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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科31巻11号

1996年11月発行

雑誌目次

視座

整形外科医としての生き方

著者: 林泰史

ページ範囲:P.1209 - P.1209

 私は約30年間にわたり老人整形外科・リハビリテーション科の臨床に携わったのち,東京都の衛生行政を担当することになりました.この2年間,東京都民の健康づくり,母子・高齢保健対策から始まり精神保健福祉への取組み,病原性大腸菌O-157感染防止などの環境衛生対策,薬務・都立病院事業・東京都の医療計画への関与など,多岐にわたり東京地域の保健医療衛生施策に取組んでいます.
 この新しい仕事の関係でいろいろな科の医師といく度となく会い,知り合うことができました.例えば,東京都がアトピー対策や救急災害計画を立てると聞きつけては関係する実地医家の会の先生方がいろいろと提言して下さり,事業完遂まで見守って下さいます.このようにして,循環器科医・消化器科医から眼科医・歯科医に至るまでほとんどの科の先生方と連携を保つことができました.

論述

高齢者の大腿骨転子部骨折に対するACE caputured hip screwによる治療成績

著者: 寺西正 ,   佐藤寿一 ,   三宅康晴 ,   吉田達郎

ページ範囲:P.1211 - P.1218

 抄録:65歳以上の高齢者の大腿骨転子部骨折115股に対してACE captured hip screwを用いて治療した.calcarの接触の得られなかった症例とposterolateral supportのない症例のテレスコープ量は大きかった.また,骨片の数が多いものほど,calcarの接触が得られにくかった.合併症を5股(4%)に認めた.5股中4股がJensen分類タイプ5の粉砕型で,5股すべてにおいてcalcarの接触は得られていなかった.治療に際してcalcarの接触の有無とposterolateral supportの有無が治療成績を左右する大切な因子である.Jensen分類タイプ5はcalcarの接触の得られないことが多く,posterolateral supportもないので,合併症が多く,その治療には一層の注意が必要である.

鵞足の解剖と膝靱帯再建術への臨床応用

著者: 黒部恭啓 ,   安田和則 ,   宮田康史 ,   金田清志 ,   末永義圓

ページ範囲:P.1219 - P.1223

 抄録:靱帯再建術のための半腱様筋腱と薄筋腱の採取手技を確立するため,解剖実習用遺体60体と新鮮凍結膝2肢を用いて鵞足に関する詳細な解剖学的研究を行った.伏在神経は,𦙾骨結節の内側から内後方へ約9cmの位置で縫工筋腱と薄筋腱の間から皮下にでる.膝蓋下枝の分岐の状態は個体差があり,3型に分類することが可能であった.半腱様筋腱の100%,薄筋腱の83%において,鵞足への主停止部以外に下腿三頭筋筋膜に停止する1~数束の強靱な線維束を認めた.腱採取を鵞足部の小皮切から行う時,これら線維束が各腱の同定を困難にし,腱剥離子を用いた採取時に腱切断をきたす原因の一つになっていた.以上の結果より,伏在神経を温存するためには,縫工筋腱の停止部より80mm以上後方における非直視下での剪刃の使用を避けること,および各腱の採取に際しては下腿腱膜へ停止する線維束を確実に切離することが推奨される.

軟部肉腫局所再発例の検討

著者: 畠野宏史 ,   堀田哲夫 ,   生越章 ,   山村倉一郎 ,   斎藤英彦 ,   井上善也

ページ範囲:P.1225 - P.1230

 抄録:手術的に治療した軟部肉腫の再発例を調査し,その原因について検討した.症例は1977年から1993年8月までに,当科および関連施設で初回手術を行った軟部肉腫61例であり,主な組織型は脂肪肉腫15例,悪性線維性組織球腫7例,悪性神経鞘腫7例などであった.61例中26例に再発を認め,そのうち20例に再切除術が施行された.初回広範囲切除群において,2cm以上の切除縁の27例では全例で再発を認めず,切除縁を2cm程度まで縮小できる可能性があると思われた.2cm未満の広範囲切除群で,放射線療法施行群の再発は1/5であり,非施行群の5/6に比較して優れており,放射線療法は局所根治性を高めると考えられた.再切除症例では,2cm以上の広範囲切除を行っても再発が3/14認められた.再発症例では,手術操作による播種や出血の広がりを考慮してできるだけ広範な切除が必要である.

内視鏡下腰椎前方固定術における至適到達法の検討―豚を用いた実験的研究

著者: 西須孝 ,   山田英夫 ,   高橋和久 ,   山縣正庸 ,   中村伸一郎 ,   菅谷啓之 ,   安原晃一 ,   粟飯原孝人 ,   新井元 ,   守屋秀繁

ページ範囲:P.1231 - P.1236

 抄録:生後3カ月の家畜豚16頭を対象として経腹膜法と腹膜外路法による内視鏡下腰椎前方固定術を試みた.腰仙椎移行部では経腹膜法によるアプローチを行い,中位腰椎では経腹膜法と腹膜外路法によるアプローチを行い,両者を比較した.大出血,空気塞栓,腸管損傷等の合併症はなく,いずれの群も目的を達し得た.腰仙椎移行部では,経腹膜法によるアプローチで安全な手術操作が可能であった.中位腰椎においては分節動静脈を確実に結紮切離することにより,腹膜外路法によるアプローチを安全に行うことが可能で,経腹膜法に比較し手術時間と視野の点でより優れた方法であると考えられた.

放射線照射後の脊柱変形―その病態と治療

著者: 今泉佳宣 ,   斉藤正史 ,   柴崎啓一 ,   大谷清

ページ範囲:P.1237 - P.1244

 抄録:体幹への放射線照射後に脊柱変形を生じた6例を経験し手術を行った.全例で5歳までに放射線照射を受けていた.放射線治療疾患は血管腫,神経芽細胞腫が各2例,神経節細胞腫,Wilms腫瘍が各1例であった.照射部位は後腹膜腔4例,背部,鎖骨部が各1例であった.脊柱変形手術時平均年齢は15歳,術後平均経過観察期間は55カ月であった.脊柱変形の内訳は側弯3例,後側弯3例であり,後腹膜腔照射の4例中3例で頂椎椎体の変形を認めた.手術は全例に後方固定術を施行した.側弯角は術前平均58.8°,最終調査時平均52.7°であった.術後も側弯の進行した1例を除き平均側弯矯正率は38.5%であった.後側弯3例中2例で術後後弯が進行した.術後合併症として偽関節を2例に認め再手術を行った.放射線照射後の脊柱変形で椎体の変形や高度の軟部組織の瘢痕および萎縮を伴う症例では治療に難渋することがあり,早期の手術的治療が必要である.

不安定性腰椎に対する後側方固定術の手術成績に影響を及ぼすX線学的因子

著者: 川上守 ,   玉置哲也 ,   吉田宗人 ,   安藤宗治 ,   林信宏 ,   山田宏

ページ範囲:P.1245 - P.1252

 抄録:外傷,腫瘍を除く不安定性腰椎に対する後側方固定術50例の手術成績を平均4年5カ月で調査し,術前のX線学的因子が予後に関連するかどうか検討した.手術成績不良例はより高齢で,固定椎間板数が多かった.成績不良例の調査時のX線学的特徴は腰椎前弯減少,椎間辷りならびにL1軸仙椎間距離の増大であった.術前35mm以上のL1軸仙椎間距離を有する症例は調査時椎間辷りが増大していた.すなわち,L1軸仙椎間距離の計測が術前のX線学的評価法として重要で,35mm以上の症例に対する後方除圧ならびに後側方固定術の予後は辷りの出現・進行により症状の改善が乏しい可能性があることが判明した.したがって,不安定腰椎に対して後方除圧ならびに後側方固定術を施行する場合には腰椎前弯位を獲得し,L1軸仙椎間距離の減少をはかるように術中,術後矢状面バランスを保持することが治療成績向上のために重要である.

講座

認定医トレーニング講座―画像篇・5

著者: 吉田仁郎 ,   菊地臣一

ページ範囲:P.1253 - P.1255

症例 66歳,男性,会社員(図1-a,b)
 1992年,転倒時,右膝を打撲した.それ以後,時々,右膝関節の腫脹が出現するようになった.しばらく放置していたが,右膝関節痛が出現し徐々に動作開始時痛や歩行時痛が増強したため,近医で薬物加療を受けた.しかし症状が軽快せず,軽度安静時痛も出現したため,当科を受診した.
 初診時理学所見:右膝関節に腫脹と熱感を認めた.関節可動域は,伸展で-20°,屈曲は100°と制限されていた.内側の大腿𦙾骨関節裂隙に圧痛を認めた.半月板徴候は陰性であった.関節動揺性は認められなかった.関節穿刺液の性状は黄褐色で,白色の浮遊物を認めた.他の関節には腫脹や疼痛はない.

基礎知識/知ってるつもり

マレット指(槌指)

著者: 石黒隆

ページ範囲:P.1256 - P.1258

 指先を物にぶつけたりボールをとり損ねた時など,指先に急激な力が加わると指の伸展機構に損傷が起こる.これらを一般にマレット指と称している.

整形外科英語ア・ラ・カルト・49

比較的よく使う整形外科用語・その16

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1260 - P.1261

●Eijkman(エイクマン)
 “Christiaan Eijkman”(1858-1930)は,整形外科医には余り馴染のない名前であろう.最近では日常診療では余り見ることが無くなった脚気(beriberi―ベリベリ)に関して,彼は素晴らしい研究を行った.
 後に述べる慈恵医科大学を創設した高木兼寛(1849-1920・タカキカネヒロ)の海軍時代の研究に触発されて,彼は画期的な研究を行い,これがビタミンの発見の端緒となり,1929年に英国生化学の父であり,成長ビタミンを発見したホプキンズ(Frederic G. Hopkins 1861-1947)と共にノーベル賞を受賞した.

ついである記・7

Hungary

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.1262 - P.1263

●アジアに起原をもつハンガリー人
 ハンガリーの人達は自分の国を「マジャール共和国」と呼ぶ.中央アジアに起原をもつといわれるマジャール(magyar)民族が何世紀にも亘ってウラル地方から東ヨーロッパの地をさまよい,遂にヨーロッパ大陸のほぼ中央に位置する大平原を征服して定住したのは896年であったと言われている.そして,1001年にイシュトヴァン1世によってマジャール国の建国をみたのである.ハンガリーの周囲の国々ではオーストリアを除けば,すべてスラヴ系の言葉が話されているのに,ハンガリー人だけが言語学的に全く系統の異なったマジャール語を喋るということからみても,この民族が比較的新しく中央ヨーロッパの地へ進出し,そこに新しい国を作ったことがうかがえる.さまよえるマジャール人の他の一団は現在のフィンランドの地に進出して定住したと言われる.したがって,現在のハンガリー語とフィンランド語はマジャール語という共通の起原を持つわけであるが,今では両者の話し言葉は互いにほとんど理解し合えない程にまで変ってきているという.現代のハンガリー人の容貌から彼等の祖先が人種的に中央アジア起原であることを想像することは聊か困難であるが,それでもよく見ると,中央アジア,蒙古,インド・アーリア系の起原を思わせる容貌をもった人達がかなり混っている.

臨床経験

Nail-Patella Syndromeの3例

著者: 王寺享弘 ,   小林晶

ページ範囲:P.1265 - P.1272

 抄録:爪,膝蓋骨,肘関節の形成不全および骨盤のiliac hornを四主徴とするNail-Patella Syndrome(爪・膝蓋骨症候群)は比較的稀な疾患であり,膝の愁訴で来院することが多い.今回,本疾患の3例を経験したが,症例1は6歳,女児,症例2は14歳,男性であり,症例3は37歳,女性で症例2の母親である.家系図の検討から症例1は血液型B因子と関係した遺伝子にて遺伝したものと考えられた.また症例2は4徴がそろった完全型であったが,症例1と3は不全型であった.3例とも保存的に治療したが,症例1は8年間経過している.
 本論文ではNail-Patella Syndromeの病態や診断,さらに膝蓋大腿関節の治療法につき文献的考察を加えて検討した.

平滑筋肉腫を合併したWerner症候群の1例

著者: 永澤博幸 ,   岡田恭司 ,   斎藤晴樹 ,   渡部亘 ,   佐藤光三

ページ範囲:P.1273 - P.1276

 抄録:結合組織の代謝異常疾患であるWerner症候群に肘部の平滑筋肉腫を合併した1例の経験を述べた.患者は27歳の女性で左肘外側の皮下腫瘤を主訴として受診した.既往歴に両側の白内障と子宮筋腫がある.頭髪は薄く,顔貌は老人様であり,強皮症様皮膚変化を認めた.血液検査では糖同化障害を認め,Werner症候群の確実例(1984,厚生省)と診断した.腫瘍はMRIのT1強調像で高信号域と低信号域が混在しており,境界はやや不明瞭であった.血管造影では濃染像や早期静脈描出を認め,悪性腫瘍と考えられた.手術は辺縁切除術を行い,皮膚欠損部はbipedicle flapにて被覆した.病理診断は平滑筋肉腫であった.術後11カ月で局所再発と遠隔転移を生じ,術後2年4カ月で死亡した.自験例を含めたWerner症候群に悪性骨軟部腫瘍が合併した10例について検討し,本症では手術療法後に局所再発が生じやすいことを指摘した.

肺癌手術後に発症した止血用材による両下肢麻痺の1例

著者: 金明博 ,   大坂芳明 ,   小山茂和

ページ範囲:P.1277 - P.1280

 抄録:肺癌に対する肺上葉切除および胸壁合併切除術後に発症した,止血用材による両下肢麻痺の1例を経験したので報告する.
 患者は62歳男性.肺癌に対し左上葉切除ならびに胸壁合併切除術を施行されたが,術後2日目に両下肢の麻痺症状に気づいた.MRIおよびCTMにて硬膜外腫瘍が疑われたが椎弓切除術の結果,血液を吸収したオキシセルを脊柱管内に認め,胸壁切除の際に椎間孔に充填されたオキシセルが膨化し脊髄を圧迫したものと考えられた.止血の際に傍脊椎または脊柱管内にオキシセルを留置することはその膨化作用のため危険であり,極力さけるべきである.

転移性骨盤腫瘍に対する体外照射にtissue expanderを応用した1例

著者: 濱田泰彦 ,   倉都滋之 ,   萩尾佳介 ,   荒木信人 ,   越智隆弘 ,   田中英一 ,   井上俊彦 ,   内田淳正

ページ範囲:P.1281 - P.1285

 抄録:肝細胞癌の骨盤転移に対して,tissue expanderにて骨盤内臓器を照射野外に避け,従来よりも高線量の照射を行うことで良好な局所コントロールが得られた1例を報告する.症例は67歳の男性で,肝細胞癌の加療中,左股部痛が出現し,単純X線で左腸骨部に骨融解像を認めたため,肝細胞癌の骨盤転移と診断した.これに対し,50Gyの外部照射を施行したが腫瘍の縮小はなく,造影CTで腫瘍内部がenhanceされ,局所コントロールは不良と思われた.そこで,さらに追加照射して致死線量を与えることを考えた.その際最も重大な副作用である腸管障害を避けるため,tissue expanderを後腹膜腔内に留置して腸管を照射野より除外し,30Gyを追加照射した.この治療により下痢等の急性腸管障害は認めず,画像上腫瘍は50%に縮小し,内部も全体に壊死像を呈し,著明な骨形成像も認めた.最終照射後5カ月の現在,左股部痛は消失し,杖なしでの独歩も可能となり,ADLの著明な改善を認めている.

Dysplasia epiphysealis hemimelicaの2例

著者: 松浦正典 ,   高見勝次 ,   家口尚 ,   石田俊武 ,   山野慶樹

ページ範囲:P.1287 - P.1290

 抄録:臨床的に比較的稀なdysplasia epiphysealis hemimelicaの2例を報告する.症例1:1歳11カ月,男児.主訴は左足関節腫瘤.症例2:15歳,男性.主訴は左膝関節腫瘤.2症例とも単純X線所見でepiphysisより連続する骨化像および石灰化像を認め,罹患関節の可動域制限があったが,腫瘤摘出後改善した.また病理検査では硝子軟骨と隣接する骨化像を認めosteochondromaの像であった.

手根骨長軸性脱臼の治療成績

著者: 稲垣弘進 ,   花木和春 ,   竹内俊彦 ,   井上五郎

ページ範囲:P.1291 - P.1294

 抄録:手根骨長軸性脱臼の7例を経験したので,その治療成績について報告する.症例は男性5例,女性2例,平均年齢38歳であり,受傷原因は圧挫6例,交通事故1例であった.Garcia-Eliasらの脱臼型分類では尺側型5例,橈側型2例であった.合併損傷は,他の脱臼骨折6例,動脈損傷2例,神経損傷4例,筋挫滅5例であった.治療は可及的に整復固定を行ったが,2例は再整復を要した.さらに症例により静脈移植や皮弁形成術が必要であった.術後平均観察期間は64カ月で握力健側比平均61%,手関節可動域健側比平均78%であり,手関節痛は全例なかった.Cooneyの臨床評価は平均74点で,優1例,良2例,可3例,不可1例であった.
 脱臼型と予後は必ずしも相関せず,筋肉神経損傷合併例は予後が悪く,握力低下が顕著であった.早期治療が原則で,脱臼整復だけでなく軟部組織の再建に留意し,また術後拘縮予防対策も重要であると考えられた.

前腕に発生したossifying fibromyxoid tumor of soft partsの1例

著者: 二宮忠明 ,   日向野雅典 ,   千代倉吉宏 ,   伊在井寛

ページ範囲:P.1295 - P.1298

 抄録:本症例は34歳,男性.1992年頃より右前腕部の腫瘤に気付き,徐々に増大してきたため1994年4月当科を初診した.右前腕近位屈側に示指頭大,X線写真で内部に骨化陰影を有する弾性硬の腫瘤を認め,全摘出術を施行した.病理組織学的所見からEnzingerらが報告したossifying fibromyxoid tumor of soft partsと診断した.本症は,本邦ではこれまでに6例の報告があるのみで極めて稀な腫瘍であると思われる.

小菱形骨掌側脱臼の1例

著者: 菊地淑人 ,   藤田享介 ,   児玉隆夫 ,   馬場淨 ,   森岡秀夫 ,   加藤正二郎

ページ範囲:P.1299 - P.1302

 抄録:小菱形骨は大菱形骨,舟状骨,有頭骨および第2中手骨と靱帯により強固に結合され運動性は少なく,またその形態的特徴から掌側に脱臼することは極めて稀である.今回われわれは第2,3,4CM関節背側脱臼に伴った小菱形骨掌側脱臼の1例を経験したので報告する.
 症例は29歳,男性.1994(平成6)年8月オートバイ運転中,乗用車と接触転倒し受傷した.単純X線で第2,3,4CM関節背側脱臼を,また第2中手骨基部の掌側に骨片を認めた.受傷後13日目に背側アプローチで手術を施行し,掌側に脱臼した小菱形骨を整復し,CM関節背側脱臼も整復後,鋼線固定を行った.4週間の外固定後,自動運動を開始した.現在X線上軽度の骨萎縮は認めるが,経過良好である.

肩関節窩に発生した離断性骨軟骨炎の1例

著者: 阿久津政司 ,   小川清久 ,   宇井通雅

ページ範囲:P.1303 - P.1306

 抄録:肩関節窩に発生した離断性骨軟骨炎の治癒過程を画像で経時的に観察した.症例は,10年間の野球歴がある16歳の男性.1年前右肩に鈍痛,その3カ月後遠投時に激痛が生じ,野球を休止した.8カ月後野球の再開と共に疼痛が再発し,発症1年目で当科を受診した.画像・関節鏡所見より関節窩離断性骨軟骨炎の透亮期と診断し,スポーツを禁止し,CTで経過を追跡した.10カ月後骨欠損部の縮小と周辺の骨硬化が著明となり,1年10カ月後には軟骨下骨の不連続像が消失,2年4カ月でわずかな骨硬化部分を残すのみとなった.しかし,X線学的,臨床的に治癒と判定した3年6カ月後にもMRIは異常像を呈し,修復過程が終了していないことを示していた.

長母指屈筋腱欠損を疑わせた腱の走行異常の1症例

著者: 須田義朗 ,   後藤治彦 ,   塚嵜哲史 ,   中島秀人

ページ範囲:P.1307 - P.1309

 抄録:長母指屈筋腱の異常部位への付着により,母指IP関節の屈曲障害を呈した,極めて稀な1例を経験した.症例は20歳の男性で,右母指IP関節の屈曲障害を主訴に来院した.長母指屈筋の欠損を疑い,手術を行った.術中所見では,長母指屈筋腱は前腕遠位部で2つに分かれ,一方は母指球筋の筋膜に付着し,他方は正常な走行を示した.異常腱の切離を行ったが,術後4ヵ月の現在,機能の回復は得られておらず,腱移行術を考慮中である.

環椎後頭骨癒合に合併した歯突起後方synovial cystの1例

著者: 須藤英文 ,   松原保 ,   円井芳晴 ,   田中泰弘 ,   下山勝仁 ,   阿部功

ページ範囲:P.1311 - P.1315

 症例は63歳男性,胸部絞扼感,四肢,躯幹のしびれを主訴に来院した.単純X線像では環椎-後頭骨の癒合,C1/2の癒合を認めるも明らかな不安定性は認めなかった.MRI,CT,および脊髄造影にて歯突起後方に脊髄を圧迫するcystic lesionを認めた.このcystic lesionは環軸関節造影にて両側環軸関節と交通がみられたため,synovial cystであると診断した.手術は,後方侵入,脊髄除圧,Luque SSIによる後方固定を行い,cystic lesionを直接摘出することは行わなかった.術後,症状は消失し,cystic lesionの縮小がみられ,C1/2の微小な不安定性が原因であると考えられた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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