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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科3巻5号

1968年05月発行

雑誌目次

視座

手術は慎重でありたい

著者: 佐藤孝三

ページ範囲:P.375 - P.375

 私の学生時代には「カリエスの流注膿瘍を切開排膿することは死の門をひらくことだ.感染や瘻孔を生じないように充分注意して,穿刺排膿するのがよい」と教えられた.
 ところが当時学生実習で出向いたある病院で,大家といわれる外科部長が「胸壁冷膿瘍は膿瘍掻爬で治るのだから,カリエスも同じようにやつてみよう」といつて,腰椎カリエスの腸骨窩膿瘍に切開を加え,膿瘍を掻爬して創を1次的に閉鎖したのをみた.その結果は日ならずして創が哆開し,混合感染をおこして,患者は死亡した.

シンポジウム 脊髄損傷患者に対する早期脊椎固定術の適応と成績

座長あいさつ

著者: 岩原寅猪

ページ範囲:P.376 - P.376

 岩原 脊髄損傷,脊髄麻痺については多くの問題があり,治療法についてだけでもなお論議が少くありません.この治療法の中でこのたびは脊椎固定術をとりあげてシンポジウムの第2の主題といたしました.まず,お三方にそれぞれの立場からご経験ご意見を述べていただき,そのあとで会員の方々のご参加をいただいて討議していただくようにしたいと存じます.
 それでは山田教授におねがいいたします.

特に非観血的固定法について

著者: 山田憲吾

ページ範囲:P.377 - P.381

 脊髄損傷はもつぱら鈍力によつて発生する.そしてその多くが,宿命的な身体障害を残すだけでなく,褥創や尿路感染症などの合併により,生涯の病人として,病床に呻吟している者も少なくない.したがつてこれに対するあらゆる治療は,リハビリテーションの一環として,適正に行なわれる必要がある.特に初期治療の問題は,極めて重要であり,受傷当初僅か1〜2週間の処置であつても,その適否は患者に残された生涯の運命を左右するものであることを銘記しなければならない.

東北労災病院における手術例の検討

著者: 木村元吉

ページ範囲:P.382 - P.393

まえがき
 私は当院開設以来14年間に脊髄損傷に対する手術的療法に関する報告を数次にわたり行ない,早期の損傷脊椎・脊髄手術の必要性を強調してきた.特に昭和37年,第10回災害医学会のシンポジウム「脊髄損傷」のうち「損傷部に対する観血的手術」と題して,全国労災病院および箱根療養所の協力のもとに集めえた2300症例中,損傷部脊椎・脊髄手術を施行せる642症例の統計的観察を行ない,リハビリテーションの観点,ときには麻痺回復の観点からしても,早期に適切な手術を敢行したものによい成績を得ている事実,それにもかかわらず,かかる手術が僅少であり,また逆に無益有害の手術を行なわれた症例の多い事実を指摘した.そして脊髄損傷に対しては,より積極的に有効適切な方法を用いるべきだとの意見を述べた.しかし,一般に全国病院から集計した統計では大体の傾向を窺い知ることができても,おのおの条件を異にする症例による深い分析や検討の結果を得ることは困難で,そうした点では,1人の専門家がある系列に沿つた考えの下に実施してきた結果が,より正確に問題点を把握するよすがになりうることもある.本論文はこのような考えで,当院のみの症例を研究対象として選んで書いてみた.

岡山労災病院における10余年間の治療経験

著者: 村川浩正

ページ範囲:P.394 - P.399

はじめに
 われわれは昭和30年,岡山労災病院の開院以来,早期脊椎固定術の方針で,脊損の治療を行なつてきた.
 脊損に対して,どのような方針で治療を行なうべきかという問題に関しては,世界中の専門家の間において,意見の一致のみられていないことは周知の通りである.

ディスカッション

著者: 岩原寅猪 ,   津山直一 ,   山田憲吾 ,   木村元吉 ,   渡辺良彦 ,   村川浩正 ,   石川芳光

ページ範囲:P.400 - P.405

 岩原 ありがとうございました.山田教授はたぶん,より保存的の意見だろう,木村,村川君はより積極的にやるだろうと思つていたら,案の定そうでありました.脊髄損傷そのものに対する治療だけでなしに,脊椎脊髄損傷患者全体の治療という観点から考えていただきたく,「固定術」の演題を選んだゆえんはここにあります.
 かつては損傷脊髄にメスを加える余地があるかどうかが問題となり,その適応が論じられてきましたが,その後外科学は非常に進みまして,殊に脊柱固定術が登場して,いまでは目をみはり,耳をそばだてさせるものがあります.殊に脊髄損傷に対する早期手術が言われ,なんとかしてAllenの超早期手術説を実現させたいとの意図がうかがえるのであります.われわれが脊髄損傷を手術した時分は,全部局所麻酔のもとでやらなければなりませんでしたが,いまは呼吸も脈も心配いらない全身麻酔のもとでやれるのでありますから,昔と同日に論じられないのはよくわかつています.

論述

Arthritis mutilansと関節リウマチ

著者: 松本淳

ページ範囲:P.406 - P.414

 Arthritis mutilansは,その臨床像とレ線像がきわめて特徴的なので,著しく臨床家の注目をひき,いづれの整形外科学,リウマチ学,放射線学の成書もいくばくかのスペースをさいて記載がある.しかし実際にみることは稀で文献上の報告も多くはない.私があつめ得た報告は外国で30例,国内で10例である.
 その病気の本態についてもまだ意見の一致をみていない.arthritis mutilansという単位疾患があるのか,または関節リウマチの亜型なのであるか,または各種関節炎におこる稀ではあるが普遍的な病像なのであるか.私はこの点を中心に考察を加えたい.

外国における骨腫瘍登録の現況

著者: 青池勇雄

ページ範囲:P.415 - P.422

 約十年前に天児教授と故三木教授との提案で,日本整形外科学会では骨腫瘍を登録するように決まり,そのために5地区に登録センターが置かれて,以来各地区の骨腫瘍委員がその登録の面倒を見てきた.4年前から全国的な集計は国立がんセンターに移り,毎年その集計の報告書が発表されていて,昨年までにその数は13,299例に及んでいる.
 元来,骨腫瘍登録の目的とすることは他の疾患の登録と同様に,日本の骨腫瘍の実態をできるだけ詳しくし,色々の研究面に対してその資料を提供しうるようにすることである.そのためにはできる限り多くの症例が登録されなければ意味がない.登録は面倒な仕事で嫌われているが,そこは医学への貢献ということでお互いに辛棒していただきたい.しかし一方では少しでも登録しやすいように工夫することが大切である.そのためにはみんなからの意見をもとめることが必要であり,また外国における骨腫瘍の登録の状況を参考にすることも大切である.勿論,外国では日本のように全国的な範囲で登録されないで,骨腫瘍に深い関心をもつ大学とか病院の整形外科で,それぞれ独自の登録制を行なつている.しかし近年癌については対癌政策の一環として全国的登録制を採用する国が増加しつつあり,それの一部として骨の悪性腫瘍が登録されつつある.

新鮮外傷の応急療法について(第3部)—抗生剤局所使用における量的因子/(第4部)—抗生剤の臨床応用への試み

著者: 松元輝夫

ページ範囲:P.423 - P.431

 災害外科に見られる外傷の多くは,多量の挫滅した組織をともない,更に異物,細菌による汚染が存在するため,できるだけ早期にdebridementの実施されることが望ましい.このような外傷に対してオキシテトラサイクリン(テラマイシン)の局所sprayはdebridementが可能となるまでの黄金期間,すなわち,その間にdebridementを行なえば,創傷感染を妨ぎうる期間を著しく延長する1)
 オキシテトラサイクリンの局所sprayに際し本法が受傷後5分以内に実施されるならば,その創傷内の細菌数を著しく抑制し,細菌感染の危険を減じるが,受傷後4時間ないしそれ以後に使用される場合には僅かの効果を示すに過ぎないことは既に前号に報告した通りである2)

境界領域

アルカリフォスファターゼ

著者: 服部信

ページ範囲:P.433 - P.442

序言
 最近,アルカリフォスファターゼに関して,Solomon Posen1)が,自己の仕事と,多数の文献発表を基にして,Annals of Internal medicineに,綜説をかいているので,これを参考にし,また著者の所の若干の成績および,最近の新しい進歩をのべることにする.整形外科学とは,全く何の関係もない筆者にとつて,読者の興味の奈辺にあるかは,察するに困難なところではあるが,一般に生体内での作用の本態が常に分りがたい水解酵素に属するこの酵素も,いろんな点がかなり分りかけてきていて,この辺りでまとめることは,私個人にとつても理解の上で便利である.

手術手技

棘上筋断裂の手術法

著者: 山本龍二

ページ範囲:P.443 - P.450

はじめに
 肩関節の支持性をみるに(1)関節窩は上腕骨頭のおおよそ1/3をおおうにすぎないから,支持性にあまり大きく役立たない.(2)関節包は関節の運動時に十分な弛緩性を必要とするから,この支持性もとるに足らない.そこで支持性にもつとも大きな役割を演ずるのはmusculotendinous cuffである.
 肩関節の運動は鎖骨・肩甲骨・上腕骨についている筋肉の協同作用によつて円滑に行なわれるから,いずれの筋肉に損傷が起つても肩の障害になる.ところで,これらの筋肉の中で,もつとも障害の起りやすい部位はrotator cuffで,ことに棘上筋がおかされやすい.

検査法

神経筋疾患の組織学的診断

著者: 斉藤幸洋

ページ範囲:P.451 - P.456

はじめに
 病因探究のためのより直接的な資料を,生検という手段によつて得ようとする試みが,近年とみに盛んになつてきた.その多くがなお病因不明のままである.神経筋疾患においても同様で,生検によつて得られた筋は,病理組織学,電子顕微鏡学,組織化学などの方法で多角的に検索され,病因解明へのいとぐちが追究される.
 この稿では,診断のための筋病理組織についてその概略を述べる.

カンファレンス

骨腫瘍—これはなんでしよう〔9〕

著者: 骨腫瘍症例検討会

ページ範囲:P.457 - P.461

症例
 A:この方は25歳の男性です.41年7月に階段の昇降で左膝に痛みがありまして,翌月には大腿の外顆の辺りが少し腫れているのに気がつきました.その痛みがだんだん強くなりまして,10月に聖ルカ病院を受診したんですが,そこで腫瘍と診断され私の方へ紹介されて来た症例です.
 初診時の所見では大腿骨外顆部が少し腫れていて圧痛や熱感がある.それから膝の関節運動が少し制限されていました.検査所見ではヘモグロビン15.7g/dl,赤血球472万,白血球8000,百分率には変化ありません.血清蛋白8.0g/dl,A/G比1.7,アルカリフォスファターゼ2.8単位(Bessy),血沈1時間15,2時間32,梅毒血清反応陰性で異常所見はまつたくありません.

学会印象記

アメリカ手の外科学会印象記

著者: 山内裕雄

ページ範囲:P.462 - P.464

 第23回American Society for Surgcry of the Hand学会は本年はSan FranciscoのDr. Donald R. Prattが会長で,1月19,20日の両日シカゴのPalmer Houseで開催された.例年のごとく,American Academy of Orthopaedic Surgeons(AAOS)に先立つて開かれたためか,出席者は優に1000人を越える大会であつた.学会の運営方式はまつたく去年と同じで(本誌2巻4号参照)演題数は少なく,一題ごとに充分時間をとり,既定討論者に討論を一任するという形式であるが,一般参会者との交流はまつたくなく,この点はまことに物足りない.私の頭の中には常に日本での学会の様子が比較の対照としてあり,そういつた眼でみた,いとも主観的な学会印象記であることをお許しいただきたい.

臨床経験

ポリオ下肢麻痺に対する足関節固定術—(特に歩行時の膝関節の安定を考慮した尖足位固定について)

著者: 松尾隆

ページ範囲:P.465 - P.468

はじめに
 ポリオ下肢麻痺患者の治療の目的は変形拘縮の除去,麻痺関節の機能の再獲得などを行なう観血的方法や装具,松葉杖などの歩行補助器具を用い,いかにして歩行能力の増大をはかるかにつきるが,日常生活上これら歩行補助具は患者にとつてはなはだ煩わしいものであり,できうればこれら歩行補助具を使用することなく,あるいは最小限度の補助具を使用するのみで歩行が可能となるように治療の努力がはらわれることは当然である.
 大腿四頭筋が麻痺して,膝関節の伸展筋力が全くない患者においても,もし体の重心線を膝関節の前方にずらし,軽い膝の反張をおこさせうれば,かなりの膝関節の安定が獲得できるのではないかということは当然考えられることである(第1,2図).

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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