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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科30巻8号

1995年08月発行

雑誌目次

巻頭言

第10回日本整形外科学会基礎学術集会開催に当たって

著者: 東博彦

ページ範囲:P.906 - P.907

 この度第10回日本整形外科学会基礎学術集会を開催させて戴くことを誠に光栄に存じます.

論述

先天性内反足治療例における舟状骨の経年的変化について

著者: 早船佳文 ,   青木治人 ,   南郷明徳 ,   早船徳子 ,   富永泰弘 ,   森英亮 ,   三好邦達

ページ範囲:P.909 - P.912

 抄録:先天性内反足の足根骨の骨核出現時期および発育の遅延はよく知られている.しかし舟状骨の経年的変化について述べたものは少ない.
 筆者らは,内反足治療例34例46足の約3カ月間隔の一連の背底方向単純X線写真を基に舟状骨の骨核出現時期・経年的変化を調査した.初めて舟状骨骨核の確認できた時を舟状骨骨核出現時期とした.また,舟状骨の骨核面積の経年的変化を調査するために,6歳時,9歳時,12歳時における背底方向X線写真上の舟状骨の骨核面積を自動画像解析装置を用いて計測した.骨核出現時期は患側平均59.7カ月,対照平均38.6カ月,と患側では有意に遅延していた.骨核出現時期と臨床経過,臨床成績とは明らかな関連は認められなかった.舟状骨骨核面積は6歳時,9歳時においては対照と比較し有意に小さい値となったが,12歳時においては有意差を認めなかった.また,片側例のみにおいて患側と健側とを比較したが同様の結果であった.

CPPD結晶沈着症における手関節TFCC石灰化像と月状骨尺側変化

著者: 谷口泰徳 ,   山本剛史 ,   中谷如希 ,   吉田宗人 ,   玉置哲也

ページ範囲:P.913 - P.917

 抄録:CPPD結晶沈着症例で手関節TFCCに石灰沈着が観察された35例59手についてX線学的に検討を加えた.TFCC石灰化像の結晶沈着様式はTFCCの橈骨付着部より尺側方向に見られたもの54手(92%),TFCCの橈側に見られず尺側よりに見られたもの5手(8%)であった.この尺側のみに限局した症例は著明なulnar plus variance(5.0±0.7mm)を示し,橈骨付着部より出現したもの(2.0±1.9mm)と比較してulnar varianceに有意差(P<0.01c)を認めた.TFCCの橈側に石灰化が見られた群(n=54)の石灰化率は平均61.6±22.3%であった.月状骨尺側の関節症変化は87%と高頻度に見られ,TFCCの石灰沈着像と有意な関連を認めた.月状骨尺側の嚢腫像,不整像はTFCCの石灰沈着,一定のplus varlanceが原因と考えられた.月状骨尺側の硬化像は高度のulnar plus varianceが原因と思われた.

生体活性型セラミック椎間スペーサーを用いPLIFを行った腰椎変性辷り症

著者: 阿部栄二 ,   佐藤光三 ,   島田洋一 ,   佐藤毅 ,   千葉光穂 ,   奥山幸一郎 ,   楊国隆 ,   水谷羊一

ページ範囲:P.919 - P.927

 抄録:下肢神経症状を伴う腰椎変性辷り症35例に生体活性型セラミック椎間スペーサー(AWガラスセラミック,久以下AWGC)を用いてPLIFを行い,pedicle screwにて固定した.男性4例,女性31例,年齢は平均64歳.1椎間固定が29,2椎間が6例,術後経過観察期間は12カ月から30カ月,平均1年9カ月である.AWGCは自家骨でサンドイッチ状にはさんで1椎間に2個用いた.術後は軟性コルセットを2~4カ月間装着させた.自覚症状,ADLは術後早期から改善し,骨粗懸症を伴う変性辷り症例でも早期社会復帰が可能であった.また局所後弯変形の矯正により姿勢が良好となるため患者の満足度はかなり高かった.AWGCの使用は合併症もなく,安定した手術成績の獲得,手術侵襲と採骨部痛の軽減に有用であった.しかし,AWGCと母床間のclear zoneは術後1年で60%にみられ,X線上の骨結合には長期間必要とした.

悪性神経鞘腫の臨床

著者: 姥山勇二 ,   井復和男 ,   山脇慎也 ,   長井真人

ページ範囲:P.929 - P.937

 抄録:40例の悪性神経鞘腫について,von Recklinghausen病合併例(10例)と,非合併例(30例)とに分けて,その臨床病態について比較検討した,発生年齢はvon Recklinghausen病合併例の方が平均年齢で20歳若い結果となった,5年生存率は,von Recklinghausen病合併例は30.0%,非合併例は67.8%で大きな相違をみせた.組織像では,Triton型の予後がきわめて悪く,自験例5例は全例3年以内に死亡した.術前に神経症状を呈していた症例は,全体の20.0%と少なく,大半の主訴は無痛性腫瘤である.死因は肺転移が最も多く,直接死因の72.7%を占めた.放射線治療および化学療法による結果は非常に少なく,現時点では患者の早期受診と,局所再発をさせない原発巣の適切な外科的治療が,良い予後に結びつく手段といえる.

手術手技 私のくふう

Video assisted thoracoscopic surgery(VATS)の脊柱側湾症前方解離術への応用

著者: 川上守 ,   玉置哲也 ,   安藤宗治 ,   山田宏 ,   橋爪洋 ,   南出晃人 ,   岩﨑博

ページ範囲:P.939 - P.944

 抄録:video assisted thoracoscopic surgery(VATS)を用いた胸椎椎間板切除術を臨床に応用し得たので報告した.症例は19歳女性,立位Cobb角がT6-LI80°のrigid curveを有する特発性側弯症である.全麻下,左側臥位で右第7,8肋間にトロッカーを刺入し,VATSにてT7/8-9/10の椎間板切除を行った.手術時間は1時間,出血量は少量であった.前方解離術後の術中矯正X線像では53%の矯正が得られていた.続いてISOLA systemを用いてT4-L2までの後方固定術を行った.術後3日目に胸腔ドレーンを抜去し,歩行を開始した.術後4カ月の現在,56%の側弯矯正と良好な矢状面バランスが得られている.VATSによる前方解離術を側弯症例に応用し,手術侵襲,術後疼痛,美容の上で満足すべき結果を得た.本法は側弯症治療において基本的な追加手術になり得ると考えられるが,十分な動物実験による手技の獲得が必要であることを強調した.

整形外科基礎

前腕骨間膜の機能解剖―dorsal oblique cordを中心にして

著者: 中村俊康 ,   矢部裕 ,   堀内行雄 ,   関敦仁

ページ範囲:P.945 - P.950

 抄録:新鮮凍結屍体5体7肢を用いて前腕骨間膜の機能解剖を行い,従来報告されている腱様部と膜様部に加えて,骨間膜背側の尺骨近位1/4境界部から模骨中央部に向かい,腱様部とcrossする方向に走行するdorsal oblique cordを6肢に確認した.このcordは,前腕掌側の近位に存在する斜索と走行方向は同じであったが,より強靱で,手関節を遠位方向に引く牽引力に抵抗すると考えられた.前腕回内外に際して,骨間膜は中間位ではほぼ平面状を呈し,全体に緊張した.回内,回外位では腱様部の緊張が強かったが,腱様部の緊張する位置は移動した.一方,膜様部は支持性が少なく,回内外時,紙を折り曲げる様に容易にたわみ変形した.これらの結果から骨間膜の機能は筋間中隔,筋の起始,軸圧の分散・伝達と遠位方向への牽引力に抗するとともに,回旋を円滑にしつつ橈尺骨間の支持性を保つことにあると考える。

基礎知識/知ってるつもり

ガラス・セラミック

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.951 - P.951

 人工的に作った非金属性の無機の固体で結晶を含む材料をセラミックと呼ぶので,広い意味ではガラス・セラミックもセラミックに含まれる.狭義のセラミックは結晶のみの集合体(多結晶セラミック)か単結晶セラミック(例えば人工サファイア)である.整形外科で広く用いられる多結晶セラミックとしてはアルミナ,ジルコニア,合成水酸アパタイトがある.前二者は生体内で化学的に極めて安定であるが,合成水酸アパタイトは生体内で極めて徐々に溶出して骨組織と結合する性質をもっている.しかし,合成水酸アパタイトは燐とカルシウムのアパタイト結晶であるので機械的強度が皮質骨に比べて低いうえに,溶出の速度が遅いので骨と結合するのに2カ月以上かかるという欠点がある.
 このような欠点を克服する目的で作られたのがガラス・セラミックである.例えば京都大学で開発されたセラボーンAWは酸化アパタイトとウォラストナイトという2種類の結晶とガラス相とからなる複合材料である,したがって,セラミックとガラスの両方の性質をもっている.ウォラストナイトと呼ばれるSiO2-P2O5-CaO系の結晶は機械的強度がかなり大きいので,この結晶を含むセラボーンAW自体もその機械的強度は合成水酸アパタイトよりも,また,人の皮質骨よりも大きくなっている.しかし,一方ではセラボーンAWはガラス相をもっているので,その溶出が合成水酸アパタイトよりも速く,短時間(4週間以内)で骨と結合する性質をもっている.

整形外科英語ア・ラ・カルト・35

比較的よく使う整形外科用語・その2

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.952 - P.953

●Babinski reflex(バビンスキー・リフレックス)
 整形外科領域の医療でも,バビンスキー反射の重要性を感じることがあると思う.
 バビンスキー(Joseph Francois Felix Babinski 1857-1932)の父親Alexander(アレクサンダー)は,1848年にポーランドからパリに移住して来て,1857年にJosephが生まれた.ポーランド生まれの楽聖ショパン(F. Chopin)は,フランスで活躍し,“ショパン”とフランス流に発音されているから,“Babinski”も“ババンスキー”と発音されるべきである.

整形外科philosophy

pavlíkとIlizarov

著者: 鈴木良平

ページ範囲:P.954 - P.957

はじめに
 戦後50年間の整形外科の発展は目覚ましいものがあり,多くの輝かしい業績が挙げられている.独創的な技術の大部分はアメリカ,西ヨーロッパから輩出しているが,関節鏡などわずかなものを除くと,わが国が独自で開発したものは残念ながら余り見当たらない.一方,旧共産圏で開発された技術も同様に少ないが,その中にあって,世界的に素晴らしい貢献をしたものとして,チェコのPavlíkによるいわゆるRiemenbügel法と,旧ソ連のIlizarovによる創外固定法を挙げることができるであろう.お互いに両者は合い知ることなく他界したであろうが,両者に共通するのは情報に恵まれない地方で,独り黙々と長年の努力を重ねた結果の業績で,ノーベル医学賞に値するものと言っても過言ではないと思われる.ここに両者の独創性と,世界の整形外科にもたらした貢献について振り返ってみたい.

臨床経験

バイポーラー型人工関節の再置換例―インターロイキン6が人工関節の弛緩に関与したと考えられる1症例

著者: 関賢二 ,   笠井隆一 ,   池田俊彦 ,   河野弘昭 ,   滋野長平 ,   中村孝志

ページ範囲:P.959 - P.962

 抄録:Bateman UPF人工股関節の再置換術を行った症例について骨吸収に関与するサイトカイン,プロスタグランディンを検討した.ゆるんだ人工関節と臼蓋の間に存在した関節液様の液体中のIL-6,IL-Iβ,PGE2,TNF-αの値を測定し,このうちIL-6の高値が認められた.また,臼蓋を覆っていた結合織中にUltra-high molecular weight polyethylene(以下UHMWPEと略す)をとりまく多核巨細胞を認めた,今回の症例の検討からIL-6骨吸収に関与し,人工関節のゆるみを引き起こす,または加速する原因の一つとなり得ることが考えられた.

長期間自然経過を観察し得た胸椎動脈瘤様骨囊腫の1症例

著者: 小川祐人 ,   中西忠行 ,   飛騨進 ,   高橋正明 ,   井上元保 ,   矢部啓夫

ページ範囲:P.963 - P.967

 抄録:動脈瘤様骨嚢腫(以下ABC)を長期に経過観察した報告は少ない.今回われわれは8年間にわたり経過を観察し得た症例を経験したので報告する.
 症例は54歳,女性の対麻痺例で1982年に胸部の全周性の痛みで発症し,約10か月後に対麻痺を来し,某病院で転移性脊椎腫瘍であり治療不可能と診断された.しかし,その後2年経過するも症状が不変のため前医診断に疑問を抱き,当院を受診した.断層・myelography・CT-M・血管造影で第4~6胸椎のABCが疑われ生検で診断が確定した,その後,腫瘍摘出は行わず塞栓術を施行後,脊椎固定術のみを施行した.以後8年間,断層・CT・骨シンチで経過を追跡したが,その間腫瘍自体に画像上変化は認めなかった.

稀な発生機序により生じた外傷性股関節上方脱臼の1例

著者: 冨田文久 ,   大塩至 ,   畑山明広 ,   辻野淳 ,   近藤英司 ,   柳橋寧 ,   松野誠夫 ,   小熊忠教 ,   松野丈夫

ページ範囲:P.969 - P.972

 抄録:稀な発生機序により生じた外傷性股関節上方脱臼の1例を経験した.症例は81歳の女性で,歩行中に右股関節を過伸展,内転強制され転倒し受傷した.単純X線写真上,右大腿骨頭は臼蓋の骨折を伴い外上方に脱臼していた.容易に徒手整復可能であったが,外旋位で再脱臼し不安定性が強かった.三次元CTでは臼蓋の骨片の転位,大腿骨頭の骨欠損が認められた.不安定性,年齢,早期離床を考慮し右人工股関節全置換術を行った.発生機序はEpsteinが述べた外転,伸展ではなく内転,伸展と考えられ,強靱な腸骨大腿靱帯の臼蓋付着部で骨折が起こり,骨頭が外上方に脱臼したと考察した.転倒という低エネルギー外傷により発生した原因は,高齢者で骨粗鬆症が存在したこと,腸骨大腿靱帯の臼蓋付着部に力が集中したことの両者が考えられた.三次元CTは骨折を立体的かつ多方向性にとらえることができ病態の把握に有用であった.

特発性脊髄髄内出血の1例

著者: 牧田聡夫 ,   鎌田修博 ,   松本隆志 ,   丸岩博文 ,   加藤満子 ,   名倉武雄 ,   山中芳

ページ範囲:P.973 - P.976

 抄録:今回われわれは肩甲間部痛で発症し,その後急速に四肢麻痺に至った特発性脊髄髄内出血の1手術例を報告する.症例は43歳男性.肩甲間部痛で発症し,発症2週後両上肢,体幹臍以下のしびれ,右手握力低下が出現した.発症3週後MRIを施行し,C6-7高位にT1,T2強調画像にて高信号域を認め,脊髄髄内出血が疑われ精査入院予定であったが,発症4週後急激に麻痺が進行し四肢麻痺となったため緊急手術となった.C6-7高位でミエロトミーすると中心部に新旧混在する出血巣があり,周囲の灰白質は融解軟化し,壊死と思われた.術後上肢の麻痺は回復したが,両下肢の麻痺は改善しなかった.これまでの報告例同様麻痺進行後では術後に重篤な後遺症を残すことが多いため,MRIにて本疾患が疑われた場合,麻痺症状が軽度であっても,できれば軽度なうちに早急に手術を施行すべきである.

SLEに合併したステロイド性大腿骨顆部骨壊死に対し保存療法を行った3症例の長期経過

著者: 鈴木英一 ,   竹内良平 ,   和田次郎 ,   本橋政弘 ,   岡本連三 ,   腰野富久

ページ範囲:P.977 - P.981

 抄録:今回,全身性エリテマトーデスに合併した,ステロイド性大腿骨顆部骨壊死に対し保存療法を行った3症例の長期経過について調査したので報告する.対象は大腿骨顆部骨壊死患者の女性3例,6膝で,平均年齢は45.3歳であった.SLE罹病期間は平均14.3年,また追跡調査期間は,平均8.7年であった.調査は,立位単純X線像でX線学的進行度を横浜市大式ステロイド性膝骨壊死stage分類に基づき経過を検討し,加えて立位FTAの経時的変化をみた,臨床症状の評価を日整会RA膝治療判定基準(JOA score)を用いて行った.
 治療は全例,保存療法を施行した.病期が調査時に進行していたものは,4顆でそれぞれ1段階の進行を認め,新たに骨壊死が出現したものは8顆であった.立位FTAは,初診時平均178°,調査時177°であった.JOA scoreは,初診時平均95点,調査時87点とほとんど変化はみられなかった.

手根骨尺側長軸脱臼,有鈎骨鈎骨折合併の1例

著者: 中村潤一郎 ,   三谷晋一 ,   吉田修之 ,   伊藤淳 ,   服部美和

ページ範囲:P.983 - P.985

 抄録:ローラーに挟まれて受傷した手根骨尺側長軸脱臼の一例を経験したので報告する.患者は20歳,男性.手掌の一部が剥奪した挫滅創で,中指掌側面が模側を,環指掌側面が尺側を向くという特徴的な外観を呈していた.単純X線にて手根骨正中列と尺側列間の脱臼を認め,有鈎骨鈎骨折を合併していた.手術所見は,手根骨長軸脱臼と有鈎骨鈎骨折のほか母指球筋と小指球筋の損傷を認めたが神経血管損傷は認めなかった.術後,手掌皮膚の壊死および手根管症候群を合併したので手根管開放術と皮膚移植術を追加した.本症はKirschner wireで容易かつ確実な固定が得られ,軟部組織の損傷が少なければ予後は良好である.

膀胱直腸障害を呈した腰椎椎間板ヘルニア症例の検討

著者: 菅原修 ,   末松典明

ページ範囲:P.987 - P.990

 抄録;膀胱直腸障害を呈する腰椎椎間板ヘルニア症例の治療成績を,障害発生から手術までの期間と関連づけて検討した.1987年4月~1994年11月までの間に腰椎椎間板ヘルニアと診断し,手術を施行した87症例のうち,膀胱直腸障害をきたした6例(6.9%)を対象とした.膀胱直腸障害発症から手術までの期間が1週以内(平均4.6日)の3例をA群とし,1週以上(平均2.5カ月)の3例をB群として,2群間の治療成績を比較検討した.JOA scoreの自覚症状・他覚所見および日常生活動作については改善率に有意差は認められなかったが,膀胱直腸障害の指標として用いた和田ら(1983)の評価基準の改善率は1週までに手術を施行したA群で有意に良好であった.しかし,成績良好例においても全例何らかの膀胱直腸機能障害が残存しており,完全回復のためにはより早期の手術が必要である.

小児頚髄損傷の1例

著者: 村上英樹 ,   山田義夫 ,   森川精二 ,   堀井健志 ,   安念悟

ページ範囲:P.991 - P.995

 抄録:10歳の女児に発生した稀な外傷性頚髄損傷の1例を経験した.症例は,受傷時腱反射および知覚が正常で脊髄ショック期がみられず,骨傷が比較的軽度の割にMRI上脊髄の損傷は広範囲におよび,知覚は遅発性麻痺を呈するという特異な臨床像,経過をとった.C3/4椎間板レベルの脊髄が最も強く損傷を受け,この部分を中心に浮腫が広がったため遅発性に知覚麻痺が顕著となり,浮腫の軽減によって徐々に麻痺が回復したと考えられた.しかしC3/4椎間板レベルの脊髄に空洞形成が発生し,そのため軽度の上肢の麻痺が遺残した.本例では良好な麻痺の回復が観察されたが,これは小児の成長期における神経系の旺盛な順応性にあると考えられた.

大後頭孔部減圧術後に髄膜炎を併発したChiari奇形に伴う脊髄空洞症の1症例

著者: 井須豊彦 ,   小林延光 ,   鎧谷武雄 ,   山内亨 ,   中村俊孝 ,   田中徳彦

ページ範囲:P.997 - P.1000

 抄録:大後頭孔部減圧術後,髄膜炎,水頭症を併発したChiari奇形1型に伴う脊髄空洞症の1症例を報告した.症例は26歳,男性,右上肢,右胸腹部のしびれ感,右手脱力を主訴に来院.既往歴としては,1年3カ月前に他院にて,大後頭孔部減圧術が行われ,その後髄膜炎,水頭症を併発し,脳室腹腔交通術が施行された.当院入院時のMRIでは,Chiari奇形I型,脊髄空洞症(C2~conus medullaris)と診断され,cisterna magnaの描出は不明瞭であった.手術は,Th4レベルにて,空洞くも膜下腔交通術を施行した.術後経過良好で,しびれ感,脱力は改善し,空洞の縮小がみられた.
 大後頭孔部減圧術後に発生する髄膜炎は,術後に改善した大後頭孔部の髄液流通障害を再び引き起こし,術後成績不良の原因となり得るため,注意すべき合併症と考えられる.術後合併症の少ない手術法の選択が望まれる.

骨軟部悪性腫瘍の治療とインフォームド-コンセント―予報

著者: 和田卓郎 ,   森田幸悦 ,   村上俊吾 ,   笹木弘美 ,   薄井正道 ,   名越智 ,   石谷邦彦 ,   石井清一

ページ範囲:P.1001 - P.1005

 抄録:骨軟部悪性腫瘍の患者にどのようなinformed consent(IC)がなされたかを調査した.さらにICが患者のqality of life(QOL)に与える影響を検討した.対象は骨MFH 3例,骨肉腫2例を含む骨軟部悪性腫瘍13例で,平均年齢は34.9歳であった.13例中7例に対しては癌告知に相当する十分なICが行われていた.十分なICが行われた7例(告知群)と不十分な6例(非告知群)の間で患者の背景をretrospectiveに比較した.告知群は非告知群に比べ,performance statusで示される患者の病状が軽度で,予後が良好なものが多かった.告知群と非告知群の間で患者のQOLを比較した.QOLの評価は東札幌病院のscoring sytemを用いた.統計学的な有意差はないものの,告知群のQOLが高かった.病状の軽い骨軟部腫瘍の患者に対するICは,QOLを損ねることがなく,治療上有用と考えられた.さらに,進行期患者に対するICの進め方を考察した.

肩関節直立脱臼の1症例

著者: 小泉宗久 ,   神原幹司 ,   仲川喜之 ,   宮田重樹 ,   藤田烈 ,   山岡茂雄

ページ範囲:P.1007 - P.1009

 抄録:外傷性肩関節脱臼のうち,直立脱臼はきわめてまれである.今回われわれは,腱板断裂修復術後,約6年を経過し,直立脱臼を受傷,興味ある経過を観察し得た1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は74歳男性で,1993(平成5)年7月4日,坂道を歩行中,転倒し肩関節直立脱臼を生じた.麻酔下に牽引-対抗牽引法を用ることで,整復は容易であった.その後,痔痛もなく肩関節機能は良好であったが,約2カ月後に機序不明の肩関節痛と同部から側胸部にかけての腫脹をきたした.CT,関節造影等から,腱板断裂に伴う関節症変化を基盤にして,癒着・治癒しつつあった関節滑膜から出血を生じていたものと考えられた.1994(平成6)年4月現在,肩関節の疼痛は消失し,経過良好である.

血液透析患者に合併した第2頚椎歯突起骨折の1例

著者: 小野沢司 ,   井上謙一 ,   小沢一広 ,   佐藤寿一 ,   三宅康晴 ,   安藤政克

ページ範囲:P.1011 - P.1014

 抄録:長期透析患者にみられた第2頚椎歯突起骨折の1例について報告する.症例は41歳,男性.両結核性腎症による慢性腎不全のため21年の血液透析歴あり.スキーで転倒し受傷.画像所見上,骨折部に骨透亮像がみられ,ハローベストによる保存的治療で骨癒合得られず,受傷後7カ月時にBrooks法による後方固定を行い,後方の骨癒合は得られた.手術時に経口的に歯突起骨折部および周囲組織の生検を行い,組織学的にアミロイドの沈着が証明された.本症例はアミロイド沈着による歯突起の脆弱化のために骨折を起こしたと考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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