icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科3巻4号

1968年04月発行

雑誌目次

巻頭言

これから

著者: 児玉俊夫

ページ範囲:P.269 - P.270

 これから私たちはどうしたらよいだろう,どう進むべきかのテーマのもとに第41回日本整形外科学会総会を計画させていただきました.具体的にいうと
 1.実際に研究をしている人同志の話し合いを重視した.
 2.学術講演集録を活用していただき,誌上発表を多くした.例を挙げると,今年の一般演題で鞭うち症に関するものが15題,それに間接的に関係するものがやはり20題近くもあつた.それらは全部誌上発表として,お互いに討論を充分していただけるよう時間を組んだ.そしてその座長を鞭うち症の座長である西教授にお願いした.

視座

整形外科専門医制度

著者: 天児民和

ページ範囲:P.271 - P.271

 最近,医学教育が色々論議せられているが,私はそれらの論議を聞きながら色々な疑問を持つている.今日の医学は非常に進歩をし細く枝分かれしてきた.そして夫々の分科はより深く入つて行つている.言い換えると医学の領域はより広くより深くなつてきた.これを4ヵ年で十分に教育することは不可能である.それでは1年,あるいは2年を延長してはどうかとの意見もあるが,それ位で到底全領域に亘つて教育することは不可能である.また医学者として医学全般について詳しく知ることも不可欠ではない.そこで医学教育に大切なことは何を教え何を省くかという問題である.結局は学生がただ多くを知つているというだけではなく,大学を卒業後,自らの力で知識を吸収し消化し更に新しく開拓していける能力をつけることである.

シンポジウム いわゆる鞭打ち損傷

いわゆる鞭打ち損傷の発生機序ならびに病態

著者: 池田亀夫 ,   三谷哲史 ,   浅井博一

ページ範囲:P.272 - P.277

はじめに
 最近のめざましい交通機関の発達,特に自動車の激増にともない,交通外傷は増加の一途をたどつているが,中でもいわゆる鞭打ち損傷Whiplash injuryは,その特有の受傷機転と独特,複雑な経過で注目をあびている.
 このWhiplash injuryという言葉は1928年,H. E. Croweが自動車事故の後,まつたく他覚的所見を伴わないにもかかわらず,治療に抵抗する頸部外傷の8例を"Whiplash injury of the neck"と呼称したのが初めであるが,その後,Gay & Abbott(1953)の報告以来,交通外傷の一つとして注目され,多数の報告が相次ぎ,医学的,社会的に多くの問題を提起しつつ今日に至つている.本邦では1958年飯野により紹介された.

いわゆる鞭打ち損傷の症状

著者: 土屋弘吉 ,   土屋恒篤 ,   田口怜

ページ範囲:P.278 - P.287

 頸椎鞭打ち損傷についての記載は1928年Croweにはじまるといわれるが,頸部外傷における"whiplash mechanism"の特殊な意味づけを強調したのはDavis(1945)である.GayおよびAbott(1953),Cammack(1957)の論文はそれぞれ50例の経験にもとづいたもので,この問題に関する最も古典的論文であるが,その観察の周到さや洞察の深さは誠に驚くべきものがあり,臨床症状の記載などはこれに加えるべきものは15年後の現在でも余り多くはない.またSeletz(1958)は本症の複雑な病像を頸部から脳にわたる詳細な神経血管の局所解剖に基づいて解明し,体系づけており,その後の多くの論文の草分けとなつた.
 わが国では飯野(1958)がはじめて鞭打ち損傷の概念を紹介したが,この問題が現在のような多くの関心を集めたのは最近2年来のことである.

“いわゆる鞭打ち損傷”—治療論—整形外科の立場から

著者: 桐田良人 ,   田中三郎 ,   宮崎和躬

ページ範囲:P.288 - P.314

はじめに
  最近のめざましい交通機関の発達によつて,交通外傷が著しく増加している中で,白動車の激増,その高速化に伴つて,頭部外傷とともに頸部の損傷,すなわち特有の発生機序と独特の経過をとり,色々の治療に抵抗を示すいわゆる鞭打ち損傷が年を追つて激増し,治療面のむづかしさから,最近,社会問題とさえなつてきている.
 本症は他の疾患に比べて,数々の特徴があるので,治療に当たつてはこの点を充分知悉しておく必要がある.

“いわゆる鞭打ち損傷”—治療論—脳神経外科の立場から

著者: 都留美都雄

ページ範囲:P.315 - P.323

 いわゆる"鞭打ち損傷"が,最近大きな社会問題となつてきていることは衆知のところであるが,実際にそれが正しい姿で取り上げられているかということになると,そうではなく,その中に多くの問題が含まれている.マスコミのセンセーショナルな取り上げ方もその一つの原因であるが,それも結局は医療担当者に責任があると思われる.
 その医療担当者の責任にも,各種のものが考えられるが,本論文では主として治療の面からそれを論ずることにする.

境界領域

疾病における心理・社会的要因に関する考察—特に鞭打ち損傷を中心として

著者: 田中恒男 ,   大橋正幸 ,   竹広舜 ,   林浩一郎

ページ範囲:P.324 - P.331

はじめに
 医学的諸問題を認識する立場には,二通りの様式がある.すなわち,生物学的基盤にもとづいて,主としてその生理的,病理的現象として認識する立場であり,一方は,その現象の社会的相互作用を中心に認識する立場である.この立脚点は,疾病の認識においても異なるものではなく,医療の対象としての患者と,医学の対象としての病理実体との二面性を有することは,いまさら論をまたない.実際の診療の場で,しばしば起る誤解は,この二面のすりかえであって,同一のものを見ているという事実に変りはなくても,その認識の立場をすりかえることは,きわめて大きな危険を伴う.
 とくに極端な生物学的主義に立つ見方は,病人を社会的存在として見ずに,単なる一個の生命担体としての認識に陥り易く,症候が病理構造と直結するかのごとく考える弊害すら生じる.

論述

先天性股関節脱臼の観血整復とコロンナ手術

著者: 赤坂勁二郎 ,   劔持政男 ,   奧島平八郎 ,   村田光

ページ範囲:P.333 - P.340

 先天性股関節脱臼(以下,先天股脱と略す)の治療体系は,von Rosenの超早期診断治療や,PavlikのRiemenbugelを始めとするいわゆるfunktionelle Behandlungの概念の導入により,Lorenz以来の源流とはおおいにその様相を異にしてきている.また公衆衛生の面からみても,一般の人々の本疾患に対する知識の向上と,保健所を中心とする乳児検診の普及は日覚ましく,跛行が明らかになつて始めて診療を乞うものの多かつた日々とはまさに隔世の感がある.このような流れの発展により,難治性先天股脱が何時の日かは過去の疾患になることを期待するものではあるが,現在の段階では手術的手段によらなければ求心性を回復しえなくなつた症例を見ることも決して稀ではない.
 先天股脱の手術的療法の代表的なものであり,かつ予後成績を云々しうるだけの年月と症例を重ねきたつたものとしては,観血整復とコロンナの関節包性関節形成術(以下,コロンナ手術と略す)とがあるが,われわれは今回慶大整形外科における両術式の予後成績を対比検討する機会を得たので,その結果をのべ若干の考察を加える.

新鮮外傷の応急療法について(第2部)—抗生物質局所応用の時間的要因

著者: 松元輝夫

ページ範囲:P.341 - P.346

 広汎囲にわたる軟部組織の開放性外傷治療の原則が,迅速,適切に行なわれるdebridmentにあることは既述の通りである.特にdebridmentが外傷感染を著しく低下させる事実は現在までくり返し証明されたところで,一般にも認められているが,事実debridmentは必ずしも受傷後ただちに実施されるとは限らず,debridmentの遅延がよぎなくされる場合も存在する.受傷後debridmentの実施されていない外傷はしばしば感染を惹起する.現在のところ,これら外傷に対する応急処置としては縫帯の使用が行なわれているに過ぎない.
 われわれはこれらdebridmentの遅延する外傷に対して,抗生剤の局所的使用が,外傷の感染率を低下するか否かを知るために各種実験を試み,オキシテトラサイクリンの局所散布が,大腿部に挫滅傷を加えた家兎の死亡率を著しく低下せしめることを報告した1,2).しかしながら上記実験において,抗生剤はいずれも受傷15分後に外傷面へ散布されている.

臨床経験

いわゆる習慣性膝蓋骨脱臼—(2)手術法について

著者: 片岡治

ページ範囲:P.347 - P.357

緒言
 いわゆる習慣性膝蓋骨脱臼の原因が多数考えられるごとく,その手術法も古来多数の方法が考案,施行されかつfollow-upされてきた.その原因の多元性については既に論じたが,症例数の多い欧米でも,各国により手術法が異なり,その遠隔成績も統一されていない.その手術法の数に関しては,最近ではCotta(1959)は137種を数えているが,著者は文献上変法を加えれば180種の多きを調べえた(第1表).わが国では著者の調査の限りでは,その手術例総数は90例111関節で一報告者の最大症例数も岸の11例15関節にすぎず,その手術法の詳細に亘る記載は僅かに古谷,永井,安達らの各数例にすぎない(第2表).
 著者は現在までに報告された主な手術法について文献的考察を行ない,これに教室症例を材料とした自験例考按を加えて,この疾患に対する手術法につき論じ諸家の御批判を乞いたい.

カンファレンス

骨腫瘍—これはなんでしよう〔8〕

著者: 骨腫瘍症例検討会

ページ範囲:P.358 - P.365

症例
 A:症例は51歳の女性で職業は小学校の雇員です.主訴は左下腿無痛性軟部腫瘤であります.現病歴ですが,去る昭和31年夏に左脛部に母指頭大の無痛性軟部腫瘤が突出してきたということで,私どもの病院を受診しております.当所の所見でなんら悪性所見なく経過もいたつて緩慢なところから,経過観察ということで患者を帰しました.その後腫瘤が急速に増大成長する徴もなく,疼痛もなかつたので放置して来院しませんでした.ところが昭和42年夏になり腫瘤が増大したということで参りました.臨床所見としては,全身一般状態良好であり,局所所見として視診で左下腿前面脛骨に沿つて長楕円状の軟部腫瘤を認めます.静脈の怒張がありますが,炎症症状,硬結などはありません.皮膚,骨との癒着もありません.循環障害,知覚異常もありません.しかし仮性波動を僅かに認めます(第1図).レ線所見でも骨に変化は認められません.肺野もきれいです.動脈撮影ではよい写真がとれなかつたのですが,特に悪性像は認められないようです(第2図).またその他一般検査所見は正常範囲内です(第1表).それで一応良性腫瘍と考えてあけて見たわけです.

検査法

筋疾患の血清酵素学的診断

著者: 徳永純一

ページ範囲:P.366 - P.374

はじめに
 体液,特に血清の酵素活性値測定が臨床診断に役立つことは衆知の通りである.古くはWohlgemuth(1908)のAmylase測定による急性膵炎の診断があり,LaDue,Wroblewski,Karmen,(1954)15)によつて血清のglutamic oxyaloacetic transaminase(GOT)が心筋硬塞症や肝炎の患者で活性値の上昇を認めるという報告以来,各種酵素の臨床診断への応用が急速に進歩してきた.筋肉の解糖系の全貌は今日では,明らかとなつているにも拘らず,筋疾患診断に対する酵素の利用は,いまだ数種に留つているに過ぎない.1949年Sibley,Lehningerは進行性筋ジストロフィー症(DMP)の患者血清中にAldolaseが増加することを発見,Schapiraら(1953)31)によつて,血清Aldolaseの変動について詳細な報告がなされ,筋疾患診断に利用されるようになつた.次いで1959年江橋ら8)により,血清Creatine phosphokinase(CPK)がAldolaseより鋭敏,著明な変化を示すことが報告され,現在では,筋疾患,特に,DMP,その内でもDuchenne型の診断に必須の検査法となつている.

トピックス

サーモグラフィーの整形外科領域における応用

著者: 立石昭夫 ,   岩倉博光

ページ範囲:P.331 - P.332

 サーモグラフィーとは,皮膚温度分布を連続的に一つの図または写真に記録する方法である.1957年頃より欧米では諸家の報告があり,次第に医学の分野に応用されるようになつてきた.ことに最近は乳癌のスクリーニングテスト法として注目されている.今回私達は,東大医用電子研究施設,渥美教授らの御好意により,サーモグラフィーを整形外科的疾患に応用したので,その結果を紹介する.
 装置は米国バーンズ社製,サーモグラフィーMT-1型で,それはスキャンニング機構,光学ヘッド,エレクトロユニット,カメラ撮影装置の4部分より成立つている.その原理は,人体表面より放射される赤外線量が,皮膚温度と一定の関係を有することにもとずいている.すなわち,スキャンニングミラーで検出器に集められた赤外線の強度は,電気的信号に変換され,これを増幅したのち,更にグローランプの輝度に変換され,それをポラロイドカメラで撮影するという方式をとつている(第1図).その感度は0.1℃であり,スキャンニング時間は約4分である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら