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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科29巻11号

1994年11月発行

雑誌目次

視座

日本の手の外科の将来を展望する

著者: 生田義和

ページ範囲:P.1199 - P.1200

 某科学雑誌によると,生物は魚類―爬虫類―哺乳類と進化して,アウストラロ・ピテクスから現代のホモ・サピエンスの時代を迎え,今後は脳の容積の増大と物を食べる機能の衰退が進み,数十万年後にはエドノ・ピテクス(歯のない猿)という未来人が想像されている.重心が頭部に移動するために足は大きく扁平足になり,移動が極端に少なくなるために下肢は退化し,上肢も食事とコンピュータ操作のみで足りるために萎縮する.しかし,指は現在と同じように5本あり,数十万年後,幸いにもわれわれ手の外科医の治療対象は消滅していないようである.

論述

Charnley型人工股関節15~17年経過例の成績

著者: 岡本哲軌 ,   安藤御史 ,   後藤英司 ,   稲尾茂則

ページ範囲:P.1201 - P.1205

 抄録:当科におけるCharnley型人工股関節15~17年経過例の臨床成績,X線成績を検討したので報告する.1976~78年の同一術者によるCharnley型人工関節は34例,37股(男性12例,13股,女性22例,24股)である.全例の追跡調査が可能であったが,感染例,死亡例,他医での再置換例を除き15~17年経過時(平均15.5年)19例,20股の成績を検討した.
 臨床成績はd'Aubigne & Postelに従い疼痛,歩行能力,可動域を6段階に評価した,X線学的成績では,CharnleyおよびHarrisに従った.15~17年経過時の臨床成績でほぼ満足できるgrade 5,6は,疼痛が19股,95%,歩行能力が13例,68%,可動域が8股,40%であった.X線学的には,ソケット側の機械的ゆるみは9股,45%,ステム側は7股,35%,ゆるみの見られないのは9股,45%であった.

回旋力優位型前腕bipolar injuryの検討

著者: 中村俊康 ,   矢部裕 ,   堀内行雄 ,   山中一良 ,   関敦仁 ,   吉川泰弘

ページ範囲:P.1207 - P.1212

 抄録:手関節と肘関節に同時に脱臼や骨折が生じるbipolar injuryにはEssex-Lopresti骨折やbipolardislocationなどがある.これらの損傷の受傷機転は手関節回内位で手掌をつき,長軸力を受けるためとされている.近年,橈骨が尺骨に対して長軸方向に解離するacute longitudinal radio-ulnar dissociation(ALRUD)の概念が提唱され,ことさらに長軸力のみが重要視される傾向にある.しかし,われわれはEssex-Lopresti骨折でALRUDを伴わない症例とbipolar dislocation2例を経験した.さらに,MRIを用いたトルク負荷の検言寸から本症は長軸力のみならず回旋力が主体で生じたものと考えられた.Essex-Lopresti骨折はALRUDを呈し長軸力優位で生じるtype Iと本症のような回旋力優位で生じるtype IIに分類でき,さらにbipolar inluryについても拡大解釈し,長軸力優位型と回旋力優位型に分類することができた.

高齢者腰椎における椎体変形と椎間板狭小の相互関係

著者: 大川淳 ,   四宮謙一 ,   古屋光太郎 ,   請川洋 ,   宮沢あかね ,   酒井均

ページ範囲:P.1213 - P.1219

 抄録:骨粗懸症による腰椎椎体変形と椎間板変性の相互関係を知る目的で,均一な生活環境で暮らしている老人ホーム居住女性56名の平均10年にわたるX線像の変化を調査した.腰椎臥位側面像をコンピューター上でディジタイズすることにより,椎体高と椎間板面積の経年的変化を評価した.
 その結果,椎体変形の発生頻度は,直下の椎間板が狭小している場合には少なく,また,腰椎全体の椎間板が狭小傾向にある群でも少なかった.骨粗懸症は中手骨のDIP法にて評価したが,椎体変形数との間に直線的関係は見いだせなかった.高齢者の腰椎椎体変形には,椎体骨量だけではなく,椎間板の狭小化も相反的な影響を有すると考えられた.

骨肉腫における術前化学療法の組織学的効果判定と予後との相関性について

著者: 蛭田啓之 ,   亀田典章 ,   川口智義 ,   松本誠一 ,   真鍋淳 ,   黒田浩司 ,   土谷一晃 ,   秋間道夫 ,   野中博子 ,   町並陸生 ,   北川知行

ページ範囲:P.1221 - P.1229

 抄録:治療前に転移がなく,術前に化学療法のみを行った骨肉腫31例を用いて,組織学的治療効果と予後との相関を検討した.悪性骨腫瘍取扱い規約の効果判定基準に厳密に従うと,31例中25例がGrade0に判定され,予後との相関が乏しく,実際の効果を明瞭に反映していないと思われた.術前治療を行わなかった症例や治療前生検と切除標本との比較検討から,細胞密度が著明に低下した領域,すなわち少数の腫瘍細胞が残存していても比較的成熟した類骨形成や線維化が目立つ領域も化学療法の効果による変化と考えられた.壊死以外に,このような組織変化も有効領域として評価に加え,Gradeの設定を若干変更して判定すると,組織学的効果と予後との相関が明瞭となり,臨床的治療効果判定ともよく一致した.したがって,viable cellが残っていても,この様な有効領域を十分に評価することが,組織学的効果判定に臨床的意義を持たせる上で重要であると考えられた.

発症後20年以上経過したRA手関節

著者: 政田和洋 ,   村田紀和 ,   前田晃

ページ範囲:P.1231 - P.1235

 抄録:RA手関節の最終形を知るために発症後20年以上経過した73人,146例のRA手関節についてX線分類を行った,その結果,146手関節は以下の4型に分類できた.narrowing type(72関節,49%);手根骨の破壊によりCHRが減少するが模骨手根関節はよく保たれているもの.partial fusion type(18関節,12%)橈骨と月状骨を中心とした近位手根列の間で部分的な骨性強直を呈するもの.手関節の可動域は手根間関節で保たれている.bony ankyiosis type(30関節,21%);手関節全体が骨性強直に陥っているもの.collapse type(26関節,18%)橈骨遠位端の骨吸収もしくは手根骨の著明な破壊により手関節が尺掌側へと脱臼するもの.この分類はRA手関節破壊の進行を規定したものではなく最終形を強く示唆する.RA手関節に対する手術適応を決定するにあたってこの最終形を知ることはきわめて重要である.

整形外科基礎

半月大腿靱帯に関する解剖学的研究

著者: 金田庸一 ,   守屋秀繁 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   土屋明弘 ,   嶋田裕 ,   玉木保

ページ範囲:P.1237 - P.1241

 抄録:肉眼解剖学的に半月大腿靱帯の出現頻度を調べ,また生体力学的に靱帯切離後の回旋不安定性を解析し靱帯の機能を検討した.解剖学的検討では62遺体110膝を対象とし半月大腿靱帯の頻度を調べた.生体力学的検討では新鮮屍体膝6膝を用い,脛骨に3Nmの内外旋トルクを加え2方向同時X線撮影による3次元解析を行い,半月大腿靱帯切離前後の回旋角度を計測した.全例に半月大腿靱帯を認めそのうちHumphry靱帯は13.6%,Wrisberg靱帯は92.7%であった.Wrisberg靱帯を走行により3型に分類した.1型は外側半月板のみに付着(64膝),2型は二股に分れ外側半月板と腔骨に付着(28膝),3型は外側半月板から腫骨にかけて腱膜様組織で付着(10膝)するものとした.靱帯切離後,非靱帯切離膝と比べ膝関節屈曲位で内旋角度の軽度増加を認め,半月大腿靱帯の内旋の制御が考えられたが,その働きは軽微なものと推察された.

診療余話

画像診断の進歩と功罪

著者: 伊丹康人

ページ範囲:P.1242 - P.1243

●片山先生のことば
 今から45年程前,足かけ8年程にわたる戦地の野戦病院,陸軍病院の勤務を終え,命だけは助かって,もといた慈恵医大の整形外科教室に戻ってきた頃,一日も早く骨・関節のX線写真の読みに精通したいと,日曜日ごとに,外来のX線写真を持ち出して,片山良亮教授の御自宅(鎌倉)まで伺って,教えて頂いた事がある(片山先生には大変迷惑な事だったと思います).その時の教授のお言葉は,私にとって,X線写真読影についての,一生忘れることが出来ない金言でした.
 「君,正倉院というのがあるだろう,そこに書画を本物か偽物かを鑑定する人がいるんだ.実はその鑑定師は,この書家の字はどうの,この画家の筆法はどうのと長年研究を重ねて,その結果に基づいて,本物か偽物かを決めるというものではないんだよ.小学校しか出ていない人が,10年15年本物の書画を毎日毎日見ているんだ.すると,偽物を見せられたとき,これはおかしいと直感する.それから,ではどこが偽物かを詳しく見わけていくんだ.

整形外科を育てた人達 第131回

Emanuel B. Kaplan(1894-1980)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1244 - P.1245

 最近手の外科の開拓者の一人であるRobert Guy Pulvertaftの伝記を書いたが,Emanuel B. Kaplanもまた手の外科の有力な学者でもある.Kaplanは1894年4月25日にUkraineのKrementshougで生まれた.成長して教育を受ける時にまずフランスのMontepellier大学で初級の教育をうけ,医学教育はロシアのKhrarkov大学で1912~1916年の間勉強して学士号をもらった.そして彼はロシア革命と第一次世界大戦の間,Imperial Russian Armyの軍医として働いた.この時の色々な経験が人々の苦しみの軽減に自らの生涯を献げるもととなった.戦後,Ukraineが飢饉におそわれた時,Kaplanは,米国難民救済援護局の医師および通訳として働いた.Kaplanの類稀な語学力―Kaplanは5力国の国語を話した―と,医学的な優れた能力を知ったHerbert Hooverが米国に来ないかと勧めたので,Kaplanは1924年に米国に移り,1927年にはNew Yorkで個人診療所を開いた.
 KaplanはNew Yorkにある整形外科病院で,整形外科を専門にトレーニングした最初のレジデントの一人であったが,後に認められて,その病院の手の外科の部長になった.

整形外科英語ア・ラ・カルト・27

整形外科に関する興味ある言葉・その4

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1246 - P.1247

●digit(ディジット)
 これはラテン語の“digitus”(ディギトゥス)に由来し,元来は手の指や足の趾を指していた.ラテン語の“digitus”の古い形が,“dictus”とも考えられていたように,“言う”や“示す”の意味があった.長さを示す単位には,肝臓が3横指触れたと言うように“~~横指”という単位がある.御存知のように,その長さが“12横指”あるために,昔は“intestinum duodenum digitorum”と呼んでいた.また同じく空腸や回腸も“intestinum jejunum”や“intestinum ileum”と呼んでいたが,“intestinum”の部分が省略されて,形容詞の部分がそれぞれ独立して,“duodenum”,“jejunum”“ileum”となった.1横指が約2cmであるから,十二指腸は約25cmの長さがある.
 このように物の長さを計ったり,数を数えるときに指を使ったことから,“digit”が後に“数”を指すようになった.日本語では,時計の文字盤には,アナログ式とデジタル式があり,時間表示が数字のときをデジタルという.

基礎知識/知ってるつもり

アパタイト

著者: 請川洋

ページ範囲:P.1248 - P.1248

 【用語・呼称】
 apatiteとはギリシャ語で「欺く」を意味するapatoを語源とし,M10(ZO4)6X2の組成を有する鉱物の総称である.なかでも,生命と最も関係が深いのはCa10(PO4)6(OH)2で表されるhydroxyapatiteである.
 本邦ではハイドロキシアパタイト,ヒドロキシアパタイト,水酸アパタイト,水酸化アパタイトなど,さまざまな呼称が用いられているが,最近ではハイドロキシアパタイトが一般的となってきた略称もHA,HAP,HAp,Ap等まちまちで,いまだ用語の統一はなされていない.また,整形外科領域では,単にアパタイトと言えばハイドロキシアパタイトのことを指す.

臨床経験

脊髄硬膜外血管脂肪腫の1例

著者: 笠島俊彦 ,   倉上親治

ページ範囲:P.1249 - P.1252

 抄録:今回我々は,胸髄硬膜外血管脂肪腫の1例を経験した.症例は59歳の男性で,両下肢シビレ感,脱力を主訴とした.神経学的に,両側第1腰髄節以下の知覚低下,腸腰筋以下の筋力低下,下肢腱反射の亢進を認めた.脊髄腔造影,CTMで脊髄がTh10-11レベルで硬膜外より圧排されていた.MRIではT1強調像で等輝度と高輝度の混在像,T2強調像では高輝度,そしてGdにより増強効果を示す腫瘤を認めた.以上より,Th10-11の硬膜外腫瘍と診断し,腫瘍摘出術を施行した.病理診断は血管脂肪腫であった.術後,1ヵ月で筋力は完全に回復し,軽度の知覚低下を残すのみである.硬膜外腫瘍を診断する場合,術前にその性状まで確定診断をつけることは不可能であるが,血管脂肪腫の場合,MRIで特徴的な像を示すため術前にある程度の予想は可能である.

環指深指屈筋腱から発生した巨大腱鞘線維腫の1例

著者: 鳥塚之嘉 ,   原田一孝 ,   江原宗平 ,   飯田伊佐男 ,   赤堀脩

ページ範囲:P.1253 - P.1255

 抄録:腱鞘線維腫は主に手指,手掌,手関節の腱または腱鞘に発生する再発を起こしやすい稀な良性腫瘍である.本腫瘍はChungおよびEnzingerによって1979年にfibroma of tendon sheathとして詳細に記載されて以来,1つの疾患単位と考えられている1).今回,環指深指屈筋腱から発生した巨大な腱鞘線維腫の1例を経験したので報告する.

先天性腓骨筋腱脱臼の母子例

著者: 安藤祐之 ,   井口傑 ,   宇佐見則夫 ,   宮永将毅

ページ範囲:P.1257 - P.1260

 抄録:1歳5カ月の男児と40歳の母親の先天性腓骨筋腱脱臼の母子例を経験した.男児例は母親が生後2カ月で左足関節外果上の索状物に気づき,3カ月検診時に本症と診断した.処女歩行後脱臼が頻回となり手術を施行した.手術時,背屈位で,長腓骨筋腱は,上腓骨筋支帯が外果後縁から剥離して形成された間腔に脱臼していたので,支帯を縦切し外果後縁の軟骨堤に縫縮,再縫着した.術後約2年で再脱臼もなく経過良好である.一方,母親は年少時から両足関節外果部の弾発感に気づいていた.子供の術後に当科を受診し本症と診断したが,特に障害はない.本症は稀な疾患とされ,家族例の報告は初例である.母子例の存在から,従来の報告にある胎内肢位の異常よりも,遺伝傾向をもつ筋骨格系の異常が本症の主因と考えられる.また,術後に発見された母親例が長年なんら障害がなかったことから,従来の手術適応には再検討が必要と考える.

頚椎黄色靱帯内嚢胞により急速な脊髄症の進行を来した1例

著者: 高桑巧 ,   井上謙一 ,   小沢一広 ,   保田雅憲 ,   石井薫 ,   安藤政克

ページ範囲:P.1261 - P.1264

 抄録:頚椎黄色靱帯内に発生した嚢胞により短期間に脊髄症の進行をみた症例を経験した.症例は73歳の女性で頚部痛,両手足のしびれを主訴に当科受診した.わずか2日後に起立歩行困難となり後方除圧術施行.黄色靱帯内に石灰化と小嚢胞形成をみる変性所見が得られた.
 脊髄症の原因は黄色靱帯の肥厚,石灰化に加え,嚢胞状変性が起こったためと考えられ,その症状の急激な進行はなんらかの原因により嚢胞の容積が急速に増加したためと考えられた.

脊椎前方固定に対するTSRH instrumentation

著者: 高田直樹 ,   鈴木信正 ,   福井康之 ,   手塚正樹 ,   池上博泰 ,   井上清

ページ範囲:P.1265 - P.1268

 抄録:1993年2月より本邦でも使用が認可されたTexas Scotish Rite Hospital universal spinal instrumentation system(TSRH)を用いて脊椎前方固定6例を施行した.内訳は,甲状腺癌の胸・腰椎転移例4例,腰椎粉砕脱臼骨折1例,麻痺性側弯症再手術例1例であり,年齢は15歳~55歳,平均37.8歳であった.固定椎間は2椎間1例,4椎間3例,6椎間1例,7椎間1例であった.全例とも外固定を要さず,腫瘍例では早期離床が可能となり,麻痺性側弯例においては矯正,固定性とも極めて良好な結果が得られた.
 本法は,従来の前方固定法に比べ固定力が強固であることや装着が簡便であることなどの特徴をもっており,手術時間の短縮や後療法の簡略化が可能である.本法は腫瘍,外傷等に対する前方instrumentationとして広い適応がありその有用性は高いものと考える.

前後同時進入による手術を要したlocked posterior dislocation of the shoulderの1例

著者: 加畑多文 ,   下崎英二 ,   西野暢 ,   北岡克彦 ,   小林尚史 ,   萩原修平 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1269 - P.1272

 抄録:受傷後約5カ月を経て診断されたlocked posterior dislocation of the shoulderの1症例に対し,前後同時進入による手術を行い,良好な結果を得たので報告する.手術は,まず後方アプローチにて進入したが,整復不能であり,前方部の拘縮および瘢痕組織の除去が必要と考え,前方アプローチを追加して整復し得た.肩関節後方脱臼の観血的整復法としては,前方もしくは後方アプローチによる進入法が一般的に用いられるが,われわれの例のように,受傷後長期間放置された症例では関節拘縮が強く,瘢痕形成が著しい場合があり,このような場合は前後同時進入が必要と思われる.

第3CM関節脱臼骨折の1例

著者: 森本政司 ,   田中肇 ,   中川重範 ,   舘かおる ,   堀川一浩

ページ範囲:P.1273 - P.1276

 抄録:比較的稀であるとされる第3CM関節脱臼骨折を経験したので報告する.症例は47歳の男性である.昭和62年9月20日,自動車運転中,他の自動車と衝突し受傷した,受傷翌日に当科受診,第3CM関節の背側脱臼および有頭骨の剥離骨折の診断にて同日徒手整復術を施行した.整復は容易であったが,整復位保持困難で,翌日,経皮的綱線刺入術を施行した.術後3週で綱線を抜去し,術後4週まで副子固定を行った.術後6年4カ月の現在,疼痛,可動域制限なく経過良好である.

嵌頓症状を呈したhypermobile meniscusの1例

著者: 松本憲尚 ,   堀部秀二 ,   前田朗 ,   中村憲正 ,   塩崎嘉樹

ページ範囲:P.1277 - P.1279

 抄録:嵌頓症状を呈した,hypermobile meniscusに対して鏡視下縫縮術を施行した1例を経験したので報告する.17歳,男性.サッカーで右膝を捻挫し,以後数回の膝くずれを経験していた.今回,右膝の膝くずれ後嵌頓症状(約90°屈曲)を呈し入院.関節鏡検査では,外側半月には明らかな断裂は認めないものの,再鏡視時に同時に施行した健側膝の鏡視像と比較すると,膝窩筋腱溝は拡大し周囲に中等度の滑膜炎を認め,木村らの言う冠靱帯が消失していた.半月は,プローブにて内方に引き出すと顆部を越えて転位した.膝窩筋腱溝を縫縮するように半月の上,下面から3針ずつstacked sutureを施行した.術後2週間のギプス固定を行い,全荷重は1カ月後より許可した.経過は良好であり,膝くずれ,嵌頓症状は消失し,術後5カ月の再鏡視では,半月の安定性は良好であった.

肩関節前上方亜脱臼を呈した三角筋拘縮症の2例

著者: 照屋徹 ,   小川清久 ,   吉田篤 ,   井口理

ページ範囲:P.1281 - P.1284

 抄録;長期間放置された三角筋拘縮症のため,肩関節の前上方亜脱臼を呈した稀な2例を経験した.症例1は18歳の女性で主訴は左肩関節の水平内転制限,症例2は68歳の女性で主訴は肩関節の安静時痛であった.両症例とも三角筋肩峰部に索状物を認め,上腕骨頭は患側上肢下垂時に前上方に亜脱臼し,挙上に際しclickを伴って整復された.症例1に対し三角筋の索状物切離と肩甲棘部の筋前進法を施行し,症例2に対しては三角筋の索状物切離と,鎖骨部と肩甲棘部の筋移行術を施行した.術後,両症例共下垂時の亜脱臼は消失したが,症例2では三角筋力低下がみられた.

母指球部皮膚を用いた新しい知覚皮弁

著者: 面川庄平 ,   水本茂 ,   岩井誠 ,   福居顕宏 ,   玉井進

ページ範囲:P.1285 - P.1290

 抄録:手指の知覚再建に,模骨動脈浅掌枝を栄養動脈とする母指球橈側部の皮膚を用いた新しい知覚皮弁を考案した.皮弁の支配神経は橈骨神経浅枝の分枝である.知覚獲得の可能な範囲は母指球橈側部の約3×5cmであるが,橈骨動脈弁皮と連続させてさらに大きな皮弁を採取することができる.今回,2症例に対して本皮弁移植を施行した.症例は21歳,18歳の男性で,いずれも有茎皮弁術後の母指および示指の知覚再建を目的に本皮弁を遊離移植した.皮弁の大きさはそれぞれ5×15cm,3.5×5cmで,神経は指神経に縫合し橈骨動脈を同時に再建した.術後平均13カ月の現在,S-W testで3.22(blue),m-2PDで平均5mmと知覚回復は良好である.本皮弁の利点は,皮膚の構造が指腹部と類似していること,皮弁採取部には機能障害が残らないこと,足からの遊離皮弁と比べて手技的に容易であり患肢から採取可能なことなどであり,手指の知覚再建に新しい選択肢となり得る.

外傷性三角線維軟骨損傷の鏡視下部分切除後に再断裂を生じた2症例の経験

著者: 西川真史 ,   一柳一朗 ,   新戸部泰輔 ,   三東武司 ,   小野睦

ページ範囲:P.1291 - P.1294

 抄録:手関節鏡は,三角線維軟骨(以下TFCと略す)損傷の診断・治療に有用で,鏡視下TFC部分切除が行われる.今回,部分切除後に再断裂例を経験したので,検討を加えて報告する.切除範囲は鏡視下に前腕回内外してTFCの動きを観察し,断裂辺縁が尺骨に引っ掛かったり持ち上がる部分のみとしている.現在まで65例65関節に鏡視下部分切除を施行しTFC再断裂を経験した2例を対象とした.
 2症例とも2回目の断裂がTFCの切除辺縁部位に連続する表層断裂であった.このことは2例ともTFCが厚く切除辺縁部分が切り立っていたことから,尺骨と手根骨で挾まれて断裂辺縁が擦り切れるようなストレスがかかって表層断裂を生じたと考えている.結論として,TFC部分切除は前腕回内外での尺骨頭への引っ掛かりがなくなるまでの範囲とし,さらにTFCが厚い場合は切除辺縁を段差なくスムースになるように十分トリミングすることが大切であると考えている.

非骨傷性頚髄損傷例の受傷早期MRIよりみた検討

著者: 朴珍守 ,   栄輝巳 ,   内田洋子 ,   古代裕次郎 ,   安松英夫 ,   吉野和孝 ,   平川敬

ページ範囲:P.1295 - P.1299

 抄録:単純X線上明らかな脱臼や骨折を認めず,非骨傷性頚髄損傷と診断された症例のなかに,わずかな椎体アライメントの不整を認める症例を経験し,受傷早期の状態を単純X線とMRIを用いて検討した.対象は,1989年から1993年の4年間に当院受診した30例(男24例,女6例)で,年齢は31歳から83歳(平均62.8歳)である.10例に単純X線で椎体アライメントの不整を認め,受傷早期(24時間以内9例,48時間以内1例)のMRIでは,すべての症例でアライメントの不整部位に一致してTI iso,T2 highの髄内信号変化を認め,不整部位に一致して脊髄損傷があることが認められた.
 このことは,X線上骨傷がないように見えるのは,患者の移送や本来の弾性で元の位置に戻っているだけであり,受傷時には脱臼などの骨傷があり,この脊椎構築上の変化が頚髄損傷の原因と考えられ,いわゆる非骨傷性ではないと考えられた.

両側外傷性肩関節前方脱臼の1例

著者: 今村貴和 ,   水野隆広 ,   国島康文

ページ範囲:P.1300 - P.1301

 抄録:症例は80歳,女性.両上肢前方挙上位で前方に転倒,受傷した.右側に腕神経叢不全麻痺を合併していた.脱臼の整復は容易であり,整復後約2週間の外固定を行った.その後8カ月の経過では再脱臼なく,麻痺の回復も順調である.

Chiari奇形・脊髄空洞症を合併したAlbright症候群の2例

著者: 佐藤隆弘 ,   原田征行 ,   植山和正 ,   伊藤淳二 ,   三戸明夫 ,   田偉

ページ範囲:P.1303 - P.1306

 抄録:われわれは,多発性線維性骨異形成,皮膚色素沈着,内分泌異常を3徴とするAlbright症候群に,Chiari奇形・脊髄空洞症を合併した2症例を経験した.
 症例1:30歳女性.主訴は後頭部痛,全身脱力感.手術は後頭下減圧術及びSPシャント術を行った.
 症例2:32歳男性.主訴は右手巧緻性障害と四肢麻痺.手術は後頭下減圧術及びSSシャント術を行った.両者とも術後MRIでは,脊髄空洞の縮小は若干認めるのみだが,臨床症状の軽減を得た.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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