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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科29巻6号

1994年06月発行

雑誌目次

巻頭言

第9回日本整形外科学会基礎学術集会を開催するに当たって

著者: 田中清介

ページ範囲:P.638 - P.639

■臨床学のための基礎学会に
 近畿大学は新設医科大学であり,教室の歴史が浅いことから蓄積された臨床データが乏しいこともあって,私が昭和53年に教授就任して以来研究の重点を基礎的研究においてきました.このたび,平成6年10月7日(金),8日(土)の両日に神戸において第9回日本整形外科学会基礎学術集会を開催することとなりましたことは,私にとってまことに感無量であり,この機会を与えて頂きました日整会の会員の皆様に深く感謝申し上げます.
 整形外科学の基礎的研究は,整形外科に限らず臨床各科の基礎的研究でも同様ですが,我国の経済の著しい進歩と相俟って急速に進歩したため,中にはその内容が理解困難なものも少なくありません.私が基礎学術集会の次々期会長選挙に立候補した折に公約しましたことは,一般の臨床医にとっても,この進歩に対する理解を容易にするよう努力したいということでした.そのために,演題の募集に当たっては「臨床との関連について」の項目を設け記載して頂き,プログラム委員に審査して頂きました.

論述

X線上明らかな骨傷のない頚髄損傷

著者: 植田尊善 ,   芝啓一郎 ,   白澤建藏 ,   大田秀樹 ,   森英治 ,   力丸俊一 ,   加治浩三

ページ範囲:P.641 - P.649

 抄録:1990年5月より1992年4月まで2年間連続した40例の急性期X線上明らかな骨傷のない頚髄損傷に対し,神経学的検査,X線,MRIの経時的観察等詳細な検討を行った.脊髄損傷部はT2画像で高信号として出現し(37例,93%),当初範囲が広いが,次第に損傷部へ限局していった.1~3カ月後にT1画像でスポット状の低信号が出現する例が多く(25例,63%),T1低信号の出現しない例より麻痺は重篤であった.T1,T2とも経過中信号変化の出現しない症例3例が最も良好な予後であった.損傷部の圧迫は軽度な例が多かった.動態撮影で後方辷りは17例(43%)にみられたが,保存的治療にて不安定性の増強はみられなかった.損傷高位はC3/4に27例(68%)と圧倒的多数に見られた.C3/4損傷の特徴は三角筋力低下,横隔膜神経不全麻痺,C3後方辷り,C3/4部の動的脊柱管狭小,脊椎症性変化が軽微などであった.動態MRIにてC3/4間での前後からの脊髄の挟撃が確認された.

仙骨全切除後の再建術

著者: 司馬立 ,   太田康人 ,   曽雌茂 ,   舟崎裕記 ,   神人護 ,   室田景久

ページ範囲:P.651 - P.657

 抄録:3例の原発性仙骨腫瘍に対し,仙骨全切除とその再建を施行した.症例は,男性1例,女性2例で,腫瘍の病理診断は,脊索腫が2例,非定型的骨肉腫が1例であった.全例に対し,前,後方アプローチによる仙骨全切除術を行い,脊椎instrumentationを使用した再建術を施行した.全例に,骨癒合が得られ,2例は,一本杖歩行が可能となった.合併症として,2例に,死腔に感染を認めたが,持続灌流により治癒した.
 本手術は.侵襲が大きく,出血量も大であり,長時間を要することから,術後の患者の消耗は著しく,合併症の発生頻度も高い.したがって,スタッフ等が充分に準備できない場合は,二期的に分けて行った方が,安全と考える.

半腱様筋腱をLADで補強する前十字靱帯再建術の検討―遊離移植と有茎移植の比較検討

著者: 村上俊一 ,   宗田大 ,   石橋俊郎 ,   山本晴康 ,   朝比奈信太郎 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.659 - P.662

 抄録:半腱様筋腱をLADの一端固定により補強する前十字靱帯再建術を施行した男性25例,女性27例計52例52膝について,半腱様筋腱を有茎として用いた32例(以下有茎群)と,遊離として用いた20例(以下遊離群)の術後約2年における臨床成績を比較検討した.再建術にあたり,移植腱の太さは7mmとなるように必要に応じて薄筋腱を採取し,遊離とした半腱様筋腱は二つ折りとして,折り返し部をステープルで固定した.両群の術後成績はLysholm score,関節可動域,前方動揺性,筋力のいずれの点でも同等で,徒手検査では遊離群がやや良好な傾向を示した.簿筋腱を採取するに至った症例は半腱様筋腱を有茎で用いた群では17例53.1%であったのに対し,遊離として用いた群では4例20%であり,遊離群では薄筋腱を犠牲とすることが少なかった.半腱様筋腱を遊離し,二つ折りとして用いることにより,薄筋腱を犠牲とする割合を減少させ同等以上の成績が得られる.

後縦靱帯骨化症の成因について―最近の研究成果と将来の展望

著者: 酒匂崇 ,   武富栄二 ,   松永俊二 ,   山口正男 ,   今村健志 ,   古賀公明 ,   園田俊郎 ,   吉田浩己

ページ範囲:P.663 - P.670

 抄録:後縦靱帯骨化症の成因は未だ不明であるが,近年,成因解明に関して多くの成果が挙げられつつある.家系調査,双生児調査やHLAハプロタイプの解析により本症には遺伝的背景があることがわかってきたが,最近では病因遺伝子発見のためのDNA解析も行われている.また,細胞生物学的研究より,靱帯細胞の形質転換と靱帯骨化組織周辺でBMPやTGF-βの存在も確認されている.現在,これらの細胞増殖因子の作用を調節する因子として,細胞外マトリックスに注目し研究を進めている.今後は,DNA解析と細胞生物学的研究を有機的に結びつけ成因解明に近づけたいと考えている.

調査報告

中国における頚椎後縦靱帯骨化症の疫学調査

著者: 原田征行 ,   植山和正 ,   市川司朗 ,   伊藤淳二 ,   佐藤隆弘 ,   三戸明夫 ,   田偉 ,   山田史朗 ,   富田卓 ,   酒匂崇 ,   栄国威 ,   賈佑民 ,   党耕町 ,   蔡欽林 ,   劉世文

ページ範囲:P.671 - P.676

 抄録:中国の北京市で1,000名,長春市で1,029名,赤峰市で500名の合計2,529名の一般住民の頚椎X線写真を撮影した.その結果,44名に頚椎OPLLが発見され,その発生頻度は1.74%であった.北京市で1.90%,長春市で1.30%,春峰市で2.20%であった.民族別では,北京市,長春市ともOPLLの発生はすべて漢民族にみられ,その発生率は1.63%であった.モンゴル人では2.20%,回民族3.0%であった.これらの一般住民の発生率は,本邦で報告されていたものと大差のない発生率であった.民族別に分類すると,モンゴル男性が2.69%で最も多く,長春市での女性が0.93%と最も少なかった.

シンポジウム 変性腰部脊柱管狭窄症の手術的治療と長期成績

緒言

著者: 小野村敏信

ページ範囲:P.678 - P.678

 最近の30年間に脊椎外科の領域における大きな出来事をいくつか挙げるとすれば,腰部脊柱管狭窄症という疾患概念が導入されたことをその一つとすることに異論はないであろう.いくらかの混乱はあったものの,この考え方は整形外科学の中に定着し,この病名が日常診療の中で広く用いられ,保存的あるいは手術的な種々の治療が行われることとなった.
 本症に対する治療は,脊柱管の狭窄をきたす原因や患者背景によってそれぞれ異なるべきことは当然であろう.本症の中でも頻度の高い脊柱の変性による狭窄については,加齢に伴う椎骨の変形による神経圧迫という病態を前提とすると観血的治療の選ばれる可能性が大きく,またそれによって優れた治療成績が得られている.しかし一方では対象となるのが主として高齢者であり,症状には消長があることなどを考えると,これは加齢という生体の自然のプロセスに沿う変化であり,観血治療とくに侵襲の大きな手術が躊躇されることも当然である.

腰部脊柱管狭窄症の自然経過―5年以上追跡例の検討

著者: 林信宏 ,   玉置哲也 ,   吉田宗人 ,   岩橋俊幸 ,   山田宏 ,   笠松隆洋

ページ範囲:P.679 - P.685

 抄録:腰部脊柱管狭窄症(以下LCSと略す)の自然経過を明確にするため,5年以上追跡可能であった非手術例41例において臨床症状および自覚症状の推移を検討した.初診時における罹病期間は2週間~20年,平均3年2カ月であり,経過観察期間は5年1カ月~12年6カ月,平均8年2カ月であった.日整会腰痛疾患治療成績判定基準(JOA score)を用いた自覚症状の推移では症状軽減8例(20%),不変25例(60%),悪化8例(20%)であった.一方,他覚症状の推移は,軽減6例(15%),不変12例(29%),悪化23例(56%)となり両者間で大きな差異が認められた.また,多変量解析を用いて初診時の年齢,罹病期間,各種症状などの因子から5年以上経過時の予後評価を試みたが,重相関係数0.628,寄与率39.4%と満足のいく結果は得られなかった.このことは,LCSの予後評価の困難さを表すと共に,LCSに対するJOA score systemの再検討の必要性を示唆しているものとも考えられた.

腰部脊柱管狭窄に対する選択的片側除圧術―prospective study

著者: 渡部徹 ,   菊地臣一 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.687 - P.691

 抄録:腰部脊柱管狭窄による片側単一神経根障害に対して,片側単一神経根の除圧術を施行した42例について追跡調査を施行した,術前JOAscoreは平均14点であったが,調査時平均25点と改善していた.調査時,除圧神経根由来の症状の再発例が1例に認められたが,一過性であった.また,術後に除圧椎間の反対側神経根症状を3例(7%)に認めたが一過性であり,硬膜外ブロックや神経根ブロックにて調査時には疼痛は消失していた.術前のX線学的不安定性の有無は術後成績に無関係であった.術前脊髄腔造影で多椎間欠損像を認める症例に調査時手術椎間以外の高位での症状出現を認めた症例が1例あったが,術前診断に問題があったと考えられる症例であった.その他の例では,脊髄腔造影像は術後成績に影響を与えていなかった.単一神経根障害に対しての本術式は手術時間,手術侵襲が少なく,有用な手術手技と言える.

外側型腰部脊柱管狭窄症の病態と術後成績―腰椎椎間板ヘルニアのlateral recess syndromeと対比して

著者: 佃政憲 ,   鷲見正敏 ,   片岡治 ,   澤村悟

ページ範囲:P.693 - P.698

 抄録:腰部脊柱管狭窄症(以下LSS)の脊柱管の外側部で骨性に神経根を圧迫している症例を外側型腰部脊柱管狭窄症(以下LS)とし,また腰椎椎間板ヘルニア(以下LDH)症例のうち,狭窄外側陥凹(narrow lateral recess;以下NLR)を合併するものを加えて,手術所見より3群に分類した.A群は骨性LSが主であるもの,B群はLDHを合併しているが主な原因がLSにあるもの,C群はNLRを合併しているが主な原因がLDHによるものである,過去12年間に手術を行ったLSSの183例とLDHの327例のうち上記の分類に包含されるものは70例であり,A群が31例,B群が21例,C群が18例であった.術前自覚症状は,腰痛,下肢痛,しびれが3群とも高率にみられ,理学所見ではSLRテスト陽性例がC群で多くみられた.術後成績では,腰痛,しびれは改善したが,下肢痛はA群で50%に遺残し,B,C群と比較して不良であった.理学所見も3群ともに改善は認められたが,C群と比べ,A,B群の改善例は少なかった.

腰部外側神経根障害に対する外側開窓術への固定術併用について

著者: 森山明夫 ,   田島宝 ,   杉山晴敏 ,   佐藤士郎 ,   加藤哲弘 ,   岩貞勢生 ,   浦崎哲哉 ,   住田憲治 ,   高木英希

ページ範囲:P.699 - P.706

 抄録:腰仙部神経根障害を椎弓根内縁を境として,これよりも内側に障害因子のある場合を内側神経根障害,外側の場合を外側神経根障害に分類した.後者に対しては外側開窓術にて除圧が可能であると考え実行しているが,術中所見より得られた病態はA.椎間板ヘルニア群,B.椎間孔内神経根絞扼群,C.椎間孔外神経根絞扼群に分類された.当初,外側開窓術は椎間板ヘルニアにのみ適用したが,その後脱出ヘルニア塊の認められない神経根絞扼群にも適応を拡大するに従い成績不良例が出現した,B,C群では充分な除圧のため開窓範囲の大きくなる拡大外側開窓術を行わざるを得ず,椎間関節の切除範囲が大きくなることに起因する不安定性が成績不良の原因と考えられた.これに対して後側方固定術を加えることで安定した成績が得られるようになった.したがって,A椎間板ヘルニア群は外側開窓単独B,Cの神経根絞扼群に対しては拡大外側開窓+固定術の適応が妥当であると思われた.

腰部脊柱管狭窄手術成績不良例の検討

著者: 渡辺栄一 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.707 - P.713

 抄録:腰部脊柱管狭窄の手術成績不良例52例についてその病態を神経学的所見および選択的神経根ブロックから検討した.手術後より症状が残存・持続した症例では,神経障害型式,責任高位および病態に変化はなく,手術成績不良の原因は高度神経障害,術前の病態把握や手術手技上の問題にあった.手術により術後一時軽快した症例では,時間の経過と共に神経障害型式が変化していることが多く,しかも責任高位も術前とは異なり隣接高位での障害発生が多くなっていた.手術成績不良の病態は同一高位の同一病態であることが最も多いが,術後2年以内では除圧術施行椎間の術後の不安定性出現に,術後2年以降では固定術の隣接椎間の変化に注目すべきである.これらの成績不良例に対して行った治療成績は,保存療法(32例)が良8例(25%)で,手術療法(20例)が優,良あわせて12例(60%)であった.成績不良例の治療成績は決して良好ではなかった.

手術手技 私のくふう

上位胸椎に対する前方アプローチについて

著者: 牧野明男 ,   原田征行 ,   植山和正 ,   市川司朗 ,   伊藤淳二 ,   三戸明夫

ページ範囲:P.715 - P.720

 抄録:上位胸椎疾患に対し胸骨縦割侵入2例と胸骨非縦割侵入3例を行い,手術時間,出血量,合併症,MRI矢状断像による胸骨上縁高位を比較した.縦割群2例は共に男性で,1例はTh2-3椎間板ヘルニアでTh2-3前方固定を,1例は転移性胸椎腫瘍でTh1-3前方固定を施行した.胸骨非縦割群は1例は女性で転移性胸椎腫瘍にてC7-Th2前方固定を,2例は男女1例ずつで多発性骨髄腫にてTh1-3前方固定を施行した.平均手術時間は縦割群5時間45分,非縦割群2時間56分,平均出血量は縦割群850ml,非縦割群482mlであり,反回神経麻痺は縦割群は全例に,非縦割群は3例中2例に生じた.胸骨上縁高位は,縦割群はTh2上縁レベル1例,Th2/3レベル1例で最下位侵襲椎体より上方に位置しているのに対し,非縦割群はTh3下縁レベル2例,Th3中央レベル1例で最下位侵襲椎体より下方に位置しており,胸骨縦割を要するか否かの手がかりになり得ると考えられた.

整形外科を育てた人達 第126回

Robert Judet(1909-1980)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.722 - P.723

 近代の整形外科でフランスで活躍して尊敬されていたRobert Judetは,1980年に亡くなった.その死が突然であったので,フランスの国民は彼の死を悲しんだ.

整形外科英語ア・ラ・カルト・22

手術室の英語・その1

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.724 - P.725

 今回は手術室でよく使われる英語を書くことにする.
●operating suite(オパレィティング・スウィート)
 米国の病院の手術室のドアには,“Operating Suite”と表示してある.個々の手術室は“operating room”であり,通常省略して“OR”(オゥ・アー)と呼ぶ.

基礎知識/知ってるつもり

セラミック

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.726 - P.726

 セラミックの定義を簡単に述べると次のようになる.即ち,「合成された,固形の,非金属性の無機材料」である.自分の身のまわりにある固形の材料で,非金属性で合成された無機材料はないか見廻わしてみると,ガラスか陶器しか見当らない.極めて多くの固形材料は金属性であるか,有機材料であるか,天然の材料である.それではガラスもセラミックに含めてよいかというと,広義では含めてよいと思われる.しかし,一般にセラミックと呼ばれているものは結晶質を含んでいる.それで,セラミックの狭義の定義は「合成された,固形の,非金属性の無機材料で,結晶質を含むもの」ということになる.
 この狭義の定義に従えば,セラミックとしてよく知られている伝統的なものとしては,煉瓦や陶磁器があげられる.伝統セラミックは一般に空気中で高温を加えて焼結させるので酸化物であり,硬い,高温に耐える,電気や光を通さない,などの性質をもっている.しかし,最近の新しい技術で作られたセラミックは必ずしも酸化物ではなく,窒化物,硫化物などもあり,また,その物理化学的性質も光をよく通すとか,磁性をおびるとか,骨と結合するとか,種々の特長をもっている.これらのセラミックスはファイン・セラミックスと呼ばれている.

臨床経験

結核性脊髄髄内膿瘍の1例

著者: 川原範夫 ,   林博志 ,   大成永人 ,   古瀬久裕 ,   富田勝郎 ,   浅妻茂章

ページ範囲:P.727 - P.730

 抄録:欧米では脊髄髄内膿瘍の報告は渉猟しうる範囲で67例みられるが,本邦ではいまだその報告例はなく極めて稀なものとされている.今回,進行性の下肢麻痺を呈した粟粒結核に伴う脊髄髄内膿瘍の1例を経験した.診断上,ガドリニウム造影によるMRIが極めて有用であった.また診断確定後直ちに外科的膿瘍切除を行い良好な麻痺回復を認めた.

分裂膝蓋骨部を含む全身に多発した痛風結節の1例

著者: 太田光彦 ,   大橋俊郎 ,   大友啓資 ,   谷知久 ,   小口光昭 ,   荒井毅 ,   太田万郷 ,   大東美生 ,   篠原有美

ページ範囲:P.731 - P.734

 抄録:今回我々は分裂膝蓋骨部を含む,多発性の痛風結節を生じたきわめて稀な痛風の症例を経験したので報告する.症例は51歳,男性.右肘関節と左示指MP関節の発赤,腫脹を認め,左環指MP,DIP関節,左小指PIP関節,両アキレス腱部,および左膝蓋腱部と分裂膝蓋骨部に皮下結節を認めた.左膝関節単純X線像では,分裂部の骨破壊像を有するSaupe分類III型の分裂膝蓋骨を呈していた.左手単純X線像では,示指MP関節部に軟部陰影の腫脹と示指基節骨近位端橈側に骨破壊像を認めた.左示指MP関節部皮下結節部に対して掻爬,洗浄,および左環指皮下結節に対して切除術を行った.左示指MP関節部結節のHE染色光顕像にて,痛風結節の典型的像を認めた.この症例の分裂膝蓋骨部の有痛化の機序として結晶誘発性の関節炎を起こしたものと考えられた.

膝複合靱帯損傷に伴う総腓骨神経麻痺の3例

著者: 青木喜満 ,   多胡秀信

ページ範囲:P.735 - P.739

 抄録:膝の複合靱帯損傷に伴う腓骨神経麻痺に対する治療方法の決定は,靱帯損傷に対する処置も含めて難しいところである.著者らは同じような膝の複合靱帯損傷に伴う腓骨神経麻痺3例を経験し,全例に可及的に靱帯修復と靱帯再建を行い,腓骨神経は神経の連続性の確認と神経剥離を行い経過を観察した.全例において8~10カ月後に回復の兆候が現れ,1年半後には足関節の自動背屈可能となる機能回復を見た.機能回復に要する期間と回復程度は,靱帯損傷の程度に関係している.膝の複合靱帯損傷に伴う腓骨神経麻痺は,靱帯の手術時に神経を確認し,断裂あるいは著明な異常がなければ,10~12カ月は経過観察しても良いと考える.

腰仙部硬膜外血管脂肪腫の1例

著者: 菅野裕雅 ,   湯浅昭一 ,   半田詔一 ,   張簡俊義

ページ範囲:P.741 - P.744

 抄録:症例は55歳の男性.主訴は左足趾のしびれと脱力である.1年位前より左下肢のしびれと痛みがあり,徐々に増悪し入院となった.ミエログラムで左S1神経根像がやや不整で,MRIではL5下縁からS1の椎体後方の硬膜外脂肪内にT1強調画像で点状の低信号,T2強調画像では高信号の点状陰影がみられた.手術では,前方の硬膜外に脂肪組織とその中に太い静脈系の血管が入り込んでいる腫瘍がみられた.腫瘍は前方の硬膜外より神経根に沿って第1仙骨孔内に侵入しており,これが神経根を圧迫していた.病理所見では脂肪組織と弾性線維を有する拡張した海綿状の血管が認められた.術後1年半の現在,左下肢のしびれと痛みは軽快し,下肢の筋力も回復しつつある.

先天性拘縮性くも指症の1例

著者: 二井英二 ,   矢田浩 ,   原親弘 ,   浜口謙蔵 ,   山崎征治

ページ範囲:P.745 - P.749

 抄録:比較的稀な先天性拘縮性くも指症(congenital contractural arachnodactyly)の1例(1家系)を経験したので報告した.症例は,生後1カ月の男児で,高身長と耳介の特異な変形を認め,手指はやや細長く,固く握り,足部,足趾もやや細長く,前足部の軽度の内転変形,四肢の大関節の拘縮がみられた.母親にも同様の耳介変形,上部胸椎部で後弯,細長い手指がみられた.また,母方の祖母にも同様の耳介変形と細長い手指,指関節の軽度の屈曲拘縮がみられ,母方家系内に同様の症状をもつものの多発を認めた.先天性拘縮性くも指症は,現在までに欧米では100余例,本邦では22例の報告がみられているが,家系内発生の報告が多く,常染色体性優性遺伝が考えられている.鑑別診断としては,Marfan症候群ホモシスチン尿症,Achard症候群,遠位関節拘縮症候群などがあげられるが,特にMarfan症候群との鑑別が重要である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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