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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科30巻9号

1995年09月発行

雑誌目次

視座

医療の質を考える

著者: 大野藤吾

ページ範囲:P.1017 - P.1017

 我が国の“病気を治す”と言う見地からの医療の水準は,先進諸国の中で低い方ではないように思える.しかし,“病人を治す”と言う見地からの医療の質は,どうであろうか.特に,入院患者の基本的人権は守られているであろうか.入院患者の人権と言う見地から,日本の医療の質を見ると,G7はおろか先進20力国にも入らない極めて劣悪な状態と言わざるを得ない.現行の我が国の医療の質は正に「安かろう悪かろう」の昭和20年代の日本製品のようなレベルである.
 そろそろ国民全体が現行の国民皆保険制を見直す時期にきているのではないか.患者側から,患者の受ける医療の質についての抗議の声が上がる時期ではないかと思う.

論述

急性期頚髄損傷のMRIと造影MRIによる予後の予測

著者: 森英治 ,   芝啓一郎 ,   植田尊善 ,   白澤建蔵 ,   大田秀樹 ,   力丸俊一 ,   加治浩三 ,   三原隆 ,   吉兼浩一 ,   河野修

ページ範囲:P.1019 - P.1028

 抄録:受傷後10日以内の早期MRIと受傷約2週後の造影MRIを基にして,受傷約2週の時点における頚髄損傷例の予後の予測につき,96例を対象として検討した.受傷早期T2強調画像を次の3群に分類した.I群:損傷脊髄部に低信号領域を示す像.II群:高信号領域のみを示す像.III群:信号変化を示さない像受傷約2週後の造影MRI所見を次の3型に分類した.R型:損傷脊髄部の辺縁がrim状に造影される像.NR型:造影はされるがrim状とはならないnot rim enhanceの像.N型:造影されない像.I群はほとんど(80%以上)完全麻痺であり,III群は全例不全麻痺であった.R型は全例完全麻痺であり,N型は全例不全麻痺であった,II群の造影NR型には完全も不全麻痺もみられたが,その鑑別には造影形態の相違も参考になった.受傷早期のT2強調画像所見でも予後の予測は可能であるが,受傷約2週後の造影画像所見を加えることにより,さらに向上した.

頚椎カリエスの治験例

著者: 大山泰生 ,   大谷清 ,   谷戸祥之 ,   斉藤正史 ,   柴崎啓一

ページ範囲:P.1029 - P.1035

 抄録:過去10年間に当院で入院治療を行った頚椎カリエス新鮮例につき検討した.この間の全脊椎カリエスは180例で,頚椎カリエスは5例(2.7%)であった.内訳は男性1名,女性4名,入院時平均年齢65.4歳で,4例に麻痺を合併した.全例に手術(病巣郭清,脊椎固定術)を行い,麻痺の回復が認められた.
 結核の既往のあるものは1例のみで,5例中3例は当初,転移性脊椎腫瘍,変形性頚椎症の診断で治療を受けていた.また,1例は肺結核を含め,他の部位に結核病巣は発見されなかった.
 頚椎カリエスは脊椎カリエス全体の1~5%と稀である.肺結核の既往の明らかでない例も多く,患者数の減少,高年齢化も加わって,頚椎カリエスは転移性脊椎腫瘍,化膿性脊椎炎,変形性頚椎症,骨粗霜症による圧迫骨折等との鑑別が問題となる.今後とも頚椎の破壊性の病変を見たとき,頚椎カリエスも念頭に置く必要がある.

脳性麻痺の亜脱臼股に対する大腿骨骨切り術

著者: 野村忠雄 ,   林律子 ,   西村一志 ,   加畑多文

ページ範囲:P.1037 - P.1044

 抄録:大腿骨減捻内反骨切り術を施行した脳性麻痺(CP)の股関節亜脱臼33例37股の成績を調査した.手術時平均年齢は8.6歳であった.追跡時移動能力が1ランク以上向上したものは4例で,術前の運動機能までに回復する期間は平均11.7カ月であった.股関節の外転可動域には改善をみなかった.X線像での改善はCE角で術前-6.1が追跡時13.0°となり,migration percentage(MP)はそれぞれ57.2%が34.4%に,みかけの頚体角は160.7°が130.8°に,Sharp角が53.3°が48.1°となった.追跡時判定で優は22股59.5%,良は10股27.0%,可は4股10.8%で,不可(完全脱臼)は1股(2.7%)であった.手技上の問題のあったものや臼蓋形成不全が残存したものの成績は不良であった.CPの股関節亜脱臼には軟部組織解離術を第1選択とすべきであるが,不安定性が進展するものにはDVOは有効な手段である.しかし,8歳以後で術前Sharp角が55°以上の症例ではその後の臼蓋のremodelingに限界があった.

腰椎分離症の椎弓根骨棘(pedicular spur)と分離部直接修復術

著者: 西島雄一郎 ,   山崎安朗 ,   東田紀彦 ,   越田昌宏

ページ範囲:P.1045 - P.1052

 抄録:神経根症状を示す腰椎分離症21例に対して神経根圧迫に関与している,椎弓根部から生じた骨棘(pedicular spur)を切除して,神経根を除圧した後,分離部直接修復術で治療した.分離部の固定にはBuck法,Scott wiring法,compact CDを用いた.術前,全例でpedicular spurをCT像で確認した.神経根圧迫はこのpedicular spur単独によるものに加え,上位椎間板ヘルニア,ring apophysisの解離などがさらなる神経根絞扼の原因となっていた.15例の平均経過期間3.1年の直接検診による予後調査では,JOAスコアで,術前平均18点から術後26点と改善した(改善率80%).腰椎分離症の神経根症発症にはpedicular spurが関与し,その手術法として,pedicular spur切除による神経根除圧と分離部直接修復術が有効である.

検査法

腰椎疾患におけるMRミエログラフィーの経験

著者: 山口潔 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   村上正純 ,   守屋秀繁 ,   北原宏 ,   守田文範 ,   中野喜正 ,   石井照之

ページ範囲:P.1053 - P.1056

 抄録:腰椎椎間板ヘルニア,脊柱管狭窄症等の退行性腰椎疾患においてMRミエログラフィーの撮像を試みた.MRIは,GE社製シグナアドバンテージ1.5Tを用い,3次元撮像モードであるSSFP法にて画像データを収集し,脳脊髄液を強く高輝度に描出した.撮像時間は約3分間である.本法により,椎間板ヘルニア例では従来の脊髄腔造影像と同様の画像が得られ,脊柱管狭窄症例では従来の脊髄腔造影でのブロック部より末梢の描出が可能であった.本法は画質がやや劣るものの,将来的に従来の脊髄腔造影検査にかわりうる可能性があり,新しい非侵襲的検査法として有用であると考えられた.

手術手技 私のくふう

慢性関節リウマチにおける足底皮切を用いた中足骨頭切除術

著者: 保川英一 ,   政田和洋 ,   村田紀和

ページ範囲:P.1057 - P.1061

 抄録:23例38足の慢性関節リウマチの前足部変形に対して足底皮切を用いて中足骨頭切除術を行い,術後の手術創の問題点を検討した.手術創が肥厚性瘢痕となったり,閉鎖不全をきたした症例はなく,術後に手術創そのものが臨床的に問題となった症例はなかった.6足に中足骨の切除端に一致する胼胝形成がみられたが,いずれも骨切除量の不足が原因であると考えられた.歩行時痛が強い3例は,中足骨の再切除術により疼痛は消失した.慢性関節リウマチの背側脱臼をきたしたMTP関節に対して中足骨頭切除術を行う場合,足底皮切は,神経・血管・屈筋腱を損傷する危険が少なくかつ容易に中足骨頭を展開できる優れた方法と考えられる.

腰仙椎固定に対するinstrumentationの工夫

著者: 川上紀明 ,   見松健太郎 ,   加藤文彦 ,   松山幸弘 ,   出口正男 ,   斉藤晴彦 ,   岩田久

ページ範囲:P.1063 - P.1067

 抄録:腰仙椎固定において強固な固定力,より容易な手術手技を目的としてCompact CD(CCD)のChopin仙椎blockとTSRH universal systemのvariable angle screwを組み合わせた手術方法を考案した.両者の連結は初期にはCDの径7mm rodを使用したが,負荷試験の結果を踏まえ,CCDの径6mm rodに変更した.対象は7例で,疾患としては第5腰椎分離すべり症4例,転移性脊椎腫瘍1例,massive osteolysis 1例,osteoporosisによる圧迫骨折1例であった.経過観察期間は平均10カ月であるが,instrumentationに起因する合併症は認められなかった.本方法はpedicle screw設置に習熟した脊椎外科医にとっては技術的には全く問題なく,variable angle screwを用いることでrodの設置も容易となる.また,臨床的にも固定性には問題なく,十分その使用に耐えうる固定方法であると考えられた.

追悼

近藤鋭矢先生を偲んで

著者: 野島元雄

ページ範囲:P.1069 - P.1069

 去る平成7年5月13日不帰の客となられた近藤鋭矢先生のご冥福をお祈り申し上げます.
 私は,昭和23年(1948)10月,京都大学整形外科に入局以来,今日まで,直接,間接的に,厳しいなかにも温情に満ちた御教導をいただいたことに深く感謝申し上げます.昨秋,病床に臥され,奥様の暖かい介護を受けられておられる際御見舞申し上げましたが,その際,「野島君も長生きしたまえよ」とにっこり話されたお顔が,私の脳裏に刻み込まれ,自戒,自重のよすがとしております.

整形外科英語ア・ラ・カルト・36

比較的よく使う整形外科用語・その3

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1070 - P.1071

●Brodie's abscess(プロディーズ・アプセス)
 “プロディー骨膿瘍”は大変に有名な疾患であり,外科学教科書にも記述されている.本誌,1984年9月号の“整形外科を育てた人達”第19回に天児民和先生が,英国の外科医“Benjamin Conins Brodie”のことを述べられている.天児先生と私自身の文献を参考にしながら,プロディー(Sir Benjamin C. Brodie 1783-1862)のことを簡単に述べたい.
 彼は1783年6月8目英国の西南部のウィルトシャー(Wiltshire)地区のウインタースロー(Winterslow)という小さな村で生まれた.ブロディーの祖先はスコットランドの名門であったが,1649年に英国に移って来た彼の父は教会の牧師であり,ベンジャミンは6人兄弟の4番目の子供であった.父が子供たちの教育を行っていたが,1801年彼が18歳のときにロンドンに行き,医学教育を受けることになった.父の幅広い知己関係のために良き師に恵まれ,ジョージ国王の病院として創られた“St. George Hospital”の外科で修業することになった.1805年に22歳の若さで外科医になり,その後しばらく解剖学の講師に任じられていたが,1808年に“St. George Hospitar”の外科に勤めるようになった.

基礎知識/知ってるつもり

ACL isometric point

著者: 守屋秀繁

ページ範囲:P.1072 - P.1073

 【ACL再建とisometric pointの考え方】
 正常の前十字靱帯(以下ACLと略す)は複雑な構造を有しており,現在の再建技術ではこれを再構築することは不可能である.ほとんどの再建法がsimple bandによる置換であるため,本来単純な蝶番関節ではない膝関節にisometric pointといった概念が持ち込まれた.
 ACLが膝の動きに連れて常に一定の距離やtensionを保っているわけではないことは,かなり以前から知られている,1920年,すでにHeyGroves5)は膝の伸展でACLが緊張すると報告している.また,その後の研究でACLを2つまたは3つのbundleに分け,膝の屈曲によりanteromedial bundleが緊張し,posterolateral bundleが弛緩することがわかった.どのbundleもisometricではなく,屈曲角度に応じて相互的に作用し,stabilityを得ているのである.

臨床経験

腰椎OPLLに合併した腰椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 大坪隆 ,   加藤浩 ,   飯田惣授

ページ範囲:P.1075 - P.1078

 抄録:症例は50歳女性.左下肢の激痛を主訴に来院した.神経学的には左L5神経根障害を認め,単純X線像ではL4/5高位で後縦靱帯の骨化を認めた.椎間板造影後CT像でOPLLの左外側縁に向かって造影剤の流出が見られ,症状発現は椎間板ヘルニア脱出による神経根症と診断した.手術を施行,ヘルニア腫瘤を摘出した.術後9カ月の現在,左下肢痛は消失し,原職に復帰している.腰椎OPLLが症状を呈する場合,OPLLそのものによる馬尾障害と椎間板ヘルニアの併発による神経根障害が挙げられる.下位腰椎発症例では本症では本症のことく,椎間板ヘルニアによる神経根障害が多い,また病態の把握には椎間板造影が有用で,椎間板ヘルニア合併例ではヘルニア摘出のみで良好な成績が得られる.

下垂体機能低下を伴う大腿骨頭すべり症の1例

著者: 佐藤宗彦 ,   菅野伸彦 ,   増原建作 ,   高岡邦夫 ,   小野啓郎

ページ範囲:P.1079 - P.1082

 抄録:汎下垂体機能低下症を伴った大腿骨頭すべり症の1例を経験し,内分泌学的所見および骨生検標本の組織所見について検討した.19歳男性,左大腿骨頭すべり症の診断のもと,左大腿骨の三次元骨切り術ならびに腸骨稜と右大腿骨頭より骨生検術を施行した.また内分泌学的検索により汎下垂体機能低下特に性ホルモンの著明な減少を認めた.腸骨稜と大腿骨成長軟骨の組織像を比較検討することにより,内分泌異常が軟骨基質の脆弱化をもたらし,これに肥満などの力学的負荷が加わることにより骨頭すべりが生じたと考えられた.

劇症型A群連鎖球菌による下腿壊死性筋炎の1例

著者: 神野哲也 ,   佐藤浩一 ,   野本栄 ,   渕岡道行 ,   松岡正 ,   古屋光太郎

ページ範囲:P.1083 - P.1087

 抄録:近年A群溶連菌感染の重症化例が注目されている.これらは軟部組織の壊死性炎症と多臓器障害とを特徴としtoxic shock-like syndrome(TSLS)と呼ばれる.今回われわれはTSLSに至った下腿壊死性筋炎の1例を経験し,早期débridementにより救命し得たので若干の文献的考察を加えて報告する.
 症例は32歳女性,誘因なく生じた強い左下腿痛を主訴に来院した.化学療法は効果なく左下肢は著明な腫脹をきたし,水疱,糜燗等の皮膚症状も認めた.またDIC,MOFに至る急速な全身症状の悪化も伴った.発症6日目に局所débridementを施行した結果,症状は急速に消退,壊死筋切除による下垂足を残すも約3カ月の経過で治癒した.組織学的には強い細胞浸潤を伴った広範な筋肉壊死であり,壊死性筋炎と診断された.また切除筋組織よりA群溶連菌が検出され,TSLSの診断基準に合致した.

1年の経過に4椎間に発生した腰椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 川原央 ,   木田浩 ,   高原光明 ,   田畑四郎 ,   山口栄 ,   相澤利武 ,   加藤喜弘 ,   伊左治洋之 ,   松浦一平 ,   金子昇

ページ範囲:P.1089 - P.1092

 抄録:1年の経過で4椎間に発生し,3度の手術を行った腰椎椎間板ヘルニアの1例を経験した.症例は66歳,男性,1993(平成5)年5月,左L5根性疼痛を主訴として来科.同5月18日,左L4/5を第1回手術.術後,左L5根性痙痛は消失したが,右L2以下,左L3以下に麻痺が発生した.両下肢筋力はMMTでP~Tであった.理学所見,画像所見上,Ll/2椎間板ヘルニアと診断し,同6月8日,第2回手術を施行した.術所見は髄核脱出であった,術後,筋力はMMTでGまで回復したが,知覚鈍麻は残存した.1994(平成6)年5月に,左L3以下の知覚鈍麻が悪化.画像上,L2/3,L3/4椎間板ヘルニアと診断,同6月14日,第3回手術を施行した,L2/3は髄核遊離に近い跳ね上がり型の髄核脱出であった.術後,知覚鈍麻は軽減し,両下肢筋力はMMTでNに回復し,ADL上支障なく,元の仕事に復帰した,MRI上,ヘルニアの残存はない.

脊髄症を呈した広範囲頚椎後縦靱帯肥厚症の1例

著者: 堂埜秀文 ,   藤田隆生 ,   藤戸完典 ,   岩波寿子 ,   長谷斉 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.1093 - P.1096

 抄録:脊髄症を呈した広範囲頚椎後縦靱帯肥厚症に対し,手術的加療を行い良好な結果を得た.症例は54歳の男性で,両下肢に知覚鈍麻と筋力低下および高度の巧緻運動障害を認め,軽度の歩行障害を伴っていた.単純X線像,断層撮影像ともに靱帯の骨化所見は認めなかったが,CTでC6椎体上縁の後方で椎体とは非連続性の小骨化陰影を認めた.またMRIの矢状断で脊髄はC3からC6にかけて前方よりT1,T2強調像で低信号を示す組織による高度の圧迫を認め,頚椎後縦靱帯肥厚症と診断した.脊柱管拡大術を施行後,症状は著明に改善し,原職に復帰した.後縦靱帯骨化による脊髄症はよく知られた疾患であるが,近年MRIの普及に伴い本症の報告が散見され,後縦靱帯骨化症の前駆状態ではないかとの議論が盛んである.本症例は広範囲に連続性の肥厚がありその中にすでに小骨化巣がみられ,今後後縦靱帯骨化症に進展する可能性が示唆され現在も経過観察中である.

腱内断裂を合併した肩腱板完全断裂手術例の術後成績

著者: 加藤喜弘 ,   田畑四郎 ,   相澤利武

ページ範囲:P.1097 - P.1099

 抄録:当科では腱内断裂を合併した肩腱板完全断裂に対し,補助切開を加えた後十分に新鮮化し重畳縫合を加える操作を行っている.腱板完全断裂手術例で腱内断裂合併群,非合併群間で術後成績を比較検討した.50歳,60歳代男性でMcLaughlin法の施行例を対象とした,腱内断裂合併群は12例,非合併群は10例である。術後評価はサイベックス340を用いて外転,外旋筋力の測定も行った.
 合併群で痔痛消失まで長期間を要したが,調査時の日整会判定基準(JOA score),筋力の回復には差を認めなかった.
 腱内断裂を合併した腱板完全断裂に対するわれわれの手術法は,浅層と深層の一体化の早期促進と,腱に過度の緊張を加えることなく修復できる利点がある.

胸骨骨折を伴い進行性後弯変形を呈した多発性胸椎骨折の1例

著者: 畠山雄二 ,   阿部栄二 ,   佐藤光三 ,   片岡洋一 ,   岡田恭司

ページ範囲:P.1101 - P.1104

 抄録:肋骨で胸椎に連結された胸骨は胸椎の第4のcolumn(stabilizer)といわれている.本例は胸骨骨折と胸椎損傷が合併して後弯変形が進行したと考えられる例である.症例は33歳男性.車外へ投げ出され受傷.近医で,全身打撲,T3,5,8圧迫骨折の診断で硬性コルセット(TLSO)装着.しだいに前胸部と背部痛が増強し受傷後7カ月目に当科紹介となった.胸骨は2箇所で骨折して変形し,T3の圧迫骨折とT5,8の破裂骨折のため,T4-9で47゜(受傷時42°)の後弯変形がみられた.T3~8の帯状知覚鈍麻と両下肢腱反射の亢進も認めた.胸骨の変形は骨折部の2箇所で矯正固定し,T8は椎体亜全摘して除圧矯正固定,T5は後弯変形の矯正のみ行った.術後18カ月の現在T4-9の後弯は36゜に改善し,骨癒合は良好である.

先天性脊椎骨端異形成症の1例

著者: 二井英二 ,   矢田浩 ,   西山正紀 ,   小保方浩一 ,   山崎征治

ページ範囲:P.1105 - P.1108

 抄録:比較的稀な先天性骨系統疾患のひとつである先天性脊椎骨端異形成症(以下SED congenita)の成人例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告した.症例は,46歳,男性で.顔面,頭蓋は正常,低身長,四肢体幹の短縮が著明で,外反膝,腰椎前弯,軽度の側弯などを認めた.Wynne-Daviesらは,多くの臨床的異質性の存在を指摘し,低身長の重症度と内反股の重症度は比例するとしているが,本症例は明確な分類は出来なかった。鑑別診断としては,Morquio病,捻曲性骨異形成症,変容性骨異形成症,Kniest骨異形成症,Dyggve-Melchior-Clausen骨異形成症,脊椎骨幹端異形成症などがあげられるが,Morquio病が鑑別上もっとも重要である.また,SED congenitaでは,大腿骨骨頭の変形が高度である症例が多いが,本症例のように高度の骨頭変形がみられても,疼痛がみられない症例も少なくなく,小児期での疼痛予防のための観血的療法は,慎重に考慮されるべきであると思われた.

遠位関節拘縮症の1例

著者: 山田晋 ,   石原芳人 ,   永澤雄 ,   加賀谷斉 ,   吉田能理子 ,   遠藤博之

ページ範囲:P.1109 - P.1112

 抄録:遠位関節拘縮症1型の1例を経験した.症例は生後1カ月の女児で,生下時からの両手指と右足部の変形を主訴に来園した.家族歴,既往歴,妊娠経過に特記すべきことはなかった.初診時,両手指の屈曲拘縮とoverlapがみられ,右足部は外反扁平足を呈していた.両手関節,両足関節に可動域制限を認めたが,その他の関節可動域は正常であり,合併奇形は存在しなかった.入園時より関節可動域訓練および矯正副子による治療を施行し,両母指の屈曲内転拘縮は残存しているがその他の関節拘縮は著しく改善した.

頚椎に発生した動脈瘤様骨嚢腫の1例

著者: 村田英之 ,   串田一博 ,   町田晃 ,   森田信敏 ,   井上哲郎

ページ範囲:P.1113 - P.1116

 抄録:症例は14歳,男性.誘因なく右頚部から上腕の痔痛が出現し受診した.右斜頚位をとり,神経学的には上腕三頭筋の軽度筋力低下以外異常はなかった.頚椎X線像では,第6頚椎の圧潰,融解性変化,右椎弓根の消失がみられた.CTでは椎体内部は空洞化し,椎体の右前方に膨隆性嚢腫が,右椎弓根と椎弓にc腫様変化がみられた.開放生検の2週間後,部分的腫瘍掻爬,圧潰部整復,腸骨を用いたC5-C7の前方固定を行った,術後7カ月時には骨化が現れ,2年半後には椎体内の空洞はほぼ消失し,3年の現在再発はない.
 脊椎に発生した本腫瘍の手術療法は,全切除が難しい,固定法に難渋する,易出血性などの問題をもつ.自然治癒例や開放生検のみでの治癒例が少なくないこと,不完全切除での再発率は高いが,再発しても再手術にて多くが治癒することを考慮すると,本症に対しては,腫瘍の全切除にこだわることなく,まず掻爬や部分切除を行うべきと考える.

特発性手舟状骨壊死の1例

著者: 阪田武志 ,   日高典昭 ,   露口雄一 ,   土井照夫

ページ範囲:P.1117 - P.1120

 抄録:発症頻度が稀とされている手舟状骨に生じた特発性骨壊死の1例を経験したので報告する.症例は34歳,男性,特に誘因なく左手関節痛が出現し,増強してきたため来院した.X線像で左手舟状骨近位部に骨硬化,遠位部に複数の嚢腫様陰影を認めた.MR上,Tl強調像で近位部は低信号,遠位部は低信号域と高信号域が混在していた.T2強調像では全体的に低信号を示し,骨嚢腫部に一致して高信号域を認めた.生検時の組織学的所見はempty Iacunaeを有する壊死骨梁と一部に新生骨がみられた.特発性手舟状骨壊死と診断し,手術を施行した.壊死骨を掻爬後,腸骨より採取した海綿骨を移植し,続いてKawai7)らの方法に従い方形回内筋付き骨移植を行った.術後1年6カ月を経過した現在,左手舟状骨のcollapseは認められず,経過良好である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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