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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科29巻9号

1994年09月発行

雑誌目次

視座

整形外科的プライマリケア

著者: 大成清一郎

ページ範囲:P.977 - P.977

 第67回日整会学術集会は「生き甲斐を支える整形外科」をテーマとして開催され,高齢化社会における整形外科の社会的役割が強調された.これからは患者側に立って考える医療,患者に満足してもらえる医療,すなわち開かれた医療が重視される時代になったといえる.
 近年,整形外科は多くの専門分野に細分化し,それぞれが独立の方向に向い,新しい学会や研究会が次々に発足し,その趨勢は収まりそうにない.整形外科そのものが解体しかねないようである.こうした状況の中で若い整形外科医はますます専門家志向に走らざるを得ないのではないかと心配でもある.しかしながら,整形外科医療の現場では広い範囲のcommon diseaseが多く,特に専門的知識を必要とする症例だけが必ずしも多くはない.偏った分野の専門知識だけでは多くの現場で十分に役立ってはいない.大学以外の医療機関ではそれぞれの専門家を揃えることは不可能であり,各種のプライマリケアに的確に対処できるオールラウンドプレイヤーとしての整形外科医を求めている.大多数の認定医は臨床医としてこの道を進んで行かざるを得ないことを認識すべきである.

論述

肩関節初回前方脱臼の二重CT関節造影所見について―反復性脱臼と比較して

著者: 鈴木克憲 ,   三浪明男 ,   高原政利 ,   金田清志 ,   福田公孝 ,   高橋修司

ページ範囲:P.979 - P.983

 抄録:外傷性肩関節初回前方脱臼から反復性脱臼への移行は,受傷時年齢の関与が大きいといわれている.今回の目的は,初回脱臼例に対して二重CT関節造影を施行し,関節内病変を明らかにすることである.対象は,初回脱臼例33例33肩,平均年齢は32.5歳,反復性脱臼は,45例46肩,平均年齢は24.9歳であった.初回脱臼は,受傷時から2週間以内に関節造影を施行した.30歳未満の初回脱臼の84%(16/19)に前下方関節上腕靱帯―関節唇複合体の破綻すなわちBankart lesionを認めた.これらの所見は,反復性脱臼の所見と類似していた.30歳以上の初回脱臼においては,肩峰下滑液包への造影剤の漏出,大結節部の骨折が43%(6/14)に認められ,腱板や関節包自体の断裂の存在を示唆していた.Bankart lesionを認めた例は29%(4/14)であった.整復後の内転・内旋位固定では,Bankart lesionの修復は得られず,不安定性を生じると考えられた.

皮下に発生した軟部肉腫の治療経験

著者: 土谷一晃 ,   茂手木三男 ,   丸山優 ,   亀田典章 ,   蛭田啓之

ページ範囲:P.985 - P.990

 抄録:1986年以降当科で取り扱った皮下発生の軟部肉腫について,治療上の問題点を中心に検討した.症例は,男性12例,女性5例,計17例,平均年齢は57.4歳で,病理組織型はMFH6例,線維肉腫4例などであり,発生部位は上肢8例,体幹6例,下肢3例であった.このうち,不適切な単純切除後の症例が13例あった.治療は13例に広範切除術を施行したが,4例は切・離断を余儀なくされた,切除例のうち9例にwide以上のmarginが確保でき,経過観察期間は平均3年10カ月で,13例がdisease freeであった.皮下発生の軟部肉腫の場合,不適切な切除後の追加広切例が多く,contaminationへの対応として,前医での手術操作などについての詳細な検討と,可能であれば広めの切除縁設定が望ましいと考えられた.また,切除範囲が広範な症例や切除後に骨・関節などが露出する症例が多く,有茎筋膜皮弁等による再建術の併用が,safety marginの確保や患肢機能の保持に有用であった.

患肢温存追加広範囲切除術を行った軟部肉腫例の検討

著者: 西田淳 ,   白石秀夫 ,   小竹俊之 ,   阿部正隆 ,   室岡玄洋

ページ範囲:P.991 - P.997

 抄録:取り残し例,局所再発例を含む軟部肉腫例8例に対し患肢温存追加広範囲切除術を行った.症例はMFH 3例,横紋筋肉腫2例,脂肪肉腫2例,滑膜肉腫1例であり,術後経過観察期間は6カ月~4年2カ月,平均2年1カ月である.初回手術時の切除縁,手術創の汚染範囲は,前医の手術所見,術創の肉眼所見,MRI等の画像所見により概ね推測できた.獲得された切除縁は,治癒的切除縁1例,広範囲切除縁7例であり,2例は術前設定した切除縁以下の切除縁であった.局所再発例はなく,2例に肺転移が出現したが,転移巣の摘出を行い,転移例も含めて全例無病生存中である.術後患肢機能はfair 1例,good 1例,excellent 6例と比較的良好であり,摘出術後紹介される軟部肉腫例でも,患肢温存広範囲切除術を積極的に考慮すべきと考えられた.

股関節手術に合併した肺動脈血栓塞栓症

著者: 柴山慶 ,   樋口富士男 ,   志波直人 ,   山下寿 ,   大川考浩 ,   井上明生

ページ範囲:P.999 - P.1006

 抄録:1983年から1992年12月までに当科で行われたTHR 739例,Chiari骨盤骨切り術(以下,骨盤骨切り)634例,その他161例の1534股関節手術を対象とした.術後に肺動脈血栓塞栓症を合併した症例は16例(1.04%)で,骨盤骨切り術が13例と大部分を占め,発症時期は全例術後3週間以内であった.診断は肺血流シンチ,心電図,心エコー,胸部単純X線写真および臨床症状により総合的に行い,それらは重症度別に軽症型,亜重症型,重症型の3つに分類した.当科では2例が死亡した1989年より予防を開始した.術前のリスクファクターに応じて術直後よりジピリダモール,シロスタゾール,ヘパリンナトリウムを使い分け,全例に血栓予防用のストッキングを着用させ,万歩計を利用して足関節の背屈運動を行わせている.

特別寄稿

椎間孔より観察せる腰痛に就いて―40年前の手法による解明

著者: 青池勇雄

ページ範囲:P.1007 - P.1016

 抄録:この論文は,昭和28年(第26回)日整会総会で口頭発表した協同研究の腰痛に関するもので,その要旨は,日整会誌第27巻332-335頁に,また短い抄録は医学誌“臨床と研究”に発表したが,不慮の事情により,論文と資料の大半を紛失したため,投稿を放置していた.今回,研究を再開して,紛失の幾らかを補い,本誌に投稿した次第である.
 新鮮老人屍腰椎柱を椎間孔を中心に主として,矢状断して,解剖学的研究を行った.(1)椎間孔入口で,L1およびL2神経根は脊髄に対して約70℃の角度で椎弓根下を斜下方に走行するので,椎間板とは接触しないが,L5神経根は約45°急斜位をとるため,椎間板と接触し,椎間板ヘルニア,骨棘などで圧迫される.(2)腰仙移行椎では一層障害され易い.(3)黄色靱帯は骨化し易く,腰椎で9.2%に認めた.(4)椎間関節は甚だ特異な構造を持つ.(5)L3,L4の椎間関節の上関節突起上端の前方弯曲で神経根圧迫を起こし易い.(6)老人腰神経根では,変性,神経節細胞の変性が一般的である.

整形外科を育てた人達 第129回

Arthur Bruce Gill(1876-1965)

著者: 天児民和

ページ範囲:P.1018 - P.1019

アメリカ整形外科学への貢献
 Arthur Brace Gillの名は我々にはあまり知られていないが,1900年代の初め,アメリカに整形外科の研究団体や学会が次々に出来てきた時に,整形外科を新しい医学の専門分科として独立させる為に貢献した人である.
 1938年にはThe American Academy of Orthopaedic Surgeonsが組織され,さらに1944年にはThe American Orthopaedic Associationが成立した.アメリカに整形外科が専門分科として認められた当時,整形外科には既にGillの他に著名な5人**の学者がいた.その中の1人Ryerson EWは,膝関節の安定性はlateral ligamentsによって維持できていることを1937年に発表していた.また,Campbell WCは足の研究に詳しく,dropfootの治療法を発表していた.こういった人達が整形外科の発展に大きな力を捧げていた.また,Orthopaedic Boardも組織されて研究を促進した.Gillらは研究に熱情を傾けると共に,若い医師の教育の重要性を考えてレジデントの訓練の計画もしたので,近代整形外科の発展に努力した功績は大きいと思う.

整形外科英語ア・ラ・カルト・25

整形外科に関する興味ある言葉・その2

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1020 - P.1021

●cast(キャスト)
 “cast”には色々の意味があるが,鋳造物の意味があり,“plaster cast”はギブスやギプスのことである.“plaster”は石膏のことである.それが日常では,ただ“cast”として用いられている.日本語のギプスではドイツ語の“Gips”や“Gyps”に由来しており,その語源はラテン語の“石膏”や“石灰”を意味する“gypsum”(ギュプスム)である.さらにこのラテン語は,ギリシャ語の“gypsos”(ギプソス)に由来している.
 石膏は,古くエジプトのピラミッドの建設に利用されており,後に石灰岩は建築や彫刻にも古くから使われていた.石膏の成分は“calcium sulfate”(キャルスィアム・サルフェイト・硫酸カルシウム)であり,天然から2水塩の“CaSO4・2H2O”として産出される.フランスはパリ郊外のモンマルトル(Montmartre)の丘からは,昔から良質の石灰岩が産出されたので,石膏のことを“plaster of Paris”と呼び,石膏が医学に使われようになり,ギプスの別称にもなっている.

基礎知識/知ってるつもり

PLRI

著者: 堀井恵美子

ページ範囲:P.1022 - P.1023

【言葉の定義】
 Posterolateral Rotatory Instability(PLRI)は,上腕骨に対して橈尺骨一体となって回外方向へ回旋する不安定症である(図1)1).回旋性のストレスをかけると,近位橈尺関節の安定性は保たれたまま,橈骨頭は上腕骨小頭より後方へと脱臼し,腕尺関節も亜脱臼位となる.

臨床経験

キアリ奇形を伴う脊髄円錐部空洞症の1例

著者: 鈴木禎寿 ,   鎌田修博 ,   松本隆志 ,   丸岩博文 ,   加藤満子 ,   牧田聡夫 ,   山中芳

ページ範囲:P.1025 - P.1028

 抄録:キアリ奇形を伴う脊髄円錐部空洞症の1例を経験した.本例は下腿のしびれと腰背部緊満感を主訴としたが,筋力低下や知覚障害などの神経症状は認めなかった.外来でのMRIでTh10~Th12高位の空洞とキアリ奇形1型を認めた.経過観察中,下肢反射の亢進と体幹の不撓性が増強し,画像上も空洞の拡大を認めたため,手術に踏み切った.術中脊髄モニタリング下に顕微鏡下の愛護的な操作によりS-S shuntを施行した.術後体幹の不撓性は軽快し,下肢の反射も正常化した.術中操作による新たな神経脱落症状もなく良好に経過している.MRIの普及により症状の軽度な脊髄空洞症を発見する機会は増えると思われる.われわれはそのような例においても,症状の進行がみられれば術中脊髄モニタリングと顕微鏡下の操作を併用することにより安全な手術操作が行えるため,積極的に手術を行うべきと考えている.

両側同時膝蓋骨骨折の1例

著者: 高柳建志 ,   平山博久 ,   高野正一 ,   加藤裕之 ,   伊賀寧

ページ範囲:P.1029 - P.1032

 抄録:今回我々は,極めて稀な両側同時膝蓋骨骨折の1例を経験したので,現在までの報告例と受傷機転について若干の文献的考察を加えて報告した.
 症例は39歳,男性.1992年11月15日,運動会のリレーで全力疾走している時,突然両膝にバキッ,バキッと音がして転倒し走れなくなった.両側膝蓋骨横骨折の診断のもと観血的整復固定術を施行し,経過順調である.

Russell-Silver症候群の1例

著者: 矢田浩 ,   二井英二 ,   原親弘

ページ範囲:P.1033 - P.1036

 抄録:比較的稀なRussell-Silver症候群の1例を報告した.症例は5歳2カ月の女児で,右片側肥大,歩行時の体幹の傾きを主訴として来院した.在胎39週,生下時体重1,934g,身長41cmの低出生体重児であった.理学的所見では,身長95.7cm(-3.6SD),体重11.0kg(-3.3SD),2cmの下肢長差がみられ,両小指短小,内弯,逆三角形の顔貌,代償性側弯,骨年齢の遅延を認めた.整形外科的問題点としては下肢長差であるが,現在ADL上支障ないため,特に処置せず,経過観察中である.

椎弓切除術後の上位隣接椎間に発生した胸椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 吉岡千佳 ,   金田清志 ,   佐藤栄修 ,   鐙邦芳 ,   白土修

ページ範囲:P.1037 - P.1040

 抄録:胸椎黄色靱帯骨化症による胸髄症に対して椎弓切除術施行後,その上位隣接椎間に発生した胸椎椎間板ヘルニアの症例を報告する.症例は69歳男性で,歩行困難と両下肢のしびれ感が主訴であった.既往歴として黄色靱帯骨化症による胸髄症に対して,T11-12椎弓切除術が施行されていた.術後症状は消失し通常の生活を送っていたが,1年後突然両下肢の脱力感が出現し,次第に歩行不能となった.T10/11椎間板ヘルニアによる胸髄症の診断で,前方除圧・固定術を施行し症状は改善した.本症例では椎弓切除術施行後,切除レベル部位での局所後弯が増強していた.元来可動性の大きい胸腰椎移行部において,椎弓切除による不安定性が生じ,上位隣接椎間に過度のストレスが加わったことがヘルニア発生の一因となったと考えた.

両側肩峰下滑液包内に発生した滑膜骨軟骨腫症の1例

著者: 森井健司 ,   小川清久 ,   吉田篤

ページ範囲:P.1041 - P.1044

 抄録:滑膜骨軟骨腫症が両側性に発生することは極めて稀少である.両側肩峰下滑液包内に発生した本症を経験したので報告する.症例は47歳男性で,主訴は両肩の運動時痛と右肩の嵌頓症状であった.諸検査から両側共に肩峰下滑液包内の腫瘤,腱板部分断裂と肩峰の下垂奇形が認められ,腫瘤摘出術,滑膜切除術,前肩峰形成術および腱板修復術を施行した.病理組織学的に滑膜骨軟骨腫症(Milgram分類stage ll)であることが確認された.両側に見られた肩峰の下垂奇形が誘因となり肩峰下インピンジメントが生じ,肩峰下滑液包と腱板に物理的な慢性的刺激を与え,肩峰下滑液包の滑膜骨軟骨腫症と腱板部分断裂が発生したと推測された.

骨線条陰影を伴ったdiaphyseal dysplasia(Engelmann病)の1例

著者: 野村忠雄 ,   林律子 ,   西村一志

ページ範囲:P.1045 - P.1048

 抄録:diaphyseal dysplasia(Engelmann病)は長管骨骨幹部の左右対称性の紡錘状肥厚を特徴とする稀な疾患である.われわれはX線上本疾患に骨線条症を合併したと考えられる症例を経験したので報告する.症例は2歳女児で,歩容異常,易疲労性で受診した.遺伝関係は証明されなかった.血液,尿ホルモン学的検査では赤沈値の亢進以外,特別な異常は認められなかった.X線像では,頭蓋底,全身の長管骨骨皮質の硬化,肥厚を認め,また,骨盤および長管骨骨幹端部の骨萎縮と縦走する線条陰影を認めた.初診後3年8カ月では,症状は軽快したが,X線像では全身の骨萎縮は進行し,長管骨では骨皮質の肥厚の程度および部位は変化し,さらに上腕骨では線条陰影に加え,斑紋状陰影が認められた.また大腿骨・脛骨においては弯曲も認められた.本疾患と骨線条症,骨斑紋症との関係などについて文献的考察を加えて報告した.

悪性骨腫瘍を思わせた一次性MRSA骨髄炎の1例

著者: 上原健治 ,   土屋弘行 ,   勝尾信一 ,   徳海裕史 ,   田地野崇宏 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.1049 - P.1052

 抄録:症例は14歳の男性で転倒後に右上腕部痛が出現した.受傷時X線上異常はなかったが症状は徐々に増悪し,4カ月後のX線写真では骨内部および周辺の不均一像,不連続な骨膜反応が認められた.アトピー性皮膚炎およびこれによる蜂窩織炎にしばしば罹患していた既往がある.入院時局所の圧痛と腫脹を認めたがESR 22mm/1時間,CRP 0.4g/dlと炎症所見は軽度であり,画像上周辺が不鮮明で内部不均一かつ周囲組織への進展が認められ,また,enhanced CTにて造影されたため悪性骨腫瘍を強く疑った.しかしT1(タリウム)シンチグラフィーでは淡い集積しか見られず,生検の結果が骨髄炎であったことより両者の鑑別にT1シンチグラフィーが有用と考えた.この骨髄炎の起炎菌はMRSAであり,蜂窩織炎に対する抗生剤の多用がその引き金になったと推測した.

骨粗鬆症を基盤とした仙骨不全骨折の3例

著者: 松山敏勝 ,   糸田瑞央 ,   渡邊耕太 ,   横串算敏 ,   石井清一 ,   石塚圭輔 ,   畑英司 ,   楢崎義一

ページ範囲:P.1053 - P.1057

 抄録:骨粗鬆症に基づく仙骨不全骨折の3例を報告した.全例女性で,年齢は69,70,81歳であった.いずれもDXA腰椎-AP法で高度の骨塩量の減少を呈していた.単純X線像では骨折線の観察が困難であった.一方,全例に骨シンチで仙骨部に集積を認め,骨シンチが診断に重要であることを確認した.しかしながら,本症に特異的とされる典型的H型集積を呈したのは1例のみであった.骨折型により骨シンチの集積パターンは多彩であった.各種の画像診断,骨生検での診断確定が必要な症例もあると考えられた.骨粗鬆症患者での腰殿部痛の鑑別診断として本症を留意する必要がある.

小児有頭骨単独骨折の1例

著者: 西浦康正 ,   高橋正憲 ,   中村光一 ,   植野満 ,   内西兼一郎

ページ範囲:P.1059 - P.1062

 抄録:10歳の男児がマンションの2階から転落し左手関節部痛を生じ,当科を受診した.初診時左手関節は軽度腫脹し,圧痛を認めたが,単純X線所見で骨折線は明らかでなかった.シーネ固定により経過を観察したところ有頭骨に骨折線が明瞭となった.受傷後約6週で圧痛は消失し,X線像上骨折線も約4カ月で完全に消失した.小児の手根骨骨折はきわめて稀であるが,放置すれば偽関節となる可能性もあり,常に念頭に置き治療に当たるべきである.

鎖骨中1/3骨折を伴った烏口突起骨折の1例

著者: 津村敬 ,   船越正男 ,   石崎仁英 ,   青野猛 ,   麦倉聡 ,   佐藤淳

ページ範囲:P.1063 - P.1066

 抄録:円錐結節より近位側の鎖骨骨折を伴った烏口突起骨折の報告は少なく,われわれの渉猟し得た範囲では過去に7例である.また,受傷機転に関する定説はない.今回われわれは,鎖骨中1/3骨折を伴った烏口突起基部骨折の1例を経験したので報告する.症例は19歳女性で,誤って二階より転落し受傷した.10日後,経皮的鎖骨髄内固定術を施行し,経過良好である.本症例の受傷機転は,外側から加わった肩甲骨を内側に押し込む外力と考える.また,治療は鎖骨骨折の整復固定のみで十分と考える.

強直性脊椎炎の後弯変形に対する脊椎矯正骨切り術の経験

著者: 畠山雄二 ,   阿部栄二 ,   岡田恭司 ,   松永俊樹 ,   吉田澄子 ,   佐藤光三

ページ範囲:P.1067 - P.1071

 抄録:症例は50歳男性,18年前腰殿部痛で発症.強直性脊椎炎の診断でNSAID投与等の対症療法を受けていたが,後弯変形が進行し,前方水平視障害,歩行障害を来して手術に至った.仙腸関節および広範囲の椎間関節,椎体の骨性癒合がみられ,可動関節はO-C1,C1-2,L3-4のみであった.著しい頚椎過伸展と胸腰椎後弯変形を認め,L1-5の後弯は37°であった.後方よりL2-5の3椎間板レベルでwedge osteotomyを行い,pedicular screwで固定した.術後前弯20°に矯正された.しかし,術後固定上端のL2椎体上縁に骨折が生じた.腰痛,矯正損失のため,術後31週に上方へ固定範囲を延ばし,T11-L5のpedicular screw固定を再度行い,前弯23°に矯正した.術後8カ月の現在,前方水平視も容易となり姿勢も著しく改善した.

小児手関節疾患の手関節鏡視下手術について

著者: 西川真史 ,   一柳一朗 ,   新戸部泰輔 ,   三束武司 ,   小野睦 ,   原田征行 ,   藤哲

ページ範囲:P.1073 - P.1076

 抄録:15歳以下に施行した手関節鏡症例13例13関節のうち,鏡視下手術を施行した9例について若干の考察を加え報告する.対象は,9例(男5例,女4例)9関節(右6関節,左3関節),平均13.1歳(12歳~15歳).疾患の内訳は三角線維軟骨(以下TFCと略す)損傷5例,手関節内軟骨剥離4例であった.
 外傷性TFC損傷では,辺縁が不整形の断裂を認め,鏡視下にTFC部分切除施行した.関節軟骨損傷では,軟骨が弁状に剥離しているのが観察され,鏡視下に弁状剥離部を切除した.術後は3日間圧迫包帯固定,その後フリーとし,全例症状消失した.
 小児期の手関節内障害は,成人例と比べて臨床所見は特徴的なものはないが,小児では外傷性TFC損傷のほかに手関節内軟骨損傷が多かった.小児の手関節鏡は関節軟骨を損傷しないように十分注意する必要があり,適応は慎重に決定すべきと考えている.

外傷性麻痺性の頚胸椎側弯の治療経験―全周性の脊椎骨切り術とspinal instrumentationによる矯正

著者: 日野浩之 ,   金田清志 ,   鐙邦芳 ,   佐藤栄修

ページ範囲:P.1077 - P.1080

 抄録:外傷性麻痺性の頚胸椎側弯を呈した1例の手術治療を経験した.症例は27歳の男子で交通事故により受傷し,脳挫傷,頚胸椎損傷,腕神経叢損傷などがあった.脳挫傷による片麻痺と頚胸椎損傷などが側弯発生の原因と考えられた.立位単純X線像にてC5からT11において72°の側弯変形あり,著しい体幹インバランスのため立位歩行困難であった.頚胸椎移行部では前方・後方脊椎要素に骨性癒合あり,全周性の脊椎骨切り術と後方脊椎インスツルメンテーションによる矯正固定を行った.側弯変形は72°から25°に,plumb lineの偏位は16cmから6cmに改善し,歩行障害は著しく軽快した.

慢性腎不全患者に併発した大腿骨頭壊死の1症例

著者: 林健太郎 ,   土島秀樹 ,   岡田正人 ,   西島雄一郎 ,   東田紀彦 ,   山崎安朗

ページ範囲:P.1081 - P.1085

 抄録:我々は長期の血液透析患者に,臼蓋にも破壊を認める大腿骨頭壊死の1例を経験したので報告する.症例は48歳男性で,ステロイドの服用,アルコール愛飲歴,放射線治療の既往はなかった.1991(平成3)年7月頃より右股関節痛出現し,他医にて右大腿骨頭壊死と診断され経過観察されていた.1993(平成5)年9月当科紹介され入院した.日整会変股症判定基準では58点であった.血液生化学検査ではBUN,Creatinine,PTH,β2-microglobulinは著明に高値を示していた.単純X線では右股関節において大腿骨頭荷重部の陥没,関節裂隙の狭小化および臼蓋の骨壊死が認められた.手術はセメントレスTHRを施行した.病理組織学的所見として軟骨下組織の骨壊死像,Congo-red染色でアミロイド沈着を認めた.本症例は二次性上皮小体機能亢進症とアミロイド骨,関節症が本大腿骨頭壊死の発生に関与していると考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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