icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科30巻4号

1995年04月発行

雑誌目次

特集 上位頚椎疾患―その病態と治療(第23回日本脊椎外科学会より)

上位頚椎疾患―その病態と治療

著者: 片岡治

ページ範囲:P.342 - P.343

 平成6年6月3,4日に神戸市で開催された第23回日本脊椎外科学会の主題は,「上位頚椎疾患―その病態と治療」といたしました.上位頚椎部は脳外科との境界領域でもあり,病変の見落としも多く,かつその疾患の呈する神経症状は多彩であります.このテーマは過去2回の脊椎外科研究会の主題に取り上げられたものでありますが,2回目の第11回研究会の時点からもすでに12年が経過しており,また,その間の脊椎外科領域の発展は目覚ましいものがありました.とくにCTとMRIの出現はこの領域の画像診断と病態把握に長足の進歩をもたらしたといえましょう.また,電気生理学の応用も特筆すべきものでしょう.さらに,治療面におけるair drillやinstrumentation surgeryの導入も脊椎分野の手術的治療に多大の貢献をなしてきました.そして今まで等閑に付されていたRAの頚椎病変がクローズアップされ,先天性や外傷性の上位頚椎部病変と共に,上位頚椎部の対象疾患として多くの問題を提起するようになりました.これらが,あらためて上位頚椎部疾患を主題に選んだ主な理由であります.
 当初,主題に上位頚椎疾患を選ぶのに,その疾患の普遍性の点でやや躊躇しましたが,蓋を開けると主題演題は108題の多きを数え杞憂は吹き飛びました.脊椎外科領域におけるこの問題の重要さを示唆するものでありましょう.

小児の環軸椎後方固定術が頚椎の成長に及ぼす影響について

著者: 松本守雄 ,   戸山芳昭 ,   鈴木信正 ,   藤村祥一 ,   平林冽 ,   小林慶二 ,   市原眞仁

ページ範囲:P.345 - P.353

 抄録:小児の環軸椎後方固定術が頚椎の成長に及ぼす影響についてX線学的に調査した.対象は本手術を行い,2年以上の経過観察を行った小児12例である.正常小児184例,成人41例を比較対照とした.計測項目はC3からC6までの椎体前後径,脊柱管前後径,椎体高とし,対象群で得られた計測値を,同年齢の比較対照群で得られた計測値で除してratio化した(以下,椎体前後径比;BR,脊柱管前後径比;CR,椎体高比;HR).術前および最終調査時の全症例平均の各ratioの変化は各椎体高位でわずかであった.術後S字型変形を生じた4例ではC3,C4でBRが著明に増大した.環軸椎以外に及ぶ過剰癒合例3例では各高位でBRが減少した.弯曲異常も過剰癒合も生じなかった症例では各ratioの変化は少なかった.すなわち,一般に本手術が小児頚椎の成長に及ぼす影響は少なかったが,弯曲異常例や過剰癒合例では椎体の前後方向への成長が大きな影響を受けた.

ダウン症候群の上位頚椎不安定性―特に後頭環椎,後頭軸椎不安定性について

著者: 宇野耕吉 ,   片岡治 ,   司馬良一 ,   藤井正司 ,   増田真造 ,   高島孝之

ページ範囲:P.355 - P.359

 抄録:ダウン症候群75例の後頭骨を含めた上位頚椎不安定性を,単純X線機能撮影側面像を用いて計測した.後頭環椎不安定性は対照群と比較してダウン症患者に有意に多く認められたが.環軸椎不安定性の有無に関連しては有意差は認められなかった,他方,後頭軸椎不安定性は,環軸椎不安定性の存在する症例においてのみ有意に多く認められた.これらの不安定性発現にはダウン症候群に由来する靱帯の弛緩性が関与すると考えられた.ダウン症候群の上位頚椎を評価する際.環軸椎の不安定性だけでなく後頭骨と環椎および後頭骨と軸椎との不安定性にも注意する必要がある.

RA環軸関節病変のMRI―臨床症状との関連およびGd-DTPAを用いたdynamic MRI,functional MRIを含めて

著者: 豊田耕一郎 ,   河合伸也 ,   小田裕胤 ,   斎鹿稔

ページ範囲:P.361 - P.366

 抄録:RA環軸関節病変のMRI所見と臨床症状,X線所見,炎症反応所見との関係について検討した.MRI矢状断像における歯突起および周囲軟部組織の形態は3型に分類でき,外側型には垂直脱臼例が多かったが,臨床症状における差は認めなかった.MRIでの脊髄圧迫および髄内信号変化は脊髄症状を反映していた.造影剤静注後,短時間に数枚撮像するdynamic MRIは滑膜の経時的変化を観察でき,局所の滑膜の炎症度を反映している.造影後に頚椎を前屈して撮像するfunctional MRIは歯突起後方の滑膜病変の描出に有用であり,適応を選べば動的因子の関与の検索に有用である可能性を示唆した.

Chiari奇形に対する手術例の検討

著者: 伊藤淳二 ,   原田征行 ,   植山和正 ,   佐藤隆弘 ,   三戸明夫 ,   田偉 ,   鈴木重晴

ページ範囲:P.367 - P.371

 抄録:Chiari奇形を合併する脊髄空洞症の手術例30例について検討した.術式は後頭下減圧術のみ3例,シャント術のみ4例,両者併用群が23例であった.術後の症状は21例(70.0%)で改善した.脳神経症状は術前21例(70.0%)に存在し,7例(33.3%)が改善したのみであったが,顔面知覚異常は12例中6例(50.0%)が改善した.両者併用群では23例中17例(73.9%)が改善し,脊髄に不可逆性変化が起こる前に手術することが肝要である.後頭下減圧術では術後のクモ膜炎を起こさないことが重要であり,骨性除圧ないし硬膜処置にとどめる.シャント術は本症には侵襲の少ない空洞-クモ膜下腔シャント術(syringo-subarachnoid shunt)が空洞縮小に有用であるが,シャント不全の可能性があり,原因治療とされる後頭下減圧術の併用が望ましい.

Os odontoideumにおける環軸椎不安定性と脊髄症の発現―特に矢状面回旋不安定性の関連について

著者: 渡辺雅彦 ,   戸山芳昭 ,   藤村祥一

ページ範囲:P.373 - P.379

 抄録:os odontoideum 34例をX線学的に分析し,環軸関節不安定性(特に矢状面回旋不安定性)と脊髄症発現との関連について検討した.単純X線前後屈側面像から,最小脊柱管前後径,矢状面回旋度,Instability Index(1.1.)を求めた.Rawlandの分類に従い4群に分けて検討すると,局所症状のみのgroup 1に比較し,group 2では不安定性に,group 3ではそれに加え最小脊柱管前後径と年齢に有意差が認められた.不安定性因子である矢状面回旋度と1.1.との相関は低く,不安定性の評価には両者が必要と思われた.今回の結果では,矢状面回旋度20゜以上では14例中12例(86%)に,1.1.40%以上では20例中18例(90%)に脊髄症の発現をみており,これらの不安定性を認める症例には固定術の適応がある.

Os odontoideumによる環軸関節脱臼

著者: 石井祐信 ,   田中靖久 ,   佐藤純 ,   山崎伸 ,   両角直樹 ,   本田雅人 ,   上原昌義 ,   国分正一

ページ範囲:P.381 - P.386

 抄録:os odontoideumによる環軸関節脱臼手術例20例を整復群(7例)と非整復群(13例)に分け,臨床像,X線像,手術成績の相違について検討した.ダウン症候群が5例あり,いずれも小児例で非整復群であった.軽微な外傷の既往が8例にあった.手術の理由は脊髄症12例,一過性四肢麻痺3例,疼痛3例,手のしびれ,脊髄不全損傷各1例であった.非整復性脱臼例で有意にSACが小さく,C1-C2角が小さかった.断層X線像で環軸関節の前方の骨棘とinterlockingが整復障害因子と考えられた.整復性脱臼例と非整復性脱臼であってもSACが14mm以上ある例はMagerl法+Brooks法によるC1-C2固定,他の非整復性脱臼例は後方除圧と,O-C固定のNewman法で安定した成績が得られた.手術合併症は,Brooks法でC2椎弓の骨折と整復の戻りによる脊髄不全麻痺が1例,Newman法で術後硬膜外血腫が1例に生じた.脊髄症状がある症例,脊髄症状の既往を有する脱臼例は手術適応がある.

幼小児期環軸椎後方固定術の頚椎成長に及ぼす影響―正常成長との比較

著者: 笠井時雄 ,   井形高明 ,   森田哲生 ,   加藤真介 ,   三宅亮次 ,   橘敬三 ,   高橋光彦

ページ範囲:P.387 - P.394

 抄録:幼小児期に環軸椎後方固定術を施行し,術後10年以上経過観察し得た陳旧性歯突起骨折(Anderson type II)の男児3症例(平均6.4歳)について,頚椎alignment,可動性,脊椎成長,隣接椎間への影響などについて検討を加えた.手術方法は,成長への影響を考慮し,鋼線による締結を行わず自家移植骨によるbony pillowとbony pinおよび縫合糸にて固定する後方固定法にて施行した.術後平均12年の現在,固定椎体の長軸方向への成長が軽度抑制されたものの,移植骨にみられた同程度の延びにより弯曲異常は生じなかった.回旋運動は後頭環椎関節および中下位頚椎において代償され,可動域制限は認めなかった.5歳以上の小児における後方固定術に際しては,解剖学的整復位での術後成長を考慮した固定を行えば,脊椎成長に及ぼす影響は少ないと考えた.

環軸関節不安定症に伴う歯突起後方腫瘤の病態と治療

著者: 吉田宗人 ,   玉置哲也 ,   川上守 ,   夏見和完 ,   南出晃人 ,   橋爪洋

ページ範囲:P.395 - P.402

 抄録:頭頚移行部における脊髄症の一原因として,原因不明の環軸関節不安定症に伴う歯突起後方腫瘤を経験し,この病態と治療法について検討した.症例は男4例,女1例で平均年齢65.6歳であった.腫瘤はMRIでは硬膜外より脊髄を著明に圧迫しており,T1-強調像で脊髄と等輝度,T2-強調像では低輝度を示し,Gdでは特に増強されなかった.CT scanでは2例に石灰化を認めた.治療方法としては全例腫瘤の摘出は行わず,C1の椎弓切除に加えて後頭骨頚椎後方固定術が施行された.手術成績はJOA scoreで評価すると術前7.8点が術後12.5点であった.3例の試験切除による病理組織学的所見では炎症細胞は全く認められず,軟骨様細胞胞体内はS-100蛋白に,また基質はII型コラーゲンに陽性であり線維性軟骨組織であった.従ってこの腫瘤は不安定性に伴う環椎横靱帯の反応性肥厚と考えられ,MRIによる観察で後方固定により経時的に減少することが示された.

環軸関節不安定症非手術例の自然経過

著者: 金本昌邦 ,   福田眞輔 ,   勝浦章知 ,   今井晋二 ,   今中徹

ページ範囲:P.403 - P.409

 抄録:環軸関節不安定症の非手術例5例と手術施行例7例を対象として有効脊柱管前後径,不安定性,脊髄症状および非手術例5例の自然経過を調査し,retrospectiveな観点から脊髄症状発現の危険因子,手術適応について検討した.
 最小有効脊柱管前後径(the space available for the spinal cord,SAC)13mm以下,instability index(1.1.)23%以上が脊髄症状発現の目安と考えられた.しかし,手術適応については,SAC 13mm以下.1.1.23%以上でも脊髄症状のない例や消失した例があり,臨床症状,X線所見,軟部組織の評価など,十分な検討が必要であると考えられた.
 Down症候群に伴う環軸関節不安定症においては,年長児で,SAC 10mm以下の不安定性の強い症例は,軽微な外傷でも脊髄症状が発現する可能性が高いと考えられた.

ダウン症候群患児にみられる環軸椎不安定性の検討

著者: 三名木泰彦 ,   竹林庸雄 ,   横沢均 ,   山下敏彦 ,   横串算敏 ,   鴇田文男

ページ範囲:P.411 - P.416

 抄録:ダウン症候群患児に環軸椎不安定性が高頻度に合併することはよく知られている.環軸椎不安定性の要因について,臨床的,X線学的に検討を行った.ダウン症患児65例(男児42例,女児23例,年齢は1~16歳,平均4歳8カ月)を対象としてX線撮影を行い,頚椎側面動態像,開口位での上位頚椎前後像,必要に応じて断層像を得た.これらより①環椎歯突起間距離〔Atlanto-Odontoid Interval(以下AOI)〕,②軸椎歯突起形態異常の有無を検索した.頚椎屈曲位でAOI値4.5mm以上を環軸椎不安定性ありとした.また麻痺の有無と関節弛緩性を調べた.65例中15例(23.1%)に環軸椎不安定性を認めた.歯突起形態異常のある群のAOI値は,ない群のAOI値に比べ有意に大きかった.関節弛緩性は調査例中50%と高頻度に認められたが.AOI値と相関はなかった.軸椎歯突起形態異常は,環軸椎不安定性に強く関与していると思われた.

ダウン症候群児の環軸椎脱臼と麻痺の発生

著者: 内山政二 ,   石川誠一 ,   佐藤慎二 ,   本間隆夫 ,   高橋栄明 ,   新田初美

ページ範囲:P.417 - P.420

 抄録:ダウン症候群では環軸椎脱臼が高頻度でみられるが,実際に麻痺を生じる例は少ない.本症児の頚椎X線所見から麻痺発生の危険性の高い例を選別可能か否か検討した.環軸椎脱臼は116例中25例(21.6%)にみられた.脱臼25例のうち麻痺を生じたものは2例のみであった.ADIは麻痺例では7mmおよび8mmであり,非麻痺23例では4~7mmであった.環椎最小脊柱管前後径(SAC)は麻痺例では5mmおよび7mmと著しく狭く,非麻痺例では10~15mmであった.したがってSACに注目すれば.単純X線写真といえども麻痺発生の危険性の高い例の選別に有用である.本症では靱帯弛緩により高頻度に環軸椎脱臼が起こるが,それが麻痺に直結するものではない.麻痺の発生には靱帯弛緩に加えて,環椎脊柱管のdevelopmental stenosisや歯突起形成異常など環軸椎部全体の形成不全が関与していると思われた.

脊髄灰白質に発生するシナプス性電場電位に対する脊髄後方圧迫の影響―白質を経由する活動電位との比較

著者: 池上仁志 ,   今給黎篤弘 ,   三浦幸雄 ,   内野善生

ページ範囲:P.421 - P.429

 抄録:末梢神経刺激時,脊髄前角細胞に発生するシナプス電位に起因する電場電位を指標に,灰白質の活動および脊髄圧迫時の灰白質の障害状況を検討した.
 麻酔下または除悩した成猫を用い,第2頚髄後方より圧迫を加え,圧迫直下の脊髄灰白質の電場電位の変化を経時的に計測した.また細胞内記録を用い,指標とした電場電位の構成成分を検討した.その結果.脊髄圧迫に対し灰白質に起因する電場電位の振幅は,白質を経由する活動電位より早く減少することを見出した.さらに単シナプス性結合による電場電位の振幅の減少より,多シナプス性結合により発生する電場電位の振幅の減少が,早く鋭敏に減少することを見出した.今後臨床における脊髄圧迫症の病態生理の解明,脊髄灰白質機能モニタリングの一助になると思われるので報告する.

経皮的椎間板髄核再挿入に関する基礎的実験

著者: 西村和博 ,   持田譲治

ページ範囲:P.431 - P.437

 抄録:種々の原因で起こる椎間板変性変化の進行が髄核の挿入により抑制されるかをラットの尾椎椎間板を用いて実験を行った。椎間板ヘルニアを作成し,髄核摘出後の椎間板へ新鮮髄核および凍結保存髄核を再挿入し,以後長軸方向の持続負荷をかけた.その結果,新鮮髄核および凍結保存髄核再挿入群のいずれにおいても髄核再挿入群は非髄核再挿入群に比べ椎間板高の狭小化が小さく,また線維輪の走行異常,終板での染色性の低下,残存髄核での細胞成分,基質成分の減少が抑制されていた.以上より新鮮髄核再挿入により椎間板変性変化の促進抑制が可能であることが示唆され,また凍結保存髄核でも同様な効果がみられ,より一層臨床応用が可能と思われた.

悪性腫瘍転移胸・腰椎における病的椎体圧潰の危険因子

著者: 種市洋 ,   金田清志 ,   武田直樹 ,   鐙邦芳 ,   佐藤栄修

ページ範囲:P.439 - P.447

 抄録:脊椎癌転移に続発する椎体圧潰は不安定性による疼痛,腫瘍や圧潰椎体組織の脊柱管内陥入による神経障害を引き起こし,末期癌患者のQOLを著しく低下させる.椎体圧潰の予防は放射線療法や脊柱再建術により達成されるが,適切な治療時期や治療法選択には椎体圧潰の切迫期を決定することが重要である.本研究では悪性腫瘍転移胸・腰椎における病的椎体圧潰の危険因子を分析し,切迫椎体圧潰の時期を予測した.胸椎では①肋椎関節破壊と,②椎体における転移巣の大きさが重要な危険因子であり,切迫椎体圧潰は①腫瘍占拠率:50~60%,または,②占拠率:25~30%で肋椎関節破壊を伴うものであった.一方,胸腰椎・腰椎では,危険因子は①転移巣の大きさと,②椎弓根破壊で,切迫圧潰は①腫瘍占拠率:35~40%,②占拠率:20~25%で椎弓根など破壊を伴う場合であった.切迫椎体圧潰という概念の導入は転移性脊椎腫瘍の治療法決定に重要な意味をもち,患者の高いQOLの獲得・維持に有用と考えられた.

脊椎悪性腫瘍に対する脊椎全摘術(Total en bloc Spondylectomy)―病巣高位と手術法(血管剥離について)

著者: 川原範夫 ,   富田勝郎 ,   鳥畠康充 ,   滝野哲也 ,   池淵公博 ,   松井貴至 ,   藤田拓也 ,   水野勝則 ,   田中重徳

ページ範囲:P.449 - P.455

 抄録:脊椎全摘術を後方単一アプローチで行う場合,椎体周囲の正確な解剖学的知識が必要となる.今回,解剖実習死体21体を用い,椎体周囲の血管系についての解剖学的観察を行うとともに,17例の脊椎全摘術の手術所見を検討した.実習死体の観察では,大動脈弓は,ほぼ第3胸椎(T3)高位に存在していた.下行性大動脈はT5椎体前面から椎体に近接し,椎体の左方を下行しL4高位で左右総腸骨動脈に分れていた.上位胸椎の分節動脈はT4高位以下の大動脈から分岐し,椎体の左右を上行するため,上位胸椎の椎体前面には存在しなかった.下大静脈は第3,4腰椎(L3,4)高位で椎体右側前方に近接していたが,L2高位で横隔膜右脚の前方に位置し,それ以上では前方に移行し椎体と離されていた.奇静脈は上大静脈に流入するため,T4,5を最後に椎体を離れていた.横隔膜脚はL2/3椎間板高位に起こっていたものが多かったが,その場合L2分節動脈は横隔膜脚と椎体との間に存在していた.
 手術所見では,上位胸椎,中下位胸椎の椎体周囲の血管剥離は容易であった.腰椎では腰筋の剥離が必要であり,上位腰椎の場合は,横隔膜の慎重な剥離,分節動脈の処理が必要であった.また第4腰椎切除の際には,術野が深いため,用手剥離操作が困難であり,細心の注意を払いながら,脊椎用スパチュラによる血管剥離を行った.以上,第1胸椎から第4腰椎まで後方単一アプローチによる脊椎全摘術が可能であった.

保存療法による成長期脊椎分離症分離部骨癒合の成績

著者: 吉田徹 ,   山根知哉

ページ範囲:P.457 - P.463

 抄録:MRIは成長期脊椎分離症の診断に画期的な進歩をもたらした.すなわちX線像では勿論,CT像でも診断困難な脊椎分離の始まりをMRIは補捉することが可能である.1991年以来,MRIによる診断を用い,成長期脊椎分離症の保存療法を行ってきた.18歳以下の例で椎弓根部にMRI T1強調像で低輝度変化を認めた成長期脊椎分離例では,脊椎装具などの保存療法で80%以上の分離部の骨癒合が得られた.このMRI T1強調像での分離部の低輝度変化は保存療法による分離部骨癒合を保証するものであった.

頭蓋頚椎移行部疾患に対する手術術式の選択

著者: 永田裕人 ,   小野村敏信 ,   石橋伊三郎 ,   谷田泰孝

ページ範囲:P.465 - P.471

 抄録:環軸椎脱臼を中心とした頭蓋頚椎移行部を含めた上位頚椎の病変に対して,当科において1979年4月から1994年1月までの約15年間に施行してきた手術法を紹介し,それらの手術成績について報告し,手術術式を検討した.
 手術術式については,神経症状を考慮したうえで,X線画像所見上,basilar impressionのある環軸椎のvertical subluxation例,頭蓋頚椎移行部奇形や環椎後弓形成不全を合併する例などにおいては,後頭骨から上位頚椎に至る後頭骨頚椎間固定術が主に選択される.その際,四肢の神経症状の改善を目的として,環椎の後弓切除や大後頭孔拡大による除圧術を加えることを必要とする症例がある.一方,basilar impressionやvertical subluxationを認めない環軸椎脱臼に対しては,環軸椎間固定により満足な結果が得られ,必ずしも予防的な後頭骨頚椎間固定を要するとは思われなかった.

環軸椎後方wiring固定術の固定力に関する臨床的検討―90例の術後成績からみた本法の適応と限界

著者: 戸山芳昭 ,   西脇祐司 ,   鈴木信正 ,   藤村祥一 ,   平林洌

ページ範囲:P.473 - P.481

 抄録:環軸関節亜脱臼や不安定症に対して環軸椎間後方wiring固定術を施行した90例を歯突起の病態から2群に分け,骨癒合率・整復状態・整復位損失の有無・骨癒合状態(整復位ないし亜脱臼位)についてX線的検討を行い,本法の固定力に関する問題点を臨床面から明らかにした.対象A群は歯突起に支持性のある56例,B群は歯突起が消失ないし分離,骨折している34例で,手術法にはMcGraw法68例,Brooks法22例を施行した.骨癒合率は88%と臨床的には比較的良好な結果を得たものの,2mm以上の整復位損失を22%に認めた.歯突起に支持性のあるA群で整復位に固定出来ればwiring固定法でも問題は少ないが,整復不十分な亜脱臼位固定例では矯正損失や偽関節の発生率が高く,外固定を厳重に行う必要がある.歯突起に支持性のないB群にはwiring固定法,特にMcGraw法の適応はなく,Magerl法などより強固な固定力を有する手術法を選択すべきである.

上位頚椎疾患に対する前方進入法の適応と術式選択

著者: 斉鹿稔 ,   河合伸也 ,   淵上泰敬 ,   深堀勝之 ,   豊田耕一郎 ,   加藤圭彦

ページ範囲:P.483 - P.489

 抄録:手術的治療を行った上位頚椎疾患85例のうち前方進入法を行った12例(男性10例,女性2例,年齢14~68歳)について有用性と問題点を検討した.疾患は,歯突起骨折4例,外傷性環軸関節転位2例,歯突起形成不全2例,転移性脊椎腫瘍2例,歯突起偽関節1例,リウマチ性環軸関節転位1例である.術式は,経口的前方進入法が6例であり,2例では下顎骨骨切り術を併用した.また,歯突起形成不全の2例では,前方進入法に先立って後方固定術を併用した.残り6例には咽頭外進入法(DeAndrade法5例,Whitesides法1例)を行った.前方進入法の欠点は,後方進入法に比較して2~4倍の手術時間を要した点である.また,経口的進入法では術後管理(口腔内洗浄,栄養補給および経口摂取,顎間固定,患者の苦痛)が,咽頭外進入法では複雑な解剖,除圧術や両側環軸関節の展開が困難である点があげられる.上位頚椎への前方進入法は,後方除圧術で対応できない症例に対して有用な術式であり,進入路と展開の面から経口的進入法が望ましく,抗生物質が発達した現在では術後感染の危険性は少ない.手技が煩雑である欠点に対しては,口腔外科医の協力を得れば解決でき,手術時間も短縮できる.広い術野が必要な場合には,下顎骨骨切り術の併用が有用である.

環軸関節不安定症の手術成績

著者: 鷲見正敏 ,   片岡治 ,   池田正則 ,   澤村悟 ,   宇野耕吉 ,   司馬良一

ページ範囲:P.491 - P.497

 抄録:環軸関節不安定症の原因となるRA・CP・腫瘍は,全身性因子による影響を受けやすい.今回の調査では,これらの症例は除いた47例を対象として.環軸関節不安定症に対してのみの手術成績について検討を行った.後頭部・頚部痛は95%で消失し,脊髄症は旧日整会点数平均11.1点が13.0点へと改善していた(改善率41.1%).偽関節は21%にみられたが,Brooks法とSSI法での発生率は低かった.先天性・外傷性横靱帯弛緩あるいは断裂の靱帯性不安定性例が,歯突起骨・歯突起骨折後偽関節の骨性不安定性例より良好な結果を呈した.脊髄症では10点未満の重症例が成績不良であった.術後骨癒合が完成するまでに脱臼が進行して,脱臼位で固定された症例の成績は不良だった.術後の整復位保持が重要で,術前に整復位がえられる場合にはBrooks法を,整復困難例には環椎後弓切除術を併用したSSI法による後頭頚椎固定術を選択してalignmentの維持を計るべきである.

頚椎片開き式椎弓形成術の問題点―術後神経根麻痺に対するわれわれの工夫

著者: 馬場逸志 ,   住田忠幸 ,   石田了久 ,   真鍋英喜 ,   山本健之 ,   河越宏之 ,   宮内晃 ,   伊東祥介 ,   佐々木浩文

ページ範囲:P.499 - P.505

 抄録:片開きによる頚椎椎弓形成術はオープン側が左右いずれからでも侵入出来る利点を持っている.しかし,オープン側に生ずる術後のC5神経根麻痺が未解決の問題点として挙げられている.当科では頚椎症性脊髄症,後縦靱帯骨化症に対し手術用顕微鏡下に患側より片開き椎弓形成術を施行してきた.術後C5神経根麻痺を生じたのは281例中3例(1.07%)である.顕微鏡下の神経根嚢部所見から術後C5根麻痺の病態は,従来から指摘されている骨性の圧迫,tethering等に加えて軟部組織の関与が示唆された.麻痺の発生は軟部組織を含めた顕微鏡下の除圧に配慮することで,その頻度を減少出来ると推定している.本論文の目的は片開き椎弓形成術時のオープン側の手術用顕微鏡下の“神経根嚢所見”から,術後C5神経根麻痺の病態と危険因子を検討し,その対策について報告する.

後方支持要素を最大限に温存した棘突起縦割式脊柱管拡大術の成績と問題点

著者: 久野木順一 ,   真光雄一郎 ,   蓮江光男

ページ範囲:P.507 - P.512

 抄録:頚椎構築や頚椎運動機能を考慮し,黒川式棘突起縦割法脊柱管拡大術において,後方支持組織を可及的に維持するため.棘突起・靱帯・頚部背筋群コンプレックス温存をはかった術式を行った.手術成績では,JOAスコアで術前平均9.8±3.1が術後平均14.1±2.0となり平均改善率は58.0%であった.中間位での頚椎前弯度は,術前平均19.0°±11.8°(-4°~43°)が,術後平均22.8°±13.1°(-5°~52°)とわずかに増大していた.
 本術式により頚椎前弯度を維持することが可能であった.さらに項筋群の再建時における頚椎伸展の程度を調節することにより,症例によっては術前より前弯を増大させることを含め,ある程度の頚椎アラインメントのコントロールも可能と思われた.一方,左右の背筋群にアンバランスを生じた例も存在し,頚部背筋群の再建時に適切な筋の緊張を保ち,かつ原位置での再建が必要と考えられた.

胸椎後縦靱帯骨化症の手術成績と術式選択

著者: 黒佐義郎 ,   山浦伊裟吉 ,   中井修 ,   吉田裕俊 ,   進藤重雄 ,   四宮謙一 ,   松岡正

ページ範囲:P.513 - P.520

 抄録:胸椎後縦靱帯骨化症の25手術例と経過観察86例の検討に基づき,臨床上重視すべき骨化群の形態を,①変曲点骨化群,②頂椎上部骨化群,③頂椎部複合骨化群の3群に整理した.頚胸移行部の変曲点骨化群に対しては後方除圧,前方除圧ともに適応し得る.責任椎間が頂椎から2椎頭側まで,概ね第4胸椎以下にある頂椎上部骨化群は,後弯の程度に関わらず前方から除圧すべきである.頂椎部後縦靱帯骨化の尾側に黄色靱帯骨化が併存する頂椎部複合骨化群では,除圧範囲により大塚法または前方除圧を選択する.なお,第2胸椎から第4胸椎まで連続する骨化の前方からの切除は至難であるが,骨化の進展様式からみてこのような骨化形態は稀である.全身状態による制約を受けずに適切な手術法を選択できれば,胸椎後縦靱帯骨化症においても平均改善率60%程度の手術成績は獲得可能である.この観点からも前方除圧術の侵襲を軽減し,安全性を確立する努力が必要である.

頭部の慣性荷重による頚部運動の連続X線写真による分析

著者: 松下智康 ,   佐藤武 ,   平林洌 ,   藤村祥一 ,   朝妻孝仁 ,   小柳貴裕 ,   高取健彦

ページ範囲:P.521 - P.527

 抄録:本稿では,低速衝突時に頭部の慣性荷重により頭頚部が受ける動的負荷のプロセスについて明らかにする.健常な成人26人を対象に,被験者を台車上シートに着座させ,振り子式の落錘を用いた加速衝撃による被験者の頭頚部の動的応答をX線シネで撮影し,フィルム解析を行った.その結果.低速度での被追突において,ヘッドレストレイントが装備されている限り,頚椎柱の運動は生理的可動範囲内にとどまる.通常の着座姿勢でも背中上部がシートバックから離れている円背または前かがみ姿勢の場合,頭頚部の後屈だけが起きるのではなく,後屈に先行して頚椎柱が直線化され前屈が生じる.同時に脊柱の突き上げにより頚椎に圧縮が作用し,頚椎長の短縮が生じる場合がある.他方,前面衝突においてシートベルト無しとシートベルト着用の場合とでは,頭頚部の動的応答は大きく異なる.シートベルト無しの状態では,頚椎柱の形状はほとんど変化しないが,シートベルト着用の場合,シートベルトにより胸部が拘束され,translationを主とする頚椎の前屈が生じる.

特別企画 頚部脊柱管拡大術―そのポイント

緒言

著者: 小野村敏信

ページ範囲:P.528 - P.529

 頚椎症性脊髄症に対する後方からの除圧には椎弓切除術が唯一の術式として久しく用いられてきたが,1968年に桐田は頚椎の広汎同時椎弓切除術を開発した.また,1971年に服部により創案された椎弓基部を温存して脊髄除圧後に脊柱管を拡大位に形成する術式は,現在laminoplastyと総称される頚部脊柱管拡大術の出発点となった.除圧を必要とする脊髄を術中術後を通じてより愛護的,生理的な環境に保つ意図のもとに創意開発されたこれらの術式は多くの脊椎外科医の共感をよび,手術法に次々と工夫が加えられ,わが国の生んだ優れた術式として世に紹介された.

広汎同時除圧椎弓切除術および後側方固定術(宮﨑法)

著者: 宮﨑和躬 ,   広藤栄一 ,   小野﨑晃 ,   大庭真央 ,   水野泰行 ,   長谷隆生

ページ範囲:P.531 - P.536

はじめに
 広汎同時除圧椎弓切除術は,1968年1月26日,桐田1)が脊椎外科分野にair drillを導入して39歳男子の頚椎後縦靱帯骨化症(以下頚椎OPLL)の重症例に,1椎弓ずつ観音開きによる椎弓切除を行った際に,椎弓切除終了部の硬膜管が膨隆し,それが椎弓切除予定の隣接椎弓縁にて絞扼されて症状が増悪したことから考案されたものである(図1,2,3).この術式の開発によって脊椎後方法手術の発展に長足の進歩を見た.
 桐田法が開発されてから10年経過した1978年,第51回日本整形外科学会総会にて桐田法を行った頚髄症性脊髄症(以下CSM)の術後1年以上経過した74例と頚椎OPLLの同様の症例129例の術後成績を比較検討した(表1).桐田自身が同じ術式で手術を行っているにもかかわらず,また,CSMの方が頚椎OPLLより手術操作が容易であるにもかかわらず,前者は有効以上75.7%,後者で86.8%と両者の良好な成績の差が10%以上となった,さらにCSMにおいて,頚椎の機能撮影にて術前,術後の頚椎の不安定性が検索出来た56例のうち術後の不安定性増強例は9例16%あり,これらのうちの3例が成績悪化例であった.これら3例はCSM 74例中悪化例6例のうちの50%に当る.

頚椎椎弓形成術(服部法)の術後長期成績

著者: 河合伸也 ,   斉鹿稔 ,   中村克己 ,   淵上泰敬 ,   金子和生 ,   椎木栄一

ページ範囲:P.537 - P.542

はじめに
 各種の頚髄症に対して後方除圧が適応である症例に対して,かっては頚椎椎弓切除術が用いられてきたが,1971年服部名誉教授は頚髄の後方除圧に加えて,後方支持組織の再建を行う術式を考案された.1973年に骨形成的脊柱管拡大術としてその術後成績を報告され,後に頚部脊柱管拡大術と命名されている.これを契機にいろいろな方法で椎弓を温存する術式が開発・実施され,近年は頚椎椎弓形成術と総称されている.現在では頚椎椎弓形成術は広く普及し,いずれの術式も安定した術後成績が獲得できている.
 私共の教室では頚髄の後方除圧には椎弓形成術(服部法)と椎弓切除術を症例によって選択して使い分けている.椎弓形成術(服部法)は頚椎症性脊髄症や頚椎後縦靱帯骨化症のみならず,さらに頚髄不全損傷や頚髄腫瘍の一部をも含んで対象としており,そのうち概してあまり高齢でなく,頚椎の可動性が比較的温存されており,術後長期に頚椎の支持性の温存を図る症例を適応としている.

片開き式脊柱管拡大術―その現状と展望

著者: 平林洌

ページ範囲:P.543 - P.548

▶いとぐち
 筆者の片開き式脊柱管拡大術は,1977年にそれまでen-blocに切除していた椎弓を切除する直前の時点で,すでに硬膜管に拍動が生じていることに気づいたことに始まった1,2).以後,筆者は現在までにほぼ300例の自験を重ね,そのつど,合併症4,5)を含めそれらの成績を発表してきたが3,6,15),この間,幸いに多くの人の賛同が得られ,多くの改良術式と共に,わが国はもとより国際的にも本術式が評価されつつあることは衆知の通りである7,8)(図1).
 本稿では,最新の術式および現時点までの長期成績9~11,13)と本術式のもつ問題点を中心に述べる.

頚部脊柱管拡大術―En-bloc laminoplastyの理念と最近の工夫

著者: 伊藤達雄 ,   加藤義治 ,   米澤孝信

ページ範囲:P.549 - P.557

はじめに
 en-bloc laminoplastyの理念は①桐田による脊髄の広範同時除圧4)と,②脊髄後方に椎弓群を残し,脊髄の保護および脊柱管を含む脊柱の再建を企てるものである.まず辻によるen-bloc laminectomyが開発され5),①が効率よく実現された.すなわちエアードリルの導入と共にC3~C7椎弓を両側性に切離し,尾側より一塊として切除するものである.これにより椎弓を薄くすることなく,最小の手技にて安全に椎弓群をen-blocに切離する技術が確立された.この手技の途上にて切離された,椎弓群は硬膜管の圧力にて浮上することを知り,椎弓群を一側では完全切離,他側ではflexibleとなるまでにとどめる初期のen-bloc laminoplastyが完成した.脊柱管は一般に拡大されるが,脳性麻痺例にて浮上椎弓が沈み込んだ結果,脊柱管は狭窄化を生じ,脊髄除圧に支障を来した例を経験した.その後椎弓群を任意の脊柱管拡大位に維持するため,切離・浮上した椎弓と関節突起部に骨片を挿入する現在のen-bloc laminoplastyに至った1,2)

Threadwire Sawの脊柱管拡大術への応用とSlide-Opening Arch Laminoplasty

著者: 富田勝郎 ,   川原範夫

ページ範囲:P.559 - P.565

はじめに
 頚部脊柱管狭窄症の手術方法に関して,これまでに桐田式の広範同時除圧椎弓切除術を皮切りとして,骨形成的椎管拡大術2,5)(服部法),棘突起縦割法脊柱管拡大術(黒川法)7),片開き式脊柱管拡大術(平林法)3),en bloc laminoplasty(辻,伊藤法)4,6)などいろいろな方法が開発されてきた.いずれの術式も苦心のうえ編みだされた味のある術式であり,各々の術式に習熟すれば安定した良好な成績を得ることができる.自分自身の経験からしても,手術成績はいずれの方法であっても甲乙付けがたく,今後の課題としては,手術手技の部分的な改良,および長期成績にあると思われた.特に椎弓切離操作はどの手術術式にも共通した危険をはらんだものであり,ある程度の熟練と細心の注意を必要とする手技である.
 われわれはこの点に関して,脊椎全摘術(total en bloc spondylectomy)の手術手技の一環として開発したthreadwire sawの応用を試み,それが手術手技的容易さ,安全性,時間の短縮などの点からみてどの術式にも役立つことがわかったので,まずその一端を紹介する.次いでわれわれが追求している新しい椎弓拡大形成術を将来に向けた一つの考え方として紹介する.

その後の棘突起縦割法脊柱管拡大術

著者: 黒川高秀 ,   中村耕三 ,   星野雄一

ページ範囲:P.566 - P.571

はじめに
 この術式は,椎間の可動性が脊柱の生理的な構造および機能を維持するために重要な要素であるという考えに立ち,椎間の運動を温存しつつ脊柱管腔を拡大することを目的として始めたものである.当初は,神経根障害の対策として,後方からの椎間関節部分切除や,一部の椎間の意図的な固定もありうることと考えていた.また,後縦靱帯骨化が椎弓切除後に増大する傾向があることが知られていたので,三椎間以上にわたって椎間を固定して骨化の増大を防止しようとした.椎間板変性とこれに伴ういわゆる不安定性や後弯傾向への対策としても,椎間を固定すべき場合があると考えていた.
 術式としては,縦割した棘突起にはめ込む移植骨片の頭尾方向の長さを選ぶことによって,椎弓を容易に連結することができる(図1).椎間を固定しても,しなくても,手術の手間にはほとんど変りがないので,椎間固定が必要かどうかを純粋に考えて判断すればよかった.このことは,除圧と椎間固定とを必ず同時に行わなければならない前方除圧法に勝る点と考えていた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら