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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科29巻4号

1994年04月発行

雑誌目次

特集 椎間板―基礎と臨床(第22回日本脊椎外科学会より)

椎間板―基礎と臨床

著者: 辻陽雄

ページ範囲:P.340 - P.341

 平成5年6月に富山市で開かれた第22回日本脊椎外科学会は,脊柱退行変性に基づく多くの疾病構造の形成に中心的役割を演じる椎間板に焦点をあて,老化脊柱における病態を一層明らかにしようと,「椎間板―基礎と臨床」と題し,集中的に討議をしました.323演題の報告のうち,約290題がこの主題に関するものであり,口演はすべてシンポ形式になるよう皆様に御努力いただきました.お陰で意義深いものとなったように思います.
 すべての臨床における診断治療の方略はサイエンスの上に成り立つとの認識に立った企画であり,正にこの方面の研究者の層と中身の進展は予想外のものであったように感ぜられます.本特集号は,この323題の発表論文の中から選考委員40余人によって推薦された上位25の論文であり,臨床整形外科特集号として今年も発刊することができました.医学書院の御好意に感謝いたします.

X線シネ撮影による正常下位腰椎椎間板の連続変形挙動に関する研究―前・後屈における変形とその位相差

著者: 金山雅弘 ,   鐙邦芳 ,   金田清志 ,   但野茂 ,   鵜飼隆好

ページ範囲:P.343 - P.349

 抄録:〈目的〉前屈・後屈運動中の下位腰椎の動態を連続的に測定し,L3/4,L4/5,L5/S1椎間板の生体内変形挙動およびそれらの相互関係を明らかにする.〈対象と方法〉腰椎疾患の既往のない健常男性8人を対象に,立位における最大前屈・後屈運動中の下位腰椎のX線シネ撮影を行い,この画像をもとに各椎間板の変形挙動を解析した.〈結果〉前屈では,各椎間板は前屈開始からある時間差をおいて急激に変形し始め,前屈終了前にほぼ一定の変形状態となった,一方,後屈では,L5/S1を除いて,椎間板の変形はほとんど生じなかった.また,前屈において,下位腰椎の各椎間板間には,その変形挙動に明らかな位相差が存在した.すなわち,下位腰椎では,L3/4,L4/5,L5/S1と,上位から順に椎間板の変形が生じることが明らかとなった.これは,前屈における下位腰椎の椎間運動に位相差があることを示している.

椎間板の水拡散および基質合成能と力学的ストレス

著者: 大島博 ,   石原裕和 ,   寺畑信男 ,   平野典和 ,   長田龍介 ,   辻陽雄

ページ範囲:P.351 - P.356

 抄録:さまざまな力学的ストレス環境下での椎間板の水の拡散および基質合成を検討した.椎間板に必要な栄養物質の流入,老廃物の排出は主に拡散によるが,物質の移行に重要な椎間板の水の拡散は種々の力学的ストレスにより変化する.すなわち過度の圧縮荷重は主として髄核組織の水の拡散を抑制し,振動負荷は逆に促進させるが,牽引負荷は外層線維輪を除いては大きな影響を与えない.プロテオグリカン合成能は長時間の過度の静的あるいは振動荷重により抑制される.それは荷重に伴う椎間板内圧の亢進,振動による散逸エネルギーの吸収による椎間板細胞周囲環境の変調に基づくと考えられる.牽引負荷の椎間板基質合成能に及ぼす影響は圧縮,振動負荷に比べると少ない.以上より長時間あるいは繰り返しの過度の力学的ストレスは椎間板の基質合成を抑制し,基質含量の低下から椎間板変性を導く可能性があるとみられる.

椎間板の酸素消費,乳酸産生および基質合成と組織酸素分圧

著者: 石原裕和 ,   平野典和 ,   大島博 ,   辻陽雄 ,  

ページ範囲:P.357 - P.361

 抄録:基質酸素分圧が椎間板細胞代謝に及ぼす影響を明らかにするため,培地中の酸素分圧を1%から21%まで変化させた時の牛尾椎椎間板,髄核,外層線維輪の酸素消費量,乳酸産生量およびプロテオグリカン,プロテイン合成能の変化を調べた.また嫌気性,好気性解糖の阻害剤を用いて,エネルギー産生系と基質合成についても検討した.培地の酸素分圧を1%から21%まで増加すると酸素消費量は指数関数的に増加し,逆に嫌気性代謝産物である乳酸産生量は1%から10%まで酸素分圧の上昇とともに急速に低下した.低酸素分圧においてはプロテオグリカン,プロテイン合成の低下が起った.エネルギー産生の面からは基質合成には嫌気性,好気性代謝ともに重要であり,特にプロテイン合成には好気性代謝が重要であった.酸素分圧の低下は好気性代謝から嫌気性代謝へと椎間板エネルギー産生系を変化させ,基質合成能の低下をもたらす.かくして,椎間板への酸素供給の低下は,椎間板変性の大きな一要因となる可能性がある.

変性椎間板におけるbFGFの作用―動物モデルを用いた解析

著者: 永野隆 ,   宮本紳平 ,   米延策雄 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.363 - P.368

 抄録:塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)は培養椎間板細胞の増殖・基質合成を促進するという報告がある.では,このbFGFは椎間板の変性時にも実際に作用し,病態に関与しているのであろうか? この点を明らかにする目的で,我々はラット椎間板においてbFGFを有する細胞およびFGF受容体(FGF-R)遺伝子を発現している細胞を検索し,かつそれら陽性細胞の増殖能を調べた.その結果,変性椎間板の内部(正常椎間板では線維輪に相当する位置)にはbFGFを産生しかつFGF-RmRNAを持つ軟骨細胞(正常時にはなかった)が存在し,その軟骨細胞は正常椎間板で同じ位置に存在する細胞(正常線維輪細胞)よりも旺盛に増殖していることがわかった.培養椎間板細胞に対するbFGFの既知の作用をこのモデルにも敷衍し得るならば,この結果は椎間板変性病態へのbFGFの関与を示唆するものである.

ヒト変性椎間板におけるMMP-3,TIMP-1産生に及ぼすIL-1,IL-6の作用

著者: 根本理 ,   山岸正明 ,   菊地寿幸 ,   尾関雄一 ,   新名正由

ページ範囲:P.369 - P.376

 抄録:椎間板のマトリックス破壊においても,関節軟骨と同様にMatrix metalloproteinases(MMPs),とりわけMMP-3の役割が注目されてきている.そこでMMP-3及びその特異的インヒビターであるTissue inhibitor of metalloproteinases-1(TIMP-1)産生に及ぼすinterleukin-1(IL-1),interleukin-6(IL-6)の影響を.ヒト変性椎間板組織を用いて検討した.その結果,IL-1はTIMP-1産生に比し,MMP-3産生をより優位に促進させた.一方.IL-6はMMP-3産生に影響を及ぼさずにTIMP-1産生を促進することが明らかとなった.以上の結果は,椎間板においてIL-1はマトリックス破壊におけるcatabolic factorとして,IL-6はanabolic factorとして作用している可能性を示唆するものであった.

腰椎椎間板ヘルニア組織中における炎症性サイトカインの検討

著者: 高橋寛 ,   勝呂徹 ,   岡島行一 ,   茂手木三男 ,   岡田弥生 ,   垣内史堂

ページ範囲:P.377 - P.382

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアによる根性坐骨神経痛の発現に,ヘルニア腫瘤の機械的圧迫に加えて,ヘルニア組織中に存在する炎症性サイトカインの関与を想定し検討を行った.ヘルニア組織中からは各種炎症性サイトカインの検出が可能であった.サイトカイン産生細胞として,protrusion typeでは軟骨細胞,extrusion,sequestration typeでは,組織球,線維芽細胞,血管内皮細胞などの肉芽組織を構成する様々な細胞であることが知られた.ヘルニア組織培養上清中からは,各種炎症性サイトカインと催炎物質であるプロスタグランジンE2の産生が確認され,これらはステロイド剤の添加により抑制された.以上の結果より,腰椎椎間板ヘルニアによる根性坐骨神経痛発現の主要因の一つとして,ヘルニア組織中のサイトカインの作用により,椎間板組織あるいは肉芽組織中に産生されたプロスタグランジンE2による神経根の炎症性刺激が考えられた.

腰椎脱出椎間板組織の免疫組織化学的検討

著者: 土井田稔 ,   金谷貴子 ,   原田俊彦 ,   松原司 ,   水野耕作

ページ範囲:P.383 - P.388

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアの症状の発現や経過は多様であり,特に脱出型ヘルニアでは,症状の自然寛解例やMRIでヘルニア組織の縮小や消失が確認されている.病理組織学的には,脱出型ヘルニア組織の33%,遊離脱出型ヘルニア組織の全例に単核球を主とした炎症細胞浸潤を認め,一部の組織では小血管像を伴っていた.これらの細胞はIL-1,TGF-β,bFGFなどのサイトカインや細胞増殖因子が陽性に染色され,局所の炎症反応の活性化や慢性化に重要な役割を担っていることが示唆された.一方,in vitroの実験でも炎症細胞浸潤を伴うヘルニア組織内の細胞は,ヒト血管内皮細胞や線維芽細胞の増殖を有意に促進することが認められた.このことより,椎間板ヘルニアが硬膜外腔へ脱出すると炎症反応が惹起され,炎症細胞浸潤や新生血管の侵入が起こり,炎症の慢性化およびヘルニア組織の破壊,吸収過程が進行することが考えられる.

冷凍椎間板同種移植の実験的試み

著者: 勝浦章知 ,   福田眞輔

ページ範囲:P.389 - P.394

 抄録:脊椎手術時,神経除圧後に椎間可動性を温存させるための試みとして,冷凍保存同種椎間板移植の動物実験を行い,臨床応用の可能性について検討した.雑種成犬から胸腰椎を椎体,椎間板コンプレックスとして採取し,凍結保護剤としての10%DMSOとともに緩徐凍結,冷凍保存した.急速解凍後,椎間板の組織学的評価と35S radioactivityを測定した.また,コンプレックスを他犬に移植し,経時的にX線学的,組織学的に評価した.その結果,緩徐凍結保存は椎間板にたいして組織学的に影響を与えないが,基質合成能は4週保存で正常椎間板の44%に低下した.移植手術群においては,初期には良好な生着を示したが,1年後にはX線学的にも組織学的にも椎間板は変性所見を呈した.最終的には移植椎間板部は椎間癒合すると思われるが,短期間は椎間板としての機能を保有する可能性が示唆された。

犬同種椎間板移植の検討―臨床応用への可能性

著者: 松崎浩巳 ,   若林健 ,   石原和泰 ,   石川博人 ,   大川章裕

ページ範囲:P.395 - P.402

 抄録:脊椎固定術と異なり可動性を有する椎間板移植の可能性を検討するため,犬を用いて同種椎間板移植の実験を行った.雑種成犬25頭を用いて一部椎体が付着する移植用椎間板ユニットを作製し,4℃の10%dimethyl-sulfoxide液に浸透させた後,-80℃と-196℃で凍結保存した.
 凍結保存平均4週間後に経腹膜的に犬腰椎へ椎間板ユニットをプレートを用いて椎間板の可動性を残す手技で移植した.また,椎間板の細胞を培養してプロテオグリカンとコラーゲンの合成能を検討し,経時的にX線で椎間腔を評価した.
 移植椎体は5カ月位で完全に骨癒合し,椎間腔は6カ月頃より徐々に狭小化する傾向にあった.しかし,組織学的に線維輪は良好に温存され,-196℃保存が有用であった.一方,細胞の活性は低下していた.
 同種椎間板移植は中期的にはdynamic disc spacerとして臨床応用の可能性はあるが,長期的になお検討する必要がある.

組織像からみた頸部椎間板ヘルニアの発生機序

著者: 国分正一 ,   田中靖久

ページ範囲:P.403 - P.408

 抄録:剖検屍体41例(20~85歳)の135頸椎椎間板を組織学的に,前方除圧時摘出の7例(40~68歳),8椎間板をPCNAの抗体であるPC10を用いて免疫組織化学的に検討した.30歳以降,軟骨細胞の増殖,cluster形成,細胞死と膠原線維の離開,亀裂が特長的である.全135椎間板のうち水平裂が61%,垂直裂が49%,そして軟骨板断片の遊離,翻転あるいは亀裂内遊走が33%に認められた.ヘルニアが13体(32%),20椎間(15%)に認められ,5体(12%)が多椎間発生例であった.ヘルニアはいずれも軟骨板を含んでいた.頸部椎間板ヘルニアでは軟骨板の断片化が発生の前駆機序である.PCNA陽性所見より軟骨細胞の増殖が確認された.

脱出腰椎椎間板の組織学的検討―吸収過程の存在について

著者: 伊藤拓緯 ,   山田光則 ,   生田房弘 ,   福田剛明 ,   本間隆夫 ,   内山政二 ,   高橋栄明 ,   星信一 ,   河路洋一

ページ範囲:P.409 - P.412

 抄録:sequestration typeの腰椎椎間板ヘルニアに対する生体反応を明らかにすることを目的に,手術時に摘出されたヘルニア組織を光顕ならびに免疫組織化学的に検索した.18例中16例のヘルニア組織の線維軟骨部の辺縁部に正常では存在しない多数の小血管が認められ,これらは椎間板が脱出した後に新生したものと考えられた.新生血管周囲には多数のマクロファージが存在し,さらに,通常の染色で線維芽細胞に見える細胞の多くも免疫組織化学的にマクロファージである可能性が示された.検索したいずれの例でも線維性瘢痕組織は認められなかった.以上から,脱出した椎間板は器質化されて線維性瘢痕になるのではなく主としてマクロファージにより吸収されるものと考えられた.

硬膜外へ脱出した腰椎椎間板ヘルニアの運命―MRIと免疫組織学的検討から

著者: 東村隆 ,   野原裕 ,   石川宏貴 ,   佐藤英章 ,   山口比呂美

ページ範囲:P.413 - P.421

 抄録:硬膜外へ脱出した腰椎椎間板ヘルニアの手術摘出標本にHE染色による組織学的検索及びモノクローナル抗体を用いた免疫組織学的検索を行った結果と硬膜外脱出ヘルニアが自然消失した対照例の比較から硬膜外へ脱出した椎間板ヘルニアに対する生体反応につき検討を加えた.術中所見によるヘルニア分類でsequestration typeはII例にみられ,そのうち9例にHE染色で脱出髄核の表面と周囲結合織に炎症細胞の出現を認めた.その細胞は,免疫組織学的検索からマクロファージ,T細胞であった.しかし,protrusion,transligamentous typeと線維輪成分には細胞浸潤は認められなかった.これら9例と非手術対照群7例の臨床経過,臨床症状・所見,画像所見は極めて類似していた.このことから硬膜外へ脱出したヘルニアは,マクロファージ/T細胞による異物反応で吸収され,消失するまでの期間は髄核成分がほとんどであれば,脱出から12~16週の間と考えられた.

腰部椎間板ヘルニアにおける至適切除範囲―後方摘出法と経皮的髄核摘出法の比較検討から

著者: 持田譲治 ,   西村和博 ,   野村武 ,   東永廉 ,   有馬亨

ページ範囲:P.423 - P.430

 抄録:腰部椎間板ヘルニアの後方進入ヘルニア腫瘤摘出術では,椎間板中央部分に残存する髄核部分(母髄核)の扱い方に関して意見がわかれている.本研究では母髄核の有無が術後の画像および臨床所見とどの様に関係するかを検討した.対象は術後2年以上経過観察した後方進入ヘルニア腫瘤摘出例102例と経皮的髄核摘出術74例であり,各術式ごとに母髄核温存の有無によって分けて検討した.その結果,両術式ともに,母髄核を温存した症例が画像では単純X線及びMRI上,また臨床上は特に腰痛の項目に関して優れた結果であった.以上から,後方進入ヘルニア腫瘤摘出術ではヘルニア腫瘤そのものと椎間板後方線維輪内に移動した髄核のみを摘出し,また経皮的髄核摘出術では可及的に椎間板の後方から1g程度の小量の髄核を摘出すべきであると考えられた.

レーザー髄核蒸散法―短期臨床成績とMR画像の推移

著者: 小坂理也 ,   小野村敏信 ,   米澤卓実 ,   市村善宣 ,   石橋伊三郎 ,   永田裕人 ,   谷田泰孝 ,   野々村淳 ,   宮地芳樹 ,   藤正巌

ページ範囲:P.431 - P.440

 抄録:経皮的レーザー髄核蒸散法(以下PLN法)の手技方法を紹介し,術後短期の臨床成績,本法施術前後のMRI所見の推移を検討した.1992年2月から1993年6月の間にPLN法を施行した腰部椎間板ヘルニア症例20例20椎間(男性13例,女性7例,平均年齢23.7歳)を検討の対象とした.15点満点JOAスコアは術前平均9.4点が術後12.0点と有意に改善し(平均改善率39.6%),臨床成績は20例中10例(50.0%)が有効と判定された.術後のMR画像では,椎間板の形態,輝度に生じた変化は少なく,PLN法が椎間板に与える早期の影響は比較的少ないものと考えられたが,一部の症例に術後ヘルニア腫瘤が縮小する所見を示したものがあった.本法ではヘルニア型が治療成績に関与する因子の一つであると考えられたが,術前画像診断による成績の予測は現時点では困難であった.

神経根における異所性発火発現および抑制因子について―in vitro実験モデルによる解析

著者: 熱田裕司 ,   岩原敏人 ,   菅原修 ,   村元敏明 ,   渡壁誠 ,   竹光義治

ページ範囲:P.441 - P.448

 抄録:神経根障害の病態生理を機能的側面から検討するため,成犬腰髄より採取した神経節付き後根を用いてin vitro標本を作成し,異所性発火の発現及び抑制様式を解析した.機械的圧迫刺激による異所性発火発生閾値は,線維部より神経節部において有意に低かった.低酸素負荷を加えると神経節由来の発火が誘発され,機械的閾値もさらに低下した.低酸素以外に,正常髄核コンドロイチン硫酸C,サブスタンス-Pを投与した場合に小数ユニットの反応性発火を認め,これらは単独で異所性発火を誘発しうる化学因子と推定された.一方,ブラディキニン,プロスタグランジンE2,セロトニンなどは発火を誘発しなかった.低酸素負荷に誘発された発火に対してメチルB12,トリアムシノロン,塩酸工ペリゾンは即時的な抑制効果を示した.今回得られた結果は,神経根障害による痛みやしびれ,あるいは間欠性破行の病態と治療の意義を理解する上で重要な知見と思われた.

腰椎後方手術は馬尾集合と硬膜異常収縮を誘発する―MRIによる実証と病理

著者: 松井寿夫 ,   金森昌彦 ,   川口善治 ,   遊道和雄 ,   辻陽雄 ,   二谷立介

ページ範囲:P.449 - P.455

 抄録:腰椎後方侵襲後の馬尾集合癒着および硬膜管収縮が発生し得ることを術後経時的MRIにより明らかにし,その発生機序および臨床的意義について考察を加えた.後方手術を行った腰椎変性疾患10例(椎間板ヘルニア7例,脊柱管狭窄症2例,その他1例)を対象とし,術前,術後3日,1週,3週,および6週目にT2強調横断MRIを撮像した.馬尾集合癒着はすべての例で椎弓切除が行われた.L4-5レベル(n=10)において最も強い変化を認め,術後6週ても10例中9例に馬尾のpartial groupingが見られた.背筋展開のみで椎弓切除を施していないL3-4レベル(n=8)では馬尾集合癒着は術後1週まではL4-5レベルと同程度であったが,術後6週では半数がpartial groupingとなり,その回復は比較的速かった.椎弓切除を行っていないL5-Sレベル(n=7)では全般的に馬尾集合癒着は軽度であった,硬膜管収縮はレベルに拘らず侵襲部位で観察されたが,術後3週で術前の状態に回復した.馬尾集合癒着および硬膜管収縮は椎弓切除ないしは椎間板切除操作と密接に関連し,その機序には組織修復過程における広義の炎症性変化が関与するものと考えられた.

MR画像における腰椎椎間板ヘルニアの自然経過

著者: 小森博達 ,   中井修 ,   山浦伊裟吉 ,   黒佐義郎 ,   吉田裕俊

ページ範囲:P.457 - P.464

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアによる下肢痛は,保存療法によく反応し緩解を見ることが多いが,突出した椎間板組織がどの様な転帰をたどるのかはよくわかっていない.我々は保存療法を施行した腰椎椎間板ヘルニア66例の臨床症状の推移と経時的MR画像変化を比較検討した.12例の不一致例を除くと,画像の変化と症状の推移は概ね相関したが,画像の変化は症状の改善にやや遅れる傾向があった.ヘルニア腫瘤の著しい縮小は,変性度の高い椎間板からの脱出ヘルニア例で高頻度に認められ,脱出の度合が大きければ大きいほど縮小傾向が著しかった.また,明らかな縮小を示した症例の下肢痛持続期間の平均は2カ月と短かく画像上の変化に乏しい症例との間には有意の差があった.ヘルニア縮小の機序には,脱水,変性,貪食による溶解吸収の可能性のほかに,短期間でヘルニアの消失してゆく症例があり免疫反応の関与の可能性が示唆された.

脱出椎間板の自然吸収と臨床的意義

著者: 中村孝文 ,   池田天史 ,   千田治道 ,   高木克公 ,   瀬井章 ,   福山紳 ,   梅田修二

ページ範囲:P.465 - P.469

 抄録:最近腰椎椎間板ヘルニアが,自然縮小するという報告が散見される.今回,保存的に加療した脱出型ヘルニアと思われる9例についてMRI上のヘルニア塊の大きさの変化を観察した.その結果,全例にヘルニアの縮小が認められ,早いものでは2カ月で消失した.また,手術時に採取した椎間板ヘルニア30例の組織学的検討から後縦靱帯を穿破しているヘルニア塊の周辺にマクロファージを主とする炎症細胞の集合が多く認められた.さらに,日本白色家兎の自家尾椎椎間板の硬膜外移植実験では,移植後4日で既にマクロファージが集合しており,4週の時点では移植した椎間板は,著しく縮小していた.以上の結果から,脱出ヘルニアが縮小および消失することが明らかとなり,またそのメカニズムはphagocyteによる消化吸収と考えられた.

椎間板ヘルニア脱出様式の術前判定―造影MRIによる検討

著者: 豊根知明 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   村上正純 ,   森永達夫 ,   田中正 ,   北原宏 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.471 - P.475

 抄録:造影MRIにより腰椎椎間板ヘルニア周囲の病態を観察し,ヘルニアの脱出様式,特に後縦靱帯を穿破するか否かに注目して検討した.対象は後方より手術を施行し,ヘルニアの脱出様式を確認し得た20症例である,造影MRI所見は,type-1:造影されない,type-2:ヘルニアと硬膜管との間に限局して造影がみられる,type-3:ヘルニアの周囲が造影される,と判定した.type-1およびtype-2を示した12例の術中所見は,すべてprotrusionまたはsubligamentous extrusionであり,ヘルニアは後縦靱帯を穿破していなかった.type-3の8例では,4例でtransligamentous extrusion,3例でsequestrationが確認され,ヘルニアは後縦靱帯を穿破していた.ヘルニア周囲の造影は,硬膜外静脈叢の血管拡張,血管透過性の亢進した線維性組織の存在を示唆しており,ヘルニアと周囲組織との間に起こる病理学的な変化を,生体内において捉え得る可能性が示された.

椎体終板における微細血管構造の走査型電子顕微鏡による観察―椎体終板内の部位による形態の差について

著者: 沖貞明 ,   松田芳郎 ,   柴田大法 ,   安達永二朗

ページ範囲:P.477 - P.482

 抄録:椎間板は無血管組織であり,その栄養路は椎体終板及び線維輪を介するdiffusionとされている.椎体終板のなかでも線維輪に近い周辺部分よりも,髄核に近い中央部分において溶質の透過性が高く,vascular budsと呼ばれる微細血管構造が透過性に関与し,重要視されている.今回我々は家兎を用い,椎体終板の中央に近い部分と周辺に近い部分におけるvascular budsの形態の差を,血管鋳型を用いた走査型電子顕微鏡によって観察し,比較検討した.両部位において,単位面積あたりのvascular budsの数に差は認められなかった.しかしvascular budsの形態に関しては,椎体終板の周辺に近い部分ではUターンをしただけの簡単な形をしたループ構造であるのに対し,中央に近い部分では複雑な房状の形を呈し,各々異なる形態を呈していた.椎体終板の部位によるvascular budsの形態の差は,vascular budsの持つ椎間板への栄養路としての機能の差を反映するものと考えている.

腰椎変性疾患における腰部神経根障害の種々相―電気生理学的アプローチからみた病態

著者: 乗上啓 ,   松田英雄

ページ範囲:P.483 - P.490

 抄録:第5腰神経根障害を呈した椎間板ヘルニア(LDH),外側型脊柱管狭窄(L-LSS)及びfailed back syndrome(FBS)などの後方除圧直後に総腓骨神経を刺激することによって,第5腰神経根と坐骨神経の活動電位を導出した.それらと臨床症状との対応から,それぞれの病態につき検討した.さらに総腓骨神経に50Hzで3分間,高頻度刺激(HFS)負荷を与え,電位の経時的変化を観察した.結果は以下のごとくであった.①脱出型LDH例では伝導遮断に対応する陽性化波形が特徴的であった.L-LSSやFBS例での神経根活動電位の著明なtemporal dispersionと低振幅化は神経根の単なる慢性圧迫のみならず,血液循環不全が根幹となって著しい伝導遅延をきたす神経線維の存在を反映したものと推察された.②HFS負荷による電位の低下と回復遅延現象は神経根の酸素消費増加にその補給が追いつかないための相対的虚血状態を反映したものであることを虚血モデル実験から示した.この病態は神経根性間欠跛行の主因をなすものと考えられた.

Gd-MRI(CHESS法)による腰仙部後根神経節の局在と形態学的分類

著者: 青田洋一 ,   熊野潔 ,   平林茂 ,   小川裕 ,   吉川宏起

ページ範囲:P.491 - P.496

 抄録:腰仙部後根神経節(DRG)100根をchemical shift selective MRI(CHESS法)を応用したGadolinium-DTPA enhanced MRIの画像で読影し,その局在と形態を分類した.
 その結果,DRGは従来より報告されているように,下位腰椎ほど脊柱管の内方に位置する傾向が認められた.しかし,S1神経根のDRGは,すべてがspinal canal型であり,屍体解剖による分類に比べてGd-MRI画像では,S1神経根のDRGはより内側に分類されやすい傾向が認められた.

頸髄後方除圧後の上肢麻痺―その原因と予防法

著者: 都築暢之 ,   阿部良二 ,   斎木都夫 ,   李中実

ページ範囲:P.497 - P.506

 抄録:頸髄後方除圧時に脊髄~神経根に対し発生するtethering effectは硬膜管内・外で分けて考察する必要がある.頸椎・頸髄標本を用いての形態学的研究では,①椎弓を切除し硬膜を後方に拡大すると硬膜管外神経根部分が脊柱管方向に伸展されると同時に根嚢部(硬膜管―神経根結合部)が後内方に移動し,硬膜管内神経根糸に弛緩効果を与えること,②根嚢部の後内方移動を伴った硬膜管拡大では,その内部で頸髄を最大に後方移動させても前根糸は緊張しないことが観察された,後者の現象は,前根糸固有の長さと根嚢部後内方移動による弛緩効果が脊髄後方移動による伸展効果を吸収するためと考えられた.臨床画像でも,頸髄後方除圧後に根嚢部後内方移動が生じることが認められた.各頸神経根における最長前根糸長(最頭側前根糸長)と最短前根糸長(最尾側前根糸長)との比はほぼ一定し.臨床例では脊髄造影像から最頭側前根糸長を求めることにより,最尾側前根糸長を推測することが可能である.硬膜管外神経根部分が伸展された場合,同神経根部分に滑動性障害があれば,硬膜牽引性神経根障害が発生する可能性がある.また運動優位の麻痺の原因としては,椎間孔内の前根はその解剖学的位置から後根よりも高度の伸展作用を受け易いためと考えられた.
 頸髄後方除圧の臨床例では,根嚢部移動障害や短前根糸が存在した場合,硬膜管内前糸伸展性障害が発生し,硬膜管外神経根の滑動性障害が存在すれば硬膜牽引性神経根障害が発生する可能性がある.

頸椎後縦靱帯骨化症の骨化進展と椎間板ひずみ分布の関係

著者: 松永俊二 ,   酒匂崇 ,   武富栄二 ,   永山徳太郎 ,   中西賢二

ページ範囲:P.507 - P.513

 抄録:頸椎後縦靱帯骨化症の骨化進展における頸椎の動的因子の関与を知る目的で,工学的真ひずみ計算式による生体力学的解析法を用いて椎間板のひずみ分布を調べた.101例の頸椎後縦靱帯骨化症患者を対象とし,全例について初診時頸椎動態側面X線写真をコンピューターに入力し椎間板のひずみ分布を計算した.5年後に再度X線写真を撮影し進展の有無と椎間板のひずみ分布を調べた.初診時に椎間板のひずみ分布が均等ではない症例のうち連続型の79%,混合型の78%,分節型の65%に椎間板のひずみ分布異常部に骨化進展が生じた.ひずみの方向との関係では椎間板が伸張方向に偏位し後縦靱帯に張力が作用した部位で高率に骨化進展が認められた.椎間板のひずみが均等に分布していた症例では連続型の22%,混合型の29%,分節型の17%のみに骨化進展が認められた.頸椎後縦靱帯骨化症の骨化進展には脊椎の動的因子の関与が大きいことが本研究で生体力学的に証明された.

卵巣摘出の既往別にみた腰椎変性すべり症の発症因子―特にその脊椎形態の寄与とその意義

著者: 今田光一 ,   松井寿夫 ,   辻陽雄

ページ範囲:P.515 - P.521

 抄録:腰椎変性すべり症女性患者105例を症例とするcase-control study,および卵巣摘出患者69例と非摘出患者69例における腰椎変性すべり症の発症頻度の比較から,腰椎変性すべり症女性患者においては卵巣摘出の既往が発症危険因子であることを明らかにした.また,脊椎形態学的因子の関与につき卵巣摘出の既往の有無に分けてX線学的に検討したところ,椎弓角の増大および椎間関節の矢状面形態が卵巣摘出既往の有無に関係なく関与していると判断された.しかし,腰仙角の増大と椎間間隙狭小化の2つのパラメターは卵巣摘出の既往のある変性すべり症例には殆ど認められなかった.この事実から,腰椎変性すべり症の発症には局所因子としての椎弓角増大と椎間関節の矢状面形態はともに関与する可能性があるが,卵巣摘出に基づくおそらく性内分泌の変調という全身因子の関与は大きいと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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