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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科30巻5号

1995年05月発行

雑誌目次

視座

教え厳しからざるは師の怠り也

著者: 国分正一

ページ範囲:P.573 - P.573

 東北大学の病理学実習室に戦前から表記の額が掲げられている.学生時代にその由来を聞いていたが,幸いに整形外科医となってから接した教授,先輩から優しくして頂けたので,教えに「厳しさ」を実感することがなかった.それが,教室の若い先生方を指導する側に回ってから,この箴言の意味の重さを考えるようになった.
 学生の教育はさておいて,医師となった者の指導には,診察,手術,クリニカル・コンファランス,研究指導,論文指導の五つが最良の機会と考えている.新分野を求めて彼の地に留学に出すことの大事さは言うまでもない.だが,如何せんその恩恵に浴せる者の数に限りがある.また,大学以外で実現が難しい.五つの中では論理的思考力を高める意味で,コンファランスと論文指導の意義を強調したい.

論述

半月板縫合術の臨床成績と癒合率に影響を与える因子の検討

著者: 朝比奈信太郎 ,   宗田大 ,   石橋俊郎 ,   山本晴康 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.575 - P.579

 抄録:半月板縫合術の臨床成績と癒合率,および癒合率に影響を与える因子を知ることを目的とした.術後1年以上の経過観察例101例について,日本整形外科学会半月板治療判定基準による評価を行った.このうち70例については術後平均17カ月で再鏡視により癒合判定を行い,性差,年齢,断裂部位,術前の嵌頓の既往歴,術後の膝関節動揺性の各項目について癒合率に与える影響を統計学的に検討した.前十字靱帯再建併用群,放置群,半月板単独損傷群いづれの群も日整会スコアの成績は良好であった.再鏡視による癒合判定では癒合47例,不全癒合8例,非癒合15例で癒合例は癒合不良例に比して有意に日整会スコアは良好であった.癒合率不良の因子は辺縁1/3より内縁での断裂例,嵌頓の既往のある半月板であった.成績向上のためには断裂部位と断裂縁の正確な評価が必須であり,それには術前の補助診断と術中の十分な観察が重要と思われた.

腰仙部退行性疾患に対する交感神経節ブロック―実験的・臨床的研究

著者: 矢吹省司 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.581 - P.587

 抄録:腰仙部退行性疾患に対する交感神経節ブロック(SB)の効果を,実験的・臨床的に検討した.実験的研究:雑種成犬10頭を用いて急性神経根圧迫モデルを作成し,SBを行った.SBにより,神経根ブロックと同様に,圧迫部の末梢側のみならず中枢側でも神経根内血流量の一時的な増加が認められた.臨床的研究:下肢症状を有する腰仙部退行性疾患41例を対象とした.SBにより,下肢温熱感(100%),下肢痛・しびれの軽減(約50%)が認められた.また下肢血流量(足底部)の増加,下肢皮膚温や深部温の上昇が,同時に認められた.これらの変化は一時的なものであったが,臨床症状の改善が長期に認められる症例が存在した.SBの治療効果は,高齢者,間欠跛行を呈す脊柱管狭窄(とくに馬尾型),罹病期間の短い症例に対して有用であると思われた.

MRIによる腰仙部神経根および後根神経節の解剖学的検討

著者: 長谷川徹 ,   布施謙三 ,   三河義弘 ,   渡辺良

ページ範囲:P.589 - P.593

 抄録:健常者における腰仙部神経根および後根神経節の形態についてMRIを用いて検討した,対象は11人の健常男性で123(L1:15,L2:22,L3:22,L4:22,L5:22,S1:20)神経根について,神経根分岐部の位置および分岐角度,神経根の長さ,さらに後根神経節(DRG)の位置およびその大きさについて調べた.下位神経根ほど頭側で分岐しており,その角度は下位神経根ほど小さくなる傾向が認められた.DRGまでの神経根の長さはL1からL5にかけて長くなり,S1ではL5に比べ有意に短くなっていた.S1 DRGは他に比べ頭側に位置する傾向がみられた.尾側DRGほど大きく,その形状はより楕円形になる傾向が認められた.
 以上,健常者における神経根やDRGの形態および解剖学的位置関係を正確に知ることは,臨床的に診断や手術の適応を決める上で重要である.

骨軟部腫瘍における201T1シンチグラフィーの有用性

著者: 徳海裕史 ,   土屋弘行 ,   砂山千明 ,   松田英三 ,   朝田尚宏 ,   瀧淳一 ,   隅屋寿 ,   宮内勉 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.595 - P.601

 抄録:201T1は従来心筋の血流とviabilityの評価に有用な核種であるが,近年,骨軟部腫瘍における有用性が注目されている.今回,骨軟部腫瘍に対する201T1シンチグラフィーの有用性を検討した.対象は組織診断が確定している術前施行例136例であった.結果,T1の集積は悪性骨軟部腫瘍の80%に認めた.しかし軟骨肉腫では8例中2例,悪性神経鞘腫の3例中1例のみ集積を認めた.これに対し良性骨軟部腫瘍及び腫瘍類似疾患の多くは集積を認めなかった.しかも陽性描画例の多くは巨細胞腫,軟骨芽細胞腫,線維腫症と特定の組織型に限られていた.また再発した悪性腫瘍8例では全例に集積を認め,化学療法前後に撮影できた悪性腫瘍23例では組織学的有効例においてT1の集積低下を認め,高い相関性を示した.T1シンチグラフィーは例外を考慮したうえで,良悪性の鑑別に有用であり,陽性描画例においては局所再発の検索や化学療法の効果判定に有用と考えられた.

膝蓋大腿関節痛症候群の身体所見―正常女性・反復性膝蓋骨脱臼例との比較

著者: 宗田大 ,   朝比奈信太郎 ,   山本晴康 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.603 - P.607

 抄録:若年女子に多くみられ,その原因,分類や治療法などに多くの問題をかかえている膝蓋大腿関節(P-F)痛症候群について、身体所見としての下肢のアライメント,全身関節弛緩性,Q角の測定を行い,その結果を正常若年女性,脱臼を繰り返す反復性脱臼症例(脱臼群)と比較検討した.Q角の測定では徒手的に最大内側あるいは最大外側に偏位させた内側Q角と外側Q角も測定した.P-F痛群では正常群に比して下肢アライメントに差はないものの,全身関節弛緩性を認め,外側Q角は小さく,P-F痛は関節弛緩が存在するにもかかわらず膝蓋骨の外側移動性を制限された状態として特徴づけられた.P-F痛群と脱臼群は,全身関節弛緩性を共通して認めるものの,下肢アライメント,Q角の測定では対照的な結果を認めた.本研究はP-F障害患者の身体的特徴をP-F痛と脱臼症例に分けて明らかにした.

境界領域

歩行改善を目的とした経皮電極を用いた治療的電気刺激(TES)の経験(第1報)

著者: 亀山順一 ,   半田康延 ,   桜井実

ページ範囲:P.609 - P.614

 抄録:脳血管障害による痙性不全片麻痺患者4例と脊髄損傷による痙性不全対麻痺患者5例を対象に,歩行の改善を目的として,経皮電極を用いた治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation:TES)を行った.TESの刺激前,刺激後における 1)下肢関節可動域,2)徒手筋力テストによる下肢の筋力,3)筋電図による足関節背屈時の拮抗筋の筋放電,4)歩容について比較検討した.その結果,刺激後 1)~4)のすべてにおいて良好な結果を得た.今後,このような患者に対するTESは,リハ領域における有効な治療法の一つとなり得ると思われる.

手術手技シリーズ 最近の進歩 手の外科

母指CM関節症に対する手術

著者: 薄井正道

ページ範囲:P.615 - P.623

はじめに
 手に発生する変形性関節症はDIP関節が最も多く,ついで母指CM関節,PIP関節,MP関節の順である.しかし,手術的治療の頻度はCM関節が最も多い.母指のCM関節変形性関節症(以下母指CM関節症)は先ず掌側のbeak ligamentの変性により掌側の関節軟骨の変性が発生し,次第に背側に波及すると言われている1).したがって,本症の治療においても病期の確立とそれに対応する治療法を選択することが大切である.以下に,病期の説明と各病期ごとの外科的治療法について述べることとする.

手術手技 私のくふう

矢状皮弁による下腿切断術

著者: 長島弘明

ページ範囲:P.625 - P.628

 抄録:下腿切断術では,今でも前後皮弁法が一般的である.しかし血行障害患者における下腿前方の皮膚は多くの場合極めて薄く,手術終了時に血行を確認したにもかかわらず,術後の浮腫などによってその後に血行が途絶してトラブルを生じることがある.欧米の文献によれば,血行障害患者に限らず高齢者の切断で今や前後皮弁法を用いることは無いという主張がいくつも有る.このような場合の術式として,よく知られる後方皮弁法のほかに,内外側皮弁法の報告がある.わが国で追試の報告はまだほとんど無いが,筆者の経験でも後方皮弁法に劣らぬ成績が得られるように思う.部分的筋固定など,細部をいくらか変えて筆者が行う術式を紹介する.

整形外科英語ア・ラ・カルト・32

輸血の歴史に関する英語

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.630 - P.631

 前回は輸血の歴史に関することを述べたが,今回も少し重複するが“ABO” blood groupを発見した“ラントシュタイナー”のことをもう少し詳しく述べる.
●Karl Landsteiner(ラントシュタイナー)
 “ABO”血液型を1900年に発見し,1901年に報告したオーストリア人のラントシュタイナーは,免疫学に造詣が深く,免疫学の父とも言われている.

基礎知識/知ってるつもり

コッドマン三角

著者: 磯辺靖

ページ範囲:P.632 - P.632

 【診断】
 骨腫瘍の授業に出席すれば,この言葉を聞かない医学生はまず.いまい.通常は骨肉腫のX線所見を解説する際に言及される.単純X線像ではsolidな三角形の硬化像を呈し,骨腫瘍の辺縁の骨皮質外側に隆起する.ただし,標本を切り出してみると,本病変はむしろテント状の三角形であることがわかる1)
 本所見は骨肉腫に特異的ととられがちだが,実際にはchondrosarcoma,Ewing肉腫,fibro sarcomaなどの悪性骨腫瘍,骨巨細胞腫,孤立性骨嚢腫,動脈瘤様骨嚢腫などの良性骨腫瘍のほか,骨折,感染,血液疾患,代謝疾患などで見られることもある.したがって,このような所見を有する症例を取り扱う際には,切開生検や術中迅速病理の手順を考慮することが必要である.ちなみにparosteal osは骨膜を挙上しないのでコッドマン三角を欠く事を覚えておこう2,3)

臨床経験

TAE(transcatheter arterial embolization)にて救命し得た血管損傷を伴う第4腰椎椎体骨折の1例

著者: 高桑昌幸 ,   末松典明 ,   岡本哲軌 ,   臼淵浩明

ページ範囲:P.633 - P.636

 抄録:第4腰椎椎体骨折に腰動脈損傷を合併,出血性ショックを来した1例に,経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization;TAE)を施行した.施行後速やかに全身状態は安定した.腰椎骨折に伴う腰動脈からの大量出血は,救急外傷における稀なケースと思われる.

肝機能障害患者に発症し,自然治癒した脊髄硬膜外血腫の1例

著者: 後藤正則 ,   西村龍彩 ,   森本剛司

ページ範囲:P.637 - P.639

 抄録:症例は54歳,女性.3年来の慢性肝炎症患者で,肝機能障害に基づく出血性素因を有していた.歩行中特に誘因無く,突然疼痛と共に両下肢の麻痺が出現し,歩行不能となった.脊髄造影にて脊髄硬膜外血腫と診断され手術が予定されたが,発症当日中から症状が徐々に軽快したために手術が見合わされ,1週間の経過で完全に自然治癒した.過去の報告から,自然治癒の生ずる要因について検討した結果,血腫高位の解剖学的環境や広がりは重要な因子とは言えなかった.一方,軽症例が多く,麻痺の回復は早期に始まり,出血性素因を有する例が多い傾向があり,自然治癒のメカニズムに一つの示唆を与えていた.

右膝蓋前巨大滑液包炎の1例

著者: 竹松宏 ,   石井朝夫

ページ範囲:P.640 - P.641

 抄録:右膝蓋前巨大滑液包炎の1例を経験した.症例は34歳の男性で脳性麻痺(痙性両麻痺)にて出生時より高這い(膝立ち歩行)をしていた.右膝蓋前巨大腫瘤を主訴に来院し,摘出術を施行した.病理組織では,器質化を繰り返した滑液包炎であった.
 高這いによる慢性の刺激により器質化を繰り返し,巨大化したものと思われる.治療法として,巨大化したものは,摘出術が必要と思われる.

いわゆるBoxer's Knuckleの2例

著者: 尼子雅敏 ,   根本孝一 ,   中島秀人 ,   堀川治 ,   桑原俊英

ページ範囲:P.643 - P.645

 抄録:いわゆるboxer's knuckleの2例を経験し,手術的治療により良好な成績を得た.症例1は22歳のボクシング全日本ミドル級チャンピオンである.試合中受傷し,MP関節背側の疼痛と腫脹を生じた.近医で保存的治療を受けていたが軽快せず,受傷半年後に手術を施行した.expansion hoodは軽度の菲薄化と発赤のみで明らかな断裂はなかったが,その下層の背側関節包が鋭利に断裂していた.このような損傷形態は従来の分類に含まれていないものである.症例2は,19歳の元ボクシング選手で,スチール製ロッカーを叩いて受傷した.MP関節背側の疼痛と腫脹を主訴に受診し,保存的に軽快しないため受傷2カ月後手術を施行した.expansion hoodと背側関節包の断裂が認められた.症例1,2とも断裂部の辺縁を新鮮化し縫合した.術後疼痛は消失し,良好な機能を回復して受傷前のスポーツ活動に復帰できた.boxer's knuckleに対しては積極的に手術を行うことにより,早期のスポーツ復帰が可能となる.

手三角骨骨折の5例

著者: 呉玉彬 ,   北澤久也 ,   北野達郎 ,   岡田幸也

ページ範囲:P.647 - P.650

 抄録:本邦では報告例の少ない手三角骨骨折の5例を経験したので,その受傷肢位,機転について文献的考察を加えて報告した.三角骨背側chip fractureの受傷メカニズムとして,尺骨茎状突起による圧剪断力とする説に関して検討を加え,手関節背屈尺屈と前腕回外位での尺骨茎状突起によるchisel actionが重要と考えた.

頚部リンパ節生検後に発生した副神経麻痺の1例

著者: 桝谷厚志 ,   岡田正人 ,   愛川肇 ,   藤井正則 ,   西島雄一郎 ,   東田紀彦 ,   山崎安朗

ページ範囲:P.651 - P.653

 抄録:頚部リンパ節生検後の手術瘢痕による絞扼が原因で発生した稀な副神経麻痺の1例を経験した.症例は66歳女性で,他医にて右頚部リンパ節生検を受け,約1週間後より右肩甲帯部の疼痛と倦怠感が出現し,生検3カ月後に当科を紹介され受診した.右僧帽筋の筋萎縮と鎖骨上窩の陥凹が高度であった.筋電図所見では僧帽筋上・中部線維にdenervation potentialを認めた.副神経の切断と考え,神経縫合術あるいは神経移植術を予定して手術を施行した.しかし副神経の切断は認められなかった.副神経が瘢痕組織によって高度に絞扼されている所見がみられたため,神経剥離術を施行した.術直後より右肩甲帯部痛と倦怠感は消失し,僧帽筋の筋萎縮も徐々に改善しており,術後経過は良好である.

大腿骨頚部内側骨折を合併した外傷性股関節脱臼の2例

著者: 吉岡茂 ,   渥美敬 ,   山野賢一 ,   村木稔 ,   柁原俊久 ,   沖永貴志 ,   黒木良克

ページ範囲:P.655 - P.658

 抄録:今回われわれは,比較的稀な同側の大腿骨頚部内側骨折を合併した股関節後方脱臼の2例を経験したので報告する.2症例ともに受傷機転は,交通事故であった.若年者であったため,初回手術として観血的整復固定術が施行されたが,共に術後の選択的血管造影では,血行の途絶を認めた.経過観察中,1例は,内反変形が進行したため再手術を施行したが大腿骨頭壊死に陥った.もう1例は,X線上陥没を認めたため再手術を行ったが関節症が進行しており,2症例共に経過は必ずしも良好とはいえず,近い将来に再び手術が必要であると思われた.

肩鎖関節脱臼用装具の圧迫によると思われる前骨間神経麻痺の1例

著者: 林成治 ,   坂中秀樹 ,   宮内晃 ,   舟越晃一 ,   松田英雄 ,   山野慶樹

ページ範囲:P.661 - P.664

 抄録:肩鎖関節脱臼の治療に伴って前骨間神経麻痺を生じた1症例を経験したので報告した.症例は50歳の男性,肩鎖関節脱臼に対し,前腕回内位で4週間の肩鎖関節脱臼用装具装着後,母指IP関節,示指DIP関節の屈曲困難が生じた.5カ月間保存的治療を行ったが軽快しなかったため,神経剥離術を施行した.術中所見および術中電気診断によって円回内筋筋枝,前骨間神経およびこの間の正中神経本幹での広範な神経障害が観察された.肩鎖関節脱臼用装具装着下に前腕部のMRI横断像を検討した結果,前腕回内位では浅層屈筋群は圧迫変形しており,麻痺発生機序は正中神経の内後方の神経束群が橈骨に対して圧迫されることが一因であると推察した.

腰椎部の黄色靱帯血腫の1例

著者: 田偉 ,   原田征行 ,   植山和正 ,   伊藤淳二 ,   佐藤隆弘 ,   森川泰仁

ページ範囲:P.665 - P.668

 抄録:腰椎部神経根の圧迫は大部分椎間板ヘルニアによるが,稀に硬膜外血腫によるものもある.われわれは術前診断でヘルニアと思われた黄色靱帯血腫1例を経験したので報告する.
 症例は63歳の男性.重い物を運んだ後に腰痛,左下肢痛が出現した.臨床所見は左下腿外側の知覚低下とEHLの筋力軽度低下など左L5の神経根障害を示したが,Laségue症候はなかった.MRIを含む画像所見は椎間板後縁の腫瘤様病変が認められ,椎間板ヘルニアと診断した.しかし椎体後縁の侵蝕像があり,また椎間板造影ではヘルニア像は認められなかった.手術では腫瘤は椎間板高位に在り黄色靱帯と連続していた.腫瘤内には凝血様液を認めた.病理検査では靱帯組織内の出血と証明された.

棘下筋・腱が整復障害因子となった外傷性肩関節後方脱臼骨折の1例

著者: 小川祐人 ,   佐々木孝 ,   長山信幸 ,   堀田拓 ,   小川清久

ページ範囲:P.669 - P.672

 抄録:上腕骨頭が関節包および腱板を破り関節外に逸脱し棘下筋・腱が整復障害となった肩関節後方脱臼骨折の1例を経験したので報告する.症例は21歳男性,自動車運転中,電柱に激突し受傷した.当日,局麻下に徒手整復を試みるも整復は得られなかった.単純X線とCT所見より,上腕骨頭が棘下筋・小円筋間で関節外に逸脱し,棘下筋が上腕骨頭と関節窩の間に介在していることが予想された.逸脱口に上腕骨頭を正対させるように上肢をゼロポジションまで挙上し持続牽引をし整復位を得た.後の逸脱口閉鎖を目的とした手術で上記の病態は確認された.後方脱臼骨折では通常,上腕骨頭は関節包内に止まるが,自験例では骨頭は関節包外に逸脱し,さらに骨折した大・小結節が骨膜により骨幹部と連続性を保っていたため棘下筋が整復障害因子となった.

t(12;22)染色体が認められた明細胞肉腫の1例

著者: 吉野恭正 ,   関根紀一 ,   金子安比古 ,   出雲俊之

ページ範囲:P.673 - P.676

 抄録:明細胞肉腫は20~40歳代成人下肢の腱や腱膜に好発するまれな軟部悪性腫瘍である.近年,悪性腫瘍と染色体異常との密接な関係が明らかになり,t(12;22)染色体が本症の特徴と考えられている.同染色体が認められた本症の1症例を報告する.本例は同染色体が認められた報告例として本邦初例と思われる.症例は25歳,女性.左膝の腫脹と左足のしびれがあり,左膝軟部腫瘍の診断にて当科を紹介された.腫瘍は長腓骨筋腱に存在し,組織学的には卵円形あるいは紡錘形の細胞で,淡明あるいは好酸性の細胞質を有し,メラニン顆粒が一部の細胞質内に認められた.染色体分析にて第12染色体長腕と第22染色体長腕との相互転座が認められた.本症はメラニン形成能を示す症例が多いことから,軟部悪性黒色腫と考えている人が多い.しかし皮膚に生じる悪性黒色腫の染色体異常としてt(12;22)染色体は認められていないことから本症と悪性黒色腫とは別々の腫瘍と考えられる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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