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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科31巻1号

1996年01月発行

雑誌目次

巻頭言

第69回日本整形外科学会学術集会を開催するにあたって

著者: 矢部裕

ページ範囲:P.2 - P.3

 明けましておめでとうございます.
 第69回日本整形外科学会学術集会を担当させていただきますことを大変光栄に思います.同学術集会は平成8年4月11日(木)から4月14日(日・午前)まで東京・品川の新高輪プリンスホテルで開催致します.

シンポジウム 腰椎変性すべり症の手術

緒言/「腰椎変性すべり症」治療の方向付け

著者: 富田勝郎

ページ範囲:P.4 - P.5

 このところ整形外科関連学会や研究会で「腰椎変性すべり症」がシンポジウムや主題に取り上げられることが多くなっている.その理由となる背景を考えてみると,ひとつには高齢化社会に伴って腰椎変性の最終段階としての変性すべり症の患者が増えてきていること,もうひとつにはそれに対する治療が迫られている脊椎外科医サイドにまだ充分納得行くような治療体制が整っていないことに基づいているように思える.特に後者の確立が急務な課題となってきているゆえであろう.
 実際この疾患に対して,当面の症状のみを問題にすれば保存的治療でも充分な場合もあるし,逆にbiomechanicalに理に叶った手術を行おうとすれば勢い侵襲が大きくなってover treatmentだというそしりをも招き兼ねない.安全確実に腰痛・神経痛から解き放つのが目的であるとはいえ,同時に長期にわたって安定した治療効果をねらおうとすれば,いろいろな程度の病態があるこの疾患を一つの治療方針で貫こうとするのにはいささか無理があるように思われる.しかし最近のシンポジウムを聞いていると,少なくとも会場内では各自の意見が対立したままでなかなかお互いに譲らない激しい議論が交わされている.この熱気は会場の聴衆者としては楽しみのひとつでもあるが,その一方で路頭に放り出されたままの「迷える子羊」になったような気分にもなる.

非固定・選択的除圧術をめぐって

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.6 - P.12

 抄録:腰椎変性すべり症に対する非固定・選択的除圧術の適応,手術の時期,術式のポイント,および短期の手術成績について述べた.良好な脊柱のalignmentは,腰痛と下肢症状に与える影響は逆の関係にある.除圧術,固定術各々の問題点を今後明らかにすることが望まれる.そして,固定術併用による利害損失を真に比較し得る群での評価が今後なされなければならない.腰椎変性すべり症に対しての術式適応の是非は,症状の内容によって全く異なっており,手術に対する期待度も異なる.prospective studyによって除圧術の効果と固定術の効果を大別して評価する必要がある.また,術式に関係のない手術それ自身の限界に対しても評価されるべきである.

脊椎固定を併用しない腰椎椎管拡大術症例の検討

著者: 小田裕胤 ,   河合伸也 ,   淵上泰敬 ,   白石元 ,   金子和生 ,   豊田耕一郎

ページ範囲:P.13 - P.22

 抄録:腰椎変性すべり症はその発生機序に椎間関節を含む後方要素が深く関与し,すべりの発生とともに椎間関節には内側,外側および頭尾側方向への著しい増殖所見を呈す.この頭尾側の増殖性変化はX線斜位像で関節幅として描出され,その増大は結果として椎間可動性には制動に作用する.腰部脊柱管狭窄症状を呈する腰椎変性すべり症の手術的治療に際しては,すべりの下位椎の後上縁の切除や椎間関節の内側を含めた全周性の除圧が原則であり,加えて腰椎椎管拡大術の術式にて制動効果を有する増殖した椎間関節の外側部分の温存を図れば脊椎固定術の併用は避けられると判断した.術後6ヵ月以上経過した49症例の平均3年の成績は,優+良が94%と良好である.術後の椎間可動域は全例に減少し,全周性の除圧操作により硬膜管は前方へシフトし,その形態に沿った脊柱管前壁が新たに形成され,CTでは拡大された脊柱管が長期的にも再狭窄なく維持されていることが確認された.

腰椎後側方固定(PLF)術を中心に

著者: 神原幹司 ,   宮田重樹 ,   藤田烈 ,   石崎嘉孝 ,   竹嶋俊近 ,   小泉宗久

ページ範囲:P.23 - P.30

 抄録:腰椎後側方固定術(以下PLFと略す)において,その骨癒合を正確に判定するため,PLF症例で追跡可能であった145例,154椎間の単純X線6方向およびCTを併用し,偽関節症例を3つの型態に分類し,骨癒合判定へと発展させた.正確な判定が可能である.また,1980年9月より1993年10月までの期間に当院で腰椎変性すべり症に対し手術治療を行った28症例を検討し報告する.男性7例,女性21例,手術時年齢は42~75歳,平均61.5歳で,その平均経過観察期間は6年5ヵ月であった.PLF骨癒合率は85.7%,術後成績はJOA scoreで術前19.5点が術後25.3点へと改善がみられた.さらに,後内側枝損傷に基因すると考えられる多裂筋損傷がMRIで,特にT2強調像でとらえられることを報告する.最後に骨癒合率の向上を期待して移植骨を横突起に,高強度ポリ-L-乳酸性接合材でスクリュー固定する方法を導入した.

内側椎間関節切除とcombined distraction and compression rod system併用の後側方固定術

著者: 佐藤栄修 ,   金田清志 ,   日野浩之 ,   鐙邦芳 ,   藤谷正紀

ページ範囲:P.31 - P.37

 抄録:腰椎変性すべり症に対する内側椎間関節切除術とcombined system併用の後側方固定術後5年以上経過の122例を調査した.除圧は椎間関節内側部と椎弓の部分切除によるlateral recessの解放が基本で,central stenosisには椎弓腹側部のドーム状削除を追加することで満足すべき神経学的改善が得られた.後側方固定術の追加はすべり部の安定化をもたらし長期的な臨床症状の改善を保証した.combinedsystemは早期離床にもかかわらず高い骨癒合率(97.5%)と生理的前弯の獲得に有用で安全で簡便なinstrumentationであった.

後側方固定とpedicle screwの併用

著者: 司馬立

ページ範囲:P.39 - P.44

 抄録:腰椎変性すべり症は,脊椎不安定性として捉えられるが,手術適応となる症例はほとんどが脊柱管狭窄症の症状を訴えるものである.したがって,後方除圧と固定とが最も合理的な治療法と考える.後側方固定術とpedicle screwの併用は,良好な脊柱アライメント下での骨癒合を得ることが可能であり,本症に適した手術法である.
 pedicle screw法は,重大な合併症を惹き起こす危険性があるが,手術手技を習熟し,十分な術前検討を行うことにより,それら合併症は防止し得るものである.しかしながら,骨粗鬆症を有する症例や,術前に後屈位でのX線像で局所後弯の矯正されない症例に対しては,後側方固定術とpedicle screw systemの使用には限界があるものと考える.

Zielke transpedicular screw fixation法併用による後方除圧術と後側方固定術

著者: 森英治 ,   芝啓一郎 ,   植田尊善 ,   白澤建蔵 ,   大田秀樹 ,   力丸俊一 ,   加治浩三 ,   三原隆 ,   柳田敏晴 ,   四維浩文 ,   今澤良精

ページ範囲:P.45 - P.49

 抄録:腰椎変性すべり症に対して当該椎間(1椎間)のみの後方除圧術と後側方固定術にZielke transpedicular screw fixationを併用した40症例(男19例,女21例)を対象として,臨床成績,画像所見などにつき調査した.術前40例全例にみられた歩行障害は,術後不変の1例を除いた39例にJOA scoreによる1段階以上の改善が得られ,34例にみられた間欠性跛行も31例では消退した.日常生活動作を除いたJOA score(15点満点)の評価では術前平均6.1点が術後平均11.8点となり,平均改善率は65.8%であった.平均%slipの推移は術前,術直後,調査時には各々14.4%,9.3%,10.8%であり,平均slipangleの推移も同様に3.8°,6.8°,4.9°(いずれも前弯位)であった.本法ではすべりの矯正,保持は得られず,術前の側面中間位とほぼ同じ状態であった.しかし,臨床成績は比較的良好であり,後方除圧・固定術が十分かつ適切に行われれば,あえて矯正にこだわる必要はないものと考える.

後方進入椎体間固定(PLIF)術の検討

著者: 吉沢英造 ,   中井定明 ,   西沢活史 ,   小林茂 ,   森田千里 ,   志津直行

ページ範囲:P.51 - P.57

 抄録:PLIFは椎間関節の解離と椎体間郭清により,すべりの整復と椎間腔拡大が確実かつ容易に得られ,移植母床として最適な椎体間に充分な移植骨を充填できる良い手術法である.
 術後2年以上経過した自家骨移植例32症例と術後1年以上経過した同種骨移植例12症例を追跡調査した結果,自家骨移植で15.2%にcollapsed fusionまたはnon-unionを生じ,それらの術後成績はfusion in situに比較して劣っていた.pedicle screwの併用によりその発生は著明に減少したが,背面に大きな死腔が形成されることに問題があり,内固定材の更なる改善が必要と考える.同種骨移植では全例にpedicle screwを併用し,移植骨の椎体内陥入が1例に見られたのみで,collapse,non-unionは生じていない.同種骨には血液感染症の問題がまだ残されているものの,手術をより簡略化できる利点があり,骨銀行の普及と充実が望まれる.

腰椎固定の際のPLFとPLIFの使い分け

著者: 川原範夫 ,   富田勝郎 ,   畑雅彦 ,   水野勝則

ページ範囲:P.59 - P.64

 抄録:L4/5椎変性すべり症に症して,後側方固定(PLF)を行った26例とMoss-Miami systemを用いて後方進入椎体間固定(PLIF)を行った10例についてX線学的調査を行った.PLFを行った26例中21例に骨癒合を認め,5例に偽関節を認めた.すべりの進行は術前椎間板高の保たれていた例に多く見られ,骨癒合を認めた21例中14例に平均7%のすべり進行を認めた.骨癒合を認めた21例中14例は前弯位で癒合が完成していたが,7例は後弯位で癒合が完成していた.その7例は術前腰椎中間位側面で,すでに生理的前弯が消失し,後弯傾向にあったものであった.PLIFを行った10例全例に椎体間骨癒合を認め,alignmentおよび椎間板高の矯正・維持がなされていた.以上より,腰椎alignmentおよび椎間板高の長軸方向の矯正の必要がある腰椎変性すべり症はPLIFの適応と思われた.一方,PLFで十分対応可能なものはすべりの程度および不安定性がごくわずかで椎間板の変性が未だ初期のもの,もしくは逆に椎間板高がほぼ消失しrestabilizeされてしまったいわゆる椎間板の変性が末期のものと考えている.

前方固定術の適応と成績

著者: 藤村祥一 ,   西澤隆 ,   朝妻孝仁 ,   戸山芳昭 ,   鈴木信正 ,   平林洌

ページ範囲:P.65 - P.73

 抄録:腰椎変性すべり症(DS)に対する前方固定術の手術成績を検討した.前方固定術は前方screw wiringの併用により,改善率がJOAスコア29点評価法で82%,しかも改善率50%以上の症例が91%を占め,また骨癒合率95%,すべりの整復率45%を獲得し,良好であった.しかし,改善率50%末満の不満足例もあり,その主因は外側型狭窄の合併と偽関節であった.外側型狭窄の合併例と偽関節例の改善率は劣っていた.また移植骨圧潰が28%発生し,その改善率は非圧潰例に比べ劣っていた.これらの結果から,DSに対する前方固定術は非高齢者で,椎間不安定性と中心型狭窄が主体のDS初期ないし中期が絶好の適応となり,DS後期ないし終末期の外側型狭窄には限界があった.また偽関節とともに移植骨圧潰が手術成績を左右する因子であるので,これらの発生を防止する対策を購じるべきと考えられた.

手術手技 私のくふう

人工透析患者シャント側に対する鏡視下手根管開放術

著者: 六角智之 ,   江畑龍樹 ,   西須孝 ,   土屋明弘 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.77 - P.80

 抄録:人工透析患者のシャント側の手根管症候群9例に対してChowのtwo portal法による鏡視下手根管開放術を施行した.術後きわめて早期に症状の改善が得られ.短期成績ではClarkeとStanleyの評価法でexcellent 6例good 3例と良好な成績が得られた.血管,神経損傷等の重篤な合併症はみられなかった,従来のopen surgeryと比しても患者の満足度は高かった.シャント側に対する本法の注意点として,カニューラ刺入時に手関節の背屈位がとりにくく屈筋腱がからみやすいので,刺入方向に関しては特に熟練が必要であると思われた.切離中の出血に対しては特製の電気メスが有効であった.

整形外科philosophy

師の義務と弟子の義務

著者: 伊丹康人

ページ範囲:P.81 - P.83

●教えるものと教えられるもの
 師だとか弟子だとか言うと,なるほどお前は古い,とすぐ言われそうである.しかし,考え方が古いとか,新しいという事が、人間の精神活動の正しいか正しくないか,もう少し掘り下げていえば,人間社会における真理と,どういうかかわりをもっているのか,と考えると,現代のマジョリティーの思想に迎合する事が,人間のあるべき姿の追求にはならない様に思う.
 人間は知能ゼロからはじまって,親に教えられ先達に教えられ,互いに教え合って,知能は成長しつづけてゆくものである.人間として生きていく上に必要な,いろいろな事を,沢山教えてくれる人は師である.そして教えてもらう方は弟子である.この関係に古いも新しいもないわけである.

整形外科英語ア・ラ・カルト・40

比較的よく使う整形外科用語・その7

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.84 - P.85

●Christmas disease(クリスマス・ディズィーズ)
 これはクリスマスのときに罹る病気ではなく,伴性劣性遺伝形式をとる血液凝固因子の欠乏による凝固異常の疾患である.血液凝固因子には,第1番の“fibrinogen”(フィブリノジェン)から第IV番目の“calcium”を経て第XIII番目フィブリンを安定させる“fibrin stabilizing factor”まである.そのXⅢ番まである凝固因子の中で,第VI番目が永久欠番で,存在しない.
 筆者は1970年(昭和45年)のクリスマスの前のときに,アイオワ大学外科の最終学年のレジデントであった.このとき43歳の白人の女性が大きな出血性潰瘍で入院してきた.手術目的で色々の検査を施行していたが.血液凝固系検査の中で,“PTT”(partia1 thromboplastin time-部分トロンボプランスチン時間)だけが,54秒と延長していた.さらに血液学のコンサルティションの結果,凝固第IX因子(Christmas factor)の欠乏による“Christmas disease”と診断された.この診断はちょうどクリスマス時期であったために非常に印象深く覚えている.手術は十分な“fresh frozen plasma”を用意して臨み,手術手技も格別に丁寧にしたためか,大した出血もなく,無事に手術を終了することが出来た.

基礎知識/知ってるつもり

DDH

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.86 - P.86

 【病因解明による呼称の変遷】
 いわゆる先天性股関節脱臼(先股脱)はラテン語ではLuxatio Coxae Congenita(LCC)と呼ばれ,英語ではCongenital Dislocation of the Hip(CDH)と呼び習わされてきた.ドイツ語ではSogenannte Angeborene Hüftgelenkverrenkung(いわゆる先天性股関節脱臼)と呼んで,本疾患が真に先天性であるか否かに対して疑義を呈してきた.しかし,1960年頃までは一般には本疾患は遺伝性かつ先天性の疾患であると信じられ,先股脱あるいは先天股脱,LCC,CDHと略称することが広く行われてきた.その後,本疾患の病因に関して多くの遺伝学的研究が行われたにも拘らず,その遺伝形式は解明されず,さらに,出生直後からの予防を広く実施すれば本疾患の発症率を激減せしめうることが日本において実証されたので,最近では,本疾患の素因として何らかの遺伝子の関与は考えられるものの,本疾患の実際の発症は先天性ではなく,むしろ周産期およびそれ以後の股関節の発育障害に起因すると考えられるようになってきた.
 このように,かつて本疾患の名称の中に用いられたcongenitalという言葉は本疾患の本質を示すものではないので用いない方がよいという考え方が国際的な意見として受け入れられ,さらに,股関節の発育障害が本疾患の主たる病因であるということを明らかにするためにもDevelopmental Dysplasia of the Hip(DDH)という名称を用いるべきであるという考え方が主としてヨーロッパにおいて1993年頃より強くなってきた.筆者自身も勿論CDHよりもDDHの方が本疾患の病因を正しく示した名称であると考えており,外国での講演では常にDDHの方を用いている.しかし,文献的にみてもこの名称は世界でまだ完全に受け入れられたわけではない,

臨床経験

骨折を伴わない開放性足関節脱臼の1例

著者: 平井利幸 ,   植田康夫 ,   小泉宗久 ,   杉本和也

ページ範囲:P.87 - P.89

 抄録:足関節は三角靱帯,外側側副靱帯,および脛腓靱帯で強く保持されているため,果部骨折を伴わない脱臼は極めて稀である.われわれは,果部骨折を伴わない開放性足関節脱臼の1例を経験した.症例は37歳男性で,腰椎麻酔下に徒手整復を行い,損傷した靱帯,血管,皮膚を一次的に縫合したが,創部の皮膚壊死を生じ,また関節の可動域制限を残した.

中指のhemangioendotheliomaの1症例

著者: 畑洋 ,   西島直城 ,   井戸一博 ,   琴浦良彦 ,   笠原勝幸 ,   和田山文一郎 ,   山室隆夫 ,   中嶋安彬

ページ範囲:P.91 - P.94

 抄録:われわれは右中指掌側に発生したhemangioendotheliomaの1症例を経験した.症例は25歳,女性,主訴は右中指の疼痛と腫脹であり,単純X線像は中節骨にびまん性に掌側から圧排・破壊を思わせる骨皮質像,髄質の骨融解像を呈していた.2回の生検による病理組織検査の結果はhemangioendotheliomaであった.整形外科で報告されるhemangioendotheliomaは比較的稀な腫瘍であり,本邦においては形成外科や外科にて報告例もみられるようになってきたが,四肢においては未だ少数にとどまっているのが現状である.本症例においては,痛みが非常に強いこと,再発や転移の可能性が高いこと,病変部が四肢末端であることより,治療法として切断を選択し中指切断術および示指列移行術を施行した.術後3年になるが再発の徴候もなく,患者は美容的にも満足している.

未成年期のスポーツ選手にみられた下腿疲労骨折の3例

著者: 森原徹 ,   麻生伸一 ,   楠崎克之 ,   高井信朗 ,   平澤泰介 ,   三浦清司

ページ範囲:P.95 - P.98

 抄録:未成年期のスポーツ選手に生じた下腿疲労骨折を3例経験したので報告する.症例1は15歳女性で,陸上部に所属し,種目は走り幅跳びであった.𦙾骨は近位1/3に(いわゆる疾走型),腓骨は骨幹部に(いわゆる跳躍型)疲労骨折を認めた.𦙾腓骨両方に疲労骨折が生じた症例は,われわれが渉猟し得た範囲では海外,本邦を含めて2例のみであり,非常に稀である.症例2,3はそれぞれ14歳女性,17歳女性でバスケットボール部に所属し,𦙾骨近位内側1/3に疲労骨折を認めた.症例2,3はほぼ同部位に生じた疾走型の𦙾骨疲労骨折であったが,症例2が典型的な所見を示したのに対し,症例3は画像所見,特にMR1像でT1強調画像で,低輝度,T2強調画像で不均一な高輝度像を認め,悪性腫瘍との鑑別が必要であった.

馬尾部同一神経根に生じた多発性神経鞘腫の1例

著者: 久野成人 ,   岩井宏次

ページ範囲:P.99 - P.101

 抄録:今回われわれは馬尾部の同一神経根に多発した神経鞘腫の稀な1例を経験したので報告する.症例は44歳の男性で右下肢痛を主訴とし来院した,髄液検査,ミエログラフィー,CTM,ガドリニウムDTPA造影MRI等により馬尾部の多発性脊髄腫瘍と診断し,手術を行った.術中,左S2神経根に沿って数珠状に生じた大小10個の腫瘍を認め,罹患神経とともに腫瘍を摘出した.病理組織診断は神経鞘腫であった.術後,症状は消失し,神経脱落症状もなく退院した.術後1年6ヵ月の現在,再発は認めない.
 多発性脊髄腫瘍の発生頻度は,脊髄腫瘍全体の3~4%と報告されているが,本症例のように神経鞘腫が馬尾部の同一神経根のみに多発していたものはわれわれが調べた限りでは過去6例のみであり,稀であると考えられた.

血管柄付き肋骨移植で治療した感染性脊椎炎の1例

著者: 宮本雅友 ,   井戸一博 ,   坪山直生 ,   斎藤聡彦 ,   清水克時 ,   水野浩

ページ範囲:P.103 - P.106

 抄録:局所の血行が不良と予想される第8,9胸椎感染性脊椎炎に対して病巣掻爬および血管柄付き肋骨移植(vascularized rib graft)による後方前方固定術を行い,良好な結果を得た.症例は65歳男性.主訴は背部痛,左季肋部痛,既往歴に糖尿病,直腸癌があった.入院時,理学的所見では脊髄圧迫症状は認めなかったが,血液学的所見では炎症所見を呈しており,単純X線像で第8,9胸椎に限局した骨破壊像と後弯変形がみられたため,病巣掻爬および後方前方固定術を行った.骨移植による前方固定に際し,転移性脊椎腫瘍の診断にて既に局所放射線治療を受けていたため,移植床の血行が不良であることが予想されたのでvascularized rib graftを選択した.術後,左側第7肋間神経領域に知覚鈍麻が残存したが背部痛と左季肋部痛は消失し,血液学的にも炎症所見は消失した.術後7ヵ月の現在,特に問題なく経過良好である.

MRIが診断に有用であった両手指爪床部グロームス腫瘍の1例

著者: 横田和典 ,   力田忠義 ,   立川勝司 ,   荒井隆志 ,   村上祐司 ,   盛谷和生

ページ範囲:P.107 - P.110

 抄録:診断上MRIが有用であったグロームス腫瘍の両手指発生例を報告する.
 症例は46歳の女性で,右示指指尖部の疼痛を主訴に来院した.初診時右示指爪中枢部は膨隆し爪床を透して青紫色斑を認めた.MRI上末節骨背側に径7mmの軟部腫瘤を認めた.手術にて摘出した腫瘤は7×7mmで,病理組織学的にグロームス腫瘍と診断した.術後,左中指にも同様の疼痛を訴えたが臨床症状に乏しく,MRIによりはじめて腫瘤の存在を確認した.手術時摘出した腫瘤は4×2mmであった.
 MRIはその優れたコントラスト分解能と撮影方向の多様性を有すことから骨・軟部腫瘍の画像診断法として欠くことのできない存在になっている.グロームス腫瘍の診断においても病変の大きさ,局在を知るのに有用であり,特に臨床症状の乏しい症例では診断的価値が高いと思われる.

橈骨遠位部への第2足趾移植により把持機能を再建した1例

著者: 山田高士 ,   浦田士郎 ,   矢崎進 ,   大脇義宏 ,   川上寛 ,   濱邊卓也 ,   洪淑貴 ,   前田健博 ,   渡部健

ページ範囲:P.111 - P.114

 抄録:われわれは手部の高度挫滅のためにCM関節レベルでの切断を余儀なくされた症例に対して,Vilkki法に準じて第2足趾を橈骨遠位部に移植し把持機能を再建した症例を経験したので報告する.症例は29歳の男性で,1992(平成4)年11月24日,プレスで右手を圧挫され受傷し,同日当科初診,右手掌の軟部組織の挫滅が極めて高度であったため,手根骨を残した手部での断端形成術を受けた,その後患者の十分な理解と同意のもと,把持機能再建のために平成5年6月24日橈骨遠位部への第2足趾移植術を施行した.第2足趾移植術から約1年10ヵ月後の現在,書字,食事介助,衣服の着脱など日常生活での介助が可能となり,有用な把持機能を再建し得たと考える.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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