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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科28巻9号

1993年09月発行

雑誌目次

視座

医師はいつから自分の“腕”を信じなくなったのか

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.981 - P.982

 医の本質は,ヒポクラテスの時代から「アート」と言われている.特にphysical signsを含む診断や相互信頼に基づく,個々の患者さんに応じた治療法の選択にその印象が深い.しかし,最近この誇りに満ちた言葉が根底から崩れつつあるのではないかと危惧される事実を幾つか見聞した.医療への信頼回復が叫ばれている昨今,我々に最も求められているのは,このヒポクラテス時代からの「医の本質はアートである」ということへの回帰ではないだろうか.幾つか私が見聞した具体例を記してみる.
 最初の事例は,内科に関する話である.発熱と頭痛と咳を主訴として来院した患者さんに対して,医師は頭のCTを指示した.しかし,この患者さんは肺炎だったのである.咳をみたら研修医は癌を考え,経験豊かな医者は風邪を考えるという.このエピソードはそれすらも視野の中には入っておらず,私の理解を越えている.

論述

Transpedicular Screw法による腰椎・腰仙椎多椎間固定―Isola Spinal Implant Systemの応用

著者: 鐙邦芳 ,   金田清志 ,   佐藤栄修 ,   伊藤肇

ページ範囲:P.983 - P.991

 抄録:変性辷り症,変性側彎症,分離辷り症などの腰椎変性疾患や後側方固定後偽関節など42例の腰椎・腰仙椎の多椎間固定に,Isola spinal implant systemのtranspedicular screw法を採用した.うち28例は仙椎を含めた固定であった.2椎間固定が29例,3椎間以上の固定が13例であった.脊椎腫瘍の1例に前方から,破壊性脊椎関節症1例と破裂骨折1例の計2例に後方から椎体置換したが,その他は後側方固定のみであった.臨床症状の改善は良好であった.側彎変形の矯正は良好で,腰椎の生理的前彎も獲得された.骨癒合率は95%で,2例の偽関節は,いずれも腰仙椎固定例のL5/S1椎間であった.手術による神経根障害の発現や悪化はなかった.スクリュー/ロッド間の連結に自由度が大きいIsola spinal systemは,側彎や回旋変形を伴う腰椎・腰仙椎の多椎間固定においても,安全・確実なsegmental fixationを可能にした.

頸部脊柱管拡大術施行例における術中超音波診断の検討

著者: 山崎正志 ,   小林健一 ,   清水耕 ,   大河昭彦 ,   金民世 ,   坂巻皓 ,   松岡明 ,   望月真人

ページ範囲:P.993 - P.999

 抄録:頸部脊柱管拡大術施行例33例の術中超音波診断における脊髄形態および脊髄動態所見を解析し,CT-myelography(以下CTM)と併用して頸髄症の治療予後の予測を試みた.術中超音波診断による矢状面脊髄形態は,脊髄前・後方に陥凹が残存するA型,脊髄前方に陥凹が残存するC型,脊髄の復元を示すN型に分類された.術前CTMで脊髄面積20mm2未満の例では術後改善率小,脊髄面積20mm2以上の例についてはN型で術後改善率大,A型で術後改善率小とほぼ一定の予後予測が可能であった.術後成績良好例と不良例が混在するC型では脊髄前方圧迫要素の評価が問題となり,脊髄動態所見の解析も加えて合併手術の適応について検討する必要があった.以上のように,術中超音波診断と術前CTMの併用により頸髄症の治療予後をより的確に予測することが可能となった.また,合併手術の適応決定に際しても術中超音波診断は有力な情報を提供し得ると考えられた.

人工膝関節全置換術における自己血輸血―洗浄式術後回収式自己血輸血

著者: 冨士武史 ,   加藤泰司 ,   宮本隆司 ,   恵島之彦 ,   小泉寿章 ,   三岡智規 ,   三橋浩 ,   増原建作 ,   廣田茂明

ページ範囲:P.1001 - P.1007

 抄録:セメントレス人工膝関節全置換術にPAT・バック®による術後ドレーン血の回収と,ヘモライト2®による回収血の濃縮・洗浄を行う洗浄式術後回収式自己血輸血を行った.回収群51膝,非回収群25膝について術後出血量,同種血輸血量,無同種血輸血で手術を行いえた手術数を比較した.セメント人工膝関節62膝とも比較検討を行った.貯血は回収群の19.6%,非回収群の56%,セメント群の17.7%で行った.回収群では術後出血量1230mlに対して平均60mlの同種血輸血を要し,無同種血輸血手術は82%で行いえた.非回収群では術後出血量1250mlに対して平均340mlの同種血輸血を要し,無同種血輸血手術は48%であった.セメント群では術後出血量920mlに対して平均160mlの同種血輸血を要したが,無同種血輸血で手術を行いえた症例は40%しかなかった.洗浄式術後回収式自己血輸血は人工膝関節全置換術における同種血輸血回避に非常に有効であった.

成人Monteggia骨折の治療成績

著者: 笠島俊彦 ,   加藤博之 ,   鐙邦芳

ページ範囲:P.1009 - P.1016

 抄録:新鮮成人Monteggia骨折8例について検討した.Bado分類では,type I 5例,type III 1例,type IV 2例であった.橈骨神経麻痺を4例に合併した.経過観察時に,肘関節と前腕の可動域を測定し,愁訴の程度を尋ね,総合成績をWheelerの基準で評価した.全例に尺骨あるいは橈骨の骨接合術を行った.2例が偽関節となり骨移植を追加し,骨癒合を得た.橈骨頭の観血的整復を要した例は3例であった.橈骨頭の再脱臼を認めた例はなかった.総合成績はexcellent 3例,good 1例,fair 4例であった.type Iの5例は1例を除いてexcellentかgoodであり,成績は良好であった.type IIIあるいはIVの3例は橈骨頭に観血的整復を要し,前腕可動域制限が残存して,成績はいずれもfairであった.術後の固定肢位を最大回外位にした症例では回内制限が残存した.固定肢位は軽度回外位が優れていた.橈骨神経麻痺は3例が自然回復し,1例は軽度の麻痺が残存した.

足関節新鮮外側側副靱帯損傷―手術療法と保存療法の比較

著者: 岡本哲軌 ,   岩原敏人 ,   保田雅憲 ,   小林徹也

ページ範囲:P.1017 - P.1021

 抄録:1988年9月より当科で治療した足関節新鮮外側側副靱帯損傷65例のうち6ヵ月以上経過観察しえた64例に対する手術療法,保存療法の成績を比較検討した.初診時ストレスX線距骨傾斜角(以下TTと略す)左右差と治療法により,TT左右差10゜以上手術療法(10≦OPE群)28例,保存療法(10≦CAST群)11例,TT左右差5゜以上10゜未満手術療法(5≦OPE群)7例,保存療法(5≦CAST群)18例の4群に分けた.原則として,手術療法は断裂靱帯の一次修復の後4週間の外固定,保存療法は4週間の外固定とし,いずれも後半2週間は荷重を許可した.古屋らの臨床成績評価では4群間に有意差を認めず,4群のTT左右差は治療後に有意に改善した.保存療法例の中に不安定性の改善のほとんど得られない症例があったが,調査時TT左右差5゜以上の不良例(10例)の臨床成績は良好であった.5≦OPE群に正座困難例が最も多く認められた.6ヵ月の経過観察では,保存療法に比較して手術療法に優れた点は見いだせなかった.

外傷後脊髄空洞症

著者: 藤原桂樹 ,   浅野雅敏 ,   米延策雄 ,   廣島和夫

ページ範囲:P.1023 - P.1028

 抄録:外傷後脊髄空洞症の臨床症状,画像所見,手術成績,病理組織像を検討した.発生頻度はMRIを施行した脊髄損傷156例中10例,6.4%である.解離性知覚障害,上肢の髄節性運動麻痺など典型的な神経症状は4例にみられたにすぎず,残る6例はしびれ感の増強のみ,もしくは無症状であった.MRIでは5例に骨傷高位およびその近傍にT1強調画像で脊髄腫大を伴う境界不明瞭な斑状の低信号域がみられた.この領域はdelayed CT-myelographyで脊髄内へ造影剤が一様に取り込まれ,組織学的にはglia細胞の増殖を伴うmicrocavityが白質内に散見された.治療は4例にsyrinx-subarachnoid shunt術を施行した.手術結果から,空洞内圧が高く術後空洞縮小,神経症状の改善が著明な緊張性空洞症と,空洞内圧が低く空洞縮小,神経症状の改善がわずかな非緊張性空洞症に分類された.両者の鑑別にはT2強調画像でのflow-void signの有無が有効な指標となる.

検査法

手関節のMRI画像―高速スキャン法と脂肪抑制撮像法

著者: 中村俊康 ,   矢部裕 ,   堀内行雄 ,   内西兼一郎 ,   志賀逸夫

ページ範囲:P.1029 - P.1035

 抄録:今回,spin echo法と高速scan法,水脂肪分離撮像法を用いて手関節の撮像を行い,通常の撮像法を含めて比較検討した.正常手関節ならびに舟状骨骨折,Kienbock病,TFCC損傷等を対象とした.撮像装置は1.5T超伝導MRIを用い,spin echo法T1強調画像,spoiled GRASS法,fast spin echo法T2強調像,chemical saturation法脂肪抑制画像の撮像を行った.正常手関節像における骨皮質は各撮像法で低信号を呈し,髄腔は高信号を呈した.TFCCはspin echo法,fast spin echo法で等~低信号,spoiled GRASS法ではほぼ等信号であった.脂肪抑制画像では髄腔が低信号,関節軟骨は高信号どなり,TFCCはより低信号を呈した.疾患群では脂肪抑制法の描出性が優れていた.高速scan法は撮像時間が短いにも関わらず,良好な画像が得られた.脂肪抑制画像は硝子軟骨の描出に優れ,線維軟骨との違いを描出することができた.

整形外科を育てた人達 第118回

William Hey(1736-1819)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1036 - P.1037

 私は整形外科を学び始めた頃から,膝関節の障害にderangementという用語を用いていたが,誰がこの用語を考え出したか考えてもいなかった.私がこの整形外科を育てた人達の伝記シリーズを書き続けて多くの文献を調べている間に,200年以上の昔にWilliam Heyがこの用語を用いたことを知った.そこで,William Heyの伝記を探し求めていたが,最近になってやっと資料を見出したので,これを紹介することにした.

整形外科英語ア・ラ・カルト・14

“hand”に関する日常英会話・その3

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1038 - P.1039

 “hand”に関する日常英会話として,“manus”についての英語を2回にわたり述べた.今回は,“hand”に関する言葉について書きたい.“hand”の発音は,日本語の「ハンド」とは違い,むしろ“ヘンド”の音に近く.勿論最後の“ド”(do)の母音の“o”の発音はしない.“hand”には日本語における「手」の意味と同じく,「筆跡」や遊戯のトランプや麻雀の「手のうち」を意味することもある.“He writes a good hand.”とは「彼は字が非常に上手である」のことである.“読み易い筆跡”を“a legible hand”という.“legible”(レジブル)とは,ラテン語の読むを意味する“legere”(レゲーレ)に由来する.勿論,“read”の派生語“readable”も使うことが出来る.
 今回は名詞の“hand”と形容詞の“―handed”を中心に,興味ある言葉を述べてみたい.

臨床経験

腰椎変性すべり症に対するpedicle screw法を用いた後方椎体間固定術の手術成績

著者: 奥山幸一郎 ,   阿部栄二 ,   佐藤光三 ,   千葉光穂 ,   山本正洋 ,   水谷羊一

ページ範囲:P.1041 - P.1044

 抄録:pedicle screw法(以下PS法)を用いた後方椎体間固定術(以下PLIF)は強力な矯正力と固定性を有しており,腰椎変性すべり症に対しても優れた内固定法である.今回はその治療成績について検討した.症例は26例(男性7例,女性19例)で,手術時年齢は42~73歳(平均58歳)である,すべり椎間はL4/5が24例,L3/4が2例で,1椎間固定25例,2椎間固定1例であった.術後経過観察期間は平均1年(6ヵ月から2年)であった.術中出血量は平均723cc,手術時間は平均5.2時間であった.手術成績では,JOA scoreが術前平均10.8点から術後21.3点になり,Boxall法による前屈位での%slipは術前平均23.3%が術後9.8%に,slip angleは術前平均9.6゜が術後1.2゜に整復された.26例中25例(91%)に骨癒合を認めた.合併症では一過性の神経根障害を2例に認めた.Pedicle screw法を用いたPLIFは最小限の固定範囲で強固な内固定が得られ,術中の除圧も徹底して行うことができた.

腰椎骨巨細胞腫の手術経験

著者: 夫徳秀 ,   谷口睦 ,   松本学 ,   大塚誠治 ,   岩田康男 ,   木下厳太郎 ,   別所康生 ,   佐竹一彦 ,   青木康夫 ,   圓尾宗司

ページ範囲:P.1045 - P.1049

 抄録:我々は腰椎に発生した骨巨細胞腫の2例を経験した.[症例1]28歳,女性.第3腰椎骨巨細胞腫.術前にカルチトニン療法,embolization行いL2-L4の金田式前方固定術施行.2期的に後方より片側椎弓切除・腫瘍摘出・後側方固定術を行った.[症例2]48歳,女性.第5腰椎骨巨細胞腫.前方から腫瘍摘出・骨移植術を行い,2期的に後方からL5椎弓切除,腫瘍摘出し,pedicular screwing・後側方固定術を行った.2例共に術後,神経症状は改善し経過良好である.また,カルチトニン投与後の光顕所見で,巨細胞の小型化,核の減少,shadow化,間質の粗造化を認めた.さらに,電顕所見でミトコンドリアの膨化とrough-ER内腔の拡張を認め,カルチトニン投与の効果が示唆された.
 前・後方からの腫瘍摘出,充分な骨移植と強固な内固定術の併用により短期間ではあるが,良好な成績が得られた.

多発性骨癒合症の1例

著者: 二井英二 ,   小保方浩一 ,   矢田浩 ,   原親弘 ,   荻原義郎 ,   山崎征治

ページ範囲:P.1051 - P.1054

 抄録:多発性骨癒合症は,指骨,手根骨,足根骨,肘関節などに骨癒合のみられる比較的稀な先天性奇形の総称である.今回,我々は,特異な顔貌,手根骨および足根骨癒合,股関節脱臼,側彎,難聴,精神発達遅滞などを伴った多発性骨癒合症と思われる1例を経験したので報告した.多発性骨癒合症は,欧米では約40例,本邦では18例の報告がみられるが,癒合骨の部位,数は症例ごとに異なっており,多発性骨癒合症と診断するための最低基準に関して,現在のところ定説はなく,若干の混乱がみられている.我々は以前,現在までに報告されている多発性骨癒合症の症状をまとめ,多発性骨癒合症の診断基準を作成し報告している.骨癒合症状を主要症状,その他の合併症状を周辺症状とし,主要症状,周辺症状がそれぞれ2つ以上存在すれば,全身の骨格疾患要素のひとつの表現型と考え,多発性骨癒合症と診断しうるとした.本症例もこの診断基準を満たすものと考え,多発性骨癒合症と診断した.

先天性拘縮性くも指症の2例

著者: 池上晃一 ,   江口壽榮夫 ,   高橋義仁

ページ範囲:P.1055 - P.1057

 抄録:先天性拘縮性くも指症(以下CCAと略す)はBealsによって初めて報告された疾患である.Bealsは拘縮の自然改善(治癒ではない)は多いが,手術的治療を要した症例も報告している.また,諸家の報告でも,本疾患の拘縮の程度,部位にも多様性があることがわかった.今回我々は拘縮の部位,程度,治療経過が異なった2例の先天性拘縮性くも指症を経験し,うち1例には生後間もなく行った保存的治療によく反応した.CCAの治療に一定した見解は出されていないが,早期よりギプス等による保存的治療を行ったほうが,より早期に拘縮の改善,矯正位維持が期待できると考える.

肩関節痛を初発症状とした原発性アミロイドーシスの1症例

著者: 玉田善雄 ,   島津晃

ページ範囲:P.1059 - P.1062

 抄録:アミロイドーシスはアミロイドと呼ばれる異常蛋白が臓器・組織に沈着し機能障害をおこす疾患群で,近年では長期透析患者の骨・関節疾患の一因として注目されている.しかし原発性アミロイドーシスの関節症状の報告は少なく,発現頻度も稀とされている.1例を経験したので報告する.症例は54歳,女性.肩関節の疼痛を主訴に受診し関節内ブロック施行後,関節水腫(shoulder pad sign)が続いた.家族歴,既往歴に特記すべきものはない.鏡視下関節滑膜切除術後,疼痛は軽減したが腹部膨満感,ileus症状などが出現したため開腹術が行われた.しかし,術後2ヵ月半,全身衰弱で死亡した.手術で得られた関節滑膜,胃粘膜にアミロイドの沈着(KMnO4処理コンゴレッド染色に抵抗性:AL typeのアミロイド)が認められた.先行する基礎疾患がなく,尿BJP陽性などより原発性アミロイドーシスと診断した.剖検所見でも全身臓器にアミロイドの沈着が認められた.

同時発生した頸椎過伸展損傷2例の治療経験

著者: 羽場等 ,   鐙邦芳 ,   種市洋 ,   葛城良成 ,   安保裕之 ,   伊藤肇

ページ範囲:P.1063 - P.1066

 抄録:単一事故・同じ受傷機転により,同時に頸椎過伸展損傷をきたし,中心性脊髄損傷を呈した2例の治療を経験した.脊柱管狭窄による脊髄圧迫および椎間不安定性を認めた1例には頸椎後方除圧固定術を,1例には保存的治療を行い,いずれにも良好な脊髄機能の回復を得た.単一事故・受傷機転による同タイプの同時脊髄損傷複数例の発生の報告はなく,きわめて稀である.骨傷のない中心性脊髄損傷であっても,面像診断上脊髄圧迫となる脊柱管狭窄が存在すれば,たとえ急性期であっても観血的治療を考慮すべきである.

当科におけるKOM型人工膝関節の治療成績について

著者: 澤田尚美 ,   多胡秀信 ,   青木喜満 ,   柏崎裕一 ,   冨田文久 ,   酒井俊彦

ページ範囲:P.1067 - P.1071

 抄録:KOM型人工膝関節(京セラ製)はセメントレスのtotal condylar型人工関節で,アルミナの生体親和性による固定性,及び耐摩耗特性を期待され使用されてきた.しかし,これまでの報告では,セメントレス人工膝関節としてのKOM型人工膝関節の成績は報告者により異なる.そこで我々は当科にて昭和62年から平成2年まで施行したKOM型人工膝関節21膝の中期成績について調査した.ほぼ全例にlucent zone及びsinkingを認め,明らかなlooseningをきたした2例に再置換術を行った.アルミナに期待される生体親和性に関しては疑問がもたれ,厳重な適応の選択が必要と考察される.

小児反復性外傷性股関節脱臼の1例

著者: 奥秋裕一 ,   白井康正 ,   石原正博 ,   平沼尚和 ,   城武俊

ページ範囲:P.1073 - P.1075

 抄録:小児の反復性外傷性股関節脱臼は,極めて稀な外傷であるが,今回我々は合計5回の外傷性脱臼を起こした男児を経験した.症例は4歳6ヵ月男児,1988年2月,約1mの高所より転落,歩行不能となり,当科初診,右股関節脱臼の診断のもと徒手整復,4週間のhip spica cast固定を実施した.なお過去3回,右股関節脱臼にて近医で徒手整復を受けている.同年5月,兄とレスリングをしていて,5回目の右股関節脱臼をきたした.徒手整復の後hip spica cast固定を3ヵ月間行なった.造影検査で異常所見はみられなかった.X線像では,coxa magnaを認める以外は正常である.治療の上では,早期の脱臼整復後に一定期間の外固定及び免荷が必要であり,それは少なくとも6週の外固定及び2~3ヵ月の免荷が妥当であると考える.avascular necrosis,変形性変化などの続発症について長期の経過観察が必要である.

頸椎に発生した動脈瘤様骨嚢腫の1例

著者: 松永俊樹 ,   岡田恭司 ,   阿部栄二 ,   吉田澄子 ,   佐藤光三

ページ範囲:P.1077 - P.1081

 抄録:17歳女性の第5頸椎に発生した動脈瘤様骨嚢腫の1例を経験した.本例では単純X線像の嚢腫様陰影,CT像のfluid levelから動脈瘤様骨嚢腫と診断した.初回手術では固定は行わず,可及的掻爬と自家骨移植を行ったところ,約5ヵ月後に再発した.このため再手術時には片側の椎間関節を含め広範に切除し,前方,後方とも固定し,前方にはlocking plate,後方にはワイヤーによる内固定を併用した.術後は28.8Gyの放射線療法を行った.広範な切除を要する脊椎の動脈瘤様骨嚢腫においては,本例のような再建法が有用と思われた.また,術後の放射線療法の併用は,再発例で考慮されるべきであると考えた.

軟部腫瘍との鑑別を要した肋骨骨折による慢性皮下血腫の1例

著者: 津山研一郎 ,   広川容子 ,   石田通暁 ,   植田進一朗

ページ範囲:P.1083 - P.1085

 抄録:肋骨骨折による慢性皮下血腫のため,あたかも軟部腫瘍であるかのような外観を呈した1症例を経験した.症例は65歳男性で,胸部打撲の4カ月後に背部腫瘤に気付き来院した.単純X線CT,MRIから肋骨骨折による慢性皮下血腫が最も疑われたが,軟部腫瘍も否定できなかった.試験穿刺で血性漿液が排液され,診断の確定が得られるとともに,治癒に導くことができた.

骨肉腫予後不良例の検討

著者: 五十嵐純夫 ,   井須和男 ,   姥山勇二 ,   山脇慎也

ページ範囲:P.1087 - P.1091

 抄録:術前,術後の強力な系統的化学療法の導入とその強化により当科における骨肉腫の10年生存率は約65%にまで向上したが,残る35%は治療に抵抗し予後不良である.当科で化学療法がより強力に施行されてきた1979~1988年の10年間における死亡例23例について,臨床像及び剖検所見から検討した.臨床的に死亡の形式は大きく二つのパターンがみられた.肺転移が主原因と考えられた群(group I)と,肺転移を有するが他の因子が死亡に際し大きく関与したと考えられた群(group II)である.group I(13例)では,多発散在性の肺転移が6例,少数結節性が7例であり,group II(9例)では,全例少数結節性の肺転移を示した.剖検の得られた13例について検討すると,肺外転移はgroup IIでより広範囲に認められた.骨肉腫に対する化学療法は今後も強化される傾向にあり,肺外転移の発生も考慮に入れ治療を行うべきと考える.

診療余話

SpondylectomyかVertebrectomyか

著者: 富田勝郎

ページ範囲:P.1022 - P.1022

 先日,小生の脊椎腫瘍根治的手術(total en bloc spondylectomy)に関連してspohdylectomyかvertebrectomyか,2,3の方から聞かれました.実際,英語でspondylectomyかvertebrectomyか混乱しているように思います.私自身もこれまで両方適当に使ってきました.しかし3年前,モントリオールSICOTの夕食会でイギリスの整形外科医グループからこの点に関して面白い話をきく機会があったので紹介します.即ち,spondylectomy,vertebrectomyのどちらでもよいかと問うたところ,迷うことなく異口同音にspondylectomyが正しい,vertebrectomyは英語を知らない人達が作った言葉だ,と即答され,びっくりしました.で,その理由は,と尋ねると,それはギリシャ語(Greek)とラテン語(Latin)を母体として育ってきた英語の歴史と,芸術の花開いたギリシャ時代,即ち,ヒポクラテスの時代にまで遡った医学の歴史を学んでいるかどうかによる,というのです.即ち,医聖ヒポクラテスは「病気を治すことは芸術―art―に通じる」と説いていたので,以後彼に敬意を表して,病気(patho-)に関する名称はギリシャ語を優先して用いるようになっているそうです.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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