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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科30巻12号

1995年12月発行

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視座

整形外科研究体制のあり方

著者: 都築暢之

ページ範囲:P.1345 - P.1345

 1995年は戦後50年にあたり,各分野で戦後50年の成果の検討,反省が行われている.学問の世界ではどうだろうか.我が国の特徴とされる『基礎技術輸入~応用体質』を脱し,『独自で基礎技術を開発する体質』に移行したであろうか.今年春の日本学術会議だよりNo. 37の『我が国の学術体制を巡って』を興味深く読んだ.同文の要旨は,我が国の学術体制は高度とはいいがたく,独自基礎研究を含め種々の分野で学問的に遅れをとる危機的状況が伏在しているとしている.また,最近英米両国が工学,農学,医歯薬学などの分野での産学協同研究を戦略研究として重視し始めたことを指摘し,その成果は経済効果と直結し,企業のみならず研究者も潤すものであり,それに遅れをとれば我が国はますます差を付けられることを危惧し,戦略研究の開始と高度研究体制の構築が必要と訴えている.同趣旨のことを平成7年第9号の日本脊椎外科学会報に25回の学会長蓮江光男氏が述べられている.同会長は日本には少教の独創的世界的研究はあるものの,脊椎外科分野全体としては外国人の頭脳と製品に頼る貿易赤字状態にあるとし,一層の創意・工夫を求めている.整形外科の戦略研究とは何か.日本の高齢化社会が整形外科に最も求めているのは,痛みのない良好な四肢脊柱関節機能の維持であろう.

論述

MRIにおける生体用金属のアーチファクト

著者: 阿部栄二 ,   奥山幸一郎 ,   石河紀之 ,   本郷道生 ,   佐藤光三 ,   佐志隆士 ,   石川英次郎

ページ範囲:P.1347 - P.1353

 抄録:磁性体の含有率が異なる7種類の生体金属でMRIアーチファクトの大きさを比較した.その大きさは強磁性体(鉄,コバルト,ニッケル)の含有量の総和より.鉄とコバルトの含有量の和に最も良く相関した.また,強磁性体の含有量が微量(0.058%~2.5%)な4種類のチタン合金の間では,アーチファクトの大きさに差がなかった.
 異なる合金で同一形状のpedicle screwを作製し,豚脊椎に刺入して撮像したMRIでは,アーチファクトの大きさはSUS316(ステンレス鋼)>MP-35N(コバルト合金)>Ti-6AI-4V(チタン合金)の順で,磁場強度では1.5テスラ>0.5テスラ,撮像条件ではT2>T2>プロトン密度>T1の順であった.0.5テスラではチタン合金とコバルト合金のT1強調画像が,1.5テスラではチタン合金のT1強調画像のみがscrew刺入部での脊柱管内状況の把握が可能であった.

腱板断裂に対するarthroscopically assisted rotator cuff repair法の治療成績

著者: 福島直 ,   岡村健司 ,   高橋輝一 ,   石井清一 ,   薄井正道 ,   青木光広

ページ範囲:P.1355 - P.1359

 抄録:Arthroscopically assisted rotator cuff repair法を行い術後6カ月以上経過した腱板断裂51例52関節の術後成績を分析した.手術時平均年齢は57.3歳,術後経過観察期間は平均18.7カ月であった.手術方法はまず肩甲上腕関節鏡視,鏡視下肩峰下除圧術を施行した.次いで約4~5cmの小皮切を用いて三角筋を肩峰から切離せずに観血的に腱板を修復した.腱板修復はMcLaughlin法(43関節)と側々縫合(9関節)を行った.術前と術後のJOAスコアは疼痛点:7.3点→26.5点,機能点:12点→17.7点,可動域:21点→26.7点であった.総合点は術前の60点が術後は90.9点と改善した.Constant法による外転筋力は患健側比では術前平均55.1%から,術後は90.1%に改善した.本法は関節鏡視下手術を加えることで,観血的手術による侵襲を最少にとどめることが利点と考えられた.

先天性側弯症における非手術例の検討―脊柱バランス,半椎の自然経過,変形進行の危険因子について

著者: 舟崎裕記 ,   司馬立 ,   林克章 ,   曽雌茂 ,   伊室貴 ,   室田景久

ページ範囲:P.1361 - P.1368

 抄録:先天性側弯症の非手術例について,脊柱バランス,奇形椎の自然経過,さらに変形進行の危険因子などについて検討した.その結果,本症では,decompensationや両肩の高さの不均衡などの前額面バランスのみならず,矢状面変形の異常をきたす症例も多く認められた.奇形椎別にみた変形の進行様相は諸家の報告とほぼ同様の結果が得られたが,単独のhemivertebraをもつものでは,初診時骨年齢とCobb角,さらに外側化などに進行との関係が認められた.また,hemivertebraの分離状態が経年的に癒合していく症例も多く認められた.腰椎部発生のhemivertebraは骨成熟後に変形が50°以内に止まっても凹側の骨棘形成を呈し,腰痛を訴える症例も認められた.本症の手術療法の適応に関しては,側弯の進行に関するいくつかの危険因子のみならず,脊柱バランスの不均衡や臨床症状の発現に対する考慮が必要で,特にhemivertebraに対して注意を払う必要があるものと考えられた.

大腿骨頚部内側骨折後の骨頭壊死

著者: 黒木武房 ,   高橋定雄 ,   安藤正 ,   高見博 ,   桜井茂樹 ,   内田宗志 ,   森聡 ,   西田茂喜

ページ範囲:P.1369 - P.1376

 抄録:大腿骨頚部内側骨折後における骨頭壊死の危険因子を検討した.対象は39例39骨折で,男9例,女30例,受傷時年齢は24~85歳,平均62.3歳,追跡期間は1年~8年1ヵ月,平均3年である.骨折型はGarden分類可能な骨頭下骨折が35例で,stage I 9例,stage II 22例,stage III 4例であり,中間骨折が4例であった.治療法は保存的が5例,手術が34例で,hip screwはすべてAce社製を使用し,captured hip screw 5例,cannulated cancellous hip screw 29例であった.39例中38例は一期的に骨癒合が得られた.骨頭壊死は8例に発生し,Garden, stage I 2例,stage II 4例,stage III 2例で,このうち7例がcollapseを起こしていた.整復度をGardenのalignment indexを用いて計測すると,整復不良例に骨頭壊死が多かった.受傷時のX線像にて骨折線でアダムス弓のmedial cortexのspikeが短いno spike型は骨頭壊死の危険因子と考えられた.

軟部肉腫における化学療法の意義―単独施設における14年間の症例の検討

著者: 松本誠一 ,   川口智義 ,   真鍋淳 ,   黒田浩司 ,   下地尚 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.1377 - P.1382

 抄録:根治的広切法の概念にのっとり,原発巣を手術した軟部肉腫の化学療法効果を検討した.症例は,1978~1990年に癌研病院にて手術した260例であり,主な組織型は,MFH:73例,脂肪肉腫:49例,滑膜肉腫:26例などである.化学療法の内訳は,術前療法:47例,術後補助化療:94例,転移に対する化学療法:71例である.使用薬剤は,横紋筋肉腫や円形細胞肉腫ではVAC療法,その他の肉腫では,CYVADIC療法を基本とした.その結果,術前化学療法単独での原発巣に対する有効率は34%であった.M0N0の21例では,術前化療有効群の生存率は7/7であり,無効群の11/14に比較して優れていた.術後補助化療では,MFHは化学療法の有無にかかわらず生存率:80%であり,補助化学療法の意義は低かった,円形細胞肉腫,横紋筋肉腫,単相型の滑膜肉腫,高悪性の脂肪肉腫は,補助化学療法の良い適応であった.転移に対する化学療法では,有効率:11%,CRは2例にすぎず,化学療法単独の効果は限られていた.

頚髄症に対する頚椎前方固定術後の頚椎アライメントと頚部不定愁訴

著者: 川上守 ,   玉置哲也 ,   吉田宗人 ,   林信宏 ,   安藤宗治 ,   山田宏 ,   橋爪洋

ページ範囲:P.1383 - P.1389

 抄録:頚髄症に対する前方固定術症例60例を用いて,①頚椎前方固定術は術直後の頚椎アライメントを保持し得るか,②術後の頚部不定愁訴がどの程度の患者にみられるか,③頚部不定愁訴発現に影響を及ぼす因子は何か,④さらに不定愁訴発現の予防が手術的に可能かどうか,を検討した.頚椎前方固定術は術直後前方椎間腔の拡大を引き起こすが,調査時には前方,後方椎間腔,椎間孔の拡大は得られていなかった.肩こり,頚部痛,頚部違和感,頚部のだるさ,肩部痛などの術後頚部不定愁訴は23例,38.3%に認められた.術後不定愁訴の発現には固定隣接椎間障害や脊髄症の改善程度は無関係であった.術後不定愁訴の発現した症例では手術椎間の局所後弯,椎間孔の狭小化が有意に認められた.術直後2~5mmまでの前方椎間腔拡大を得ることで良好なアライメントの獲得と不定愁訴発現の予防を期待し得る可能性がある.

器械

高齢者の椎間関節性腰痛に対するfacet denervationの経験

著者: 森戸伸吾 ,   村上栄一

ページ範囲:P.1391 - P.1393

 抄録:治療に難渋する高齢者の椎間関節性腰痛に対して,神経ブロック用絶縁電極注射針(ポール針)と手術用電気凝固装置を使用して,facet denervationを行った.対象は,発痛テスト陽性例で,3回以上の椎間関節ブロックを行ったが,持続的な効果の得られなかった70歳以上の腰痛患者5症例(男性1例,女性4例),罹病期間は5ヵ月~2年4ヵ月経過観察期間は3週~5ヵ月である.手技として,ポール針に手術用電気凝固装置を接続して,X線透視下に責任椎間関節周囲を連続的に電気凝固した.その結果,腰痛は治療前に比べ50~100%の自覚的な改善を示し,効果の持続が認められる.電気凝固によるfacet denervationは,再発を繰り返す高齢者の腰痛に対して,有効な治療法の一つと思われる.

検査法

腰椎椎間板ヘルニアの術前検査としてのMRIおよびCT-discography

著者: 内山徹 ,   安川敬一郎 ,   水井伸子 ,   玉木満智雄 ,   高橋栄一 ,   斎藤友雄

ページ範囲:P.1395 - P.1399

 抄録:腰椎椎間板ヘルニアの術前に,ヘルニアの後縦靱帯穿破の有無を把握しておくことは,治療法の選択において重要である.腰椎椎間板ヘルニア25例のMRIおよびCTD(CT-discography)と手術所見とを比較検討し,術前にヘルニアの後縦靱帯穿破の有無の診断が可能かどうかretrospectiveに検討した.MRIはblack lineの途絶のあるものを後縦靱帯穿破ありとし,CTDはepidural leakのあるものを後縦靱帯穿破ありとした.診断は臨床症状を知らされていない放射線科医1名によって行われ,その診断と手術所見とを比較検討した.
 MRIの正確度は64.0%,鋭敏度は69.2%,特異度は58.3%,CTDの正確度は60.0%,鋭敏度は54.6%,特異度は54.6%であった.ヘルニアの後縦靱帯穿破の有無の術前診断において,MRIのblack lineおよびCTDのepidural leakの有用性は低かった.

整形外科英語ア・ラ・カルト・39

比較的よく使う整形外科用語・その6

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1400 - P.1401

●cauda equina(コーダ・エクアィナ)
 脊髄の成長は胎内で3ヵ月までは,脊柱のそれとほぼ同じ速度であるが,それ以後は神経の発育が脊柱管のそれに比べ遅れるために,その下端の神経は脊柱管を次第に上行することになる.この現象を脊髄上行という.脊髄は第1腰椎以下の神経は斜め下に降り,その形状が馬の尾に似ているために,ラテン語で“cauda equina”という.

基礎知識/知ってるつもり

一次骨梁と二次骨梁

著者: 森諭史

ページ範囲:P.1402 - P.1402

 長管骨の骨幹端部には薄い皮質骨に囲まれた網目状の海綿骨が存在する.発育中の長管骨は,成長帯軟骨(epiphysial plate or growth plate)を境界に骨端(epiphysis)と骨幹端(metaphysis)に分れ,成長帯軟骨は増殖,分化,石灰化,骨への置換の過程を繰り返して長管骨の長軸成長を司ると同時に発育期の海綿骨の供給母体となっている.発育中の長管骨の海綿骨では一次骨梁と二次骨梁を観察することができる.

臨床経験

鎖骨下静脈の潅流障害を伴った鎖骨骨折の1例

著者: 村上俊一 ,   河善三郎 ,   佐々木道彦 ,   友成正紀 ,   末定弘行 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.1403 - P.1406

 抄録:鎖骨骨折は稀に神経,血管障害を合併することが知られている.今回われわれは,鎖骨下静脈の潅流障害を生じた鎖骨体部骨折の1例を経験した.症例は55歳の男性で自転車より落ちて受傷した.保存療法を開始したところ患側上肢のしびれ感,静脈怒張が出現し鎖骨下静脈の潅流障害が疑われた.静脈造影で肋鎖間隙での鎖骨下静脈の圧迫が確認された.解剖学的整復位で内固定することにより,鎖骨下静脈の潅流障害は消失し,骨癒合も得られた.

外側半月板奇形の1例

著者: 清水泰宏 ,   野村一俊 ,   平野真子 ,   橋本伸朗 ,   福元哲也

ページ範囲:P.1407 - P.1409

 抄録:極めて稀な外側半月板奇形の1例を経験したので報告する.症例は16歳男性,誘因なく両膝痛,giving-wayが出現し,膝蓋骨周辺部に圧痛を認める以外特記すべき所見なく,単純X線上も特に異常所見はなかった.両膝棚障害の疑いにて両膝関節鏡を行った,鏡視所見では両膝にCタイプの棚を認めたが,さらに正常外側半月板の上に重なる帯状の半月板が中節部後方より始まり,後節部を経て大腿骨顆間窩後方に向かって走行しており,後方側付着部は鏡視できなかった,鏡視下棚切除と半月板の奇形部分の切除を行い,この切除標本を観察してみると,扁平帯状,表面平滑で光沢を帯びていた.組織学的には,膠原繊維が重層化し,わずかな繊維の離開を認めるのみで,変性により形成されたものとは考えにくかった.術後4ヵ月経過し膝蓋骨周辺部の痛みは持続しているがgiving-wayは消失した.奇型半月板が症状に関与していたかどうかは明らかでなかった.

中足骨への転移癌の1例

著者: 浦山雅和 ,   岡田恭司 ,   吉田澄子 ,   阿部栄二 ,   佐藤光三

ページ範囲:P.1411 - P.1414

 抄録:中足骨へのまれな転移癌の1例を経験した.症例は59歳の女性で,1992年9月,左母趾痛を主訴に当科を受診した.歩行時痛が著しく左母趾基部に発赤,腫脹,局所熱感と圧痛を認めた.またVirchowリンパ節の腫大を触知した.単純X線写真では左第一中足骨近位部に不規則な溶骨像を認め,MRIでは病変部はT1で低信号,T2で高信号を呈した.骨髄炎または骨腫瘍の疑いにて切開生検を行い転移性腺癌と診断した.その後原発巣は胆嚢と判明し,化学療法(F-CAP療法)を3コース行い足趾の病変は縮小し,さらに局所に60Gyの放射線治療を行い疼痛は消失した.その後,化学療法を中心に治療したが,原発巣には充分奏功せず1993年9月に死亡した.局所の炎症所見が強く,骨髄炎との鑑別を要した.

外傷後の𦙾骨遠位骨端線部分的閉鎖の治療経験

著者: 長野博志 ,   井上一 ,   安田金蔵 ,   花川志郎

ページ範囲:P.1415 - P.1419

 抄録:外傷により脛骨遠位内側骨端線の部分的閉鎖をきたした3症例を報告した.症例1:7歳,女児.左脛腓骨遠位骨端線骨折.Salter-Harris(S-H)分類の4型.受傷後4年,足関節に25°の内反があり,脛骨に対しopen wedge osteotomyを行った.15歳時,足関節のROMは正常で変形はなかったが,3cmの脚長差が残存した.症例2:9歳,女児.内果部の皮膚,骨膜,骨の一部が削りとられ,Rangの追加したS-H分類の6型.内果部の骨端線の部分的閉鎖がみられ,2回の骨橋切除と脂肪移植(Langenskiöld法)を行った.15歳時,脚長差,変形はなかった.症例3:9歳,女児.S-H分類の3型.症例2と同様の手術を行い,12歳時,脚長差,変形はなかった.
 Langenskiöld法は骨端線の部分的閉鎖を早期に発見し,適切量の骨橋を切除し,十分な脂肪組織を挿入すれば,変形,短縮の予防的治療法として有効と思われた.

脊柱側弯症を伴ったLarsen症候群の1例

著者: 綿貫誠 ,   熊野潔 ,   平林茂 ,   内田毅 ,   瀧直也 ,   泉康次郎 ,   中村耕三

ページ範囲:P.1421 - P.1424

 抄録:Larsen症候群は1950年にLarsenらによって初めて報告された先天性多発性関節脱臼や特異な顔貌などの特徴的な身体所見を有する稀な疾患である.今回われわれは進行性の側弯症を伴った1例にinstrumentation手術を行った.症例は8歳女児,低体重児であった以外出生時身体所見に異常はなかった.生後7ヵ月頃に左肋骨の突出に気づかれたが放置,8歳時脊柱側弯と低身長が顕著となったため当科を受診した.多発性対称性の関節脱臼並びに亜脱臼,低鼻梁,両眼離開,へら状の母指,中手骨の短縮,外反母趾,脊柱側弯症の特徴的な身体所見よりLarsen症候群と診断した.脊柱側弯変形に対して保存的治療を行ったが,側弯が進行したため,患者の成長に合わせてrodが延長でき,数回の矯正手術ができるdominoを用いたCDI without fusion法の観血的治療を行った.11歳の現在までに4回のrodの延長と補強,並びに側弯矯正の手術を行い,良好な経過が得られている.

第5腰椎椎弓根から発生した骨軟骨腫の1例

著者: 関根将利 ,   堀田知伸 ,   山下敏彦 ,   斎藤成樹 ,   藤澤泰憲

ページ範囲:P.1425 - P.1428

 抄録:第5腰椎椎弓根から発生した骨軟骨腫により神経根症状を呈した稀な1例を経験した.症例は28歳,男性,右足関節背屈力低下と,右L5領域の感覚鈍麻を主訴とした.単純X線像では両側のL5分離症以外に異常を認めず,MRIでも著明な脊柱管内病変を認めなかった.脊髄腔造影では,右L5神経根嚢像の圧排を認めた.CTMで,右椎弓根より発生し椎弓の腹側に沿って存在する腫瘤病変を認めた.部分椎弓切除および腫瘍切除により症状は軽快した.腰椎発生の骨軟骨腫は比較的頻度が低いとされている.中でも,腰椎椎弓根より発生し神経根症状を示した症例の報告は,これまでに1例しかなく,きわめて稀な症例と思われた.

頚髄脂肪腫の1例

著者: 仲俣岳晴 ,   四方實彦 ,   多田弘史 ,   清水和也 ,   田中千晶 ,   戸口田淳也 ,   高橋真 ,   長谷部啓司

ページ範囲:P.1429 - P.1432

 抄録:34歳男性に生じた頚髄脂肪腫に対し,CUSAを用いた可及的切除を行い,症状の改善が得られた.主訴は項部痛および両上肢への放散痛で,外傷を契機に発症した.MRI,CTMにてC5,C6レベルの脊髄背側に脂肪腫に特徴的な像を認め,術前診断が可能であった.強い疼痛に比し,神経学的には四肢腱反射の軽度亢進と左下腿の軽度知覚低下を認めるのみであった,術後一過性に四肢知覚低下および膀胱直腸障害を来したが,その後比較的速やかに回復し,上肢への放散痛も消失した.脊髄脂肪腫は全脊髄腫瘍の約1%と報告されているように比較的稀な疾患である.これらの多くは脊髄背側の軟膜下に存在し,腫瘍腹側では脊髄との境界が不明瞭となっている.手術的治療については,椎弓切除による除圧のみにとどめるべきとの考え方もあるが,近年ではCUSAやLaserの開発により,積極的かつ愛護的な切除を行うことも可能となってきている.

ぎっくり腰の造影MRI所見

著者: 高橋弦 ,   大木健資 ,   林謙二 ,   西川晋介

ページ範囲:P.1433 - P.1436

 抄録:ぎっくり腰(急性腰痛症)の病態を検討する目的で3症例に発症後まもない外来初診日に造影MRIをおこなった.MRIは矢状断のT1,T2強調像(T2像は造影前のみ)とL3/4,L4/5,L5/S椎間板高位での横断像について検討した.症例はいずれも体動時の腰仙部の激痛を主症状とし,下肢神経症状は示さなかった.症例1:24歳男性.MRIでL5/S椎間板に右外側ヘルニアが認められ,ヘルニア内部と周囲の硬膜外腔が造影された.症例2:23歳女性.L5/S椎間板の右傍正中部ヘルニアで,内部がわずかに造影された.症例3:34歳男性.造影前はL4/5,L5/S椎間板の変性像であったが,造影後はL5/S椎間板後方正中部に限局性の造影領域が認められ椎間板断裂の所見と思われた.3症例とも筋,椎間関節,棘間靱帯は造影されなかった.以上より今回の3症例におけるぎっくり腰の原因は椎間板後方線維輪の断裂と結論した.

congenital dermal sinusを伴わないepidermoid cystの1例

著者: 岡本秀貴 ,   坪内俊二 ,   日比野仁子 ,   大橋孝司 ,   福岡宗良 ,   相田直隆 ,   荻久保修 ,   松井宣夫

ページ範囲:P.1437 - P.1441

 抄録:epidermoid, dermoid cystの脊柱管内の発生頻度は全脊髄腫瘍中,約0.25%といわれている.われわれは腰仙部に発生しsinusを伴わないepidermoid cystを経験した.症例は10歳女児.主訴は仙骨部痛.背部皮膚に異常はなく,SLRテストで両側のtight hamstringsを呈した.MRIでは腫瘍の全体像は不明瞭であったが,S1レベルで腫瘍内部に直径約5mmの核様の陰影を認めた.脊髄造影ではS1レベルでほぼ完全ブロックを呈した.摘出術を行い病理診断はepidermoid cystであった.sinusを伴わず,腰椎穿刺の既往もないため何らかの発生異常によるものと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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