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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科30巻6号

1995年06月発行

雑誌目次

視座

学術集会に関する6つの疑問

著者: 廣谷速人

ページ範囲:P.679 - P.679

 この春の日整会総会で「これからは口を慎みます」とお約束しました以上,編集室ご注文の〈辛口の御高見〉などある筈もありません.そこで,学術集会についての日頃の疑問のいくつかを挙げて,その責を果したいと思います.
 1.学術集会は何故ひとの動きの激しい行楽シーズンに開かれるのでしょう.主催者側は会場などがとりにくく,参加者もホテルなどに苦労します.とくに春は新学期です.大学勤務のものは出鼻をくじかれることになります.学術集会の創世期,古き良き明治の頃からの慣行にすぎないことなのでしょうが.

論述

脊柱側弯症に対するAnterior Instrumentationの長期成績

著者: 大谷清 ,   斉藤正史 ,   柴崎啓一

ページ範囲:P.681 - P.689

 抄録:脊柱側弯症に対してanterior instrumentationで治療した134例中,術後10年以上経過し,直接検診できた56例について報告する.特発性側弯症53例,先天性側弯症2例,Marfan症候群1例であり,Dwyer手術18例,Zielke手術38例,thoracic curve 16例,thoracolumbar curve 27例,lumbar curve 13例,調査時平均年齢32歳,術後平均経過期間13.7年,平均矯正率62.4%,胸椎後弯平均41.1°,腰椎前弯平均31.8°,12例についてCT像からの減捻率は平均51.3%であった.日整会基準で自覚症状のないもの69.6%,ADLに支障のないもの55.4%であった.女性48例中,既婚が39例で,29例は出産している.帝王切開5例(17.2%),他は正常分娩であった.instrumentation failureが4例(7.1%)にみられたが,いずれも骨癒合は完成されていた.
 脊柱側弯症に対するanterior instrumentationの長期成績はすぐれている.本法は積極的に推奨できる手術である.

上位腰椎椎間板ヘルニアに対する前方除圧固定術の成績

著者: 安原晃一 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   村上正純 ,   菅谷啓之 ,   関川敏彦 ,   森永達夫 ,   中村伸一郎 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.691 - P.697

 抄録:上位腰椎椎間板ヘルニア(以下上位ヘルニア)は比較的頻度の低い疾患であり,その手術法に関する報告は少ない.本論文の目的は上位ヘルニアの特徴を考察し,本疾患に対する前方固定術の有用性を評価することである.対象は男性7例,手術は経腹膜外路法により施行した.臨床成績は日整会腰痛疾患治療判定基準(JOA score)により評価した.画像所見のうち特に上位・下位ヘルニア例の腰椎前弯角を比較した.JOA scoreは術前平均10.3点,follow up時平均26.6点,平林法による改善率は86.5%であった.腰椎前弯角は上位ヘルニア例では下位ヘルニア例に比較し罹患椎間で後弯を形成し,腰椎全体でも前弯角が減少していた.罹患椎間の前弯角は術後平均3.2゜改善した。自験例,文献より上位ヘルニアの病態につき考察した。上位ヘルニアは特徴的な病態を有し,前方固定術は上位ヘルニアに対し有用と考えられた.

骨軟部悪性腫瘍の患肢温存手術におけるマイクロサージャリーによる再建

著者: 黒田浩司 ,   川口智義 ,   松本誠一 ,   真鍋淳 ,   澤泉雅之

ページ範囲:P.699 - P.704

 抄録:骨軟部悪性腫瘍の患肢温存手術の際に生ずる大きな組織欠損に対して,マイクロサージャリーを応用して被覆し,機能再建を行った症例は1978年以降に22例あった.その頻度は当科で手術治療を行った骨軟部悪性腫瘍548例のうち4%に相当した.施行した再建術は単独の組織移植,複合組織移植各11例であり,複合組織移植は皮弁に骨・血管・神経を様々に組み合わせたものであった。移植した各組織の生着は良好で,マイクロサージャリーを用いることは根治性を損なうことのない,機能的にも優れた患肢温存手術の適応拡大に役立った.しかし,マイクロサージャリーが必要となる頻度はそれほど高いものではなく有茎の皮弁による再建が不可能なときにその適応があると考えた.さらに症例を供覧し,手術時や皮弁採取におけるデザインの工夫などについても言及し,考察を加えた.

RA頚椎病変に対する手術成績―術後の経時的推移と長期成績

著者: 鷲見正敏 ,   片岡治

ページ範囲:P.705 - P.711

 抄録:RA頚椎病変に対する手術成績について検討を加える場合には,RAが慢性に進行する全身性の炎症性疾患であることに留意する必要がある.筆者らは手術を行ったRA頚椎病変60例の術後成績を経時的に調査した(追跡調査期間:平均4年7カ月).後頭部・頚部痛および脊髄症はともに改善し,成績良好例は41例(68%)だった.経時的には術後2年以降に成績は悪化し,5年以上経過した症例のADL障害は術前と同等になっている症例が多くみられた.病態別では,下位頚椎部病変の経時的な成績の悪化が顕著で術後5年以上経過例のうち成績良好例は33%へと減少していた.一方,環軸関節前方亜脱臼は長期間の経過ののちも良好な成績を維持していた.術後成績の経時的悪化の原因は75%がRAの進行によるADL障害の悪化で,25%は頚椎病変の悪化によるものであった.頚椎病変が手術によって改善してもRAの経時的進行によりADL障害が進行する症例が多くみられた.

追悼

天児民和先生

著者: 津山直一 ,   山本真 ,   山室隆夫

ページ範囲:P.712 - P.715

 わが国の整形外科の歴史をふり返ると,1906年に東大,京大に独立した科として発足しているから,実に90年の歳月を経たことになる.東大,京大,九大の初代の整形外科学講座創基者田代,松岡,住田先生らの時代を初代のジェネレーションとすると,大正から昭和にかけて第二の世代として,高木(東大),神中(九大),伊藤(京大),名倉(名大),片山(国)(慈大),本島(新大)の先生らが発展に努力され,日本整形外科学会も第1回総会は大正15年4月3日に,第7回日本医学会の第10部分科会として東京大学内科講堂において挙行されているから,今年を以って満70歳に達したことになる.
 しかし,日本整形外科学会創設当時の記録は固より,私が入局してしばらくした昭和26年の故三木威勇治教授主宰の日本整形外科学会総会でも評議員の半ば以上は一般外科の教授であり,全国の国・公立大学に一応整形外科学講座が完備したのは昭和31年のことであるから,昭和初期より30年を超える年月,天児民和先生ら第三代目にわたる世代の先生方は整形外科の独立,独自性の基礎固めのため活躍されたのである.

整形外科英語ア・ラ・カルト・33

災害時の英語

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.716 - P.717

 このシリーズ・第24回(平成6年8月号)で,トリアージュ(triage)という言葉を説明したことがある.しかしそのときにはまだ身近に大災害が起こっておらず,この言葉があまりポピュラーでなかった.
 しかし,阪神大震災(平成7年1月17日)のあと,色々の医学新聞や雑誌に,災害時のトリアージュのことが度々掲載されていた.それでも一般の医師の間では,トリアージュという言葉の意味をまだ理解されていないようである.

基礎知識/知ってるつもり

variant

著者: 田島達也

ページ範囲:P.718 - P.718

 【用語の起源】
 “variant”という言葉は整形外科用語集第4版(南江堂,1994年)を見ると,variant(variance)変異,minus variant(variance)マイナス変異,plus variant(variance)プラス変異,zero variant(variance)ゼロ変異となっている.これによればvariantはvarianceと同じであると理解される.この言葉はもともとラテン語の“vario”から誕生した言葉で現代英語のvary,variousなどに受け継がれている.正確にいうと,variantは形容詞でvarianceが本来の名詞である.しかし,英語では品詞により特定の形がなく形容詞にも名詞にも動詞にもなり得る言葉が少なくない.そこで,“variant”が名詞として用いられたものといえる.しかし,それには以下に述べるようにドイツ語の“die Variante”が英語の“variant”に似ており,意味も同じであるという事情があるように思われる.

手術手技 私のくふう

人工骨頭置換に転子下骨切りを必要とした脱臼性股関節症の3例

著者: 赤津昇 ,   武井経憲 ,   清野良文

ページ範囲:P.719 - P.723

 抄録:過去にSchanz骨切り術による治療を受けた2例,未治療の脱臼性股関節症1例に対し,それぞれ骨軸の矯正,骨短縮および前捻角の矯正を目的とした大腿骨転子下骨切りを行い,Stryker社製のcementless stemを使用しての関節置換を一期的に行った.症例は全例50歳代女性で,関節部はdual bearing headにて再建した.骨切り部の骨癒合は全例5~6カ月で得られた.omnifit stemを使用した症例ではstemの沈み込みが生じたが,omniflex stemを使用した他の2例では,十分なStemの安定性が得られた.本術式は,人工関節置換をするために大腿骨の矯正骨切りを必要とする症例に,矯正操作と関節置換を一期的に行える有用な方法である.

臨床経験

足舟状骨に生じた骨壊死の1例

著者: 加藤弘文 ,   濱上洋 ,   藤田裕 ,   西原秀紀 ,   大村喜久雄

ページ範囲:P.725 - P.728

 抄録:今回われわれは,青年期に,足舟状骨に骨壊死を生じた稀な1例を経験した.症例は15歳の女性で,4年前より右足痛を経験しており,当時の他院受診時のX線にてすでに足舟状骨の骨硬化像,骨壊死像および変形を認めた.幼少期に右足痛の経験がなく,外傷の既往もないことより学童期に生じた骨軟骨炎が原因と考えられた.
 幼少期において足舟状骨骨壊死を呈する疾患として第1ケーラー病がよく知られている.本症の予後は良好で,成長終了後に問題となることはごく稀であるが,Brailsfordは小児期の変化が残存した例を報告しており,本症例で骨壊死に至った過程で第1ケーラー病の関与も考えられる.

骨膜下動脈瘤様骨嚢腫の2例

著者: 原則行 ,   山脇慎也 ,   姥山勇二 ,   井須和男 ,   山城勝重

ページ範囲:P.729 - P.732

 抄録:大腿骨小転子下に発生した骨膜下動脈瘤様骨嚢腫(骨膜下ABC)の2例を経験した.症例は16歳男性と17歳女性である.2例ともX線上,大腿骨小転子下に骨殻で覆われた軟部陰影と骨皮質の浸食を認めた.CTでは骨皮質から軟部に突出した陰影の外縁を骨性の被殻が覆っていた.生検にてABCの診断を得て,手術を施行.2例とも骨膜下から腫瘤を切除した.被殼に覆われた腫瘤の大半は空洞であり,空洞内に凝血塊を認めた.組織学的には線維性組織からなる隔壁の中に血液を含んだ空隙が見られ,その隔壁の細胞に異形性はなく,部分的に巨細胞を混じえていた.
 骨膜下ABCは長管骨の全ABCの10%以下の頻度であるとされている.X線上,初期の段階では骨膜の反応性骨形成が少なく骨皮質の破壊が強調されるため悪性腫瘍との鑑別が重要である.生検による確定診断が必要と考えられる.

脊椎腫瘍に対する脊柱再建術に有用であったhybrid constructionの2例

著者: 内田毅 ,   熊野潔 ,   平林茂 ,   瀧直也 ,   西田茂喜 ,   江口正信

ページ範囲:P.733 - P.737

 抄録:われわれは,脊椎腫瘍の手術的治療において,比較的予後良好で限局性の腫瘍の場合,十分に適応を検討した上で腫瘍の全切除術を選択している.この場合の脊柱再建術には従来よりも強固な固定性が必要である.このため1993年より,スクリュウとフックシステムを併用したhybrid construction法を採用している.この構築法の利点は,ロッドの上下端に使用したフックにより,スクリュウやロッドに加わる屈曲モーメントを減じることで,short fusionで,かつ安定した脊柱再建術を可能にしたことである.今回,脊椎転移性腫瘍とmyelomaの各1例に本構築法を用いた脊柱再建術を行った.脊椎全切除例では局所再発を認めず,2例とも十分な麻痺とADLの改善とが得られた.インストルメントの緩みや破損はなく,脊柱アラインメントの変化も認めなかった.本法は脊柱再建術として有用な手段であると思われる.

胸椎側弯凹側にneurofibromaを伴ったneurofibromatosisの1例

著者: 松原祐二 ,   斎藤晴彦 ,   安藤智洋 ,   川上紀明 ,   荒尾和彦

ページ範囲:P.739 - P.741

 抄録:neurofibromatosisに合併する脊椎変形の頻度は10.4~69%とされ,その治療には難渋することが多い.また,neurofibromaの合併も13~57%にみられ,2~29%が悪性化するとされる.われわれは,胸椎側弯凹側にneurofibromaを伴ったneurofibromatosisの症例に対し,腫瘍切除を含め2期的に手術を行った.1回目は腫瘍切除を容易にするため,T3-L1の後方矯正固定を行った.2回目は前方凹側進入により,胸部外科の協力を得て腫瘍切除後,T6-11の前方固定を行った.両手術とも回収血と自己血輸血のみで,同種血輸血は回避でき,良好な結果を得た.

MRIが有用であった膝蓋骨疲労骨折の1例

著者: 廣瀬隼 ,   森澤佳三 ,   高木克公 ,   鬼木泰博 ,   山隈維昭 ,   津留隆行

ページ範囲:P.743 - P.746

 抄録:早期膝蓋骨疲労骨折の診断にMRIが有用であった1例を経験したので報告する.症例は18歳,男性,バスケットボール選手.左膝蓋骨前面痛を主訴に当科を受診した.初診時,局所の圧痛を認めたが,単純X線像では明らかな骨折線は認められなかった.7週後の再診時にMRI撮影を実施し,矢状断で膝蓋骨下極に,TI強調像,T2強調像でともに骨折を疑わせる所見が認められたので,スポーツ活動を中止させ保存的療法で症状の改善をみた.膝蓋骨疲労骨折のMRI所見の特徴は,T1,T2強調像ともに矢状断で,膝蓋骨下極に明瞭な線状の低信号域が認められ,骨折線周囲に骨髄内部の浮腫と考えられる変化がT1強調像で低信号,T2強調像で高信号を呈する.MRIは疲労骨折に特異的な所見を持ち,単純X線写真で異常を認めない場合や所見のはっきりしない場合,その鑑別診断に有用と思われる.

胸椎部硬膜から発生した悪性黒色腫の1例

著者: 楠美穂 ,   菊地臣一 ,   渡辺栄一

ページ範囲:P.747 - P.750

 抄録:胸椎部硬膜から発生した悪性黒色腫の1手術例を報告した.50歳男性で,初発症状は両側背部から腹部への帯状痛であり,2カ月後に歩行時のふらつきが出現した.5カ月後に当料に入院した.神経学的所見で,筋力低下はなかったが,T10以下の知覚鈍麻を認めた.また,挙睾筋反射が両側で消失していた.脊髄造影とMRIよりT7からT8にかねての脊髄背側の硬膜外腫瘍と診断した.MRI画像では,T1強調画像で高信号,T2強調画像で低信号,T1強調Gd増強像で不均一な増強を呈し,悪性黒色腫に特徴的な所見を呈していた.手術により,硬膜の背側に被膜に覆われた黒色の腫瘍が確認された.その基部の硬膜は全周性に,かつ頭尾方向に長く黒色を呈していた.腫瘍塊のみを切除した.MRIは悪性黒色腫の組織診断には有用であったが,病巣の広がりを判定することは不可能であった.

坐骨に生じた掌蹠膿疱症性骨・関節炎

著者: 長井肇 ,   笠原勝幸 ,   坪山直生 ,   琴浦良彦 ,   山室隆夫 ,   中嶋安彬

ページ範囲:P.751 - P.753

 抄録:掌蹠膿疱症性骨・関節炎と考えられる病変を,非常に稀な部位である坐骨に生じた症例を経験した.
 症例は41歳男性で,左股関節の運動時痛を主訴とし,X線検査で,左坐骨の骨硬化,上位肋軟骨の骨化を認めた.左坐骨の試験的切除を行い,病理組織診断は非特異的硬化性骨髄炎に合致し,この症例における坐骨の骨硬化は,掌蹠膿疱症性骨・関節炎によると考えられた.

術後MRIで脊髄腫大傾向を示した頚髄症の2例

著者: 伊藤友一 ,   大島義彦 ,   林雅弘 ,   平本典利 ,   尾鷲和也 ,   佐藤信彦

ページ範囲:P.755 - P.759

 抄録:MRIにより手術後脊髄腫大傾向を示した頚髄症の2例を経験した.症例1は,57歳の男性で,右下肢脱力と歩行障害を主訴に山形大式頚椎拡大術が施行された.術後6週間で撮像したMRIによりT1強調像で脊髄腫大傾向,T2強調像で高輝度領域の拡大を示した.症例2は44歳の男性で,頚椎症性脊髄症と診断され山形大式拡大術が施行された.術後6カ月のMRIのT1強調像では圧迫部位に限局した脊髄腫大像が見られた.以上の症例に共通する特徴は,症状発症から手術までの経過が短いこと,術前のMRIのT2強調像で脊髄圧迫部位を中心として高輝度領域を示したことである.

外傷性鎖骨両端脱臼の1例

著者: 米沢郁穂 ,   沼本秀樹

ページ範囲:P.761 - P.763

 抄録:今回われわれは,肩鎖関節脱臼と胸鎖関節脱臼を同側に合併した鎖骨両端脱臼の1例を経験したので報告し,若干の文献的考察を加えた.症例は21歳,男性.3mの高さより転落し受傷した.grade IIIの肩鎖関節脱臼であること,患者の年齢が21歳と若く建設業という活動性を必要とする職業であることを考慮し肩鎖関節脱臼に対して鎖骨・烏口突起スクリュー固定術を行った.胸鎖関節は症状がないため放置した.鎖骨両端脱臼は1831年にPorralによって初めて報告され,それ以来われわれの調べ得た範囲においては海外15例,国内3例にすぎない.若年者で,スポーツへの復帰や高い活動性が求められる場合の治療法の選択が問題になる.1年11カ月を経過した現在,胸鎖関節の突出は認めるが,疼痛および可動域制限はなく経過良好である.

腓骨頭不安定症の1例

著者: 佐藤啓二 ,   杉浦英志 ,   山村茂紀 ,   近藤精司 ,   川上紀明 ,   出口正男 ,   黒河内和俊

ページ範囲:P.765 - P.769

 抄録:左膝関節外側部より下腿外側にかけて日常勤務に支障のある程の疼痛を生じている25歳,女性例を経験した.両腓骨頭はあたかも外側亜脱臼位を呈しているように外側に膨隆し,膝関節90°屈曲位・大腿二頭筋弛緩肢位で両腓骨頭に著しい不安定性(2cm以上の前方への動揺性)を認めた.理学所見と種々の画像検査より腰椎疾患を否定した.MRI上膝周辺には疼痛を生ずる腫瘤性病変はなく,また炎症性変化も認めず,近位脛腓関節には水腫も認めず,下腿筋電図所見も正常であったため,腓骨頭不安定症と診断した.ステロイド剤の局所注射によって疼痛は半減すると共に,膝上バンドの装用によって8割程度の疼痛軽減をみた.外傷性腓骨頭脱臼の文献より腓骨頭の安定化機構と腓骨頭不安定のメカニズムを考察し,さらに3例の腓骨頭不安定症の文献的考察を行った.また腓骨頭不安定症に伴う疼痛発生のメカニズムについてenthesopathyの観点より推論した.

脳室腹腔交通術により脊髄内の空洞の縮小が認められたChiari奇形I型合併の脊髄空洞症の1例

著者: 井須豊彦 ,   田中徳彦 ,   小林延光 ,   斉藤久壽

ページ範囲:P.771 - P.775

 抄録:脳室腹腔交通術により空洞の縮小が認められたChiari奇形I型合併の脊髄空洞症の1症例を報告した.症例は20歳,女性であり,頭痛を主訴に来院した.神経学的には左側C5~Th6レベルにて温痛覚の低下(70%)が認められた.検査では,脳室系の著明な拡大,Chiari奇形1型,脊髄空洞症(C3~Th2レベル)と診断された.手術は脳室腹腔交通術が施行された.術後,頭痛は消失し,MRI上,小脳扁桃の頭側への挙上,空洞の消失が認められた.
 脳室腹腔交通術における空洞縮小メカニズムは,通常,シャント手術により脳室内圧の低下が起こり,obex部を介する中心管への脈圧の減弱が関与していると考えられているが,本症例では,以下のごとく考えられた.つまり,シャント手術にて,頭蓋内圧が減少することにより,脊椎管内へ下垂した小脳扁桃が挙上しcisterna magnaが形成され,それにより,大後頭孔部の髄液流通障害が改善したことが空洞縮小のメカニズムと考えられた.

全踵骨摘出術を施行した踵骨慢性骨髄炎の1例

著者: 山口美樹 ,   野口昌彦 ,   玉井幹人 ,   原浩史 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.777 - P.780

 抄録:われわれは難治性の踵骨慢性骨髄炎に対して全踵骨摘出術を施行した1例を経験したので報告する.症例は32歳女性で,1989(平成元)年にSLEと診断され,1991(平成3)年3月,左足関節外側部の疼痛と腫脹を主訴として当科を初診した.SLEによる多関節炎の診断のもとに免荷,消炎鎮痛剤で保存的に治療したが,11月に瘻孔形成と膿の排出を認め,12月にはMRSAを検出した.1992(平成4)年1月,左踵骨骨髄炎の診断で当科へ入院,病巣骨掻爬術を施行したが再発したため,8月,再度病巣骨掻爬術と新たに持続潅流装置を留置した.しかし,10月,再度MRSAを検出したため全踵骨摘出術を施行した.術後2年の現在も経過良好である.屋外では短下肢装具を装着し,室内では装具なしで疼痛なく歩行している.われわれは難治性の踵骨慢性骨髄炎に対する全踵骨摘出術は有用な治療法と考える.

末梢神経症状を呈したサルコイドーシスの2例

著者: 中村智 ,   佐藤幸宏 ,   安藤御史 ,   佐藤雅規 ,   長谷川敏

ページ範囲:P.781 - P.784

 抄録:サルコイドーシスは全身臓器に肉芽腫を形成する疾患であり,好発部位は肺門リンパ節,眼,皮膚で,神経症状は約5%と少なく,その多くが脳神経症状を伴う多発神経炎で,脊髄神経症状は少ない.脊髄神経症状を主訴とし病理学的検査にて診断のついた2例を報告する.1例は右腓腹神経腫瘤を主訴とし組織診断にて類上皮細胞性肉芽腫および両眼ぶどう膜炎が判明した症例であり,もう1例は四肢のしびれ,脱力を主訴とする症例で糖尿病を合併していたため,糖尿病性神経障害が疑われたが同時期に行った右前腕部腫瘤の生検にて壊死のない肉芽腫がみられ腓腹神経生検で確診となった.ACE,リゾチーム活性は高値であったがBHLはなくステロイド療法にて症状は消失した.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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