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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科3巻2号

1968年02月発行

雑誌目次

視座

先天股脱の今昔

著者: 青池勇雄

ページ範囲:P.95 - P.95

 昔といつても,それほど遠い昔のことでなく,私が入局した約30年前のこと,その当時すでに早期診断,早期治療の重要性が言われだしたとはいえ,まだ一般にはあまり認識されていなかった頃である.その頃の先天股脱はほとんど歩き方が変だということで病院を訪ねてきたもので,したがつて患者は2〜3歳以上のものが随分多くあつた.たまたま注意深い母親が乳児の脚の外旋位とか,股関節部の音などの異常を気付いたり,あるいは上の子供に股臼があつたということで乳児を検診に連れてくることなどあるにはあつた.そんなわけで昔は先天股脱では,あらゆる程度のものをたくさん観察することができた.
 昨今は年長児の脱臼に接することは幸い非常に減つている.その代り,成人のHypoplasiaによる二次的変形性関節症のCaseが目立つている.これは絶対数が増しているというのでなくて,Osteotomyなどを治療する機会が多くなつたことを意昧するものと思う.

論述

整形外科における先天性筋無緊張症候群(amyotonia congenita syndrome)について

著者: 小林晶 ,   徳永純一 ,   星子正義 ,   長倉孝行 ,   岩本皓

ページ範囲:P.96 - P.105

いとぐち
 生下時より筋のhypotoniaをもつ患児(hypotonic infant)は別にfloppy infantともいわれ,しまりのない子供という意味で小児科領域ではしばしば用いられる言葉である.この中には病因により筋原性のもの,神経原性あるいは神経・筋接合部のものなどに分類される.整形外科が運動器を対象とする医学である以上,その領域も近年増大しつつある.われわれの対象とする小児疾患の中にも,詳細に観察すればこれらの疾患はかなりの頻度で含まれると思われる.われわれはmyopathyの研究を数年来すすめてきたが,単なる先天股脱のようなものも,よく観察すればこれらのmyopathyを含むものもかなりあることに気付いた.今回は兄弟にみられたmuscular hypotoniaを伴う先天股脱と側彎症の症例を提示し,われわれの考え方の一端をのべ,諸賢のご批判を仰ぐものである.

境界領域

整形外科における麻酔の知識

著者: 若杉文吉 ,   為佐鉄彦

ページ範囲:P.106 - P.112

はじめに
 整形外科手術の麻酔も一般麻酔学の原則にもとづいて行なわれるので,その基礎的問題は全く共通である.そこでこのような標題を与えられたとき,どのようなことを詳しく述べたがよいのか紙数が限られるので迷つたが,結局,私達麻酔科医が整形外科の麻酔を行なつて感じたこと,麻酔学における最近の話題を二,三拾つて述べてみたいと思う.まず整形外科の手術患者は概して全身状態がよいので,術前管理がどうしても軽く考えられやすいので術前管理に簡単にふれ,次にフローセン麻酔時のエピネフリン併用の問題,最近話題になつているneuroleptanalgesia,局麻法の一つである静脈内局所麻酔法,整形外科では神経ブロックの応用が極めて多いが,その中,最も応用頻度の高い,そして合併症がすくない腋窩より行なう腕神経叢ブロック,最後に最も重要な整形外科手術における体位の問題について考察を加えたいと思う.

診療の経験から

先天性内反足治療の問題点を求めて

著者: 森益太 ,   竹村大介

ページ範囲:P.113 - P.124

いとぐち
 まず冒頭に二つばかり断つておきたいことは,(1)ここでは内反足変形の中,畸形性teratologenicなclub footを問題とするのではなく,普通のregular type(Denis Browne)内反足について論じ,(2)また,本変形はPes equinovarus-adduc tus-excavatusといわれるごとく4つの構成要素にも分析せられうるが,一応,便宜上adductus,varus,equinusの三要素の分析に止ることをお断りしたい.
 さて,現在の,club footの,ことに早期治療に関しては,技術的にまた理論的に統一されていない何物かが残されており,世界的に諸家の見解と方法論に鋭い対立さえもみられる.まずこれを国内的に過去の日本整形外科学会における記憶から追つてみると,本邦の学会に最初にKite法を紹介されたのは(昭和26年,第24回日整学会総会)故河邨百合人博士ではなかつたかと思う.

手術手技

人工関節

著者: 片山良亮

ページ範囲:P.125 - P.132

 人工関節total replacement by prosthesis,artificial jointは関節窩も骨頭も人工的なものに交換する手術法で,最初は膝関節について考案され,最近は股関節についても考案が進んできた.膝関節についての歴史は古く,1924年Boeremaが犬で実験し,一応の成功をおさめたにはじまる.このように歴史が古いにもかかわらず股関節のカップや人工骨頭よりも発達が遙かに遅滞したのは人工関節の機構・資材・手術手技の困難なことと,適応症が比較的少ないことなどによると思う.
 ところでBoerema以来,膝の人工関節の文献が中絶していたが,1953年になつてB. Walldius1),橋倉2),1954年にE. J. Moeys3),L. G. Schiers4)の臨床報告があり,著者も平川5,6)・前沢らと犬につき動物実験をはじめ,1962年から臨床応用を開始して,今日までに18例に達している.

検査法

神経活動電位検査法

著者: 佐藤孝三 ,   佐藤勤也 ,   杉山茂

ページ範囲:P.133 - P.138

 知覚機能を客観的に検索しようとする試みは従来いろいろと研究されてきたが,いずれも被検者あるいは検者の主観に左右されるものが多かった.そこで知覚神経線維の活動電位をとらえ,その消長によつて知覚神経の異常の有無を確かめることができれば客観的に知覚機能状態を判断できるとの考えから,1945年Dawson, Scottがヒトの上肢よりの求心性神経活動電位の導出について報告し,1949年には本法の臨床的応用について記載した.しかしながらこの活動電位は純知覚神経線維によるものではなく,いわゆるcompound nerve action potentialであることから知覚機能をこれで判断することには問題があつた.
 1959年Gilliattが指神経を電気刺激し,手関節部の正中および尺骨神経幹上より求心性活動電位の導出に成功して以来,広く臨床的応用がなされるようになり,今日では臨床神経学におけるroutineな検査法として利用されるにいたった.本邦では1963年著者らが初めて本法を紹介してより,この方面の研究がなされるようになり,現在では知覚検査法の1つとして普及しつつある.

臨床経験

腰部圧痛点刺激時における痛みの発現部位

著者: 伊藤忠厚 ,   中川俊 ,   市堰英之 ,   大日方昇一 ,   源田信博 ,   常徳誓 ,   吉田三夫

ページ範囲:P.139 - P.144

はじめに
 腰痛疾患のTrigger pointの意義に関しては,Bonica1),Travell2),Steindler and Luck3)らによりすでに述べられてきたところであるが,各種腰痛疾患の中で特にMyofasciai pain syndrome1),Posterior division syndrome3)と呼称される疾患群に対しては極めて重要なる存在であることは,われわれが臨床的にも経験するところであり,かつ諸家1)2)3)4)5)の文献にもその診断および治療に関しての重要性についての記載を散見する.

先天性脊髄皮膚瘻について

著者: 新垣敏雄

ページ範囲:P.145 - P.154

いとぐち
 先天性脊髄皮膚痩は内腔が重層扁平上皮細胞に被われた瘻管からなり,脊椎あるいは頭蓋の背部正中線上に認められる発育異常(developmental anomaly)である.これが背部皮膚より深部組織に達し,頭蓋内や脊椎管内の奇形系腫瘍と連結していたり,ときには二次的感染を起して重篤な神経症状を呈するに至つた症例については,海外では1926年Moiseの報告以来,数多くの報告例がみられるが,本邦では文献上3例を渉猟しうるにすぎない.最近,慶大整形科学教室にて先天性脊髄皮膚痩3例ならびにこれと組織学的形態を同じくし,一亜型ともいうべきPilonidal sinus(毛巣疾患)2例を経験したので合せ検討し,ここに報告する次第である.

横紋筋肉腫について

著者: 石井良章 ,   伊勢亀富士朗 ,   宗近靖 ,   花岡英彌

ページ範囲:P.155 - P.163

いとぐち
 比較的稀な軟部組織の肉腫の中で,組織学的に多様性を示す横紋筋肉腫の存在は1854年C. O. Weberの報告をもつて嚆矢とする.従来,横紋筋組織そのものに発生せる肉腫はほとんどなく,横紋の存在しない部分,殊に泌尿,性器部などに異所的発生するものが大部分であつた.しかるにFujinami(1900),Montpellier(1929),Rakov(1937)らにより骨格筋部発生の横紋筋肉腫が報告され,爾来,同所的発生の存在も病理学的に認められてきた.しかしながら整形外科領域における横紋筋肉腫の報告は少なく,また組織学的診断に難渋することが少なくない.
 われわれは最近,腸腰筋に発生せる極めて珍らしい横紋筋肉腫の2例を経験したので病理学的考察を加えて横紋筋肉腫の周辺を探り,併せて整形外科領域における軟部肉腫の診断について言及したい.

Myotonic dystrophy—2症例の臨床・筋電図・筋生検所見

著者: 長谷川芳男 ,   高木俊男 ,   高浜晶彦

ページ範囲:P.164 - P.172

緒言
 Myotonic dystrophyは,Myopathyの中でも非常に特微ある臨床像を示すところから,各方面で注目されている(第1表).1909年Steinert1),1912年Crushmann4)が筋肉の硬直性疾患を代表するMyotonia congenita(Thomsen, J.5)1876年)と,筋肉の萎縮を主とするProgressive muscular dystrophyとを区別して以来,本症に特有な多彩な臨床像6-15)が次第に明らかにされてきた.本邦では大正5年横森の報告以来80例(田版16)1961年),正式な報告は30余例(森田17)1961年)といわれ,比較的稀な疾患18)〜20)とされていたが,最近ではかなりの報告例21)22)がある.とくに整形外科領域では南条23)24)が症例報告とともに詳細な文献的考察を発表している.しかし近年,電子顕微鏡の進歩により,筋肉の構造と機能の関連性の問題や,酵素学的,電気生理学的な検索が加わつて,この方面の研究は飛躍的に発展しようとしている25).最近われわれは本症の6例を経験したが,今回は臨床像・筋電図は勿論のこと,筋酵素の分析・電子顕微鏡像および神経終末像などの検索を行なつた例について報告する.

脳性麻痺における膝屈曲変形に対する手術経験

著者: 深瀬宏

ページ範囲:P.173 - P.178

緒言
 脳性麻痺では,膝屈曲位に股内転屈曲,内反尖足を伴い,起立歩行の困難なものが多い.膝屈曲変形矯正に対しては,Stoffel,Chandler,Roberts,Baker,Eggersらの手術法があり,単純な切腱術,膝屈筋支配神経切除術から,さらにすすんで,膝屈筋腱や膝蓋腱に対する形成術に発展してきた.著者は膝,股屈曲変形を改善するために,半腱様筋には延長術,半膜様筋,大腿二頭筋には筋膜切離術,薄筋には切腱術を施行するのを原則とし,これらの手術法を中心として,23例38肢に手術を施行した.術後経過日数はなお浅く,遠隔成績を述べる段階ではないが,現在までの手術成績を調査検討した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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