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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科30巻10号

1995年10月発行

雑誌目次

視座

筋骨格系肉腫のInformed Consent

著者: 柴田大法

ページ範囲:P.1123 - P.1124

 骨肉腫に代表される筋骨格系肉腫患者および周囲の人々へのinformed consent(以下IC)のあり方についての議論が盛んである.この領域に携わるようになった当初は,骨肉腫を「たちの良くない骨髄炎」と告げて,現在のneoadjuvant chemotherapyの走りとなった動注化学療法を行った後,手術に当たっては「術中所見によっては切断になることもあるよ」との説明のもとに切断術を施行するのが大方であった.
 しかし当時でも,子宮癌は病名が正確に告げられ,手術がなされていた.この違いは,子宮癌では病期に見合った手術法が確立しており,高い治癒率が既に約束されていたこと,広範切除術でも失う機能が少なく結果が受容されやすいことにあったと思われる.

論述

ACL再建術における骨孔法とmodified over the top法との比較検討

著者: 日域淳一郎 ,   越智光夫 ,   数面義雄 ,   村尾保 ,   小林健二 ,   杉岡俊博 ,   生田義和

ページ範囲:P.1125 - P.1130

 抄録:自家腱とL-K人工靱帯により作製した再建材料で前十字靱帯を再建した症例の早期中間成績を骨孔法(BT法)とover the top変法(OTT変法)とで比較検討した.自覚症状ならびに他覚的所見として徒手検査,術後定期的にストレスX線検査(中点法),KT2000での膝不安定性を評価し,さらにMRI,術後関節鏡所見,病理組織学的検査を検討した結果,統計学的有意差が認められたのは前方引き出しテストの陽性率とストレスX線(中点法)計測値であった.すなわちOTT変法では伸展位付近での安定性は獲得できるものの,BT法に比べて90°屈曲位における前方動揺性が有意に残存する傾向にあり,屈曲位での前方安定性は獲得し難いことが判った.

外傷性股関節脱臼後のMRI所見の検討

著者: 高橋謙二 ,   三枝修 ,   斉藤正仁 ,   西川悟 ,   西須孝 ,   小林照久 ,   清水耕

ページ範囲:P.1131 - P.1136

 抄録:1988年以降,外傷性股関節脱臼後の大腿骨頭壊死発生のスクリーニングとして,MRIが撮像可能であった24例74画像をretrospectiveに検討した.正常像44画像,異常像30画像であり,さらに,異常像を骨頭内の分布状態により上外側型,下内側型,全骨頭型,荷重部型に分類した.上外側型は前方脱臼で,下内側型は後方脱臼の症例でのみ認められ,これらは受傷機転を考慮すると受傷時の骨挫傷による影響と推察された,全骨頭型は正常像または荷重部型へ移行し,虚血に対する修復像が示唆された.荷重部型はいずれも大腿骨頭壊死像と思われ,これらは受傷後早期の下内側型や全骨頭型より移行してきていた.したがって,MRIで何らかの異常像を認めた場合,大腿骨頭壊死発生の危険性があり,厳重な経過観察が必要であると考えられた.また.正常像より異常像へ移行した症例はなく,MRIで正常像を認めれば大腿骨頭壊死発生はないものと思われた.

PCA人工股関節術後の臨床成績とステム側X線像の検討

著者: 三原久範 ,   蜂谷將史 ,   大成克弘 ,   藤井英世 ,   藤下彰彦 ,   大久保俊彦 ,   戸口淳 ,   久保実 ,   小倉一久 ,   平田雅裕 ,   田中幸一 ,   中村聡明 ,   山田勝久

ページ範囲:P.1137 - P.1144

 抄録:PCA人工股関節術後5年以上経過した末期変形性股関節症36例40関節の臨床症状とステム側X線像の変化を調査した.臨床成績は日整会変形性股関節症判定基準を用いて調査し,術前平均48.5点が調査時には平均93.6点に改善した.術後5年間にいわゆる“thigh pain”を訴えたものが11関節(27.5%)あった,X線像の調査では次の結果を得た.①3mm以上のステムのsinkingが生じたのは1例のみであった.②ステムの髄腔占拠率は正面像では近位・中間・先端の各部位で減少していたが,側面像の先端部では増加傾向にあった.③正面像でのアライメントは3~5未満の軽度の内・外反位が合わせて6関節で,その他は大腿骨軸に正確に挿入されていた、④側面像でのステムのアライメントを大腿骨骨皮質との接触状態により3型に分類した.近位・中間・先端の3点で接触しているtype Aが12関節(30.0%)を占めた.⑤radiopaque line出現頻度は術後3年まで増加し,側面像でステム先端の髄腔占拠率が低い関節ほど多く見られた.⑥atrophyも術後3年まで増加し,大腿骨近位部での発生率が高かった.髄腔占拠率との明らかな相関関係は認めなかった.⑦porous-coating部へ入り込む骨梁形成は,経時的に増加していた.⑧hypertrophyはステム先端部付近に出現し,側面アライメントでtype Aの関節に多く,これらの症例ではthigh pain発生率が高かった.

前十字靱帯再建術後に発生する膝伸展制限の検討―術式間の比較

著者: 本杉直哉 ,   仁賀定男 ,   星野明穂 ,   荻内隆司 ,   池田浩夫 ,   関矢一郎 ,   長束裕 ,   宗田大 ,   石橋俊郎 ,   村上俊一 ,   山本晴康 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.1145 - P.1149

 抄録:半腱様筋腱,薄筋腱をLADの一端固定により補強する鏡視下前十字靱帯再建術を施行した98例(以下STG群)と骨片付膝蓋腱をKurosaka screwにて固定する鏡視下再建術を施行した42例(以下BTB群)において,術後3カ月時の膝伸展制限の有無を調べ,その原因,臨床経過および伸展制限に対する対策について比較検討した.STG群では受傷後早期の再建例で伸展制限発生率が高い傾向にあったが,伸展制限は追加手術を要さず全例経時的に消失し,臨床成績に悪影響を及ぼさなかった.BTB群の伸展制限の主な原因はcyclopsであり,受傷後早期の再建例で伸展制限発生率が高い傾向を示した.BTB群で生じた伸展制限は,cyclopsの切除により速やかに消失し,自覚症状や膝伸展筋力の改善をみた.切除したcyclopsの病理組織は全例靱帯様組織であった.cyclopsの成因は靱帯の部分損傷や早期リハビリテーションの関与が疑われた.

大腿骨転子部骨折の治療成績―骨折型と骨粗鬆症の影響

著者: 保田雅憲 ,   岩原敏人 ,   岡本哲軌 ,   小林徹也

ページ範囲:P.1151 - P.1155

 抄録:高齢者の大腿骨転子部骨折に対するACE captured hip screw法の適応と限界を評価する目的で,50歳以上の119例の治療成績を検討した.116例は一次的に骨癒合が得られたが,3例が偽関節となり追加手術を要した.骨癒合例の中でも不安定型骨折のJensen分類V型や,Singh index 2,1の骨粗鬆症例では,sliding screw systemの特徴であるtelescope現象が大きく現れ,他の治療法を選択すべきと考えられた.

手術手技 私のくふう

土方式PNセットを用いた脊椎生検の経験

著者: 武者芳朗 ,   岡島行一 ,   伊藤隆 ,   山本高裕 ,   馬目晃匡 ,   茂手木三男

ページ範囲:P.1157 - P.1162

 抄録:土方式PNセットを用い,16例に脊椎生検を行った.経過観察期間は平均12.8カ月である,生検高位は,頚椎3例,第11,第12胸椎が1例ずつで,腰椎は第1~5まで12例であった.椎体生検は,局所麻酔,X線透視下に,生検予定椎に隣接する椎間板に経皮的髄核摘出術の要領で外筒まで誘導し,外筒を軽く押しながら椎体の上・下縁に移動した後,trephineによりcore specimenを採取する.量が不十分,または軟組織でtrephineで採取しにくい場合は,punchで追加採取し,十分止血が得られたら外筒を抜去する.16例全例の組織学的診断が可能で,合併症はなかった.手術例5例では,摘出標本の組織診断と一致した.本法には,十分な標本採取が可能,手技の安全性,易操作性などの利点があるが,透視できない高位,上・中位胸椎部.病巣部を透視下に確認しにくいものや極小さい病巣には,CT guide法によるtrephine biopsyを用いるべきである.

人工股関節全置換術(THR)におけるフィブリン糊の使用経験

著者: 林和生 ,   杉岡洋一

ページ範囲:P.1163 - P.1166

 抄録:THRを行った34例において,臼蓋部をセメントレスとし,リーミング後の骨露出部からの止血や,骨欠損部への骨移植に対しフィブリン糊を使用した.なお止血効果の比較のためフィブリン糊を使用しない40例を対照とした.本剤の使用により術中・術後の総出血量は対照群と差はなかったが,手術中の骨露出部の止血や,骨欠損部への骨片移植を簡便に行うことが出来た.また,術後2年後までの観察により,ソケットおよび移植骨片の骨癒合は良好で,再置換手術を必要と症例はなく,本剤はTHR後の骨癒合を阻害するものではないことが判明した.

日常診療 私のくふう

肩の痛みのためのビジュアルな自己診断票

著者: 玉井和哉

ページ範囲:P.1167 - P.1171

 抄録:肩の痛みを主訴とする患者の疼痛表現を支援するため,日本整形外科学会の肩関節疾患治療成績判定基準に準拠したビジュアルな自己診断票を考案した.これは診察前の待ち時間を利用して,患者自身が痛みの程度や性格日常生活動作の障害を自己申告するためのものである.本票を試用した50名のうち記入を拒否した患者はなく,大多数が5分以内に記入を完了した。もっとも症例数の多かった肩関節周囲炎についてみると,痛みの程度は準備したアナログスケールの広い範囲に分布し,その平均はほぼスケールの中央にきた.日常生活動作の障害に関する回答は,準備した15項目のうち13項目にわたっていた.また多くの患者が自分の症状を医師に伝えることができたと感じていた.本票にはスケールの決め方や痛みの性質の表現に改良すべき点はあるものの,患者の受け入れはおおむね良好で,日常診療のコミニュケーション・ツールとして活用できるものと考える.

追悼

「学問一路」―故新名正由教授 追悼の辞

著者: 矢部裕

ページ範囲:P.1172 - P.1173

 防衛医科大学校整形外科故新名正由教授には,平成7年6月1日,胃癌のため御逝去されました.享年54歳.君を敬愛して来た友人の一人としてここに心から哀悼の意を捧げるとともに御冥福をお祈り申し上げます.
 故新名正由教授は,昭和40年慶應義塾大学医学部を卒業し,整形外科大学院へ入学致しました.故池田亀夫教授指導の大学院一期生といえます.教室に生化学研究班を創設するという池田教授の期待を担って,昭和43・44年に東京医科歯科大学硬研生化学永井裕教授の下へ国内留学し,生化学者としての歩みも始まったわけです.

荻原義郎教授の御逝去を悼む

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1174 - P.1175

 本年7月12日および13日にAsia-Pacific Musculoskeletal Tumor Society(アジア太平洋地域筋骨格系腫瘍学会)の第1回学術集会が三重大学の荻原義郎教授を会長として東京において開催されました.その学術集会予稿集の扉頁に荻原教授御自身が書いておられるように,アジア太平洋地域にこのような学会が創設されたのは世界の人口の半数以上が住んでいるこの地域において,筋骨格系腫瘍についての研究を促進し情報を遍く伝えることによって人々を腫瘍から守ろうという目的からでありました.この学会の記念すべき第1回学術集会の会長として,永年この領域において精力的に研究を行ってこられ,また,国際的にも極めて高名である荻原教授が指名されたことは当然のことであり,荻原教授も使命感に燃えて立派な学術集会を企画されました.しかし,その学術集会の第2日目の早朝,荻原教授は御自分のライフワークとして闘ってこられた癌によって忽然としてこの世を去られました.当日,学会場においてこの御訃報に接した各国からの出席者一同は粛然として声なく,余りの驚きと悲しみに唯深く頭を垂れて荻原教授の御冥福を祈ると共に,その御努力に対して感謝の意を表するのみでありました.この学術集会のちょうど2カ月前にイタリーのフローレンスにおいて筋骨格系腫瘍に対する患肢温存の国際学会が開催されました.

整形外科philosophy

整形外科50年の経験から―若い整形外科医のかたがたに

著者: 松野誠夫

ページ範囲:P.1177 - P.1179

はじめに
 昭和21年北大を卒業後,北大病院で40年,美唄労災病院で9年,合計50年間にわたり多くの若い医師の方とともに診療に従事してきたが,その経験を通して気がついた2~3の問題について述べ,これがいまの医師の方々の参考になればと思う.

整形外科英語ア・ラ・カルト・37

比較的よく使う整形外科用語・その4

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1180 - P.1181

●Brown-Séquard syndrome(ブラウン・セカール)
 腫瘍による圧迫や外傷で脊髄の半分が損傷を受けた場合,その部分より末梢の同側の運動麻痺と知覚異常を起こし,反対側の痛覚と温度覚の喪失を伴うものをいう.フランスのブラウン・セカール(Charles-Edouard Brown-Séquard 1817-1894)は,動物実験で脊髄を半分切ることにより,この事実を発見し,1849年に発表した.
 ブラウン・セカールは,インド洋にある英国領のモーリシャス(Mauritius)島のポート・ルイス(Port Louis)に,1817年4月8日に生まれた.父(Charles Edward Brown)は米国の海軍士官であり,母(Charlotte Séquard)はフランス人であった.彼は父が他界した後に生まれたため,母親が非常に苦労して育てた.欧米には父親と母親の名前を合わせて子供の名前とする習慣がある.例えば著名な整形外科医にも“Smith-Petersen”や“Waston-Jones”がいるが,“Brown-Séquard”も同様である.“Brown-Séquard”の国籍について,多くの書物や辞典にはフランス人と書かれているが,“Encyclopedia Britanica”には,さすがに英国人と書かれていた.

基礎知識/知ってるつもり

enthesopathy

著者: 福田眞輔

ページ範囲:P.1182 - P.1182

 【用語の意味】
 enthesis(付着部)とは腱,靱帯,関節包などが骨に接合している部分をさす.enthesisは生物活性が高い場所で,外傷・変性・炎症・代謝性疾患などの病変の好発部位である.このenthesisに起きる病変を総称してenthesopathy(付着部症)と呼んでいる.この言葉は,東欧のrheumatologistであるNiepelの造語とされている1).整形外科やリウマチ科で扱う広義のリウマチ性疾患(痛みを伴う運動器疾患)の中にはenthesopathyの疾患概念にあてはまるものが多い.

臨床経験

関節内に伸筋腱矢状索が陥入した環指MP関節側副靱帯損傷の1例

著者: 西浦康正 ,   細谷俊彦 ,   大平孝之 ,   安藤祐之 ,   川島秀一 ,   伊藤恵康

ページ範囲:P.1183 - P.1186

 抄録:症例は69歳の女性で,自転車でトラックと接触して転倒,受傷直後に当科を受診した.左手背は腫脹著明で,環・小指はMP関節で尺屈しており内転が不可能であった.環指の伸展は制限され,環指MP関節背側に著明な圧痛が見られた.単純X線像で指骨,中手骨に明らかな骨折・脱臼は認められなかったが,尺側へのストレスで環指MP関節に著明な動揺性を認めた.即日手術を施行し,環指MP関節を背側から展開した.皮下に中手骨骨頭が現れ伸筋腱は尺側に偏位しMP関節に伸筋腱矢状索が陥入していた.陥入した伸筋腱矢状索を整復すると,橈側に側副靱帯の断端が飛び出し,あたかも母指のMP関節尺側側副靱帯損傷のStener lesionのような病態を呈した.伸筋腱を縦切し,側副靱帯の修復を行った.術後経過は良好であった.矢状索の整復と共にMP関節の安定性の獲得のために側副靱帯の修復が必須で,観血的治療の絶対適応であると考えられた.

内反肘変形を伴ったposterolateral rotatory instabilityの1例

著者: 冨岡正雄 ,   吉矢晋一 ,   松下績

ページ範囲:P.1187 - P.1190

 抄録:肘関節の外傷後に内反変形をきたしさらに亜脱臼を繰り返すようになったposterolateral rotatory instabilityの1例を経験した.症例は30歳の男性で11歳のとき左肘関節の外傷により整骨院で保存的加療を受けたことがある.その後肘関節の内反変形をきたしさらに亜脱臼を繰り返すようになった.日常生活での機能障害はなかったものの3年前よりボクシングをするようになってから,亜脱臼は頻回に起こり当科を初診した.
 手術はまず内反肘変形に対し上腕骨矯正骨切り術を行い,続いてlateral ulnar collateral ligamentを同種移植にて再建した.術後6週間のギプス固定の後可動域訓練を行い,1年後には障害はなくボクシングが可能となった.関節に働く脱臼方向のストレスの発生を防止するためには靱帯再建のみならず上腕骨矯正骨切り術も行うことが必要と思われた.

スキー中に生じた長母趾伸筋腱皮下断裂の1例

著者: 近藤啓 ,   光野一郎 ,   井戸一博 ,   采野進 ,   泰永募 ,   上村正樹 ,   藤田仁

ページ範囲:P.1191 - P.1193

 抄録:スキー中に生じた長母趾伸筋腱皮下断裂の一例を経験した.現在までに,7例が報告されている.本症例では,スキー滑走による足部の腫脹,スキー靴の足背部への圧迫,バックル等による強固な固定のため,長母趾伸筋腱の滑動性が制限され,その状態で母趾を底屈することにより断裂を来したと考えた.

硬膜管背側に遊離移動した腰椎椎間板ヘルニアに同一レベルでの脱出ヘルニアを合併した1例

著者: 黒木浩史 ,   田島直也 ,   平川俊一 ,   久保紳一郎 ,   田辺龍樹 ,   本部浩一

ページ範囲:P.1195 - P.1199

 抄録:硬膜管背側に遊離移動した腰椎椎間板ヘルニアと同一レベルでの脱出ヘルニアを合併した症例を経験した.症例は55歳の男性で,腰痛に続き両下肢痛と左下垂足が出現した.近医にてMRIを施行されたところL3/4椎間板レベルの脊髄腫瘍と診断され当科に入院となった.入院時SLRは陰性で知覚純麻もなかったが,左足関節と母趾の背屈力がMMTで1~2と著しく低下し,また両者の底屈力と大腿四頭筋にも4程度の低下を認めた.膀胱直腸障害は認められなかった.手術にて,硬膜管背側に位置する腫瘤とその前方にL3/4に脱出孔を有するヘルニア塊が認められた.組織診断は,ともに脱出椎間板であった.術前,脊髄腫瘍との鑑別に難渋したが,MRIを詳細に再検討したところ2個のヘルニアの存在を確認することができ,術前に腫瘍との鑑別が可能であったと考えられた.術後6カ月経過した時点において,筋力はすべて5に回復し原職に復帰している.

accessory soleus muscleの1例

著者: 長崎晋矢 ,   奥村正文 ,   青木喜満 ,   安保裕之

ページ範囲:P.1201 - P.1204

 抄録:accessory soleus muscleについては1843年,Cruvelhierが報告して以来,症例報告は散見されているが,本邦での報告はまだない.われわれはaccessory soleus muscleの1例の治療経験を得たので,ここに報告する.症例は24歳,女性.下腿遠位後内側の無痛性腫瘤を主訴として来院した.MRIにて𦙾骨とアキレス腱の間に,筋と同じ信号強度を持つ腫瘤がみられた.摘出術を行った結果,accessory soleus muscleと考えられた.

水泳選手に生じた膝離断性骨軟骨炎

著者: 加藤充孝 ,   岩崎廉平 ,   河本正昭 ,   杉谷繁樹 ,   加藤淳 ,   岩崎学 ,   吉野仁浩 ,   鏡周治

ページ範囲:P.1205 - P.1208

 抄録:膝関節内大腿骨内顆離断性骨軟骨炎に対し遊離した骨軟骨片をナイロン糸を用い整復固定した1例を報告する.症例は17歳,男性.水泳歴7年.1989(平成元)年夏,平泳ぎのキック時に右膝痛出現して以来,平泳ぎの際右膝痛を認めていた.1993(平成5)年7月20日安静時,右膝にlockingが出現し近医受診した.X線でextended classical siteに骨欠損と顆間部に遊離骨片を認め,1993(平成5)年7月28日整復固定術を施行した.骨軟骨片は1.7×4.2cm大で,軟骨面の状態と欠損部との適合性が良いため,ナイロン糸で関節外縫合を行い整復固定した.術中の骨軟骨片の固定力は良好で,術後ギプス固定を2週間とし以後可動域訓練を開始した.術後1年1カ月の経過観察でCT,X線上の骨癒合と関節面の良好な連続性を認め,膝関節機能も良好であった.ナイロン糸による固定は骨軟骨片が薄い場合にも適応でき,フィブリン接着剤に比べ固定力も高く有効な固定法と考えた.

嚥下障害をきたした強直性脊椎骨増殖症の2例

著者: 寺西正 ,   宮津誠 ,   小沢一広 ,   保田雅憲 ,   浜口英寿 ,   安藤政克

ページ範囲:P.1209 - P.1213

 抄録:強直性脊椎骨増殖症(以下ASHと略す)に伴う頚椎前縁の骨増殖により嚥下障害をきたした2症例を経験した.2例とも症状が著しかったので手術により骨増殖部を切除し嚥下障害は改善した.

CREST症候群における指趾切断術の経験

著者: 森北育宏 ,   廣島和夫

ページ範囲:P.1215 - P.1218

 抄録:CREST症候群は比較的稀な結合組織に対する自己免疫疾患であり,末梢血行が悪く,皮膚が萎縮しているため,手術に工夫を要すると思われるが,過去にCREST症候群の難治性潰瘍における指趾の切断方法についての報告はない.今回CREST症候群2例の難治性潰瘍に対して指趾切断術を経験したので報告する.
 症例は2症例ともに保存的療法に反応せず,難治性潰瘍,骨髄炎を来していた.局所の評価のため,酸素飽和度の測定とthermographyを行った結果,切断レベルを決めるのに酸素飽和度は参考にはなるが,皮膚温の測定は有用とは言えなかった.また軟部組織の退縮は著しいため,まず血行の悪い軟部組織を切除し,それより1cm以上骨を短くする事で,切断レベルを決定するのがよいと考えられた.

オスラー痛斑の2例

著者: 樋口泰光 ,   藤田邦彦 ,   杉山修一 ,   浦和真佐夫 ,   北村哲也 ,   松田理 ,   堀口大輔 ,   金萬石 ,   藤澤幸三 ,   冨田良弘 ,   若林弘樹

ページ範囲:P.1219 - P.1221

 抄録:感染性心内膜炎の皮膚病変であるオスラー痛斑は,整形外科医の目に留まることは少ない.われわれは,オスラー痛斑の2例を経験した.症例1:24歳,女性.右母指痛出現し当科受診.発熱が続いていたため精査を行ったところ,感染性心内膜炎と診断され,右母指の有痛性紅斑は,オスラー痛斑であったと診断した.症例2:63歳の男性.腰背部痛,全身筋肉痛が出現し,近医内科より当科紹介となったが,全身症状強く,体重減少を認めたため,当院内科へ転科入院となった.入院後,左手手掌,左足背部に有痛性紅斑が出現したため,biopsyを施行したところ,オスラー痛斑と診断され,感染性心内膜炎の確定診断がなされた.オスラー痛斑は,整形外科を最初に受診する可能性があり,また,感染性心内膜炎は治療が遅れると重篤な症状を呈するため,注意深い診察が必要である.

強剛母趾に対するcheilectomyの経験

著者: 宗安克仁 ,   野口昌彦 ,   平田正純 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.1223 - P.1227

 抄録:今回われわれはcheilectomyを施行した強剛母趾の術後成績を検討したので報告する.対象は3例5足,年齢は61~78歳(平均67歳),術後経過期間は9カ月~5年(平均2年6カ月)であり,以下の調査を行った.
 1)X線学的Grade分類,2)X線計測による術前と術後の外反母趾角,1-2中足骨角および趾節間外反角,3)American Foot and Ankle Societyの前足部評価法による臨床的比較.結果は,1)術前はGrade I~IIで,調査時もGrade I~IIであった.2)X線計測値は術前と術後で有意な変化は認めなかった.3)臨床成績は術前の疼痛8点(40点満点),活動制限2.4点(10点満点),履き物制限7点(10点満点)が,それぞれ34点,8.8点,10点と改養し患者の満足度は高かった.したがって,強剛母趾Grade IあるいはIIに対するcheilectomyは有用であると考える.

肘頭部に発生した骨内ガングリオンの1例

著者: 今泉聡 ,   石井義則 ,   井村健二

ページ範囲:P.1229 - P.1232

 抄録:比較的稀な肘頭部骨内ガングリオンの1例を経験した.症例は69歳女性で右肘の自発痛を主訴に来院した.X線上肘頭部骨皮質下に辺縁硬化を伴う境界明瞭な骨透亮像を認め,関節症性嚢腫との鑑別は困難であったが,組織所見で類骨やsynovial lining cellを認めず,WHOの診断基準をすべて満たしていたことから骨内ガングリオンと診断した.しかし,高齢者で変形性肘関節症を合併している場合両者の鑑別は困難で注意を要する.
 骨内ガングリオンの発生原因については多くの説があり,いまだに解決していない.本症例では,断層X線像,CT像で関節内との交通と思われる所見を認めた.これはCraneの唱えた関節液あるいは滑膜の迷入説を支持するものと思われた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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