが,骨棘形成の原因として推察された.手術的治療を選択した3症例の検討を含め,本症の治療についても考察した.

手術手技シリーズ 最近の進歩

脊椎(原発性,転移性)腫瘍に対する脊椎全摘術(total en bloc spondylectomy)

著者: 富田勝郎 ,   川原範夫

ページ範囲:P.561 - P.569

 脊椎悪性腫瘍に対する椎骨全摘術の報告は,1968年のLievreら3)が初めてであり,その後,Stenerら4),Roy-Camilleら1,2)のほかいくつか6)が散見される.我々はこれらの報告をふまえ,さらに発展させた術式“脊椎全摘術,total en bloc spondylectonny”を開発し,実施してきた.すなわち,脊推悪性腫瘍に対して,可能な限り徹底的に病巣を切除し局所再発を防止する目的で,腫瘍椎骨を椎弓根で椎体と椎弓に切離し,双方とも腫瘍学的にbarrierをつけたままで,extracompartmentalにen blocに後方から摘出するものである.
 今回その術式を中心に述べる.

整形外科を育てた人達 第114回

Fritz de Quervain(1868-1940)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.571 - P.573

 スイスのBernの大学で活躍したKocher教授の後を継ぎ温厚な性格で,外科医ではあるが四肢の外科にも業績も多く,整形外科を育てた人と思うので,de Qurervainの伝記を書くことに決めた.

整形外科英語ア・ラ・カルト・10

“Finger”に関する日常英会話・その1

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.574 - P.575

 前回は指の“thumb”について述べたので,今回は“finger”に関する言葉を紹介したい.
 昭和50年代の初期に,“フィンガー・ファイブ”という5人の若い日本人からなるヴォーカル・グループが,活躍していたことを覚えておられるだろう.私は2度目の米国滞在から帰ってきたばかりで,セックスの際に,指で女性を満足させる“finger technic”という言葉を知っていた.さらに“finger”が“いじくる”の動詞の意味もあることから,“finger five”が,一度に5人の女性を喜ばせる意味にも解釈できるのではないかと考え,国際的に凄い命名であることと心配していたことを思いだす.

臨床経験

肩関節直立脱臼の1例

著者: 笠井裕一 ,   須藤啓広

ページ範囲:P.577 - P.579

 抄録:きわめて稀な肩関節直立脱臼の1例を経験したので報告する.症例は87歳女性で,平成3年10月8日,自宅の庭で転倒し,受傷した.X線所見では,上腕骨は強い外転位を示し,上腕骨骨頭は肩甲骨関節窩縁の前下方に脱臼して嵌頓固定され,大結節にほとんど転位のない骨折を認めた.局所麻酔下に,Cooper法で左肩関節の徒手整復を行い,容易に整復位が得られ,その後の経過は良好である.また,我々の渉猟し得た本症報告例46例から,本症の受傷時年齢,受傷原因,整復方法,合併損傷に関して文献的検討を行った.

NSE高値を呈し肺癌を併発した骨原発小円形細胞肉腫の1例

著者: 西田淳 ,   白石秀夫 ,   田島克巳 ,   門間信博 ,   柏木一成 ,   江原茂

ページ範囲:P.581 - P.583

 抄録:症例は40歳女性の左大腿骨原発と思われる小細胞円形肉腫例である.NSE高値を呈し,骨破壊像がほとんどみられず,化学療法は無効で,急速な経過で死亡した.Ewing肉腫あるいはprimitive neuroectodermal tumorを考えたが,組織学的にあるいは電顕的にはEwing肉腫とするのが妥当と考えられる所見が得られた.剖検の結果,肺乳頭状腺癌の併発も判明し,病因論的に非常に興味深い症例である.

脊髄円錐部より腰仙部に多発した巨大な馬尾神経鞘腫の1例

著者: 安宅洋美 ,   永瀬譲史 ,   斎藤康文 ,   板橋孝 ,   久米通生 ,   鎌田栄

ページ範囲:P.585 - P.589

 抄録:症例は52歳,女性で主訴は歩行障害である.MRI,ミエロ,CTMにてTh11からL2に及ぶ内部にcystをもつ巨大な腫瘍,L3-4,L4-5の小球形腫瘍,L5からS1の腫瘍が存在し,脊髄円錐部は腫瘍により押し上げられていた.多発性馬尾腫瘍と診断し,Th10からS1-2までen blocに椎弓切除し腫瘍を全摘した後椎弓を還納しナイロン糸により固定した.摘出した腫瘍は神経鞘腫であった.術後下肢筋力低下は改善し,MRIで腫瘍はなく脊髄円錐部も下降している.術後1年6ヵ月の現在腫瘍の再発はなく,再建した脊柱のalignmentも良好である.

CT及びMRIにてfluid-fluid levelを呈した坐骨aneurysmal bone cystの1例

著者: 保坂泰介 ,   四方實彦 ,   清水和也 ,   武田信巳 ,   田中千晶 ,   多田弘史 ,   相馬靖 ,   川合準

ページ範囲:P.591 - P.594

 抄録:比較的稀な,坐骨aneurysmal bone cystの1例を経験した.症例は,15歳の男子で,主訴は右殿部の運動時痛.CTとMRIにて,病変部に特徴的な所見(fluid-fluid level)が見られた.open biopsyにて,aneurysmal bone cystと診断し,手術を施行した.後方アプローチより右坐骨に到達し,病巣部を十分掻爬した後,自家骨とハイドロキシアパタイト骨補填材を充填した.術後同部の痛みは消失し,現在に至る.
 aneurysmal bone cystは多くの場合,CT及びMRIにてfluid-fluid levelを形成することが特徴的とされるが,これは他の腫瘍病変でも見られることがあり,その診断的価値についてはさらなる検討が必要であると思われた.さらに,坐骨骨腫瘍としてのaneurysmal bone cystの頻度aneurysmal bone cystの治療法につき,若干の文献的考察を加えた.

自家骨移植を用いたbipolar型人工股関節による臼蓋再置換術の検討

著者: 稲尾茂則 ,   安藤御史 ,   後藤英司

ページ範囲:P.595 - P.601

 抄録:全人工股関節置換術後の機械的弛みに対して,自家骨移植を用いたbipolar型人工股関節による再置換術を行い,臨床(疼痛・歩行能力・関節可動域)及びX線評価を行った.症例は,11例11股(男性2例2股,女性9例9股)であり,平均術後経過観察期間は4年10ヵ月(1年6ヵ月から7年11ヵ月)であった.主な合併症としては,深部感染が1例,輸血後肝炎が2例,術中大腿骨穿孔が2例に認められた.臨床評価では,疼痛の改善が9例(内5例が無痛),歩行能力の改善が6例に認められ比較的満足する結果であった.一方,X線評価では,移植骨の癒合は見られたが,全例に骨頭の移動が起こり,本手術は,臼蓋骨欠損部を自家骨で再構築,維持する方法としては十分とは言えなかった.本法は,高齢者の再置換におけるsalvage手術として良い適応がある.

カンジダによる腰椎椎間板炎の1例

著者: 荒巻忠道 ,   角田雅也 ,   北澤久也 ,   菊本喜代司 ,   藤田久夫

ページ範囲:P.603 - P.606

 抄録:症例は,73歳,男性.肺結核・胃癌の既往がある患者で,腰痛を主訴に来院した.初診時単純X線像で,椎間板を中心にL2/3椎体の骨破壊像を認めた.CRP高値・血沈値亢進を認めたが,他に検査所見に異常はなかった.needle biopsyを施行し,細菌培養により確定診断は得られた.抗真菌剤としてmiconazoleおよび5-fluorocytosineを約2ヵ月間投与し,体幹ギプスその後硬性コルセットで約8ヵ月間の外固定を行った.1年後単純X線像にて椎体間の骨癒合はほぼ完成した.

脳性麻痺児の股関節脱臼に対する装具療法の小経験

著者: 二井英二 ,   小保方浩一 ,   矢田浩 ,   原親弘

ページ範囲:P.607 - P.610

 抄録:脳性麻痺児の股関節脱臼に対しては,観血的療法が主として行われ,装具療法の効果は明確ではない.今回,2例の脳性麻痺児の股関節脱臼に対して,股関節外転装具による治療を行い,比較的良好な結果を得たので報告した.股関節の内転筋群,屈筋群の痙性があまり強くなく,開排位などにより求心性が良好なものでは,装具療法によりある程度の効果が期待できるものと思われた.また,脳性麻痺児の股関節脱臼における臼蓋形成不全は,不良肢位にある大腿骨骨頭の臼蓋への圧迫が原因であるとされ,特に,7歳以降では臼蓋の軟骨性発育は鈍化するため,たとえ骨頭の求心性が保たれたとしても臼蓋の改善は期待し難いとされている.我々の症例においては,11歳,8歳時に治療を開始しているが,特に,11歳より開始した症例において臼蓋の改善は著明であり,骨頭の求心位を良好に保つことにより年長児でも臼蓋の良好な発育が期待できると考えられた.

長範囲に存在した脊髄髄内dermoidの1治験例

著者: 栃木祐樹 ,   望月真人 ,   後藤澄雄 ,   村上正純 ,   守屋秀繁 ,   渡部恒夫 ,   平松健一

ページ範囲:P.611 - P.615

 抄録:46歳女性に発症し,第2胸椎より第2腰椎部まで長範囲に存在した脊髄髄内dermoidを経験したので報告する.MRI所見は,T1強調画像において高信号の中に低信号を混じたモザイク様を示した.手術は術中エコー,脊髄モニタリングを併用した可及的摘出術を行い良好な結果を得た.

長母趾屈筋腱皮下断裂の1症例

著者: 橋爪洋 ,   上好昭孝 ,   嶋公大 ,   江川弘光 ,   星野潤 ,   松本朋子 ,   玉置哲也

ページ範囲:P.617 - P.619

 抄録:極めて稀な長母趾屈筋腱皮下断裂の症例を経験した.患者は13歳男性,サッカー競技中に右母趾の伸展を強制され,直後より母趾IP関節の屈曲が不能となった.腱鞘造影にて,中足骨頭部から中足骨基部まで造影剤の充満が観察されたが,腱鞘内には腱陰影は認められなかった.第一中足骨頭部での長母趾屈筋腱の皮下断裂と診断し,手術的に観察すると,同部での腱断裂がみられ,端々縫合が不可能であったため,腱移植術を施行した.一般に介達力による腱断裂は腱停止部に発生することが多いが,解剖学的に長母趾屈筋腱は第一中足骨頭部で走行を変更しており,同部でストレスを受けやすく,さらに今回の症例ではサッカーボールを蹴ろうとして長母趾屈筋腱に強い筋収縮力が働いた瞬間に過伸展を強制されたことが,第一中足骨頭部における腱断裂の発生機序として考えられた.

エリスロポエチンを用いた自己血輸血の経験

著者: 金潤澤 ,   進藤裕幸 ,   東博彦

ページ範囲:P.621 - P.624

 抄録:当科では,遺伝子を組み替えヒトエリスロポエチン(rHuEPO;EPO)を用いて造血能を高め,貯血式自己血輸血法を行っているので,その有効性につき検討した.
 対象は寛骨臼回転骨切り術(RAO)予定患者24例で,内訳は静注用EPO 3000IU使用群6例,6000IU使用群6例,皮下注用EPO 3000I∪使用群6例,対象群6例である.全例に自己血輸血を用い,術前貯血として,予定手術日の3週間前から1週毎に400mlずつ計1200ml採血し,冷蔵法にて保存した.EPOを使用した例では,初回の貯血用採血前より週2回静注,あるいは週1回皮下注し,全例に静注用鉄剤を併用した.EPO群では同種血輸血を要した症例はなく,対照群で1例16.7%に400mlの同種血輸血を要した.EPO群では採血後のヘモグロビン濃度の低下が抑制され,対照群に比してヘモグロビン増加量は高かった.なお,EPOによる副作用はなく,全症例を通じて輸血による合併症もなかった.

自然治癒した急性腰椎硬膜外血腫の1例

著者: 勝部博之 ,   李勝博 ,   柴田徹 ,   中嶋洋 ,   西塔進

ページ範囲:P.625 - P.629

 抄録:腰椎に急性発症し自然治癒した脊髄硬膜外血腫の1例を経験し,MRIによる経時的観察を行い得た.症例は49歳の男性で,突然の激烈な腰痛と右殿部から右大腿部外側への根性放散痛にて発症し,疼痛のため14日間の臥床を要した.発症後20日目に右下肢の不完全運動麻痺に気付いたが,発症後60日目には自然回復した.診断はMRIにより行い,L2からL3の硬膜外背側に血腫が認められ,症状の回復とともに経時的な血腫の消失も確認された.本症例は,腰椎部で小範囲に限局した血腫であったため馬尾神経への圧迫が少なく,神経根障害にとどまり,自然治癒の経過をたどったと思われる.脊髄硬膜外血腫の診断にMRIは最も有用で,本例に見られるような自然治癒の可能性についても有用な情報を提供してくれると思われる.

腰椎破裂骨折に対する単椎間の除圧固定術の経験

著者: 阿部栄二 ,   佐藤光三 ,   奥山幸一郎 ,   島田洋一 ,   千葉光穂 ,   水谷羊一

ページ範囲:P.631 - P.635

 抄録:脊椎破裂骨折に対する手術術式として損傷椎体を挟んだ2椎間固定術が一般的であるが,破裂骨折の中で最も多い損傷型であるDenis分類のB型では上位終板の損傷は著しいが,椎体下半分の損傷は比較的軽微で,これを温存した単椎間の除圧固定が可能な例が少なくない.我々は手術を行った27例のB型破裂骨折の中で5例にこの術式を用い,合併症もなく,全例良好な成績が得られた.他の22例のB型破裂骨折にはKaneda deviceを用い2椎間固定を行ったが,これらの手術例を再検討してみると,その60%は単椎間固定が可能であったと思われた.単椎間固定を行った5例の中でinstrumentを使用しなかった3例では4~8°の矯正損失があったが,Kaneda deviceを用いた2例では矯正損失はみられなかった.

巨人症に合併した胸椎椎間板ヘルニアの1手術例

著者: 塩見朗 ,   長谷斉 ,   茶谷賢一 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.637 - P.640

 抄録:巨人症や末端肥大症では,成長ホルモン(以下GHと略す)の分泌過剰が椎間関節,椎間板および黄色靱帯に影響を与えて脊柱管狭窄を生じることが報告されている.我々は巨人症に胸椎椎間板ヘルニアを合併した稀な1例を経験した.症例は,身長204cm,体重125kgの25歳の男性で,25歳時下垂体腺腫にて手術を受けた下垂体性巨人症である.両下肢のしびれ感と歩行障害を主訴に来院した.精査の結果,Th9/10,Th12/L1の椎間板ヘルニアと診断し,開胸にて2椎間の前方除圧固定術を施行し,良好な結果を得た.
 本症例ではGH分泌過剰によって関節軟骨内骨化促進による椎間関節の肥大変形と骨膜性骨化促進による下部胸椎椎体前後径の増大が起こり,これに脊柱管内靱帯の肥厚が加わり脊柱管狭窄を招いた.この状態において長身と体重による異常な負荷がかかりdiscのprotrusionをおこし,脊髄症状が出現したと考えられた.

化膿性脊椎炎のMR像―経時的変化を中心に

著者: 吉野恭正 ,   加藤浩 ,   飯田惣授 ,   松岡正裕 ,   関口哲夫 ,   湯浅竜寿 ,   堀田芳彦

ページ範囲:P.641 - P.645

 抄録:化膿性脊椎炎のMR像の経時的変化と臨床経過との関係について検討した.対象は10症例で,男性6例,女性4例である.平均年齢は約50歳で,発症型は発熱を伴う急性型7例,発熱を伴わない慢性型3例である.使用MR機種は1.5T(3例),1.0T(3例),0.5T(4例)で,T1強調画像(T1)とT2強調画像(T2)で評価した.症状の発現時,軽快時および抗生剤が中止されてから3ヵ月以降にMRを撮像した.
 検討の結果,次のようなことが考えられた.①化膿性脊椎炎のMR像:急性型では椎体はT1で低信号,T2で高信号を呈し,変形性脊椎症合併例の診断や多椎間罹患例の病巣範囲の決定にMR像が有用であった.慢性型ではT1,T2ともに低信号と高信号が混在する像を呈し,椎体の破壊と修復が同時に生じていると考えられた.②MR像の経時的変化:急性型ではT1での低信号領域の縮小と臨床症状の改善とがほぼ相関した.慢性型では治療前後で著変を認めず,MR像の経時的変化より炎症の鎮静化を示唆できないと思われた.

装具

短断端の下腿切断者に対する3-S(silicon-suction-socket)prosthesisの使用経験

著者: 小林大介 ,   澤村誠志 ,   中島咲哉 ,   坂田敏郎 ,   高田正三 ,   津村暢宏 ,   薩摩真一 ,   萩野哲也 ,   桜井敦志 ,   幸幹雄

ページ範囲:P.647 - P.650

 抄録:3-S(silicon-suction-socket)prosthesisはこれまでのPTB義足とは異なりシリコンの持つ柔軟性,伸縮性を利用し断端全体での体重支持を特徴とし,また同時に高い懸垂効果を有するものである.我々は今回これを従来のPTB義足では対処が困難な短断端の下腿切断者2例に対して使用したので,ここに報告する.症例は21歳と61歳の女性である.それぞれ断端長5cm,6cmと短断端であり,従来のPTB義足では荷重部の負担により疼痛を訴えた.これらの患者に対し3-S prosthesisを使用することにより患者の満足感が得られた.患者はPTB義足との違いを,断端全体での荷重感と,ピストン運動が全く無いことに帰していた.価格が高価な義足ではあるが,3-S prosthesisは魅力ある義足であり,様々な患者に対する臨床応用が期待される.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら