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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科29巻1号

1994年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第67回日本整形外科学会学術集会を開催するにあたって

著者: 桜井実

ページ範囲:P.2 - P.3

■生き甲斐を支える整形外科
 運動器疾患は時代と共に変遷し,結核とポリオの時代が過去のものとなった現在は,交通事故による外傷,高齢化社会を反映した脊椎の加齢的変化や関節の退行変性疾患を扱う機会が多くなって来ました.そして,豊かな経済成長と共に飽食とスポーツが医学の中に取り入れられる時代です.運動機能の復元と維持は,日常生活にも労働力確保のためにも必須の願望ですが,この医療に携わる整形外科は,正に人間の「生き甲斐を支える」のが大きな目標であります.
 平成6年5月12日~14日の3日間仙台市で開催される第67回日本整形外科学会学術集会は,この意識を盛り上げ,医療の現場に役立つ学術集会にしたいと思っております.

論述

遠位橈尺関節症に続発した手指伸筋腱断裂―発生因子に関する検討

著者: 小野沢司 ,   平山隆三 ,   多田博 ,   竹光義治 ,   末松典明

ページ範囲:P.5 - P.12

 抄録:遠位橈尺関節症に続発した手指伸筋腱断裂の手術例8例について術前後のX線像,術後成績,伸筋腱断裂の危険因子について検討した.症例は男4例,女4例,62歳から82歳,平均72歳と高齢であった.術前のX線上軽度のMadelung変形が認められ,尺骨頭は背側に亜脱臼し,遠位橈尺関節の関節症変化が著明だった.8例全例に腱移行または腱移植を行い,尺骨頭切除を加えた.術後経過観察期間は,平均4年10カ月である.再建術による術後成績は良好で尺骨頭切除によって有意な手根骨の尺側移動は見られなかった.上記の変形をもつ症例では成長期に特に愁訴がなくても中年以降遠位橈尺関節症が進行し機械的摩擦による伸筋腱断裂の危険性が高いと考えられた.

腰椎分離すべり症に対する棘間ブロック併用前方固定術の臨床成績

著者: 石原裕和 ,   松井寿夫 ,   平野典和 ,   大島博 ,   辻陽雄

ページ範囲:P.13 - P.19

 抄録:腰椎分離すべり症に対する棘間ブロック併用前方固定術について,従来法との臨床比較を行った.術後1年以上13年まで平均7年間追跡した腰椎分離すべり症前方固定術施行例(従来法17例,棘間ブロック併用法(以下棘ブ法)16例)に対し,椎体間および分離部の骨癒合の推移を辻の基準で比較し,臨床症状の経過,社会復帰までの期間につき検討を加えた.初期骨癒合は従来法4.9カ月,棘ブ法4.3カ月において認められ,完全癒合はそれぞれ16.4カ月,9.5カ月であった.骨癒合率は従来法53%,棘ブ法88%であり,分離部癒合率はそれぞれ12%,44%に認めた.これにより,棘ブ法施行例において高い改善率と早期退院が達成された.棘間ブロック併用腰椎前方固定術は腰椎分離すべり症に対して,分離椎弓のジャッキアップを介して椎体・移植骨間の離開を防ぎ,骨癒合率を高めるとともに,その分離部圧着効果により分離部の骨癒合をも促進し,早期の社会復帰を可能とした.

進行期末期変形性股関節症に対する大腿骨外反伸展骨切り術の長期成績

著者: 小林徹也 ,   安藤御史 ,   後藤英司 ,   伊林克也

ページ範囲:P.21 - P.25

 抄録:おもに30,40歳代の進行期末期変形性股関節症に対して行われた,Bombelliの大腿骨外反伸展骨切り術症例のうち,10年以上経過した21例の成績調査を行った.対象は男性2例,女性19例で,手術時平均年齢40歳であった.片側罹患10例,両側罹患11例であり,平均経過観察期間12年,経過観察率95%であった.検討は,日整会判定基準とレントゲン変化から行った.
 成績良好例は11例(52%)であった.術後10年以降,片側罹患例において成績の悪化傾向が強かった.術前の成績因子として,骨関節のリモデリングと,軟骨再生に注目したところ,成績と良く相関していた.しかし,術後10年以降の長期成績は,術前の成績因子より術後因子の影響が強くなると考えられた.他の治療方法と比較しても,長期にわたって手術の効果を認めており,本法の有効性が認められた.

シンポジウム 関節スポーツ外傷の診断と治療―最近の進歩

緒言

著者: 史野根生 ,   中嶋寛之

ページ範囲:P.27 - P.27

 従来“捻挫”と総称され,軽視されることが多かった骨折を伴わない四肢関節の外傷は,スポーツにより生じることが多い.この中にはほとんど自然に治癒する軽症のものから,スポーツ活動どころか日常生活の障害を来たす重症のものまでが含まれ,かつ損傷組織も靱帯のみならず軟骨(半月を含む)や軟骨下骨に至ることも少なくない.近年,生体力学,損傷靱帯治癒の生物学,MRIをはじめとする画像診断法,関節鏡学の進歩により,スポーツによる関節外傷の病態学や治療法は飛躍的な進歩を遂げつつある.本シンポジウムでは,スポーツにより傷害を来たし易い肩,肘,膝,足関節に各々造詣の深い先生方に,各々の関節に特異的な病態に焦点を当て,最新の知見を総括して頂き,将来の展望を述べて頂くことを狙いとした.
 1)肩関節:肩関節の前方(亜)脱臼では,主としてCT関節造影により損傷組織が正確に描出されるようになり,症例によっては関節鏡視下手術により破綻した組織の修復をより正確に修復し得るようになったことが明らかにされた.しかしながら,腱板障害を始めとする,いわゆる“投球肩”では未解決の部分が少なくない.つまり,肩不安定性と腱板障害の相関関係については未だ一定の見解がなく,治療の点でも種々の論議が行われつつある.

肩関節のスポーツ外傷

著者: 米田稔

ページ範囲:P.29 - P.43

 抄録:肩スポーツ外傷の患者を治療する上で最も重要なことは,できるだけ早く正確な診断をつけ確実でかつ早期復帰が可能な治療法を選択することである.ある肢位の強制や直達外傷の後では外傷性肩峰下滑液包炎,腱板損傷,大結節部骨傷,肩鎖関節障害を考えるが,同時に肩関節内の損傷も念頭に置かなければならない.局麻剤テストは肩峰下腔,肩鎖関節への注入が信頼される.MRIはスクリーニングとして最も有効な画像診断であり,腱板断裂,骨挫傷,関節内外の血腫,水腫が鮮明に描出される.関節内の構造を克明に捉えるにはCT関節造影が最も有効である.再構成による斜矢状面像やMR関節造影は今後期待される.新しい治療法である鏡視下Bankart修復術,上方関節唇修復術,肩峰下除圧術については適応を中心に解説した.スポーツ活動性の高い若年者では初回前方脱臼から反復性への確率が高いため,Bankart病変の1次修復も考慮するべきである.

肘関節のスポーツ外傷と障害―内側側副靱帯損傷と肘関節不安定症

著者: 村上恒二 ,   濱田宜和 ,   村田英明 ,   生田義和

ページ範囲:P.45 - P.53

 抄録:野球等の投球動作では強い外反ストレスがかかることになるが,内側側副靱帯は肘の外反ストレスに対する主要なるstabilizerであり,このため過度の外反ストレスにより,内側側副靱帯損傷がひきおこされることとなる.実際には内側側副靱帯のうちでanterior medial collateral ligament(AMCL)が外反ストレスに対する主要支持機構であり,近位部からの剥離あるいは起始部の剥離骨折を伴うことが一般的である.診断においては,運動時のAMCL局所の疼痛及び圧痛,肘外反ストレスでの疼痛の誘発がみられ,X線検査では肘30°屈曲位での外反ストレスX線撮影,Gravity testを行い,健側と比較することにより定量的評価が可能である.手術適応は著しい不安定性がみられるスポーツ症例や保存的治療に抵抗する症例であり,手術法としては,伊藤法による靱帯再建が有用である.

膝後外側支持機構損傷

著者: 守屋秀繁 ,   渡辺泰 ,   永原健 ,   金田庸一 ,   土屋明弘 ,   高橋和久

ページ範囲:P.55 - P.59

 抄録:膝の後外側支持機構は,解剖学的には膝窩筋腱から腓骨頭へ付着する腱が94%に認められることから,同部の陳旧損傷例では膝窩筋腱の上前方移行(Müller法)では効果が無く,後外側支持機構に緊張のかからないように高位脛骨骨切り術(FTA170°目標)を行い,さらに外側側副靱帯を含めて,後外側支持機構を腓骨頭から末梢側へ移行する方法が有効であると思われた.症例は7例であり,すべて著明なposterolateral rotatory instabilityを呈し,前十字靱帯損傷合併例4例,後十字靱帯損傷合併例2例,前後十字靱帯損傷合併例1例であった.前十字靱帯は膝蓋腱またはハムストリングスで再建し,後十字靱帯はすべて膝蓋腱で再建し,FTAを170°にするように高位脛骨骨切り術を行い,後外側支持機構の末梢側移行を加えた.JOA scoreは術前14~60点,平均34.6点が術後48~90点,平均70.1点に改善した.JOA scoreに比し患者の満足度は高かった.

膝蓋大腿関節のスポーツ外傷

著者: 井上雅裕

ページ範囲:P.61 - P.67

 抄録:膝蓋骨脱臼・亜脱臼は思春期の女性に好発する膝疾患であるが,その多くは何らかのスポーツ活動によって発症している.本章では現在の膝蓋骨脱臼亜脱臼の診療の問題点をあげ,その病態と最近の検査法を用いた画像診断について述べた.また膝蓋骨の能動的トラッキング異常を評価する徒手的検査としてAPS testを紹介し,臨床診断を正確で容易に行うための方法としての有用性を強調した.治療に関してはCTを用いて下肢アライメントの異常を客観的に把握することが重要であり,手術方法の選択に役立つことを報告する.

足関節靱帯の新鮮スポーツ外傷

著者: 山本晴康 ,   宗田大 ,   石橋俊郎 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.69 - P.73

 抄録:スポーツによる足関節外側靱帯損傷の診断は,受傷機転や,臨床症状や,単純X線写真や,内がえしストレスや前方引き出しストレスを加えた際のX線写真や,関節造影や腓骨筋腱腱鞘造影などにより行われてきた.近年器具を使用してのストレスX線写真により不安定性が評価され,また関節鏡やMRIの導入により軟骨損傷の合併が明らかになってきた.治療には保存的療法と観血的療法があり,いまだ議論のあるところである.4週間のギプス固定とその後2カ月間の装具使用による保存的療法の治療成績を54例54足の外側靱帯損傷について検討した.follow-up期間は平均18.6カ月である.治療後89%の症例がもとのスポーツに復帰し,7%が種目を変えてスポーツを行っていた.安定性は臨床的にもX線学的にも良好であった.治療前の動揺性の強い例でも良好な安定性が得られていた.保存的療法は有効な治療法と考えられた.

整形外科を育てた人達 第122回

Florence Rena Sabin(1871-1953)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.74 - P.75

生いたち
 今まで多数の医学者の伝記を紹介してきたが,男性の学者ばかりで女性の学者は一人もなかった.今回は女性の優れた学者を紹介したい.Florence Rena Sabinは1871年にアメリカColorado州の鉱山の採掘場で生まれた.経済的には比較的に豊かな地区であったので,この時代にしては若い女性に対しても,おおらかであった様子で,彼女は自立する覚悟で医学研究に進む決意をした.というのも,父は鉱山技士であったが,祖父は医師であったので,医学に多少興味があったらしい.母は学校の教師をしていたが,急に亡くなったので,Florenceは全寮制の学校に転校した.まず,公衆衛生の勉強になると思い,現実の社会環境を注視していた.その後父の勤務の都合により最初はColoradoで,次にIllinois移り,最後はVermontのSaxton River大学で勉強した,Florenceはこの大学では,姉に教えられて数学・科学研究所で働き,よく勉強したので,卒業の時にはBachelor of Scienceの学位を授けられた.

整形外科英語ア・ラ・カルト・18

“shoulder”に関する日常英会話

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.76 - P.77

 今回は“shoulder”に関する英語を述べることにする.“shoulder”の語源は,中世英語の“shulder”,古代英語“sculdor”に由来し,さらにギリシャ語“schulter”に源を発している.“shoulder”の発音は“ショゥルダー”と“O”が,長母音の“オゥ”であり,日本語のような“ショルダー”ではない.肩とは,体幹部と上腕部の接合部のことであり,ギリシャ語で“omos”(オーモス)といい,通常前綴り“omo-”を使う.例えば舌骨(hyoid bone-ハイオイド・ボゥン)に発し,肩甲骨上縁に付着する筋肉のことを“omohyoidmuscle”といい,頸部前面に存在する“strap muscles”の一つである.“strap”(ストラップ)とは,列車やバスなどの中の吊り皮のことで,“紐状の筋肉”の意味である.甲状腺外科の際に,遭遇するこの“strap muscles”には,舌骨と甲状軟骨に付着する“hyothyroid muscle”,“sternothyroid muscle”と“sternohyoid muscle”,そして“omohyoid muscle”の4対の筋肉群がある.
 以下述べることは,外科医の私が知っている位であるから,整形外科専門の皆様には失礼かと思うが,お許し戴きたい.

基礎知識/知ってるつもり

DISI

著者: 渡辺健太郎 ,   中村蓼吾

ページ範囲:P.78 - P.78

 【用語の意味】Dorsal Intercalated Segment Instabilityの略.1972年にDobynsとLinscheidらによって提唱された“手根不安定症carpal instability”のうち月状骨が背屈変位をとるものを指す*1).適当な邦訳がないが,intercalated segmentとは,ここでは近位手根列(とくに月状骨)を意味しており,あえて言うなればDISI deformityをもって手根背屈変形と呼ぶのが妥当であろう.

臨床経験

止血用材により術後麻痺を呈したと思われる胸椎巨細胞腫の1例

著者: 島田洋一 ,   佐藤光三 ,   阿部栄二 ,   千馬誠悦 ,   村井肇 ,   佐々木聡

ページ範囲:P.79 - P.82

 抄録:留置した止血用材が膨化して術後麻痺をきたしたT7巨細胞腫例を経験した.後方侵入腫瘍摘出時,硬膜管より10mm離してアビテンとオキシセル綿を留置したが,術後4日目で広範な筋力低下がみられたため,前後同時手術を行い,膨化したオキシセル綿が麻痺の原因であることを確認した.脊椎腫瘍の手術で,コントロールしがたい出血のため止血用材を留置せざるをえない場合,オキシセル綿は硬膜管より10mm離しても危険であり,膨化作用の少ないアビテンを用いるほうがよい.

頸部広範リンパ節郭清術後に生じた副神経麻痺の一治験例

著者: 桝谷厚志 ,   岡田正人 ,   太田義明 ,   高田裕恭 ,   西島雄一郎 ,   東田紀彦 ,   山崎安朗

ページ範囲:P.83 - P.86

 抄録:頸部広範リンパ節郭清術後に生じた副神経損傷の1例を経験したので報告する.症例は68歳女性である.術後1年半後より頸部痛および両肩倦怠感が出現してきた.入院時の所見として,両側の僧帽筋,胸鎖乳突筋の著明な筋萎縮,両肩および鎖骨肩峰端の下垂および左胸鎖関節の亜脱臼が認められた.単純X線像では両側肩甲骨上部の外転,両鎖骨肩峰端の下方偏位,左鎖骨胸骨端の上方偏位が認められた.本例のような陳旧性副神経損傷では,神経縫合術によって僧帽筋の機能回復を得ることは困難で機能再建術の適応となる.機能再建術にはEden-Lange法とDewar法が報告されているが,筆者らはDewar法では肩甲骨の不安定性の再現が危惧されたため,Eden-Lange法を選択した.術後症状の改善がみられ,X線所見で鎖骨肩峰端の下垂が消失していることから,Eden-Lange法が本症の治療法として有用であると考えた.

急性脊髄硬膜外血腫の自然回復例

著者: 高田章弘 ,   浅井達郎 ,   坂本勇二郎 ,   前中孝文 ,   皷敏光

ページ範囲:P.87 - P.90

 抄録:MRIにて診断しえた急性脊髄硬膜外血腫の自然回復例を経験したので,文献的考察を加え報告する.症例は37才女性.突然の背部激痛,両下肢麻痺のため当科入院となる.発症後7日目のMRIで第6頸椎から第1胸椎にかけて脊柱管の腹側にT1でhigh intensityのmassを認めた.特徴的な臨床症状とMRI所見から急性脊髄硬膜外血腫と診断した.入院時,ほぼ完全麻痺であった下肢筋力は発症後6時間で両足趾の筋力から回復を示し,発症後18時間で筋力は2~2と改善,発症後11日で歩行可能となった.発症後34日目のMRIでは病変部は完全に消失していた.従来,可及的速やかな手術的治療が必要とされてきたが,本症例のように麻痺出現後早期,即ち24時間以内に回復傾向を示す場合は保存的に経過観察するべきであると思われた.

特発性血小板減少性紫斑病の患者に合併した大腿骨頭壊死に対するBipolar型人工骨頭置換術―術前,術後の血小板数のコントロール

著者: 山下英三郎 ,   松末吉隆 ,   中村孝志 ,   長野真久 ,   山室隆夫 ,   高山博史

ページ範囲:P.91 - P.94

 抄録:近年,特発性血小板減少性紫斑病に合併した大腿骨頭壊死の手術的治療を行う際に,γ-グロブリンを用いて血小板数を増加させておくという方法を用いる症例が増えている.今回我々は,γ-グロブリンの投与にもかかわらず,血小板数が増加しなかったために,血小板輸血を行って大腿骨頭置換術を施行しその後ダナゾールによりコントロールした1例を経験したので報告する.

ロベンザリット2ナトリウム(CCA)使用中に妊娠,出産したRA患者の1例―抗リウマチ薬の催奇形性に関する文献的考察

著者: 渡辺秀樹 ,   田中幹夫

ページ範囲:P.95 - P.98

 抄録:慢性関節リウマチ(RA)患者には若い女性も多く,経過が長期にわたることも多いので,使用薬剤の妊婦や胎児に及ぼす影響が問題になることがある.近年RAの薬物療法の概念に変化が見られ,種々の抗リウマチ薬(免疫調節剤および免疫抑制剤)が早期より使用されるようになってきたが,それらの催奇形性に関しては不明なものも多い.筆者らはロベンザリット2ナトリウム(CCA)を用いてRAを治療中に妊娠し,正常児を出産した1症例を経験したので報告する.また当科にて使用している抗リウマチ薬の妊婦や胎児に対する影響について,特に催奇形性についての文献の調査を行った.その結果,一般にRA治療に用いられる薬用量であればすべての免疫調節剤では奇形発生の可能性はかなり少ないと考えられた.しかし,免疫抑制剤では奇形発生の可能性があると考えられた.

巨大な仙骨神経鞘腫の1例

著者: 河野茂 ,   楠崎克之 ,   長谷斉 ,   西浦博 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.99 - P.102

 抄録:症例は20歳女性.主訴は生理不順で中学生頃より強い便秘の既往がある.自覚症状は認めず,他覚的に右殿部圧痛,右アキレス腱反射の消失,両下肢の知覚低下及び軽度の筋力低下を認めたが,膀胱直腸障害はなかった.単純X線,CTで仙骨はSI以下が融解していた.またMRIでは病巣はT1で低,T2で高信号に抽出され,大きさは約12×11×8cmであり,子宮,膀胱,直腸を圧迫していた.血管造影では新生血管の増生が認められたが,血管壁の不整や貯留像は認めず,生検にて神経鞘腫と診断された.前方後方より全摘出を行い右S2以下の神経根は腫瘍とともに切除し,自家骨移植を追加した.術後陰部に限局性の知覚障害を認めるのみで膀胱直腸障害等は認めず2週間後より歩行可能であった.仙骨部の腫瘍は稀であり,しかもその約半数は脊索腫であるが,本例は脊索腫との鑑別は比較的容易であった.また発生機序より考えると,本腫瘍を骨原発腫瘍に入れることについて一度再考する必要があると考える.

腰仙移行椎と腰椎椎間板ヘルニアとの関連性

著者: 杉原繁明 ,   大谷清 ,   宮坂芳郎 ,   里見和彦 ,   石井良章

ページ範囲:P.103 - P.108

 抄録:腰仙移行椎と腰椎椎間板ヘルニアとの関連について,腸骨稜の位置及び移行椎直下の椎間板形態を中心に検討した.調査対象は移行椎群,非移行椎群,手術群の672例である.移行椎の分類はCastellvi分類,角田の方法を用い,腸骨稜の位置は3型に分類した.また森らの方法で椎体の可動域も計測した.CastellviのII型は腸骨稜低位例が多く,移行椎直上椎体の可動域,比可動域が増大していた.移行椎群のうち腰椎椎間板ヘルニアと診断された66例中,CastellviのII型は39例(59.1%)を占めていた.手術群中,移行椎は22例(12.6%)であり,CastellviのII型が18例(81.8%)と多かった.また移行椎直下の椎間板形態が角田の3型を示す例はCastellviのII型に多かった.CastellviのII型が移行椎の一つ上の椎間にヘルニアを発生しやすい一因として,腸骨稜低位と移行椎直下の椎間板形態が関係していると考えた.

転移性脊髄髄内腫瘍の1例

著者: 宍戸裕章 ,   菊地臣一 ,   渡辺栄一 ,   鈴木幹夫

ページ範囲:P.109 - P.111

 抄録:悪性腫瘍の脊髄髄内転移は稀である.今回,我々は肺癌(扁平上皮癌)の脊髄髄内転移をきたした1例を経験したので報告する.症例は66歳,男性,1年8カ月前に肺癌の手術の既往がある.3カ月前より両下肢のしびれ,脱力にて発症した.第5胸髄節以下の不完全横断性麻痺で急激に麻痺が進行した.脊髄造影およびMRIより脊髄髄内腫瘍と診断し,直ちに手術を施行した.病理組織学的には扁平上皮癌と診断された.MRI像はT1強調像で脊髄の腫大と同部での軽度高信号を,T2強調像で等信号を示し,Gd-DTPAで増強効果が認められた.しかしMRI所見からは転移性脊髄髄内腫瘍か原発性脊髄髄内腫瘍かの鑑別は不可能であった.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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