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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科29巻3号

1994年03月発行

雑誌目次

視座

インフォームド・コンセントと医療紛争

著者: 水野耕作

ページ範囲:P.229 - P.229

 インフォームド・コンセントという言葉が日常聞き慣れたことばになっている.医師と患者とのより良い関係と,両者の納得のいく医療を行ううえで大変重要なことである.英語での日常語となったものだから,なにか新しいことをするような,近代的な医療をするような錯覚に陥る.患者に正しく説明をし,納得を得たうえで医療を行うことは,今更いわれるまでもなく,昔から医師として当然行っている行為である.これが新聞などのマスコミなどに取り上げられ,一般世間にもこの言葉が知られるようになったにすぎない.そこで「そのようなことは聞いていない」ということを得々と主張し,病気を治癒させることよりも説明を優先させる患者さえ出現する.それに加えて,医療問題を担当する弁護士も多くなり,医療紛争が多くなっている.
 わたしも立場上,医療紛争の鑑定人としてこれまで25件以上の鑑定を行い,鑑定書を提出してきた.人間の罪に影響する大事なことと考えて原稿用紙20枚以上にまとめることにしているので,論文1編以上にも値する時間と労力を費やす.これらの事件のなかには,なるほどお粗末な医療行為で訴訟となって当然のような内容のものも多い.しかし,なかには立派な医療内容でありながら,言葉足らずや意志の疎通を欠くために誤解され,訴訟に持ち込まれたと思われる件数も少なくない.いわゆるインフォームド・コンセントの得られていない例である.非常に残念でならない.

論述

Knee Arthrometer(KT-2000)による後十字靱帯損傷膝の不安定性の評価について

著者: 今本雅彦 ,   松本秀男 ,   冨士川恭輔 ,   竹田毅 ,   中村光一 ,   阿部均

ページ範囲:P.230 - P.234

 抄録:PCL損傷膝の不安定性の徒手検査は一般に仰臥位で行うが,この肢位では下腿自重のため脛骨顆部が既に後方に変位しているので,不安定性が前方か後方かの判定や細かい病態の把握が困難なことが少なくない,今回我々はKT-2000 Knee Arthrometerを用いて,臨床的にPCL単独損傷と診断した19例19膝(健側を対照)について133N前方負荷時,89N後方負荷時の関節の前後方向変位量,stiffnessを計測した.その結果,前後総変位量は患側が健側より増大し(P<0.01),測定開始時のstiffnessは患側が健側に比し低下していた(P<0.01),しかし前方および後方負荷時のstiffnessは患健側間に有意差を認めなかった.今回の計測により,臨床的にPCL単独損傷と診断される例の中にもPCLを中心とした膝後方制動機構に様々な病態があり,時にはsubclinicalなACL機能不全を合併している例が存在することが示唆された.

人工膝関節置換術後の機種別臨床成績と膝可動域

著者: 宮津誠 ,   徳広聡 ,   船越洋 ,   竹光義治 ,   山下泉 ,   小野寺信男 ,   小野沢敏弘

ページ範囲:P.235 - P.240

 抄録:人工膝関節置換術(以下TKR)により治療を受けた変形性膝関節症(以下OA膝)患者の臨床成績と膝関節可動域を3機種について検討した.対象および方法は,末期OA膝患者であり,total condylarタイプ1/B I(以下TC群)で置換を受けた症例は18膝で平均観察期間は82カ月,PCAタイプは10膝で平均観察期間60カ月,Miller-GalanteタイプI(以下MG群)は42膝,平均観察期間36カ月であった.以上の症例の臨床成績,膝関節可動域,X線評価を比較した.結果,①臨床成績は3群とも良好であった.②術後膝屈曲角,可動域ともMG群ではTC群に比べ有意によかった,PCA群とは差はなかった.③MG群では術前後の膝可動域に正の相関がみられた(R=0.427).④MG群で膝蓋骨コンポーネントの脱臼が3例にみられた.

中高齢者における前十字靱帯再建術の検討

著者: 豊田敬 ,   冨士川恭輔 ,   松本秀男 ,   竹田毅

ページ範囲:P.241 - P.246

 抄録:Leeds-Keio人工靱帯による前十字靱帯(以下ACL)再建術を施行した40歳以上の症例26例27膝の術後成績を検討した.術中14膝に半月板損傷を,17膝にgrade 2以上の軟骨変性を認めた.術後は27膝中25膝に良好な関節安定性が得られ,4膝に軽度の関節可動域制限を認めた,日常生活動作中の疼痛は5膝に認めたが,大腿内側顆のgrade 2以上の軟骨変性に内側半月板切除が加わると有意に疼痛の発生頻度が高かった.中高齢者は既に関節軟骨や半月板の退行性変性など変形性関節症(以下OA)の基盤が高率にあり,これが術後疼痛の原因となり易いことなどから,一般にACL再建術の適応外とされている.しかし今回の結果より,中高齢者においても多くの症例で良好な関節安定性が得られスポーツ活動に復帰しており,患者の活動性,関節不安定性の程度,motivation,OA変化の程度を慎重に考慮すれば,若年者に劣らぬ術後成績が期待できる.

腰椎椎間板内ガスの由来と椎間板変性について

著者: 吉田裕俊 ,   中井修 ,   黒佐義郎 ,   鵜殿均 ,   山田博之 ,   大谷和之 ,   山浦伊裟吉

ページ範囲:P.247 - P.252

 抄録:腰椎椎間板内に生じる透亮像は,vacuum現象として知られているが,実際には同部は真空ではなく,ガスが存在しているとされている.その発生には,高度に変性した椎間板が関与しているとの報告があるものの,その発生の由来および病態については未だ不明のままである.そこで,腰椎椎間板内ガス像を認める椎間の画像診断上の特徴を検討し,椎間板変性との関係について言及すること,腰椎椎間板内ガスの由来及び病態を考察することを今回の研究目的とした.その結果,腰椎椎間板内ガス像を認める椎間には,椎間板腔狭小化が88%,脊髄造影で,椎間板膨隆が80%,CTで終板破壊が95%,MRI上,終板軟骨下骨輝度変化が76%に認められた.終板の破壊性変化部位に一致したガスの存在や,終板の欠損部にもガスが存在していることから,椎間板内ガスは腰椎伸展などにより生じた椎間板内陰圧部に,椎体内血液から終板を経由し発生したものと考えられた.

末梢神経に発生した神経鞘腫の臨床診断とキューサーによる治療

著者: 森本一男 ,   黒石昌芳 ,   富田佳孝 ,   指方輝正

ページ範囲:P.253 - P.258

 抄録:1986年以降に当院で治療した末梢神経発生の神経鞘腫は17例であった.これらの症例の臨床症状,MRの所見,我々の試みているキューサーによる掻爬の結果を報告した.
 発生年齢は平均51.6歳,多発症例が3例,特に好発部位は見られなかった.術前の臨床症状で圧痛と放散痛を認めたものは9例,神経症状は4例で,注意深く観察すれば神経鞘腫の臨床診断は可能である.画像診断でMRIが最も有用で8例に行った.神経束との関連性が写しだされ,T1強調像でlow,T2強調像でhighとlowの混合像を示し,他の軟部腫瘍との鑑別に役立った.T2強調像はAntoni AとBの混合の割合が写し出され,病理組織像とMRIの像が連動していた.9例にキューサーによる掻爬を施行し,局所再発はなく,2例に知覚鈍麻と1例に運動麻痺の合併症を認めたが3カ月で回復した.神経鞘腫は安易に摘出すれば神経の欠落を生ずる.術前の臨床診断の重要性とMRIが有用であることを強調した.

revision前十字靱帯再建術式における問題点とその解決方法

著者: 安田和則 ,   大越康充 ,   真島任史 ,   井上雅之 ,   辻野淳 ,   金田清志

ページ範囲:P.259 - P.266

 抄録:ACL再建術自験例361例中で経験したrevision ACL再建症例15例を対象とし,revision ACL再建術の問題点とその解決方法を明らかにした.初回手術時の代用材料は自家腱およびLeeds-Keio人工靱帯が用いられていた.骨孔位置の不良は初回手術失敗の大きな原因となっていた,関節内からの自家材料の除去は通常の手術手技で容易であったが,関節内に位置した人工靱帯の完全除去は容易ではなかった.正しい位置に新しい骨孔を作成することはrevision手術における最大の問題点の一つであり,特に既存の骨孔が軽度前方に存在する場合には,関節内開口部は近似していても他の部位が空間的に異なるように新しい骨孔を作成することが必要であった.どうしても適正な骨孔を作成できない2症例ではover-the-top routeを使用した.自家屈筋腱および人工材料からなるハイブリッド代用材料とstapleの組み合わせは.revision ACL再建術においても高い有用性,汎用性が期待された.

先天性筋性斜頸の長期予後

著者: 野口康男 ,   井原和彦 ,   杉岡洋一 ,   大石年秀

ページ範囲:P.267 - P.270

 抄録:筋性斜頸は自然治癒率が高いが,その長期予後の研究は少ない.今回我々は,当科を昭和50年以降に生後3カ月以内で受診し,徒手筋切り術を施行することなく経過観察し1歳6カ月以上となっている203例について追跡調査を行なった.このうち1歳以後まで経過観察されていた97例のうち17例が手術を受けており,手術を要する割合は10~20%程度と推定された.また,今回追跡調査可能な68例について遺残変形を検討したところ,矯正可能な2°以上の斜頭位45%,2°以上の顔面の側彎33%,斜頭指数0.95以下の斜頭変形61%,5mm以上の頭部の側方変位39%など,斜頸のなごりを示す症例がしばしば見られ,筋性斜頸では高率に変形を遺残することが明らかとなった.しかしながら,その約半数は本人や家族には認識されておらず,あまり支障とはなっていなかった.

手術手技 私のくふう

仙骨部褥瘡に対する大殿筋皮弁,Dufourmental flapの治療経験

著者: 長谷川正裕 ,   田中肇 ,   中川重範 ,   舘かおる ,   佐々木浩樹 ,   冨田良弘 ,   松久正 ,   橋本健治

ページ範囲:P.271 - P.274

 抄録:仙骨部褥瘡18例に対して,大殿筋皮弁を7例に,Dufourmental flapを11例に用いてほぼ良好な成績が得られたので報告した.褥瘡の大きさは大殿筋皮弁例では5×5cm~15×7cm,Dufourmental flap例では3×3cm~7×6cmであった.15例は生着良好であった.しかし,大殿筋皮弁例の1例が孔形成,1例が部分生着となり,Dufourmental flap例の1例が部分生着となった,再発はみていない.大殿筋皮弁は血行が非常に良好であり,感染に対しても抵抗力が強い.筋組織がクッションの役割をし,再発の心配が少ない.歩行不能例で,骨が露出するような深い広範な褥瘡で幅が8cm以下なら片側の大殿筋皮弁の適応と考える.また,Dufourmental flapは正常組織の剥離,切除は少なく出血量も少ない.歩行可能例の褥瘡で,直径が10cm以下ならDufourmental flapの適応と考える.

整形外科を育てた人達 第124回

Harold Jalland Stiles(1863-1946)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.276 - P.277

 Stilesは指の腱の屈曲拘縮に対し腱の移行術を最初に行った人である,最初は余り良い成績を得られなかったが,Stilesの名は,手の外科の開拓者Bunnellに認められて,手の拘縮の治療の著書をForrester-Brownと共著で『Treatment of Injuries of the Peripheral Spinal Nerves』を出版して,知られるようになった.この本は,神経麻痺の回復しないときは腱移行術で麻痺による障害を克服出来ることを紹介したもので,外科医の好評を得た.Stilesは手術で名を上げたが,尿管の移植術の開拓者でもあり,またEdinburghに無腐手術を早くから導入した,英国では忘れられない外科医である.

整形外科英語ア・ラ・カルト・20

“backbone”に関する日常医学英会話

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.278 - P.279

 “backbone”もすでに“バック・ボーン”として気骨,重要要素,精神的支柱などを意味する日本語に使われている.“backbone”の発音は“ベック・ボォウン”と,前にアクセンがある.
 解剖的な背骨を意味するときには,医学的には“spine”(スパイン)や“vertebra”(ヴァーテブラ)を使う.しかし,通常背骨を指すときには,複数のことが多く,“spines”(スパインス)や“vertebrae”(ヴァーテブリ)を使う.

基礎知識/知ってるつもり

Rotator interval

著者: 三笠元彦

ページ範囲:P.280 - P.281

 【解剖】(図1)
 rotator intervalとは,本邦では腱板疎部と呼ばれているが,腱板の中の棘上筋腱と肩甲下筋腱の間をさし,関節包とそれをおおっている滑液包からなる.表層は棘上筋腱から連続して,烏口上腕靱帯が覆い,肩甲下筋腱とは腱性の連続はない.靱帯の下面は折り返すようにして,関節包につながっている1).烏口上腕靱帯は烏口肩峰靱帯の下面で烏口突起から発し,末梢は肩甲下筋腱,上腕二頭筋長頭腱腱鞘,棘上筋腱に移行している.4足動物においては,小胸筋の停止部は上腕骨の大胸筋付着部の上縁にあった.それが2足動物になって小胸筋腱が途中の烏口突起に停止し,そこから末梢が烏口上腕靱帯になったと言われている.その名残として,小胸筋腱が烏口突起を越えて小結節に付着しているものが,屍体解剖例の約37%に認められている2)

臨床経験

Triple wiring環軸椎後方固定

著者: 嶋村正 ,   山崎健 ,   菅義行 ,   鈴木正弘 ,   阿部正隆

ページ範囲:P.283 - P.289

 抄録:環軸椎間の内固定力強化を図る目的で,triple wiringによる環軸椎後方固定を各種例の12例(慢性関節リウマチ5,外傷性環軸椎亜脱臼3,歯突起形成不全2,脳性麻痺1,原因不明1例:前方亜脱臼10,前後亜脱臼2例)に行った.全例に骨癒合,症状改善・ADL向上を得,成績は優4,良7,可1例であった.鋼線折損,偽関節,感染例は認めなかった.中下位頸椎に縦割拡大術を併用した2例では術後の頸椎運動制限が著しかった.2種類の正中部鋼線締結により,直接的に環軸椎弓間を至適方向に矯正・制動固定できた.後続の両外側部鋼線締結と相まって3点固定となり,強固な内固定性が得られ,術後の外固定の簡略化が図れた.形態的・機能的特殊性により,可及的制動効果の内固定が望ましい環軸椎後方固定に,triple wiring法は有用な一法であった.

当科におけるバイオセラム型人工股関節(京セラ型)5年以上経過例の臨床成績

著者: 中村正則 ,   宮岡英世 ,   本望潤 ,   森有樹秀 ,   藤巻悦夫

ページ範囲:P.291 - P.296

 抄録:当科において術後5年以上経過したバイオセラム型人工股関節の臨床およびX線学的検討を行った.対象は28例33関節で手術時年齢は平均57.7歳,術後経過観察期間は平均6.2年である.最終調査時のJOA scoreは平均82.2点であった.X線所見はclear zoneを長屋のstage分類で評価,stageIII,IVを呈したものは9関節(27.2%,うち4関節は高位脱臼例)であった,またDEXA法により腰椎L2~L4の平均骨密度を測定したところ,stage III,IV群が有意に低値であった.stage III,IVを呈した9関節のうち,片側例は2関節のみで明らかに両側例の成績が不良であった.またstage III,IVを呈したソケットはすべて40または42mmで小さい径の成績が悪かった.また,骨頭中心の位置が,内側および上方になりすぎないよう骨移植を併用したものに良好な成績が得られた.現時点では,revision例はなく,満足する結果が得られている.

先天性腓骨欠損症の2例―保存療法による長期追跡結果

著者: 内田篤宏 ,   三宅良昌 ,   松下具敬 ,   今谷潤也 ,   柴田大法

ページ範囲:P.297 - P.301

 抄録:先天性腓骨欠損症に対して保存的治療を行った20歳と22歳の男性2例について報告する.
 症例はそれぞれ2カ月,11カ月時当園初診した.共に脚長差,趾の欠損があり,X線上腓骨の完全欠損,脛骨の短縮を認め,Achtermanの分類によるとtype IIであった.1例は脛骨前方凸変形に対して矯正骨切り術および膝の外反変形に対してepiphyseal staplingを施行した.
 2例共に幼児期には補高靴,学童期からは二段足義足を成長とともに更新してゆき,普通校へ独歩にて通学可能であった.
 最終脚長差は各々16cm(23.5%),15cm(17.2%)と比較的大きいが,共に屋外では二段足義足の使用により,日常生活に全く支障のない歩行能力を獲得し,疼痛もなく現状に十分満足している,治療期間の長い脚延長術,受け入れられにくい切断術を考えると,装具療法も有効な治療法のひとつであると考える.

ガングリオンによる浅腓骨神経絞扼障害の1治験例

著者: 菊地淑人 ,   高橋正憲 ,   植野満 ,   徳永祐二

ページ範囲:P.303 - P.305

 抄録:ガングリオンによる絞扼神経障害は日常比較的よく見られる疾患であるが,浅腓骨神経の絞扼障害をきたした例は極めて稀である.今回われわれはその1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は48歳,女性.1990(平成2)年10月頃より,右足関節外側より足背にかけての疼痛が生じ,1991(平成3)年2月当院を受診した.右下腿遠位部外側に2cm大の腫瘤を触れ,同部に圧痛,およびTinel様徴候を認めた.足背外側部に知覚障害を見たが,運動障害は認めなかった,以上より神経性腫瘍を疑い,手術を施行した.手術時,浅腓骨神経の下腿筋膜貫通部近位にガングリオンと思われる多房性の腫瘍が存在し,同部で浅腓骨神経は圧迫されていた.茎部を追跡すると前脛腓靱帯から発生しているのが確認された,根部を含め腫瘍は完全に摘出した.術後直ちに疼痛は消失し,現在のところ症状の再発は見られていない.

肋骨に発生した脱分化型軟骨肉腫の1例

著者: 土肥潤二 ,   茶野徳宏 ,   石沢命仁 ,   松本圭司 ,   福田眞輔 ,   岡部英俊

ページ範囲:P.307 - P.310

 抄録:脱分化型軟骨肉腫は1971年DahlinおよびBeaboutらが報告したもので,分化した軟骨肉腫に脱分化が起こり,軟骨肉腫の組織と接して未分化な線維肉腫や骨肉腫の組織が混在する腫瘍である.本邦では今まで11例の報告がある.最近我々は比較的稀な肋骨に発生した本症を経験したので若干の文献的考察を加えて報告した.症例は,80歳女性で,14年間の緩徐な経過の後,急速に増大する腫瘤と疼痛を訴えた.生検にて脱分化型軟骨肉腫と診断され当科に紹介された.治療として根治手術は事実上不可能であったが,quality of lifeを考慮しmarginal resection,放射線治療を施行した.組織学的には,gradelの軟骨肉腫組織にMFH様の組織が接していた.また臨床経過および組織所見から脱分化した部位での細胞増殖の活発な事を推測し,Bromodeoxyuridineモノクローナル抗体を用いたin vitro標識法によりこれを確認した.

頸椎後方除圧と胸椎前方後方除圧固定術を行った多発性脊柱靱帯骨化症の1例

著者: 中島靖行 ,   清水敬親 ,   石井秀幸 ,   島田晴彦 ,   馬場秀幸 ,   宇田川英一

ページ範囲:P.311 - P.314

 抄録:頸胸椎にわたる多発脊柱靱帯骨化症に対してはその高位診断に苦慮する場合が多く,上肢症状など頸椎由来の神経学的所見に乏しい場合,胸椎病変に限局した除圧術が行われているが,その治療成績は必ずしも十分なものとはいえない.
 我々は,spinal cord dynamicsの観点から脊髄圧迫病変に対して,画像上圧迫が明らかである範囲に留まらず,除圧操作による脊髄の移動により新たに除圧端での脊髄係留が生じ得るという可能性を考えた.そこで,頸胸椎多発脊柱靱帯骨化症例に対し,まず頸椎から上位胸椎を広く後方除圧し,胸椎除圧により生じることが予想される頸胸移行部の脊髄係留に対処して,その後,胸椎病変部の前方除圧を行うことが望ましいと考えた.その結果,術後神経学的にも画像上も著しい改善がみられたので報告した.

大腿骨骨折を繰り返した成人型ビタミンD抵抗性骨軟化症の1例

著者: 松山敏勝 ,   宮嶋俊定 ,   成田寛志 ,   山下敏彦 ,   長森正史 ,   坂本直俊 ,   石井清一

ページ範囲:P.315 - P.319

 抄録:72歳の女性.大腿骨骨折を繰り返して歩行が困難であったが,手術療法と1α OH VD3の大量療法で歩行が可能となった1症例を経験した.既往歴,家族歴には特記すべきことはなかった.1990年夏頃より腰背部痛を自覚して数カ所の病院で入退院を繰り返した.1991年12月12日当科を受診したが,X線像で高度の骨萎縮と骨改変層を認めた.また低リン血症と血清ALP高値を認めた.25 0H VD3は正常で,1,25(OH)2VD3は高値であった,PTH,カルシトニン,甲状腺機能は正常であった,入院中の1991年12月24日と1992年6月11日に,左大腿骨骨折を生じて手術を施行した.手術時の骨生検では著明な類骨の増加を認めて,成人型ビタミンD抵抗性骨軟化症と診断した.全身の腫瘍性病変は認めなかった.さらに1α OH VD3を4μg/日投与することで臨床症状と血清リン,ALP値が改善して,骨癒合が得られて独歩が可能となった.

除圧椎弓切除と椎間板切除により20年来の夜尿症が改善した先天性腰椎後側彎症

著者: 大島博 ,   山上亨 ,   遊道和雄 ,   長田龍介 ,   松井寿夫

ページ範囲:P.321 - P.324

 抄録:夜尿症と腹圧性尿失禁に悩む20歳の先天性腰椎後側彎症の女性に対して除圧椎弓切除術と椎間板ヘルニアおよび椎体骨棘切除術を施行した.術後2週より排尿障害の改善を認め,術後1年半の現在,夜尿,腰痛は消失した.
 馬尾絞扼および緊張の解除により核上型神経因性膀胱による夜尿症と核下型神経因性膀胱障害による腹圧性尿失禁がともに改善していることが,膀胱内圧測定および尿道内圧測定検査により確認された.

頸胸椎移行部硬膜外膿瘍の1例

著者: 藤田義嗣 ,   䄅公平 ,   川那辺圭一 ,   中山威知郎 ,   清水基行 ,   岡田欣文

ページ範囲:P.325 - P.329

 抄録:脊髄硬膜外膿瘍は稀な疾患である.今回,急激に四肢の麻痺症状を来たし,手術により頸胸椎移行部硬膜外膿瘍と診断しえた症例を報告する.
 症例は61歳女性.強い背部痛で発症し,約10日の経過で四肢の脱力感としびれが出現,尿閉を来たした.MRIで第6頸椎から第1胸椎の範囲で椎体の後方硬膜外にT1強調で低信号,T2強調で高信号を示し,不均質な増強効果を呈する占拠性病変を認めた.発熱はなく,白血球増多もないため腫瘍性病変を疑ったが,手術により前方硬膜外から膿を排出し,硬膜外膿瘍と診断できた.
 脊髄硬膜外膿瘍の診断及び治療上の問題点について考察した.

三角骨障害に合併した足根洞症候群の1例

著者: 小泉宗久 ,   杉本和也 ,   高岡孝典 ,   秋山晃一 ,   平井利幸 ,   長谷川克純 ,   高倉義典 ,   田中康仁 ,   玉井進

ページ範囲:P.331 - P.333

 抄録:足根洞症候群は主に足関節の外傷,特に捻挫後に発症することが多いが,今回われわれは明確な外傷歴のない三角骨障害に合併した本症候群を経験した,症例は53歳の男性で林業に従事していた.主訴は左後足部痛で単純X線像にて三角骨の存在を認めた.臨床所見としてperoneal spastic flat footと外果後方の腫脹および圧痛を認めた,数回の局麻剤注入にも永続的な効果が得られなかったため三角骨摘出術を施行した,術後,後足部の疼痛は消失したが2カ月後には足根洞の疼痛が出現した.足根洞への局麻剤の注入が有効であることから足根洞症候群を疑い,足根洞搔爬術を施行した.摘出標本では組織学的に線維性組織及び脈管系組織の増生とごく軽度の円形細胞の浸潤がみられ,その炎症所見より足根洞症候群が考えられた.術後,症状は消失した.本症例では三角骨の摘出により距踵関節の不安定性が加味されて,症状が顕性化してきたと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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