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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科30巻7号

1995年07月発行

雑誌目次

視座

“骨誘導因子(BMP)”臨床応用への期待

著者: 中村孝志

ページ範囲:P.787 - P.787

 遺伝子組み替え技術により新しく作られた種々なホルモンやサイトカインが医療の場で使用され始めています.整形外科領域でも自己血輸血の際のエリスロポエチンや化学療法での顆粒球減少に対してのG-CSF等はしばしば用いられており,また肝炎の治療でインターフェロンを受けた経験を持たれる先生方もおられることと思います.そのような中で整形外科で最も期待されているものに骨誘導因子(BMP)があります.
 BMPはUristの1970年のScience誌の論文に始まり,その精製にはわが国の整形外科の多数の先生方が貢献し,とりわけ大阪大学の高岡氏らのグァジニンを用いた可溶化の仕事はBMP精製の重要な発見となっています.遺伝子のクローニングはGI社のWozneyらによってなされ,1988年にScience誌に発表されました.それ以来6年余りが経過し,初期生発における重要な働きや成熟した骨での働きが明らかになり,リセプターもクローニングされ基礎的な面で大きな進展を示しています.しかし,整形外科医が期待している臨床の場での治療への応用は残念ながら未だできていません.前に引用したG-CSFはわが国でクローニングされ臨床薬として開発されたものですが,クローニングが発表されてから1年余りで臨床第一相試験が始められています.G-CSFが1980年代の開発であり,90年代の分子生物学の進展を考えると,BMPの臨床応用にかなり手間取っている印象を持ちます.

論述

高位𦙾骨骨切り術の術後成績に及ぼす肥満の影響について

著者: 黒河内和俊 ,   中村滋 ,   新田弘幸 ,   澤野浩 ,   湯川泰紹 ,   白松兼次 ,   楫野學而

ページ範囲:P.789 - P.794

 抄録:肥満は膝OAの増悪因子の一つとして知られている.われわれは肥満がHTOの術後成績に及ぼす影響について検討を加えた.一次性内側型膝OAに対してHTOを行った患者39名46膝を対象とした.手術は全て楔状骨切り後,引き寄せ締結法による内固定を行い,術後6週間のギプス固定を行った.46関節をBMIにて肥満群12関節と非肥満群34関節に分類し,年齢,grade,JOA,FTA,関節可動域,患者の満足度について比較した.術前後の年齢,grade,JOA,FTA,関節可動域については2群間に有意差は認められなかったが,JOAの術後獲得点数,術後獲得AOM,患者の満足度が肥満群では有意に低下していた.JOAのうち特に疼痛歩行能の改善が有意に低かった.つまり,肥満はHTO術後成績の不良因子である.肥満患者に対してHTOを行う際には,その性格も考慮して,術前の説明やリハビリでは特に配慮が必要である.また,術前からの継続的な肥満の治療が不可欠である.

アキレス腱断裂患者の下腿三頭筋筋力回復の検討

著者: 大作浩一 ,   田中玄之 ,   田中信弘 ,   杉田直樹 ,   山村聡

ページ範囲:P.795 - P.800

 抄録:アキレス腱断裂患者37例39足を対象に下腿三頭筋筋力回復の検討を行った.方法は等速度運動筋力測定器Cybex IIを用いて筋力を測定し,ピークトルク値,患側/健側比およびピークトルク値/体重比で評価した.そして健常人136名(男性63名,女性73名)を対照群とした.ピークトルク値と患側/健側比で評価すると,女性では年齢相応の良好な筋力回復を認めたが,男性では年齢により回復に差が認められた.すなわち男性では青年期の症例の筋力回復は良好であるが壮年期以降の症例では低い筋力レベルに留まりやすい傾向にあった.手術療法と保存療法では壮年期以降の症例に限れば筋力的には両者に明らかな差は認められなかった.ピークトルク値/体重比は個人の運動活動性にかなり相関しており,これで評価すると青壮年期にアキレス腱断裂を生じても多くの症例はレクレーションとしてスポーツを楽しむ程度の筋力レベルには回復可能であることが示された.

U字型ロッドを用いた漏斗胸の観血的治療

著者: 中村孝文 ,   池田天史 ,   千田治道 ,   福山紳 ,   高木克公

ページ範囲:P.801 - P.805

 抄録:1980年から1994年8月までに39例の漏斗胸に対し内固定を用いた胸骨挙上法を施行した.初期にはZimmerプレートを使用していたが,1988年以後の14例にはKirschnerワイヤーをU字型に採型したロッドを用いており,両者の比較検討を行った.いずれも矯正率は70%以上と良好であり,両者の差はないが,出血量はUロッド群147.5ml,プレート群851mlと有意の差が認められた.またUロッドは固定,抜去が容易であり,あらゆる変形の矯正およびあらゆる年齢に対応できることから漏斗胸に対する優れた治療法の一つと考えられる.

骨肉腫の肺転移防止およびその治療の検討

著者: 石田俊武 ,   大向孝良 ,   高見勝次 ,   国吉裕子 ,   家口尚 ,   奥野宏直 ,   石川博通 ,   林俊一 ,   田中治和

ページ範囲:P.807 - P.813

 抄録:骨肉腫の肺転移防止および肺転移巣に対する治療について検討した.対象とした肺転移症例は,1970(昭和45)年から1981(昭和56)年までの間の23例(I群)と,1982(昭和57)年から1992(平成4)年までの間の18例(II群)の計41例である.転帰は,I群の23例は全例死亡し,II群の18例は,内6例が肺転移巣手術後生存中である.検討の結果,肺転移発見時期が遅いほど,肺転移発見以後の生存期間が両群ともに長かった.原発巣手術後の化学療法は,施行例の方が非施行例より,肺転移発見時期がやや遅かった.肺転移巣に対する手術施行例と非施行例との肺転移発見以後の生存期間は,I群で施行6例が非施行17例より約2.6倍長く,II群で施行15例が非施行3例より約3.5倍長かった.肺転移巣に対する化学療法は,1群中の2例でpartial responseを示しただけで,肺転移巣発見以後の生存期間を延長する結果は得られなかった.したがって,原発巣に対する治療中の化学療法,肺転移巣に対する手術が有用である.

シンポジウム 原発性脊椎悪性腫瘍の治療

緒言

著者: 金田清志

ページ範囲:P.816 - P.816

 原発性脊椎悪性腫瘍は,1)Plasmacytoma,2)Ewing's sarcoma,3)Malignant lymphoma,4)Chondrosarcoma,5)Osteosarcoma,6)Chordomaなどである.これらの中で,1),2),3)は放射線療法に感受性がある.Plasmacytomaでは通常放射線療法のみであるが,腫瘍が大きくなれば手術的切除aggressive curettageと再建術に放射線療法を合併して行うのが最も有効と思われる.この腫瘍はsolitaryであれば上述の治療のみであるが,systemicとなれば化学療法の適応となる.Ewing sarcomaは他の骨からの転移が原発性より多い.脊椎発生では脊椎の3-columnsが侵されることが多いのでen bloc resectionが適応となろう.そして術後に放射線療法か,化学療法が助けとなる.Lymphomaは比較的放射線感受性があるのでこれのみでの治療である.本腫瘍での手術的腫瘍切除の適応は脊椎の破壊が強く脊柱安定性が危険にされされている場合と放射線療法のため腫瘍負荷を減少させるための二つが考えられる.Osteosarcomaは放射線治療後か,Paget病からが多いとされているが,我が国では稀である.

原発性脊椎悪性腫瘍に対するtotal en bloc spondylectomy(vertebrectomy)の根治性―病理組織学的検討を加味して

著者: 富田勝郎 ,   藤田拓也 ,   川原範夫 ,   土屋弘行 ,   鳥畠康充 ,   上田善道

ページ範囲:P.817 - P.827

 抄録:原発性および転移性脊椎悪性腫瘍に対する腫瘍外科学的アプローチとして,compartment and barrierの考え方を取り入れ,①腫瘍の局在,②腫瘍の発育進展,③組織学的悪性度の3つを柱としたsurgical classification of vertebral tumorおよびsurgical staging of vertebral tumor(SSVT)を提案した.これに基づけば,すべての脊椎腫瘍に対して根治的手術から姑息的手術に至るまでのあらゆる切除術式の適応が科学的に一層明確に位置づけることができることを示した.
 実際にこのコンセプトに基づき原発性脊椎悪性腫瘍に対して根治的切除術(total en bloc spondylectomy)を行った.これらの切除標本を大割連続切片(横断,縦割面)とし,椎骨の各構成部分ごとに切除縁やbarrierにつき腫瘍病理学的に評価した.これらの結果は,脊椎腫瘍を腫瘍外科学的に切除する方法を追求していくうえで極めて重要な示唆を与えてくれるものであった.

原発性脊椎悪性腫瘍の手術成績

著者: 高石官成 ,   矢部啓夫 ,   藤村祥一 ,   鈴木信正 ,   戸山芳昭 ,   鎌田修博

ページ範囲:P.829 - P.834

 抄録:原発性脊椎悪性腫瘍の手術成績について検討した.腫瘍学的に十分な切除縁を得ることは困難であるが,手術療法の占める割合は重要で,辺縁切除の確保は腫瘍内切除に比べ予後が良好であった.脊索腫・軟骨肉腫では補助療法の感受性が低かったが,造血性腫瘍群では併用することで生存率が安定した.区画外に広がる腫瘍についても,腫瘍内切除の範囲を最小限に押さえるべきで,掻爬による姑息的な治療は適応とならない.従来,脊椎の持つ解剖学的特殊性から切除縁設定は困難と考えられてきたが,初回手術における腫瘍摘出の可否が生命予後に大きく影響する以上,できるだけ四肢の切除縁評価と同様の概念に基づいて治療法を選択すべきである.

原発性脊椎悪性腫瘍の治療成績

著者: 平良勝成 ,   佐野精司 ,   大幸俊三 ,   徳橋泰明 ,   松崎浩巳

ページ範囲:P.835 - P.842

 抄録:1970年から1993年の24年間に当教室で治療した脊椎原発の悪性腫瘍は33例で,症例の内訳は巨細胞腫8例,脊索腫6例,悪性リンパ腫6例,骨髄腫6例,Ewing肉腫4例,その他3例であった.発生部位は胸椎12例,仙椎10例,腰椎8例,頚椎3例であった.年齢は10~82歳(平均52.6歳)であり,性別では圧倒的に男性が多かった.手術療法を行った26例の切除縁評価ではintralesional 17例,marginal 8例,wide 1例で,局所再発は約30%で全例intralesionalの症例であった.合併症は仙骨発生例に多く,膀胱直腸障害,神経障害,感染,骨折などであった.原発性脊椎悪性腫瘍の治療は解剖学的特性からsurgical stageの評価が困難でwide marginが得づらいが,術前にCTやMRIを用い病巣の範囲を明確にし,高悪性腫瘍には術前の化学療法や放射線療法などの補助療法,低悪性腫瘍や巨細胞腫は最終的切除範囲がwideとなる手術法が成績向上につながると考える.

脊椎原発性悪性腫瘍に対する仙骨切断,椎骨全摘術と脊柱再建

著者: 金田清志 ,   武田直樹 ,   種市洋

ページ範囲:P.843 - P.850

 抄録:原発性悪性腫瘍に対する手術的治療として腫瘍椎骨全摘術と脊柱再建術を解説し,当科で手術治療された悪性脊椎腫瘍,骨巨細胞腫など25例の治療成績を調査した.仙骨腫瘍では広範切除と考えられた症例の50%に再発ないし転移を生じた.手術にあたっては腫瘍の侵食範囲を正確に知り術後の神経脱落に躊躇することなく,十分安全な切除縁で切除を行うことが重要である.進入法では,S1/2レベルまで後方法のみで対処可能であることが示唆された,造血性腫瘍は化学療法・放射線療法に感受性が高いので手術適応は,放射線療法・化学療法後に残存ないし悪化進行する脊柱不安定性による頑固な疼痛,椎体圧壊からの後弯変形増強と圧壊椎体の脊柱管内陥入による神経障害のある時(神経除圧と脊柱再建),急速な麻痺悪化(緊急除圧)などである.造血性腫瘍以外の頚・胸・腰椎の腫瘍では化学療法・放射線療法に感受性のある腫瘍の場合,椎骨全摘術による腫瘍切除と補助療法により局所コントロールが可能であった.椎骨全摘術では,腫瘍の局在・大きさ・周囲の重要臓器との関連から適切な進入法が選択されるべきである.en bloc切除と腫瘍細胞汚染を最小限にする努力によりさらに根治性が高められる可能性がある.

原発性脊椎悪性腫瘍の治療上の問題点

著者: 塩川靖夫 ,   竹上謙次 ,   藤浪周一 ,   荻原義郎

ページ範囲:P.851 - P.855

 抄録:1977年より1993年までに加療した原発性脊椎悪性腫瘍15例,および傍脊椎からの浸蝕性悪性腫瘍3例,計18例の治療結果を検討した.骨髄腫や悪性リンパ腫,あるいはEwing肉腫は化学療法,放射線療法による保存療法が非常に有効で,6例中4例は,continuous disease free(CDF)あるいは完全寛解(CR)が得られた.他方保存療法の適応されない軟骨肉腫(CS),脊索腫(CD),MFHなどの全切除をもくろんだ8例においては,CDFが軟骨肉腫および脊索腫の各1例のみであり,alive with disease(AWD)4例,died of disease(DOD)2例と,不良な結果を示した.その原因は,すでに大きなtumor massを形成しcompartmentを越え,適切なsurgical marginの獲得が困難なこと,さらには重要organの温存のために一部intralesional marginにならざるを得なかったことや,周囲血管に腫瘍栓子の存在が認められたことが挙げられよう.治療成績向上のためにいくつかのcritical pointを指摘する.

手術手技シリーズ 最近の進歩 手の外科

リウマチ手の手指変形に対する関節形成術

著者: 村上恒二 ,   濱田宜和

ページ範囲:P.857 - P.866

はじめに
 手指の関節は手関節とともに,リウマチ滑膜炎の好発部位であり,滑膜炎が持続すれば靱帯の弛緩や関節の破壊をきたすこととなる.そして進行期にいたれば手指の尺側変位はしばしばみられる変形の一つとなるが,変形は徐々に発生したものであり,その多くにおいては機能的適応を生じている.そして,指の屈曲が可能であれば把持機能の大部分は残っており,必ずしも機能的な障害とはならない.しかしながら,MP関節において伸展装置が脱臼すれば手指の伸展障害をきたすこととなり,大きな機能障害となる.また,尺側変位が著明であれば母指と示指の先端でのつまみ動作が不可能となり,さらには高度の尺側変位や掌側脱臼など変形そのものも見かけ上不愉快で,患者にとっては重大事である.リウマチ手における尺側変位や掌側脱臼に対する手術方法については病期に応じてさまざまな方法が試みられているが,本稿ではリウマチ手に対するMP関節形成術や母指変形に対する手術的治療の手術適応,手術方法そして問題点について述べてみたい.

手術手技 私のくふう

経皮的自家骨髄移植による骨癒合不全の治療

著者: 松田芳郎 ,   奥村秀雄 ,   渡部昌平 ,   脇田匡 ,   内田篤宏 ,   柴田大法 ,   曽我部弘人

ページ範囲:P.867 - P.873

 抄録:骨折後の偽関節6例,仙腸関節固定術後の骨癒合不全1例に経皮的自家骨髄移植を施行したので,その治療成績を報告し,本法の適応や手技上の問題点について検討した.骨折後の偽関節に対する癒合率は6例中5例,83.3%であった.移植から癒合までの期間は5~9カ月であった.WeberとCechによる偽関節の分類に従って成績を検討すると,hypervascular nonunionでは全例骨癒合したが,感染を合併したavascular nonunionでは癒合が得られなかった.また,関節固定術後の癒合不全例では骨癒合が得られた.本法に伴う合併症はなかった.
 経皮的自家骨髄移植は侵襲が少なく,hypervascular nonunionには有用な方法と考えられた.感染例やavascular nonunion例への適応,偽関節部の処置,注入する骨髄の至適量,時期,回数,後療法などに関しては今後さらに検討が必要と考えられた.

整形外科philosophy

骨粗鬆症を基盤とする脊椎・脊髄病変に対する治療

著者: 冨永積生

ページ範囲:P.875 - P.880

はじめに
 わが国における人口高齢化が急速に進み,骨粗鬆症を基盤にもち,加えて外傷性,炎症性,腫瘍性,変性性の疾患があり,これによる脊髄麻痺を伴う疾患が目立ってきた.私の興味は,この骨粗鬆症のうち,脊椎に種々の病変が加わり,これによる麻痺に対する治療にある.
 長年,脊椎外科に携ってきた者として,進歩・発展を目ざす若き医師達へ何かphilosophyを含んだ,suggestiveなものをという本誌編集室の求めに応じて私なりの考えを展開していく.本文や診療上のお役に立てばと願う.

基礎知識/知ってるつもり

“aggressive GCT”

著者: 牛込新一郎

ページ範囲:P.881 - P.881

 骨の巨細胞腫(GCT)は整形外科医の間ではその臨床的ならびに生物学的特徴など良く知られている.しかし,鑑別診断,とりわけ良性か悪性かの鑑別などの問題,組織発生の問題など,数々の未解決の問題があることもわかっている.さらに,組織学的には異型が目立たないのに肺転移する例benign metastasing GCT(またはsemimalignant GCTとかlow-grade neoplastic GCTなどとも呼ばれることがある)や,なお概念が曖昧な悪性GCTなど本腫瘍の特徴の一面がうかがえる1)
 一方,今回の主題であるaggressive GCTについてであるが,その概念は確定していない.では,どのような場合にこれが適用されているのであろうか.これをあえて用いるならば,生物学的性格や画像上の特徴や予後などとの関連があるべきであろう.単なる形容詞的な表現では意味がない.

整形外科英語ア・ラ・カルト・34

比較的よく使う整形外科用語

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.882 - P.883

●abduction(アブダクション)
 “abduction”は“外転”のことである.内転のことを“adduction”(アダクション)といい,“abduction”とスペルが非常によく似ていることから,間違えないように外転を“ab-duction”(エィビィ・ダクション),内転を“ad-duction”(エィディ・ダクション)とハッキリと区別して言うことがある.接頭語の“ab-”には,“離す”の意味があり,“duction”は管の“duct”を考えても分かる通り,導くことである.“abduction”を一般用語では,“誘拐”のことをいい,モーツアルトの“後宮からの誘拐”を“Abduction from Harlem”という.他方“adduction”の接頭語“ad-”は,“中へ”を意味し,“中へ誘導”のことである.指の内転とは中指を中心にその脇にある指を中指に向かって戻すことで,親指をも含めた指の“adduction”に関係する筋肉の神経支配は,尺骨神経であることは興味深い.

臨床経験

間葉性軟骨肉腫の1例

著者: 小林孝 ,   岡田恭司 ,   久保田均 ,   佐藤光三

ページ範囲:P.885 - P.890

 抄録:骨原発の間葉性軟骨肉腫の1例について述べた.症例は48歳の女性,主訴は左大腿後面の痛みと左殿部の腫瘤であった.1976年頃より左大腿後面に痛みを感じ,近医で坐骨神経痛の診断にて加療されていたが,3年後の1979年1月になって左殿部腫瘤を触知するようになったため,当科を初診した.初診時,左殿部に直径約15cmの圧痛,熱感を伴う腫瘤があり,単純X線,CTにて仙腸関節近傍の左腸骨と仙骨に石灰化を伴った骨破壊像を認めた.生検にて細胞成分に富む部と軟骨島とからなる2相性パターンと,小円形細胞のHemangiopericytoma like patternを認め間葉性軟骨肉腫と診断した.46Gyの放射線療法とマイトマイシンC総量80mgの選択的動注を行い,一時的に症状は軽快した.しかし1980年11月,初診より1年10カ月で肺転移のため死亡した.間葉性軟骨肉腫では,化学療法や放射線療法の効果が一定でなく,体幹発生が多いという点が通常の軟骨肉腫より予後不良の一因と考察した.

骨転移を来した悪性褐色細胞腫の1例

著者: 網野浩 ,   土谷一晃 ,   武者芳朗 ,   芦沢修一 ,   茂手木三男 ,   亀田典章 ,   蛭田啓之 ,   丸山優

ページ範囲:P.891 - P.894

 抄録:骨転移を来した悪性褐色細胞腫の1例を経験した.症例,43歳,男性.左前胸部腫瘤を主訴に来院した.3年前に右副腎褐色細胞腫摘出術を受けている.全身状態に異常所見なく,血圧も正常で,血液,生化学検査,尿中VMAなどに異常所見はなかった.左第2肋骨を中心に約2×3cm,弾性硬の腫瘤を触知し,MRIで腫瘍は鎖骨,第1肋骨,肺に密接していた.99mTcDP骨スキャンでは腫瘍部にのみ集積を認めた.生検にて悪性神経原性腫瘍が疑われ,広範切除術を施行した.病理組織学的に,多角形から紡錘形の腫瘍細胞が増殖し,免疫組織化学的にS-100蛋白,NSE陽性であり,原発巣の病理所見とあわせてホルモン活性のない褐色細胞腫の転移と診断した.切除縁評価はmarginalで,1年6カ月の経過で再発を認めていない.褐色細胞腫の約10%は転移を来し悪性とされるが,病理組織学的に良悪性の診断は困難であり慎重な経過観察が必要と考えられる.

サッカーで発症した大腿骨小転子裂離骨折の1例

著者: 牧田浩行 ,   鈴木一太 ,   青木茂夫 ,   木下裕功 ,   杉村聡

ページ範囲:P.895 - P.897

 抄録:今回われわれはサッカーの試合中キックで発症した右大腿骨小転子裂離骨折の1例を経験したので報告する.症例は13歳の男子で,サッカーの試合中右足でシュートをうとうとして蹴り損ない空振りした瞬間,突然右股関節から大腿にかけて強い疼痛が出現し歩行困難な状態となった.翌日当科初診となった.右大腿近位部の腫脹とスカルパの三角に強い圧痛および右股関節の運動痛を認めた.単純X線像で右大腿骨小転子裂離骨折を認め入院となった.介達牽引を行い数日で疼痛は軽快した.
 受傷後約3週で歩行を開始した.受傷後2カ月のX線像で骨癒合を認め,現在経過は良好で,サッカーのクラブ活動に復帰している.本症例の原因としてボールを蹴り損なった瞬間,股関節は伸展位から急激に屈曲,外旋位となったことで小転子に腸腰筋の過大な収縮力が働き,裂離骨折が起こったものと推察された.

sacral nerve root cystの1例

著者: 松田正樹 ,   金粕浩一 ,   富田勝郎

ページ範囲:P.899 - P.902

 抄録:腰・下肢痛の1原因としてのsacral perineurial cystは,1938年Tarlovが報告したことにより注目を集めた.今回われわれは右殿部痛を主訴として来院し,脊髄造影,ミエロCT,MRIで,sacral nerveroot cystと診断し,疼痛が増強したため神経根ブロックで症状が消失することを確認したのちに手術を行い,症状の消失をみた1例を経験した.病理学的にcyst壁内に神経線維,神経節細胞を認めたことによりsacral perineurial cystと確定診断された.その成因については諸家により報告されているが本症例では硬膜の脆弱部へのhydrostatic pressureが関与していると思われた.手術方法はcystの縫縮が良く,術後は約3週間程度の床上安静を保つことが再発を防ぐために重要と思われる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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