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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科29巻8号

1994年08月発行

雑誌目次

巻頭言

論文発表に思うこと

著者: 岩田久

ページ範囲:P.865 - P.866

 臨床教室では特に長期にわたる経過観察の報告は重要である.ある時期,ある方法で治療を施した結果の報告である.10年,いや20年も経過すれば,その時点に教室にいた人も外に去り,既に現役を退いた人さえいる.しかし,現在まとめようとしている症例は,そうした人が適応を決定し,手術をした症例である.こうした中で,その結果の報告はまとめた人が発表論文のトップの名前をとり,それをその時指導した人が,あるいは協力した人が連名者として名前を連ねるのがせいぜいである.どの臨床教室も,疾患別グループ制を敷いているところが多いと思われる.そして,年々歳々構成員は変わってくる.ある時点で,過去の症例をまとめ,批判し,論文にすることは非常に大切なことである.しかし言いたいことは,そこに至るまで地道に患者をフォローし,記録して来た先輩の諸先生の努力があってこそデーターも散逸せず,まとめることが出来たのである.この場合,せめて,acknowledgementに名前をのせ,また,出来あがった時に別刷とともに,その時までに努力していただいたことに感謝の気持ちを表すことも重要である.先人を批判し,抹殺してこそ自分が浮かび上がることが出来るなどと考えるのは傲慢で,言語道断である.ややもすればこうしたこともあるやに思えてならない.
 現在他の教育機関に応募する場合,あるいは研究費を獲得しようとする場合など,世界的な傾向として,業績中心になりつつある.

論述

腰部神経根障害患者における下肢圧痛点

著者: 高橋弦 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   大竹良治 ,   豊根知明 ,   森永達夫 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.867 - P.872

 抄録:片側性の下肢症状を呈する腰椎椎間板ヘルニア症例109例において,中殿筋,大殿筋,坐骨神経,大腿四頭筋,大腿二頭筋,内側ハムストリング筋,脛骨神経,前脛骨筋,外側腓腹筋,内側腓腹筋において圧痛の陽性率を求めた.そして1例あたりの圧痛陽性点の数と年齢,罹病期間,JOAスコア,SLR角度との関係を検討した.また圧痛,筋力低下,知覚障害の症状出現率を比較した.圧痛出現率は中殿筋,坐骨神経,外側腓腹筋,大腿二頭筋の順に高かった.圧痛陽性点の数は若年者では有意に少なく,JOAスコアの低い症例で有意に多かった.症状出現率は圧痛55.1%,筋力低下37.6%,知覚障害67.0%であった.以上より腰部神経根障害において下肢の圧痛点は若年者では現われにくく,下肢症状の強い症例に現われやすいことが判明した.さらに圧痛点の出現率は他の神経脱落症状と大差はなく,圧痛は神経根障害の診断上有用な徴候と考えられた.

腰椎椎間板ヘルニア手術後の遊離移植脂肪片の変化

著者: 平泉裕 ,   小川大介 ,   内田均 ,   福島一雄 ,   佐藤秀二 ,   藤巻悦夫

ページ範囲:P.873 - P.878

 抄録:腰椎椎間板ヘルニア摘出術時の遊離脂肪移植について,移植した脂肪片の占拠部位,脂肪片の面積,信号強度,硬膜管への圧迫・癒着等の術後変化をMRIにより検討した.対象は後方侵入によりヘルニア摘出術を行った56名63椎間(男性35名,女性21名)である.結果は,39歳以下の群または女性群で有意に脂肪片の線維化が少なかった.術後経過期間と線維化には相関がなく,脂肪片が椎弓部に限局する例は,脂肪片が傍脊柱筋下や脊柱管内までおよぶ例に比べて変性が進んでいた.以上より,遊離移植脂肪片は若い女性ほど高信号の良好な状態で生存し,椎弓部に限局して移植されると変性し線維化しやすいことがわかった.遊離脂肪移植は全ての例で十分な癒着防止効果を発揮するとは限らないことが,動物実験でも確認された.

上腕骨骨幹部骨折に対するKüntscher髄内釘固定法の検討―横止め螺子固定法の応用

著者: 月坂和宏 ,   永田義紀 ,   村瀬雅之 ,   上田久司 ,   森川健 ,   大田政史 ,   安達長夫

ページ範囲:P.879 - P.887

 抄録:上腕骨骨幹部骨折の治療は,保存的治療で可能なことが多いが,横骨折ではその回旋不安定性のため偽関節になり易い.当科では観血的治療として,新鮮,陳旧例を問わず原則的にKüntscher髄内釘固定法を行っている.上腕骨骨幹部骨折に対して施行したKüntscher髄内釘固定法症例65例のうち追跡調査し得た63例について治療成績を検討した.63例中全例に最終的な骨癒合を得ていた.偽関節は9例に認め再手術を要したが,これらは後療法における回旋運動への配慮不足が原因であった.横止め螺子固定のない症例では44例中8例が偽関節となったが,併用例では19例中1例のみに減少した.髄内釘は原則として末梢側から刺入しているが,肘関節に軽度伸展制限を残す傾向にあったが,日常生活動作には支障なかった.上腕骨骨幹部骨折においてKüntscher髄内釘は,剪断力に対しては強いが回旋に対する固定が確実でないため,横止め螺子固定を併用することが肝要と考える.

後頭骨頚椎固定の検討

著者: 嶋村正 ,   山崎健 ,   菅義行 ,   鈴木正弘 ,   阿部正隆

ページ範囲:P.889 - P.895

 抄録:頭・頚移行部病変はその解剖学的特性から重篤な神経症状を惹起するため,外科的治療が採択される.慢性関節リウマチ9例,歯突起骨,環軸椎前方亜脱臼例のMcGraw法偽関節,上位頚髄砂時計腫各1例に後頭骨頚椎固定(Newman法7,Luque法5例)を施行した.Newman法の3例は偽関節を形成し,2例に再手術(Luque法,Brattström変法各1例)を要した.偽関節の主要因はhalo deviceのトラブルと推察された.手術成績は良8,可4例で,全例に症状改善,ADLの向上を得たが,術前障害度の高い例は,獲得点数は比較的良好であったが,やはり術後点数は低かった.術後,隣接・近隣椎間の不安定性の出現・進行を慢性関節リウマチの3例に認めた.術後の頚椎運動制限によるADL障害の訴えは少なかった.当該部,隣接・近隣椎間の局所状況のほか,麻痺の程度,外固定の適否などの身体状況を踏まえた内固定併用手術が望ましい.

手術手技 私のくふう

頚椎後縦靱帯骨化症に対する前方除圧固定術―頚椎椎体より採取した骨片を移植骨として用いた頚椎前方除圧固定術の手術手技

著者: 井須豊彦 ,   馬渕正二 ,   蓑島聡 ,   中山若樹

ページ範囲:P.897 - P.903

 抄録:頚椎後縦靱帯骨化症例に対する頚椎前方除圧固定術の手術経験を述べた.対象は頚椎椎体より採取した骨片を移植骨として用いた頚椎前方除圧固定術が施行された頚椎後縦靱帯骨化症32症例であり.年齢は35~70歳,平均55歳,男性21名,女性11名である.骨化巣の進展様式による分類では,連続型2例,分節型21例,混合型1例,その他型8例であり,手術椎間数別では,1椎間固定6例,2椎間固定18例,3椎間固定8例であった.術後2日間以内に歩行を許可し,頚部カラーを3カ月間,着用させた.術後経過観察期間は,5カ月~3年5カ月,平均1年8カ月であるが,全例,神経症状の改善が得られた.術後X線所見は全例で,良好な骨癒合が得られたが,1例で後弯形成が認められた(3椎間移植骨固定例).本法の利点は,腸骨採取に伴う合併症がみられず,早期離床が可能な点であるが,本法の最も良い適応は,3椎体内に限局した骨化症例であり,移植骨による固定は1~2椎間に限定すべきと思われる.

ドミノを使用した脊柱変形矯正手術

著者: 川上紀明 ,   荒尾和彦 ,   出口正男 ,   斉藤晴彦 ,   見松健太郎

ページ範囲:P.905 - P.910

 抄録:複雑な脊柱変形症例の手術においてドミノを用いたinstrumentationを使用し,そのドミノの使用方法について検討した.対象は9例の脊柱変形症例で,使用したinstrumentationはCDIまたはTSRHであった.ドミノの使用方法から9例は以下の3群に分けることができた.1)compressionを目的としたrodとその頭側rodとの連結,2)distractionを目的としたrodとその頭または尾側のrodとの連結,3)偽関節による破損したrodの修復・補強.ドミノの使用により複雑な脊柱変形症例の手術では各弯曲を別々に矯正することができた.自験例以外にも文献的には腰仙椎固定を含むlong fusionにドミノを使用した報告もあり,ドミノは症例によっては非常に有効なimplantの一つであると判断できた.

整形外科を育てた人達 第128回

Clarence Henry Heyman(1891-1964)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.912 - P.913

 米国の整形外科の指導者のClarence Heymanが1964年5月29日に亡くなったために米国の整形外科医達は悲しんだ.
 Clarence Heymanは米国のOhio州のPayneで1891年に生まれた.最初の教育はOhioのTiffinにあったHeidelberg大学で受けた.この大学は米国でドイツの有力な大学を真似て設立したもので,長くは存続しなかったと思われる.この学校でBSの学位を受けたのが1911年のことであった.当時米国で最も整備されたHarvard Medical Schoolに入学し,よく勉強をして1916年にはMDの学位を授けられた.知識欲の強いHeymanはHuntigton Memorial Hospitalで癌治療に対するradium利用の研修をした.新しい医学の進歩に関心を持っており,BostonのCity Hospitalにいた1918年,最初の論文をBoston Medical and Surgical Journalに発表した.これはanthraxの治療の論文であった.その後米国軍の病院で働いた(1918-1919).この期間にRoyal Whitmanの指導をうけ,New YorkのHospital for Special Surgeryで働いた.

整形外科英語ア・ラ・カルト・24

整形外科に関する興味ある言葉・その1

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.914 - P.915

 今回から整形外科の分野に関係する興味あると思われる英語を,“at random”に書いてみたい.
●triage(トリアージュ)
 患者の負傷の重傷度を“振り分け”を意味する“triage”という言葉は,最近日本でもかなりよく使われるようになった.先日名古屋空港にて中華航空機が墜落の際にも,“triage”が必要であったと思う.“triage”の“age”を“アージュ”と発音することから想像できるように,この言葉はフランス語由来の言葉である.これは元来軍隊用語であり,戦場での負傷兵を振り分けるときに用いられていた.しかし,次第に集団災害時にも使われるようになった.

基礎知識/知ってるつもり

Abutment

著者: 阿部宗昭

ページ範囲:P.916 - P.917

【用語の由来と同義語】
 abutはフランス語のabouterに由来し,端と端が接するの意味であり,abutmentは1.隣接,2.(突き出た部分の)接合点と訳されている(研究社,新英和大辞典).一方,内外の医学系の辞書では,abutmentは支台歯と訳され,ここで解説しようとしている意味の訳は見当らない.
 手の外科領域でのabutmentはulnocarpal abutment syndrome,すなわち尺骨頭と手根骨が衝突して症状を現す症候群として知られているが,日整会用語集,手の外科用語集には収録されておらず,未だ十分認知されていない新しい用語の一つである.

臨床経験

原発性副甲状腺機能亢進症の1例―骨塩量の推移を中心に

著者: 中瀬古健 ,   岡田元 ,   須藤啓広 ,   荻原義郎

ページ範囲:P.919 - P.921

 抄録:原発性副甲状腺機能亢進症にて,副甲状腺摘出術施行後,骨塩量の増加を認めた症例を経験した.DIP法による骨塩量の推移をみてみると術前のΣGS/Dは1.89と同年令平均値の約62%,MCIは0.277と同年令平均値の約67%に低下していたが,術後6ヵ月では各々1.92,0.280,術後1年では各々2.00,0.307と増加していた.術後2年ではΣGS/Dは2.15と順調に増加していたが,MCIは0.267と低下していた.一般に骨塩量の増加は術後3カ月で最も大きく,術後6,12カ月での増加は著明でないとされているが,本症例では従来の報告とは異なり,術後も継続して骨塩量の増加が認められていた.その原因については補助療法の相違,対象年齢の相違等が考えられた.また,術後2年目のMCI値が低下していた所見は皮質骨より海綿骨の方が増加が著しいとする説と一致していた.

距骨に発生し,踵骨の内反変形を来したdysplasia epiphysealis hemimelicaの1例

著者: 田中信彦 ,   鈴木博 ,   和栗祐子 ,   池田威 ,   大塚隆信

ページ範囲:P.923 - P.927

 抄録:距骨外側に発生し,後足部内反変形と足長差を伴ったdisplasia epiphysealis hemimelicaの1例を経験した.症例は13歳男性,小学2年頃より転倒しやすかったが,変形には気がつかなかった.1年前より右足外側の隆起,変形に気づき,1992(平成4)年4月当院初診した.初診時所見では右足関節外果下方に骨性隆起を触知し,距骨下関節の可動性は認められなかった.単純X線所見では距骨外側の骨性隆起による踵骨の内反と,第1,第2中足骨の短縮を認めた.病変部切除と内外側解離術により,変形の矯正を行い,可動域制限も伴わず,変形の改善が得られた.

中指基節骨に生じたflorid reactive Periostitisの1例

著者: 佐藤雅規 ,   末松典明 ,   三上和雄 ,   幅口竜也

ページ範囲:P.929 - P.932

 抄録:悪性腫瘍との鑑別に苦慮したflorid reactive periostitis(以下FRPと略す)の1例を経験したので報告する.症例は68歳女性で,1992(平成4)年12月初旬,特に誘因なく左中指の発赤,腫脹,圧痛を自覚.1993(平成5)年1月6日当科初診時のX線所見で左中指基節骨尺側に軟部腫瘤陰影,骨膜反応を認めた.MRIではT1で低輝度,T2で高輝度,Gdで不均一な増強を示し基節骨,腱を取りまくように浸潤し滑膜炎を疑う所見であった.手術にて境界明瞭,灰白色の腫瘤を摘出,基節骨の腫瘤と接した部分は硬化し陥凹していた.組織学的に,類骨組織と線維性組織より構成され核小体が目立ち,大小不同の核を有し,悪性腫瘍と鑑別を要する部分もあったが,異常な核分裂像は認めずFRPと診断された.術後8カ月の現在,再発や疼痛などは認めず経過良好である.

腰仙椎固定術の適応判定とcast test

著者: 武本俊彦 ,   河端正也 ,   馬淵昭彦 ,   立花新太郎 ,   三上凱久 ,   森俊仁 ,   中道健一 ,   奥田憲之 ,   小林康一

ページ範囲:P.933 - P.937

 抄録:椎間不安定性の診断において,画像診断の補助となり得るcast testの有用性について検討したので報告する.対象は,腰下肢痛で入院した235例の内,治療法の選択にあたり不安定性の関与が問題となってcast testが施行された33例(男18,女15)である.cast testの効果判定は有効14例(42.4%),やや有効13例(39.4%),無効6例(18.3%)であった.有効とやや有効群の18例で固定術が併用され良好な成績が得られた.一方,有効1例,やや有効8例および無効6例,計15例では入院後の症状改善や心因性素因の関与などから保存的治療が選択された.cast testは,①画像所見や症状から推察された椎間不安定性の機能的評価が可能,②手術による治療効果を体験できるという患者に対する心理的効果などがあり,椎間不安定性の評価にあたり試みるべき補助診断法と考えられた.

上位頚椎病変と顎関節破壊により閉塞性睡眠時無呼吸症候群を発症した慢性関節リウマチに対する治療経験

著者: 杉本瑞生 ,   東文造 ,   宮本紳平 ,   木村友厚 ,   米延策雄 ,   越智隆弘 ,   川本知明 ,   森悦秀 ,   菅原利夫 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.939 - P.943

 抄録:慢性関節リウマチ(RA)と閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の合併は1983年以降数例報告され,その治療は重症例では気管切開による呼吸管理とされている.今回われわれは,RAにOSASを合併した症例で既に気管切開術を受けている患者に対し,頚椎および顎関節に対する治療を行うことにより気管切開を閉鎖し得た1例を経験したので報告する.症例は73歳女性で,発症後10年経過したムチランス型RAである.前医において92年2月に呼吸困難に対して気管切開術を受けたが,気管切開を閉鎖できず当科入院.本症例は,RAによる環軸椎後方脱臼と顎関節破壊に伴う二次性の下顎後退症により上気道の閉塞を来し,OSASが発症したものと考えられた.環軸椎後方脱臼に対しては整復位での頚椎後方固定術を行い,顎関節に対しては菅原式人工顎関節全置換術を行うことにより,上気道の拡張を得ることができ,気管切開を閉鎖することができた.

肝硬変症により治療に難渋した巨大な仙骨神経鞘腫の1例

著者: 福島一雅 ,   大幸俊三 ,   谷口利尚 ,   山本忠男 ,   鈴木仁

ページ範囲:P.945 - P.948

 抄録:肝硬変症を伴った巨大な仙骨神経鞘腫の1例を経験したので報告する.症例は47歳,男性で,下腿の浮腫,腹部膨満感を主訴に近医受診し,下腹部に腫瘤を触れ徐々に増大したが放置,仙骨腫瘍の診断にて入院となった.HBVによる肝硬変症,高血圧症のほか左水腎症を合併.初診時所見として下腹部に境界明瞭,弾性硬,可動性(-)の小児頭大の腫瘤を触知し腹水も認めた.神経学的には知覚,運動障害はみられず,排尿排便障害を訴えるが性機能は保たれていた.血液生化学所見としては汎血球減少傾向,肝腎機能障害,炎症反応(+),血液凝固能の低下,また尿検査で血尿を認めた.CT,MRIにて仙骨左側より発生したと思われる腫瘤が骨盤腔内を占拠していた,手術を行い,前方から進入すると腫瘍は血管に富み,出血も多いため全摘出は断念し,腫瘍の被膜を残し血管の処置を行い腫瘍内切除した.病理組織所見は神経鞘腫であった.術後1年9カ月にて消化器症状,尿路障害は軽快しているが,注意深い経過観察が必要である.

2根障害をきたす特殊な腰椎椎間板ヘルニア―単一椎間板に生じた脊柱管内および椎間孔外ヘルニア合併例

著者: 種市洋 ,   鐙邦芳 ,   佐藤栄修 ,   金田清志

ページ範囲:P.949 - P.954

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアで2根障害を呈する病態の一つとして,同一椎間における椎間孔外と脊柱管内ヘルニア合併例の診断と手術法を検討した.対象は3例で,2例は脊柱管内と椎間孔外に独立したヘルニア塊を合併した,いわゆる“double herniation”で,他の1例は脊柱管内から椎間孔外へいたるヘルニアであった.本症は,腰椎椎間板ヘルニア全手術例の0.9%,extreme lateral lumbar disc herniationの11.5%を占めた.症状の特徴は,連続する2根障害を呈し,2根それぞれの症状出現時期が異なることであった.画像診断では,CTやMRI横断像による椎間板全周にわたる観察がもっとも重要であった.手術は,正中アプローチを用い,内側開窓による脊柱管内操作に,椎間関節外側からの椎間孔外操作を組み合せたヘルニア摘出術が有用で,通常,椎間固定を要さない.本症は稀ではあるが,腰椎椎間板ヘルニアによる2根障害例の診断に際し,念頭に入れておくべき病態の一つである.

大後頭孔前方に発生したdumbbell型神経鞘腫の1例―lateral approachの経験

著者: 村上英樹 ,   富田勝郎 ,   川原範夫 ,   高橋啓介 ,   鳥畠康充 ,   山口昌夫

ページ範囲:P.955 - P.958

 抄録:大後頭孔のdumbbell型神経鞘腫に対し,lateral approachを用いて全摘出しえたので報告する.症例は68歳,女性.歩行障害を主訴とした.MRIで脊髄前方に大後頭孔から上位頚椎に及ぶ腫瘍を認め,横断像からdumbbell tumorと診断した.脊髄は腫瘍により前方正中から後方に極めて強く圧排され扁平化していたため,手術はlateral approachにて行った.右半側臥位で外後頭隆起から左側頚部へ半弧状に切開し,C1の後弓,C2の椎弓,C3の椎弓片縁を片側切除し,硬膜外腫瘍を摘出した.次に硬膜側方を縦切し,硬膜内腫瘍を摘出した.脊髄が本症例のように圧排された場合にlateral approachは,他のapproachに比べて広い視野のもとで脊髄に対し最小限の侵襲で腫瘍を摘出できる.とくにdumbbell型のように側方に進展した腫瘍に対して有用な方法と思われた.

仙骨部脊索腫手術におけるMRIの有用性について

著者: 山口潔 ,   舘崎慎一郎 ,   佐藤哲造 ,   六角智之 ,   木下知明 ,   松嵜理 ,   守屋秀繁 ,   北原宏 ,   三橋繁

ページ範囲:P.959 - P.964

 抄録:仙骨部脊索腫の手術に際しMRIにより切除範囲を決定した4例のMRI所見と切除材料とを比較検討した.MRIによる術前評価のポイントとしては,①腫瘍の頭側への進展,②直腸浸潤の状態,③大殿筋,梨状筋への浸潤状態を知ることであり,それにより仙骨切断高位および,大殿筋,梨状筋の切除範囲が決定された.術後の病理学的検索により,切除縁は腫瘍辺縁切除縁2例,広範切除縁2例であった.全例,現在までのところ再発をきたしていない.以上の結果より,MRIは術前の腫瘍進展範囲を把握するために有用であると判断された.

人工呼吸器より離脱できたrespiratory quadriplegiaの1例

著者: 積木秀明 ,   森下浩一郎 ,   瀬戸正史 ,   森田哲正 ,   笠井裕一 ,   関口章司 ,   塩川靖夫 ,   荻原義郎

ページ範囲:P.965 - P.968

 抄録:上位頸髄損傷は呼吸麻痺をきたすことが多く,その予後は決して満足できるものではない.今回,われわれはrespiratory quadriplegiaで人工呼吸器を装着したが,SIMVとon-and-off法の併用による呼吸管理により,受傷後約5カ月で人工呼吸器より離脱できた1例を報告する.また,呼吸機能を含めた傷害レベルの推移について考察を加える.

下肢神経症状を伴った骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折の手術経験

著者: 王東 ,   斉藤正史 ,   古沢豊 ,   塩見朗 ,   伊佐治純 ,   手塚正樹 ,   柴崎啓一 ,   大谷清

ページ範囲:P.969 - P.973

 抄録:下肢神経症状を伴った老人性骨粗鬆症による陳旧性脊椎圧迫骨折に対し,前方固定術を行い良好な成績を得たので報告する.症例は6例で男2例,女4例,平均年齢は67歳であった.発症部位は胸腰移行部で胸椎2例,胸腰移行部3例,腰椎1例であった.後弯変形は術前平均30.2こから術後平均17.7°と改善した.全例に脊髄の除圧と,支持性の回復を行える前方固定術を行い,そのうち3例にinstrumentationを併用した.全例に神経麻痺の改善が認められ,歩行可能となった.神経症状が出現した場合には早期に手術的治療を行うべきで,病態からみて脊椎の後弯変形の矯正と,脊柱管内の除圧が行える前方固定術が有効であると考える.しかし老人故に合併症に留意し,早期離床を考慮する必要がある.

学会印象記

NOVAKOVY(ノバツク)外傷整形外科学会1993

著者: 田中晴人

ページ範囲:P.918 - P.918

 ノバック外傷整形外科学会が,1993年10月21~22日の2日間,Path Zelmicek会長のもと,チェコのブロノにある工業大学の講堂にて開催された.ノバック(Novakovy)博士は,19世紀後半から20世紀にかけて,チェコ・スロバキアにおける外傷学の基礎的体系を作り,多大なる貢献をした.今回学会の名称に博士の名前を冠し「Novakovy外傷学会」としたのは,博士の功績を再認識しようとしたものと考えられる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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