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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科3巻8号

1968年08月発行

雑誌目次

視座

病気の増減

著者: 青池勇雄

ページ範囲:P.645 - P.645

 ある病気が増えたとか,減つたとかいうのは,いつの時にもよく聞くことであるが,最近では全くポリオを診ることがなくなつた.
 ポリオはもう過去の病気だと思つていたところ,予防ワクチン服用の不徹底のために再発生の危険があると厚生省から警告が出た.誠に憂慮すべきことで,喉元過ぎると熱さ忘れるの譬え通りである.

論述

脊椎椎間関節性の痛みについて

著者: 伊藤忠厚 ,   中川俊 ,   穴沢進 ,   大日方昇一

ページ範囲:P.646 - P.652

はじめに
 脊椎推間節が腰の痛み,Sciatic radiationの原因となりうることは内外の諸家により多くの報告をみるところである.日常外来においても患者の訴える腰の痛みが片側性で,躯幹の正中線を越えて反対側に訴えず,痛みを訴える側のHamstrings,Tensor fasciae lataeのSpasm,Heel cord tightness,また時としてScoliosis ischiadicaを認めるとともに下肢痛を訴えるが,反射の異常,知覚障害,筋萎縮などのSegmental signが認められない患者のいることは,われわれの常々経験するところであり,Steindler1)はこれをPosterior division syndromeと称している.ところで腰の痛みの原因および痛みの分布のMechanismを複雑にしているものの中に,筋,筋膜,腱,関節包,靱帯などにより代表される体性深部組織のあることは,われおれの再三2,3)にわたり述べてきたところである.脊椎椎間関節の機能的,器質的変化が腰の痛みおよびSciatic radiationの原因となることは前述のごとく古くよりPutti4),Badgley5),Keller6),Francillon7),Matzen8),Ghormley9),Steindler1),立村10,肥後11),らの諸家により,いろいろと論議されてきたところである.Ghormley9)(1933)がFacet syndromeなる極めて印象的な病態を提唱するに及んで,椎間関節のSciatie radiationの原因としての役割について検索がさらによく行なわれてきた.一方,椎間関節包には豊富な知覚神経枝の存在することは論議のないところであるが,Posterior primary divisionのMedial branchに由来するものか,Recurrent Meningealにより支配されているものかについては論議のあるところである.Sicard12)は椎間孔は神経痛のCross roadであり,孔内のいかなる変化も坐骨神経痛として下肢への放散痛として現われると述べているものの,Putti4)は椎間孔の病的変化,なかんずく椎間関節自体の病的変化が坐骨神経痛の原因となりうると述べ,原因不明の坐骨神経痛は脊椎椎間関節炎にその原因があると記載している.いづれにしても,脊椎椎間関節が腰のいたみ,Sciatic radiationの原因となりうることが,解剖学的にまた病理学的に多少の差はあれ考えられることより,脊椎椎間関節由来の深部痛覚および連関痛について検索することは意義のあることと考え,以下のことを行なつてみた.

Radioisotopeによる骨腫瘍の診断的応用(1)—85SrによるBody external countingおよびScintiscanningについて

著者: 井上駿一 ,   村田忠雄

ページ範囲:P.653 - P.667

 骨腫瘍の診断治療方針の決定に際し,われわれは通常,臨床所見,X線学的診断,および病理学的診断の三者より注意深い検索をなすわけであるが,往々にして良性,悪性の最も基本的な診断すら困難な症例に遭遇する.両者の治療方針がまつたく異なる以上,診断し過ぎも不足も許されぬわけであるが,実際上,悪性腫瘍を良性と診断した後,極めて不幸な転帰をとる例があり,他方,逆の危険性もありうる.良性,悪性の判別に際しX線学的診断は勿論,いくつかの特徴によりわれわれに多くの手がかりをあたえうるが,なお限界があり,また生検材料ないしは試験切除による組織診断に際しては,同一標本における多彩な所見を示す骨腫瘍に対し,一枚の標本により診断を求める危険性が常々指摘されているところでもある.ここに更に骨腫瘍診断への新らたな角度よりの診断学的手段の開発が望まれるおけである.

シンポジウム 腕神経叢損傷

腕神経叢損傷(成因論)

著者: 池田亀夫 ,   池田彬

ページ範囲:P.668 - P.674

 腕神経叢損傷は従来比較的稀な疾患とされていたが,近年,交通事故,労働災害の増加に伴い,症例は漸増の傾向にある.一旦発生すると.上肢の重篤な機能障害を起し,とりわけ若年層の罹患が多く,患者の労働生命に重大な影響を及ぼすので,的確な診断,適切な治療を行なうことが肝要である.本症の診断は必ずしも困難ではないが,副損傷の存在に注意を奪われて看過することがあり,腕神経叢の錯綜した解剖学的特殊性のため,損傷部位,程度,回復の見通し,治療適応などの判定は必ずしも容易でない.
 われわれは慶大整形外科171例の臨床的経験と基礎的研究を中核として,腕神経叢の解剖,損傷の病理,損傷部位の診断を追加して本症の成因を論じてみたい.

外傷性腕神経叢麻痺に対する機能再建手術

著者: 津山直一 ,   原徹也

ページ範囲:P.675 - P.687

 交通外傷,労働災害の増加に伴い,近年外傷性腕神経叢麻痺は年々増加の傾向にあり,決して稀な神経損傷ではない.われわれは最近7年間に東大整形外科を訪れた閉鎖性末梢神経損傷681例中26%182例の外傷性腕神経叢損傷を経験し,ポリオに代つて上肢の重度麻痺として機能再建,リハビリテーションに多くの問題をのこしている.なかんずく神経根引き抜き損傷は麻痺回復の経過,また機能的予後の面からみてきわめて不良で,有為の青年を一瞬のうちに一側上肢の機能を失なう重度身体障害者にする重度の損傷であることが多い.
 腕神経叢損傷の型をC5,6またはC5,6,7を主とする上位型,C8,Th1またはC7,8,Th1を主とする下位型,両者の合併せる全型とに分けると,全型が109例で過半数をしめ,上位型が67例でこれにつぎ,下位型は13例で少なく,C4以上を主とする高位型は2例で例外的である(第1表).神経学的予後と麻痺型との関係は全型では大多数が極めて悪いが上位型はかなりの例に回復を期待できる(第2表).

機能再建手術としての神経移行術

著者: 小谷勉

ページ範囲:P.688 - P.694

いとぐち
 昭和36年,交通外傷により,乳嘴突起部の小骨折をともなう顔面神経離断例に対し,著者は,耳鼻科医とともに,乳嘴突起部の骨を切り開いて,神経管内においての神経縫合を試みたが,中枢端を見出すことができずに失敗に終つた.
 その際,苦しまぎれに,副神経外枝を犠牲にして,離断した顔面神経末梢端に端端縫合し,顔面神経の再建を期待した.

手術手技

神経縫合術

著者: 野村進

ページ範囲:P.695 - P.701

 紳経の縫合は腱の縫合などとは異なり,両端の結合に意義があるだけではなく,神経線維の再生がそれにより始る点に重要な意味がある.著者らはこれまで神経再生に関する種々の実験6)7)を行ない,これに基づいて神経再生機転を充分考慮に入れた.換言すれば軸索の再生を阻害しないような縫合法が必要であることを強調してきた.本文では神経が切断されている場合に行なう縫合術について,著者らが平常行なつている手術手技を説明する.

境界領域

整形外科と関連する平衡機能—頸部,腰部深部受容器から開発される平衡反射について

著者: 檜学

ページ範囲:P.702 - P.714

はじめに
 身体平衡の仕組みは古くから研究されている.例えば1651年にはBorreliの系統的研究が現われている.しかし彼は現在多くの研究者が行なつている神経—筋反射の観点から身体平衡の機序を究明してはいない.挺子の原理で関節の作川を説明したり,板上でヒトを仰臥位に置き釣り合う点を求めてヒトの重心の在り所とするといつた古典力学的方法が彼の研究方法である.この種の研究は19世紀まで続き,多くの研究報告がなされている.例えば,Fischerは人屍を凍結し,頭,躯幹,四肢にそれを解体し,それぞれについて重心を求め,それから綜合重心を帰納するやり方を報告している.これらの研究の結果現われた重要な推論の一つは,"不動の姿勢"の存在である.
 しかし,このような起立姿勢が実在しないことはその後に行なわれたVicrordt,LeitcnstorferらのCephalographyによる研究で明らかにされた.この検査は第1図のようにその順点に針を備えたヘルメットを被検者に覆せ,"不動の姿勢"を命ずる.その際,頭部運動を針の上に置いたスス紙上に記録させる方法である.平衡機能が十分に発達していると考えられる正常人でも,針尖は微妙に動き複雑な軌跡をスス紙上に画く(第2図).この研究は従来の研究方向を大きく変えた画期的業績といえる.極言するなら現在行なわれている平衡機能の神経—筋反射的分析の端緒を開いたものと考える.

カンファレンス

骨腫瘍—これはなんでしよう〔12〕

著者: 骨腫瘍症例検討会 ,   大野藤吾

ページ範囲:P.715 - P.718

症例
 A:この患者さんは,43歳の男の人で,昭和36年頃より誘因なく右のGonalgie,昭和38年頃には少し腫れてきました.これは,昭和42年11月,当科受診時のレ線写真です(第1図).
 B:他の骨には,できていませんでしたか.

臨床経験

若年者の腰椎椎間板ヘルニアについて

著者: 片岡治 ,   糸原学 ,   田中義之 ,   岩本守右 ,   渡辺秀雄 ,   西重敬 ,   永野潜

ページ範囲:P.719 - P.724

はじめに
 腰椎椎間板ヘルニアは椎間板の退行変性と,腰椎に加わる急激で強力な外力により発生することは諸家の認めるところであり,20歳台以後の年齢に圧倒的に多いが,椎間板の退行変性が始つていないと考えられる10歳台の若年者に,腰痛,坐骨神経痛を訴えて来院する患者もかなりみられる.
 著者らは過去10年間に腰椎椎間板ヘルニアと診断し,かつ後方より手術的療法を行ない,その存在を確認することができた10歳台の腰椎椎間板ヘルニア41症例につき検討した.

Hemangiopericytomaの1例

著者: 村田秀雄

ページ範囲:P.725 - P.729

緒言
 軟部組織に発生する血管系腫瘍のうち血管周囲細胞腫Hemangiopericytomaは稀なものであるが,最近,著者は根治手術後4年で遠隔の軟部組織へ複数転移したMalignant Hemangiopcricytomaの1例を経験したので報告する.なお本例は組織学的に一部に血管肉腫Angiosarcomaの像を混在する興味ある症例である.

第10胸椎Aneurysmal bone cystの症例

著者: 水島斌雄

ページ範囲:P.730 - P.735

はじめに
 Jaffe, Lichtensteinにより命名されたaneurysmal bonecystは,脊椎および長管骨に好発する比較的稀な良性の疾患である.わたくしは第10胸椎に発生し,脊髄症状を呈した本疾患の手術治験例を得たので,若干の文献的考察を加え,ここに報告する.

恥骨に生じたAneurysmal bone cystの1症例

著者: 北川敏夫 ,   星子亘 ,   林泰夫 ,   木村修 ,   本田五男

ページ範囲:P.736 - P.739

いとぐち
 Aneurysmal bone cystは1942年JaffeおよびLichtenskeinが提唱した疾患である.氏らはおかされた骨が風船状に膨隆するところからaneurysmalなる名称を採用し,また肉眼的に血性の液体を含んている空洞のみられるところよりcystなる名称を採用し,aneurysmal bone cystと名づけたのである.それまてこのような病像を示す疾患はatypical giant-cell tumorとか,subperiosteal giant-cell tumor,benign bone aneurysma,ossifying hacmatomaなどと呼ばれていたのである.Jaffe, Lichtensteinの提唱後,この疾患の報告は多くなり,1957年Booher1)の中足骨の症例,1962年Subramaniam2)らの報告,同じく1962年Donaldson3)の報告,1965年Verbiest9)などの報告があいついでいる

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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