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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科3巻6号

1968年06月発行

雑誌目次

視座

混沌たるいわゆる鞭打ち損傷

著者: 池田亀夫

ページ範囲:P.469 - P.469

 交通戦争の激化による空前の車ラッシュとともにマスコミの喧伝も手伝つて,いわゆる鞭打ち損傷患者の激増はものすごい.諸統計をみても昭和40年以降の増加は飛躍的である.
 Whiplash injuryは周知のように,1928年H. E. Croweがはじめて用いた名称である.わが国では1958年飯野教授により紹介されて以来,時代の要請もあり,多くの人々に関心をもたれ,単に医学的問題としてのみならず,補償など広く社会問題としても日常話題を賑わしている.

論述

脊柱側彎症と体平衡機能

著者: 山田憲吾 ,   山本博司

ページ範囲:P.470 - P.478

いとぐち
 起立姿勢は力学的に最も不安定な姿勢である.しかし,この不安定さは人類発生の長い歴史を通じ代償的に獲得された繊細,巧妙な能力,すなわち平衡能によつて常に動的に調整保持せられ,これがヒト特有の姿勢を構成するに至つたものと考えられている.
 周知の通り,脊柱は躯幹の中軸として姿勢保持に大きな役割を担つているが,これは単なる1本の真直ぐな柱ではない.常に一定の生理的彎曲がある.

脊柱側彎症における体平衡に関する神経学的考察

著者: 山田憲吾 ,   山本博司

ページ範囲:P.479 - P.486

はじめに
 地球上の生物はすべて重力に対し固有の姿勢をもつている.特に人類にあつては,物理的に最も不安定な起立姿勢をその固有姿勢としており,これは高度に発達した繊細巧妙な能力,すなわち平衡能によつて動的に調整保持されているものである.そしてこの姿勢保持機構には深部受容器,視器,内耳前庭の3つが重要な役割を演じているとされている.
 ところで,脊柱側彎症の発生条件として重力の影響が極めて大である.このことに関して著者ら1)2)3)の二足鼠を用いた実験的側彎症の研究も明瞭に立証している.

整形外科における運動療法

著者: 城戸正明

ページ範囲:P.487 - P.493

はじめに
 整形外科は筋骨骼系およびそれに関連する神経,血管系を含む運動器官を取扱うが,われわれはこれらの器官がなんらかの原因でその機能が障害された場合,一日も早く障害前の状態にかえすか,または近づけるように努力をする.外傷などにより直接障害を受けた部分の機能障害のみならず,それに伴つて間接的に固定などにより他の部分にも機能障害がしばしば起る.これらの障害に伴う病的生活から自立生活への課程に必要な処置を総称してリハビリテーションと呼ばれており,これは更に医学的リハビリテーションと職業的リハビリテーションに大別されている.その医学的リハビリテーションの中の重要な一分野として運動療法(exercise therapy)が行なわれている.
 整形外科におけるリハビリテーションというと,後遺症を重点的にとりあげてその回復を,またその代償能力の積極的な開発により,日常生活動作の育成を主体にしているかのような考え方がなされる場合もあるが,そのようないろいろな後遺症が起らないようにするのが第一であり,リハビリテーションは受傷と同時に始まるといわれている.そして受傷などによる後遺症をおこすことなく治療するために,骨折に対するキュンチャー氏髄内固定法を始めいろいろな手術的方法も行なわれているが,傷害の程度によつては後遺症をのこし,運動療法を積極的に必要とする.

Hemipelvectomy Prosthesisと切断直後の義足装着について

著者: 沢村誠志 ,   小林郁雄 ,   村田秀雄 ,   三橋保雄 ,   安藤元之 ,   横手博臣

ページ範囲:P.494 - P.502

 Hemipelvectomyの手技および適応などに関しては,1891年Billrothにより初めて試みられていらい,多くの報告がなされている1).特に,最近における手技および輸血の進歩により,術中の出血性ショックによる死亡率はきわめて少なくなり,その症例数も多くなつてきている.しかしながら,hemipelvectomy後に義足を装着することに成功したという報告は,Wise11),Wirbatz10)ら,2,3,を数えるにすぎず,本邦における報告例をみていない.
 この様に,hemipelvectomy prosthesisの報告例が少ない原因は,次の2つの理由によるものと思われる.その第一の理由として,hemipelvectomyを行なつた断端には,体重の荷重をしうる骨組織をかくため荷重が困難であることと,さらに,断端に対する義足ソケットの固定および懸吊が困難であることなど,ソケットの適合に関連した問題があげられる.第二の理由としては,義足歩行の実用性を左右する義足のalignmentによる安定性をいかに獲得するかという,主として義足のalignmentおよび接手の構造に関連した問題があげられる.

手術手技

骨盤離断術(Hemipelvectomy)

著者: 加幡一彦

ページ範囲:P.503 - P.510

I.どのような準備が必要か?
 まず優秀な麻酔医を予約しなければならない.麻酔学的には決して危険な手術とはいえないが,最後の切り離しにさいして短時間にかなり大量の出血をきたすので,すばやく適切な処置をとれる人でないと安心できない.
 輸血をいくら用意するかも頭をなやます問題である.これまでに経験した出血量は2,500〜7,000ccの範囲内であつた.出血の大小は術者の手早さと腫瘍膨隆の大きさに左右され,普通は4,000ccの用意で十分余裕をもてる.

検査法

股関節部のIntra-osseous Phlebography

著者: 今村恵

ページ範囲:P.515 - P.520

はじめに
 Intra-osseous PhlebographyはDos Santosが,1938年に初めて施行して以来,多くの報告がある.これは骨髄内に造影剤を注入して,レ線撮影を行ない,骨髄内静脈洞の造影像や,骨外に出る静脈系の造影像を得ようというもので,本邦では経骨髄静脈撮影法,骨髄造影法などとよばれている.欧米ではIntra-osseous Venography,Osteomyelography,Osteovenography,あるいはOsteographyなどの名称が用いられている.
 このphlebographyは骨格のいづれの部分にも応用できるが,おもに骨盤内静脈や,股関節部の静脈の造影に用いられることが多い.本邦でも最近になつて,Perthes病,変形性股関節症,先天性股関節脱臼,大腿骨頸部骨折,股関節結核などに応用され,これら疾病の病態を解明する一手段として,かなり応用範囲のひろいものとなつてきた.

カンファレンス

骨腫瘍—これはなんでしよう〔10〕

著者: 骨腫瘍症例検討会

ページ範囲:P.521 - P.523

症例
 A:患者は38歳の女性でして,左中指の中節部の腫脹を主訴として来院しました.10年くらい前より少しづつ増大し,洗濯などして布を絞る時に痛みを感じ,軽度の運動制限があります.臨床検査成績で血沈値が1時間47と亢進している以外に異常所見を認めません.

対談

—前田友助先生にきく—健康法は肉体頭脳の酷使にあり

著者: 天児民和

ページ範囲:P.524 - P.530

外科をはじめるまで
尾張の生まれ
 天児 きようは,お忙しいところおいで下さいましてありがとうございました.一度,前田先生とゆつくりお話してみたいと,わたくし前から思つておつたのでございます.前田先生は,お顔を拝見すると,わたしとあまり年が違わないように見えるんじやないかと思うのですが,いまもお話しておりますと,先生が大学を卒業されたのは,大正元年ですね.わたしは,昭和5年でございますので,約20年ほど差があるのですが,それでも先生はまだ非常に元気で,学会におきましても活躍しておられますし,どうしてこんなにお元気なんだろうかと…….そういうところからぼちぼちお話を承ろうと思つております.先生は,お国はどちらでいらつしやいますか.
 前田 尾張です.愛知県です.尾張平野の真中に生れて,山も川もなにもない田圃の真中です.

臨床経験

殿筋麻痺に対する外転再建術の経験

著者: 伊藤秀芳 ,   井上新也 ,   中村純次 ,   片山国昭 ,   長谷川芳男 ,   高田若雄

ページ範囲:P.531 - P.536

いとぐち
 脊髄性小児麻痺の下肢筋麻痺には,いろいろな種類と程度があることは,申すまでもないが,中でも殿筋群の麻痺は,その障害の大きいこと,機能再建のむずかしさの点で,われわれを苦しめるものの1つである.したがつて,殿筋麻痺再建については,早くからいろいろな手術法が考案されてきた.Fritz Lange(1913),Leo Myer(1916),Kreuscher(1927),Ober(1927),河邨(1958)らは同側の仙棘筋を送力源とし,玉置(1962)は対側の仙棘筋を利用した.また,Masterd(1952),寺沢(1964)らはIliopsoasに送力源を求め,Ober(1927),Thomas-Thompson-Straub(1950),蒲原(1962)らは同側の外腹斜筋を選んでいる.以上のような方法がかなり長い歴史をもつて行なわれているにもかかわらず,いまだ送力筋と受力筋の間の機能関係は,全く明瞭でないといつても過言ではない.したがつて,最近では送力筋が機能的に受力筋の代償を完全に行ないうるか否かについて,筋電図学的に検討され,興味ある知見が発表されるにいたつている.しかし,殿筋麻痺再建においては,送力筋を選択するばあい,殿筋と活動位相を同じくするものと,しからざるもの,あるいはその走行の相違によつて,どのように影響されるかについては,いまだあきらかな知見があるとはいえない.

有鉤骨脱臼の治験例

著者: 新名正由

ページ範囲:P.537 - P.542

いとぐち
 手根骨脱臼は月状骨脱臼を除いて他は稀なものである.それはWagner(1959)1)によれば,"手根骨相互間の靱帯は,個々の関節の運動を許し,しかも同時に手根骨を一単位として作用させるよう分布している"ことによる.とりわけ遠位手根骨の単独脱臼は極めて稀で,文献上,特に有鈎骨脱臼の報告は1882年Buchananにより最初に行なわれ,現在まで10例程度の報告があるにすぎない.われわれは最近,橈骨下端骨折,大多角骨亜脱臼,拇指球筋の断裂を伴つた有鈎骨掌側脱臼の1例を経験したのでここに報告する.

馬尾神経腫瘍を思わしめた腰部椎間板ヘルニアの2例

著者: 沢田俊資 ,   大竹節郎 ,   東幸雄 ,   立沢喜和

ページ範囲:P.543 - P.546

 単一の神経根を圧迫することの多い腰部椎間板ヘルニアでは,馬尾神経の完全な圧迫症状を呈する症例は極めて少ないので,以下述べるような症候を呈する例では,術前の正確な診断は困難である.O'Connell(1951年)は500手術例のうち僅か10例(2%)に,桐田は(1961年)は512手術例のうち3例(0.58%)に完全な馬尾症状を呈したと述べている.症例報告としては本邦では和知ら(1958年),朝田ら(1958年),蒲原ら(1959年),佐野(1961年),鶴海ら(1963年),および森ら(1964年)によりそれぞれ2,3の症例が報告されているにすぎない.
 最近,われわれは膀胱直腸障害と両下肢麻痺を主症状として来院し,馬尾神経腫瘍を疑わしめ,手術により腰部椎間板ヘルニアによる馬尾神経麻痺であることを確認しえた2症例を経験したので考察を加え報告する.

小児重複脊髄腫瘍(髄内過誤腫と硬膜外血管腫)の1例

著者: 佐藤舜也

ページ範囲:P.547 - P.549

 脊髄腫瘍は現在稀な疾患ではなくなつた.しかし小児に異種の腫瘍が重複して存在した報告例はいまだないようである.著者は7歳女子の硬膜外血管腫と髄内過誤腫の併存例を経験したので報告する.

外傷性膝上嚢炎の1例

著者: 石川秀明 ,   小宅千恵郎

ページ範囲:P.550 - P.551

 最近,比較的珍らしい膝上嚢に限局した外傷性滑膜炎を経験したので報告する.

学会印象記

アメリカ整形外科学会印象記

著者: 加藤文雄

ページ範囲:P.511 - P.514

 シカゴといえばギャングの横行する暗黒街という先入観をぬぐいきれなかつたが,氷結したミシガン湖畔に立つて林立する高層建築のスカイラインを見あげる時,思わず息をのむような美しさを覚えた.そのなかのひとつ,目抜き通りに沿つたPalmer Houseはさしずめ帝国ホテルといつた最高級の豪華なホテルであり,第35回アメリカ整形外科学会(American Academy of Orthopaedic Surgeons,略してAAOS)はここを会場として1月20日から25日まで開かれた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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