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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科31巻10号

1996年10月発行

雑誌目次

視座

混迷から整合を,異常から正常を

著者: 内田淳正

ページ範囲:P.1107 - P.1107

 孔子の生きた時代は,氏族社会の崩壊により封建制度の基礎が崩れていく激動の時である.確かに社会的混迷は著しかったが,その反面,人間を外部から束縛する枠がはずれ,自由なものの考え方を可能にした時代でもあった.後世のヨーロッパで起こったルネッサンスにも比せられる.現代の日本もまた混迷の時代である.今までの社会体制は崩壊しつつあるようにみえる.これが緩徐に進行しているのでその場で生活している人々にとっては激動の時代とは写らないかもしれないが,自らの進むべき指標を自らで作らなければならないのが現在であろう.そんな時,孔子の言葉や生き方を振り返ってみるのも一興かも.
 論語第一編 学而に「学而時習之,不亦説乎」とある.学問をすること,実践をとおして学問を身につけていくこと,これは無上の喜びとのことである.「学問が実践の基礎たるものでなければならない」と説くが,これは実用の学を主張したという意味ではなく,目的論の明確な知識や学問が必要であると考えたい.方法論の進歩は著しく,学際的ではあるが,それらを駆使して得られた事実が整形外科の臨床的問題の解決を目指したものであるという目的を忘れてはならない.そのためには,「賢賢易色」(賢者に情熱をもって指導を受ける)「就有道而正焉」(先達に師事して独善から脱却する)「吾日三省吾身」(1日3回反省をする)などと繰り返して独善的になることを厳に戒めている.

論述

再鏡視で癒合と判定された縫合術後膝半月の再断裂について

著者: 朝比奈信太郎 ,   星野明穂 ,   仁賀定雄 ,   池田浩夫 ,   関矢一郎 ,   鄭光徹 ,   長束裕 ,   宗田大 ,   山本晴康

ページ範囲:P.1109 - P.1113

 抄録:半月板縫合術後平均17カ月で行われた再鏡視の結果,癒合と判定した49例,不全癒合と判定して放置した13例について,2年から9年6カ月平均3年10カ月の追跡調査を行い,縫合術を行った部位での半月板の再断裂について調査し,再断裂の危険因子について検討した.対象症例は全例前十字靱帯損傷を合併しており靱帯再建術を施行した.これらの症例について,経過観察中に再断裂のため切除術を要した例を再手術例,半月板症候の再燃していた例を有症状例,経過良好な状態が続いていた例を無症状例として3群の割合を調査した.また再手術を要した症例について,再断裂の時期,誘因,また再断裂の危険因子として前方不安定性,回旋不安定性,縫合術後の活動性について調査を行った.不全癒合例では約半数が癒合例では約8%の症例が再断裂のために再手術を要していた.前方および回旋不安定性と再断裂とは明らかな関連性は見られなかったが,再手術例の活動性は有意に高かった.

腰椎椎間板ヘルニアの脱出形態を決定する因子について

著者: 宮秀俊 ,   井口哲弘 ,   松原伸明 ,   鍋島祐次 ,   日野高睦 ,   上原香 ,   織辺隆

ページ範囲:P.1115 - P.1119

 抄録:椎体後面に脱出した腰椎椎間板ヘルニア26例の脱出形態および脱出形態を決定する因子について検討した.MRIでヘルニア塊が椎体高の2分の1を超えるtype Aと4分の1を超えるが2分の1を超えないtype Bに分類した.type Aは17例,type Bは9例で,type Aにsequestrationが多かった.頭尾方向への脱出については頭側が15例,尾側が11例であった.MRI側面像で前弯の頂椎を決定し,脱出方向が頂椎へ向かうものを正,反対を負の方向とすると26例中18例(69%)が正の方向へ脱出していた.特にtype Aに関しては17例中14例(82%)が,また罹患椎間が頂椎より上位に存在した4例については全例が正の方向であった.ヘルニアの脱出孔と横断像上の位置関係については,正中部から脱出する症例が多かったがそのまま正中部にとどまるものは少なく,外側へと移動していた.また,脱出孔が外側寄りではより外側に位置しやすいといえた.腰椎椎間板ヘルニアにおいて脱出形態を決定する因子としては腰椎の前弯,後縦靱帯の構造,椎体後面の形態,脱出ヘルニアの量,midline septumの存在などが考えられる.

腰椎椎間関節造影と後枝内側枝の電気刺激による放散痛の検討

著者: 福井晴偉 ,   大瀬戸清茂 ,   塩谷正弘 ,   大野健次 ,   長沼芳和 ,   唐澤秀武

ページ範囲:P.1121 - P.1126

 抄録:各々の腰椎椎間関節,脊髄神経後枝内側枝がどのような部位の痛みの原因として関与しているか多数の腰痛患者で調査を行った.対象は腰椎椎間関節由来の疼痛が疑われた患者で椎間関節ブロックを施行した患者のうち造影剤注入時に本来の痛みの部位に疼痛の再現性が得られ局麻薬注入後に疼痛の消失が得られた患者48人,71関節,また椎間関節ブロックの長期的効果が認められず,facet rhizotomyを施行した患者のうち,後枝内側枝の電気刺激時に本来の痛みの部位に疼痛の再現性が得られ,facet rhizotomyにより疼痛が消失した患者39人,93部位とした.それぞれの放散痛の部位を5カ所にわけて記載し,L1/L2からL5/S1までの椎間関節,Th12からL5までの後枝内側枝の放散痛の部位を調べた.

自家膝蓋腱を用いた鏡視下前十字靭帯再建術後の骨トンネル拡大現象について

著者: 石橋恭之 ,   原田征行 ,   岡村良久 ,   片野博 ,   川島信二 ,   半田哲人 ,   大塚博徳 ,   徳谷聡

ページ範囲:P.1127 - P.1133

 抄録:膝前十字靭帯(ACL)再建術後の骨トンネル拡大は,再建靭帯の再断裂を来した場合しばしば問題になる.われわれは,自家膝蓋腱を用いた鏡視下再建術78例80膝における,単純X線上の経時的な骨トンネル拡大を調査した.骨トンネル内での骨片の固定位置により,大腿骨側は近位群と遠位群の2群に,𦙾骨側は近位群,中央群,遠位群の3群に分類した.inside-outに大腿骨トンネルを作成し,骨片が大腿骨トンネル関節内開口部で固定されたものでは,大腿骨トンネルが拡大したものはなかったが,骨片固定位置が関節内より遠位になるにつれ,トンネルの残存率およびその拡大率が増加した.骨トンネル拡大の原因として,トンネル内での靭帯の動きや関節液の侵入が一因と考えられた.以上の結果から,われわれは,骨トンネル拡大を防止する方法として,all-inside techniqueを用いてACL再建術を行っている.

整形外科基礎

人工股関節置換術における術前シミュレーションのためのソケットテンプレートの作成方法について

著者: 長野真久 ,   山本潔 ,   飯田寛和

ページ範囲:P.1135 - P.1138

 抄録:人工股関節置換術に使用されるソケットサイズを術前にシミュレートする簡便な方法を考案したので報告する.方法は,ドロー系のソフトを用いて各CTスライスの高さにおけるソケットの横断面を透明用紙に描き,それをテンプレートとしてCTフィルム上に重ね合わせて至適ソケットサイズを選ぶというものである.一度テンプレートを作成してしまえば,症例毎にテンプレートをCTフィルム上に重ね合わせるだけなので非常に簡便である.本シミュレート法を用いて人工股関節置換術を行った症例は5例であり,全例でほぼ予定通りの手術を行うことができた.本法を用いて術前にリーミングの深さやソケットサイズを把握しておくことによって,より安全で確実な人工股関節置換術が可能になると思われる.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・4

著者: 佐藤勝彦 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.1139 - P.1142

症例 66歳,女性.(図1)
 道路を横断中に車にはねられ受傷し,救急車にて搬送された.
 意識は清明であったが,左殿部の腫脹と疼痛が著しく,腹痛を訴えていた.

基礎知識/知ってるつもり

stress shielding

著者: 好井覚

ページ範囲:P.1143 - P.1143

 【用語の成立ちと意味】
 stressとは外部からの負荷による変形に抵抗するために物体の内部に発生する力のことで次の式で表されます.
 stress=負荷/負荷がかかる面積
 shieldは“遮蔽する”という意味ですから,stress shieldingは“負荷を遮蔽する”という意味になります.整形外科領域では固い材料が骨と強固に固定されると骨にstressが加わらなくなり骨の廃用萎縮を来すことを意味します.

整形外科英語ア・ラ・カルト・48

比較的よく使う整形外科用語・その15

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1144 - P.1145

●DIC(ディ・アィ・スィ)
 腹部外科の領域では,この“DIC”は,“drip intravenous cholangiography”,すなわち点滴静注を行って胆道系統の異常を検索する“静脈胆道造影法”である.しかし通常“DIC”は“Disseminated Intravascular Coagulation”の略語であり,日本語で“播種性血管内凝固症候群”と訳されている.整形外科領域でも,この“DIC”は悪性新生物の治療のときや,輸血の際に,この面倒な“DIC”が起こる可能性があるので,ここに述べてみる.筆者も腹部の膿瘍や異型輸血のときに起こった“DIC”を経験している.
 簡単にDICの歴史的な背景を述べてみる.シルヴィウス(Deleboe Sylvius)が,ペストなどの疫病に罹ったときに生じる出血傾向について報告している.フランスのド・ブランヴィル(HMD De Blainville)は脳組織を磨り潰して静脈内に注入し,血液が凝固することを1844年に発表した.その50年後の1893年に英国のウールドリッジ(LD Wooldridge)は,ド・ブランヴィルの実験を追試し,脳組織や組織抽出液をゆっくり注射することにより,出血傾向が発現してくることを報告し,さらに1921年にミルズ(CA Mills)が同様の実験で血清フィブリノーゲン値が低下することを発表した.また蛇毒でも同様のことが起こることが報告されている.

ついである記・6

Yugoslavia

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1146 - P.1147

●東西両陣営の狭間で独自の発展をとげたが…
 古い時代のヨーロッパおよびその周辺の偉大な文明,例えばギリシャ文明,ローマ文明,ビザンチン文明などは,いずれもアドリア海を挾んでその東西に興ったと言える.そして,これらの文明の盛衰の歴史も,また,それに伴って発生した東西勢力の軍事的抗争の歴史も,アドリア海の海運の果した役割を考えずには語り得ないもののように思われる.そのアドリア海の西岸はイタリーであり,東岸は主として旧ユーゴスラビアである.したがって,旧ユーゴスラビアの地は古くより文明の交差点として,人種的,文化的,宗教的,経済的,軍事的に極めて複雑な状況を呈しつつ発展してきた.旧ユーゴスラビアは第二次世界大戦後に故チトー大統領の強力な指導力によって独自の社会主義国として独立したが,もともと6つの共和国より成る合同国家であった.6つの共和国とは北から南へ向って見ると,スロベニア,クロアチア,ボスニア・ヘルツゴビナ,セルビア,モンテネグロ,マケドニアである.これらの共和国の内の幾つかは1990年以来のユーゴスラビア紛争によって毎日のように世界のニュースにその名が登場しよく知られるようになったが,それ以前には日本人には余りなじみのなかった共和国であった.

臨床経験

腰椎変性すべり症に対するSteffee VSP system法の治療成績と矯正損失に影響を及ぼす因子

著者: 曽雌茂 ,   司馬立 ,   舟崎裕記 ,   岩永真人 ,   長谷川岳弘 ,   須郷正徳 ,   服部哲 ,   藤井克之

ページ範囲:P.1149 - P.1153

 抄録:腰椎変性すべり症に対して,Steffee pedicle screw fixation法を施行した31例について検討した.手術時年齢は,平均56.5歳で,術後経過観察期間は,平均2.1年であった.すべり椎体高位はL4が29例でそのほとんどを占め,すべり椎間数は全例が一椎間すべりであった.JOA scoreの改善率は,77.9%で良好な改善が得られていたが,改善率と骨移植法,術後のslip angle,術後のslip angleの矯正損失との間には相関は認められなかった.また,隣接椎間に及ぼす影響は,slip angleが負の症例で多く認められ,さらに固定上・下椎間では固定下位椎間により影響を及ぼしていた.
 一方,矯正損失には,術前の後屈位X線像における罹患椎間の局所後弯の残存と骨粗鬆症が関与し,骨移植法,術前罹患椎間可動域,椎間板変性の程度,椎間関節の形態などとは関係は認められなかった.術前の後屈位での局所後弯の残存,骨粗鬆症の存在する症例では,術後矯正損失をきたしやすく,注意する必要がある.

異常筋を伴った片側上肢肥大の1例

著者: 森幹士 ,   本城昌 ,   茶野徳宏 ,   福田眞輔

ページ範囲:P.1155 - P.1158

 抄録:異常筋を伴った片側上肢肥大の症例を報告する.症例は20歳の女性である.単純X線,CT,MRI等の検索で,右手手指骨の肥大,示指の尺側偏位および右上肢,特に手部での筋肥大を認めた.示指尺側偏位,片側上肢肥大の特徴より,腫瘍性疾患,RA等の関節疾患,さらにdistal arthrogryposisも考えられたが,臨床所見より上記疾患は否定され,異常筋を伴う片側上肢肥大が疑われた.術中,異常筋の存在を認め,異常筋の切除,中手骨の骨切りを併用した示指尺側変位の矯正術を行った.本症例でみられた異常筋の一つ(短指伸筋)は,分化上の先祖帰り,atavistic muscleと考えられている.他の異常筋も同様に,系統発生学上の進化過程にある不安定な筋群より出現し,筋肥大や片側上肢肥大を起こしたものと考えた.

vertebral scallopingを呈した椎間孔内腰椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 木曽伸浩 ,   水野芳隆 ,   藤本吉範 ,   生田義和

ページ範囲:P.1159 - P.1162

 抄録:vertebral scallopingを呈し,診断に際し椎間板造影が有用であった椎間孔内腰椎椎間板ヘルニアの1症例を報告した.手術は骨形成的片側椎弓切除術を施行した.vertebral scalloping内に髄核組織が存在し,周辺に反応性の骨棘を伴っていた.vertebral scallopingは,脱出髄核が椎間孔内のしかも神経根直下という空間的余裕のない部位に長期間存在したために形成されたと考えられた.

骨粗鬆症による胸腰椎部多発性圧迫骨折後に遅発性脊髄麻痺をきたした1例

著者: 菅野裕雅 ,   張簡俊義 ,   大沼信一 ,   石河紀之 ,   湯浅昭一 ,   阿部栄二

ページ範囲:P.1163 - P.1166

 抄録:多発性に圧迫骨折を伴い遅発性脊髄麻痺を来した症例に対し,前方より脊柱管除圧・再建を行った.症例は76歳女性である.1994年1月より誘因なく腰痛が生じ,徐々に両下腿のしびれと疼痛が増強し入院となった.筋力は前𦙾骨筋がG,長趾伸筋がFに低下していた.単純X線ではT12,L1,L2の圧迫骨折があり,ミエログラムではT12での不完全ブロック像を認めた.手術は前方アプローチでT12推体後壁の骨片を切除し,T11からL3までKaneda device多椎間固定システムと椎間スペーサーを用いて固定し,骨移植を併用した.術後1年3カ月の現在,両足関節以下のしびれはあるものの筋力はNに回復した.前方法は,胸膜外腹膜外侵入で行えば老人に対しても比較的侵襲は少ない.また,脊柱管内骨片を安全に除去でき,前方に支柱を置くことができるためinstrument破損が少なく,固定範囲が少なくてすむなどの利点がある.

腰椎部硬膜内髄外に転移した胃癌の1例

著者: 尾崎智史 ,   伊藤茂彦 ,   錦見純三 ,   水野直門 ,   渡辺健太郎 ,   浦崎哲哉 ,   浜辺卓也 ,   室捷之

ページ範囲:P.1167 - P.1170

 抄録:悪性腫瘍の脊椎への硬膜内髄外転移は稀であり,特に胃癌の報告は過去に見当らない.自験例は胃癌の手術歴を有する75歳の女性で,初診時の主訴は腰痛であったが,短期間に馬尾神経麻痺が急速に進行した.ミエログラムではL2レベル以下のくも膜下腔の著明な狭小化を認めた.MRIではT1強調画像やプロトン密度強調画像では馬尾神経が確認できず,T2強調画像では脊髄腔に斑状の高信号域をわずかに認めた.除圧目的でL3,L4の椎弓切除を行い,生検組織像から転移性胃癌の確定診断を得た.術後,疼痛は軽快したが麻痺は回復せず,発症から7カ月で死亡した.脳CTには転移巣がなく,本例はリンパ行性転移が最も疑われた.悪性腫瘍の脊髄硬膜内髄外転移の予後や治療指針は,原発病巣の組織型に依存すると考えられるが,生前に組織診断をつける意義は大きく,相対的手術適応があるといえる.

Miller-Galante Ⅰ型人工膝関節置換術後における膝蓋骨コンポーネントの破損について

著者: 児玉篤 ,   黒瀬靖郎 ,   室積正人 ,   山中威彦 ,   津下健哉

ページ範囲:P.1171 - P.1175

 抄録:われわれはMiller-Galante Ⅰ型(以下M/G Ⅰ)を使用した人工膝関節置換術(以下TKA)後,6年7カ月でメタルバック付き膝蓋骨コンポーネントの破損を来した症例を経験した.M/G Ⅰ-TKAの追跡調査を行い5例7膝(11.7%)に破損例を認めたためコンポーネント破損群(以下破損群)と非破損群について検討を加えた.1987年4月より1991年3月までM/G Ⅰ-TKAを56例82膝に施行したが,7例9膝が死亡,1例1膝が大腿切断であり,追跡調査が可能であった38例60膝について検討した.男4例4膝,女34例56膝.調査時平均年齢66.8歳.変形性膝関節症16例25膝,慢性関節リウマチ22例35膝.平均観察期間は5年9カ月であった.破損群は全例女性で屈伸時に異常音を聴取した.X線ではmetallosisと思われる淡い陰影がみられた.破損群と非破損群を比較すると基礎疾患,肥満度および可動域(ROM)に有意差を示し,またX線軸射像(膝屈曲45゜)で膝蓋骨のtilting angle,lateral shiftに有意差を示した.そしてFTAの矯正角度についてはOA症例に限って有意差を示した.M/G Ⅰ-TKA後の膝蓋骨コンポーネントが比較的早期に破損を来した原因として患者の問題(肥満度,可動域),膝蓋骨コンポーネントの問題(ドーム状の形態,メタルバック,Poly-TwoTM),手技上の問題(軟部組織バランス)が考えられる.

Mitek®(G Ⅱ anchor)の使用経験

著者: 村越史呂 ,   八木知徳 ,   大野和則 ,   佐々木勲 ,   鈴木朝之 ,   杉本憲一

ページ範囲:P.1177 - P.1182

 抄録:Mitek®(G Ⅱ anchor)は,狭い視野で軟部組織の固定を簡便に行える利点がある.今回われわれは,44例の軟部組織修復にMitekを用い,その特徴および注意点について検討し報告する.症例の内訳は,母指MP関節尺側側副靱帯損傷2例,反復性肩関節前方(亜)脱臼15例,肩腱板損傷2例,膝MCL損傷3例,PCL損傷2例,膝蓋靱帯損傷2例,足関節内・外側靱帯損傷18例である.
 術後成績は概ね満足する結果が得られており,身体各所の小関節や関節辺縁部にMitekを用いることが可能であった.術後良好な軟部組織の固定を得るには,骨梁の状態,固定される軟部組織の強度および断裂形態により,アンカーを適宜追加補強し,縫合方法にも工夫を加えることが重要である.合併症は,術中結紮操作時での縫合糸の断裂が最も多いため,修復部位を考慮し,十分強度のある縫合糸を選択することが好ましいと考えられた.

生後4カ月男児の傍脊柱部に発生したmalignant rhabdoid tumorの1例

著者: 清水昌宏 ,   渡辺秀男 ,   富原光雄 ,   浅野頼子 ,   三嶋昭彦 ,   中島哲 ,   長雄好昭 ,   安田忠勲 ,   藤川重尚 ,   川田信哉 ,   新宅雅幸

ページ範囲:P.1183 - P.1186

 抄録:生後4カ月男児の傍脊柱部に発生したmalignant rhabdoid tumorの1例を経験した.生後3カ月末より両下肢をあまり動かさなくなり来院した.初診時,中位胸椎の右傍脊柱部に腫瘤を触知し,腹部以下の表在,深部反射は消失,第8胸髄節以下に知覚障害が疑われた.血清LDHは著しく上昇していたが,AFP等の腫瘍マーカーに上昇は認めなかった.画像上から砂時計腫と診断し,硬膜外腔から胸膜下に拡がる腫瘍を可及的に切除した.病理組織学的には,細胞質内に好酸性の封入体を有するいわゆるrhabdoid cellが多数認められ,電顕上はこの封入体に一致して中間径フィラメントの密な集塊を認めた.免疫組織化学的には,vimentin,epithelial membrane antigen(EMA)が陽性,keratin,desminは陰性であった.種々の化学療法にもかかわらず,術後4カ月目に死亡した.

慢性関節リウマチによる病的腰椎前方すべり発生の1例―MRIでの観察

著者: 大谷晃司 ,   菊地臣一 ,   佐藤勝彦 ,   千葉勝実

ページ範囲:P.1187 - P.1190

 抄録:すべり発生前後の状態をMRIで観察できた慢性関節リウマチによる腰椎の病的すべり症の1例を経験した.初診時単純X線像では,すべりや椎間関節の異常所見は認められなかった.しかし,MRIではすべり発生前にすでに第4腰椎椎間関節に椎間関節突起部での骨髄内変化と関節液貯留という関節炎を示唆する所見が認められた.初診時より1年後に第4腰椎のすべり発生が確認された.単純X線像で変化が認められる以前に,MRIで病的変化が描出されていたという事実を考えると,慢性関節リウマチの症例で腰椎椎間関節にMRIで異常所見が認められる場合には,将来のすべり発生の可能性に留意して,経過観察が必要である.

脊髄髄内血腫の1例

著者: 仲俣岳晴 ,   四方實彦 ,   戸口田淳也 ,   清水和也 ,   田中千晶 ,   高橋真 ,   長谷部啓司 ,   服部理恵子

ページ範囲:P.1191 - P.1194

 抄録:外傷後,亜急性に発症した脊髄髄内血腫に対して血腫除去術を行い,症状の改善が得られた.症例は31歳,女性.阪神・淡路大震災にて被災し,2階から床こと1階に転落した.その後腰痛以外特に無症状であったが,19日後より両下肢しびれ,22日後より尿意低下を自覚,27日後には尿閉となり,30日後,当院初診時には,軽度の左下肢筋力低下,高度の低緊張性神経因性膀胱,肛門括約筋緊張低下を認めた.脊髄造影,CTM,MRIにて第12胸椎レベルの脊髄髄内血腫と診断し,同日,脊髄背側正中切開による血腫除去術を施行した.病理組織検査では腫瘍性変化を認めなかった.術後約1週間で自尿が可能となり,左下肢筋力も改善傾向を示した.

intraspinal cyst(premembranous hematoma)の1例

著者: 徳谷聡 ,   片野博 ,   市川司朗 ,   石橋恭之 ,   越後谷直樹 ,   三浦一志 ,   横山隆文 ,   富田卓

ページ範囲:P.1195 - P.1198

 症例は25歳,男性.腰痛,左下肢痛を主訴とし当科を受診.左L5神経根の刺激症状あり,軽度の筋力低下が認められた.当初,腰椎椎間板ヘルニアが疑われたが,L4/5椎間板レベルからその近位に,椎間板造影にて造影剤が貯留し,MRI T2強調画像にて高信号のmassを認めた.手術では,L5神経根と癒着する嚢腫が存在した.嚢腫内には陳旧性,漿液性の血腫が貯留しており,椎間板との交通が確認された.PLL(posterior longitudinal ligament)はintactで,この血腫は硬膜外静脈からの出血がperidural membraneと椎体の間に貯留したものであると考えられた.嚢腫摘出により症状は消失した.腰椎椎間板ヘルニアの鑑別診断として,念頭におくべき病態と考えられた.

神経線維腫症に併発した悪性末梢神経鞘腫と悪性Triton腫瘍の1例

著者: 大類広 ,   山川光徳 ,   須田昭男 ,   石川朗 ,   近藤慈夫

ページ範囲:P.1199 - P.1202

 抄録:悪性Triton腫瘍と悪性末梢神経鞘腫が発生した神経線維腫症の稀な1例を報告する.症例は61歳女性で,神経線維腫症の既往があった.右腰部に潰瘍を伴った腫瘍が生じ,切除術後悪性Triton腫瘍と診断した.組織学的には,悪性末梢神経鞘腫と横紋筋肉腫の像を示した.電顕的には細胞質内に濃淡のミオフィラメントが見られた.一方,初診時より右腋窩部の腫瘍が存在し,9カ月後切除術を行い,悪性末梢神経鞘腫と診断した.画像診断では,他に縦隔や後腹膜にも腫瘤の存在が認められた.

手根骨遠位列に発生した骨内ガングリオンの2症例

著者: 櫛方暢晴 ,   寺嶋博史 ,   茂木政和 ,   島本司考 ,   茂手木三男 ,   梅田嘉明

ページ範囲:P.1203 - P.1206

 抄録:手根骨遠位列に発生した骨内ガングリオンの2例を経験した.症例1:47歳,女性.主訴は右手関節部の運動時痛であった.X線上有鉤骨に円形の単房性嚢腫様透明巣を認めた.術中所見にて有鉤骨背側に接して小腫瘤がみられ骨内と交通し,一部は手根中手靱帯と連続していた.病理組織所見は密な線維組織より成り,明らかなlining cellはなく,ガングリオンと診断された.症例2:24歳女性.主訴は左手関節部痛でX線上大菱形骨に円形の骨透明巣を認めた.術中所見にて大菱形骨隆起基部の掌側手掌面に腫瘤がみられ骨内と交通していた.病理組織所見は症例1と同様であった.発生機序として症例1は手根中手靱帯と連続していたことより骨外発生のガングリオンが骨髄内に侵入したものと想定したが,症例2は不明である.手根骨遠位列発生例は自験例を含め9例ときわめて稀であるが,この理由は手関節の機能解剖学的な特徴によるものと考えた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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