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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科3巻10号

1968年10月発行

雑誌目次

視座

歴史

著者: 伊藤鉄夫

ページ範囲:P.827 - P.827

 先般,天児先生の「医学史の横路」という論文を拝見して,先生の深い御造詣に強い感銘を受けた.永い年月の批判にたえて後の世に伝えられるような治療法というものには,みなそれぞれに発展の歴史がある.それを知ることによつてその治療をよりよく理解することができるし,またこれに深い愛情を覚えるようになるものである.
 大腿骨骨頭の人工骨頭による置換については,1943年にMooreの論文が発表されている(J. Bone and Joint Surg.,25:688,July 1943).これはmetal hip jointの1例報告であるが,大腿骨人工骨頭の最初の論文である.この頃に用いられた骨頭は,今のMoore型のものに比較すると,随分不細工なものであるが,Vitallium製であつた.1952年には,既に現在用いられているようなMoore型のVitallium prosthesisを33例に使用し,その成績がすぐれていることを発表した(Southern Medical Journal,45:1015,Nov. 1952).この論文にはDelbetが1919年にreinforced rubberで作つた人工骨頭を使用したということが記載されている.しかしMooreのこの論文はまだそれほど大きな世の反響をよばなかつた.それは発表された雑誌が広く読まれているものでなく,症例数も多くなかつたということによると思われる.

論述

労災脊髄損傷患者の現状とその社会復帰を阻害する因子

著者: 赤津隆

ページ範囲:P.828 - P.833

いとぐち
 わが国における脊髄損傷患者の社会復帰の状況は,この20年間に大きな変化がみられる.
 古くは永久に施設で保護するものと考えられていたものが,リハビリテーションの進歩とともに,欧米の現況の刺激を受け,積極的に社会に復帰せしめる努力が払われるようになつてきた.この大きな契機となつたものは東京パラリンピックであつたと考えられる.

シンポジウム 日本の義肢問題 座長公演

日本の義肢問題—その現状と今後と

著者: 水野祥太郎

ページ範囲:P.834 - P.837

はしがき
 この義肢シンポジウムのためには,まず42年4月,各方面にアンケートを送り,義肢のひろい分野のうち,いずれに重点をおくかの回答をいただいた.これによつて単なる海外紹介的なものや,初心的講習的なものは教育研修会に一任することとし,日本におけるオリジナルなものを取上げる方針が打出されたのである.また,装具の方面をまつたく省略して他日にゆずることとし,わが国の義肢の過去,現在をしめすとともに,未来への見とおしの立てられるような形をとることとなつた.
 すでにして明治100年をむかえ,日本は世界の誰しもから後進国とは考えられていないにかかわらず,不思議に義肢に関するかぎり,今まで整形外科学界においては,外国見物的な紹介ないし,追随のみが幅をきかせていたのは,どうしたことであろう.新しい方面を開拓して世界をリードする方向にこそ,これからは眼を向けるべきであろう.独自の考えによる進歩は,いままでにもいくつも見られている.本シンポジウムが新しい道を具体的に踏出す契機ともならば幸いである.

動力駆動義肢

WASEDA PROSTHESIS

著者: 加藤一郎

ページ範囲:P.838 - P.843

 補綴整形装具を改良する問題は,技術の分野における新材料の誕生と制御手法の進展とに刺激されて,新らたに大きな展開をみせる時期にきているように思われます.去る4月の日本整形外科学会総会において,外力駆動義肢を主題にするシンポジウムがもたれたのも,また一方"人工の手足の外力による制御"を主題とする国際シンポジウムが既に1962年,1966年の2回開かれているのも,その表われであるといえましよう.Dubrovnikで開かれた第2回の国際シンポジウムを終えて,Tomovic教授は「エレクトロニクスと制御工学に支えられて,将来の義肢は多機能型になるだろう.上肢補綴具の改良には,その適切なモデルを基礎として端点制御技術が役立つようになるにちがいない.また下肢用補綴具の設計に際しても,二足移動問題,安定問題などを解決するために,適応制御理論,多重レベル制御理論などが利用されることは明らかである.」と述べています.

電子義手の制御システム

著者: 末松辰美

ページ範囲:P.843 - P.846

I.電子義手の位置づけ
 義手のシステムは第1図のように考えられる.残存している体の部分の動きを動力源として使用するもの(A)と,体の外部に動力源をもつもの(BおよびC)にわかれる.更に後者はエネルギーの種類と制御信号により,次のような組み合わせに分けて考えられる.
 ここでいう義手は(ロ)→(a),(ロ)→(b)である.このタイプの義手はその制御用信号として筋電を使い,その制御は電子工学的要素を使つているという意味から,電子義手とも呼ばれる(Bioelectric Hand or Electronic Prosthcsis).したがつてその制御システムは,Bioelectric Control SystemとかMyoelectric Control Systemといわれる.表面誘導による筋電流は筋肉の上の皮膚に板状の電極を貼りつけるだけで簡単にとり出せる.また切断の程度によつてはphantom limbの有効な利用法にもなる.

筋電流により制御する自動義手

著者: 立岩正孝

ページ範囲:P.846 - P.848

 本邦における義肢の開発は,専門機関の組織作りの未整備により,その進歩は遅々たるものである.
 最近,早大 加藤一郎教授,東大 森政弘助教授らの工学者は,遠隔操作に使うためのmanipulatorや加工工場のautomationを行なう際,人間の手の代用となる手,すなわちmaterials handlingのために,人工の手を試作せんとして研究しているが,かかる人工の手と義手製作とは多くの共通点を有しており,この技術が義肢開発に改革をもたらせばと考え,共同研究を開始した.

電動義手の研究

著者: 玉井達二 ,   北川敏夫 ,   米満弘之 ,   外間祥介 ,   本田五男 ,   鍋島敏 ,   牧野輝次 ,   佐藤昌康 ,   鬼木泰博 ,   緒方甫 ,   徳田明見

ページ範囲:P.849 - P.851

はじめに
 私たちは2年前より,電気を力源とする駆動義手の研究と試作を行ない,そのⅠ型,Ⅱ型を作製して,昨年,本誌2巻11号にて発表した.その際にも述べたが,義手が実用化されるには,①その形は本来の手に近く,②装着が簡単にできて,装置が堅牢であること,③安価であること,④フィード・バック装置を有すること,⑤義手の動きが意志と一致することなどが望ましい.
 その後,義手の動きを意志と一致させるためのcontrol signalの確実性,末端装置(手掌部)の改良,モーターの強力化などを行ない,Ⅲ型として,試作を行なつた.

上肢電動義肢

著者: 野島元雄

ページ範囲:P.852 - P.855

 上肢義肢に関しては近時,電気,流体を駆動源とせる義肢,義手の開発研究が活溌に進められるようになつた.著者も,後述のごとく,蓄電池を駆動源とする,高位切離断者,両側アメリー児に対する電動義肢を作製し,特に感覚的操作に関し工夫と検討を重ねている.その紹介に先立ち,著者の上肢義肢,動力駆動義肢に関する見解を明らかにしておきたいと思う.

義手の感覚装置

著者: 川村次郎 ,   末田統

ページ範囲:P.855 - P.858

はじめに
 これまでの義手に関する研究は多いが,義手に感覚を持たせようとする研究は非常に少ない.現在実用に用いられている義手で感覚機構を備えた義手はまだ一つもない.
 第2次世界大戦直後にリヒテンシュタインのWilmsが製作した電気義手は,失なわれた手を動かすのと同じ感覚をもつて動かすことのできる最初の義手であるが,また物を把持したときの力の強さを断端に逆に伝達する機構をも備えていた2).しかし彼の特許にもとづいてフランスで生産されている義手の最近の型では,切断者への感覚の伝達機構は取除かれている6).最近,東京医科歯科大医用器材研の鈴木10)らと,カナダのDorcasら3)は彼らの筋電流制御義手の論文において義手の把持力を切断者の耳に音として伝える考えをのべているが,使用結果についてはまつたくふれていない.

基礎的問題

人工の指と六本足歩行機構

著者: 森政弘 ,   村上公克

ページ範囲:P.858 - P.864

はじめに
 筆者らの研究室で工学的な立場からみた指の研究を始めて以来,すでに7年になる.当時の室員として実際の研究に当つた山下の着想と努力によつて,予想以上の成果を収めると同時に,その内容は内外各界からの反響をよび,とくに,その当初は工業界よりもむしろ医学界での関心の度合いが著しく,米国ミシガンの手の外科専門病院長の訪問を受けるほどであつた.そのような事情もあつて,手足の欠損や傷害についての臨床例に接する機会が必然的に多くなり,はからずも,筆者の目的意識の中に義肢の問題が大きなウェイトを占めるようになつたのである.と同時に,歴史が古いといわれる義肢の生産体制が,いまだに家内工業的であることにも少なからぬ不満を抱かざるをえなかつた.したがつて,ここでは,まず,義肢の問題を指の工学という観点から論じ,ついで筆者らの研究室で試作した人工の指や歩行機械に関する若干の説明を試みたいと思う.なお,次節の"指の工学"は筆者の1人である森が岡山で開催された第41回日本整形外科学会総会のシンポジウムにおいて同一テーマで発表した内容を骨子にしたものである.

義肢歩行の分析

著者: 瀬野庄助 ,   小島忠士 ,   小林力 ,   橋本善次郎 ,   荘司英樹 ,   鈴木堅二

ページ範囲:P.864 - P.869

はじめに
 歩行という観点のみからすれば,義肢の評価は主としてそれによる歩行能率によつて判定さるべきである.しかし正常歩行からの高度な形態的逸脱は,仮りに歩行能率に大きな影響を及ぼさない場合でも,義肢装着者にとつて心理的な重要問題であるばかりでなく,多かれ少なかれ歩行能率に関係してくるものと考えられる.こうした歩行形態と歩行能率の関係を解くためには義肢や切断者のより基礎的問題に目を向け,それらの客観的な資料を得なければならないと考え,次のような一連の実験を行なつた.切断者の個々の条件と義肢の種々な条件との組み合わせは非常に複雑になるため,大腿切断者の義肢歩行に限定して実験の結果を述べる.この実験の被検者の概要を第1表に示す.

幻想肢と体感像

著者: 大塚哲也

ページ範囲:P.869 - P.873

はじめに
 一般に四肢切断者(離断者を含む)は,その断端部にすでに失なわれた四肢が,いまだ残存しているような幻覚に囚われることが少なくなく,これが義肢装着や日常生活に与える影響も大である.
 四肢切断者の幻(想)肢は,心の中に造る自身の身体像とともに,幻肢痛の形で現われる感覚の面も具備しており,body imageの投影と見做される.この幻肢の型,現われ方,強さおよび幻肢痛などを追究することにより,切断者自身の問題点を見出すことも可能である.

幻想肢障害の治療方針

著者: 黒丸正四郎

ページ範囲:P.874 - P.874

 義肢装着に際し,いつも問題になるのは幻想肢ならびに幻想肢痛の処理である.したがつて,この点に関して神経科の立場から発言したいとおもう.
 幻想肢の起源に関しては,従来,中枢説,断端末梢説などいろいろの論議があるが,神経学の面からいうと,これは「身体図式」body imageの障害の一つの現われといえる.すなわちわれわれは幼少の時からのあらゆる知覚運動の体験の積み重ねとして,自己の身体の各部位に関する主観的な一つのimageをつくりあげている.しかもこのimageは単なる観念的なものでなくて,一つの生々しい実感であり,知覚の統合中枢であるThalamusや大脳皮質とに関連する完結されたGestaltであるといえる.したがつて,amputationによつてにわかに肢体の一部を喪つても,知覚の統合中枢に存在するbody imageはそれと同時に変化しないから,切断直後しばらくは喪われた肢体の幻想肢が残存するのは当然といえよう.しかし,多くの場合,切断直後の幻想肢体験は間もなく消褪し,新らしいbody imageが構成される.最近,神戸大,柏木教授門下は切断後,早期に義肢を装着して義肢訓練の円滑をはかつているが,これなど,いまだ喪つた肢体に関する幻想肢体験がうすれないうちに,幻想肢の中に現実の義肢をはめこんでゆくというもので,はなはだ興味のある方法といえる.

切断と断端

著者: 河野左宙

ページ範囲:P.875 - P.878

 最近の義肢の進歩は目をみはらせるものがあるが,大腿義足においては,従来の常用義足といわれた膝固定さし込み式から膝随意統御吸着式に,また下腿義足では,あらたにPTB,およびPTS下腿義足が開発され,常用されている.一方,切断法においては,このような解剖学的適合を必要とする近代的義足装着のために筋,骨の形成的切断法が考慮されている.しかし,どのような義肢を使用するにしても,骨断端,神経断端に原因をもつ断端痛が,義肢装着上支障となつてはならない.私たちは骨,神経端の処置法について臨床的研究を行なつてきたので,当教室伊藤の実験的研究の成果とあわせ,検討の結果を報告したい.

歴史

特色ある日本の義肢

著者: 飯田卯之吉

ページ範囲:P.879 - P.882

 日本の義肢の歴史を工学,技術面からふりかえつてみて,将来の進路にたいしての示唆を引き出したい.

臨床経験

先天性下腿骨欠損症について

著者: 加倉井周一 ,   本多純男 ,   栗村仁 ,   松浦美樹雄 ,   高橋勇 ,   佐藤和男

ページ範囲:P.883 - P.894

 長管骨の先天性欠損症は比較的稀な疾患であり,近年Thalidomide剤の服用による報告が多くなつているとはいえ,指趾の奇形に比べればはるかに少ない.長管骨の欠損は単独に見られる場合よりも,他に合併奇形を伴う場合が少なくない.通常,生下直後に気付かれ,その診断は容易であるが,治療法には非常に多くの問題が残されている.その障害部位,すなわち上肢欠損の場合と下肢欠損の場合では患児の日常生活諸動作に及ぼす影響が異なる.
 われわれは昭和34年以後 東大整形外科と整肢療護園を受診した患者について症例報告とともに文献的考察を行なつた.内容は脛骨欠損症5名,腓骨欠損症3名である.なお大腿骨短縮症3名については第339会集談会東京地方会に東らと発表したので,ここでは省略する.

境界領域

骨格筋ミオグロビン

著者: 小林晶 ,   徳永純一 ,   福元敬二郎

ページ範囲:P.895 - P.907

いとぐち
 ミオグロビン(以下Mb)は筋肉sarcoplasma中に含まれる色素蛋白体であり,筋の赤色調は主としてこの色素によつている.Mbの存在は,Boerhaave(1775),Hildebrandt(1799)によりすでに知られていたが,1921年Günther51)が牛の心筋より抽出しmyoglobinと命名した.それまでには,血中ヘモグロビン(以下Hb)との類似性からmuscle hemoglobin,myohemoglobin,Myochrom,Myohämatin,Muskelfarbstoffなどと呼ばれている.GüntherはすでにHbとMbとの分光学的差異について述べているが,本格的に研究の進歩がみられたのは,Kennedy,Whipple64)(1926)Whipple(1926)132,133),Theorell(1932,1934)121,122)などによりその本質が明確にされてからである.ことにTheorell121)は馬の心筋よりMbを結晶として取出すことに成功し,その功績は大きい.

カンファレンス

骨腫瘍—これはなんでしよう〔14〕

著者: 骨腫瘍症例検討会 ,   前山巌

ページ範囲:P.908 - P.911

症例
 A:ここに供覧いたします症例は43歳の婦人です.昨年6月の中旬ごろから右の小指の中手骨遠位部に腫脹が現われまして,次第に大きくなつてきたということで,来院いたしました.
 来院時には,骨性の硬さにふれる腫瘤で局所に熱感があり,また圧痛をみとめました.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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