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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科30巻2号

1995年02月発行

雑誌目次

視座

労災障害等級表の見直しを

著者: 平林洌

ページ範囲:P.113 - P.113

 体の柔軟性は加齢とともに低下してくるといわれるが,成人以後はほとんど変わらないとするX線計測による報告もある.そのためか労災の補償基準となる脊柱の可動域にも年代別の配慮はされていない.上しかし,中・高年者でX線上,椎間が狭小化し,椎体縁に大きな骨棘があれば,可動性を減じない訳はなく,事故後に計測した結果,正常可動域よりも減少しているからといって,減少分をすべて補償の対象とすることは,どうみても科学的とはいえない.
 そもそも脊柱の可動制限とは,高度の強直性脊椎炎ならばいざ知らず,それほど高く補償されねばならないものであろうか.脊椎骨折や固定術後に正常可動域の1/2以下になると6級,1/2程度では8級という重度の障害とみなされる.因みに,6級とは両眼視力で0.1以下,四肢の3大関節中の2つが用廃,8級とは1眼が失明か,0.02以下の視力,3大関節中の1つが用廃であり,それらと同等ということになるからである.

論述

胸腰椎部の新鮮脊椎骨折に対するposterior spinal instrumentationの有用性の検討

著者: 熊野潔 ,   平林茂 ,   内田毅 ,   瀧直也 ,   土田博和 ,   大田快児

ページ範囲:P.115 - P.122

 抄録:17例の胸腰椎部(Tll~L3)の新鮮脊椎損傷に対するposterior spinal instrumentationを,前方法との比較においてその有効性について検討した.症例は平均年齢41歳.L2のDenis type 2破裂骨折が58.8%を占め,35%に神経損傷の合併あり.全例にCDIを用いた.受傷より手術までの期間は17.9日,固定椎体数は平均3.5個,術前CTで50%以上の狭窄を認めた症例10例には椎弓切除.脊柱管内整復術を行った.後弯Cobb角度では42%の矯正率.術後矯正損失は2.7°であった.術後経過観察期間は平均23カ月.Frankelの判定基準で6例中83%に改善を認めた.骨癒合は1例を除いて完成し,1例では再手術を要した.臨床成績は全例優良であったが,就労率は82%であった.1例で術後下肢の愁訴が悪化した.重篤な合併症はなかった.胸腰椎部の破裂骨折に対して,広範な椎弓切除を伴う脊柱管内操作による除圧術とposterior spinal instrumentation法は前方法に劣らず有効な手術法である.

軟部悪性線維性組織球腫の治療成績

著者: 松本誠一 ,   川口智義 ,   真鍋淳 ,   黒田浩司 ,   下地尚 ,   河野博隆

ページ範囲:P.123 - P.128

 抄録:軟部MFH 62例の治療成績について検討した.患肢温存は54例に,切離断は8例に行った.最低経過観察期間は3年11カ月であり,M0N0 50例の5年累積生存率は,79.1%であった.切除縁別の局所再発率はcurative .p.:3.6%,wide p.:23%,marginal p.:71.4%,intralesional p.:100%であり,curative p.にて局所再発を防げることが分かった.wide p.での局所再発例の背景としては,リンパ節転移,静脈内腫瘍塞栓,他施設術後再発などであった.局所再発と遠隔転移の出現時期から,初回手術から4年間再発転移がなければ治癒と見なして良い.追加広切は,初回から広切するのと遠隔成績に差は無かった.CYVADIC療法による補助化学療法は,局所再発防止および予後改善に無効であった.curative p.での局所療法が本症の再発を防ぎ,結果として予後改善に最も貢献すると思われた.

小児上腕骨顆上骨折の治療経験

著者: 笠島俊彦 ,   加藤博之 ,   山元功

ページ範囲:P.129 - P.136

 抄録:Smith C型,D型の小児上腕骨顆上骨折46例に対して行った治療成績を報告した.最終的な肘関節屈曲伸展可動域は良好な成績が得られた.15°以上の内反肘は,6例に認められた.整復時のBaumann角と経過観察時のcarrying angleに明らかな相関があり,内反肘の原因は整復不良によるものと考えられた.徒手整復後ギプス固定群:13例,羽付き骨スジによる牽引群:21例,徒手整復後経皮ピンニング群:12例の3群の治療法別の成績をみると,ギプス固定群と骨スジ牽引群では,整復位の獲得,あるいはその保持が困難な例が多く,各々,46%,57%の症例が,経皮ピンニングあるいは観血的骨接合に治療を変更した.経皮ピンニング群では92%が治療法を変更することなく治癒した.これら3種類の治療方法の中で侵襲が少なく信頼性の高い方法は経皮ピンニング法であったが,本法においても内反肘が13%(2例)に認められた.

手術手技 私のくふう

人工股関節置換術におけるModified Transgluteal Approach(Dall)について

著者: 飯田寛和 ,   笠井隆一 ,   松末吉隆 ,   中山裕一郎 ,   山室隆夫

ページ範囲:P.137 - P.145

 抄録:人工股関節置換術における有用な進入路としてDallのtransgluteal approachについて述べる.本法は大転子前面を骨切りし中殿筋と外側広筋の前半を付着させたまま前方に翻転して関節を展開する.筋腱を横切する必要がなく術野の展開が良好で,他のapproachに生じやすい合併症が少ない優れた進入法である.すなわち,大転子切離による外側侵入路における大転子偽関節の問題,後方進入路における脱臼,他のtransgluteal approachにおける中殿筋縫合不全等の合併症が生じにくい.しかも高位亜脱臼性股関節症や再置換術にも応用でき汎用性が高い.1991年1月以降167関節に本法が行われその有用性が確認された.

シンポジウム 機能的電気刺激(FES)の理論と実際

はじめに

著者: 佐藤光三

ページ範囲:P.146 - P.146

 機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation:FES)は上位運動ニューロン障害者の失われた運動機能を,なお興奮性を維持している末梢神経や筋をコンピュータで制御された,ある目的とする機能を引き出すような電気刺激を与え機能再建するものである.FESは四肢機能のみならず,呼吸,排泄の回復にも早くから試みられている.
 「機能的電気刺激(FES)の基礎と臨床」と題する誌上シンポジウムが,1990年本誌25巻9号でとりあげられた.その後4年を経て,1994年5月,仙台市での第67回日本整形外科学会学術集会において「機能的電気刺激の理論と実際」と題するパネルディスカッションが行われた.このときの6名の方に執筆していただいた.なお,1992年に日本FES研究会が発足し,同時に1st International FES Symposiumも仙台で開かれ,一気に本邦でのFES研究が台頭した.

電気療法の歴史

著者: 川村次郎

ページ範囲:P.147 - P.153

 抄録:古くからある電気療法(治療的電気刺激:TES)と機能的電気刺激(FNS)の歴史について述べた.
 ローマ時代からの古い歴史をもつTESは,機器こそ近年のエレクトロニクス技術に支えられて進歩したけれども,医学的にはその治療原理において依然として民間療法的な発想から脱していない.TESが近代医学の中で合理的・効果的な治療手段としての地位を確保するためには,最新の生物学的知見に基礎をおいた上で,工学的な先進技術の積極的導入を図るべきであろう.
 神経の迂回路をつくるというFNSの原理は,たしかに合理的で魅力的である.しかし心ペースメーカなどと比べて要素が複雑であり,現在の先端科学技術によっても解決が困難な閤題も多い.多チャンネル完全埋め込みのFNSシステムを臨床的に一般に応用できる技術として完成するためには,包括的研究開発を今後さらに息長く続ける必要があるだろう.

FESの最近の進歩

著者: 半田康延

ページ範囲:P.155 - P.162

 抄録:近年のコンピュータ技術の著しい進歩に伴い,脳卒中や脊髄損傷で麻痺した手足へのFESの研究が飛躍的に発展してきている.
 FESには,下肢制御に主に用いられる表面電極方式と,上肢制御に多く使われる埋め込み電極方式とがあるが,究極のものとして完全埋め込み方式のFESの開発が世界的に活発になってきている.
 臨床応用の面では,上肢においては,頚髄損傷の麻痺手の制御が主流であるが,本邦では,中枢性に麻痺した上肢全体を経皮電極式FESで機能再建することができている.

FESによる歩行制御

著者: 島田洋一

ページ範囲:P.163 - P.171

 抄録:対麻痺の起立,歩行再建は使用する電極の種類,装具併用の有無(ハイブリッドFES),筋疲労抑制のためのclosed-loop control対応により大きく分けられ,それぞれの方法を用いて各国で再建が行われている.われわれは,経皮的埋め込み電極を用い,closed-loop control下にハイブリッドFESを行っている.完全対麻痺では,6例全例で起立可能で,そのうち脊髄損傷の4例では最高20mの歩行が可能であった.2例ではclosed-loop control併用により,安定した歩行を獲得できた.不全麻痺に対するTESでは,2例とも実用的な歩行能力を獲得でき,今後広く試みられてよい方法である.

FESによる上肢の運動制御

著者: 亀山順一 ,   半田康延 ,   桜井実

ページ範囲:P.173 - P.181

 抄録:これまで脳卒中や脊髄損傷等の一次ニューロン障害による上肢の運動麻痺に対し,機能的電気刺激(FES)を適用し書字,食事等の日常生活動作の再建がわが国を含め諸外国で広く行われてきている.ここでは主だった諸外国の研究を紹介し,それと対比してわれわれの研究を中心に,脳卒中の麻痺上肢とC4,C5およびC6四肢麻痺の各頚髄損傷レベルに応じた麻痺上肢のFESによる機能再建について述べる.

FESの適応と限界

著者: 市江雅芳

ページ範囲:P.183 - P.192

 抄録:頚髄損傷の麻痺上肢に対する機能的電気刺激(FES)では,C4~C6完全四肢麻痺の,食事・書字・整容動作などの制御が実現している.麻痺レベルが下位になるほど,制御対象部位が少なくなるため,実用性が高くなる.片麻痺の上肢FESでは,補助手レベルの動作再建が可能である.下肢のFESでは,C6完全四肢麻痺のトランスファー補助,C8完全四肢麻痺および完全対麻痺での起立制御が実現している.片麻痺の下肢では,尖足矯正のFESが行われている.脊髄損傷の場合は,前角細胞障害により電気刺激に反応しないdead bandと呼ばれる部位が,FESでの動作再建に大きな影響を及ぼしている.主要な筋が電気刺激に反応しない場合は,腱移行術等とFESとを組み合わせた,総合的な動作再建が必要となる.また,不全麻痺肢の動作改善や完全麻痺肢の機能維持を目的とした治療的電気刺激(TES)も効果をあげており,今後のリハビリテーションの有力な治療法となりうる.

FES機器の将来展望

著者: 星宮望

ページ範囲:P.193 - P.196

 抄録:機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation,FES)は,最近では,極めて活発な研究と臨床応用が行われるようになった.本稿では,FESシステムの工学的な面からの現状を,ポータブルFESシステムと経皮的埋め込み電極を中心に紹介し,次いで,将来の臨床用FESの主流になるであろう体内埋込み型FESシステムの基本設計案について紹介する.

整形外科英語ア・ラ・カルト・30

整形外科に関する興味ある言葉・その7

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.198 - P.199

 前回のショックの続きで,今回も血管や血液循環に関することを述べる.
●vein(ヴェィン)
 血管の中で,静脈は体の表面に存在するために,大昔から知られていた.

基礎知識/知ってるつもり

末梢神経のくびれ

著者: 長野昭

ページ範囲:P.200 - P.201

 【用語の意味】
 特発性前・後骨間神経麻痺でみられるその病態の一つで,神経線維束が図のごとく砂時計様にくびれているものをいう.絞扼物により神経幹が圧迫されくびれを生じたものではなく,神経展開では,外見上神経はほぼ正常で,神経線維束間剥離を行うとはじめて明らかとなる.この神経の砂時計様くびれの報告は,後骨間神経麻痺では,1969年古沢ら1)の記載が最初で,以来数十例報告されている.前骨間神経麻痺ではHaussmann(1981)2)らの報告が最初で,以後中村ら3),星ら4)および柴田ら5)の報告があるのみである.

臨床経験

胸椎椎間板ヘルニアに対する前方除圧固定術

著者: 井戸一博 ,   清水克時 ,   中山裕一郎 ,   山室隆夫 ,   四方實彦

ページ範囲:P.202 - P.204

 抄録:1986(昭和61)年以降,胸椎椎間板ヘルニアに対して当科で施行された前方除圧固定術5例について検討した.全例共に,側臥位で開胸の後,椎体前面に到達し,顕微鏡下に除圧を行い,移植骨には切除した肋骨および腸骨を用いた.T11/12の1例のみZielke instrumentationによる内固定を追加した.術後,症状は改善し,骨癒合は良好であった.開胸に伴う肺合併症はなかったが,肋間神経由来の疼痛が出現した.本法は,前方における十分な除圧と骨移植による脊椎の安定性が得られるため,胸椎椎間板ヘルニアに対する有用な手術法である.

ポリエチレンの摩耗と大腿骨コンポーネントの脱転を生じたPCA型人工膝単顆置換術の1例

著者: 吉野信之 ,   中村紳一郎 ,   渡辺信佳 ,   真鍋卓容 ,   高井信朗 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.205 - P.209

 抄録:PCA型人工膝単顆置換術後1年6カ月に超高分子量ポリエチレン(以下UHMWPEと略す)の著明な摩耗と大腿骨コンポーネントの脱転を生じた1例を経験した.手術手技上の問題点としては下肢アライメントの矯正不足が挙げられた.インプラント自体の問題点としてPCA型胚骨コンポーネントが傾斜を有する解剖学的デザインを採用しておりインプラント間の拘束性が強いこと,耐摩耗性の低い熱処理したUHMWPEを使用していることが考えられた.これらの原因により早期にUHMWPEの摩耗を生じ,摩耗粉による骨融解がインプラントデザインによる過剰なストレスとともに大腿骨コンポーネントの弛みを引き起こしたと考えられた.

胸椎に発生した脊索腫の1例

著者: 久田原郁夫 ,   大和田哲雄 ,   大河内敏行 ,   山本利美雄 ,   小林晏

ページ範囲:P.211 - P.215

 抄録:稀な第11胸椎発生の脊索腫の1例を報告する.症例は60歳,男性で腰痛と両足のしびれで発症した.脊髄腔造影では完全ブロックを示し,CTでは脊柱管周囲より椎体後部,椎弓根にかけて骨破壊像がみられた.診断は画像のみでは不可能で免疫組織化学染色を含めた組織学的検索によった.治療は後方進入により腫瘍病巣内切除,腓骨移植,Roy-Cammille plateによる固定術を施行した.術後,補助療法としてシスプラチン,アドリアマイシンなどの多剤併用による化学療法を施行した.4年後に局所再発による両下肢痙性麻痺を示したため,再手術を行い,術後化学療法を施行したが5カ月後に2回目の再発を起こした.50Gyの放射線療法を施行したが無効で麻痺が進行した.麻痺に対してはステロイドホルモンが有効で腫瘍体積の縮小も得られた.初回手術後5年9カ月後の現在,再発腫瘍が存在しているが遠隔転移はなく生存中である.

手術が必要であった肘滑膜ひだ障害

著者: 室賀陽子 ,   鈴木正孝 ,   佐久間雅之 ,   牧野仁美

ページ範囲:P.217 - P.220

 抄録:肘の滑膜ひだ障害と考えられた,30代の自転車組み立て工の男性と10代のバレーボール部員2人の3例を経験した.1例は両側性であった.2例に肘関節の弾発現象を,1例に可動域制限をみた.関節二重造影にて有用な所見を得た.手術により,関節包の外側部より輪状靱帯に達する滑膜ひだが存在し,一部膝半月板様に肥厚した部分が,肘関節の運動に伴い,腕橈関節内と橈骨頭頚部の間を移動し,これが弾発現象の本態であることを直視下に確認した.病理組織所見は滑膜組織の線維化を伴う肥厚と細血管の増生であり,炎症細胞浸潤や軟骨化はみられなかった.われわれの経験例と諸家の報告例より滑膜ひだ障害の発生機序として,先天的に比較的大きな滑膜ひだが存在し,スポーツや職業などにより頻回の微小外傷や慢性の機械的刺激が加わって,滑膜ひだに慢性炎症,変性,肥厚が起こり,次第にまたは外傷を機転として疼痛や弾発現象を生ずるに至ったと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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