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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科28巻8号

1993年08月発行

雑誌目次

巻頭言

第8回日本整形外科学会基礎学術集会を開催するに当たって

著者: 寺山和雄

ページ範囲:P.878 - P.879

■スリムで,解りやすく,語り合える基礎学会に
 このたび,平成5年10月7日(木)と8日(金)の両日に,松本市において第8回日本整形外科学会基礎学術集会を開催することになりました.ご支援頂いた日整会の会員各位に深く感謝申し上げます.
 松本市は人口20万人ですが,このような地方小都市で日整会の基礎学会が開催されることは初めてであります.これまで松本市には大きな学会を開催できるような施設がありませんでしたが,平成3年8月に松本市総合体育館が建設され,これと隣接して,昨年7月には長野県松本文化会館がオープンしました.この会館のこけら落としとして小沢征爾氏指揮による斉藤記念フェスティバルが行われ,一流の施設であるというお墨付きを頂いております.この両施設を使って学会を開催致しますが,6つの口演会場と十分に広い展示会場が確保できました.3つの口演会場は収容可能人数がやや不足で,ご不便をかけるかも知れませんが,ご寛恕下さい.

論述

C6-7椎間脊髄症―神経学的高位診断と脊柱因子

著者: 国分正一

ページ範囲:P.881 - P.885

 抄録:C6-7椎間脊髄症の手術例20例の神経学的症候と脊柱因子の特徴を検討した.それらは同一期間の頸椎症性脊髄症手術例の4%に過ぎなかった.上肢の他覚所見はC5-6椎間例と区別のつかないC5-6椎間脊髄症型(A型),上腕三頭筋の腱反射低下とHoffmann徴候陰性,上腕三頭筋筋力低下,小指あるいは前腕・上腕尺側の知覚障害を呈するC6-7椎間固有型(B型),上肢に異常所見が認められない胸部脊髄症型(C型)の3型と,それぞれの混合型のA-B型,B-C型の2型に分けられた.C6-7椎問固有型(B型)あるいはB-C型の所見を呈し,高位診断でC6-7椎間脊髄症と診断が可能な例が40%であり,A-B型の所見を呈しC6-7椎間脊髄症が疑われる例が25%であった.残りはC5-6椎間脊髄症,胸部脊髄症と区別がつかない例で,それぞれ25%,10%であった.発症の脊柱因子は椎間板ヘルニアが大半を占め(70%),発育的脊柱管狭窄,分節型OPLLが30%にみられた.

高齢者の腰曲がり歩行と腰椎アライメント

著者: 大川淳 ,   請川洋 ,   宮沢あかね ,   中井修 ,   山浦伊裟吉

ページ範囲:P.887 - P.893

 抄録:一般高齢者の腰曲がり歩行と腰椎アライメントの関係を知ることを目的に,老人ホーム入所者203名(平均年齢77.8歳)を直接検診し,腰曲がり歩行の重症度を4段階で評価,同時にJOAスコアによりADL障害の程度を調査した.自作した骨盤支持フレーム下に撮影した立位胸腰椎X線像から,腰椎前轡角・可動域・仙骨傾斜角・胸腰移行部後彎角・胸椎後彎頂椎を計測し,腰曲がり症状の重症度と比較した.
 腰曲がり歩行の重症化とともに,JOAスコアが低値となり,ADL障害をもたらしていた.重症なほど腰椎は垂直化し可動域も低下,仙骨は代償性に後傾していたが,仙骨岬角とは無関係であった.胸腰移行部後彎角は増大,胸椎後彎頂椎も低位化していた、高齢者の腰曲がり歩行はADL障害をもたらすが,その重症化は腰椎柱の垂直化と密接な関係があった.

骨盤部悪性骨腫瘍に対する寛骨臼を含めた切除及びその再建術

著者: 徳海裕史 ,   土屋弘行 ,   高木泰孝 ,   勝尾信一 ,   坪田聡 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.895 - P.899

 抄録:寛骨臼の切除を必要とした骨盤部悪性骨腫瘍10例の切除及び再建方法について検討した.平均経過観察期間は28ヵ月であり,1例のみ脊椎転移により1年4ヵ月でDODであったが,他9例では2例がNED,7例がCDFであり,局所再発も1例のみで,経過良好であった.しかし生存中の9例におけるEnnekingの機能評価ではgoodが2例,fairが4例,poorが3例と成績不良であった.また合併症は感染を4例と高率に認めた.
 寛骨臼切除後の再建術には様々な方法がある.今回それぞれの再建術の利点,欠点を考慮して再建術の選択肢を作成した.関節固定術は若年者で切除後の脚長差があまり生じない症例に,autoclaved autograft+THAは骨硬化性病変に,allogrfat+THAは溶骨性病変で入手が可能な場合に,腫瘍用制御型人工関節は早期離床の必要な高齢者や癌骨転移例に用いることが望ましいと考えられた.

股関節の新しい適合性指数の検討

著者: 冨岡正雄 ,   矢野悟 ,   橋本規 ,   木村真二

ページ範囲:P.901 - P.904

 抄録:股関節のX線学的評価には臼蓋の被覆に関しては様々な方法があるが,適合性に関しては適当な方法がみあたらない.今回我々は,大腿骨頭と臼蓋荷重部が作り出す2つの円を用いて股関節の適合性を定量化することを検討した.
 計測した症例は男性8例15関節,女性76例137関節で年齢は平均39.5歳である.これを正常群と異常群に分け比較検討した.従来から知られるSharp角,CE角,teardrop distance,Sourcil傾斜角に関しては2群の間に有意差がみられた.これに対し適合性のパラメーターとして大腿骨頭と臼蓋荷重部からデジタイザーを用いて2つの円を描き出しその中心間距離と半径の比を求めた.やはり2群間には有意差がみられた.異常群の中には被覆は良好でも適合性の悪い症例もあり,適合性を定量化し検討することは重要であることがわかった.

境界領域

reverse radial forearm flapの長期間観察例の血行動態

著者: 広瀬和哉 ,   石井清一 ,   薄井正道 ,   青木光広 ,   水口守 ,   山村恵

ページ範囲:P.905 - P.909

 抄録:手部の皮膚欠損再建に対して6症例に,橈骨動脈と伴走静脈を含めた皮弁を起こし,血管の末梢側を茎部とし末梢側に反転するreverse radial forearm flapを行った.本皮弁は逆行性皮弁のため静脈還流不全に陥り易く,そのため皮弁の鬱血,腫脹まれに壊死を起こすことがある.今回我々は,レーザー血流計とサーモグラフィーを用いて10ヵ月以上(平均4年3ヵ月)経過した症例につき調べた.結果は2.8歳の術後5年経過した症例のみが,血流量および皮膚温ともに正常に回復していた,他の症例については正常に回復しておらず,本皮弁には静脈還流不全によると思われる血行不全が存在した.また,この血行不全は若年者を除いて,術後5年以上は継続すると思われた.橈骨動脈を犠牲にすることによる橈側手指の血行不全は認めなかった.

慢性関節リウマチ患者の橈骨骨密度

著者: 豊田敬 ,   井口傑 ,   斉藤聖二 ,   堀江康夫 ,   富田勧

ページ範囲:P.911 - P.915

 抄録:慢性関節リウマチ(以下RA)患者34例および健常人40例の橈骨骨密度をdual energy X-ray absorptiometryにより測定し,骨密度に影響を及ぼす各因子について検討した.RA患者の橈骨骨密度は50から60歳代で最も低下しており,70歳代で健常人に近づく傾向が見られた.また握力・RAの活動性指数との相関を認め,stage III・IVの症例で有意に低下していた.橈骨の部位別では,RAの活動性指数が高値なほど遠位により強い骨密度の低下を認めるのに対し,握力の低下にともなう骨密度低下では部位間の差はなかった.また,RA患者の約半数で,骨代謝パラメーターが異常高値を示した.以上の結果から,RA患者の橈骨の骨萎縮には,炎症・廃用などの局所的な因子や,閉経後の骨粗鬆症,二次性副甲状腺機能亢進症も影響しており,部位別でみると炎症の影響はより遠位に,廃用の影響は骨幹部にまで及んでいると考えられた.

整形外科を育てた人達 第117回

佐藤孝三教授(1913-1993)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.916 - P.917

 佐藤孝三先生は平成5年1月3日逝去された.先生のお生まれは大正2年10月27日であったので79歳で亡くなられた.数年前から杖をついて歩いておられたので体力が衰えられたかと心配していたが,遂に亡くなられてしまった,佐藤孝三教授の功績を是非伝えたいと思い,佐藤先生の夫人佐藤智恵様と鳥山教授にお願いして資料を集めていただき,この伝記をまとめた.お二人の御好意に感謝すると共に,亡くなった夫を思い,恩師を慕うお気持ちに目頭を熱くして原稿を書いた.

整形外科英語ア・ラ・カルト・13

“hand”に関する日常英会語・その2

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.918 - P.919

 前回は“hand”に関する日常英会語の“その1”として,“hand”のラテン語である“manus”に関して,よく用いられる英語を述べた.今回も“manus”を語根とした言葉であるが,医学に関係した興味深い言葉も含めて紹介したい.

臨床経験

手根骨長軸脱臼・橈側型の2例―その受傷機転についての検討

著者: 笠原悌司 ,   松原保 ,   圓井芳晴 ,   増田純男 ,   平野彰一 ,   今井克己 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.921 - P.924

 抄録:手根骨長軸脱臼・橈側型の2例を経験したが,2例ともオートバイ走行中にブレーキレバーを握ったまま車と衝突する,共通の手の肢位が見られたので,その受傷機転について検討した.症例1は23歳,男性.単純X線にて右大菱形骨粉砕骨折と第1中手骨脱臼を認めた.症例2は,44歳,男性,単純X線にて右小菱形骨と第2中手骨が一体となって,背側中枢に脱臼していた.手根骨長軸脱臼は従来,プレス等の圧挫や捻転力によって起こるとされていたが,受傷機転のひとつとしてブレーキレバーを握り締める手の肢位から,CM関節が安定状態で固定されると,中手骨末梢長軸方向からの介達外力によっても起こることが考えられた.

胸郭出口症候群として初療された胸椎部脊髄くも膜嚢腫の1例

著者: 澤泉卓哉 ,   白井康正 ,   宮本雅史 ,   橋口宏 ,   深井靖雄

ページ範囲:P.925 - P.928

 抄録:初発症状にて胸郭出口症候群を疑わせた脊髄くも膜嚢腫の1例を経験したので報告する.症例は18歳の女性で主訴は左上肢のしびれ感と疼痛及び左手握力低下であった.初診時Morleyテスト・Wrightテスト・Roosテスト等が陽性で頸椎部のMRIが正常のため,胸郭出口症候群の疑いにて外来通院となったが,軽快しないため再度胸椎部のMRIを施行したところ背側のくも膜下腔に異常を指摘され精査目的にて入院となった.入院時の所見は握力は左5KgでC4からTh1までの異常知覚を認めるのみであったが,入院中Th7までの知覚鈍麻と背部痛が出現した.脊髄造影,CTMでも異常を認め,脊髄くも膜嚢腫の診断にて手術を施行した.術後症状は急激に改善した.本症の症状発現機序については牽引説,重量説など諸説あるが,本症例では嚢腫より頭側にあったことより下位頸髄の背側での圧迫とTengの述べる牽引説とが重なり合って上肢の症状が発現したものと考えられた.

妊娠,分娩が関与したGrisel症候群の1手術例

著者: 田中信弘 ,   久保田政臣 ,   大石二郎 ,   加藤誓 ,   平尾健 ,   杉村功

ページ範囲:P.929 - P.932

 抄録:Grisel症候群に起因する環軸関節脱臼の1手術例を経験したので報告する.患者は30歳,女性.妊娠7カ月目の平成3年3月7日,中耳炎,咽喉頭炎の発症と同時に,頸部痛,斜頸を生じた.同年6月5日,出産したが,その1週間前より頸部痛が増悪し,産後1週目より脊髄症状を来した.その後も脊髄症状は急激に増悪し,X線写真で高度の環軸関節脱臼を認めたため,脱臼を整復した後,7月24日,後方固定術を施行した.本例は出産1週間前より,愁訴の増悪と脱臼の進行が見られた事より,妊娠,分娩と関連があると考えた.

頸椎黄色靱帯石灰化症のCT像と症状の関連について

著者: 渡部亘 ,   佐藤光三 ,   阿部栄二 ,   坂本仁 ,   片岡洋一 ,   山本正洋 ,   谷脇雅之 ,   斉藤一

ページ範囲:P.933 - P.936

 抄録:頸椎黄色靱帯石灰化症(以下CYLと略)のうちCTで評価し得た例について石灰化巣の大きさと症状との関係について調べた.対象は,CYLと診断しCTを撮影した例のうち,後縦靱帯骨化や明らかな椎間板ヘルニアなどの合併例を除いた10例である.Plain CTにおける石灰化巣や脊柱管の断面積,石灰化巣の突出の程度をコンピューターに接続したデジタイザーと面積計算ソフトを用いて計算し,それぞれ占拠率,突出率として表した.石灰化巣の突出率が30%を越える例では上肢の知覚異常や頸髄症などの神経症状を呈していた.また,保存的に治療し症状の改善が得られた例では突出率も減少していた.石灰化巣の断面が球状や結節状を呈するものは脊柱管内への突出の程度が強く,症状の発現に関与するものと思われた.占拠率と症状との関連性はやや低かった.

上腕三頭筋長頭拘縮の1例

著者: 有山信三 ,   小野浩史 ,   矢島弘嗣 ,   尾崎二郎 ,   玉井進

ページ範囲:P.937 - P.940

 抄録:上腕三頭筋長頭拘縮による上肢挙上制限の1例を経験した.症例は37歳の女性で,幼少時より右上肢の挙上制限を自覚しており,日常生活では結髪動作が困難であった.疼痛はなかった,初診時,上肢前方挙上,側方挙上とも制限され,とくに,肘関節屈曲位での上肢挙上が著しく制限されていたが,筋力,知覚などは正常であった.上腕三頭筋長頭はその起始部から約8cmにわたり索状化しており,これが上肢挙上制限の原因となっていた.この上腕三頭筋長頭の索状部分とその深部の広背筋膜の切離を併せて施行することにより上肢挙上制限は改善しえた.本症は幼少時より症状が存在しており,手術時所見,病理所見から胸鎖乳突筋の瘢痕化による先天性筋性斜頸と類似した病態と考えた.

指間部に発生したグロームス腫瘍の1例

著者: 中村宏 ,   平野典和 ,   松野博明 ,   山本直也 ,   酒井清司

ページ範囲:P.941 - P.943

 抄録:指間部に発生したグロームス腫瘍の1例を報告した.症例は50歳男性で,圧迫・寒冷等により増強する左母指・示指間の疼痛を主訴とし,局所に周囲組織との癒着のない小腫瘤が存在し,静脈圧迫により明瞭になった.X線上骨の変化はなく,CTにて境界明瞭な腫瘤陰影,T1強調MRIで低信号,T2強調像で高信号を示した.病理組織学的にvascular typeのグロームス腫瘍で,術後1年4ヵ月後再発はない.

腰椎黄色靱帯石灰化症の1例

著者: 牟田實 ,   簗瀬光宏 ,   川内義久 ,   米和徳 ,   酒匂崇

ページ範囲:P.945 - P.948

 抄録:腰椎黄色靱帯石灰化巣により神経根症状を呈した症例を経験したので報告した.症例は65歳女性で主訴は腰痛および両下肢痛であった.手術にてチョーク状の黄色靱帯石灰化腫瘤による両側L5神経根の圧迫を認め,摘出した.組織学的には変性消失した弾性線維がmucoid変性を伴う軟骨様基質で置換され,特殊染色にて同部位に石灰化巣を認めた.また本症例では両側膝関節外側半月板および胸椎黄色靱帯石灰化を認め,その発生機序において全身的因子の存在が示唆された.

殿部の深部組織より発生した血管平滑筋腫の1症例

著者: 八木正義 ,   鵜飼和浩 ,   森本一男 ,   木崎智彦 ,   指方輝正

ページ範囲:P.949 - P.953

 抄録:血管平滑筋腫は稀な腫瘍ではないが,その大部分は皮膚および皮下発生であり,深部組織よりの発生は稀である.今回我々は殿部の深部組織より発生した血管平滑筋腫を経験したので報告する.症例は28歳女性,6年前より左殿部に手拳大の腫瘤があるのに気付くも放置,以後徐々に腫瘤は増大し正坐困難となる.受診時腫瘍は小児頭大,弾性硬,境界明瞭で,画像診断上坐骨直腸窩より発生したものと思われ,血管に富んだ腫瘍であった,摘出腫瘍は最大20cmの径を有し1200gで,組織学的には血管平滑筋腫であった.術後3年の現在再発なく症状もない.
 現在まで深部組織より発生した血管平滑筋腫は9例の報告例が散見されるが,皮膚および皮下発生例では2cm以下がほとんどであるのに対して深部発生例では比較的大きな腫瘤を呈することが多い.また現在より使用されているEnzingerによる平滑筋腫の分類では深部血管平滑筋腫の記載はなく,今後検討する必要があると思われる.

橈骨頭脱臼と遠位橈尺関節脱臼を合併した1例

著者: 鈴木孝宏 ,   古屋公之 ,   長岡正宏 ,   佐藤勤也

ページ範囲:P.955 - P.957

 抄録:きわめて稀な橈骨頭前方脱臼と遠位橈尺関節脱臼を合併した1例を経験した.症例は17歳,男性.オートバイ走行中の転倒事故で受傷し,前腕部に挫創および変形を認めた.単純X線上,橈骨頭前方脱臼と尺骨頭長軸・背側脱臼を認めたが,両前腕骨に骨折はなかった.橈骨頭前方脱臼は,橈骨頭を後方へ押し込む操作により容易に整復され,同時に遠位橈尺関節脱臼も整復位となった.遠位橈尺関節は経皮鋼線固定としたが,橈骨頭は整復位で安定していたため内固定は行わなかった.受傷機転は,前腕回内位で手をついて転倒したため,肘関節が過伸展を強制され,尺骨が支点となり橈骨を持ち上げ,同時に上腕二頭筋の収縮力が働いて橈骨頭前方脱臼が生じたと考えた.一方,遠位橈尺関節脱臼は,手関節背屈位で回内を強制され,尺骨頭が背側へ脱臼し,さらに,橈骨頭に前方脱臼も生じたため軸圧力が加わり長軸方向へも脱臼したと推測した.

線維肉腫を伴った隆起性皮膚線維肉腫の1例―病理組織学的所見

著者: 西孝之 ,   吉田春彦 ,   井藤久雄 ,   山本吉藏

ページ範囲:P.959 - P.961

 抄録:隆起性皮膚線維肉腫(dermatofibrosarcoma protuberans,以下DFSP)は中間悪性群の腫瘍である.本例の線維肉腫(fibrosarcoma,以下FS)像を伴ったDFSPは,その組織発生を考察する上で示唆に富むものである.症例は54歳,女性.主訴は左肩軟部腫瘤である.1980年,1986年に近医にて摘出術を受け,1992年2月に2回目の再発をし,術後化学療法を行うも,5月に3回目の再発を来した.2回目再発の腫瘍はbimorphic patternを呈し,FS領域70%,DFSP領域30%に分けられ,DFSP with FSと診断した、FS領域はDFSP領域に比較し,細胞密度,分裂像など悪性度が高く,PCNAおよびAgNORsでも増殖能に違いがみられた.3回目の再発腫瘍では,FS領域が100%を占め,肺転移を認めた.臨床的にもDFSP with FSは,通常型DFSPに比較し,再発率および悪性度が高く,原発はもとより再発腫瘍においてもFS領域の有無に注意すべきである.

8年後に腰椎前方固定術を施行したキモパパイン注入療法の1例

著者: 森永達夫 ,   北原宏 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   土田豊実 ,   豊根知明 ,   相庭温臣 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.963 - P.965

 抄録:今回我々は,キモパパイン注入療法後約8年経過した後,腰椎前方固定術を施行した症例を経験した.症例は27歳男性.主訴は腰痛および左下肢痛.昭和59年10月,L4/5間腰椎椎間板ヘルニアに対しキモパパイン注入療法施行.JOA scoreは注入前14点から注入後25点に改善.職業が重労働であるため残存する腰痛に対し,平成4年7月,腰椎前方固定術を施行.単純X線上椎間間隙は,注入後約3カ月で最も狭小化した後徐々に拡大し,約3年で回復したが,その後8年まで変化がみられなかった.ミエログラフィーでは,明らかなヘルニア腫瘤の縮小が認められた.MRI上T2強調像では,注入後6カ月で最も輝度低下を示し,注入後3年までに回復がみられるが,注入前の信号強度までには戻っていない.組織学的には,chondrocyte like cellによるproteoglycanの産生と,再構築した椎間板組織が認められた.

胸骨骨破壊を初発症状としたホジキン病の1例

著者: 木下知明 ,   舘崎慎一郎 ,   熊谷匡也 ,   佐藤哲造 ,   六角智之 ,   山口潔 ,   高木敏之 ,   小松悌介 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.967 - P.970

 抄録:前胸部腫瘤を伴う胸骨骨破壊を初発症状とした結節硬化型ホジキン病の1例を経験した.症例は33歳,男性.1991年12月,飲酒中に前胸部の不快感を自覚し同部の腫張に気付いた.抗生剤と抗炎症剤を服用するも軽快せず,徐々に腫脹が増大したため1992年4月当科を紹介された.初診時,胸骨角右側に鶏卵大の腫瘤がみられた.全身状態は良好で表在リンパ節は触れなかった.血液検査では炎症所見が著明であり,左腸骨骨髄生検では顆粒球過形成がみられた.断層X線像では胸骨柄に虫食い状の骨破壊がみられ,CT,MRIでは胸骨の前方と後方に骨外軟部病変がみられた.生検で悪性腫瘍が疑われたが,同年5月,右鎖骨上にリンパ節が触知されるようになり,同部の生検で結節硬化型ホジキン病と診断された.本症例では炎症性骨疾患との鑑別が困難であったが,炎症所見の強い骨破壊病変の診断には,ホジキン病を含めた悪性リンパ腫の存在が念頭におかれるべきである.

嚥下障害をきたし手術を行なった強直性脊椎骨増殖症の3例

著者: 勝木雅俊 ,   竹光義治 ,   岩原敏人 ,   加茂裕樹

ページ範囲:P.971 - P.974

 抄録:強直性脊椎骨増殖症(Ankylosing Spinal Hyperostosis,Forestier病:以下,ASH)は,脊柱の前縦靱帯を中心に広範な骨化をきたし,脊柱の強直を起こす疾患である.頸椎に著明なASHがあると,それにより嚥下障害をきたすことはこれまでも少数であるが報告されてきた.我々は,嚥下障害をきたし手術を行なった3例のASHを経験した.性別は男性2例,女性1例,年齢は55歳,61歳,および68歳であった.手術方法は第1例においては両側の胸鎖乳突筋前縁に沿う皮切により侵入し,骨化部を切除した.本症例においてはこの骨片を頸椎前方固定術に利用した.他の2例は左胸鎖乳突筋に沿う皮切により侵入し骨化を切除した.全例とも術後嚥下障害は改善した.

恥骨と腸骨にinsufficiency fractureを起こした慢性関節リウマチの1例

著者: 大沼信一 ,   菊地俊彦 ,   江畑公仁男 ,   荻野正明

ページ範囲:P.975 - P.978

 抄録:症例は71歳,女性で,1977年に発症した慢性関節リウマチ患者である.1980年よりシオゾールを投与しコントロール良好であったが,1985年12月より全身の関節痛が増悪し,1986年10月よりプレドニン5mgを投与していた.1988年3月より右股関節痛が強く,歩行困難となったため4月に入院した.入院時の骨盤X線写真で異常を認めなかったが,入院70日後のX線写真で右恥骨の骨融解像と左腸骨の骨折線をみ,入院100日後で左腸骨は縦に離解し,骨盤の変形をきたした.骨盤CT検査で右恥骨,左腸骨とも骨折と診断され,骨腫瘍の可能性は骨生検により否定された.疼痛は軽快し,通院加療となったが,1989年10月には左腸骨々折部周囲の骨硬化像と著明な変形を認めた.腸骨中央部のinsufficiency fractureの報告は稀であり,若干の考察を加え報告した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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